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梁山泊 さんのレビュー一覧
梁山泊さんのページへレビュー数48件
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各700頁の3部構成。
図書館でこの本を受け取った時「模倣犯かよ」と。 学校にはこういう生き物が生息してる。生徒、教師、父兄・・・こんな奴いるよね、そんなオールスターキャストで、造形だけでなくその配置も素晴らしい。 唯一の異分子の弁護人、そして当初と逆の役割を背負った検事。 この作品に意外性は不要。如何に登場人物、そして読み手を納得させるかだろう。 そういう意味でこのキャラ配置が効いていたと思う。 |
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【ネタバレかも!?】
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当たり外れのある作者さんですが、この作者さんの当たりは大当たりになる事が多くこの作品も例外に漏れず大当たりでした。
登校拒否の7人の中学生が日中17時まで鏡の中の世界で、見つければ何でも願いが叶うという部屋の鍵を探すというファンタジーものですね。 読んでいても、登校拒否な人の気持ちなんて私には理解出来ないし、甘ったれるな、とも思ってしまうんですが、この作品は、つまりは「仲間」がいれば、そんな連中の寄せ集めであったとしても、そんな中で役割分担もなされて協力しあってわかりあえて・・・要は人間強くなれるって言っていますね。 読中「生年月日を確認し合ったらどうだ」って思っていたくらい展開はほぼ読めてましたし、登場人物たち~あえて弱者たちと言わせてもらいますが、に同調など全くしていないにも関わらず、読中何度も涙腺が緩みました。何故だか自分にも分かりません。 辻村さんってホント不思議な作品描く人ですね。 |
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作者らしいSF設定が盛り込まれた本格ミステリですが、その設定が最も効果的だった作品かも知れませんね。
死者が怪しげな機械にかけられると、記憶を失い復活するのですが、某擬似記憶を植え付けられて復活するというSF設定。 最初にしっかり説明はされているものの、如何にもあるトリックを成立させるための胡散臭く都合のいい設定とも言えるでしょう。 しかし、そのトリックが素晴らしすぎるんで許しちゃう。 生前パート、死後パートが交互に展開する構成なのですが、特筆すべきは死後パートです。 短いし、毎度毎度同じパターンなんですけどね。某方向の錯誤トリックはお見事の一言です。 最後、生前パート、死後パートが交差してクライマックスを迎えるわけですが・・・ あのエピローグはどうなんだろ。 大混乱させられること必至ですね。 |
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「孤狼の血」や佐方シリーズを読んだ時と同じだ。
ジャンルはまるで違うけど重厚で骨太、読み応えのある作品でした。 今何かと注目されている将棋を題材。 時代は現代なのでしょうが、学生時代に観た「麻雀放浪記」の世界観そのままに、主人公上条桂介と東明重慶の関係は、坊や哲と女衒の達に重なり、個人的に読んでいて何とも懐かしい気持ちになりました。 そんな背景だけでなく、評価したいのは構成。 白骨死体に纏わる捜査の話と、異色の経歴を持つ棋士の話が並行して進みますが、その二つの流れが一つに重なっていく過程の描き方が、上手いというか読み手を惹き付けてやまないです。 また、読み手には最初に被疑者だけが明らかにされ、被害者が誰なのかは最後まで隠されます。 被疑者は登場人物の某二名のどちらかに絞られるとは思いますが、遺留品が主人公の宝物初代菊水月作名駒である事から、恐らく彼だろうと想像はつきます。 だが動機、殺した理由だけでなく、宝物を手放してまで、の理由が最後まで分からない。 読みだしたら止まらなくなる作品ですね。 恐らく将棋好きの人から対局シーンについて難癖をつけたレビューをたまに見かけますが、そこじゃないんだけどね。 それを考えると、将棋を余り知らない人の方が面白く読めるかもしれません。 |
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「死神」と言うと伊坂の千葉を想起してしまいますが、この作品の死神レオは犬の姿で登場。
レオの目的は、死を直前に迎えた人間が地縛霊とならないように、生前の未練を解き放つ事。 作品内では4人の人間を救いますが、独立した話と思いきや、4人の過去と現在がリンクしており、ラスト皆で7年前の未解決事件を解決するという構成もまず見事。 人の形をしながらも人間離れしている千葉と、人と接する事で人間の感情を少しづつ理解し人間らしくなっていくレオ。 どちらが好みかは人それぞれだと思うし、私は伊坂の死神シリーズ大好きなのですが、胸熱にしてくれたレオに軍配をあげてしまう。 シュークリームが好きだったり、優しい女性に恋心をいだいたり嫉妬したり、自分は高貴な存在と毅然な態度を取るレオだが、尻尾フリフリで内面バレバレなのが面白い。 クスッと笑えたりホロッと泣けたり、そして読後感も最高です。 おすすめの作品。 |
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この作者の作品は「最後の証人」に次いで2冊目。
「期待を遥かに超えた作品」で10点満点だった「最後の証人」を超える評価でこの作品も10点満点にしました。 この作者の作品を読み漁ろうと思ったのですが、市の図書館で全ての作品が貸出中。 さすがみなさんよくご存知で・・・ 文句なしですね。 暴力団同士の抗争や、マル暴とヤクザを題材にした小説は巷にあふれています。 暴力団との癒着を噂される破天荒な刑事が主人公で、破天荒ながらも実は人間味あふれる・・・てのが、この手の作品のパターンでもあります。 この作品もまさにその通りなのですが、正義感あふれる新入りの相棒視点で描くという手法により、より圧倒的な存在感を醸し出していますね。 まさかのフェードアウトには絶句しましたが、なる程「血」ね、とありきたりなラストと思いながらもどこか納得しているというか、感動しているというか。 各章の冒頭に、何箇所かを塗りつぶした日記を配しています。 相棒の日記であり、何か意味があるなというのは誰にでも分かるでしょうが、ラストその理由がわかった時には唸りました。 そう言えば「最後の証人」も最後唸らされたなぁ・・・と。 プロットを効果的に魅せる仕掛けって言うんですかね。完全に魅了されてしまいました。 |
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超絶オススメの作品。
主人公である一人の女の転落人生を描いた作品、なんて感じながら読んでいましたが、それだけならこんな高評価な訳がないですね。 3つの視点と時系列で物語は進行します。 気になって仕方ないのが、主人公の転落人生、すなわち彼女の過去が描かれるパートなのですが、ここだけ二人称で描かれています。 普通、どこか叙述系のトリックを警戒してしまいがちですが、そういう技巧に走ったモノではありませんでした。 二人称である事の意味がラストに明らかになりますが、最近多い技巧に走る作品が稚拙に思えてしまうほどでした。 その必然性を感じる事が出来て、ストンと綺麗に腹落ちしましたね。これが個人的にツボでした。 たかが「自分のための居場所」を求めるがために、身体を売る、殺しに加担する、自らが殺人者となる・・・という不幸な女の3段活用は、よくありがちかなと。 ですが、この作品の場合、プロットもなかなか面白いんだなぁ。 非の打ち所なし。 |
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これからの超高齢化社会に警鐘を鳴らす傑作。
43人もの連続殺人を犯した介護職員。 さて、この犯人を凶悪犯と感じた読者はどれ程いただろうか。 正直私は犯人がそれ程悪い事をしたとは思えないのです。寧ろ正義の使者にすら思えてしまう自分が怖い。 被害者家族、介護関係者視点のパートが衝撃的なわけだが、これが現実ではないだろうか。 私のような人間がいる限り、これは小説の中の絵空事ではない。 明らかに来る事が分かりきっていた高齢化社会。 年金問題も合わせて、国はどんな手を打とうとしているのか、そもそも破綻した時に責任を取るつもりがあるのか。 政治家どもよ、庶民に負荷をかけるだけかけておいて、でめえらは安全地帯から傍観しているなんぞは絶対に許されないぞ。 |
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タイトルからも想像付くように法廷モノです。
裁判が始まってもなお、加害者、被害者の名を明確にしない。 何か趣向が凝らされている事は見え見えだし、そのパターンも限られているため「さぁかかってきなさい」な気分で読んでいましたが、ラストは自分にとって想定外の衝撃でした。 ただそんな趣向がなくとも本筋だけでも読み応え抜群の作品です。 我が子の大切な命を奪った者が裁かれない。そんな理不尽に対しての怒りは理解できる。 ただ、そこで母親が命をかけた復讐劇はもはや執念。 父親はただの協力者、というか傍観者だった、と言った方がしっくり来るかも。 その発想は、もう男の思考の範囲を超えているのではないかとすら思えただが、夫婦の絆の強さの成せる業か。 裁かれるべきは誰なのか、正義とは何か。 期待を遥かに超えた作品で超満足。 |
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これは面白かったです。
もしかしたら、これまで読んだ本の中でNo.1かも知れません。 評論家の大森望さんが、その感想の中で「ライバルは20世紀少年か」と言われていますが、私も読中「20世紀少年」を想起していました。 それくらい、いやそれ以上のスケールの作品だと思いました。 HAVIにより人間が不老不死を手に入れた世界。 それに対抗する、生存可能期限を百年と定めた百年法。 まず、この設定に強烈に引き込まれます。 読み始めて数十ページで「これは面白いぞ」となります。 そして、その大層な設定に対して、大風呂敷を広げたままで終わらず、予想以上の展開が待ち構えています。 上の人間がいつまでも居座り新陳代謝を起こさない社会。 それは、近い将来日本に間違いなく訪れる高齢化社会を暗喩しているように思いました。 更に、ファミリーリセット、医療制度の崩壊、民主主義の限界からの大統領による独裁政治などなど、普通では考えられないような展開が次々起こるのですが、それら全て、必然なものとして辻褄が合っているのです。 義務として無理矢理、死の時期を決められる運命となった人間ですが、その死生観は様々ってのがまた面白い。 実際、そんなもんなんだろうな、と納得してしまうし頷かざるを得ない。 特権階級のみは百年を超えても生きてよしという、国民を蔑ろにする強者の欺瞞あり、絶望し自殺する者もあり、一方でやはり、生を求め逃げる者もいると。 「阿那谷童仁」という偶像の神格化なんてのは、藁をも掴むっていう人間心理が現れていてとても興味深かった。 スケールはでかいんですが、現実離れしてるとも思えないところが、20世紀少年と違うところかな。 設定、構成、展開、バランス・・・全てよし。 全力でお薦めします。 |
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この作者の作品は、私にとって好き嫌いがはっきりと分かれるんですよね。
嫌な女を描かせたら恩田陸さんと双璧だと思っていて、そういう女性が主人公の作品はどうも私には合わないのです。 この作品も、正直嫌な女が主人公と言っていいでしょう。 上巻を読んでいた時は、私には合わない作品かなと思っていましたが・・・ 長編で登場人物が多いですが、一人一人個性的でしっかり描かれている。 この作品は、私が好きな作品「冷たい校舎の時は止まる」「子供たちは夜と遊ぶ」系で、この2作品を超えようかという作品です。 何気なく描かれていて忘れかけていたような、エピソードとも呼べないような、ワンシーンや一つの台詞を、物語の最後の最後、衝撃の事実に繋げているんですね。 そういうのを「伏線」って言うんでしょうが、普通の伏線とは一緒にして欲しくないような伏線ですね。 この作者さんはこういうの上手いですね。 「お久しぶりです」が好きですねー。 上巻と下巻で、ガラッとその印象を変える事になる人物が、少なくとも4名いますよ。 指摘されているレビュアーの方もいらっしゃるように、つまるところ上巻と下巻は別物と言っていいと思います。 この作者の作品では、これまで読んだ中ではNo.1かな。 |
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【ネタバレかも!?】
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湊かなえを彷彿とさせる、調書、独白、インタビュー形式の構成。
登場人物達が語るストーカー、そしてそれが引き金となって起こった殺人事件。 その中心にいるのが、一人の女性に心を奪われた、社会との関わりを持たない男。 「社会との関わりを持たない(或いは持てない)」というところがミソで、それこそが最後の壮絶な大どんでん返しをより見事に成功させているのだ。 井上夢人版「容疑者Xの献身」というべきか、いやあの「容疑者Xの献身」こそ、東野圭吾版「ラバーソウル」というべきだ。 言いすぎかも知れないですが、個人的にそれくらいの衝撃作。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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弁護士御子柴礼司シリーズ第2段。
強烈でした。 それにしてもこの作者さんは出し惜しみという言葉を知らないのだろうか。 豪腕で無理難題をひっくり返す悪辣弁護士御子柴、しかも今回の相手はあの岬洋介の父という。 それだけで十分に楽しめるというのに・・・ 今作のラストは、どんでん返しなんてもんじゃない。 こんな衝撃を受けたのは数多くミステリを読んできて初めてだったかもしれない。 鳥肌が立ちました。 この衝撃を味わうには「贖罪の奏鳴曲」を先に読んでおく必要がありますね。 |
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ユニークなタイトルと装丁とリーダビリティの良さ、そして意外な犯人。
その派手さ軽さから忘れられがちだが、カエルは刑法39条を扱った作品だった。 そして、この作品は猟奇的な少年犯罪や保険金殺人、医療事故、裁判員裁判、障害者問題などなど、詰め込みすぎだろ、と思えるほどに作者のメッセージが込められた作品だといえる。 どうしても岬洋介シリーズの印象の強い作者さんだが・・・個人的にはこちらの方が断然に好みである。 カエルは途中ドタバタになったが、この作品は最後までビシっと締まっている。 その立役者が主役の弁護士御子柴礼司だろう。 誰もが知ってるあの事件のあの犯人を想像せざるを得ないキャラ設定。 冒頭のシーンといい、何をしでかすか分からないという見せ方は非常に上手いと思うし、こちらの食欲もわく。 こういった社会性の高い作品にはドンピシャのキャラだろう。しかも今までいなかったタイプではないだろうか。 正直この手の作品にどんでん返しは必要ないように思えるが、作者の得意技だから仕方ないか。 まぁこの作品は読中から何となく結末は読めていたが・・・ カエルが飯能、そしてこの作品の舞台が狭山って事で、ド近所。宣伝乙。 作者は埼玉出身でもないのに・・・と思っていたら、渡瀬、古手川の刑事コンビはカエルにも出てたのね。 じゃあ次は所沢か川越で。 |
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未発表であるルソーの絵画の真贋を男女二人の若い研究者が7日間という限られた期間で解明していくという物語です。
その真贋の見極め方が変わっていて、その絵を描いた時期のルソーについて書かれた(世間一般には公表されていない)「本」を読む事で行います。 作中作という形で登場します。 その「本」ですが、絵の技巧的なもの(特に素人が聞いても理解できそうにないもの)は一切含まれておらず、二人の対決者は、そんな日記のような内容から、その絵画が描かれるに至った経緯や背景を読み解く事で真贋判定を行います。 真贋対決を行う二人もその道のプロ、そして作者の原田マハさんも元キュレータ、美術に関してはプロでありながら、読み手を置いてけぼりにするような薀蓄披露に走っていないのはいいですね。 (読み手に)美術に関して興味を持ってもらいたい、的な作者の優しさ、気遣い、そして上手さを感じることが出来ました。 恐らく技巧的な話をされたのでは、真贋の判定という同じプロットだったとしても、ここまで印象に残る作品にはならなかったでしょう。 私はこの世界には全くの素人な訳で、ルソーやピカソの名前こそ知っているものの・・・という程度です。 ただ読了後は、全くのゼロの状態から新しい世界に一歩踏み込ませてもらった気分でいます。 少し知った気分にさせてくれる。そういう感覚を味わせてくれる作品だと思います。 素晴らしい教科書だと思いました。 まぁ今彼らの作品を見てもどこが素晴らしいのかはさっぱり分かりませんが・・・ 今までこういう作品に出会ったことがあったかな、って考えましたが・・・ないですね。 自信をもってお薦めできる作品です。 |
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静かで優しい時間が流れている作品です。
博士と家政婦と家政婦の息子の物語です。 息子は、博士から「ルート」というあだ名を授かっています。 「どんな数字にも身分を与えることができる」という数学記号のルートです。 まぁ元々阪神ファンに悪人はいないんだけどね。 「泣いた」というレビューをよく見かけます。 ページ数も多くなく数時間で読めてしまう作品で、お涙頂戴的なわざとらしい描写もありません。 寧ろ作者は意識的にそういう描写を省いているようにも思えます。 あっと驚くようなイベントが起こるわけでもありませんし、ましてや奇跡が起こるわけでもありません。 全編通して淡々としています。 ただ、その分、登場人物たちの何てことのない言葉、行為に、読み手が、文字として描かれていない何かを考えたり想像したりする余裕があるのでしょうね。 レビュアーの多くがどこで何を感じて泣けたのかは分かりません。恐らく感じ方は人それぞれでしょう。 でも泣かせどころは満載な気がします。 上っ面だけ読む人は恐らく泣けない。でもそうじゃない人は色んなところでいっぱい泣ける。そんな作品だと思いました。 ただ私を含め多くのレビュアーの方々が「ここは泣けたはず」なのがやはりラストでしょう。 そのシーンには衰弱していく博士の姿など作者は一切描いていない。 しかし読み手は必ず脚色して読んでいるはず。(でしょ?) そこに 「ルートが数学の先生になるんです」 実際これだけで十分過ぎるほど十分。 悲しみとか喜びとか安堵とか・・・そんな様々な感情が上手く均衡を保った状態で終わった、そんなきれいな終わり方だった。 |
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「グリコ・森永事件」から着想を得て書かれた作品らしい。
中心に添えられるのは「企業テロ」なのですが、そこに同和問題や企業と総会屋の癒着問題や仕手筋による株価操作など企業を取り巻く様々な社会問題が取り上げられます。 当然そこに警察やマスコミも絡んでくるわけで兎に角登場人物が多いです。 そしてそれら多数の登場人物の視点に頻繁に切り替えられながら物語は展開していきます。 最初はこの視点の切替の多さに戸惑うのですが、その分登場人物一人一人を非常に丁寧にそして深く描けておりそこにまず感心します。 レディージョーカーとは犯人たちの呼称なのですが、社会から「ババ」を掴まされた男たちの反逆という背景をよく表せていると思います。 彼らは20億円もの大金をせしめる訳ですが、そこに歓喜はなく、読む方にも爽快感や痛快感はまるでないです。全編どこか息苦しいのです。 題材から一見サスペンスものと思っていたのですが、読み進める内に違うなーって思えてきます。 社会悪、組織悪・・・この作品には悪が充満しています。 悪とは何か、本当の敵は何なのか、そして人間の尊厳とは何なのか。 そんな高尚な文学的要素を兼ね備えた・・・というより、もう文学作品と言ってしまってもいいのかも。 想像していた作品とはまるで違いました。 一個人の存在など組織の前では単なる歯車の一部にしか過ぎない。 しかし大企業の社長誘拐という未曾有の大事件を核としたこの大作、2人の人間の個人の尊厳をかけた戦いという想定外のラストを迎えます。 「合田VS半田」 警察という巨大な組織から外れ(いい意味で言えば)「孵化」した2人の戦いに置き換えられるのです。 読み手にも意味不明なほど、物語前半から執拗に互いを意識しあっていた2人。 水と油、裏と表。性格は全く正反対な印象を受けますが、組織に従順ではない、どこか反骨心を持っていたという点では同じ。 どこかお互いに感じる何かがあったのだろう。 このラスト、後からじわじわきた。 最後の最後に、何となくだが作者がこの作品を通じて一番何が言いたかったのか分かったような気がした。 競馬のシーンがよく登場しますが、G1馬だけでなく条件戦に登場する馬に至るまでが実在した馬です。 競馬歴25年の私にとっては懐かしいことしかり。 高村薫さんは女性ながらに相当の競馬好きなのだろうか。 競馬好きでないのだとしたらこの取材力は半端ない。 |
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呪力を持った人類の千年後の未来が舞台の物語。
主人公である女性の手記の形式をとっているが、作中でその女性は「後世へ伝えるために書いた」と言っている。 千年後の「新世界より」千年前を生きる我々読み手に届けられた手紙というわけだ。 千年後というと余りにかけ離れた未来であり、しかも呪力ときてるもんだから、何でもありなのかと思いきや、そこにあるのはリアリズムだった。 この作品の素晴らしいのはまずそこだろう。 人類史における戦乱や差別による悲劇の繰り返しの果ての世界がそこにある。 生態系の頂点に立つ我々人類がさらに進化していく過程で理想を追求するが故に選択してしまうかもしれない過ちの結果がそこにある。 読み進めていくうちに「有り得る」と考えさせられてしまうのだ。読後の余韻も深い。 また、千年後の未来という事で生態系も大きく変化しており、その世界観はファンタジーに近いものになっているのだが、異型の生物の描写はさすがである。 ホラー作家なんだなと実感させられる。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは良作。
「七つの海を照らす星」の続編。 驚かせどころは両作とも一点なのですが、大掛かりだった前作と違ってこの作品では(ネタバレ直前まで)至って自然に見せるところがいい。 前作は「へぇーー」、今作は「えっ?!!!」って感じ。 インパクトがでかいのは明らかに今作。「十角館」に近い驚きがある・・・と言ったら大袈裟かな? だけど、衝撃を受けた後、ページを戻してまで確認したのは「十角館」「三崎黒鳥館(以下略)」以来かもしれない。 この作品にて初登場する人物はいるものの殆どが前作に共通していますし、前作のエピソードもところどころに挟まれています。 ただ、前作を先に読む事をお薦めする一番の理由はそこではないです。 真相が明らかになった時に、私が「だからか・・・」と真っ先に思った事があります。 恐らく最大の伏線の一つになっていたはずです。 前作を読んでいなければ、ここに関する違和感を感じることが出来るわけがありませんから。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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魔法や呪いの存在が前提となっていて、(個人的に好みではない)RPGの世界観を危惧しながら読み始めましたが驚きました。ミステリでした。
「これから始まる戦闘のきっかけにすぎない」と考えていた領主の殺害がメインの謎だったとは。 些か拍子抜けしてしまいましたが、延々戦闘の描写が続くよりは、個人的にこちらのほうが良かったかな。 個性的な傭兵たちが数多く登場しています。 ただミステリって事で、探偵役の聞き取り捜査での登場が大部分であり、彼らの戦闘シーンについても描かれてはいるものの、若干浅いかなと思いました。 そこは少し残念でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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