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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数1426件
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全体の印象として中途半端な感じがした。小瀬川杜夫と吉敷とのエピソードは吉敷が事件に関わるためのファクターとして付加したようなテクニックを露呈しているし、森岡輝子と小瀬川陽子の電話のエピソード、輝子の行程のエピソードは十分読み応えがあって面白いが、それからがいけない。
唐突に訪れる捕物劇は、およそ刑事小説とは思えないほど、あっけらかんとした物。通常一千枚ベースで作られる御手洗物で使われるテーマをかなり省略したような感じだ。本作は正に量産物の典型だろう。 |
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題名と表紙と内容紹介文を読めば正にディック・フランシスの競馬ミステリを想起させるが、作者はクーンツである。
内容はそれぞれ個性を持つ主人公率いる犯罪グループの中に裏切者がいたり、かつての栄華の復活を願う一見完璧な破滅型経営者がいたり、筋金入りのベテランガードマンがいたり、そして二重三重に起こる事件の数々を配したりとこれでもかこれでもかと読者を愉しませようとする旺盛ぶり。しかも競馬の事を詳細に描くのだから抜け目がない。 つくづく器用な作家だ、クーンツは。 |
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前作『鬼女の鱗』の印象が悪かったせいか、今回も同様の危惧を抱いていたが、意外にも読めた。
1つは前回は日本の情緒を過大に期待していたような姿勢があり、肩透かしを食らった感じが強かった事。 もう1つは専門的な知識に翻弄された事。 しかし今回は免疫が出来たのか、すんなり物語世界に入る事が出来た。そして気付いたのは簡素な文体に宝引の辰の優しさが見え隠れすること。また江戸町人の日々を生きる逞しさが存分に描かれている事。やはり泡坂妻夫は粋な作家だ。 |
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コンセプトがないオムニバス作品集。理屈では解明できない奇怪な出来事を軸に展開する普通小説もあれば、些末な事が実に意外な真相を孕んでいるミステリめいた小説もあり、話の流れに身を委ねるような純文学作品もある。
ミステリとしては「藤棚」が一番それらしいのだが、やはり人間関係が瞬時に裏返り、深い余韻を残して掉尾を飾る「子持菱」がベストか。奇妙な印象が残るのは「るいの恋人」。結末が少々あざといのが瑕。 全体としては『蔭桔梗』、『折鶴』ほどの日本色が豊かでなかった所が薄く感じた。 |
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“差別”が本書の一貫したテーマになっている。
事件の本筋のように人種差別は元より、軽い物では女が男を養うことへの抵抗を示した女性蔑視、老人の記憶は当てにならないという先入観、醜い者を見ると苛めたくなる心理。差別は心に悪戯をする。それが時には人の死に至るまでの事になる。 内容はウェクスフォードの推理が神がかり過ぎるところが多々あるが、明かされる真実が痛々しく、心を打つ。 最後の最後で明らかになるタイトルの意味は簡単な物だが、別の意味で一人の人間の尊厳を謳っているように思える。 |
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相変わらずの複雑な人間関係が眼の前で繰り広げられるため、元々の発端を見失いがちだったが、途中で簡単な人物相関図を描いたため、字面を追うだけの読書にはならずにすみ、作品世界に没入は出来た。が、しかし、カタルシスは得られなかった。
この小説の最大のポイントはジニー・ファブロンなる一見無垢な美人を巡って周辺の男女―その父母までもが!―が運命に翻弄され、やがて無垢だと思われていたジニーが実は…という所にあるのにタイトルが腑に落ちない。「脱税した金」という意味を持つタイトルは相応しくないのだ。 この話にそっくりな御伽噺を私は知っている。しかし、それが何だったのか思い出せない。 |
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個人的な感想で恐縮だが、公安の絡む『新宿鮫』は私は余り好きではない。従って世評高い『氷舞』も私はそんなに高く評価しなかった。政治的なしがらみが鮫島に制約をかけ、ブレーキがかかるからだ。
本書もその1つで、プロット自体は非常によく練られており、高い水準にあるのだが、公安が絡むおかげで、ストーリーが流れようとするとノッキングを起こすきらいがあるのだ。そういった意味ではやはり前作の方が地味ながらも鮫島らしさが横溢していて良かったように思う。 ただ今回もタイトルが素晴らしい。これしかないと云わざるを得ない。 |
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今回の鮫島は云わば忍耐の男だ。“静”の新宿鮫である。それは作者が「時の深み」を底流に物語を紡いでいるからだ。
新宿鮫Ⅰの頃から出ていた真壁を核にし、これまでの集大成として本書を書いた事は疑いない。当初ギラついたバイプレイヤーとして出てきた真壁をこんな風に鮫島と対峙させるとは誰が予想し得ただろう。私自身、丁々発止の大攻防戦を考えていただけにこれだけじっくりと味わい深い物語を展開させられるとはいい意味で裏切られた。 そして雪絵の母と大江の物語…。最後の、機動隊の奏でる喧騒をバックに駐車場の詰所で静かに語らう鮫島と大江。サイレンとパトライトの只中でそこだけ音の消えた世界で見つめ合う雪絵の母と大江。静と動が織り成す大人の時間の味わいが、この上なく美味であった。 傑作。 |
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タイムリミットが無かった分、消極的な印象が。プロットが政治濃かったのもあまり楽しめなかった一因かと。
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錯綜するプロットの中、題名の「蛹」は最もウェートが低かったのでは?
鮫シリーズの中では消化不良の感が強いなぁ、これは。 |
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忙しい中で読んだにも関わらず、ストーリーがしっかりと脳裏に刻まれていく巧みなストーリーテリング。傑作!
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前作『毒猿』が出色の出来だっただけにトーンダウンの印象が。それでも水準以上ではある。
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幸福に恵まれなかった人たちの物語。鮫島は今回脇役!?
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新宿鮫。
この強烈なタイトルを書店で見た時、興味が沸くとともにえげつなさを感じ、食指は伸びなかった。 その後、『このミス』を購入するようになり、そこで載せられていた過去のランキング作品で堂々の1位となっていたのをきっかけに俄然興味が沸いたのはミーハー心のなせる業。 評判に違わぬ面白さだった。いきなり怪しい雰囲気で始まるこの作品はぐいぐいと私を夜の新宿へと誘う。 そこは大都市新宿ではなく、混沌の街新宿。夜になると顔を変え、犯罪が蠢く街。 そこをキャリアながら一匹狼然として歩き、やくざたちにも一目置かれている新宿鮫。まさにその姿は鮫が悠然と大海を泳ぐが如く強い男と私には映った。 しかしそんな鮫島も窮地に陥る。そこに私は悲しみを覚えた。鮫島は恐怖を覚えない強い男であってほしかったからだ。 しかしそれはバイプレイヤー桃井を読者に印象付ける演出でもあった。 ロック歌手晶がこの時はまだ存在感を発揮していて、それがまたバブルの香りを彷彿させたりもする。シリーズが続くとこの晶の存在が次第に仇になってきて希薄していくのが悲しいが、この頃はまだそんな雰囲気はない。 とにもかくにも読むべき小説の1冊である。シリーズ10作+短編集が現在刊行されているが、11作目はまだ気配すらない。 手にしていない人はまだ間に合う。 読め。 そして浸れ。 |
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短編集というのは評価がしにくい。平均的な水準の作品ばかりが並んでいると、つまらない印象を受けた1編ないし数編が妙に目立ってしまい、評価を下げるような結果に繋がるし、またつまらない作品が数編あっても傑作と呼べる極上の1編があれば評価は俄然高くなるから困りものだ。
そこでこの短編集は、と云えば前者に含まれる。 「殺人助手」という登場人物が乱雑に出てくる1編のつまらなさが頭に残っていてあと一歩という感じ。でも目次を見ると結構好感の持てる作品があるのも確かだから…。ああ、困った、困った。 |
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スピルバーグの「激突」を思い起こさせるような設定でストーカーの恐怖を描いた本作において特筆されるべきことは本作が’73年に書かれた物であることだ。日本に「ストーカー」という言葉が上陸したのは恐らく’90年代初頭であろうからその先駆性は素晴らしい。
ただやはりクーンツ特有の瑕というのは本作にもある。 まずはホウヴァルなる刑事をただの狂言回しとしてしか機能させなかった事。多分クーンツはこのキャラクターを持て余したのだろう。 もう1点はソランドの精神病が何に起因するかが明白でない事。これは小説の設定において必要不可欠ではないだろうか? とは云え、スリルとサスペンスを十分に織込んだ本書はやはり愉しめたというのが本音であろう。 |
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泡坂版「奇妙な味」短編集で全く以って一筋縄ではいかない作品群である。
不能な自分の代わりに若者に自分の妻を抱かせる歪な愛をモチーフにした「雨女」を始め、「蘭の女」、「三人目の女」は何とも云えない読後感を残す二編だ。 そして次は当初青春小説かと思わせ、ファンタジックなパラレル・ワールドを展開させ、最後は見事論理的に着地する「ぼくらの太陽」、そして六篇中どちらかといえばまともな本格物に位置する最後の二編と、誠に幅広いマジックを展開させてくれた。 |
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メインの事件がいつの間にかサブに回る構成でそれも現代の事件が24年前の事件に繋がる事になり、24年前の事件無くしては現代の事件が成立たなかったという凝ったプロットになっている。
そして作者が今回選んだモチーフは「オリンピック」。この世界の祭りに新幹線開通を絡ませ、高度経済成長の荒波に人生を翻弄される姿を描きたかったのか。 そしてやはり本作でも東京という「都市」に憧れ、殺人を犯してしまうという島田荘司氏の追い続ける都市の魔力というものが暗示されている。派手さはないが、やはりこのシリーズも読み逃せない。 |
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結局、玉石混交の短編集といった感じ。
私のお気に入りは「夜の銃声」。二段構えの皮肉な結末に思わずニヤリとさせられた。ヴォリュームも30ページ前後と、引き締まった内容で読みやすい。 かと思えば「新任保安官」のように登場人物が多すぎて収拾がつかない物もあり、一長一短がある。 面白かったのは、一般にハードボイルドと呼ばれるハメット作品もサプライジング・エンディングを踏まえた本格テイストを備えている事。ただ、解決へ至る手掛かりが探偵のみに与えられているアンフェアな所が腑に落ちないが…。 |
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美術館学芸員であるクリス・ノーグレンシリーズがあるのに何故新たにベン・リディアという主人公を要して絵画のミステリを執筆するのか?まずこれが本書を手に取った際に念頭に浮かんだ疑問文だった。
だが読了後、本格ミステリでなくサスペンスという形式をとるために新たにシリーズを打ち立てたかったという回答に行き当たった。 エルキンズの作品はしかし安心して読める。エンタテインメントに対して忠実な下僕であるからだ。 しかしクリス・ノーグレン同様、本主人公の顔が今は見えない。エルキンズ作品に似つかわしくない邦題と共に消えてしまわないか心配だ。 |
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