■スポンサードリンク


iisan さんのレビュー一覧

iisanさんのページへ

レビュー数1360

全1360件 1241~1260 63/68ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.120: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

大どんでん返し!

リンカーン・ライム・シリーズの9作目は、電気を武器にするテロという、これまでにはない犯人との知恵比べが展開される。目には見えないが、我々の周囲には必ずある電気を使ってニューヨークを人質にとろうとする犯人の狙いは何か? 地球環境破壊につながる化石燃料発電を止めさせようとする環境保護団体のテロなのか? 東日本大震災を経験した日本人には身につまされるような電力と人命や環境との対立というジレンマを背景に、意外な犯人像が浮かび上がってくる。だがしかし、最後の最後で、さらに驚愕の犯人が登場する・・・。
物語の冒頭から読者を引きつけ、ハラハラドキドキのジェットコースター展開で楽しませる巨匠の腕は、本作でも遺憾なく発揮されている。また、チーム・リンカーンともいうべき仲間たちが、それぞれの魅力を発揮して物語に味わい深さを加えて、シリーズ作品ならではの楽しみも用意されている。
ただ今回は、微細証拠物件から犯人を割り出して行く「科学的捜査」の側面より、心理や人間関係から犯人像を描いて行く「プロファイリング」的な側面が強くなり、通常の警察小説に近くなったような気がした。
犯人逮捕後のエピローグ部分で、シリーズの今後を予測不可能にするような展開があるのも、リンカーン・ライムファンには気になるところだろう。
バーニング・ワイヤー
No.119: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

中学生の課外授業で校内裁判???

3部作、それぞれが700ページを超える超大作で登場人物も多いが、人物関係が複雑ではないので、意外と楽に読むことができた。
クリスマスイブの深夜、校舎屋上から落ちて死んだ同級生の事故?、自殺?、事件?をめぐって、学校や親や警察を信じきれなかった中学三年生たちが、自分たちの手で真実を見極めるために法廷を開く・・・。まず、舞台設定で驚かせてくれる。しかも、主要な役割の人物はスーパー中学生というか、大人顔負けの論理的な論陣を張ってくる。「こんな中学生、いるわけないじゃん」と思った時点で、この作品はまったく面白くなくなるだろうが、そこはそれ、フィクションの面白さと思えれば、楽しめる青春小説を言えるだろう。
同級生は自殺したのか、だれかに殺されたのかという謎解きミステリーとして読むと、特別なトリックや驚くほどの動機や犯行形態があるわけではなく、さほど面白くはない。また、最後にどんでん返しがあるわけでもない(むしろ、勘のいい人なら途中で結末が予想できる?)。だれもが通ってきた道を振り返る、中学生の青春ドラマとして読むのが正解だろう。
ソロモンの偽証 第I部 事件
宮部みゆきソロモンの偽証 についてのレビュー

No.118:

冷血(上)

冷血

高村薫

No.118:
(7pt)

広漠とした高村ワールドへ

高村薫の最新作は、合田雄一郎シリーズの新作だけに、「晴子情歌」から前作まで続いてきた読みづらさが薄らぎ、エンターテイメントとして楽しめる作品だ。ただ、警察小説、ミステリーを期待していると裏切られる結果になるだろう。
物語は、実際の事件(いまだ未解決だが)を想起させる「歯科医一家4人殺し」の事件発生から裁判、死刑執行までを追うもので、犯人、被害者の背景描写から捜査の在り様、裁判過程における関係者の言動まで、いかにも高村薫らしい緻密な描写(ことに、犯人の歯痛、歯科治療の詳細さと言ったら・・・)で展開される。しかし、すべてが明らかにされたようでありながら、犯人の実像、心理、犯行動機などは、すべて霧の中での手探りの記録でしかなかったという茫漠さが最後に残り、きわめて微妙な読後感に悩まされることになる。作者は、合田雄一郎と読者を真実と虚偽が絡み合って延々と続く、広漠な精神世界に放り出すことを狙っているに違いない。
そこが高村ワールドであり、好悪が分かれるところだろう。
冷血(上)
高村薫冷血 についてのレビュー
No.117:
(6pt)

コカイン問題の最終解決策?

フォーサイス久々の新作「コブラ」は、フォーサイスらしさ全開の国際謀略小説だ。今回の主役は元CIA高官で凄腕工作員のデブロー、通称「コブラ」。相手は世界のコカイン市場を牛耳るコロンビアのコカイン・カルテル「兄弟団」。オバマ(?)大統領の指示でコカイン殲滅作戦に乗り出したコブラは、徹底した秘密主義と大統領から与えられた強大な権限によって、奇想天外な大作戦を展開する・・・。
国際的なコカイン密売の仕組み、各国当局の麻薬取締の実態、軍や警察組織の装備など、ジャーナリスト・フォーサイスの本領である綿密な取材に基づくリアリティのある細部の描写が、作品に臨場感をもたらしている。
ただし、小説として面白いかと言えば、ちょっと微妙で、人間のドラマの部分が弱く感じられた。いわば、きわめて出来のよいシミュレーション・レポートを読んでいるような印象で、いまいち作品世界に没入できなかった気がした。
コブラ 上
フレデリック・フォーサイスコブラ についてのレビュー
No.116:
(7pt)

異色のヒロイン、異色のストーリー

引退した捜査官が断りきれない事情から再度、捜査現場に戻って活躍するというのはよくあるパターンだが、主人公が60歳近い女性と言うのは初めて読んだ気がする(すでにあるのかもしれないが)。しかも、本筋はサイコパスを追いかける異常心理ものなのに、犯人の心理や行動の描写は少なく、ヒロインの心理描写の部分が多いのも異色だ。
女性対象の性犯罪者を捕らえるための囮捜査のプロとして活躍していたFBI捜査官ブリジッドが、若い女性の囮の役目を果たせなくなり、後継者として育てたFBI捜査官が殺された「ルート66連続殺人事件」は、犯人を逮捕できないまま7年が経ち、ブリジッドは引退して新婚生活を送っていた。そこに、犯人逮捕の報が届くが、担当の女性捜査官コールマンは犯人の自白に疑問を持ち、真犯人かどうかの確認のためにブリジッドに協力を要請する・・・。
捜査権限がない立場での厳しい捜査に、果敢に立ち向かう中年女性。体力、気力とも現役に負けないのだが、いかんせん警察力を駆使できない弱みがあり、非常に苦しい戦いとなり、自分自身はもちろん、最愛の夫までも苦しめる展開になってゆく。
若い女性の役ができなくなった中年女性が、老嬢専門の連続殺人鬼に遭遇するところからスタートするストーリーは、異色と言えば相当に異色で、問題解決までの道のりにややご都合主義的なところもあるが、最後まで犯人が分からず面白く読めた。
主人公のキャラが独特過ぎて、シリーズにするのはちょっと難しいかなと思うが、次回作はあるかどうか? その点も興味深い。
消えゆくものへの怒り〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
No.115: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

すいすい読める

ガリレオ・シリーズの短編集、第7弾。4作品が収載されているが、どれも期待を裏切らない(良くも悪くも)秀作ぞろいだ。
ストーリーは平易でトリックもそれほど奇抜ではなく、謎解きのプロセスも破綻がなく、とても読みやすい。こういう作品を書かせると、東野圭吾は本当に上手い!。
ただ、長編ほどの深みがないので、どうしても物足りなさが残る。まあ、東野圭吾については最初から求めるレベルが高いということだろう。
虚像の道化師 (文春文庫)
東野圭吾虚像の道化師 についてのレビュー
No.114:
(6pt)

ちょっと、とっちらかったかな?

パトリック&アンジー・シリーズの第3弾。シリーズ作品ならではの安心感と、マンネリを打破する試みが微妙にずれた印象を与える、ちょっと残念な作品だ。
パトリックとアンジーが路上から拉致されて大富豪に仕事を依頼されるという出だしから、やや「?」だったのだが、犯罪の背景、犯人の動機、問題解決の方法などなど、いまいちしっくりこないまま終わってしまった印象だ。
カージャックで銃撃を受け、癌で余命半年と宣告されたボストンの超大富豪が、失踪した一人娘の捜索を依頼する。ところが、この捜索の前任者の探偵が、パトリックの探偵術の師匠、生涯の師と仰ぐ人物で、彼もまた行方不明になっていた。二人が姿を消した理由を追求していたパトリックとアンジーの前に、ある精神セミナーグループとカルト教団が浮上し、そこから舞台はフロリダに移り、さらに複雑かつ暴力的な展開を見せてゆく・・・。
あやしげなセミナーとカルト教団の金がらみの陰謀などは、どこの国にもある現代病と納得だったが、おなじみブッパのすさまじい援護、自家用ジェットでの移動、大富豪の豪邸での凄絶な争いなどなど、現代アメリカン・ハードボイルドならではの派手さには、「これ、ルへイン?」と、多少の違和感を感じてしまった。
シリーズの読者には、作者にはこういう一面もあるのかと思わせるぐらいで失敗作とは言えないだろうが、本作品が初レヘイン(ルへイン)の読者には、本当の実力を誤解させるのではないかと、余計なお世話の感想を持たざるを得なかった。
穢れしものに祝福を (角川文庫)
デニス・ルヘイン穢れしものに祝福を についてのレビュー
No.113:
(8pt)

パトリックとアンジーの関係は?

ボストンの2人組私立探偵、パトリック&アンジーシリーズの第2弾。解説に「チャンドラーの嫡流」と書かれているように、正統派アメリカン・ハードボイルドの美点を完備した傑作で、シリーズ第1作以上にハラハラ(いろんな意味で)する、読み応えのあるハードボイルド作品だ。
マフィアとのトラブルに悩む精神科医からの依頼で問題解決に乗り出したパトリック&アンジーは、奇怪な連続殺人事件に巻き込まれ、マフィアとサイコキラーを相手に絶望的な戦いを繰り広げることになる…。そうしてたどり着いた真相には、自らのアイデンティティーにも関わってくる地域社会の暗部が隠されていた。
前作からの登場人物はもちろん、今回だけの登場人物も丁寧に造形されており、話は複雑だが非常に読みやすい。さらに、今回の悪役は、いかにも現代的な不気味さが強調されていて、ストーリー全体に緊張感が高くなっている。
また、アンジーがとうとうフィルとの離婚を決意したことで、パトリックとの関係に微妙な変化が現れるのだが、一方のパトリックには夢中になっているグレイスとその娘・メイがいるため、すんなりと結ばれるわけにはいかない。シリーズの重要なサイドストーリーである二人の関係は、果たしてどうなっていくのか? 次回作以降でも気になる点である。
闇よ、我が手を取りたまえ (角川文庫)
No.112:
(7pt)

ル・カレは枯れず!

1931年生まれのジョン・ル・カレが2010年に発表した最新作。御年79歳での作品とは思えない、みずみずしい作品だ。
ロシアの新興マフィアのマネーロンダリングの第一人者が、犯罪組織を裏切って英国への亡命を希望し、イギリス人の若いカップルに英国情報部との架け橋を依頼したことから物語がスタート。果たして亡命は成功するのか? 最後まで先が読めないスリリングなストーリーが展開される。
本作品の最大の特徴は、登場人物がきわめて緻密に描かれていて、まさに生きて動いていることだろう。大学講師と弁護士のカップル、亡命しようとするマフィアとその家族、情報部のスタッフなど、主要な人物はすべて個性的で、その心理や行動に読者はリアルな共感や反発を覚えずにはいられない。ル・カレのスパイ小説には欠かせない神経をすり減らす情報戦の要素はやや薄いといえるが、それを補って余りある人間ドラマとしての面白さが光る。
ル・カレの本領ともいえる冷戦時のスパイ小説とはやや趣が異なるものの、人間観察の鋭さと人物造形の上手さで、スパイ小説ファン以外の読者にとっても読みごたえがある作品と言えるだろう。
われらが背きし者
ジョン・ル・カレわれらが背きし者 についてのレビュー
No.111: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

キャラクターはいいんだが

ニューヨーク市警の「氷の天使」キャシー・マロリーシリーズの第一作かつ、オコンネルのデビュー作。老婦人連続殺人の犯人を追う、休職中の巡査部長というのはありがちな設定だが、この主人公のキャラクターがすさまじい。人々の印象に残りすぎるので尾行追跡ができないほどの美貌、どんなシステムでも自在に入り込んでしまう天才的なハッカーの頭脳を持ちながら、ストリートチルドレンとして育った時に身に着けた反社会的倫理観の持ち主である。本作品に対する評価はほとんど、この主人公のキャラクターの好悪で決まってくるだろうと思うほど印象的なキャラである。
シリーズとして6作目まで出されていることから分かるように、マロリーは「ミステリー史上最もクールなヒロイン」として人気を集めている。がしかし、ヒロインのキャラが立ち過ぎていて、ストーリーが弱いという印象がぬぐえない。オコンネル作品全体に言えることだが、オカルト的な要素が重要なポイントになっていることも、個人的に高く評価できない要因になっている。
ただ、最新作の「吊るされた女」ではストーリーに厚みがあり、格段に面白くなっているので、もうしばらくこのシリーズを読んでみようと思っている。

氷の天使 (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル氷の天使 についてのレビュー
No.110:
(6pt)

日本の政治は変わらない?

日常の平凡な仕事に飽きていただけの若者が、刺激を求めて調査研究所に就職したことから、アメリカからの原子力潜水艦の導入を巡る連続殺人事件に巻き込まれ、独自の調査で真相を解明することになる。そこでは巨大な利権を巡って暗躍する官僚、兵器産業、謎の黒幕などが入り乱れ、熾烈な戦いを繰り広げていた・・・。
1960年前後、つまり約半世紀前の作品だが、そこに描かれている疑惑の構図は、その後のロッキード事件をはじめ何度も繰り返されてきた疑惑と瓜二つであり、日本の政治構造の宿痾そのものといえるだろう。
ミステリー作品としては、東京湾での死体の漂流の謎、誰が敵か味方か不明な情報戦など、いくつかの読みどころはあるものの、キーポイントとなる場面での偶然というかご都合主義が、作品を軽くしている感じがした。
蒼ざめた礼服 (新潮文庫 ま 1-26)
松本清張蒼ざめた礼服 についてのレビュー
No.109:
(8pt)

ハードボイルド探偵小説の王道

パトリック&アンジー・シリーズの第一作。「ミスティック・リバー」からルヘインを読み始めた者としては、こんなに単純明快な小説を書いていたのかというのが、一番の驚きだった。
ボストンのあまり品が良くない地域の教会の中に探偵事務所を構える、パトリックとアンジーの二人組。ある日、上院議員から「失踪した掃除婦が持ち去った重要書類を回収してもらいたい」という依頼を受ける。掃除婦の家を探し出してみると、すでに何者かに家捜しされたあとだった。重要書類を探しているのは、上院議員の他にも誰かいる・・・。
ボストンの暗黒街を駈け回って掃除婦と書類を探す二人の行く手を阻むのは、命知らずのメンバーを抱える二つのギャング団だった。二人を助ける、サイコパスの巨漢、時には助け、時には敵対する刑事達など、ハードボイルド探偵小説ではおなじみの登場人物が揃い、ウィットを競い合うような会話と激しいアクションとおびただしい死体が繰り広げられる、まさに典型的なストーリー展開といえる。
定石通りとも、王道とも言える作品だが、背景にあるものが深いため、けっして安っぽいハードボイルドで終っていないところが、さすがにルヘイン。しかも、本作が処女小説だというのだから驚きだ。
しばらくは、このシリーズを楽しみたい。
スコッチに涙を託して (角川文庫)
デニス・ルヘインスコッチに涙を託して についてのレビュー
No.108: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

栴檀は双葉より

宮部みゆきの長編デビュー作。プロローグでの伏線の張り方から主人公の設定、周辺のキャラクター、事件の背景まで、実に巧みな設定で、さすがに宮部みゆき、栴檀は双葉より芳ばしである。ただ、最後の詰めが後々の長編作に比べると多少甘く、評価を減点せざるを得なかった。
まず、主人公が元警察犬・マサで、犬の視点からの一人称語りというのが、なんとも人を食っていて面白い。また、マサの飼い主である探偵事務所のスタッフや、一緒に真相究明に当たる被害者の弟などのキャラクターが青春小説っぽいところも、殺人の様相や事件の背景が凄惨であるにもかかわらず読後の印象がどろどろしない要因となっている。
ミステリーとしては物足りない部分も多いが、宮部みゆきの才能の芽が随所に感じられる佳作といえる。
パーフェクト・ブルー【新装版】 (創元推理文庫)
宮部みゆきパーフェクト・ブルー についてのレビュー
No.107:
(7pt)

文句無く楽しめるスパイ活劇

それぞれの時代性が重要なスパイもので、しかも25年以上昔の作品なのに、文句無く楽しめるスパイアクション。アメリカがロシアからアラスカを買い取った時の協定には、実は買い戻し条項があった! という、史実と虚構を大胆に組み合わせた“ホラ話”で最後までハラハラドキドキが楽しめる、アーチャーの名人芸が堪能できる良質なエンターテイメント作品だ。
ロシア革命時、皇帝ニコライ二世が条約書をイコンの裏にかくして国外に持ち出したことを確信したソ連指導部は、1966年5月19日、イコンの発見と奪還をKGBに命じ、最も優秀で非情な情報部員ロマノフが調査を開始する。定められた期限は1966年6月20日。そのころ、イコンはナチス・ドイツの高官が偽名で預けたままスイスの銀行に眠っていた。
そのイコンを受け取る正当な権利(必要な書類)は、父親の遺産としてイギリスの退役軍人、アダム・スコットに引き継がれ、スコットは中身の詳細を知らないまま、遺産を受取に行く。そこに待っていたのは・・・。
知力、体力、行動力をぶつけ合い、逆転に継ぐ逆転で突っ走るというストーリー展開はまさにスパイ小説の王道だ。さらに主人公が、アメリカでもロシア(ソ連)でもなく、第三国のイギリス人の退役軍人ということから巧みなユーモアも加味されており、アクション一本槍ではない面白さがある。

ロシア皇帝の密約 (新潮文庫)
No.106: 14人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

7年、待ったかいがあった

横山秀夫の7年ぶりの新作ということで期待感いっぱいに読み始めたが、「待ったかいがあった」の大満足。横山ワールドの頂点といえるのではないか?
舞台はいつものD県警本部だが、今回の主人公は広報官というのが、まず意表をつく。警察の花形と信じて疑わない刑事部から異動になり、広報部門のリーダーながら、いまだ自分の職務に誇りをもてない三上警視は、娘の失踪という家庭内の深刻な問題を抱えたまま、警察内部の対立、報道陣との対立、さらに迷宮入りしていた幼女誘拐殺人事件の解明に取り組んでゆく。
ストーリーの本筋は、県警(地方、たたき上げ)と警察庁(東京、キャリア組)の主導権争い、報道の自由を巡る記者クラブと警察の対立、幼女誘拐事件の犯人探しの3本立てで、それぞれが密接に絡み合いながら、関係する個人をギリギリと締めつけてゆく。このプロセスのリアルさと緊張感は横山秀夫ならではの筆力で、読者はぐんぐん引き込まれてしまうしかない。
そして、犯人が明らかにされるクライマックスまでの仕掛けの周到さも、まさに横山秀夫ワールド。まいりました。
これまでのD県警シリーズに登場した人物が数多く登場するので、シリーズを読んでいた方が味わい深いとは思うが、もちろん単独作品としても非常に面白い。横山作品ファンはもちろん、初めての人にも十分楽しんでもらえる、オススメ作だ。
64(ロクヨン) 上 (文春文庫)
横山秀夫64(ロクヨン) についてのレビュー
No.105: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

お約束を楽しむ作品

「百舌」が登場しない「百舌」シリーズの第5作。主人公の倉木美希と大杉良太が警察内部の陰謀を暴いていくという、まあ、お約束のストーリーだが、今回は悪役がよく書けている分、面白く読めた。
暴力団を襲ってコカインや拳銃を強奪するという犯罪が続き、しかも現役の警官が関与している疑いがもたれ、大杉が捜査を進めるうちに陰謀に直面することになる。警察の捜査より、私立調査員の大杉の調査が事件の解明に通じるとあって、やや強引なストーリー展開が無きにしも非ずだが、犯人探しの面白さは十分に用意されている。
今回の悪役は、美人で評判の独身刑事、その奔放な異性関係に注意を与えるため倉木が面接するところからスタートし、お互いに探り合い、張り合うところが、もうひとつの読みどころと言える。
現在までのところ、本作が「百舌」シリーズの完結編となっているが、エンディングを見ると次作もありそうな…。
のすりの巣
逢坂剛のすりの巣 についてのレビュー
No.104: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ちょっと肌合いが合わない

ニューヨーク市警の「氷の天使」マロリー・シリーズの第2作。
いきなり「マロリーが殺された」というニュースから始まるが、すぐにマロリーのネーム入りのジャケットを着た別人と分かる。これを機に、休職中だったマロリーが現場に復帰し、「自分を殺した」犯人を容赦なく追いつめてゆく。
社会的な倫理観とは無縁の冷徹な敏腕刑事という設定のマロリーが、いわば不法な手段を駆使しながら真相を暴いてゆくプロセスは、多くの警察小説ファンには違和感があるのではないか? ハッキング技術を駆使してということであっても、あまりに簡単に秘密情報を入手するので捜査が進展する過程のワクワク感が生まれてこない。
また、ある種、オカルト的なエピソードが頻繁に挿入されるのにも、個人的に肌合いが合わない感じを持った。
キャロル・オコンネルは、警察小説ファンより、ホラー、ファンタジー系の読者の方がしっくりくるように思う。
アマンダの影 (創元推理文庫)
キャロル・オコンネルアマンダの影 についてのレビュー
No.103:
(7pt)

巨匠の挑戦

前作「秘密」から4年ぶり、御年91歳で発表したP.D.ジェイムズの新作は、1813年に書かれたジェーン・オースティンの「高慢と偏見」の後日譚! 名作の誉れ高い「高慢と偏見」を受けてミステリーを書く、という、ある種、無謀とも思える挑戦を果たしたP.D.ジェイムズの創作意欲に、称賛の拍手を送りたい。
物語は、18世紀初めのイギリスの田舎貴族の生活に飛び込んできた殺人事件が引き起こす、さまざまな人間模様。犯人探し、動機解明のミステリーとしても読ませるが、それ以上に封建制度下の人々の生き方、とりわけ女性の生き方にまつわる話が面白い。
本家「高慢と偏見」を読んでいるに越したことはないが、「高慢と偏見」の世界はプロローグで簡潔にまとめて紹介されているので、原作を未読の人にもオススメできる。
高慢と偏見、そして殺人〔ハヤカワ・ミステリ1865〕
No.102: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前作よりは面白い

“サーファー・ときどき探偵”のブーン・シリーズの第二弾。物語の舞台、主要登場人物は前作の流れを継承し、シリーズものとして確立しつつある。前作に比べてミステリーの要素が強まり、謎解きの部分が格段に面白くなった。それでもまだ“サーフィン小説”の部分が色濃く、サーフィン好き、格闘技好きには大受けだろうが、個人的には(なんといっても、ウィンズロウだから)いまいちの印象だった。
ブーンが依頼されたのは、サーフィン仲間の富豪の妻の浮気調査。意に染まないまま調査を開始したブーンはさらに、友達以上、恋人未満のぺトラから殺人容疑で逮捕されている少年の弁護のための調査を依頼される。この殺人事件の被害者は地元で敬愛されていた“伝説のサーファー”だっただけに、殺人犯側についたブーンはサーフィン仲間を始め地元全体を敵に回すことになる。少年の容疑に疑問を持ったブーンは、いつもは手助けしてくれる仲間から見放されながらも真実を追求し、ついにはサンディエゴを揺るがす巨大なスキャンダルを掘り起こすことになる…。
あくまでもノー天気なサーファーの世界の向こうには、金と欲望にまみれた現実が隠されている。それでもというか、だからこそというか、ブーンはサーフィンに生涯をささげる決心をする。次作もありそうなエンディングだった。
紳士の黙約 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ紳士の黙約 についてのレビュー
No.101:
(9pt)

どんどん完成度が高まっている!

ヴァランダー・シリーズの第6作は、絶賛した第5作を上回る傑作だった。
ヴァランダーをはじめとする登場人物のキャラクターの面白さ、社会背景に対する鋭い視点という本シリーズの魅力に加えて、今回は警察ものミステリーの肝である犯人探しが抜群に面白い。もちろん、「笑う男」、「目くらましの道」の犯人探しもレベルが高いのだが、本作は数段レベルアップした(大家に対して失礼な表現だが)と思う。
極めて残酷な殺され方をした老人たちが連続殺人の犠牲者と判明し、イースタ警察署は全力を挙げて捜査に取り組むが、極めて計画的で行動が徹底した犯人は、解決の糸口となるような証拠を残さず、ヴァランダーたちの推理もたびたび壁にぶち当たり、なかなか成果を上げることができない。そのため不満を抱く市民が自警団を組織するという騒ぎにまで発展する。
読者には、比較的早くから犯人が提示されるのだが、個人として特定し、逮捕するまでのプロセスが長く複雑で、ぐんぐんストーリーに引き込まれていく。操作手順や結果にも突飛な偶然やご都合主義がなく、まさに警察小説の醍醐味を堪能できた。
サイトストーリーであるヴァランダーの親子関係(父との関係、娘との関係)、恋愛関係にもエポックメイキングな出来事があり、シリーズとしての面白さもたっぷり用意されている。
本作品で初めてヴァランダーに触れた人も、きっとシリーズ全体が読みたくなる、オススメ作品だ。
五番目の女 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル五番目の女 についてのレビュー