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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1393

全1393件 1081~1100 55/70ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.313:
(7pt)

じわじわと来る面白さ(非ミステリー)

これまで名前も聞いたことが無い作家だし、ネットでの評判もあまりないのでどうかと思っていたのだが、読み進める内にじわじわと面白くなってきた。
イギリスの田舎町で起きた複数の同時爆発事故により、65人が死亡、多数の負傷者が出た。そのとき、事故に巻き込まれた人々は何をしていたのだろうか? 
事故発生の1分前から1秒刻みのカウントダウンで、犠牲者一人一人が持っていたドラマを濃密に描写して行く手法が極めてユニークかつ効果的。ミステリーではないものの、エンターテイメントとして良く出来ており、多くの人にオススメしたい。
最後の1分
エレナー・アップデール最後の1分 についてのレビュー
No.312:
(7pt)

M.I.クラスのド派手アクション

ハリウッドで映画化すれば絶対受けそうな、ド派手なアクションのエンタメ作品。物語の始まりから終わりまでが24時間ほどに凝縮されており、息つく暇も無いほどのスピード感が味わえる。
ニューヨーク市の地方検事ジャックがある朝、目覚めると、胸には銃創を乱暴に縫った痕があり、左腕には見たことも無い文字らしき刺青があるのを発見する。何も思い出すことが出来ず戸惑うジャックだが、さらに朝刊に自分と愛する妻が昨夜、事故で死亡したという記事を見つけて驚愕する。自分は生きているのに、どういうことだろう? やがておぼろげながらよみがえってきた記憶を辿ってみると・・・。
失われた記憶を再生しながら、行方が分からなくなった妻を捜してニューヨークを走り回るジャックのノンストップアクションが面白い。非情に徹した凄腕の悪役、自分の身を投げうって助けてくれる相棒、敵にも味方にも見える上司や権力者などなど、脇役も充実していて全く飽きさせない。事件の背景や真相がどうのこうのより、奇想天外でスピーディーなアクションの連続にハラハラしているうちにクライマックスを迎えて、「あー、面白かった」とページを閉じるのが正しい楽しみ方だろう。
夜明け前の死 (新潮文庫)
リチャード・ドイッチ夜明け前の死 についてのレビュー
No.311: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

もし事情が違っていたら

ドイツでは知らない者はいないという超人気作家の長編ミステリー。日本では5年ぶり、2作目の紹介である。
イギリス・ヨークシャーの寒村に建つ広大な屋敷では、休暇のたびに、夫同士が同級生という三組のドイツ人家族が一緒に過ごしていた。三人の夫を中心に信頼と友情に結ばれている九人のグループだったが、ある日、三人の大人と二人の子供が惨殺されるという悲劇に見舞われた。グループの残された四人は全員、アリバイが無かった。また、突然現れて、この屋敷の相続権を主張してきたみすぼらしい男の姿が、屋敷の周囲でたびたび目撃されていた。犯人はだれか、その動機は何なのか?
三組の家族はそれぞれ家族内の問題を抱えており、さらにグループ内の人間関係に隠されていた古くて陰鬱な問題が影を落としていた。また、屋敷の相続権を主張する男は恋人との間でトラブルが頻発していた。作者は、このいわば四組の人間関係ドラマを丁寧に、濃密に描き出し、人間心理の複雑さと不可解さ、強さと脆さを読者に突きつけてくる。謎解きの部分はさほど卓越したものではないが、人間ドラマの面白さは圧巻。「ドイツミステリの女王」の呼称はダテではない。
非アクション系ミステリーや心理ドラマの愛好者には、絶対のオススメだ。
沈黙の果て〈上〉 (創元推理文庫)
シャルロッテ・リンク沈黙の果て についてのレビュー
No.310: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

シリーズ物を途中から読むのはつらい

ノルウェーでは大人気の女性作家アンネ・ホルトの代表作「ハンネ・ヴィルヘルムセン」シリーズの第7作。「何で、7作目から?」と思ったら、これまで90年代後半に1〜3作が翻訳・出版されており(残念ながら未読)、今回、15年ぶりに邦訳されたとのこと。つまり、シリーズ物でありながら、最初の作品紹介からはかなりの時間が経過し、しかも4〜6作目は翻訳されていないのだ。このあたりの事情もあって、登場人物のキャラクターに入り込むことが出来ず、どうにも中途半端な読後感だった。
クリスマスを控えたオスロの高級住宅街で資産家の夫婦とその長男、出版コンサルタントの4人が射殺された。資産家の一家には財産分与を巡る諍いがあり、家族間のもめ事ではないかという捜査方針で捜査が進められた。しかし、出版コンサルタントの存在が気にかかるハンネは全く違う方向から事件を解明しようとし、他の捜査陣とぶつかることになる・・・。
ストーリーは殺人事件捜査を中心に展開されるのだが、物語の重点の半分はハンネの生き方に置かれており、これまでのバックグラウンドが分かっていないので、面白さが半減してしまった印象だったのが残念。これから読まれる方には、ぜひ1〜3作を読んでおくことをオススメする。
凍える街 (創元推理文庫)
アンネ・ホルト凍える街 についてのレビュー
No.309: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

予想を裏切る(笑)面白さ!

ディック・フランシスの晩年、最後の4作を共著者として支えた次男のフェリックス・フランシスが、単独長作としてスタートさせた「新・競馬シリーズ」の第一作である。大昔、ファンを興奮させたディックの衣鉢を継いだというか、出藍の誉れというか、想定以上の面白さの競馬ミステリーだ。
将来を嘱望された若手だったのに落馬事故で騎手を断念し、今はファイナンシャル・アドバイザーとして活躍する主人公・フォクストンが同僚のハーブと競馬場にいたとき、すぐ横にいたハーブが射殺された。なぜかハーブの遺言執行人に指名されていたフォクストンはハーブの遺産を整理しようとして、多数のクレジットカードを発見する。さらに、何者かに脅迫されていたことをうかがわせる紙片も見つかった。フォクストンは、ハーブ殺害の謎を解くために警察には頼らず、独自の調査を始めることになる。同じころ、フォクストンの顧客のひとりである騎手のサールが急に投資金の回収を迫ってくる。さらに、事務所の重要な顧客であるロバーツ大佐が自分の巨額投資に疑問を抱き、フォクストンに極秘調査を依頼してきた。次次に登場する謎を追い掛けるフォクストンは、ついには命まで狙われる事態になる・・・。
警察からは事件への関与を疑われ、さらには同棲する恋人との関係にも疑念を抱くようになったフォクストンが、それでも冷静沈着に絡み合った謎を解いていくさまは、まさにブリティッシュ・ハードボイルドの王道で、黄金期の競馬シリーズを彷彿とさせる。ディック・フランシスファンにはもちろん、クールなミステリーを読みたいと思っている人にもオススメだ。
強襲 (新・競馬シリーズ)
フェリックス・フランシス強襲 についてのレビュー
No.308: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

評価が二分されるのも納得

今や日本でも人気作家となったシーラッハの「コリーニ事件」に続く長編第二作。2013年に発表されたとき、ドイツでは評価が二分されたという。
没落した名家の御曹司ゼバスティアンは写真芸術家として成功し、活躍していたが、若い女性を誘拐したとして逮捕され、起訴された。弁護を頼まれた辣腕弁護士ビーグラーは、ゼバスティアンの自供は取調官の脅迫によるものだとして自供の有効性を争うことにした。果たして、ゼバスティアンは有罪か、無罪か。
ゼバスティアンの複雑な生い立ち、不可解な犯行の様態に、冷静沈着な弁護士ビーグラーも苦心惨憺。それでも、じわじわと事件の真相に迫り、最後は無罪を勝ち取るのだが、最後の最後までゼバスティアンの動機には不明な部分が残されていた。
ミステリーとしては致命的な欠陥があると感じるのだが、「真実とは何か」を問う物語としては非常に味わい深く面白かった。確かに、評価が難しい作品である。
禁忌
No.307: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ミステリーより心理劇として

スウェーデンの人気ミステリー作家アンナ・ヤンソンの本邦初登場作。スウェーデンでは現在15作目まで刊行されているという「マリア・ヴェーン」シリーズの第8作目で、このシリーズは新作が必ずベストセラーになり、何本ものテレビドラマが制作されているというが、なるほどと思わせる作品である。
人気観光地であるゴッドランド島の海辺の街で三家族が集まったホームパーティーの夜、集まったうちのひとりで9歳になる少年アンドレアスが行方不明になった。家族はもちろん、警察も必死で行方を探すのだが、少年の足跡はどこにも残っていなかった。夏の間だけゴッドランド島警察で臨時勤務していたマリアは、離婚して離れて暮らしている自分の息子と同年代のアンドレアスが二重写しになり、心を痛めていた。
事件の背景には三家族、それぞれが抱える複雑な家族関係があり、誰もがアンドレアスの身を案じながらも正直な告白をためらったため、捜索は難航し、ストーリーも二転三転し、犯人と目される人物も二転三転する。このよじれ具合が一番の読みどころで、犯行の動機や様態が判明するまでのプロセスは、どちらかといえば付け足しのような印象を受けた。
とはいえ、スウェーデンでの人気が納得できる傑作ミステリーであることは間違いない。
消えた少年 (創元推理文庫)
アンナ・ヤンソン消えた少年 についてのレビュー
No.306: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

こんな面白い作品が残されていた!

1975年、ジェームズ・M・ケインが亡くなる2年前、83歳のときに書いたもので、完成作ではなく草稿として残されていたものを、ケインを敬愛する編集者が丁寧な編集作業の末に2012年に発表した、ケインの遺作である。
21歳になったばかりで未亡人のなったジョーンは一人息子のタッドを養うために、セクシーな衣装でチップを稼ぐカクテルバーに勤めることになる。そこで彼女は、富豪の老人ホワイト三世に見初められ金銭的な援助を受け、最後には結婚することになる。また一方、若くてハンサムだが貧しい青年トムに出会い、心を引かれる。母として息子の生活を第一に考えるジョーンだったが、トムへの思いを断ち切ることが出来なかった。
DVでジョーンを苦しめていた最初の夫は、泥酔して夫婦喧嘩の末に車で自損事故を起こして死亡したのだが、警察はジョーンの事件への関与を疑っていた。さらに、狭心症の持病を持っていたホワイト三世が自宅で死亡したことも、ジョーンの犯行ではないかと捜査をはじめた。そして最後にトムが殺害されているのが発見されたことで、ついにジョーンは逮捕されてしまう。果たして、ジョーンは冷静な顔で殺人を繰り返す希代の悪女なのか?
物語は最初から最後まで、ジョーンの独白で貫かれている。このため、読者は真相に手が届きそうで届かない焦燥感にかられてページを捲る手を止められなくなる。さらに、「ジョーンは正直に語っているのか? 正直に語ったとしても、すべてを語っているのか?」という疑問が最後までサスペンスを高めてくれる。
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」に勝るとも劣らない、文句なしの傑作ミステリーである。
カクテル・ウェイトレス (新潮文庫)
No.305: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ファンタジーとして(非ミステリー)

はやらない雑貨店の老主人が始めた人生相談が、タイムスリップして、多くの人の人生を彩って行くというファンタジー小説。物語としては、それなりの面白さがあるが、ミステリーファン的には期待外れだった。
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)
東野圭吾ナミヤ雑貨店の奇蹟 についてのレビュー
No.304:
(6pt)

良くも悪くもマーロウの世界

「フィリップ・マーロウ」シリーズの第5作「かわいい女」の村上春樹氏による改題・新訳版。1949年の作品だが、村上氏の新訳により、さほど古臭い感じはしなかった。しかし本筋のストーリの展開がイマイチで、あまりすんなりと読み進めなかった。
カンザス州の田舎町から出てきた堅物の田舎娘に「ロサンゼルスで行方不明になった兄を探して欲しい」と依頼されたマーロウは、娘の態度への好奇心からわずか20ドルの報酬で引き受けた。ところが、調査に乗り出したとたん、行く先々でアイスピックを使った連続殺人事件に巻き込まれることになる。誰が、何のために殺害しているのか、行方不明の兄はどう関係しているのか? LAの貧しい裏通りと華やかなハリウッドを舞台に、映画界とギャングの欲望がぶつかり合い、醜い裏切りのドラマが繰り広げられて行く。
古典的ハードボイルドの王道・マーロウのシニカルで洒落たセリフは健在だが、肝心のストーリー展開が複雑かつ切れがなく、犯人探しに重点を置いて読むと物足りなく感じられる。
登場人物のキャラクターやセリフ、エピソードの細部など、いつもの「マーロウの世界」を楽しみたい読者にはオススメだ。
リトル・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.303: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

人を信じることの難しさ

吉田修一の最新作。単なる犯罪小説を超えた、読み応えのある人間ドラマである。
八王子郊外の新興住宅地で夫婦が惨殺された事件から一年、犯人は特定されていたが未だ所在不明のため、捜査本部は未解決事件を特集するテレビ番組に情報を提供して写真を公開し、集まった情報を一つ一つ潰すという地道な捜査に取り組んでいた、というのが、ストーリーの本筋。それに絡めて展開されるのが、外房の港町で暮らす父と発達障害の娘の親子、東京で自由を謳歌しているゲイのエリートサラリーマン、母親と二人で福岡から夜逃げして沖縄の離島に流れ着いた女子高校生、という三組の人間が出会う愛情と信頼を巡る三つのドラマである。
三組それぞれに前歴不詳の男が出現し、三組それぞれが「逃亡中の男ではないか?」という疑惑を持ちながら、それを否定したい気持ちも強く、苦悩する。また、捜査本部の刑事も、付き合っている女性の過去が分からないことに悩んでいた。
家族であれ、恋人であれ、ほんの小さな疑惑が生まれたとき、人を信じきることは極めて難しくなる。それでも、人は人を信じなくては生きていけない。「悪人」が気に入った人には絶対オススメだ。
怒り(上) (中公文庫)
吉田修一怒り についてのレビュー
No.302:
(7pt)

90年代ストリート・キッズのホラ話(非ミステリー)

石田衣良の代表作である「IWPG」シリーズの第一作品集。1997年に発表された、石田衣良のデビュー作でもある「池袋ウエストゲートパーク」を始めとする4本の連作短編を収録している。
高校を卒業して一年ほどの地元の青年・真島誠が、池袋の街を根城にするストリート・キッズたちの「平和と安全」のために様々な問題を解決して行く、ある種のハードボイルド小説なのだが、相当に荒唐無稽なところがあり、正統派のハードボイルドとして読むと不満が残るだろう。ミステリーやハードボイルドではなく、90年代後半の池袋のストリートを生き生きと描いたギャングコミックとして読めば、ストーリーもエピソードも、登場人物のキャラクターも切れ味が良く、非常に面白い。
池袋ウエストゲートパーク (文春文庫)
石田衣良池袋ウエストゲートパーク についてのレビュー
No.301: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

サラリーマン漫画好きの方に

かつてのサラリーマン向けの漫画週刊誌に連載されていそうな金融経済ミステリー。投資ファンドによる企業買収の苛烈さや日本の企業の宿痾などを描いたストーリーの本筋はリアリティもあって読み応え十分だが、主人公が漫画みたいに格好良すぎるのが欠点。また、主人公を巡る女性のキャラクター設定が類型的過ぎるのも、やや興を削ぐようで残念。
ハゲタカ2(上) (講談社文庫)
真山仁バイアウト ハゲタカ2 についてのレビュー
No.300:
(7pt)

銀行員にはなりたくないな〜(笑)

2004年に発表された、池井戸潤の比較的初期の作品。お得意の銀行業界を舞台にした社会派ミステリー小説である。
「負け組」といわれる都市銀行の副支店長・蓮沼は、担当する中小企業の苦境を理解し、サポートしようとするが、不良債権処理を一方的に押し付けてくる銀行本部や支店長との板挟みで、毎日が綱渡りの苦しい日々を送っていた。一方、頭取時代にバブル時の放漫経営で「負け組」となる原因を作った現会長・久遠は、何の責任も取らず、下には「信賞必罰」を押し付けて平然としていた。蓮沼の部下で問題社員だった男がリストラされ、銀行への報復として久遠に罠を仕掛けようとしているのを察知した蓮沼だったが、その罠を調査して行くうちに、久遠には巨額の裏金疑惑があることに気がついた。折から、蓮沼は銀行内部の陰湿な体質によって、取引先倒産の詰め腹をきらされそうになり、ついに堪忍袋を緒を切ることになる。
いわゆる金融犯罪をテーマにしているのではなく、巨大システムが庶民を圧迫していることの犯罪性をテーマとした社会派ミステリーである。日本型金融システムの崩壊が招いた悲劇をリアルに描いて読ませるとともに、日本の中間管理職の生きづらさと、それでも立ち上がる者へのエールが多くの読者の共感を呼ぶだろう。
最終退行 (小学館文庫)
池井戸潤最終退行 についてのレビュー
No.299: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

マスカレード・ホテルの前日譚だけど

ヒット作「マスカレード・ホテル」の第二弾ではあるが、物語のその後ではなく、タイトルが連想させる通り、主人公二人の過去を描いた短編集である。ホテルウーマン・山岸を主人公にした2作品、刑事・新田を主人公にした2作品で構成され、それぞれの新人時代の活躍が中心で、ここでは山岸と新田が直接出会うことはなく、あくまでも「マスカレード・ホテル」へのプロローグという位置づけだ。4作品とも軽く読めて、格別の技巧や熱意は感じられないが、東野圭吾ファンなら安心できるレベルの仕上がりとは言える。
普通、シリーズ物は時系列に従って読む方が違和感が無く、理解が深まって楽しめるのだが、本作は時系列を逆転して、言わばシリーズファンへのサービスとして、主人公たちの前日譚が書かれているので、どちらから読み始めても変わりはないと思う。
マスカレード・イブ (集英社文庫)
東野圭吾マスカレード・イブ についてのレビュー
No.298: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

バブルの本質を喝破した作品

1993年の山本周五郎賞を受賞した作品。時代状況や作中に登場する道具立てなどに古めかしさを感じるのは仕方ないが、カード社会の問題点を鋭く指摘したテーマが今なおずっしりと重い現実感を持って読めるところがすばらしい。
怪我とリハビリのために休職中の刑事・本間は、遠縁の男から「突然姿を消した婚約者を探して欲しい」と頼まれた。ごく普通のOLだったはずの彼女は、自らの痕跡を徹底的に消して失踪していた。なぜ、そこまでして姿を隠さなければいけないのか? 調査を進めるうちに明らかになったのは、庶民のカード破産の凄惨な実情だった。
本筋である人探しはスリリングだし、カード社会の問題点をえぐり出した事件の背景もリアリティにあふれていて非常に読み応えがある。
さらに、佐高信氏の「解説」にもあるように、人情の機微に分け入って行く描写もすばらしく、「面白いミステリーを読んだ」という以上の満足感を与えてくれる。多くの人にオススメしたい。
火車 (新潮文庫)
宮部みゆき火車 についてのレビュー
No.297:
(7pt)

誰もが身につまされるのではないか?

表4の紹介文に「終末期医療の現状と問題点を鮮やかに描くミステリー」とある通り、痴呆老人の治療と安楽死をテーマにした作品。読む人それぞれの立場に応じて様々な問題を突きつけられるであろう作品だ。
ミステリーとしては、痴呆病棟に勤務する若い看護師が患者の死因に疑問を持ち、治療以外の目的の医療が行われているのではないかと推理するというストーリーで、さほどの衝撃は無い。むしろ、老人たちが入院に至るまでの本人と家族の人生模様が語られる前半、新人看護師の目を通して痴呆老人看護の実態を生々しく描いた中・後半部分が、ノンフィクション・ルポルタージュ並みの迫力を持っていて読ませる。
ミステリーファンにというより、介護や高齢化社会に興味を持つ人にオススメ。
安楽病棟 (新潮文庫)
帚木蓬生安楽病棟 についてのレビュー
No.296: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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事実も小説も「奇なり」

現実に起きた事件を予告した小説として有名になった作品。「後妻業」という言葉も、ここからポピュラーになったのではないか。もちろん純然たるフィクションであり、実在する事件とは全く関係ないのだが、実際に類似した事件が起こっているため、「事実は小説より奇なり」というより「事実も小説も奇なり」という感想を持たざるを得なかった
連れ合いを亡くした孤独な老人をたぶらかして財産を奪う女が主人公かと思っていると、実は結婚相談所の所長が黒幕として絡んでいるため、仕掛けも犯様も徹底的に悪質で、物語の前半は「悪の力」で読者をぐいぐい引き込んで行く。死亡した老人の遺族側が反撃に出る後半は、法律論と私立探偵による調査で犯罪者を追い詰めて行くスリリングな展開でサスペンスを盛り上げて行く。
結末のほろ苦さも秀逸で、犯罪小説好きには絶対のオススメだ。
後妻業 (文春文庫)
黒川博行後妻業 についてのレビュー
No.295: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

弱小サラリーマン応援小説

気弱なサラリーマンが主人公の勧善懲悪小説。犯人探しのミステリー要素もしっかり書き込まれていて、読み応えがある。
銀行から融資先へ総務部長として出向中の倉田は真面目だけが取り柄という中年サラリーマンだが、ある日、電車に割り込もうとした男に注意したことからトラブルに巻き込まれることになる。逆恨みからストーカー行為を繰り返す男に様々な嫌がらせを受けた倉田一家は、家族で協力して犯人探しを始めた。その頃、出向先では、実力者の営業部長による不正疑惑が持ち上がり、総務部長としての責任を果たすべく奮闘するのだが、社長の非協力もあって倉田は窮地に陥ることになった。地位も権力も度胸も無い中年サラリーマンが二つの難題を同時に解決することができるのか? 池井戸潤は、信頼できる家族や部下を応援団に付けることによって、弱者の反撃物語を完成させた。
経理を中心とするビジネス上のサスペンスだけではなく、家族の平穏を守るために名無しの犯人の悪意と戦う社会的サスペンスも加わって、ミステリーファンにもオススメの作品である。
ようこそ、わが家へ (小学館文庫)
池井戸潤ようこそ、わが家へ についてのレビュー
No.294:
(7pt)

現代人の肥大した自意識を嗤う(非ミステリー)

高村薫が初めて挑戦した社会風刺小説。当サイトにはなじまない作品なのでオススメ投票はしないが、傑作であることは間違いない。
儲け話に敏感でヒマを持て余している過疎の村の四人の年寄りが、村人や都会からの客や、はたまた山に住む動物たち、畑のキャベツやケール、さらには閻魔大王までを巻き込んで引き起こす大騒動は、高村薫ならではの毒を含んだ批評眼にさらされ、現代人の肥大化した自意識をあらわにする。
高村薫には、昔のような緊迫感に満ちたサスペンスを書いてもらいたいのだが、これはこれで面白かった。
四人組がいた。
高村薫四人組がいた。 についてのレビュー