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梁山泊 さんのレビュー一覧
梁山泊さんのページへレビュー数681件
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弁護士御子柴礼司シリーズ第2段。
強烈でした。 それにしてもこの作者さんは出し惜しみという言葉を知らないのだろうか。 豪腕で無理難題をひっくり返す悪辣弁護士御子柴、しかも今回の相手はあの岬洋介の父という。 それだけで十分に楽しめるというのに・・・ 今作のラストは、どんでん返しなんてもんじゃない。 こんな衝撃を受けたのは数多くミステリを読んできて初めてだったかもしれない。 鳥肌が立ちました。 この衝撃を味わうには「贖罪の奏鳴曲」を先に読んでおく必要がありますね。 |
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ユニークなタイトルと装丁とリーダビリティの良さ、そして意外な犯人。
その派手さ軽さから忘れられがちだが、カエルは刑法39条を扱った作品だった。 そして、この作品は猟奇的な少年犯罪や保険金殺人、医療事故、裁判員裁判、障害者問題などなど、詰め込みすぎだろ、と思えるほどに作者のメッセージが込められた作品だといえる。 どうしても岬洋介シリーズの印象の強い作者さんだが・・・個人的にはこちらの方が断然に好みである。 カエルは途中ドタバタになったが、この作品は最後までビシっと締まっている。 その立役者が主役の弁護士御子柴礼司だろう。 誰もが知ってるあの事件のあの犯人を想像せざるを得ないキャラ設定。 冒頭のシーンといい、何をしでかすか分からないという見せ方は非常に上手いと思うし、こちらの食欲もわく。 こういった社会性の高い作品にはドンピシャのキャラだろう。しかも今までいなかったタイプではないだろうか。 正直この手の作品にどんでん返しは必要ないように思えるが、作者の得意技だから仕方ないか。 まぁこの作品は読中から何となく結末は読めていたが・・・ カエルが飯能、そしてこの作品の舞台が狭山って事で、ド近所。宣伝乙。 作者は埼玉出身でもないのに・・・と思っていたら、渡瀬、古手川の刑事コンビはカエルにも出てたのね。 じゃあ次は所沢か川越で。 |
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「私たち、お父さんのこと何も知らない」
仕事で家をあける父親と子供との繋がりは、子供が歳を取っていくにつれ、会話もいつの間にか減り、希薄になっていく。 そんな今や平均的とも言える家庭で「父親が殺害される」という悲劇が起きる。 それでもやはり父は父。 父が何を考え、何を想い・・・てな事が徐々に明らかになっていき・・・という物語。 そして、加賀恭一郎シリーズと言えば下町人情モノという印象。 そして帯は声高らかに「加賀シリーズ最高傑作」とうたっている。 読了しての率直な感想は「最高傑作? んなわけない」だ。 食材がしっかり調理されていたら最高傑作になっていたかもしれません。 私は調理に失敗したんじゃないの? と思えて仕方ありません。 味付けではありません。調理そのものです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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第1回「日本ラブストーリー大賞」受賞作品。
う~む、少女マンガのような、正直有り得ない展開だと思うのですが・・・ 更に、何人かのレビュアーの方が触れているように、私も登場人物に感情移入できませんでした。 カフーというのは現地の言葉で果報の事らしい。 「果報は寝て待て」という諺があるが、それにしても主人公の奥手さにはイライラしっぱなしだった。 目の前に起こっている状況は、普通に考えて有り得ない状況だと言うのに、その状況に対して何のツッコミもない。 かと思えば、物語後半、よく調べもせずに幸を追い返してしまった時には、読んでいてクラクラしそうになった。 「奥手で可愛い」なんていう域を超越している。 友人の俊一の取った行動は、冗談と受け取ることは出来ず最早イジメなのだが、この歳になってこのような低俗なイジメを受けてしまう、それを面白がられてしまうというのは、イジメを受ける側にも問題はあると再認識させられた。 何もかも自業自得じゃないか、と幸せなって欲しいという思いも徐々に薄れていってしまうのでした。 一方、幸はどうかと言えば、このヒロインの一体どこが魅力的だったのだろうか。 何故主人公がこの女性に惹かれたのか、イマイチよくわからないのだ。 当然、何故彼女が主人公に惹かれるのかも全くの謎である。 女性受けはいいのかもしれないですね。 ただ、ヒロインをもう少し魅力的に描けば、作品の印象も少し変わったのかもしれない。 |
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火村シリーズの中編が3作。
「オノコロ島ラプソディ」 冒頭で叙述トリックについて言及(批判)しており、(ロジック一本槍の作者)「らしいな」と思いつつも、まさか叙述で来るのかなんて若干楽しみにしていたら「バカミス」だった(笑) 「高原のフーダニット」 良くも悪くもこの作者らしいというか、火村シリーズらしい作品と言えるのかも知れない。 まず「無理がある」 そして「捻りがない」 火村と有栖が「できている」という視線で読めない読者には退屈この上ないのである。 この作品の場合、それに加えてもう1つ。 被害者が双子であるという設定に何か意味があっただろうか。 こういうのやめて。 正直思いっきり消化不良。 「ミステリ夢十夜」 ショートショート。 レビューを書こうという気も起こらないのだが、あえて一言。 収録作の中でこの作品が一番良かった、なんていうレビューも散見されるわけだが・・・(意外と多かった気がする) これって作者としてはどうなの? 結局そ~ゆー事なんじゃないの(笑) |
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刑事である新田は相手の仮面を暴くのが仕事、ホテルマンである山岸は相手の仮面を守るのが仕事。
こんな二人がコンビを組んで連続殺人事件に挑むお話。 前作を読んだ時から面白い設定だと思っていました。 さぁ続編が来たか、と思っていたら、二人が出会う前の話。 二人の絡みが全くない無いってのは少々肩透かしを喰らった感じ。 二人のキャラについては前作でも十分に描かれていたと思っていて、私の印象は二人共に「ドS」 今作で新たな発見というのはなかったですが、まだ駆け出しの身分とは言え十分に「ドS」の資質を垣間見せていたように思います。 準備は整ったという感じでしょうか。 二人の再会を楽しみにしておきたいと思います。 |
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マティス、ドガ、セザンヌ、モネ、4人の画家にまつわる短編集。
本人ではなく身近な女性の視点で描かれる画家の物語です。 巻末に「本作は史実に基づいたフィクションです」とあるようにフィクションには間違いないのだろうが、作者が原田マハである事を考えると、当然彼女にしか描けない作品だと思うし、彼女が描いた作品だからこそ信憑性が高いのではと思ってしまうし、さて一体どこまでがフィクションなのか、非常に興味深い。 「楽園のカンヴァス」と比べると、少し前知識があった方が楽しめる作品かも知れませんね。 絵画鑑賞の際には、その画家の生きた時代や生き様を知っていた方が・・・というのなら、この作品はまさに「読む美術館」と言うところだろう。 当然の事だが、名画と言われる作品の一つ一つに、それぞれのエピソードがあるのだな、と再認識させられます。 |
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今作は長編。
伊坂らしい機知に富んだ発言の製造マシーン「千葉」は私にとって、No.1伊坂キャラであり、今作も十分に楽しめました。 しかし、同じ事を言及されているレビュアーもいらっしゃいますが、私も長編作品では「死神ルール」が活かされないように思います。 一番上手く活かせるのは、伏線の連鎖を楽しめるという意味で、前作のような連作短編ではないかな、と。 「決して贖うことの出来ない巨大な悪意や権力」が背後にデーンと存在する事が多い伊坂作品。 今作は、25人に1人存在するという、良識を持たない故に出来ないことがないというサイコパスが登場します。 しかし、千葉は死「神」なわけで、強大な敵が意味をなしません。読み手はそれを知っています。 子供を殺された被害者の復讐劇なわけですが、千葉は世間一般からは少しずれているわけで、そんな千葉と共有する時間が長いほど、復讐劇が滑稽なものに思えてきました。 今作のような緊迫感が必要な重いテーマに千葉の登場は合わないように思います。 ラストは良かったですけどね・・・ 面白かったですけど、前作に軍配です。 |
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未発表であるルソーの絵画の真贋を男女二人の若い研究者が7日間という限られた期間で解明していくという物語です。
その真贋の見極め方が変わっていて、その絵を描いた時期のルソーについて書かれた(世間一般には公表されていない)「本」を読む事で行います。 作中作という形で登場します。 その「本」ですが、絵の技巧的なもの(特に素人が聞いても理解できそうにないもの)は一切含まれておらず、二人の対決者は、そんな日記のような内容から、その絵画が描かれるに至った経緯や背景を読み解く事で真贋判定を行います。 真贋対決を行う二人もその道のプロ、そして作者の原田マハさんも元キュレータ、美術に関してはプロでありながら、読み手を置いてけぼりにするような薀蓄披露に走っていないのはいいですね。 (読み手に)美術に関して興味を持ってもらいたい、的な作者の優しさ、気遣い、そして上手さを感じることが出来ました。 恐らく技巧的な話をされたのでは、真贋の判定という同じプロットだったとしても、ここまで印象に残る作品にはならなかったでしょう。 私はこの世界には全くの素人な訳で、ルソーやピカソの名前こそ知っているものの・・・という程度です。 ただ読了後は、全くのゼロの状態から新しい世界に一歩踏み込ませてもらった気分でいます。 少し知った気分にさせてくれる。そういう感覚を味わせてくれる作品だと思います。 素晴らしい教科書だと思いました。 まぁ今彼らの作品を見てもどこが素晴らしいのかはさっぱり分かりませんが・・・ 今までこういう作品に出会ったことがあったかな、って考えましたが・・・ないですね。 自信をもってお薦めできる作品です。 |
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日本三大奇書のひとつと言われている作品ですが、当初想像していたほど難解な作品ではなかったと思います。
と言って、作者の意図しているところが全て読み取れたとは思っていませんが・・・ ただ、読み終えて何となく感じるのは、「純粋にミステリ的要素を楽しみたい人には向かない」だろうと言う事でしょうかね。 何せ、元祖アンチミステリーですから。 氷沼家で起こる連続(密室)殺人事件に対して、ド素人達が名探偵よろしく思い思いに自分の推理を披露します。 関係者の知り合いでもあり、身近で陰惨な事件が起こっているにもかかわらず、まだ起こってもいない事件を予想したりと、どこか無責任で不謹慎にすら感じます。 薔薇、宝石、シャンソン、五色不動尊などなど、何れも「色」をキーにして推理に絡めてきますが、兎に角読んでいて疲れる「ド薀蓄」のオンパレード。 また、古典ミステリを参照して推理を展開する事が多いのですが、引き合いに出される作品がちょっと古い。 「これメジャーなの?」ってのも多々です。 更に、洞爺丸沈没、精神病院火災など実際に起こった事件の被害者として氷沼家の人間を登場させたりもします。 こういう推理ネタには事欠かない状況の中、推理合戦が繰り広げられ、素人探偵の推理が乱立しますが、当然否定されない限りは可能性として残り、(読み手としては)消し去る訳にはいかないのです。 完膚なきまでに否定されたと思っていたら、忽然と復活してくる推理もあったりして、素人の無責任な推理によって、伏線ばかりが最早回収不能なほどに溢れかえり、いくら章が進んでも事件解決への進展が見られず、読んでいて、今何がどうなっているのか分からなくなってきます。 で、最終章。 回収されることもなく謎のまま終わってしまう伏線も多数。 「素人が勝手に面白おかしく推理しただけやないか。そんなん知るか」という作者の天の声が聞こえてきそう。 そして、最後の真犯人の独白こそが、この作品がアンチミステリーの元祖と言われる所以でもあり、この作品の全てなのかな、と解釈しています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「中国残留孤児」と「生体腎移植」というかなり重いテーマを扱った作品です。
更に主人公の視点人物が全盲の老人という事で、作品に色がないと思えるくらいに「暗い」というか最早「黒い」です。 これは上手いと言うべきなのだろうか。 ただ、そんな彼の視点は、描写がどこか「手探り」で、かなりくどいところがあり読んでいてイライラさせられる事もしばしばでした。 「一体何が真実で何が嘘なのか、そして誰が味方で誰が敵なのか」 主人公は、暗い闇の中、色々な人達の嘘に翻弄されます。 「見えない」という事が、人間不信を生み、一つの疑問から疑心暗鬼の底にズブズブとハマっていくのですが、やがて一つの真実から全ての謎が明らかになった時、綺麗に何もかもが反転します。 見方を変えれば悪も善に、というこの構成は見事で、初めに「暗い」と表現した小説の世界観に一気に光がさします。それは眩しいほどに。 乱歩賞受賞作品。 トリック自体は驚くほどのものではないのですが、構成力は凄いと思いましたし、デビュー作にこんな難解なテーマを取り上がる事自体、作者の懐の深さを窺い知ることが出来ます。 少し取っ付きづらい作品ですが、国と時代を超えた家族の愛と感動の物語です。お薦めします。 |
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阪神淡路大震災があったその日に、神戸から約700km離れたN県警で発生した話である。
保身と野心。 タイトルの「震度0」が示す通り、N県警で起こっている事は、県民にとっては誰も気付かないような実際どうでもいい話なのである。 それにしても、この作者の描く警察小説に登場していた「警察官」たちは一体何処に行ってしまったのか? 同じ日本で大変なことが起こっている大震災の最中、県警幹部達が、自身の保身に身勝手なままに奔走する。 警察幹部夫人達まで、くっだらない見栄の張り合いで、読み手の失笑を買っていること間違い無しだ。 作者はこの作品で警察の何を描きたかったのか、という事になるが・・・。 「現場の刑事は立派で格好いいけど、彼らの上司である幹部連中はバカばっかりです」って事だろう。 ある意味、「挑戦」的な作品といえるのではないでしょうか。 |
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時代小説です。
この作品、一言で言ってしまうと「生き様」 タイトルからも想像できると思いますが、ある人物の「影」となって生きるということ。 まさに光と影、相手に悟られることなく命をかけ影に徹したた究極の自己犠牲と言っていいでしょう。 日本人が共感しやすい物語と言えると思いますが、これを現代の設定で描いたらどうだったでしょうか。 私は「白夜行」の亮司を思い浮かべてしまいましたが、このようにどうしても黒さ、暗さがつきまとってしまうか、或いは、ちょっと嘘っぽいペラペラの薄い話にしかならなかったのではないでしょうか。 「ここまで自己犠牲に徹し影の存在になる」という動機の点でも、この時代設定であればしっくり来ます。 下流身分の下士ながらも、次男である自分よりも、という事でしょうか。 現代人にはとても真似のできない生き様、というより厳しい時代でした、というしかないですね。 このテーマの作品を読ませるならこの時代設定、という事なのでしょう。 その時点で作者の勝ちですわ。 時代小説を敬遠している人にでも十分楽しめる作品です。 |
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「外れは少ないが当たりも少ない」
東野さんの作品に対する個人的な評価であるが、「秘密」や「白夜行」を求めてまたしても手にとってしまうのだ。 この作品に関しても、かなり世間評価とのズレがあるようです。 テーマは「植物」 作者得意の「理系」ミステリであり、この作品を描くために相当の取材をして・・・というのは伺えます。 作者のこの手の作品は、(誰も知らない)「科学的事実」が作品の中心にある事が多いです。 そこから、様々に散りばめられた伏線に繋がるのですが、知らないので気づきようがないのです。 事件解決のきっかけが、「へぇーそうなんですか」な事実から始まるので、要するに推理しようがないのです。 作者の「科学」をテーマにした作品を、みなどこか薄っぺらく奥行きがないと感じてしまうのはそういう理由からではないかと・・・ だから収束の心地よさを得ることが出来ないんですね。 更にこの作品は、テーマが地味すぎるせいか、ラストのも盛り上がりもいまいち。 そもそも「負の遺産」と言う程、大袈裟に扱われなければならない秘密なのだろうか。 面白くなかった訳ではないのですが、期待値高い分、辛めになっちゃいますかね。 |
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密室をテーマにした5編の連作?短編集です。
密室殺人が起こると、「密室蒐集家」を名乗る探偵役が、何処からともなく現れて、瞬時に解決して、いつの間にか消えているというパターンです。 麻耶雄嵩の「貴族探偵」シリーズに少し似た感じですが、この作品は正直「パズル」ですかね。(貴族探偵は単なる「パズル」ではない) 短編なので仕方ないのですが「贅肉」がありません。 即ち、文字として描かれた情報の殆どがロジックの一部になっている感じです。 当然登場人物も少ないのですが、パターンとして「最も犯人らしからぬ人」を犯人として仕立てる傾向があります。 なので、相当に「強引」になってしまっています。 「偶然」にも頼りすぎで、ご都合主義的と言われても仕方ないですかね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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二部構成になっています。
一部が探偵役の良き理解者である三橋荘一郎視点、二部が名探偵瀬川みゆき視点になるのですが、この視点の切り替えにも意味があります。 第一部は、作中作である「メルヘン小人地獄」の見立て殺人。 見立て殺人を乗っ取りアリバイ工作するというプロットは面白いと思ったのですが、名探偵によりあっけなく解決に導かれてしまう点、容疑者と思しき人物が相当に限定されてしまっている点、そして何より凶器となる毒薬の(異常なほど)ユニークな属性がどこにも活かされていない点・・・ 解説によると第一部は後付けらしいのですが、何処かもったいないですね。 第二部では、第一部で名探偵ぶりを遺憾なく発揮してみせた瀬川みゆき視点。 「事件を解決する事が、全ての人を幸せにする訳ではない」 この手の探偵の苦悩を描いた作品はこれまでにも何度か目にした事はあります。 この作品の場合、読中から名探偵自身にとって辛い結末になる事は目に見えていたのですが、二転三転の末、最も辛い結果になりましたかね。 表面的には相変わらずの冷静っぷりですが、探偵視点でこれを描くことにより、心理状況が読み手に筒抜けになっています。 この見せ方は面白いと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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外れのない横山秀夫の短編集4作品。
表題作の「陰の季節」を除く3作は、「私はこうして警察の出世競争から脱落しました」というお話。 つまり警察の人事に特化した異色の短編集であり、そこに暗躍するのは当然人事部であり、そしてD県警シリーズという事になれば、警務課のエース・二渡となる。 ロクヨンにも登場し、主人公と同期の出世頭で、何やらコソコソと・・・のあの人である。 表題作を除けば、表立っては登場しないのですが、市原悦子の如くしっかり見ているのだ。「二渡は見た」なのだ。 一方、表題作は、天下り人事に手を焼く二渡視点の物語になります。 それとなく彼の人柄、人間性が分かる貴重な作品になっているように思います。 D県警シリーズはこれで読破した事になりましたが、1作目を最後に読んでしまいました。 これから読まれる方には、ロクヨン読むなら同じD県警シリーズの中でも、せめてこの作品だけは先に読んでおいた方がいいかと。 面白かったですが、つい最近「第三の時効」を読んでますからね。比較しちゃうと・・・ ロクヨン同様、「第三の時効」よりも先に読んでおいた方がいいですよ。かすんじゃう。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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F県警強行犯捜査第一課を舞台にした連作短編集。
上司である捜査第一課長田畑に 「この3人と同時期に現場にいなくて良かった」とまで言わせる個性的でデキる常勝軍団3人の班長。 理論派朽木、冷血漢楠見、直感の鬼村瀬。 班長が視点となる作品もあるが、部下を視点にする作品が多く、そうする事で、班長の次元の違う存在感をより際立たせている。 特に楠見には、柳広司氏のシリーズに登場する結城中佐のような絶対的な存在感を感じた。 横山さんの警察小説には、人事や広報や似顔絵捜査官など、一風変わった人物を主人公にする作品が多い。 彼らは、現場の刑事とは違う臭いを持っている事もあり本来の警察小説とは違った切り口を味わうことが出来て、それはそれで面白いのですが、個人的には、やはりこちらに軍配。 更に言えば3人はライバルでもあるわけで、お互いを意識した駆け引き、腹の探り合いが、たまらなく面白い。 「横山秀夫の短編にハズレなし」という意見は色んなサイトで見かけます。 確かにその通りであり、その横山氏の短編集の中でもこの作品がNo.1だと私は思う。 どの作品が1番良かったか、と聞かれても困ってしまう。 それくらい全てのレベルが高い。 |
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私にとって当たり外れの大きいメフィスト賞受賞作品。
舞台は12世紀の中東。 イスラム神秘主義修行者を描いた物語なのですが、そもそもイスラム世界に明るい日本人なんているのだろうか? これを題材に持ってくる辺り、さすがメフィスト賞って感じはしますが・・・ イスラム知識皆無でも問題なく読めます、というレビューは散見されますが、それにしては専門用語が説明もなく頻繁に登場しますし、説明されていたとしてもよく意味がわからないものが多いし・・・ 「火蛾」とは「出口を求めて何度も火中に身を投じてその身を焼き尽くしてしまう蛾」の事なので、要は宗教者が「修行により真理を求めて彷徨う」物語という事だろう。 物語の中で3つの殺人事件が起こりますが、そもそもその舞台に登場する人物はわずか5人で、そのうちの2人は死体でしか登場しないし、1人は影でしか登場しません。 一応ミステリ的な解決はなされているとはいえ、実際そんなミステリ的な事などどうでもよくて、単なる、最高階級に到達するため?彼らが信仰する世界観を完成させるため?の「手段」以外の何物でもないって感じがします。 要するに「フーダニット」などどうでもよくて「ハウダニット」、何故殺さなきゃいけなかったの?が主眼。 その「何故?」は、私イスラム教徒ではないんで説明されても腹落ちしないです。 私にとっては全てが後出しジャンケンみたくなってしまいますから。 宗教とミステリの融合という事で高評価なのかと思いますが、私には高尚すぎました。 |
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湊かなえさんの作品は「告白」「夜行観覧車」に続いて3作目。
何れもが、事件の関係者が取材を受けて一人語りするというパターンの小説でした。 正直読み始めて「またこれか」と思ったのですが、この作品は、これまでの2作品とは違うかな。 登場人物の証言から「人間の闇の部分」を浮き彫りにした「告白」あたりと比較すると、この作品の場合は、脚色されたり盛られたりと、如何に不確かな情報が多いかという点に重きをおいているように感じました。 その分「告白」と比べると軽いのですが、女性証言者の、嫉妬からくるイメージの捏造なんかは聞いていてゾッとしますね。 女性って必要以上に周りの目を気にするいきものなんですね。そう言われてみれば自分の周りにもいるような気がしますよ。怖いです。 男性の証言にはそういうところないですものね。 この作品で特徴的なのは、この事件の事を書いた週刊誌の記事のページや、SNSのタイムライン画面が、かなりのページを割いて挿入されている事です。 関係者に取材をした記者が書いた記事であり、記者本人のSNSページである事は明白です。 最初は「何だこれ」だったのですが、読んでみると、各章の関係者の証言と一致していない内容が含まれている事が分かります。 発信する側の表現が曖昧過ぎて、これでは受け取る側が間違って解釈するかも知れないじゃないか、な話ではないのです。 部数を伸ばすため、SNSで目立つための捏造や誇張。 これを表現するのに非常に効果的な手法だったと言えますね。 で、またしても後味が悪い小説となるわけですが・・・ 実際にこういう事があるのだとしたら怖いですね。まぁあるんでしょうね。 |
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