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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数1418件
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今回もサイキック物で、主人公はこれから起きる殺人事件が予見できる能力をもった女性。これが同時に事件を解決出来るような知力と腕っぷしを持ち合わせていないのがミソ。
だが今回はあまりに売れる小説を書くことに専念したクーンツのあざとさがいやに目立った。特に犯人が早々と判っているのにも拘らず、じれったく引っ張っていく嫌らしさ。マックスを犯人にも仕向けるあからさまなミスリードの数々。 それに冒頭の犯人が主人公を名指しするエピソード、あれは一体何だったの!? |
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『しあわせの書』、『生者と死者』でそれぞれ小説の形態を使って離れ業を演じた泡坂妻夫が今回選んだのが回文。それも章題が全て回文、登場人物、ことさら被害者の名前が全て回文。
序章と終章の題がそれぞれの逆さ言葉になっており、おまけに物語の最初と最後の1行も回文という徹底振りだがやはりこういう遊びに凝ると物語の結構が疎かになってしまうのは無理もないのか。ちょっと残念。 |
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記念すべき名探偵シャーロック・ホームズの初登場作品だが、私は今回初めて読んだ。
で、感想はと云えば、これが思った以上に凝った構成になっていることに驚いた。黄金期もしくはそれ以前の推理小説は事件の起きた時間軸上を登場人物が右往左往し、やがて真相に辿り着くという趣向がほとんどなのだが、本作は犯人発覚後、いきなり昔の西部開拓時代へ移行し、動機に至るエピソードが語られる。これが短編小説並に素晴らしいのだ。 このような革新的な構成をもって現れたホームズ。今に息づく真価が見えたか! |
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正にハリウッド映画のようなケレン味たっぷりの一作だったが、前半うまくのれなかったので7点としたい。
これはほとんど好みの問題だと思うのだが、「あれ」が具体的にどのような方法で被害者を抹殺するのかをもっと早い段階で見せてもらえば印象は強まったように思う。人が死んだという結果のみを何度も書かれるとやきもきしてしまうのだ、私は。 しかし、主人公のダンをもう少し書込めば引立ったように思えるのだが。トラウマがある点や一匹狼という設定はステレオタイプ過ぎると思う。 |
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いきなり前世(作品内では「過去世」だが)で愛し合ったであろう者同士が何の疑いもなく前世探しの旅に同行するという設定に抵抗を感じたせいか、最後までのれなかった。前世と肯定して物語はぐんぐん進むのだが、それも何だか腑に落ちなかった。
そうして読み進むうちに内面に不安がよぎり、最後にやはり現実となった。前世をテーマにした幻想小説と見せかけて実はまっとうなミステリだったと手法は良いがやはりその解決は強引だった。 |
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「怖い話」と銘打ってはいるが、ホラーではなく、恋愛物あり、幻想文学あり、伝奇物あり、小咄ありとヴァリエーション豊かなショート・ショート集。その縦横無尽ぶりと相反する飄々とした文体は私をしてこれは泡坂版「徒然草」だと思わしめた。
特に日常的な話を描いて普通小説だと思わせておいて、いきなり非現実な表現(「壁をすり抜けるところを見られた」等)とさりげなく滑り込ませる手際は美事。 ただ飄々としすぎて味気なかったのは確かだなあ。 |
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ここに寄せられた短編群は最早推理小説とかいう括りを超越して何か悟りきった感がある。一種別の意味で一筋縄でいかないといったような。
「ダッキーニ抄」は御伽噺だが、その他についてもほとんどそのようなテイストを秘めている。 特に表題作の「夢の密室」はどういう必然性があるのか、全く思いもつかないのだ。これは「雨女」の時にも感じたことで何処となく後期の星新一の作風を想起させる。 う~ん、この雰囲気がツボにはまるか、まだ判らない。 |
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いかな名作と云えど、やはりそれを読む時期というものがあって、本作も例外ではない。
この『シャーロック・ホームズの冒険』はオールタイム・ベスト選出に必ず上位5作の内に入る逸品ではあるが、四十路を控えた我が身にはやはり幼少の頃のように純粋に愉しめたとは云えない。ホームズが依頼人の特徴を瞬時に捉えて職業を云い当てる件は、今読むと滑稽だし、ワトスンも医者の割には脳が足りないように見える。 しかし、今の目で見ても収められている短編の内容はヴァラエティに富んでいる。 幼少の頃読んで以来、手にしなかったホームズ譚を改めて大人になった今、じっくり読み直そう。 |
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曾我佳城とヨギ ガンジーと並んで広く読者に今でも愛されているキャラクター、亜愛一郎シリーズの完結編である。
本作についてはもう寧ろチェスタトンばりの逆説論理を縦横無尽に展開するといった印象は薄れ、大人の読み物としての洒脱さが結びの部分に窺われ、作者の老練な筆捌きに酔いさせられる感が強い。そしてそれがまた来たるべき幕引きへ徐々に徐々に向かっていく読者の別れ難き喪失感を促すような効果をあげているように思えるのだ。 さらば亜愛一郎。そして今までありがとう。 |
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世評高い『~の狼狽』は些か肩透かしを食らった感があったが、この2作目はどうしてどうして逸品揃いだ。何が1作目と違うかと云えば、現在の泡坂作品に見られる歪んだ論理がエキスとして加わったことが大きい。読者の、というか常人の考えの及ばない人間の不思議さ、曖昧さをまざまざと、しかもコミカルに提示する手際は見事!
更に上手く云えないが、ひっくり返すことの面白さ、最後の「病人に刃物」が正にそれなのだが、わかるかな? |
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今回、本作品を読んでカー作品の賛否の分かれ目という物を発見した。
カーの作品はまず、字が多い。つまり登場人物間の問答場面が長いのだ。ここで読者は苦痛を強いられる。従って場面転換も少なく、余り躍動感はない。 私にとって全ての作品がそうなのだが、では何処で賛否が分かれるかというと、やはり最後の真相、ここでどれだけ驚かされるか、カタルシスが得られるかに他ならない。果たして本作はどうだったのか? それは上の☆の評価の通りである。 |
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全体の印象として中途半端な感じがした。小瀬川杜夫と吉敷とのエピソードは吉敷が事件に関わるためのファクターとして付加したようなテクニックを露呈しているし、森岡輝子と小瀬川陽子の電話のエピソード、輝子の行程のエピソードは十分読み応えがあって面白いが、それからがいけない。
唐突に訪れる捕物劇は、およそ刑事小説とは思えないほど、あっけらかんとした物。通常一千枚ベースで作られる御手洗物で使われるテーマをかなり省略したような感じだ。本作は正に量産物の典型だろう。 |
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題名と表紙と内容紹介文を読めば正にディック・フランシスの競馬ミステリを想起させるが、作者はクーンツである。
内容はそれぞれ個性を持つ主人公率いる犯罪グループの中に裏切者がいたり、かつての栄華の復活を願う一見完璧な破滅型経営者がいたり、筋金入りのベテランガードマンがいたり、そして二重三重に起こる事件の数々を配したりとこれでもかこれでもかと読者を愉しませようとする旺盛ぶり。しかも競馬の事を詳細に描くのだから抜け目がない。 つくづく器用な作家だ、クーンツは。 |
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前作『鬼女の鱗』の印象が悪かったせいか、今回も同様の危惧を抱いていたが、意外にも読めた。
1つは前回は日本の情緒を過大に期待していたような姿勢があり、肩透かしを食らった感じが強かった事。 もう1つは専門的な知識に翻弄された事。 しかし今回は免疫が出来たのか、すんなり物語世界に入る事が出来た。そして気付いたのは簡素な文体に宝引の辰の優しさが見え隠れすること。また江戸町人の日々を生きる逞しさが存分に描かれている事。やはり泡坂妻夫は粋な作家だ。 |
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コンセプトがないオムニバス作品集。理屈では解明できない奇怪な出来事を軸に展開する普通小説もあれば、些末な事が実に意外な真相を孕んでいるミステリめいた小説もあり、話の流れに身を委ねるような純文学作品もある。
ミステリとしては「藤棚」が一番それらしいのだが、やはり人間関係が瞬時に裏返り、深い余韻を残して掉尾を飾る「子持菱」がベストか。奇妙な印象が残るのは「るいの恋人」。結末が少々あざといのが瑕。 全体としては『蔭桔梗』、『折鶴』ほどの日本色が豊かでなかった所が薄く感じた。 |
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“差別”が本書の一貫したテーマになっている。
事件の本筋のように人種差別は元より、軽い物では女が男を養うことへの抵抗を示した女性蔑視、老人の記憶は当てにならないという先入観、醜い者を見ると苛めたくなる心理。差別は心に悪戯をする。それが時には人の死に至るまでの事になる。 内容はウェクスフォードの推理が神がかり過ぎるところが多々あるが、明かされる真実が痛々しく、心を打つ。 最後の最後で明らかになるタイトルの意味は簡単な物だが、別の意味で一人の人間の尊厳を謳っているように思える。 |
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相変わらずの複雑な人間関係が眼の前で繰り広げられるため、元々の発端を見失いがちだったが、途中で簡単な人物相関図を描いたため、字面を追うだけの読書にはならずにすみ、作品世界に没入は出来た。が、しかし、カタルシスは得られなかった。
この小説の最大のポイントはジニー・ファブロンなる一見無垢な美人を巡って周辺の男女―その父母までもが!―が運命に翻弄され、やがて無垢だと思われていたジニーが実は…という所にあるのにタイトルが腑に落ちない。「脱税した金」という意味を持つタイトルは相応しくないのだ。 この話にそっくりな御伽噺を私は知っている。しかし、それが何だったのか思い出せない。 |
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個人的な感想で恐縮だが、公安の絡む『新宿鮫』は私は余り好きではない。従って世評高い『氷舞』も私はそんなに高く評価しなかった。政治的なしがらみが鮫島に制約をかけ、ブレーキがかかるからだ。
本書もその1つで、プロット自体は非常によく練られており、高い水準にあるのだが、公安が絡むおかげで、ストーリーが流れようとするとノッキングを起こすきらいがあるのだ。そういった意味ではやはり前作の方が地味ながらも鮫島らしさが横溢していて良かったように思う。 ただ今回もタイトルが素晴らしい。これしかないと云わざるを得ない。 |
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今回の鮫島は云わば忍耐の男だ。“静”の新宿鮫である。それは作者が「時の深み」を底流に物語を紡いでいるからだ。
新宿鮫Ⅰの頃から出ていた真壁を核にし、これまでの集大成として本書を書いた事は疑いない。当初ギラついたバイプレイヤーとして出てきた真壁をこんな風に鮫島と対峙させるとは誰が予想し得ただろう。私自身、丁々発止の大攻防戦を考えていただけにこれだけじっくりと味わい深い物語を展開させられるとはいい意味で裏切られた。 そして雪絵の母と大江の物語…。最後の、機動隊の奏でる喧騒をバックに駐車場の詰所で静かに語らう鮫島と大江。サイレンとパトライトの只中でそこだけ音の消えた世界で見つめ合う雪絵の母と大江。静と動が織り成す大人の時間の味わいが、この上なく美味であった。 傑作。 |
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