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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1393

全1393件 1001~1020 51/70ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.393:
(8pt)

シリーズ物の醍醐味、脂がのって来た!

大阪一の極道と弱気な(実はけっこうしぶとい)コンサルタントの疫病神シリーズの第4弾。ストーリーもキャラクターも脂が乗り切ったようで、500ページを一気読みの面白さである。
今回、桑原が金のにおいを嗅ぎ付けたのは、巨大宗教の内紛に起因する絵巻物の争奪戦。宗教内部の権力争いが引き起こした宝物と大金のやり取りに、強引に首を突っ込んだ桑原と、桑原に引きずり込まれた二宮が東京のヤクザを相手に大活躍を見せる。知恵と度胸の突っ張り合いで、最後に勝利するのは誰か?
いつもの二人に加えて、今回は若頭の島田がさすがの貫禄を示すのだが、その「若いものは意地を通して弾けるが、幹部はいつでも金勘定で駆け引きする」という考え方が、現代ヤクザの本質を表しているようで、本シリーズの通奏低音にもなっている。
本作では、二宮に淡い恋の予感が・・・と思わせながら、最後はいつも通りの「浪速の寅さん」というオチもお約束で楽しめる。
主役の二人の関係の面白みを堪能するために、ぜひ第一作から読むことをオススメする。
螻蛄
黒川博行螻蛄 についてのレビュー
No.392: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

三割打者の安定感

3本の短編と1本の中編を収めた、ガリレオ・シリーズの8作目。期待通りに安心して楽しめる作品ぞろいである。
人気のシリーズも8冊目となると、以前、どこかで読んだことがあるような話も出てくるのだが、それぞれに新しい魅力が加えられていて飽きさせない。
例えば、旅行中などに乗り物内で読むには最適な一冊として、どなたにもオススメできる。
禁断の魔術 (文春文庫)
東野圭吾禁断の魔術 についてのレビュー
No.391:
(9pt)

文句無しのオススメ❗️

「その女 アレックス」が大ブレークしたおかげで文庫で再刊された、ルメートルの傑作ミステリー。シリーズ外作品なので、他の作品を読んでいなくても何の不都合も無く楽しめる。
ベビーシッターとして働いていた家の子供を殺し、逃亡中に身分を詐称するために同年代の女性を殺害した連続殺人犯として追われるソフィー。一年前の彼女は、エリートサラリーマンの夫と暮らし、自らもオークション会社の広報部に勤める聡明で幸福な女性と見られていた。それが、なぜ、いつから逃亡者にまで転落してしまったのか?
これから先は、絶対に話してはいけない。とにかく、意表をつく構成と展開でたっぷりと楽しませてくれる超一級のサイコミステリーであることは間違いない。遊園地の絶叫マシーンに例えると、ジェフィリー・ディーヴァーがジェットコースターなら、本作はフリーフォールと言うべきか。道路の角を曲がったとたんに道が消えて垂直に落下するようなスリルとサスペンスが味わえる。
文句無しのオススメだ。
死のドレスを花婿に (文春文庫)
No.390:
(8pt)

イギリス秘密情報部の恐さ

英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズの新展開三部作「フック、ライン、シンカー」の第二作である。
自らが所属するイギリス秘密情報局に追われる身となり、幼なじみのベルナーを頼ってベルリンに潜伏していたサムソンだったが、ロンドンに呼び戻され、新たな任務を命じられる。作戦の詳細を知らされないままドイツ、オーストリアに赴くと、なんとそこでは、サムソンとイギリスを裏切った元妻のフィオーナが待っていた。果たして、フィオーナは何を考えているのか? フィオーナは実は東に潜伏するスパイなのか?
シリーズの全体を左右する、大きな転回点となるストーリーにあぜんとさせられる。もちろん、レン・デイトン作品なので派手なドンパチは無いが、秘密情報部という組織の恐さ、特にイギリスの同組織の冷淡非情さにぞくぞくさせられる、スリルとサスペンスに満ちた作品。本格スパイ小説ファンにはオススメだ。
スパイ・ライン (光文社文庫)
レン・デイトンスパイ・ライン についてのレビュー
No.389:
(7pt)

ミステリーというより、逆・成長小説?

20年前、家族に何も告げないまま学生時代を過ごした街に行き、泥酔して運河に落ちて死んでしまった父親の謎を解くため、成長した息子は、その街を訪れる。息子が大人として生きて行くためには「自分たち家族は、父に捨てられたのか?」、「父には、家族には言えないどんな深い秘密があったのか?」という疑問を解き、心の決着をつけることが必要だったのだ。
死亡時の父の足跡をたどり、大学時代の資料に当たり、さらに学生時代の知人を訪ねていくうちに、息子は40年前にさかのぼる「ある事件」の闇を暴くことになった。
物語の主眼は、捜査のプロセスの描写や事件の真相を暴いていくことより、父親の心の闇に分け入っていくことの方に置かれている。従って、これまでの佐々木譲作品のミステリー、サスペンスを期待していると、やや期待外れだろう。
父親の青年時代の苦悩を知り、ようやく父親が理解できるようになるという展開は、少年が大人になる過程を描く成長小説とは逆のパターンの成長小説とでも言うべきか。
砂の街路図 (小学館文庫)
佐々木譲砂の街路図 についてのレビュー
No.388:
(7pt)

とても上手なファンタジーミステリーだけど

「英雄の書」の世界を受け継ぎ、2015年に発行されたファンタジー色が強いミステリーである。
サイバーパトロールのアルバイトをしている大学生・孝太郎は世間を騒がせている連続殺人事件の調査に巻き込まれ、引退した刑事・都築と一緒に素人探偵として犯人を捜し始めることになる。さらに、近所の女子中学生・美香を巡るネットいじめの解決にも力を貸すことになる。
物語は、連続殺人事件とネットいじめの2つのストーリーを中心に展開され、そのどちらもミステリーとして及第点なのだが、いかんせん、孝太郎が妖怪から授けられた「言葉を読む超能力」で謎を解いて行くというところで、ミステリーファンとしては「う〜ん、残念」となってしまう。
ファンタジー小説好きの方にはオススメだが、ミステリー好きとしては「ミステリーに徹していてくれれば・・・」と思わざるを得ない。
悲嘆の門(上)
宮部みゆき悲嘆の門 についてのレビュー
No.387:
(7pt)

冷戦終結後のスパイ小説の模索

1988年に発表された、英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズのひとつ。先行した「ベルリン・ゲーム」、「メキシコ・セット」、「ロンドン・マッチ」の三部作に続く「フック、ライン、シンカー」の新展開三部作の第一作である。
基本的には前三部作を踏襲し、妻・フィオーナの裏切り、亡命後のサムソンのやりづらさをベースに、イギリス秘密情報局の陰湿なパワーポリティクスを描いている。
ただ、現実の時代に合わせて話が進行していたシリーズだけに、「ペレストロイカ」、「ベルリンの壁崩壊」などの冷戦構造の終わりという影響を受けてストーリーがどう変化して行くのか。「スパイ小説の危機」ともいわれる時代の新しいスパイ小説のモデルとなり得るのか。そうした視点から三部作全体を注目してみたい。
スパイ・フック (光文社文庫)
レン・デイトンスパイ・フック についてのレビュー
No.386:
(7pt)

詐欺師とチンピラの突っ張り合い

オレオレ詐欺に題材をとり、出てくるのは犯罪者とチンピラと警察ばかりという、黒川博行ワールド全開のノワールエンターテイメントである。
オレオレ詐欺の名簿屋・高城に使い走り兼受け子の手配師として顎で使われていた橋岡は、チンピラの矢代に誘われて賭場に参加し、二人でヤクザに借金をするハメに落ち入った。返済のための借金を高城に申し込んだ二人だったが、話がこじれたことから高城を殺害し、少しの現金と億単位の預金通帳や証券会社の通帳を奪った。しかし、銀行や証券会社のセキュリティの壁に阻まれて簡単には現金を手に入れることができず、また、高城の不在を不審に思ったヤクザからの追求に四苦八苦することになる。
一方、大阪府警特殊詐欺班の刑事たちはふとしたことから橋岡と高城に目を付け、高城のグループを一網打尽にするべくじりじりと捜査網に追い込み始めていた。警察と詐欺師の根比べが続く中、チンピラ・矢代の暴発から事態は一気にクライマックスを迎えることになった。
疫病神シリーズと似た展開だが、切れ味が今ひとつ。また「後妻業」と同じような社会病理を背景にしているものの、「後妻業」ほどのインパクトは無い。それでも、十分に楽しめるのは大阪弁の会話の面白さとストーリー展開のスピードがあるからだろう。
黒川博行ファンにはちょっと物足りないかもしれないが、犯罪小説ファン、ヤクザ小説ファンにはオススメだ。
勁草 (徳間文庫)
黒川博行勁草 についてのレビュー
No.385: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

百舌シリーズの前史として

逢坂剛のデビュー直後の作品。のちの傑作シリーズ「百舌」につながっていく作品だが、百舌シリーズのような公安警察のあり方を追求したものではなく、犯人逃亡のトリックの謎解きに主眼が置かれた「ハウダニット」「ワイダニット」ミステリーである。
警視庁公安部所属の二人の刑事が主役で、貿易会社ビル占拠の人質事件と右翼の大物の暗殺事件の二つの事件の謎を解いていく。中でも、ビルを占拠した犯人が9階からエレベーターで降りてくる途中で姿を消したトリックが最大のハイライトで、このトリックはなかなか良く考えられていて面白い。もう30年以上前の作品だけに、現在の科学捜査技術からすると間抜けに見える部分があるのだが、それは仕方が無い。暗殺事件の方は背景として政界スキャンダルがあり、後の百舌シリーズにつながるテイストが見られる。
百舌シリーズの完成度に比べると数段落ちるのだが、前史として、シリーズ読者は読んでおくことをオススメする。
裏切りの日日 (集英社文庫)
逢坂剛裏切りの日日 についてのレビュー
No.384: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミステリー史の教科書として

まあ、一度は読んでおいて損は無い密室ものの古典的名作。ガストン・ルルーはこの一作だけの作家と目されているが、さもありなん。
密室破りのテクニックに賛否両論があるだろうが、ミステリーに新風を巻き起こそうとする意欲は感じる。ただ、あまりにも冗長な描写と古典的なロマンチックさに、途中で放り出したくなるかもしれない。
黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)
ガストン・ルルー黄色い部屋の謎 についてのレビュー
No.383: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

事件の派手さと動機の薄さがアンバランス

東京下町で女性のバラバラ死体が3箇所で発見された。検査の結果、被害者は2人で、しかも一度埋められていた死体がバラバラにされてから放置されたことが判明する。さらに、犯人から警察を嘲笑する挑戦状が送られてきた。
これはもう典型的な猟奇殺人事件の幕開けで、これからどんな残酷な事件、異常な犯行が展開され、どんなサイコパスが登場するのかと思っていると、事件としてはそこまでで、あとは捜査活動と動機の解明に終始することになる。しかも、捜査する側の主役の一人が13歳の少年(父親は刑事なのだが)なので、実にゆったりとした、緊張感の無いストーリーが展開される。
判明した犯人と動機は非常に深い社会的問題に根ざしているのだが、何となく「薄い」という印象を免れず、本格ミステリーとしては物足りない。ただ、人物設定や語りの上手さはやはり一級品で、読んで損することは無い。
宮部みゆきファン、軽めのミステリーが好きな方にオススメだ。
東京下町殺人暮色 (光文社文庫)
宮部みゆき東京下町殺人暮色 についてのレビュー
No.382:
(7pt)

かなり弱点はあるものの

乃南アサの1992年の作品。比較的初期の作品だけあって、乃南アサらしさの片鱗は見られるものの構成が荒削りであることは否めない。
花嫁衣装あわせに来た女性がお店から姿を消したのがプロローグ。そこから、執拗に追い掛けてくる男から逃げる夏季という女性の逃避行と、もう一つ、連続女性殺人事件の捜査という二つの物語が並行して展開される。
主要な登場人物は夏季、殺人犯、捜査本部長のキャリア警察官・小田垣、小田垣のひいきの店のホステス・舞衣子の4人で、4人とも正体不明なところがあり、誰が善人で誰が悪人か、最期の方まで分からないところにサスペンスがあり、読者はぐいぐい引き込まれていく。殺人犯の正体も最期まで判明せず、フーダニットとして良くできている。
ただ、クライマックスが拍子抜けするほど「ご都合主義」で大幅減点にした。
紫蘭の花嫁 (文春文庫)
乃南アサ紫蘭の花嫁 についてのレビュー
No.381:
(7pt)

いつもとは逆の世界

警察小説の第一人者・横山秀夫がいつもとは逆の世界に挑戦した、犯罪者視点の連作短編集である。
主人公は「ノビカベ」の異名を持つ侵入盗のプロ・真壁修一。周りからは司法試験を受けると思われていた秀才だったが、双子の弟・啓二が窃盗を働いたことに悲嘆し、無理心中をはかって自宅に放火した母親の巻き添えになって焼死し、二人を助けようとした父親も犠牲になったたことから、世の中に絶望し窃盗犯の道を歩むことになった。これだけでも相当ユニークというか、無理筋の設定だが、さらに死んだ弟が修一の頭の中に住み着いていて、要所要所で会話を交わすというだから、かなり特異な世界で物語が展開されることになる。
全7作品それぞれにテーマが設定され、構成の工夫があり、バラエティに富んだ作品集だが、いかんせん大前提がリアリティに欠けるため、いつもの横山秀夫の世界には到達していない。読む前の期待値が高過ぎたのかもしれないが、やや物足りなさが残った。
影踏み (祥伝社文庫)
横山秀夫影踏み についてのレビュー
No.380: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

法の正義と社会正義

英国の新人作家のデビュー作。いきなりMWA賞候補になっただけあって、骨太で味わい深い法廷ミステリーである。
ロンドンの公園で8歳の男児が殺され、犯人として11歳の少年・セバスチャンが逮捕・起訴された。弁護を依頼されたダニエルはセバスチャンに11歳の頃の自分を重ね合わせ、心の底から少年を弁護したいと思う。同じ頃、ジャンキーの母親から施設に保護されていた11歳のダニエルを引き取り、後には養子にしてくれた里親のミニーが死亡したと知らされる。育ての親として感謝しながらも、ある出来事からミニーを恨み、連絡すら拒んでいたダニエルだったが、ミニーの死により否応無く過去を振り返ることになる。
孤独と絶望にとらわれた惨めな少年だった自分と、裕福ながらも問題の多い家庭で育てられた、脆くて壊れそうなセバスチャンとを二重写しにして、ダニエルは環境に左右される少年の心の闇を解き明かそうとする。少年が「悪いことをする」「罪を犯す」とき、その責任を負うべきは少年だけなのか? 法の正義が貫かれることと、社旗正義が実現されることは完全にイコールなのか?
セバスチャンの裁判の進行とダニエルの回顧が交互に繰り返されながら進むストーリー展開が、非常に緊張感があってスリリング、新人とは思えない技巧が秀逸。静かだが力強い、読み応え十分の法廷ミステリーとして、多くの人にオススメできる。
その罪のゆくえ
リサ・バランタインその罪のゆくえ についてのレビュー
No.379:
(6pt)

ミステリーとしては、ちょっと弱い

「記憶」シリーズに続く?クックの新シリーズ「人名シリーズ」の第3弾。早川ポケミスから出ているのだが、ミステリーとしてはさほど面白くはない。
犯罪実録もの作家ジュリアン・ウェルズが自殺した。力を入れていた作品を完成させ、次の作品の準備を進めていたはずのジュリアンが、なぜ自殺したのか? 学生時代からの親友で文芸評論家のフィリップは、ジュリアンが著作のために訪れた場所を巡って、ジュリアンが見たものを見て、会った人と話して、すべてを追体験することで真相を探ろうとする。しかし、そこで明らかになってくるジュリアンの姿は、「親友」として知っていたはずの姿とは異なるものばかりだった。
アルゼンチンの現代史を背景にしたスパイ小説の要素(落ちというか、キーポイントがバカバカしすぎるのだけど)もあって、一応のエンターテイメント性は備えているのだが、基本は「人は他人を理解できるのか」というヒューマンドラマ。スパイミステリーを期待して読むと裏切られる。
トマス・H・クックのコアなファン以外にはオススメしにくい作品である。
ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
No.378:
(7pt)

インテリは社会病質者なのか?

トマス・H・クックの2013年の作品。法廷ミステリーの形式をとりながら、人が人生で成し遂げるべきは何かを問いかける重いテーマだが、前作「ジュリアン〜」より更にミステリー要素が濃くなって、最近の作品としてはかなり読みやすかった。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)に悩んでいた大学教授・サンドリーヌが強力な鎮痛剤の過剰摂取で死亡したのは、自殺なのか、夫のサムによる殺人なのか? 無実を訴えるサムを被告とする裁判が始まると、明らかにされていくのはサムには不利な状況証拠ばかりだった。裁判の過程でサムは結婚生活を振り返り、サンドリーヌの隠された真意を探ろうとするのだが、確たるものは掴めなかった。そして、陪審団の評決は・・・。
主人公・サムの偉大な小説を書くという夢を果たせず、田舎の大学の英文学教授としての安定した生活に埋もれながら周りの人々の無知を軽蔑する、相当イヤミなインテリというキャラクター設定が秀逸。読者は、サムに感情移入したり反発したりしながら人生とは、結婚生活とは、家族とはを深く考えるようになるだろう。
裁判の開始から評決までを丁寧に追いながら、随所に回想を挟んで真相を解明していくという展開がなかなかスリリングで、最近のトマス・H・クック作品としてはエンターテイメント性を高く評価できる。
サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
トマス・H・クックサンドリーヌ裁判 についてのレビュー
No.377:
(6pt)

壊れ過ぎた人々(非ミステリー)

あの「シスターズ・ブラザーズ」で読者を驚かせたデウィットのデビュー作。
ハリウッドの一角にあるバーで補助バーテンダーとして働く男の目で語られる、ロスの酔っ払いたちの驚くべき狂態の数々。人はどこまで酒(およびドラッグ)に溺れるのか、信じ難い話が繰り広げられる。
ストーリーはあって無いようなもので、酔っ払いたちのとんでもない姿がクールな筆致で淡々と綴られる、そのギャップが読みどころか?
ミステリーを期待すると裏切られる。かといって、惹句の「泥酔文学の金字塔」はオーバーで、「シスターズ・ブラザーズ」につながる才能の発露はあるものの、いかにも習作という感を免れない。
みんなバーに帰る
No.376: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

極道 vs. 北朝鮮

「疫病神」シリーズの第2作は、なんと北朝鮮を舞台にした、国際謀略小説顔負けのアクション超大作である。
それぞれの事情で同じ詐欺師を追い掛けることになった二宮と桑原は、北朝鮮に逃げ込んだ詐欺師を追って、観光ツアーにまぎれて平壌に飛んだ。しかし、徹底的に統制され監視される社会では自由に動けず、逃亡先は掴んだものの詐欺師を捕まえることはできなかった。大阪に帰った二人は、さまざまなコネを動員して、今度は中国国境から北朝鮮への密入国をはかる。厳しい寒さと想像を絶する貧しさに打ちのめされながらも詐欺師を見つけ出し、詐欺の実相を聞き出したのだが、北朝鮮からの脱出は命をかけた逃避行になった。
命からがら帰国した二人は、詐欺の落とし前をつけるべく、今度は詐欺師、ヤクザ、悪徳政治家たちと死闘を繰り広げることになる・・・。
自由奔放を絵に描いたような極道・桑原が、世界一の不自由国家・北朝鮮で大暴れする。それだけでも面白いのだが、さらに巨額詐欺事件を巡る悪者同士の駆け引きもプラスされて、最初から最後までゆるむところが無い。シリーズ最高傑作という惹句は嘘ではない。絶対のオススメ作だ。
国境 (講談社文庫)
黒川博行国境 についてのレビュー
No.375:
(8pt)

思いがけない拾い物

「パズル・シリーズ」で有名な(実は、一作も読んでいないのだが)パトリック・クェンティンの1948年の作品。シリーズ全8作品のうち、ただ一作だけ未訳だったものが翻訳されたとのこと。他の作品を読んでいないので解説に頼ると、本作はシリーズ中では異色作になるらしい。
メキシコを観光中の主人公ピーター・ダルースは、20歳前後の美少女デボラと出会い、一緒に観光地に向かい同じホテルに泊まるが、翌日、デボラが殺された。犯人は、当時、同じホテルに泊まっていた4人のアメリカ人の誰かではないかと疑うのだが、確たる証拠が得られなかった。さらに、ピーターは誰かに狙われている気配を感じるのだが、その動機も犯人も特定できなかった。デボラを殺したのは誰か、なぜ自分が狙われるのか? 4人の全員が怪しく見えてきて疑心暗鬼に落ち入ったピーターは、孤独な戦いを強いられることになる。
犯人も犯行の動機も、推理が二転三転して、どんどん引き込まれていく。ストーリー展開も軽快で、軽いハードボイルドを読んでいるような快感があり、とても60年以上前に書かれた作品とは思えない。
シリーズを知っているかいないかに関係なく十分に楽しめて、思いがけない拾い物をしたようなお得感があった。古臭いと先入観を持たずに手に取ってみることをオススメしたい。
死への疾走 (論創海外ミステリ)
パトリック・クェンティン死への疾走 についてのレビュー
No.374:
(7pt)

監禁された女性たちの復活物語

アメリカの女性ミステリー作家のデビュー作。ミステリー、サスペンスであると同時に、想像を絶する境遇に引きずり込まれた女性たちがPTSDを克服する復活の物語である。
親友のジェニファーと一緒にジャック・ダーバーの地下室に3年間監禁されてから解放されたセアラは、その10年後、誘拐・監禁の罪で服役中だったダーバーが近く仮釈放されるかもしれないと知らされる。ダーバーの釈放を阻止するには、いまだ未発見のジェニファーの遺体を見つけ、殺人罪に問うしかないと考え、同時期に監禁されていた2人の女性、トレイシーとクリスティーンに連絡を取り、ジェニファーの遺体を見つけるために、忌まわしい事件の舞台だったオレゴンを訪ねることにした。FBI捜査官の忠告を無視して犯人の過去に迫って行く3人だが、なにしろ、主役のセアラは他人に接することができず、自分の部屋から一歩も出ない生活を送っている状態なので、まともな調査活動ができる訳は無く失敗ばかり。それでも、ジェニファーの恨みを晴らしたい一心でじわじわと真相に近づいて行った3人に、驚愕のラストが待ち受けていた。
監禁事件そのものは悲惨ではあるがメインテーマではなく、物語の主題は、事件から10年経っても心理的な傷を引きずらざるを得ない被害者が自分を回復する復活の物語である。一般的な監禁もののサイコミステリーのようなスリルとサスペンスは、期待し過ぎない方がよい。

禁止リスト(下) (講談社文庫)
コーティ・ザン禁止リスト についてのレビュー