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梁山泊 さんのレビュー一覧

梁山泊さんのページへ

レビュー数681

全681件 161~180 9/35ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.521: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

カリスマの感想

新堂冬樹さんの作品をよむのは初めてでした。
全編を通じて下品な表現や描写という印象を持ったのですが、他の作品でも同様なのかの判断がつきません。
新興宗教の教祖、信者、そういったものに騙される人、騙す人を、嘲笑を込めての事だとすると理解できなくもありません。
映像化したなら安物のAVになりそうな内容です。
ここで、ここまで詳細に描写する必要ありますか、と言いたくなる程のエロ描写もあります。
ですので、扱っているテーマは比較的重い内容だと思うものの全編軽い印象を受けます。
その分読みやすい、と言うことにはなりますが・・・
物語は下巻の後半から一気に動き出します。
「誰が本当のカリスマだったのか」という事になりますが、プロットもよく練られていると思いました。
しかし、ここまでがとにかく長い。
しかも、ここまでで(というか最後まで読んでも)、何故こうも教祖に傾倒するのか、何故騙されるのか、という事は一切伝わってきません。
兎に角くどい、その割に内容が薄い。
ただただ言えるのは、登場人物全員バカって事だけです。
冗長と言わざるを得ません。
結局最後まで気持ちが入り込めなかったですね。
物語の前半を支配するバカ教祖はバカでいいとしても、もっと悪人としてしっかり描かれるべき人物がいたように思います。
そして救いようのない結末。
「バカ死すべし」って事なんですかね。

カリスマ〈上〉 (幻冬舎文庫)
新堂冬樹カリスマ についてのレビュー
No.520:
(5pt)

二進法の犬の感想

花村萬月初読。
性・愛・暴力がこの作者の3大要素らしいのですが、まさにそんな感じですね。
京大卒のエリートでありながら、どこか庶民を小馬鹿にするような面があり、社会に馴染めない、しかしプライドは高いという情けない男が主人公。
その他の主な登場人物も、ほぼほぼヤクザ、時々ヤンキーと、普通じゃないいわゆるアウトローといっていい連中ばかり。
そして、タイトルからも想像できる通り、0か1、シロかクロ、生か死の選択肢しかない世界の話。

主人公がヤクザの世界に巻き込まれていき、その軟弱さが際立ってくるように見えます。
勿論、物語の中で駆逐されていくべき人間性の男ですから当然です。
で、その対極には、ヤクザの男気みたいなのがあって、しかしながらどこか深い愛を感じる事ができて・・・なんてのがパターンだと思うのですが、この作品にはなかったように思います。
登場するヤクザも、相当にズレた人ばかりで、感情移入できる登場人物がいなかったですね。
ストーリー自体も非常に陳腐です。

そして、作者自身を主人公に投影して、作者が常日頃感じている事を、主人公の口を借りて語らせているのですが、「考え」というよりも最早「思想」と言っていい感じですかね。
難し過ぎてよく分からなかったり、失笑させられたり・・・と、どこか突き抜けていて共感できる事が少ない・・・そんな感じで文庫本にして1100頁。
まぁ、圧倒的な文章力というか、描写力というか、そういうところは、否定的な気分で読んでいても感じる事ができるので、響く人にはとことん響くのでしょうね。
で、拒絶する人からは、とことん拒絶されるという・・・そんな作品だと思います。

二進法の犬 (カッパ・ノベルス)
花村萬月二進法の犬 についてのレビュー
No.519: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

孤狼の血の感想

この作者の作品は「最後の証人」に次いで2冊目。
「期待を遥かに超えた作品」で10点満点だった「最後の証人」を超える評価でこの作品も10点満点にしました。
この作者の作品を読み漁ろうと思ったのですが、市の図書館で全ての作品が貸出中。
さすがみなさんよくご存知で・・・


文句なしですね。
暴力団同士の抗争や、マル暴とヤクザを題材にした小説は巷にあふれています。
暴力団との癒着を噂される破天荒な刑事が主人公で、破天荒ながらも実は人間味あふれる・・・てのが、この手の作品のパターンでもあります。
この作品もまさにその通りなのですが、正義感あふれる新入りの相棒視点で描くという手法により、より圧倒的な存在感を醸し出していますね。
まさかのフェードアウトには絶句しましたが、なる程「血」ね、とありきたりなラストと思いながらもどこか納得しているというか、感動しているというか。

各章の冒頭に、何箇所かを塗りつぶした日記を配しています。
相棒の日記であり、何か意味があるなというのは誰にでも分かるでしょうが、ラストその理由がわかった時には唸りました。
そう言えば「最後の証人」も最後唸らされたなぁ・・・と。
プロットを効果的に魅せる仕掛けって言うんですかね。完全に魅了されてしまいました。

孤狼の血 (角川文庫)
柚月裕子孤狼の血 についてのレビュー
No.518: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

絶叫の感想

超絶オススメの作品。

主人公である一人の女の転落人生を描いた作品、なんて感じながら読んでいましたが、それだけならこんな高評価な訳がないですね。
3つの視点と時系列で物語は進行します。
気になって仕方ないのが、主人公の転落人生、すなわち彼女の過去が描かれるパートなのですが、ここだけ二人称で描かれています。
普通、どこか叙述系のトリックを警戒してしまいがちですが、そういう技巧に走ったモノではありませんでした。
二人称である事の意味がラストに明らかになりますが、最近多い技巧に走る作品が稚拙に思えてしまうほどでした。
その必然性を感じる事が出来て、ストンと綺麗に腹落ちしましたね。これが個人的にツボでした。

たかが「自分のための居場所」を求めるがために、身体を売る、殺しに加担する、自らが殺人者となる・・・という不幸な女の3段活用は、よくありがちかなと。
ですが、この作品の場合、プロットもなかなか面白いんだなぁ。
非の打ち所なし。

絶叫 (光文社文庫)
葉真中顕絶叫 についてのレビュー
No.517:
(7pt)

静おばあちゃんにおまかせの感想

安楽椅子探偵ものの5話連作短編集。
タイトルや表紙の装丁から日常の謎的なものを想像していましたが、そこは元裁判官の静おばあちゃん、本格ミステリとまではいかないまでも、扱われる題材は殺人事件であったり、冤罪事件だったり、中には少し重めの内容のものもあります。
葛城刑事と孫である円が解決する事件の裏で暗躍する安楽椅子探偵静いったところでしょうか。
葛城と円のサイドストーリもほんのりいい感じ。
ラストの真相は、作者お得意のどんでん返しのつもりなのでしょうか。
まぁご愛嬌かな、とも思いますが、これって、続編はないって事なのかな。
シリーズもの向きだとは思ったのですが・・・


▼以下、ネタバレ感想
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静おばあちゃんにおまかせ
中山七里静おばあちゃんにおまかせ についてのレビュー
No.516: 10人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

ロスト・ケアの感想

これからの超高齢化社会に警鐘を鳴らす傑作。

43人もの連続殺人を犯した介護職員。
さて、この犯人を凶悪犯と感じた読者はどれ程いただろうか。
正直私は犯人がそれ程悪い事をしたとは思えないのです。寧ろ正義の使者にすら思えてしまう自分が怖い。
被害者家族、介護関係者視点のパートが衝撃的なわけだが、これが現実ではないだろうか。
私のような人間がいる限り、これは小説の中の絵空事ではない。

明らかに来る事が分かりきっていた高齢化社会。
年金問題も合わせて、国はどんな手を打とうとしているのか、そもそも破綻した時に責任を取るつもりがあるのか。
政治家どもよ、庶民に負荷をかけるだけかけておいて、でめえらは安全地帯から傍観しているなんぞは絶対に許されないぞ。

ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中顕ロスト・ケア についてのレビュー
No.515:
(6pt)

彼女が死んだ夜の感想

匠千暁シリーズ。時系列的には最初の作品になるらしい。

叙述トリックの一種なんでしょうけどね。
一瞬「十角館の殺人」が頭をよぎったりもしたのですが、全然違うわ。
「十角館の殺人」は、犯人が分かってしまうという意味で映像化は無理だと思うのですが、この作品の場合は、犯人が分かってしまう以前に笑ってしまうでしょう。
酒ばっかり飲んでるのはその予防線なのだろうか。

私は「解体諸因」を既読。
短編集であるその中の1作品にこのシリーズが含まれていたらしいのだが、全く記憶がない(汗)
こういうノリのシリーズなら仕方ないのですが、これって推理じゃなくて妄想でしかないよね。
妄想なら妄想でも構わないのですが、それ以前に、この犯行を成り立たせるための肝心な部分が「有り得ない」ので、何故高評価なのか首を傾げざるを得ない。

彼女が死んだ夜 (幻冬舎文庫)
西澤保彦彼女が死んだ夜 についてのレビュー
No.514: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

最後の証人の感想

タイトルからも想像付くように法廷モノです。
裁判が始まってもなお、加害者、被害者の名を明確にしない。
何か趣向が凝らされている事は見え見えだし、そのパターンも限られているため「さぁかかってきなさい」な気分で読んでいましたが、ラストは自分にとって想定外の衝撃でした。
ただそんな趣向がなくとも本筋だけでも読み応え抜群の作品です。

我が子の大切な命を奪った者が裁かれない。そんな理不尽に対しての怒りは理解できる。
ただ、そこで母親が命をかけた復讐劇はもはや執念。
父親はただの協力者、というか傍観者だった、と言った方がしっくり来るかも。
その発想は、もう男の思考の範囲を超えているのではないかとすら思えただが、夫婦の絆の強さの成せる業か。
裁かれるべきは誰なのか、正義とは何か。
期待を遥かに超えた作品で超満足。

最後の証人 (角川文庫)
柚月裕子最後の証人 についてのレビュー
No.513: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最悪の感想

孫請け零細工場の社長、コネ入社の地銀窓口で働くOL、カツアゲ・窃盗を繰り返すチンピラ。
この一見何の関係もなさそうな3人の登場人物が「最悪」に向かって深みに嵌っていくという物語です。
この3人に共通するのは、何れも「ピラミッドの底辺」にいる人達だと言う事でしょうか。
(約一名、自業自得な人はいますが)即ちこの作品で描かれる「最悪」とは底辺ゆえの「理不尽な最悪」だと言えます。
「あぁ多分この人こうなっちゃうな~、最悪」通りの展開になってしまって「何の捻りもない」なぁ、とも思ったのですが、それだけリアリティがあるって事でしょうか。
正直、読んでいて辛くなってきますね。
そんな3人が「最悪」のタイミングで出逢うのですが、ここからは一転ハチャメチャになります。
さっきまでのリアリティが影を潜め、少し喜劇のようになるのですが、「最悪」を通り超しちゃって最早笑うしかない、って感じでしょうか。
人間、冷静さを失うとこうなってしまうのかも。こちらも意外とリアリティがあるのかも知れません。

最悪 (講談社文庫)
奥田英朗最悪 についてのレビュー
No.512:
(8pt)

七色の毒 刑事犬養隼人の感想

刑事犬養シリーズの2作目で7作の短編集です。
総ページがさほどない中の7作という事で、1作1作が相当に短くなっています。
そんな中で、作者が大好きなどんでん返しを、って感じになっていて、正直犯人はほぼほぼ予想できてしまいます。


▼以下、ネタバレ感想
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七色の毒 刑事犬養隼人 (角川文庫)
中山七里七色の毒 刑事犬養隼人 についてのレビュー
No.511:
(8pt)

本日は大安なりの感想

結婚式場を舞台に、ウエディングプランナーを主役とした4組のカップルの物語。
伊坂幸太郎を意識したような多視点構成で描かれていて、晴れの良き日に何を考えてるんだよ、な連中が巻き起こするドタバタ劇なわけですが、伊坂作品と違うのは、「あぁ、こういう人って実際いるよね」なところでしょうか。
最後上手く収束されるのですが、そこには男性が絡んでいるんですね。
結婚披露宴は勿論新婦が主役なのですが、それを裏からしっかり包み込む新郎、主人公の同僚など、脇役である男性の優しさを描いた作品だと思いました。
まぁ、約1名どうしようもないバカ男がいましたが・・・その男は例外ってことで。
彼だけは地獄に落としてもよかったんじゃないかな(笑)

本日は大安なり
辻村深月本日は大安なり についてのレビュー
No.510:
(8pt)

ヒポクラテスの誓いの感想

法医学教室を舞台とするヒポクラテスシリーズの1作目です。

「死体は嘘をつかない」
なる程その通りであり、正直者の死体さんから色々な情報を引き出し、ミステリで言えば、トリックを暴いたり、真犯人をあぶり出したりと、題材にされることは多いように思います。
とは言え、読み手には決して明るくない分野ですから、専門用語の羅列では厳しいですし、リアリティを追求せんとすればグロテスクになり引かれてしまいます。
この手の作品の場合、重要なのはこの辺りのバランスだと思いますが、このシリーズは、主要登場人物達のそれぞれの立ち位置が、上手く作品のバランスを取っていて、偏った方向へ深く進んでいかないようになってますね。読みやすいと思います。

「管轄内で既往症のある遺体が出たら教えろ」
凄腕光崎教授から、例の埼玉県警捜査一課古手川くんへのこの依頼が作品のキーとなっていて、各5つの章、1つの事件を扱うという形になっています。
それがラストで、上記教授の意図から、内科医を目指していた主人公真琴が法医学教室に派遣された理由など全てがきれいに繋がるという構成です。
これまでの作者の作風から、恐らく最後こうなる、というのは予測できてしまうのですが、無理くりのどんでん返しといった感じはなく綺麗にまとめたなという印象を受けました。

手違いで2作目を先に読んでしまっていたのですが、この作品の方が、綺麗にまとまっているというだけでなく、個性的な登場人物らの人間性や関係性の提示もあって面白いです。
それにしても、発掘される事なく埋もれたままでいる真実って実は沢山あるんでしょうね。怖いなー。

ヒポクラテスの誓い (祥伝社文庫)
中山七里ヒポクラテスの誓い についてのレビュー
No.509:
(7pt)

太陽の坐る場所の感想

高校の同窓会。
高校生という多感な時期のスクールカーストに、卒業から何年経っても支配されていたりする。
出世、結婚、出産・・・。そこに、妬み、嫉妬が絡んでくるのは必然なのかも。
下位だったものは逆転人生にほくそ笑み、上位だったものが居心地悪くなったり・・・
そんな事、決して表に出さないけど自然と上から目線。
他人との関係性の中にしか自分の価値を示せない生き方は哀れだともわかっているけれども、一つの拠り所にしてしまっている自分がいるのね。
そんなこんなで年々参加者が減っていく。
「忙しい」なんてのは不参加の理由にはならないんだろうね。一日しかも数時間という時間を捻出できないやつなんていないだろうから。
自分にも身に覚えがあるけれども、それを文字にしてしまうと、というか、辻村深月が文字にするとかなりエグいなぁ。

そんなこの作者らしい物語以外にも、これもこの作者らしい、読み手を混乱させる工夫が施されていたりして油断できない作品ですね。
私の場合、最終章「トリを飾るのがお前なの? ん!?」って感じでした。
「何か変な感じがするな」とは思ってましたけど、登場人物たちに毒されて麻痺してましたかね。

太陽の坐る場所 (文春文庫)
辻村深月太陽の坐る場所 についてのレビュー
No.508:
(7pt)

嗤う淑女の感想

宮部みゆきさんの「火車」っぽい作品だなと思いながら読んでいました。
この名作と比較してもどうしようもない訳ですが、途中まではいい線いってたように思います。
最終章でフルボッコKO負けって感じですかね。台無し感満載でした。
巧みな話術と悪魔的な魅力で相手を虜にしてきた稀代の悪女が、「こいつただのバカじゃん」に一気に格下げ。
無理矢理作者得意のどんでん返しに持っていこうとしたから、って気がしてるんですけどね。

それにしても、FPなんて、今や主婦が片手間でも取れる資格なのに・・・
「FPの資格を持っています(キリッ」って言われてもなぁ。
そんなので騙される人いねーよ。

男と女の騙され方の違いは面白かったかな。
女は最後まで他人を頼るのね。で、手を差し伸べられると同性であってもコロッと。
一方、男は美人に弱いと。
男の方がバカっぽいけど、どっちもどっちですよね。

嗤う淑女 (実業之日本社文庫)
中山七里嗤う淑女 についてのレビュー
No.507:
(6pt)

ヒポクラテスの憂鬱の感想

ヒポクラテスシリーズの2作目。
大学の法医学教室を舞台に、異常死をネット上で告発する「コレクター」なる謎の人物を共通項にする連作短編集です。
各章のタイトルが某氏の某シリーズを連想させますが、物理学ではなく法医学です。
作者得意のどんでん返しも健在、とはいうものの、最初の彼が「コレクター」だと思って読んでた人はいないでしょ(笑)
あと、恋愛要素を盛り込んだりと、テレビドラマ化を意識したような軽さが気になりますね。
本来そういった分野ではないように思うのですが・・・
それが原因でメッセージ性が薄れてしまっているように思います。

ヒポクラテスの憂鬱 (祥伝社文庫)
中山七里ヒポクラテスの憂鬱 についてのレビュー
No.506: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

百年法の感想

これは面白かったです。
もしかしたら、これまで読んだ本の中でNo.1かも知れません。
評論家の大森望さんが、その感想の中で「ライバルは20世紀少年か」と言われていますが、私も読中「20世紀少年」を想起していました。
それくらい、いやそれ以上のスケールの作品だと思いました。

HAVIにより人間が不老不死を手に入れた世界。
それに対抗する、生存可能期限を百年と定めた百年法。
まず、この設定に強烈に引き込まれます。
読み始めて数十ページで「これは面白いぞ」となります。
そして、その大層な設定に対して、大風呂敷を広げたままで終わらず、予想以上の展開が待ち構えています。

上の人間がいつまでも居座り新陳代謝を起こさない社会。
それは、近い将来日本に間違いなく訪れる高齢化社会を暗喩しているように思いました。
更に、ファミリーリセット、医療制度の崩壊、民主主義の限界からの大統領による独裁政治などなど、普通では考えられないような展開が次々起こるのですが、それら全て、必然なものとして辻褄が合っているのです。

義務として無理矢理、死の時期を決められる運命となった人間ですが、その死生観は様々ってのがまた面白い。
実際、そんなもんなんだろうな、と納得してしまうし頷かざるを得ない。
特権階級のみは百年を超えても生きてよしという、国民を蔑ろにする強者の欺瞞あり、絶望し自殺する者もあり、一方でやはり、生を求め逃げる者もいると。
「阿那谷童仁」という偶像の神格化なんてのは、藁をも掴むっていう人間心理が現れていてとても興味深かった。

スケールはでかいんですが、現実離れしてるとも思えないところが、20世紀少年と違うところかな。
設定、構成、展開、バランス・・・全てよし。 全力でお薦めします。

百年法 上
山田宗樹百年法 についてのレビュー
No.505: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

鍵の掛かった男の感想

火村シリーズの長編。
相変わらず地味ですが、このシリーズの中では読み応えのある作品かと。
不審な死を遂げた男、それが自殺か他殺か、だけでなく、そもそもこの謎多き鍵の掛かった男が何者なのかというところから始まります。
火村の登場は後半になってからで、有栖が集めた伏線を火村が回収していくという珍しいパターンですがバランスはいい感じ。
男の謎が徐々に明らかになっていくところまではいいのですが、肝心の事件の部分になると、パズルのピースに無理がある点がいくつかあるように思いますね。
ロジック一辺倒の作家さんですからねぇ。
そこが決まらないと評価は微妙になってしまいますね。
動機も気持ちよくないですね。物語前半の雰囲気に合わないです。
有栖曰く「螺旋階段を登るように」真実に近づいていくという地味ながらもどこか雰囲気のあった前半から、その足場が崩れてガタガタになった後半って感じでしょうか。

鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)
有栖川有栖鍵の掛かった男 についてのレビュー
No.504:
(3pt)

生者と死者〜酩探偵ヨギ ガンジーの透視術の感想

この作品は図書館で借りて読んではいけません。

とんでもない工夫が凝らされている作品のようなのですが・・・
何の前知識もなく、このサイトで評価が高いという理由だけで読んだだけで・・・
読了後は「なんじゃこりゃ」で、その工夫に気づく事などあるわけなく、色々レビューサイトを回ってやっと納得した次第。
確認しようにも、もう返却した後で・・・
んなわけで、この作品を評価する資格はない訳ですが、読んだ本は一応レビューさせていただいているので3点という事で。

生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術 (新潮文庫)
No.503:
(4pt)

アポロンの嘲笑の感想

東日本大震災と福島第一原発事故をテーマにした作品。
作品を読んでいて、作者が、福島第一原発事故に強い憤りを感じている事を想像するのは容易いです。
しかし、それがどうしてこんな表現になるのかな。
記憶に新しい事故ですし、読み手もそれなりに知識を持っているんです。
安全だと偽り、一部の地域に負担を押し付けてきて、震災で破綻してもなお保身と嘘を続けている。
みんな知ってるんですよね。
それを、またしても得意のアクション活劇&英雄譚にしてしまうんですね。
扱いづらい内容なのかも知れないですが、厚顔無恥な巨悪に対する告発こそが作家の使命ではないのかな。
テーマにするなら、それなりの内容にしてくれないと・・・

タイトルは洒落てると思いますけどね。

アポロンの嘲笑 (集英社文庫(日本))
中山七里アポロンの嘲笑 についてのレビュー
No.502:
(4pt)

月光のスティグマの感想

阪神大震災、震災孤児、援交、殺人、東日本大震災ときて最後は海外テロ。
不幸の玉手箱やー。
双子の姉妹と同級生で幼馴染の少年が主人公。
双子の姉妹の一方が震災で死亡。
震災孤児となった少女と少年は離れ離れになって、大人になって再会。
そして、そんな二人が代議士秘書と地検検事って・・・
「大映ドラマ」かよ、って思った私は、やっぱりおっさんなのだろうか。
伊藤かずえと松村雄基って事でOK?
そもそも一卵性双生児っていうと、物語を読みながらも色々考えたりするものですが、結局何だったんだよ、って終わり方ですし、ホント「大映ドラマ」なんですよね。
「大映ドラマ」が好きな方はどうぞ。

この作者の別の作品とリンクしているって言う話ですけど、たとえそこの面白味があるのだとしても、この作品の評価が変わるとは思えないです。

月光のスティグマ (新潮文庫)
中山七里月光のスティグマ についてのレビュー