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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1393

全1393件 1321~1340 67/70ページ

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No.73: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)
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味わい深い警察小説

刑事ヴァランダー・シリーズの国内での最新作(シリーズでは10作中の7作目)。本シリーズは初読だったが社会派警察小説の醍醐味を堪能でき、これからシリーズを第一作から通読したいと思った。
国内・海外を問わず、最近非常に人気がある「警察小説」のジャンルだが、そのテイストは千差万別。その中で、どの作家・シリーズに近いかといえば、断然、スウェーデンの傑作警察小説シリーズ「マルティン・ベック」シリーズだ。もう30年以上の昔になるだろうか、マルティン・ベックに出会った時の衝撃を再び味わうことができた。
主人公は、スウェーデン南部の小都市・イースタ警察署のNo.2のヴァランダー刑事。50歳を目前にして、糖尿病と診断され、心身ともに折れそうになりながら、仮装パーティーを楽しんでいた若者たちと、イースタ署の同僚刑事を殺害した犯人を追う。狡猾で周到な犯人はほとんど物証や手がかりを残しておらず、捜査は難航し、時に迷走する。それでも、地道な被害者の背景調査と粘り強い聞き込みで、徐々に犯人を追いつめていく・・・。
妻に去られ、恋人とは別れ、唯一心がつながっていると信じている娘は大学生活のために離れた土地にいてたまに電話する程度の孤独な暮らし。そこにもってきての糖尿病で、まさに“中年クライシス”の真っただ中のヴァランダー刑事。それでも、検察や社会、マスコミからの重圧にも負けず(ときどきは負けそうになりながら)、糖尿病による渇きと疲労に耐えながら捜査にまい進する主人公には、深く共感を覚えずにはいられなかった。
最後に明らかになった犯人像とその動機を解明する過程で主人公たちが感じる、スウェーデン社会の底知れない不気味さ。それは、現在の日本社会の不気味さにも通じるものがある。いやむしろ、社会的な安定度でははるかに高いところにあると思われていたスウェーデンですらと考えると、我々ははるかに危険な社会を作り出し、薄氷の上で日々暮らしているのではないだろうか?
ダルグリッシュ警視シリーズ、リーバス警部シリーズの愛好者にはきっと気に入ってもらえるだろう。
背後の足音 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル背後の足音 についてのレビュー
No.72: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミステリーではないが、面白い

「悪人」より「横道世之介」に近いテイストの作品で、ミステリーではないが、作者の腕の確かさを感じる上質なエンターテイメント作である。
「猿蟹合戦」といえば、親を殺された子供の復讐を周りが助けるお話だが、それを平成の世にもってくるとどうなるか? まず、登場人物が歌舞伎町のバーテン、ホスト、ホステス、ママ、パトロン、ヤクザ・・・と怪しげなキャラクターになる。合戦の舞台はひき逃げ事故に絡む脅迫から衆議院議員選挙へと、微妙に変化していく。もちろん、蟹の親は殺されなければいけないので、殺人や犯罪、犯罪すれすれの悪事、悪事を平気で働く悪人も登場する。だからといって、人間の悪意が渦巻く重苦しい展開になるかといえば、そうでもない。キャラクターが非常に軽く、さわやかに設定されているので、ストーリーも軽やかに展開していく。元のお話が勧善懲悪であることからも分かるように、最後は読者をほっとさせる予定調和のエンディングに収められている。したがって、読後感が悪くないのが、この作品のよさだろう。
「悪人」の吉田修一を期待する人にはオススメしないが、「世之介」が面白く読めた人にはオススメしたい。
平成猿蟹合戦図
吉田修一平成猿蟹合戦図 についてのレビュー
No.71: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

倉木尚武から美希へ、主役交代

百舌が登場しない百舌シリーズ作品。その意味では、公安警察シリーズとでも呼ぶべきだろうが、やはり百舌の印象が強烈なため「百舌シリーズ」になる。事実、本作のあとには「よみがえる百舌」が書かれている。本作も、シリーズの前2作を読んでから読むことを強くオススメする。
第3作の今回は、結婚した倉木警視と美希夫妻にとんでもない災難が降りかかることから、私怨をはらす壮絶な戦いが展開されるのだが、それが警察組織を揺るがす大陰謀と密接に絡んでいることで、スケールの大きな物語となっている。シリーズの前作品に比べると、アクション、ミステリーの要素が濃くなり、よりエンターテイメント性が高い作品といえる。作品の主人公は、シリーズキャラクターである倉木、美希、大杉の3人で同じだが、主役の座が倉木から美希へと移っている。ある意味、冷静沈着・ハードボイルドの倉木から激情型の美希に視点が移ったわけで、その分、ハードボイルドよりアクション味が強くなった印象だ。
シリーズ物としては、あっと驚くエンディングだが、そのハンディを乗り越えて、話を展開していけるという、作者の自信の表れだろう。実際、次の「よみがえる百舌」では、舌を巻くストーリーで読者を脱帽させてくれた。
砕かれた鍵 (百舌シリーズ) (集英社文庫)
逢坂剛砕かれた鍵 についてのレビュー
No.70: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前作を読んだ方にオススメ

傑作「百舌の叫ぶ夜」の続編、というか、そのままの流れで話が展開されるので、絶対に「百舌の叫ぶ夜」を読んでから本作を読むことを強くオススメする。
死んだはずの百舌がよみがえった? というのも大きなテーマだが、それよりも倉木警部を中心とする警察側が前作での悪の黒幕・森原大臣側を抹殺しようとする、一種の政治闘争がメインテーマである。したがって、推理や捜査活動より心理戦、読み合いが中心でストーリーが展開される。もちろん、アクションやサスペンスもたっぷりだが、文庫の解説にもあるように主人公たちのハードボイルドな生き方が読みどころになる。
物語の終盤に来て、「これは、ちょっと無いよな~~」という思いもあったが、よくできた物語といえる。
幻の翼 (百舌シリーズ) (集英社文庫)
逢坂剛幻の翼 についてのレビュー
No.69:
(7pt)

滝沢修と倍賞千恵子は適役

映画化されていることは知らなかったが、滝沢修と倍賞千恵子ならぴったりの配役といえる。
1960年ごろの世相を背景に、強盗殺人で起訴された兄の無実を信じて弁護を頼みに来た柳田桐子が、その依頼を断った大塚弁護士への復讐を果たす物語。大塚弁護士が依頼を断ったのは、当時多忙を極めていたことに加えて、桐子が高額な弁護料を払えないだろうということと、愛人との逢瀬に心が急いていたためだった。そのため後々、大塚弁護士は弁護を断ったことに良心の呵責を感じることとなる。
一方の桐子は、兄が一審で死刑を宣告され、控訴中に獄死したのは、大塚が弁護を断ったためだとして復讐に執念を燃やすことになる。
現在の常識からすれば(おそらく当時の常識でも)、大塚が弁護を断ったことと死刑判決を直接結びつけて大塚に復讐するのは筋違いである。しかし、桐子のサイコパスな性格は暴走する一方だし、そこに大塚の良心の呵責が絡むことで事態は壮絶な心理劇となってゆく。
物語の主眼は、法の限界や警察や裁判のありかたと個人の心情の衝突にあるのだろうが、個人的には、弁護士の正義感を妄信している桐子の素朴さと、弁護を引き受けなかったことを悩む大塚弁護士の倫理観に興味をひかれた。1960年前後には、まだまだ倫理や正義に対する確固たる信頼があったのだなと感じた。
霧の旗 (新潮文庫)
松本清張霧の旗 についてのレビュー
No.68: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

刑事・加賀に迫るか?

筆者お得意の警察小説だが、これまでとは趣を変えて、事件現場の街の特色を生かしたストーリー構成と事件の謎解きに中心を置いている。そう、まるで東野圭吾の加賀刑事が登場しそうな作品だ。
舞台となるのは、四ツ谷荒木町。知る人ぞ知る、かつての東京では有数の花街である。現在でも、入り組んだ通りや路地に一種の隠れ家的な飲食店が軒を連ねており、大人に人気の街でもある。その街で、バブル崩壊後に地上げ絡みと思われるアパート経営の老女殺しが起き、15年の時効を迎えたのだが、時効の廃止を受けて再捜査することになる。
捜査を担当するのは、警視庁捜査一課の警部補ながら、上司と衝突して謹慎中だった水戸部裕と、退職した所轄の四谷署刑事で現在は相談員の加納良一。この訳ありコンビが記録と記憶を再調査し、街の深部を掘り起こして行く。そこで徐々に明らかになるのは、一筋縄の解釈では測れない、花街の複雑な人間関係だった。
街の特性とそこに根差した物語づくりは、まさに刑事・加賀シリーズとそっくり。ただ、本作の方が、人情ばなしより刑事物の謎解きに重点を置いている印象を受けた。
今後、シリーズ化されるようなので、佐々木譲の新境地として期待したい。
地層捜査
佐々木譲地層捜査 についてのレビュー
No.67: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

単なる続編ではない

名作「警官の血」の続編に位置づけられる作品だが、大河ドラマ風だった「警官の血」とは趣を異にした、正統派の警察小説だ。
主人公は、前作で三代目警官としてエピローグを飾った安城和也(現在は昇進して警部になっている)と、彼が告発したことで警視庁を追われた悪徳警部・加賀谷仁。東京の麻薬密売組織で何かが動き始めている・・しかし、規律重視で組織を変更し、捜査態勢が硬直化しセクショナリズムの弊害に悩む警察は、その動きを深く把握することができず、捜査の実を上げることができないでいた。そこで警視庁は、かつては切り捨てた丸暴担当のエース・加賀谷に復職を依頼する。おりしも、安城警部が指揮した捜査で密売組織に潜入していた警官が殺されるという事態が発生。責任を問われた安城は、なかなか成果があげられず焦りを募らせていく。それに引き換え、裏社会の組織に食い込んだ加賀谷は重要な情報を次々に手に入れ、ぐんぐん真相に迫っていく。密売組織摘発の栄誉を最後に手に入れるのは、加賀谷か、安城か?
ストーリーの本筋は、麻薬密売組織の正体を追いかける警察小説だが、その過程で、警察組織がもつ官僚機構独特の問題点や自分の父親に対する安城の愛憎などが絡んできて、単なるミステリーではない厚みが感じられた。
「笑う警官」以来の作者の積み重ねを背景に、「警察官にとっての正義とは何か?」、「警察組織の本音と建前」を追求した、意欲的で読みごたえのある作品だった。
警官の条件 (新潮文庫)
佐々木譲警官の条件 についてのレビュー
No.66: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

スピーディーな展開で読ませる

最近、ドラマにもなって注目を集めている本作、巻末の解説によると作者は「ポケミスみたいな作品を書きたかった」と語っているようだが、なるほど、猟銃が出てくるは、美女が派手な犯罪を企むは、車の追っかけっこ(ただし、派手なカーチェイスではなく、高速道路のSAで休みながらの追跡劇だ)があるは、なかなかに派手な道具立てで、しかもすべてが日曜夜から月曜午前までのワンナイトの出来事というスピード感がいい。
冒頭、猟銃を持った美女が復讐のために結婚披露宴会場に乗り込むという、派手なシーンから読者を引き付ける。しかも、これが本作の本筋ではなくサイドストーリーだというところも心憎い構成だ。
メインストーリーは、何の罪もない妻と娘を殺された男が、まったく反省の色を見せない犯人たちに自力で報復しようとする、まあ、よくあるお話。裁判制度が十分に罪を償わせることができないとき、私刑(リンチ)は許されるのか? 重いテーマではあるが、本作ではこのテーマの追求より、登場人物たちの人物像、人間関係、追跡劇のアクションの方に重点が置かれているので、非常に読みやすいエンターテイメントに仕上がっている。
宮部みゆきの初期作品の中では、傑作だ。超能力やエスパーに頼った作品ではないところが、個人的には気に入った。
スナーク狩り (光文社文庫プレミアム)
宮部みゆきスナーク狩り についてのレビュー
No.65: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最後までぐんぐん引っ張る

「百舌」シリーズの第4作。
これまで、「百舌」シリーズはずいぶん前に第一作を読んだだけだったので、いきなり「よみがえる」を読んだのはちょっともったいなかった。間の二本の作品のエピソードを知っていた方が、数倍面白かったと思う。
死んだはずの伝説の殺し屋「百舌」が現れたのをきっかけに、どんでん返しの連続の捜査活動が繰り広げられる。「百舌は、誰か?」がキーポイントだが、それらしき疑いをもたれる人物が続々と登場し、しまいにはヒーロー、ヒロインも疑わしくなってくる。このあたりのストーリー展開は実に上手い。
最後は壮絶な殺し合いの場面になるのだが、主人公側と犯人側の秘術を尽くした戦いがスピーディーに繰り広げられ、一気に読ませてくれる。
時代状況を巧みに取り入れた社会派小説としても、良くできている。
よみがえる百舌 (集英社文庫)
逢坂剛よみがえる百舌 についてのレビュー
No.64:
(8pt)

人とは不可解の塊なんだなと

前作「犯罪」で衝撃のデビューを飾ったシーラッハの第2短編集。刑事弁護士が現実の事件に材を得て書き上げたというのがシーラッハの売りだが、この全15編の異様な物語を読んでの印象は「果たして、こんなことがあるのだろうか?」という驚きに尽きる。
もちろん、理解しやすい動機の犯罪もあるのだが、ほとんどは常人の常識を越える理由や動機から発生した犯罪であり、犯人や被害者の特異性に驚嘆させられる。が、しかし、実は常識にちょっと目をつむって見れば、それほど奇異な現象ではないのかも知れないという気にさせられた。人は他人を完全に理解することは不可能なのだと思う。
15作品の中では「解剖学」と「秘密」が、どちらも超短編ながらひねりが効いていて面白かった。
罪悪 (創元推理文庫)
No.63: 15人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ミステリーではないが、読み応えあり

通常のミステリーや戦争物を想起して読み始めると違和感があると思うが、途中からきっとそんなことは忘れて、物語の世界に引き込まれるだろう。
終戦から60年目の夏、司法試験に失敗してニート状態にある26歳の男が、ゼロ戦パイロットとして特攻作戦で戦死した祖父の軌跡を、当時の戦友達へのインタビューでたずねるというのがメインストーリー。写真の一枚すら残されていない祖父の実像を探ろうとする旅は、いきなり「奴は海軍航空隊一の憶病者だった」という衝撃的な証言からスタートすることになる。ひたすら「生きて帰る」ことを願っていた憶病者が、なぜ最後は「十死零生」の特攻機に乗り込んだのか。読み進むほどに祖父の人間性が明らかになり、同時に、戦争や軍隊の非人間性があぶり出されてくる。
フィクションとノンフィクションを入り交じらせながら、現在の視点から戦争の病理や戦時を生き抜く人々の葛藤を描き出した筆者の物語構成力は“素晴らしい!”の一言だ。とてもデビュー作とは思えない。
あの戦争を引き起こし、最後は日本を破滅に追い込んだ軍部、官僚、政治家の愚かさ、頑迷、思い上がりには絶望的になる。だがしかし、それはあの戦争とともに終ったことではない。今回の原発事故をみるとき、我々日本人はあの失敗から何も学んでこなかったのかと、暗澹たる気持ちにさせられる。
新しい日本への歩みを始めるためにも、多くの人に本書を読んでいただきたい。
永遠の0 (講談社文庫)
百田尚樹永遠の0 についてのレビュー
No.62:
(6pt)

物足りない・・・

スキー場が爆弾犯にジャックされた…。どこに埋められているのかわからない爆弾をネタに、脅迫され、身代金(スキー客全員が人質)を奪われ続けるスキー場を救うために、社員たちが立ち上がる。
事件の枠組み、舞台づくりはなかなか独創的で面白かった。しかし、爆弾犯の動機、犯罪の手段、解決方法(水戸黄門並みのハッピーエンドにはビックリ)などがちょっと不出来。さらに東野作品のキモになる人物設定、キャラクターの描写がいまいち。類型的、表層的で、どうも心情的に応援できなかったのが残念。
スキーやスノボー好きの人には面白いのかもしれないが、スキーに興味がない評者には猫に小判というしかない。
白銀ジャック (実業之日本社文庫)
東野圭吾白銀ジャック についてのレビュー
No.61: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

加賀恭一郎に続く、ニューヒーロー誕生か?

予告された連続殺人事件を防ぐのため、次の現場と目されるシティホテルに刑事がホテルマンに化けて潜入する・・・。果たして、犯人は予告通りの事件を起こすのか? はたまた、警察・ホテルは通常の営業を続けるホテルの中で、無事に犯罪を防止することが出来るのか?
はっきり言って、ミステリーとしては犯行の動機、手段などに?マークのところがいくつかあって、さほどの傑作とは思わない。しかし、「新参者」、「麒麟の翼」の流れの作品として読むと、なかなか良くできている。人と人が出会い、かかわり合って、別れて行く「ホテル」を舞台に選んだことが、人情ドラマとしての成功のカギになったといえるだろう。
本筋の犯人、動機の追求と、ホテルを利用する人が作り出すドラマとが並行して進行し、ときには「これは、ミステリーじゃないよな〜」と思うこともあったが、最後にはちゃんと見せ場が用意されているので、ミステリーファンにもオススメできる。
作品紹介には、新ヒーロー誕生と書いてあるが、どうだろう? あまりにも加賀恭一郎と重なるところが多いので(実際、主人公が加賀であってもまったく問題ない)、シリーズ化することがよいことかどうか、難しいところだと思う。
マスカレード・ホテル
東野圭吾マスカレード・ホテル についてのレビュー
No.60: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

リンカーン弁護士、復活

薬物(鎮静剤)中毒のリハビリで一年以上、弁護士業務から離れていた弁護士ハラーが復活した途端に、きわめて厄介な(しかし、金になる)弁護を引き受けて・・という、リンカーン弁護士シリーズの第二作。
ゆっくりしたペースで業務に慣れて行こうともくろんでいたミッキー・ハラーだったが、射殺された友人の弁護士のケースを引き継ぐことになったことから、いきなり全米の注目を集める映画スタジオ経営者の事件(経営者が妻と、妻の愛人を射殺したとして起訴されている)を担当することになり、その訴訟準備の間に自分も命を狙われることになる。果たして、スタジオ経営者は有罪か、無罪か、はたまた友人の弁護士を殺し、自分の命を狙っているのは誰なのか? 二転、三転して手に汗握るタイプのストーリーではないが、読み応えがある法廷ミステリーであるとともに、殺人事件の謎解きミステリーとしても良くできている。
しかも、マイクル・コナリーのもう一人の人気シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュが登場するという、マイクル・コナリーファンにはたまらないオマケ付き。最後の最後には、ボッシュとハラーの超〜〜意外な関係が明らかにされ・・・シリーズの三作目、四作目への期待はいやが上にも高まって行く。
真鍮の評決 リンカーン弁護士 (上) (講談社文庫)
No.59:
(4pt)

湊かなえは、もういいかな?

ABC放送60周年記念ドラマの原作として書き下ろしの作品。たしかに、2時間ドラマとしては「あり」かもしれないが、小説としては「かなり、がっかり」の出来映えだ。
ストーリーも、キャラクターも、セリフも奥行きが無いというか、平板で、すらすら読めるが驚きも味わい深さもない。
湊かなえは「告白」がピークだったのか?
最近の路線が続く限り、もう彼女の作品を読むことはないだろう。
境遇
湊かなえ境遇 についてのレビュー
No.58: 7人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

幕の内弁当のお得感!?

ひと言では言い表わせない、複雑な味わいの作品だ。
まず、獄中の連続殺人鬼の軌跡を追いながら事件が発生して行くという「羊たちの沈黙」を思い出させる、サイコスリラー系のミステリーとして読める。さらに、主人公の売れない中年作家の心情をユーモラスに描いた都会派の人情小説でもある。さらにさらに、ミステリーを始めとするエンターテイメント小説論でもある。しかも、途中途中に挟まれている、主人公が書いたSFポルノやヴァンパイア小説まで楽しめる。
なによりも、これだけ盛りだくさんでありながら構成が破綻しておらず、構成要素のすべてがかなりの水準であるところがすばらしい。また、登場人物のキャラクターが生きているので、読みながら人物の顔や服装がありありと浮んできた。まさに、様々な味わいで最後まで楽しませる「幕の内弁当」とでも言えばよいのだろうか。かなりの技巧派である。
これがデビュー作というので、今後が大いに期待できる新星が誕生したといえるだろう。

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
デイヴィッド・ゴードン二流小説家 についてのレビュー
No.57:
(6pt)

青春ミステリーかな?

東野圭吾の江戸川乱歩賞受賞第一作というより、今では刑事・加賀恭一郎のデビュー作といった方が通りがいいかも知れない、1986年の作品である。
大学卒業を控えた4年生のグループの内、一人の女子学生がアパートの自室で死んでいるのが発見された。彼女は自殺したのか、殺されたのか? その謎が解き明かされない内に、もう一人の女子学生がお茶会の席で青酸カリによって死亡する。はたしてこれは、連続殺人事件なのか? 仲良しグループのメンバーである加賀とそのガールフレンド・沙都子が、事件の謎を追いかける・・・。
最初の事件は密室、二番目は多くの人の目の前でのできごとという、推理小説としては贅沢な舞台構成。しかもどちらも決定的な証拠が発見されないため、心理的な側面からの犯人探し、動機探しがじっくりと展開されてゆく。最後の謎解きや殺人手段の選択がやや甘いという気がするが、作者のミステリー作家としての力量を認めさせるに十分な作品だと思う。
ただ、青春小説という枠組みのせいか、登場人物がほとんど善人で、少数の悪人も凄みが足りないため、全体に薄っぺらい印象を免れなかったのが残念。
加賀恭一郎ファンにはオススメです。
卒業 (講談社文庫)
東野圭吾卒業―雪月花殺人ゲーム についてのレビュー
No.56: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ひっかけられるのが好きな人でないと・・・

住宅街で建築中の建て売り住宅で発見された男には、ネット上に疑似家族が居て、しかも娘の名前は実在の娘と同じだったことが判明した。さらに、その三日前に渋谷で女子大生が殺害された事件との関連性を示唆する証拠が発見された。犯人は、動機は、男女間の愛憎によるものか、ネット上の家族ゲームの中に隠されているのか・・・。
作者自身があとがきで「ミステリーとしては大変基本的なルール違反をしている部分があります」とエクスキューズしている通り、本格ミステリーとして読むとがっかりするかもしれない。
ラストシーンで謎が明かされて、「うーん、やられた!」と感心するか、「えーっ、だまされた!」と思うかで評価が分かれるだろう。私は後者だったが。
それでも「6」の評価にしたのは、さすがに宮部みゆきというべきか、ストーリー展開の上手さ、語り口の滑らかさは一流だったから。
R.P.G. (集英社文庫)
宮部みゆきR.P.G. についてのレビュー
No.55: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

タランティーノ好きにはオススメ

カンヌ映画祭で監督賞を受賞した映画の公開に合わせて復刊されたという、クライムノベル。恵まれない環境で育った少年がロサンゼルスに出てきて、ドライヴ(運転)の才能を頼りに映画のスタント・ドライバーになり、その腕を見込まれて強盗たちの逃走車両の運転手を努めるようになる。で、当然のように仲間の裏切りで窮地に追い込まれ、復讐のために孤独な戦いに立ち上がる・・・。
約200ページというコンパクトな作品で、しかも派手なアクションシーンやカーチェイス、容赦ない殺人シーンがテンポ良く展開されるので、バイオレンス映画ファンには大いに受けるだろう。さらに、主人公のドライバー(最後まで本名を明かさず、この名前で通してしまう)は運転や復讐にはきわめてクールで機械的ながら、数少ない心を許し合う友人や恋人とは細やかな情を見せるところもある、なかなか魅力的なキャラクターに描かれているので、単なるバイオレンス映画としてだけではなく、一種の青春ロードムービー的な人気を得るのではないだろうか。
小説としても、読後感がすっきりした傑作だと言える。
ドライブ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジェイムズ・サリスドライブ についてのレビュー
No.54:
(7pt)

松本清張のロマン派作品

およそ半世紀も前の作品だけに評価がむずかしいが、松本清張のロマンチックな一面がよく現れたロマンチックミステリーの傑作といえる。
ストーリーの中心は、第二次世界大戦末期に欧州の病院で死亡したとされる外交官が生きているのではないか、日本に帰ってきているのではないかという謎を、当の外交官の娘の恋人である新聞記者が追求して行く話。そこに、真相判明を阻止しようとする謎の人物や組織が現れて、殺人や発砲事件にまで発展して行く・・・。この謎解きミステリーだけでも十分に面白いのだが、話のテーマとしてはむしろ、親子、家族の情愛の方に力点が置かれているように思われた。作品全体を通して、しみじみとした風景描写、日常生活への優しい視点が印象的で、ごりごりの社会派という松本清張のイメージを変えさせるような読後感を持った。
テーマ、ストーリーについては、現在の日本のミステリーのレベルから見るとやや物足りなさを感じるが、これはフェアな評価とは言えない。発表当時(1960〜61年)には、かなりのインパクトを与えただろう思われる。
球形の荒野 上 改版 (文春文庫 ま 1-127 長篇ミステリー傑作選)
松本清張球形の荒野 についてのレビュー