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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数1433

全1433件 1021~1040 52/72ページ

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No.413:
(4pt)

短編というより小噺?

近代ミステリの祖としても名高いドイルだが、何故かこのようなホームズ以外のアンソロジーには秀作が少ない。海洋奇談編と名付けられた本書は、その名の通り海や航海に纏わる話(小噺?)が集められている。ホームズ譚では見られなかった海洋物を6編とは云え、物していたとは不思議な感じがし、昔は1つのジャンルを成していたのだろうと推測する。

さて個々の作品についての詳細については措いておくとして、全般的には小粒な印象。『恐怖の谷』、『緋色の研究』などの長編にエピソードとして添えられる冒険譚のようなものは『ジェ・ハバカク・ジェフスンの遺書』ぐらいなもので、最後の『あの四角い小箱』なぞはしょうもないオチの小噺でこれが棹尾を飾るとは何とも情けない。
文章も現在ではかなり読みにくく、日本語の体を成してないとも思える。我慢を強いられる読書だった。
ドイル傑作集 2(海洋奇談編) (新潮文庫 ト 3-12)
No.412:
(7pt)

何とも苦い味わい。

ミステリというよりもシチュエーション・コメディと云った方が妥当のような至極真っ当な物語。

危篤の床に就く親父のために偽装結婚を画策した所、思惑から外れて事は意外な方向に向かい、やがてそれぞれの本性が見え隠れしだし、最後は・・・と、何処に意外性を求めたらいいのか解らない物語で設定に凝る天藤にしては本当にオーソドックス。寧ろストーリーは単なる意匠で、描きたかったのは田舎の大地主の息子との結婚生活奮闘記のような日々苦闘する主人公二人の姿と非の打ちようがないほどの善人の弥左衛門とそれらを取り巻く気のおけない親戚どもの様子だろう。作者自身これを愉しんで書いているような節も散見する。


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善人たちの夜―天藤真推理小説全集〈10〉 (創元推理文庫)
天藤真善人たちの夜 についてのレビュー
No.411:
(7pt)

天藤印なのになんかそぐわない。

冒頭の、関係のない4人の転落死、その事件を解決すべく結成される遺族会、そして一癖も二癖もあるいかがわしいそのメンバー、結末直前のどんでん返し、そして4人が同乗して死に至った経緯のコミカルさ、これらを取り出してみると正に天藤ワールドのエッセンスが詰まっているのだが、どこか空虚な感じが残っており、充実感がない。それは主人公令子の行動と共にストーリーが語られることにあると思うのだ。

今回の主人公は決して読者の共感を得る存在ではないだろう。勝ち気で考え方に偏りがあり、しかも厚顔無恥な所もあり、移り気が激しい。この移り気の激しい令子の行動がまた短絡的で探偵ごっこの域を出てないために、徒に時を費やしている印象が非常に強かった。
また、死んだ母親が令子の導き手として頻繁に出てくるのはどうしたことだろうか?こういう寓話めいた構成は今までの天藤作品には全く見られなかったのに今回に限って何故このような手法を取り入れたのだろうか?作者も年を取り、ある意味、独特の死生観を持つに至ったのだろうか。これが結末にも演出として使われていたのは逆効果で、温かい余韻を持たせようという作者の魂胆が見え、私にはあざとく感じたのである。

まあたまにはこういうのもあるんでしょうな。
死角に消えた殺人者―天藤真推理小説全集〈8〉 (創元推理文庫)
天藤真死角に消えた殺人者 についてのレビュー
No.410:
(5pt)

最後の1編だけで十分です。

ホームズの出てこないドイルのミステリーという事でかなり期待していた。
というのも『緋色の研究』、『恐怖の谷』で私が大いに愉しんだのはメインの謎解き部分よりも犯行の背景となった1部丸々割いて語られるエピソードに他ならない。という意味でも今回は期待していたのだが、なんとまあ、よくもこれだけの駄作を集めて出版しようとしたものだと、商魂逞しいというか、阿漕な商売するなぁとまでもいうか、下らない作品の多い事。

「甲虫採集家」などはまだしも「漆器の箱」、「悪夢の部屋」などは三流コントのネタに過ぎず、特に前者は物語のプロットにさえなっていない。惜しいのは「ユダヤの胸牌」。最後にもう一つ捻りがあれば現代にも通ずる物になっていた筈だ。
率直に云えば、昨日まで本書に対する評価は1ツ星だったのだが、最後の「五十年後」で4つ星を増やした。ネタはよくあるものだが私自身がこういう“悠久の時”ネタに非常に弱いのだ。展開や結末が解ってても胸にグッと来る。だから本音を云えば、本書はこれ1つだけあれば十分なのだ。
ドイル傑作集 1 ミステリー編 (新潮文庫 (ト-3-11))
No.409:
(3pt)

なんとも残念な纏め方です。

クーンツは時々やらかしてしまう。
やらかすというのは今まで魅力的な謎で引っ張っておきながらその実、真相や動機付け、理由などが何とも簡単に片付けられ興趣を殺がれる場合と、冒頭で魅力的な設定を提示していながら核心へ引っ張るだけ引っ張って実に呆気なく終わってしまう場合。
今回は後者。

赤ん坊を妻に殺され、数年後に元妻の子供を必ず嬲り殺しにすると誓うフリーク・ショーのボス。そしてそのカーニバルがついにやって来る―このワクワクする設定によくぞクーンツ、思い付いたなぁと感心した。また悪しき子供を産み、殺害したトラウマを持つエレンの、実の娘・息子を抱きしめたいほど可愛がりたいのにそれが出来ない葛藤などドラマも用意され、そして一方、サーカスの方では行く街ごとに第2の息子による性欲を爆発させた殺戮ショーが繰り返される模様も描かれている。単純な設定を魅力的なエピソードを加えて厚みを持たせていく筆達者ぶりに感心した…のに。

最後は、何とも簡単に終わってしまう。結局母と娘の確執は解消されたのか、それさえも解らずに敵が死ぬことで物語は幕を閉じ、大味な感じが残されるのだ。ああ、読み捨て小説の典型だな、こりゃ。


ファンハウス (扶桑社ミステリー)
ディーン・R・クーンツファンハウス についてのレビュー
No.408:
(7pt)

傑作になり損ねました。

前回のシンプルな設定とは全く逆のジェットコースター的逃亡劇でとにかく先の読めない話だった。

『遠きに目ありて』の中の1編にもあったが晴耕雨読の生活をしていた事も一因だろうがなによりも山中の風景や場面を描かせると天藤真は無類に巧い。行間から土の匂いや草いきれ、田舎の生活臭が立ち上ってくるのである。山中における逃亡者と追跡者との一進一退の攻防はコミカルながらも真に迫っており、リアルである。

そして今回もまた人物設定が特異で、学生期のトラウマから女嫌いになったヒッピー青年と、同じく学生時代のトラウマから男嫌いになった赤軍派女性を逃亡のカップルに仕上げる辺り、心憎い。こういった設定では常に逃亡者同士のラヴロマンスが付き物だが、その一歩手前にそれぞれ異性に対する意識の革命があり、あくまでプラトニックな所が初々しい。涼風が心に吹くような爽やかな印象を与えてくれ、9割ほど読んだ時点では9~10星のはずだったのだが、最後の真相及び結末がどうにも消化不良。これは自分の好みの問題なのだろうが、こういう内容のものに真相に政治的陰謀などが絡むと何ともしらけてしまうのだ。更に最後のぼやけた様な終わり方もちょっとガッカリ。天藤作品にしてはちょっと凝り過ぎのような気がしてなんとも勿体無い気持ちで一杯なのだ。
炎の背景―天藤真推理小説全集〈7〉 (創元推理文庫)
天藤真炎の背景 についてのレビュー
No.407:
(9pt)

この結末をどう思うかで評価が変わる。

巻措く能わず、とはこのことなのかと今回実感した。
いや、しかし、今回もなかなかに読ませる。プロット自体は特に斬新ではなく寧ろ地味なのだが、設定や登場人物の動かし方に匠の技が効いていて、350ページ弱を思う存分、愉しませてくれる。

今回の目玉はやはり5人の男に送られた妻からの殺人予告状でこれがどの誰を指すのか判らないという点が面白い。しかし作者はこのワンアイデアで最後まで引っ張るのではなく、130ページを過ぎた辺りであっさりと5人の内1人に絞り込むのだ。実はここからが天藤真の天藤真たる所以で、今まで微妙な利害関係で成り立っていた彼(女)らを1つの探偵チームとして機能させていく所がミソ。しかも各々の職業の特性を活かしながら。
私自身面白かったのはこの5人が抱えている問題がひょんな事件をきっかけに解決の方向に向かう所で、特に主人公格の羽鳥の妻との問題はサブストーリーとして○。

しかし今回はやはり第3部の存在、これが読者諸氏の感慨を非常に左右すると思われる。第3部は不要で第2部まででよかったのではないかという声と、いややはり第3部はこのストーリーの最後のどんでん返しとして必要だという声が当時あったのではないだろうか?
私は、と云えば…まあ、上の星評価で判断してもらいたい。
殺しへの招待 (創元推理文庫―天藤真推理小説全集)
天藤真殺しへの招待 についてのレビュー
No.406:
(7pt)

新潮文庫だけの落穂拾い的短編集

巷間に流布しているホームズ譚の短編集は『~冒険』、『~帰還』、『~思い出』、『~最後の挨拶』、『~事件簿』の5冊が通例だが、新潮文庫版においては各短編から1、2編ほど欠落しており、それらを集めて本書を編んでいる。従って衰えの見え始めた後期の短編集よりも実は内容的には充実しており、ドイル面目躍如という印象をもってホームズ譚を終える事になろうとは計算の上だったか定かではない。
本作においては冒頭の「技師の親指」など結構読ませる短編が揃っており、個人的には「スリー・クォーターの失踪」がお気に入り。最後の「隠居絵具屋」はチャンドラー、ロスマク系統の人捜しの様相を呈した一風変わった発端から始まるが最後においてはポーの有名作品を思わせる仕上がりを見せるあたり、なかなかである。

しかしホームズ譚を全編通じて読んだ感想はやはり小中学校で読むべき作品群であるとの認識は強く、少年の頃に抱いた輝かしい物語のきらめきの封印を無理に抉じ開けてしまった感があり、いささか寂しい思いがする。色褪せぬ名作でもやはり読む時期というものを選ぶのだ。

シャーロック・ホームズの叡智 (新潮文庫)
No.405:
(3pt)

作者自身、途中で飽きた?

クーンツは巷間ではモダン・ホラー界のヒット・メーカーで通っているが、私に云わせれば、モダン・ホラー界のジョン・ディクスン・カーだという方が最も的を射ていると思う。それほど当り外れの激しい作家なのだ。
今回はその例に準えれば外れになろう。

本作で扱っているテーマはリーインカーネーション、つまり訳せば「輪廻転生」。冒頭の少女の苦悶のシーンがその後のテーマに繋がっていくのだが、どちらかと云えば展開は凡庸でクーンツならではという特徴がない。キャロルの私生児が実は、という設定も凡百の小説に見られる「意外ではない意外性」の域を脱せず、あざといテクニックを露呈するだけに。
作者自身も書いてて面白くなくなったのだろうか、『邪教集団~』、『雷鳴の館』でこれでもかとばかり見せ付けた主人公を完膚なきまでに追い詰めていく展開が意外にあっさりと片付けられ、しかも唐突に迎えるあのエンディング。
それ以降を書いて唯一無二の結末を提示するよりもその後あの4人がどうなったのかを読者の想像に委ねる手法を敢えてとったのかは定かではないが、正直消化不足ではないだろうか。

邦題もよくよく考えれば的外れでもあり、う~ん、色々含めて凡作だなぁ。


呪われた少女 (扶桑社ミステリー)
ディーン・R・クーンツ呪われた少女 についてのレビュー
No.404:
(9pt)

今回もその技巧を堪能♪

全く以って天藤真は素晴らしい。またも我々ミステリ・ファンを興奮させる趣向でもてなしてくれた。前回の感想で天藤ワールドの開幕を宣言したが、それが疑いなく証明されたことが本作で明らかになった。

今回は今までの三人称叙述から一人称叙述と、しかも少々ある種の緊張感を持った文体へ変え、新たな地平を目指しているのがまた頼もしい。題名はもう少しどうにかして欲しいというのが本音だが、内容は今までに比べ、結構ハードだ。何しろ題名のように7人もの死者が出るという虐殺劇である。
更に今回感心したのが狙われる主人公が筋金入りの色魔で大会社の社長であり、街の大権力者という読者に同情を許さない人物に設定した点にある。これが故に本来ならば悪人が最後に笑うというざらついた読後感を残す所を従来の天藤作品同様、一種の爽やかさを備えている点、脱帽である。

ただ贅沢な事を云えば、ここまでをしてもやはり星10個には届かない。『大誘拐』級の痛快さとかズドンと来る衝撃がなければどれほど巧みな設定であっても9ツ星止まりなのだ。ただやはり天藤作品はクオリティが高いのは心底痛感した。

皆殺しパーティ―天藤真推理小説全集〈5〉 (創元推理文庫)
天藤真皆殺しパーティ についてのレビュー
No.403:
(8pt)

天藤劇場の始まり始まり~ぃ!

『遠きに目ありて』をきっかけに名作『大誘拐』と読み進んできた私の天藤作品体験にある意味、決定打を打ち込んだのは数年前に古本で購入した本書であったと今にして思う。前作『死の内幕』までの時には私の目に狂いがあったかとも思ったが、本書を久々に読んで、ああやはり間違ってはなかったと思いを新たにした。ここには天藤作品のエッセンスがぎっしり詰まっており、また本書から天藤テイストが定着したかのように感じられる。

まず登場人物全てが魅力的。天藤作品の場合、『陽気な容疑者たち』、『死の内幕』、『大誘拐』などの傾向を見ると主人公がいるものの、万能ではなく寧ろ他の協力者と一つのチームを成して事を解決していくパターンである。前2作については些か彼ら・彼女らのキャラクターが弱く、今一歩といった感じだったが本書に至って見事に成熟された感じが強い。
次に最後の先の読めない展開。本書もベレー帽と髭を残して監督が失踪するという仰天の発端から次から次へと収拾がつかないくらいに事件は右往左往し、終章まで散らかりぱなしといった感じで読んでいる最中は不安がいっぱいだった。
そして達者な筆捌き。ユーモアが滲み出るその文体は事件が陰惨なものであってもほのかに温かみを感じさせる。これが最初に述べた登場人物陣の魅力を引出しているのは云うまでもない。

また今回は構成も凝っていて、何者とも判別しない電話のやり取りが随所に挿入され、事件の黒さ・壮大さを想像させられるし、何よりも今回のメインキャラクターである桂監督を最初と最後にしか登場させずに印象深い人物に仕立てている辺りの見事さは特筆物である。
さぁ、ここからが天藤ワールドの始まりである。愉しめない訳がない。

鈍い球音―天藤真推理小説全集〈4〉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
天藤真鈍い球音 についてのレビュー
No.402:
(8pt)

クーンツ作品で一番怖い作品かも!?

今回のクーンツ作品は怖かった!!
誰もが胸の奥底に抱いている若き日、もしくは幼き日の恐怖体験を完膚なきまでにこれでもかこれでもかと畳み掛けるように主人公に叩きつけるその様は、もしこれが自分にも身に覚えのある恐怖体験へと擬えさせられ、こちらも仮想体験を余儀なくされた。
結末的にはとてつもない設定を用いた島田荘司もかくやと云った本格ミステリ的などんでん返しがあったが、それよりも全495ページ中440ページまで悪夢が繰り返される物語運びが強烈で今回のクーンツは本当にハッピー・エンドで終わるのかと別な意味でもハラハラさせられた。

とにかく恐怖体験に持って行き方が今回はすごかった。今までのクーンツならばじわじわと予兆を畳み掛け、いい加減その物ズバリを出してくれよっ!!といったじれったさがあったのだが、今回は普通に振舞っていた中、ああ、今日は何事もなく過ぎていくのかという安堵感を与えた瞬間、ズドンと主人公を恐怖のどん底に陥れる手際が本当に見事で、背筋がゾクッと来た。最後の最後まで結局スーザンに安息が訪れない辺りも今までと違ったが、最後の1行はやはりクーンツらしいというべきか。
雷鳴の館 (扶桑社ミステリー)
ディーン・R・クーンツ雷鳴の館 についてのレビュー
No.401: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

探偵の名前が…。

島田荘司の御手洗シリーズでも吉敷シリーズでもないノン・シリーズである本書はなんと大胆にも島田荘司の切り裂きジャック事件真相論である。2002年でもパトリシア・コーンウェルが巨額の金を使って作家生命を賭けて真相を精力的に暴く活動を行っているこのあまりに有名な事件はやはりミステリ作家にしてみれば一度は手掛けたいテーマなのだろうか。
本編においてもその是非は別にして実に島田らしい魅力的な解決を繰り広げてくれている。しかもそれがあの島田特有の物語風に語るのだから実に面白い。これが実に巧い!!これ一つだけでも本にして纏めても売れるぐらいに面白い。

御手洗シリーズにおいても遡れば古くは『異邦の騎士』における手記から始まり、『水晶のピラミッド』の古代エジプト譚、『アトポス』の吸血鬼エリザベートの物語といった非常に残酷かつ一種の絶望感・喪失感を抱かせる物語を書かせたらホント島田の右に出る者はいない。昨今の作品ではそういった挿話が非常に面白く、事件そのものが実はさほどでもないといった主客転倒した感が連続しているが、本編は正にその兆候を示したような作品で、特に探偵役のクリーン・ミステリなる人物の造詣ぶり、ネーミングの情けなさには閉口した。
ホームズのパロディがまたもや繰り返され、なんともまあ、同感できかねる人物なのだ。従って採点の内訳を云うと(切り裂きジャック譚星9ツ)+(ベルリン事件譚△星2ツ星)=7ツ星といった具合だ。
ある意味これが島田らしいといえば島田らしいのだ。
切り裂きジャック・百年の孤独 (文春文庫)
島田荘司切り裂きジャック・百年の孤独 についてのレビュー
No.400:
(4pt)

最後のフィラメントの輝き

正式なシャーロック・ホームズシリーズとしては本書が最後になるだろうと思うのだが、それを意識せずとも晩年のホームズの活躍が多く散りばめられてシリーズの締め括りを暗示した内容であった。
しかもあまり云いたくはないのだが、明らかにドイルはネタ切れの感があり、前に発表された短編群とアイデアが似たようなものが多い。
代表的な例を挙げれば「三人ガリデブ」がそうだろう。これはほとんどまんま「赤毛連盟」である。
しかし、カーを髣髴させる機械的なトリックが印象深い「ソア橋」が入っているのも本書であるから、苦心していたとはいえ、ヴァラエティに富んだ短編集であることは間違いない。
特に最後に「覆面の下宿人」のような話を持ってくる辺り、心憎い演出ではないか。
シャーロック・ホームズの事件簿 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
No.399:
(4pt)

天藤作品にしては珍しい凡作

未婚の母と若い学者のカップルが男の結婚話からついカッとなり、押し倒した時に箪笥に頭をぶつけ、死んでしまうといったお昼のサスペンスのようなシチュエーションから始まり、女性の所属する陰妻グループの面々が架空の犯人をでっちあげた所、なんとその証言そっくりの人物が現れてしまうという、天藤ならではのユニークな設定であるが、読後はなんだか消化不足というのが印象だ。

事件は3つの面から語られる。
まずは陰妻グループの視点。
それから架空の犯人そっくりの男の、真相を探る会社仲間たちの視点。
最後に殺された学者の婚約者と同僚の視点。

通常ならばこれが色々と絡まりあい、丁々発止の駆け引きなどが予想されるのだが、期待していたほどではなく、意外とあっさりと真相へと収束するのである。
そして最後はなんとも煮え切らない結末。作者が途中で何となく持て余したような感じがする。数々の作品があればこのような凡作もあるわけで、天藤には次回に期待。
死の内幕―天藤真推理小説全集〈3〉 (創元推理文庫)
天藤真死の内幕 についてのレビュー
No.398:
(8pt)

クーンツにしては不穏な終わり方がGood!

世評的には『ファントム』、『ウィスパーズ』、『戦慄のシャドウファイア』ほどは高名ではないが、確か北村次郎氏がクーンツのベストとして推していたように思う本書は自分自身でもなかなか良い作品ではないかと思う。

物語はひょんなことからショッピング・モールの駐車場で、ある老婆と出遭う所から始まる。この老婆が実は「黄昏教団」と呼ばれる―このネーミングは○。タイトルのように「トワイライト教団」なんて名前だったら三流ホラーに成り下がっていただろう―邪教集団の教祖だったのだ。この邂逅で息子ジョーイが反キリストの転生した姿だと独断され、理不尽な追撃が始まる。そして親子が助けを求めた私立探偵社の人間と共に殺戮の逃走劇が繰り広げられるのだ。

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邪教集団トワイライトの追撃〈上〉 (扶桑社ミステリー)
No.397: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(1pt)

島田コレクター用です。

もはや本作については島田ファンのコレクターズ・アイテムに過ぎないと断言しよう。作者自身、息抜きで書いた様に述べているし。
ただ息抜きとは云え、トリックを備えた本格物であるところが島田らしい。ただコメディを目指した本作におけるギャグの数々は御寒い限りで、センスの無さを暴露する羽目になってしまった(ただ飛行機の「性別」欄のギャグはタモリが先か、こちらが本家かどちらかは解らないのだが)。
ま、金返せとまでは云いませんがね。
嘘でもいいから殺人事件 (集英社文庫)
島田荘司嘘でもいいから殺人事件 についてのレビュー
No.396:
(1pt)

もはや堕ちるのみ。

う~ん、とうとう来るべきものが来たという感じ。

今回に関しては各短編全てにおいて興趣を欠いていた。有名な短編としては「瀕死の探偵」が挙げられるが、この話もホームズの馬鹿さ振りを髣髴させるエピソードとして色んな作家の作品中で語られるものなので実は大したことはない(実際、この短編におけるホームズはアホである。それにまんまと引っかかるワトスンもまた斯くや)。

短編集の題名になっている「最後の挨拶」はもはや本格ですらない。これこそドイルがホームズ譚を執筆するのにうんざりしていた証拠になる。

「亢龍やがて堕つべし」というがホームズもまた同様である。まあ『恐怖の谷』が読めただけでもホームズ譚を読む事の収穫は大いにあった。
シャーロック・ホームズ最後の挨拶  新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
No.395: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

作者の人柄が既にデビュー作に表れている。

不朽の名作『大誘拐』の作者のなんと江戸川乱歩賞応募作である。文章を見るにデビュー作とは思えないほど卓越した力があり、その老成振りは現在、数多デビューを飾る新人達と比べると隔世の感がある。

鉄工所の社長が密室の中で殺害されるという純本格的なシチュエーションで始まる本書は終始殺人事件とは一線を画した農村の和やかなムードで進み、解決に至る終章もまたそのムードを一貫して結ばれる。応募作にて既に作者特有の温かみが溢れているのである。短編集『遠きに目ありて』中の1編にもやむにやまれない殺人を扱った物があったが、原点である本書も正にそのテーマが通底している。

何せ、登場人物が憎めないのが作者の特徴、というか美点であり本書もその例に漏れない。
正に「容疑者達、万歳!!」である。


▼以下、ネタバレ感想
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陽気な容疑者たち―天藤真推理小説全集〈2〉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
天藤真陽気な容疑者たち についてのレビュー
No.394:
(9pt)

もっとこの作家の作品を読みたい!

学生の時に読んだ『詐欺師の饗宴』の時にも感じたのだが、笠原作品の特徴は印象は地味ながらも忘れられない味わいがあり、なんだか人に紹介したくなる魅力を備えている。
本作も内容はやはり地味である。しかし、よく練られたトリック・プロット・ロジックが非常に人を飽きさせない。

題名にも梗概にもあるように本書の目玉は冒頭の3人のサンタクロースの内、1人が殺人を行っていることが明白にも拘らず、それが3人の内、誰かわからない、「2/3アリバイ」論にある。こういう地味ながらも無視できない魅力的な設定を軸に更に第2の殺人が、しかも同様のシチュエーションで起こる。
しかしこれこそが作者の仕掛けたレッド・ヘリングで、一見立証不可能に見えた犯罪が最後見事に真相へと結実するロジックの妙は実に味わい深い。
殺人の動機は非常に細い線ではあったのだが、大人になった今、十分説得力のあるものだと感心した。

惜しむらくは笠原作品が本作と『詐欺師の饗宴』以外に『詐欺師の紋章』しか上梓されていなくしかも『~の紋章』が未だに文庫化されていない事。新作も含め復活を望む。


▼以下、ネタバレ感想
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仮面の祝祭2/3 (鮎川哲也と十三の謎)
笠原卓仮面の祝祭2/3 についてのレビュー