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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1393

全1393件 1241~1260 63/70ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.153: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

お菓子が詰まった長靴!

ジェフリー・ディーヴァーの初短編集。16作品、580ページほどの分厚い文庫本だが、とにかく楽しめる作品ぞろいで一気読みしてしまった。
もちろん、長編作品のようなお得意の「ジェットコースター」的な展開はないが、どの作品をとっても「捻り」が効いていて、読者を驚かせよう、喜ばせようという作者の熱意がひしひしと感じられる。読者はきっとクリスマスの朝、お菓子がいっぱいに詰まっている長靴を見つけた子供の気持ちになれるだろう。
クリスマス・プレゼント (文春文庫)
No.152: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ちょっと合わなかったなぁ〜

平原に立つ一本の木に吊されていたのは、凄惨な暴力の跡が残る全裸の男性の死体だった。これはリンチなのか、生贄なのか? 物語のスタートは衝撃的で期待感が高まるのだが、クライマックスはそこで終わってしまったような感じでちょっと残念だった。
スウェーデンでは大人気のシリーズの第一作だが、犯罪の動機、解明のプロセス、解決方法など、どれもいまひとつ。特に、死者のモノローグ、登場人物の夢などがストーリーの方向性を示す重要なポイントになっているところに、強い違和感を感じて楽しめなかった。
訳者あとがきに「スウェーデンの美しい四季を舞台に描き出す、猟奇的かつ耽美的な世界」とあるが、まさにその通り。人間を呪縛する血の濃さや死者との交流などのお話が好きな人には受けるだろう。
冬の生贄 下 (創元推理文庫)
モンス・カッレントフト冬の生贄 についてのレビュー
No.151: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

上手過ぎて損をした?

あの傑作「解錠師」のスティーヴ・ハミルトンのデビュー作。「私立探偵になりたくなかった私立探偵」シリーズとして、現在までに10冊が刊行されている(日本語訳は1~3作が既刊)らしいが、日本では2000年に出版され一度絶版になっていたものが、「解錠師」のヒットを受けて新版として再登場したといういわくつきの作品だ。
「私立探偵になりたくなかった私立探偵」アレックスは、元デトロイト市警の警官だが現在は、カナダ国境に近いミシガン湖畔の静かな町で父親が残した狩猟用貸ロッジの管理人として生計を立てている独り者。ロッジ管理人で十分に満足しているのだが、知り合いの弁護士に頼み込まれ、しぶしぶ探偵仕事を引き受けたことから、連続殺人事件に巻き込まれることになる。
アレックスには、14年前、警官時代に拳銃で襲われた時の銃弾がひとつ、摘出されないまま心臓のそばに残っているという体の傷とともに、襲撃され、相棒が殺害された現場で血の海を見たときの恐怖がトラウマとなって残っていた。そんなアレックスをあざ笑うかのように、州刑務所で服役中のはずの襲撃犯・ローズから「自分が連続殺人に関係している」という不気味な電話や手紙が届き始める。果たして、ローズは脱獄したのか? あるいは誰かがローズに成り替わっているのか?
「服役中の犯人からの脅迫」というのは、これまで何度か目にしたパターンで、スティーヴ・ハミルトンはどういうトリック(仕掛け)で驚かせてくれるのか興味津々だったが、予想を裏切る展開で最後まで謎を明かさずに引っ張ってくれた。
メインのストーリー、登場人物のキャラクター、謎解きの面白さ、情景描写の巧さなど、どれをとっても合格点で、デビュー作とは思えない上手さを感じる作品だが、ぜいたくを言えば“整いすぎている”感が否めない。多少の破たんはあっても、もっとインパクトがある方が好ましい。そこが、3作目までで翻訳がストップしている理由かなと思った。
ハードボイルド、サスペンスより抒情重視の読者におススメかな?
氷の闇を越えて〔新版〕 ハヤカワ・ミステリ文庫
スティーヴ・ハミルトン氷の闇を越えて についてのレビュー
No.150:
(7pt)

犯罪者か、捜査官か?

酒とギャンブルで身を持ち崩し、退職の瀬戸際に追い込まれた刑事が企んだ、起死回生の秘策とは?
ロンドンの高級住宅地で一人暮らしの大富豪の男性が行方不明になった。捜査を担当することになったベルシー刑事は、豪邸内の食料や酒をいただくばかりでなく、誰もいないのをいいことに寝泊まりし始め、さらには現金やキャッシュカードを使い、家財道具を売り払うことまでするようになった! これだけでもとんでもない悪党だが、さらに富豪に巨額の隠し財産があるらしいことを発見し、財産と身分を乗っ取って海外に逃亡しようと企てる。
いや〜、とんでもない悪徳警官がいたものだが、このベルシー刑事はなぜか自分の身の安全より事件のなぞの解明に心を奪われるようで、財産乗っ取り&海外逃亡計画と並行して、富豪の行方不明の追求にも身を入れ、とうとう自分の命まで狙われるようになる。果たして、ベルシーは富豪に生まれ変わって、大金とともに無事に海外逃亡できるのか?
まずなにより、刑事でありながら犯罪者という、主人公の設定が面白いし、キャラクターの設定も上手だと思う。さらに、富豪の行方不明に絡む謎解きもしっかりした構成で、ミステリーとしての完成度も高く、これがデビュー作という作者の力量に感心した。
それでも評価を「7」にしたのは、文庫本で600ページという長さがマイナス。これが400〜450ページぐらいなら、もっと緊迫感のある作品になっていただろうと思うと、ちょっと残念。
それと、これは作者には関係ないことだが、表紙のイラストが「フロスト警部」シリーズと同じイラストレーター、同じタッチなのが、非常に残念。「早川さん、これは無いよ!!」
バッドタイム・ブルース 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
No.149: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

あらゆる意味で、不気味です

現代アメリカ文学の巨匠のひとりコーマック・マッカーシーが1973年に発表した中編小説。あるミステリー評論家が「犯罪小説史に残る大傑作」と絶賛しているが、その内容、文体などは好き嫌いがはっきり分かれる作品だと思う。
物語は、1960年代、アメリカ南部テネシー州の山中で暮らすはみ出し者レスター・バラードの奇妙な生活と犯罪を描いたもの。主人公レスターの異常さが、これでもかという執拗さで描写されていて、全編とにかく不気味です。
不気味だから読むべきではないという意味ではないが、読むには覚悟がいるかもしれない。

チャイルド・オブ・ゴッド
No.148: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ドイツ・ミステリーの奥は深い

ドイツの実力派ミステリー作家の最新作。とはいっても、著者フライシュハウアーはこれまで日本では一冊しか翻訳されておらず(それも2002年に出版)、実質的には本邦初登場と言えるだろう。こうした作家の新作が読めるのは、現今の北ヨーロッパミステリー・ブームのおかげと言えるかもしれない。
物語の発端は、ベルリンの廃墟ビルで凍った女性の胴体が発見されたこと。しかも、死体は頭部が切断され、山羊の頭に付け替えられていた。さらに同じ夜に、今度はナイトクラブの掃除用具置き場から異様な演出を施された羊の死骸が発見され、羊には死体から切り離されたと思われる腕が隠されていた。これは果たして、連続猟奇殺人事件の始まりなのか? ベルリン州警察のツォランガー警視正が率いるチームが捜査に乗り出すが・・・。
同じころ、兄の自殺に疑問を抱く若い女性が、真相究明を求めてツォランガー警視正に面会を求めてくる。さらに、ドイツの大物銀行家の娘が誘拐される事件が発生した。一見、無関係に見える三つのエピソードが複雑に絡み合い、捜査が進むにつれて東西ドイツ統一を背景にした驚くべきドラマの真相が見えてくる。
「羊たちの沈黙」を想起させる異様な幕開けで、サイコパスものかと思って読み進めると、ストーリーは二転、三転し、ドイツ統一に絡んで発生した金融スキャンダルの告発、さらにはドイツとは何か、ドイツ人とは何かを問う社会派ミステリーとして完結する。
途中、「これは掟破りでは?」という展開になり、頭の中に?マークがいくつも浮かんだが、最後にはきちんと説明を付けてくれた。
ネレ・ノイハウス、クッチャー、フォン・シーラッハなど多士済々のドイツ・ミステリー界に、また新たな実力派が加わったのは間違いない。
消滅した国の刑事 (創元推理文庫)
No.147: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

もう一人、北のヒロイン登場

コペンハーゲンの女性刑事ルイース・リック登場。デンマークでは人気を博しているシリーズで、本作はシリーズ第2作に当たるが、日本語では初お目見えとなった(英訳されているのも、第2作、3作のみ)。
出会い系サイトで知り合った男とデートした女性が激しい暴力を受け、瀕死の状態で発見された。事件を担当することになった殺人捜査課の刑事・ルイースは、心を開こうとしない被害者、少ない物証に苦労しながら捜査を進めるが、捜査が進展しないうちに第二の事件が発生してしまう。警察は事態の拡大に苦慮しながら、サイバー空間での捜査と現実社会での捜査を重ね合わせて、地道に犯人を追いつめていく。そして判明した犯人とは・・・。
犯罪捜査だけに限れば、まあありきたりな部分が多く、さほど目新しくもないし、スリルに満ちているわけでもない。しかし、それでも読ませるのは、30代後半、独身(パートナーあり)、刑事としてはタフでクールでカッコいいが、私生活ではさまざまな悩みを抱えているルイースの私生活が丁寧に描かれているからと言える。最近の北欧ミステリー・ブームは目覚ましく、新たなヒーロー、ヒロインが続々と紹介され日本でも人気を呼んでいるが、本作のヒロインもまた人気を呼ぶことだろう。
シリーズ2作目ということで前作のエピソードにちょっと触れられたりしているが、前作を読んでいないと分からないという部分はまったく無いので、ご安心を。

見えない傷痕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ・ブレーデル見えない傷痕 についてのレビュー
No.146: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

死神について、新発見がいろいろ

死神を主人公にした作品6編で構成された連作短編集。それぞれ独立した作品として成立しているが、ある作品の登場人物やエピソードが、あとの作品でストーリーのポイントになっていたりするので、最初から順番に読むことをおススメする。
主人公の死神は、ある人が死を迎えるべきか否かを判断する重要な役割でありながら、たいていの場合は死を迎えるのが「可」と結論付けるし、その判断基準もきわめてあいまいで個人的で、「生と死を分ける」にしては緩いキャラクターといえる。半面、生きることにも死ぬことにも執着しない、ある意味ピュアな性格で、その言動は巧まずして人間社会の矛盾やあいまいさ、いい加減さをあぶりだしてゆく。死神とかかわりを深めるにつれて、判定を下される側の人間の本質がだんだん露わにされ、読者は普遍的な人間性について考えさせられるようになってくる。ミステリーというよりは、明るい人情話と言った方が妥当だろう。
死神は、情報部からのデータを頼りに判断対象に接触する“調査部員”という身分だった! あるいは「ミュージック=音楽」が大好きで、CDショップに入り浸っては試聴機のヘッドホンを装着している、あるいは人間界に来るときには様々な年齢や外見に自由自在に変身できる、あるいは死神が人間に素手で触ると、たちどころに人間は意識を失い、寿命が一年縮まる、などなど。読み進めるほどに死神の謎がどんどん明かされていくのが、なんとも面白かった。
死神の精度 (文春文庫)
伊坂幸太郎死神の精度 についてのレビュー
No.145: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

不眠不休で働くフロスト!

大人気フロスト警部シリーズの最新作は、下手なレビューやおススメ言葉は不要、期待通りの超~面白作だ。
連続少女誘拐事件、娼婦惨殺事件を抱えて大わらわのデントン署に、怪盗枕カバー、コンビニ強盗、虚言癖の老女、さらにはバス1台分の酔っぱらったフーリガンまでが襲い掛かった。フロスト警部を筆頭にデントン署員は獅子奮迅の働きを見せるが、それでも事件未解決率は悪化するばかり・・・。毎度おなじみのメンバーに加えて、新たに登場した“ウェールズの芋にいちゃん”ことモーガン刑事がとんだ新戦力ぶりでフロスト警部の足を引っ張り、捜査現場は大混乱。この窮地を救うのは、果たしてマレット署長の指導力か、それともフロスト警部の「行き当たりばったり作戦」か。
余計なことは何にも言いません、読むべし!

冬のフロスト<上> (創元推理文庫)
R・D・ウィングフィールド冬のフロスト についてのレビュー
No.144: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

さらに深く、重く

スウェーデンの女性弁護士・レベッカシリーズの第2作は、デビュー作を越える傑作だった。
前の事件の悲惨な結末で心身ともに深い傷を負ったレベッカは、体は戻ったものの心は1年半を過ぎても立ち直れず、病気休暇を与えられていた。そんなとき、上司の出張に同行するかたちで、再び故郷・キールナに行くことになった。あの事件の記憶も生々しい祖母の家の近くの村で上司と立ち寄ったパブの雰囲気に引かれたレベッカは、しばらくそこに滞在することに決める。パブを切り盛りする若い二人やお客などと交流する内に、レベッカは心の健康を取り戻せそうな気がしてきた。
ところが、この村では3ヵ月前に女性司祭が殺されて教会のパイプオルガンに吊り下げられるという事件が起きていた。新聞もテレビも見ない生活を送っていたレベッカは事件を知らなかったが、あることから事件の鍵となる証拠を手に入れ、前作で知り合った女性警部に手渡す。そこからレベッカは事件捜査に巻き込まれ、重要な役割を果たすことになる。
事件の背景には、前作同様、キリスト教会が支配する閉鎖的なコミュニティでの軋轢、つまり世界中どこの社会にもある男女差別、女性解放の行動とそれに反対する人々との争いがあった。女性解放活動に熱心な女性司祭は、一部では強く支持されたが、それ以上に反発や憎悪を向けられてもいた。「彼女を殺したいと思っていた人物はいっぱいいる」と語る村人たち。犯人はだれか?、その動機は何なのか?
真相の解明プロセスでは、今回はレベッカより警察が中心になり、通常の警察小説の趣が強くなっているが、本作では人物描写の深さ、重さが一段とレベルアップしている。読んでいる途中、自分が登場人物に同化していることをたびたび発見し驚かされた。犯人および犯行動機に同情するにしろ反発するにしろ、多くの人が深く心を揺さぶられるだろうことは間違いない。オススメです。
赤い夏の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
オーサ・ラーソン赤い夏の日 についてのレビュー
No.143: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

スウェーデンの八つ墓村社会?

スウェーデンで人気が高い女性弁護士レベッカ・シリーズの第一作。北欧の中でもひときわ厳しい自然環境で暮らす北極圏の町と人の閉塞感が良く描かれた、いかにも北欧ミステリーらしい作品だ。
首都ストックホルムで税務弁護士として働いているレベッカのもとに、北極圏にある故郷キールナでの殺人事件のニュースが届く。被害者となった説教師の青年はレベッカの古い知り合いで、死体を発見した被害者の姉でレベッカの親友でもあったサンナが助けを求めて電話してきた。苦い思い出が残る故郷を捨ててきたレベッカは最初は協力を拒否するものの、古いしがらみにとらわれて徐々に事件に巻き込まれ、サンナが犯人として逮捕されたことから弁護人として真相究明に奔走することになる。
事件の背景になるのは、極北の小さな町における教会を中心とした閉鎖社会のドロドロした人間模様。宗教と共に生きる生活の平安と愚かさが、21世紀の今なお根強く支配しているコミュニティーの様相がリアルに描かれている。
犯行の動機や態様、犯人判明のプロセスなど、ちょっと物足りないところもあるが、人物描写、背景描写にすぐれているので非常に面白く読むことができた。またひとつ、今後が楽しみなシリーズと出会えたと言える。

オーロラの向こう側  (ハヤカワ・ミステリ文庫)
オーサ・ラーソンオーロラの向こう側 についてのレビュー
No.142: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

今でも読み応えあり!

トラベルミステリーの古典というか、時刻表トリックの傑作として名高い「点と線」。東京タワーも新幹線も夢のまた夢だった、半世紀以上前に書かれた作品だが、今読み返しても十分に楽しめた。
本作のポイントは、時刻表を使ったアリバイ作りと警察によるアリバイ崩しのプロセスで、鉄道のダイアグラム図上のトリックと、捜査陣の頭上の謎解きのどちらが勝つか? 事件解明のための伏線やヒントも丁寧に書かれていて読者も謎解きに参加できる楽しさがあった。ただ、時刻表トリックに力を入れ過ぎており、犯罪の実行や動機に関する部分はちょっと物足りなさを感じたのも正直なところ。これはおそらく旅行雑誌「旅」での連載であったことが大きな影響を及ぼしたのだろう。
事件の背景が中央官庁と業者の癒着というところが社会派・松本清張らしさで、事件関係者の行動心理の分析の鋭さは、まさに面目躍如と言える。

点と線 (新潮文庫)
松本清張点と線 についてのレビュー
No.141: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

期待通りの面白さ!

オリヴァー&ピア・シリーズの2冊目(本来はシリーズの4作目だが、現在までに翻訳されているのは3作目と4作目のみ)。前作同様に、過去と現在が入り乱れ、登場人物が数多く、ストーリーの流れを把握するまでは読みづらいが、全体像が見えて来てからはどんどん読み進められた。
ドイツの片田舎で、二人の少女(17歳)を殺害したとして服役していた青年が11年の刑期を終えて帰ってきた。本人は冤罪を主張していたが、村人はこぞって彼を犯人だと断定し、彼が帰ってきたことに嫌悪感と反感を隠そうとしない。折も折、閉鎖された空軍基地跡地の燃料貯蔵庫から白骨死体が発見され、11年前の被害者の一人であることが判明する。さらに、出獄した青年が自宅で暴漢に襲われ、別れて暮らしていた彼の母親が歩道橋から突き落とされて大けがを負う事件まで発生した。どちらの事件も犯人は村の住人だと思われたが、村人たちは誰一人、犯人について言及しようとしない・・・。
困難な捜査を進めるオリヴァーとピアを中心とした警察は、運命共同体として縛り付けられている田舎(まるで八つ墓村みたい)にうずくまっている暗黒の歴史に翻弄され、なかなか事件の全容をつかむことができず、新たな少女(高校生)行方不明事件まで発生してしまう。
物語全体の構図は、過去の出来事が現在の悲劇を引き起こすという、よくあるパターンだが、真犯人がなかなか判明せず(怪しい人物は、かなり登場するが)、最後までフーダニット、ワイダニットの緊張感を引っ張っていく。また、シリーズものならではの読みどころ、レギュラー登場人物の人生の変化もいろいろあって、次作への期待も持たせてくれる。
できれば前作「深い疵」から読むことをおススメするが、本作だけでも十分に楽しめることは間違いない。

白雪姫には死んでもらう (創元推理文庫)
No.140:
(6pt)

ミステリーというより人情話

マンハッタンのロウアー・イースト・サイドで拳銃強盗殺人が発生し、犯人は逃走。捜査にあたった市警の刑事は、被害者と一緒にいたバーのマネジャーが犯人ではないかと疑うが、確実だと思っていた目撃者の証言が曖昧なことが分かり、釈放せざるを得なくなる。その後、捜査は一向に進展せず、事件関係者はみんな泥沼に入り込んだような状況になっていく・・・。
本の紹介文を読む限りでは、犯人探しのミステリー、刑事小説かと想像するが、実は犯罪の構図、犯人、動機などは最初から提示されており、犯人捜し、謎解きの作品ではない。警察の捜査を中心に物語が展開されるのでミステリーと呼べないこともないが、事件に関係する人物たちの生き様を描き出した、東野圭吾の刑事・加賀シリーズのような街中人情話と呼ぶ方が正解だと思う。
つまり、読みどころは、現在のロウアー・イースト・サイドとそこに生きる人々(犯人、被害者、刑事、それぞれの家族など)の生活のいきいきとした描写に尽きる。
黄金の街 (上) (講談社文庫)
リチャード・プライス黄金の街 についてのレビュー
No.139:
(7pt)

東直己は短編の名手でもある

かつて「死ねばいなくなる」として刊行された短編集が、文庫化に際して改題されたもの。収録されているのは、「探偵はバーにいる」(1992年)でデビューする前の作品5点と書き下ろしの1点。つまり、本格的な作家として認められる前の作品が中心なのだが、どの作品もきわめて完成度が高いのに驚かされる。さらに、作品のジャンルというか、作品傾向が「ススキノ探偵シリーズ」の軽快なハードボイルドにとどまらず、コミック系、シュール系、SFとか幻想とかに区分されそうなものなどなど、非常に幅広く、しかも読み応え十分なことに舌を巻いた。
ススキノ探偵ファンはもちろんのこと、軽妙な短編集ファンにもオススメしたい。
逢いに来た男 (ハルキ文庫 あ 10-17)
東直己逢いに来た男 についてのレビュー
No.138: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

構成がしっかりした、骨太のミステリー

著者のデイヴィッド・ダフィは、これがデビュー作品だというから驚かされる。MWA最優秀新人賞にノミネートされたというのも納得の、完成度が高い私立探偵小説である。
主人公は、旧ソ連の強制収容所育ち(ソ連では、犯罪者同様の扱いを受ける)でKGBの辣腕エージェントとして活躍しながら、ある事情から退職し、現在はニューヨークで独立した調査員として生計を立てているターボ・ブロスト。彼のもとに、ある銀行の会長から「誘拐された娘を救出してほしい」という依頼が入る。その銀行家のビジネスに好感が持てなかったターボは、依頼を受けるかどうか未定のまま銀行家の家を訪れるのだが、なんとその目前で、銀行家がFBIに逮捕されてしまう。さらに、そこに現れた銀行家の妻は、二十数年前にソビエトで別れたターボの元妻だった。
物語の発端からして驚きの展開だが、誘拐された娘を発見するプロセスでは、ターボの過去と現在を作り上げてきた因縁ある組織と人々が続々と登場し、単なる誘拐事件では終わらない、ソ連とロシアの歴史に根差した陰謀劇が繰り広げられることになる。
本作品の優れている点は、過去の因縁に基づく陰謀と復讐の話にとどまることなく、現在のアメリカ社会をむしばみつつあるロシア・マフィアの問題も取り込み、きわめて現代的な物語に仕上がっているところだろう。
とは言いながら、作品の基本テイストはハードボイルドの王道そのものであり、社会派ミステリーファンからPIものファンまで、幅広いジャンルの人々に受け入れられることだろう。すでに、同シリーズの第2作が発表されているというが、今度はどういう展開で驚かせてくれるのか、期待が高まるばかりである。
KGBから来た男 (ハヤカワ文庫 NV タ 6-1)
デイヴィッド・ダフィKGBから来た男 についてのレビュー
No.137: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

映画通なら楽しめるのか?

大評判を呼び、なんと日本で映画化されるという快挙?をなしとげた「二流小説家」のデイヴィッド・ゴードンの「渾身の第二作!」と表4の作品紹介に書かれているので、読まない訳にはいかないでしょう。
で、読んだ感想はというと「???」。これ、果たしてミステリーなのか? 訳者あとがきには「ミステリ・ファンのみならず、多くの映画通や本の虫にも楽しんでいただけるのでは〜」と書かれているが、映画通でも本の虫でもない、自称ミステリ・ファンの私にはほとんど楽しめなかった。
全体を通して、独白が多く、しかも改行や改段が極端に少ない文体で、とにかく長過ぎる。途中から読むのが苦痛になってきて、意地で読み通したというのが正直なところ。
よほどの映画通、本の虫でなければオススメできない。
ミステリガール (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
デイヴィッド・ゴードンミステリガール についてのレビュー
No.136: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

過去に、誠実に向き合う勇気

ベルリンで、67歳のイタリア人労働者コリーニが著名なドイツ人老実業家を射殺する。現場から逃げようとしなかった犯人は逮捕されたが、動機についてはまったく語ろうとしない。
弁護士資格を取得してから4ヵ月の新米弁護士ライネンは、回ってきた国選弁護人の仕事を引き受けることにする。ところが、犯人は弁護士にも心を開かず、さらに被害者が、今は亡き親友の祖父で、昔、自分も可愛がってもらった人物であることが判明し、ライネンは弁護人を辞任しようとする。しかし、被害者側に雇われたベテランの辣腕弁護士に弁護士としての在り方を説かれ、辞意を撤回し、全力で弁護活動にあたり、事件の背景に隠されていた苦い真実を発見する。
さらに、犯罪の実相に正義の裁きを下そうとしたとき、ある法律が大きな壁となって立ちはだかってくる。法と正義は矛盾するものなのか? 正義が法に阻まれるとき、人は何をなすべきなのか? すべての関係者に難題が突きつけられた・・・。
ナチスドイツ時代の戦争犯罪と、それを償うための戦後の取り組み。それはドイツ国民に課せられた歴史的課題であり、今なおドイツ社会に大きな影を落としている。しかし、本作品でも分かるように、ドイツは市民も社会も国家も真剣に過去に向き合い、たとえ痛みを伴っても真摯に解決策を追求し、いまだに問題に取り組んでいる。そうした態度こそが、周辺諸国からの“新しいドイツ”への信頼の回復につながっていると言えるだろう。ひるがえって、現在の日本の状況を見るとき、その落差の大きさに愕然とし、果たしてこのままで良いのだろうかと考えさせられる。
そうした社会的な側面は置くとしても、法廷ミステリーとして非常に面白く、多くの人にオススメしたい。

コリーニ事件 (創元推理文庫)
No.135: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

過去からの警鐘が響く

デンマークの人気警察小説シリーズの第4作は、良質なエンターテイメントであると同時に、社会派の作品としても高く評価できる傑作だ。
物語の発端は、23年前のエスコート・サービス経営の女性の失踪事件。未解決事件の再捜査が専門の特捜部Qが調査を始めると、同時期に5人もの行方不明者が出ていることが判明し、カール・マーク警部補を始めとするQのメンバーは本格的な捜査を開始する。すると、デンマークの歴史の恥部ともいうべき事態が明らかになり、しかもその驚くべき犯罪は現代の社会にも影響を及ぼそうとしていた・・・。
物語の最初から犯人と犯罪の概要は明らかにされており、また犯罪の背景となる社会病理についても読者に提示されている。従って、犯人探しは本作の主題ではなく、犯行に至るまでの犯人の人生、それを左右してきた社会悪の追求が主題となっている。
1920年代から欧州を中心に台頭してきた「優性思想」に基づく人権侵害。その行き着く先がナチス・ドイツだったわけだが、同様の気運は欧米諸国にも広がっており、デンマークでも1923年から1961年まで「女子収容所」が存在し、倫理に反した女性、知的障害がある女性に対し、監禁や望まない不妊手術が行われていた。その史実に衝撃を受けた作者は、こうした社会病理が過去のものではなく、現代のデンマーク社会にも大きな影響を及ぼしていることを鋭く指摘し、大きな警鐘を鳴らしている。
人種差別を筆頭に、あらゆる社会的弱者への差別、「生きるに値する者と値しない者」の選別、人権の軽視などは、デンマークだけの問題ではない。現在の自民党の主流派、維新の会などにも同じ思想が隠されており、日本の社会にとっても真剣に対応しなければならない問題である。
特捜部Q―カルテ番号64―(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.134: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

着眼点がユニーク

お馴染の道警シリーズの第6弾。今回は、警察内部の腐敗を追求するのではなく、人質事件を通して、官僚機構と政治家の腐敗を描いている。
えん罪で4年間の服役をしいられて出所した中島が、逮捕当時の県警本部長(現在は、警察庁の刑事局長)の妻、娘、娘婿、孫を監禁し、刑事局長に「人間として謝ってもらいたい」と要求する。中島の仲間として、支援者を自称する刑務所仲間が加わっていた。現場は札幌郊外のワインバーで、そこにたまたまシリーズの登場人物、小島百合巡査部長が居合わせたことから、おなじみのメンバーが事件解決に奮闘する・・・。
一方、北海道を地盤にする国会議員の下に脅迫状が届き、絶対に表に出せない金の所在を指摘し、三億円を払うように要求された。単なるいたずらとして片付けようとした議員、秘書たちだったが、いたずらとは言えない事実が判明し、追い込まれて行く。
監禁事件の膠着状態が続く内に、関係なく見えた二つの事件がつながり、事件の構図が逆転し始めて行く。
これまでの道警シリーズに比べると、ストーリーがやや緊迫感に欠けるし、組織対正義派のぴりぴりしたエピソードが無くて、ちょっと物足りない感じは残るが、物語の構図のユニークさで十分に楽しむことが出来た。
人質
佐々木譲人質 についてのレビュー