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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数1433件
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田中作品の出来の良し悪しが何によって左右されるかが本書を読んで解った。それは主役のキャラクターの個性の強さである。
今にして思えば名作『銀河英雄伝説』然り『創竜伝』もまた然り(『アルスラーン戦記』は例外か。主人公のアルスラーンにどういう魅力があってあんなに優秀な部下が集まるのか未だに謎)。 前作『魔天楼』から2度目の登場となる無敵の美貌警視薬師寺涼子シリーズは本作にて傑作の予感がしてきた。1作目にはどこか薬師寺涼子の強烈なキャラクターぶりが空回りしていた感が強く、物語にノレなかったのだが、今回は物語に薬師寺涼子が実に溶け合っており、縦横無尽に動き回り物語を加速させていた。 前述したように主人公の個性の強さが作品の強みとして見事に呼応しているのだ。 前作は刑事物であるのにファンタジックな設定に面食らったせいもあったのもマイナスに働いたのだろうが、今回は予備知識があったせいか、寧ろどんな展開が待ち受けているのか愉しみであった。田中特有のアイロニックな文体・薀蓄も横溢しており十分堪能したが、いささかそこら辺がライトノベル系の軽さを匂わせるきらいもあり、その点だけが残念である。 以前に田中は復活しつつあると述べたように思うがそれは間違いである。田中は完全に復活した。次はどんな事件を見せてくれるか大いに期待したい。 |
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セリフとキャラクターの勝利。事件は大味だが、今後に期待しよう。
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カー作品には大きく分けて怪奇趣味の本格物と歴史サスペンスの2種類があるが、今回は後者に当たる。
文庫背表紙の梗概には音もなく忍び寄っては兵士を一突きに殺害する通称「喉切り隊長」の正体とは?といった本格ミステリ色豊かに表現されていたためてっきり犯人捜しが主眼だと思われたが、ところが寧ろそっちの方は物語としてはサブ・ストーリーとして流れていき、主眼はヘッバーンのフランスにおける諜報活動にあった。 筆者は趣向を凝らし、アランの身柄の保障を条件に喉切り隊長の犯人捜しをさせるといったサスペンス色を凝らしているのがミソ。 しかし前述にあるように主眼はあくまでもアランの諜報活動にあり、その辺のスリルは『ビロードの悪魔』を髣髴させる出色の出来。本来ならば8点の評価を与えたいのだが、「喉切り隊長」の正体が強引過ぎる(と思われる)点と、結局「喉切り隊長」の殺害方法の不思議さについてなんら解明がされていない点の2点において7点とした。 しかし、活字が大きくなるとカー作品がこれほどまでに読み易くなるとは思わなかった。以後もこの字組で再版される事を切に願う。 |
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今回は『戦慄のシャドウファイア』などの一連のホラー作品ではなく、著者お得意の巻き込まれ型サスペンスである。
物語はベトナム戦争から名誉の帰還を遂げたチェイスがその周囲の喧騒振りに辟易しながら、町のデートスポットで起きる殺人事件からルイーズという女の子を救う所から始まる。これがチェイスのその後の生活に大きな変化を及ぼすことになる。つまりこの犯人から殺人を邪魔した逆恨みから命を狙われることになるのだ。 ストーリーは少ない手掛かりからその正体の判らぬ脅迫者を徐々に突き詰めていき、最後は勿論反撃に出て、主人公は救われるという展開を見せる。またベトナム戦争帰りで社会人的な普通の生活が出来ない―女も抱けない!!―チェイスが脅迫者を辿る事で魅力的な女性と出会い、自己を再生していくという男の復活劇の要素を含んでおり、正に小説のツボを押さえた構成になっている。 が、故に定型を脱せず、凡百のミステリとなっているのも確か。犯人の正体が判明してからの展開がいかにも呆気なく、この辺が『人類狩り』にも見られた結末を急ぎすぎる感触が物語を平板にしていると思った。 |
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今は『古書収集十番勝負』と改題。
博識家紀田順一郎が放つビブリオ・ミステリ、私が呼ぶ所の「神田神保町シリーズ」もこれで三冊目。いつも卒業しようと思って読むのだが、なぜか愛着が湧き捨てられず、本棚の一角を占有することになってしまう。恐らくは文庫専門とは云え、本を収集する身である私と登場人物との間に一部共感できる部分があるからだと思う。 今回はミステリというよりも寧ろ題名から察せられるようにビブリオ・コン・ゲーム小説といった方が妥当だろう。最後に百貨店での古典市での出来事及びクライマックスの笠舞邸での競り勝負の真相が明かされるミステリ的な要素はあるが、主眼は後継者争いとしての古書収集にある。但し、一冊一冊白熱した奪い合いが見られるわけではなく、大半はいつの間にか蜷川、倉島がそれぞれ手に入れているといった趣向で進められるため、その辺がこちらが期待していたよりも興味は半減した。 しかし作者は色々な趣向を凝らしてあるのも事実で、この中のエピソードには実際あった事件も含まれているのだろうと思われる。物語としてはいささか地味だったけれども、久々このような現実感の濃い小説が読めて気持ちがよかった。 |
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今回は全く不運としか云い様が無い。たかが500ページ強の本書を読むのに何と十日以上も費やしてしまった。これも途中で飲み会が3回もあった事、風邪を引いてしまったことにより、中途半端な読書になってしまった。
しかるにやはりP.D.ジェイムズの作品はある定型を固執するがため、それぞれに個性が感じられなくなってきているのも確か。事件が起き、ダルグリッシュ―これが相変わらず無個性なのだ―が登場し、関係者一人一人に尋問。しかも登場人物それぞれが重苦しい何がしかの不幸を孕んでいる。ダルグリッシュが捜査を続けていると第2、第3の事件が発生、そしてカタストロフィへ…てな具合である。 尤も、過去読んだ作品の中で秀逸だった印象がある作品については真相のファクターに斬新さ、または真相の判明の仕方のドラマティックな演出が非常に小気味よかった点にあった。 今回は上記のような状況もあったがやはりストーリーの流れに埋没してしまうくらいのインパクトにしかならなかった。つまり私が云いたいのはページを繰る手をはたと止めさせるような衝撃が真相解明にあってほしいのだ。 レンデルにあってジェイムズに無いもの、この差は大きい。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『銀英伝』関連の田中作品に関してはもはや云う所無し。向かう所敵無しである。その圧倒的なクオリティの高さとエピソードの豊富さは比肩する物無しといった感じである。
本書は各所に散らばった『銀英伝』関連の短編を1冊に纏めた、云わば企画本であるが、冒頭の「ダゴン星域会戦記」以外はラインハルトとキルヒアイスを主人公とした物語が並び、統一感を感じさせる。不満を云えばそのラインナップゆえにどちらかと云えば帝国軍側寄りで、ヤン・ウェンリー好きな私としてはちと物足りない。 しかし、読めば読むほど『銀英伝』の深さに感嘆する読み物である。まず「ダゴン星域会戦記」はまさに本編第1巻から提示されたエピソードであることに驚嘆させられる。特に英雄視されているリン・パオとトパロウルの闘いが思ったよりも稚拙だったというのがミソ。ここらへんが実に田中氏らしいのである。 次からはラインハルト・キルヒアイス物となるのだが、その多彩さに再度驚かされた。なんと本格ミステリがあるのである。「朝の夢、夜の歌」がそれだが、他にも「汚名」などはミステリ風味の謎を含んだハード・ボイルド物ともとれ、非常に堪能できた。 これらの作品がいつ頃書かれたのかは寡聞にして知らないが、田中氏の万能振りをこれでもかとばかりに魅せつけられた。これが10点でなくてどうなる!?といった次第である。 |
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やっと来た、という感じの満足感が得られた。物語作家ドイルの面目躍如たる一作。私は世評高い『バスカーヴィル家の犬』よりも本作を推す。今回はドイルがここまで書けるのかと感嘆させられた。
物語の構成はエピローグを加えると大きく分けて3部になる。1部は通常のホームズ譚―依頼人が来て、事件の概要を話し、ホームズが現地に乗り出し、事件発生後、証拠を捜索して驚嘆の事実を暴露する―である。しかし、今回白眉なのは第2部、つまり事件の背景となる加害者側のストーリーなのだ。これが実にいい!! この構成は先に出てきた『バスカヴィル~』以外の長編、『緋色の研究』、『四つの署名』と同じなのだが、『緋色の研究』の時にも感嘆させられたが今回は更に作家としての円熟味が増したせいか、ものすごく芳醇な味わいがあるのだ。 なんとハード・ボイルドなのである!!!ハメットすら唸らせるかのようなその臨場感はまるでスペクタクル映画を観ているよう! しかもそのサイド・ストーリーにも驚きの仕掛―これは今考えるとほとんどサスペンスの常套手段なのだが私には全く予想つかなかった―が施されている辺りにも正にぬかりなしといった感じ。 ドイルはやはりドイルなのだと感じ入った次第。思うに本来ドイルはこのような小説を書きたかったのではないだろうか。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ジェットコースターのような疾走感で今回も物語は駆け抜ける。しかも相手は正真正銘の怪物で自分が想像していたモダン・ホラーかくありきという形と合致しており、非常に小気味よい。
自己愛の塊、エリック・リーベンとレイチェルとの離婚調停の後から始まる本書はいきなりリーベンが走ってくる車に突っ込み、轢かれて死亡するというショッキングなシーンから始まる。ここから物語はクーンツ特有のなかなか本質を明かさない焦らした駆け引き(本当にじれったい!!)をしながら進み、まず主人公二人は追う立場で始まる。 そこでご対面とならずに今度は一路ラスベガスに向かい、主客一転して今度は追われる身になる。この辺りの構成の妙が実に巧い。アントン・シャープという悪徳役人を配することで、それがしかも主人公に恨みを持っているというあざとさで、主客を転じさせる手並みが実に鮮やかだ。 また脇役で出てくるフェルゼン・《石》・キール氏の造詣もまた印象的だ。これが結末において、ある人物の行動に必然性を与えている。 ただ、やはり良くも悪くもこのエンターテインメント色の濃さがハリウッド的でいささか軽めに感じるのも事実で、もうちょっとそれぞれの人物・エピソード・文体等、文学的深みがあってもいいのではないかと思われる。クーンツの面白さはトレヴェニアンの『夢果つる街』のそれとはやはり違うのだ。 『ウィスパーズ』の結末がとてつもなく衝撃的だっただけに今回は色々配された人物が一同に会す割にはあっさりしすぎていたという印象は拭えないので8点とする。 |
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現在、ホームズ物を読んでいるこの最中にホームズ物のパロディ、しかも島田荘司作品を読むというのは正に今をおいて無いほど最適な時だった。
各種のホームズ譚をそこここに織り交ぜながら、登場人物をこき下ろす。しかも漱石の文体でそれらを語るというのが斬新だ。ドイルの文体と漱石の文体とを交互に使い、しかも同じエピソードをそれぞれの主観で語るものだから、所々食い違っていて面白い。ドイルの文体では例の如くワトスンがホームズを讃えるような口調で語られるのに対し、漱石はそのひねくれた性格ゆえか物事を常に斜めに観るような書き方をし、ホームズを狂人としか扱っていない。当時直木賞候補になったというのもむべなるかなといった感じである。 ただ、トリックの方はホームズ譚に同調するかのようにいささかチープな感じがした。犯人逮捕の手法といい、各キャラクターの配置といい、シャーロッキアンには堪らないものがあろうが、私には少し物足りなかった。 しかし、通常の島田作品張りの奇想溢れる事件であれば全体のバランスがちぐはぐになるだろうし…。難しいところである。 |
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本書はモリアーティ教授との闘いでライヘンバッハの滝から落ちたホームズがかの有名なエピソードを基に復活する短編集で少年の頃にワクワクして読んだ「踊る人形」も含まれている。しかし「踊る人形」は今読んでみるとポーの「黄金虫」の亜流だとしか読めなかった。
ここまでくるとホームズ物も当初の斬新さが薄れ、凡百のミステリと変わらなくなってきているように感じた。「犯人は二人」のように義侠心からホームズとワトスンが窃盗を働くユニークな一編があるものの、やはり全体としては小粒。ネタも途中で解る物も多かった。 こんな冷めた感慨しか持たない自らを鑑み、大人になるというのはいかに残酷かを痛感した。 |
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苦しい読書だった。上下2冊で1,150ページ余り、34編もの短編が集められたアンソロジー。しかも全てが’30年代の黄金時代物だから文体が堅苦しいこと!
半ばうつつの状態で読み進んだ時もあり、今収録作を目次で見返しても覚えていないものが多い。 下巻の最後の方に若干読みやすく、興味を覚えた作品があったが、果たしてこれらが本格黄金期を代表する諸作なのか疑問が残る。特にシリーズものの短編などは読者に予備知識があるものとして語りかける構成のものもあり、戸惑った。 私にもう少し読書のスキルが必要なのか、それとももはや時代の奥底に葬られるべき凡作群なのかは判らないが、十分愉しめなかったのは事実として残った次第である。 |
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はっきり云って最後にやられた。打ちのめされました。
前回読んだ『ファントム』は「太古からの敵」というほとんど太刀打ちできないような怪物を生み出し、パニックホラーを繰り広げてくれた。その先入観から今回は不死の殺人鬼がモチーフだと思い、どんな原因・理由でこの殺人鬼は蘇えるのだろうと思っていた所、下巻の登場人物一覧に「オカルティスト」なる文字が。これで以前読んだある作品の焼き直しかとがっかりしたが、あにはからんや、今回は論理的解決が用意されていた。 これで私は感心した反面、恐怖の正体が少し安易過ぎてがっかりしたのだが、最後に現れるブルーノ・フライを脅かす「ささやき」の正体のおぞましさ!背筋に文字通り虫唾が走りました。 あれだけの存在感で迫るブルーノ・フライがいやに打たれ弱かったり、最期が呆気なかったり、幾分か瑕疵はあるが、トニーとヒラリーのラヴ・シーンに共感し、思わず胸が熱いなるシーンがあったり(クーンツはこういう人と人との感情の交わらせ方が非常に巧い!!)、フランクの殉職シーン、また各登場人物の愛する人を失った哀しみなどドラマティックな演出が散りばめられており、非常に美味しい作品だった。 |
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旅先で読むことになり、読みやすい薄さにも関わらず時間をかなり費やしてしまった。
梗概にも書かれてあったが本作は島田作品の中でも異色の物で、作者本人でさえあとがきで全く予想外に生まれた副産物であると述べている。内容的にはミステリではなく云うなれば幻想小説のテイストを含んだ中間小説とでもなるだろうか、不思議な読後感の残る作品である。 そして私はこのような作品に弱い。 島田ミステリに通底する弱者への真心とロマンシズム、これが一貫して物語のBGMとして流れ、進んでいく。最後には珍しく悲劇的な結末で無機質に締められ、読者の心には冤罪に対してのほろ苦さが色濃く残る。 最後に門脇春男は救われたのか、それは判らないが不幸な者がここにいるということを強く教えられた。 |
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冒頭、あまりにもロマンティックな展開に面食らった。これはロス・マクではなくてハーレクインかと思ったほどだ。
とはいえ、このような幕開けは嫌いではない。寧ろ従来のハードボイルド探偵小説物の定型を破る斬新な導入部と評価できる。 この、石油が海へ流出するというシーンから始まる本書は従来探偵事務所に依頼人が来て仕事を依頼する定型から脱却し、自らをいきなり事件の渦中に飛び込ませ、依頼人を得るというまったく逆の手法を用いている。これは常に傍観者たる探偵を能動的に動かそうとした作者の意欲の表れではないだろうか? したがって本作ではアーチャーは本作の中心となる女性、ローレルに好意を抱き、家に誘う。さらに珍しいことに事件の関係者の一人と一夜を共にしたりするのだ。 しかしやはり中盤以降は従来の観察者及び質問者のスタンスに回帰し、ある意味、試みは半ばで費えてしまう。物語中、登場人物に「そんなに質問ばかりして嫌にならない?」とアーチャーに尋ねさせている所は非常に興味深い。 しかし今回も登場人物に対して容赦がない。誰一人、どの家族として倖せな者が出てこない。常に何らかの問題を抱えており、陰鬱だ。チャンドラーは時には非常に印象的な女性を登場し、物語に一服の清涼剤をもたらしたりしたのだが、ロス・マクは常にペシミズムに満ちている。またモチーフとなる石油の海への流出が物語の進行のメタファーとなっているのも上手い。 ただ『地中の男』の山火事と違い、本作の中ではそれは解決しない。これも真相は判明するものの、事件そのものが解決しないことのメタファーなのだろう。 しかしここに来てロス・マクの良さが一層判ってきた。今なら以前読んだ『ウィチャリー家の女』、『めまい』も、もっと面白く読めるかもしれない。未読の作品の復刊も強く求める次第である。 |
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非常にエンターテインメント性の高い内容でその場面展開はハリウッド映画を観ている様。実際つい最近映画化されたのだが、どのような作品になったのか興味が沸いた。
内容は未知なる生物が次々に人間に襲い掛かり殺していくという80年代に流行った一連のスプラッタ・ムーヴィーのようなもの。今回は珍しくプロットに破綻がなく、とてつもないアイデアをこれでもかこれでもかと云わんばかりに注ぎ込み、読者をぐいぐいと引き込んでくる。世評高い本作を体験してようやくクーンツの本領を垣間見た。特に長い作品なのに緊張感が持続していたのが賞賛に値しよう。 今までストーリーは非常に面白いのだがなぜ主人公が最後に残るのかという必然性に対する根拠が曖昧で非常に失望することが多く、また物語が盛り上がっていく途中で突然投げ出したような唐突な終わり方をする話もあり、いまいちカタルシスを感じなかったのだが、今回は「太古からの敵」の設定といい、その絶望感といい、また「太古からの敵」の弱点といい、淀みがなかった(「太古からの敵」自らが自分を分析させる設定は納得できなかったが大きな瑕ではない)。 また個人的にはあまり評価しないのだが、ストーリーが終わった後にさらに訪れる危機というのもこれまでにはなかった傾向だ。 上述したように多少こちらの意向にそぐわないものもあったため8点とするが、次回『ウィスパーズ』に期待したい。 |
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今回の主題は裁判そのものになく、起きた事件そのものは過去友人同士だった者たちが再び邂逅する単なる舞台設定に過ぎない(とは云え、裁判の丁々発止のやり取りが非常に面白いのも事実。本作が7点なのはそこに起因する)。
筆者の焦点は世代間の軋轢と異人種であることのアイデンティティの模索にあると云える。自分が黒人であることの意義を何度も反芻するホビー、最後のセスの台詞、ここにエッセンスが集約されている。 ただ扱う材料1つ1つが濃密で読者に疲労を強いるのは確か。結局裁判は無効になり、後に語られる真相ももはやどうでもいいといった心境にさせられ、あれほどの詳細な状況描写・心理描写を繰り広げた成果が水泡と化してしまったようで非常に勿体無いと感じた。 また今回のような中年世代を描いた世代小説はまだ私自身には早すぎたようだ。本作に豊富に盛り込まれた心理描写、特に子が親を思う気持ち。親が子を思う気持ちなどは同世代には切実に響くものであろうが若輩の身にとってはまだ頭で判っても心では実感できない代物でそれもまた残念だった。 ソニー、セス、ホビー、そしてエドガー。彼らは確かに若かった。しかしそれ以上に私の方が若かったのだ。 |
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泡坂初期の短編にはチェスタトン張りのロジックが愉しめる。それは歪んだ論理とでも云おうか、読後に奇妙な味わいを残す。
本作では「赤の追走」、「紳士の園」、「煙の殺意」、「開橋式次第」がそれに当たる。 しかし本作は先ほど「奇妙な味わい」と述べたようにエリンの『特別料理』を意識したに違いないと思われる作品がある。『閏の花嫁』はもうほとんどオマージュであろうし、『歯と胴』は一種のホラーとも云える(題名からすればバリンジャーか)。 恐らく雑誌掲載の短編を寄せ集めたものであろうが、この完成度は素晴らしい。 |
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何と評したらよいだろうか、主人公不在の『めぞん一刻』とでも云おうか。あれほど明るくはないが…。
当初主人公と思われていたジャーヴィスは物語の舞台となるケンブリッジ学校と地下鉄の提供者、云わばプロデューサー的な存在だ。物語は中盤、単なるエピソードの脇役と思われていた熊使いのアクセルがケンブリッジ学校に乗り込む辺りからテーマを帯びてくる。アクセルを軸にトム、アリス、ジャスパーの運命が翻弄され悲劇へと向かう。 物語の進行の合間に挿入されるジャーヴィスの地下鉄に関するエピソードが興味深いが物語の方向性が掴みづらく、ノレなかった。読者は眼の前に繰り広げられる場面展開を成す術なく追っていくのみ。 私はソロモン王の絨毯には乗れなかったようだ。 |
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