血の極点



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血の極点 (集英社文庫)
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初公開日(参考)2016年01月
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長編小説

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血の極点 (集英社文庫)

2016年01月20日 血の極点 (集英社文庫)

フィンランド警察特殊部隊を率いるカリ・ヴァーラ警部の家の窓に、脅迫文つきの煉瓦が投げ込まれた。誰かが命を狙っているのだ。そんな折、エストニア人の女性から、売春組織にさらわれた娘の捜索を頼まれる。カリは大富豪たちによる地下取引の現場に潜入するが…。闇組織と脅迫者から、少女と家族を守れるのか?彼がした最後の決断とは?作者急逝による、フィンランド警察ノワールシリーズ最終巻。(「BOOK」データベースより)




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血の極点の総合評価:8.17/10点レビュー 6件。Cランク


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(7pt)

ひたすら痛々しく崩れていく物語

カリ・ヴァーラ警部シリーズ4作目にして最後の作品。しかしそれは作者が想定していたシリーズの最後ではない。
既に有名な話だが、作者の交通事故死という不慮の死によって終結せざるを得なくなった最終作なのだ。

但し前作の感想で作者の夭折によって4作で完結となったこのシリーズは起承転結の結に当たる物語になるだろうと私は書いたが、果たしてどのようになっただろうか。

今回カリ達仲間が関わる事件は2つ。
1つはカリ・ヴァーラ自身に起こる数々の嫌がらせ行為の犯人を捜すもの。最初は脅迫状に包まれたレンガがガラスを割って投げ込まれたり、車の窓ガラスが全部割られたりと質の悪い悪戯の様相を呈していたが、やがて車の爆発と犠牲者を生むようにまでエスカレートしていく。

もう1つはカリの噂を聞きつけて訪ねてきたエストニア人の失踪した娘捜しだ。ヘルシンキで秘書の仕事があると云われて入国し、そのまま行方不明になったダウン症の娘の行方を探る。

1つ目の事件は内務大臣によってカリがサウッコの長男から奪った1千万ユーロを引き渡すための脅迫を行った彼の部下ヤン・ピトカネンの仕業だったが、内務大臣に手を引くように命じるも、今度は個人的な恨みでピトカネンは継続し、とうとう1人の犠牲者を生み出すようになる。

もう1つの事件はロシア大使館の人間が関わる人身売買組織が浮上する。カリはロシア大使の妻に接近し、いなくなった娘の行方を突き止める。

しかしこれらの事件はあまりメインで語られない。3作目でもその傾向はみられたが、本書でメインに語られるのは壊れてしまったヴァーラ夫妻の修復と彼らの命を付け狙う権力者たちを一網打尽にする工作の過程だ。

それらの物語は何とも痛々しい。精神的にも肉体的にも。

精神的痛みは何よりもまずあのケイトがカリ・ヴァーラの許を去ってしまうことだ。彼女は前作の事件で夫とその仲間たちを救うために犯人を殺してしまうが、それがもとでPTSDになってしまい、娘のアヌを連れて別居する。

それが前作での結末だったが、本書ではさらにアヌをカリの許において何も云わずアメリカに帰国してしまうのだ。彼女が戻ったのはジャンキーの弟ジョンの許だ。そこで彼女は人を殺めた自分は子供を育てるに相応しくない人間だと自責の念に駆られ、酒浸りの日々を送る。

1,2作の仲睦まじいヴァーラ夫妻を見ていただけにこの展開は何とも痛ましい。3作で確かにこの2人の関係は壊れてしまったのだ。

そしてそんなケイトをなお愛してやまないカリの想いもまた痛々しい。

しかしそれにも増して大怪我を負って不自由なカリとその娘の世話を献身的にする魅力的な美人看護婦、ミロの従妹ミルヤミのカリへの恋もまた痛々しい。

カリ自身も認める魅惑的でまぶしいほどの美人で知的で頭の回転が速く、ユーモアのセンスもあり、慈愛深く、親切で一緒にいて楽しく、そしてセックスアピールがものすごい。こんな完璧な美人であってもカリは妻への操を立てて魅力的を感じても決して抱こうとしない。
彼女はその時誰よりもカリを愛していた女性だったが、その恋は叶わず、涙に暮れる。特に自身の誕生日プレゼントとしてカリに抱いてもらおうと全裸で添い寝しながらも彼女を抱くことを頑なに拒むカリの隣でマスターベーションに耽る姿は何とも痛々しい。

しかし一方で前作で利き腕を犯人によって撃ち抜かれ、一生自由に動かせない障害を負うことになったミロは逆にそれまでの自己顕示欲の強さが前面に押し出されたいわば“大きくなった子供”の状態から大人の落ち着きと自信を持ち、成長した。

そして肉体的な痛さもまた本書は目立つ。

このシリーズはもともと1作目から陰惨な事件を扱い、死体に対する冒瀆的なまでのひどい仕打ちや痛々しい人の死にざまが描かれてはいた。

しかしこの4作目は折に触れ残酷な暴力シーン、殺害シーンが登場し、またはエピソードとして織り込まれる。

例えばピトカネンに雇われてカリのサーブの窓ガラスを割ったバイク乗りの1人をスイートネスは踏みつぶすように膝の裏から蹴りを入れて靱帯や腱を断ち切ればカリは仕込み杖のライオンの牙で脂肪を抉り取る。

スイートネスはイェンナと諍いになり、彼女に鼻を殴られて鼻の骨が折れ、横向きになる。それをカリは自己流でまっすぐにしようとして何度も失敗する。

また本書で初登場するスイートネスの従弟アイの生い立ちもすさまじい。
3歳の時にお菓子を取ろうとしたら母親に鉄のフライパンで叩かれ、手と手首の骨を折り、泣き叫んだところにさらに腹を立てた母親は煮えたぎるお湯にその手を入れて3日間放置したために神経が全て死んでミイラのような腕になってしまう。

このように、さながら流血だらけの残酷ショーのような強烈な描写がいつにも増して多かった。

私は本シリーズ第1作目の感想で作者トンプソンは扱っている題材と生々しいまでの陰惨な死体の状況が描かれていることからジェイムズ・エルロイの影響を多大に受けている感じを受け、このシリーズを「暗黒のLAシリーズ」に準えて、「暗黒のフィンランドシリーズ」にしようとしているのではないかと書いた。

しかしその思いは本書を読み終わった今では少し変化している。
本書はフィンランド・ノワールともいうべき作品であるとの思いは変わらないが、一方でカリ・ヴァーラ警部のビルドゥングス・ロマン小説、つまり立身出世の物語でもあるのだ。

ヘルシンキ警察署殺人課の刑事で犯人追跡中に負った“名誉の負傷”によってフィンランドの一地方キッティラの警察署長となったカリ・ヴァーラは人種差別問題も含むソマリア系映画女優スーフィア・エルミ殺人事件解決を足掛かりに首都ヘルシンキ警察へ返り咲くも、夜勤担当の閑職を割り当てられ、優れたIQを持ち、MENSAの一員でもあるが、自己顕示欲が高く、人の秘密を知ることに執着するサイコパス気味な若手同僚ミロと組まされる。

しかし国家警察長官ユリ・イヴァロから“フィンランドの英雄”アルヴィド・ラファティネンの第2次大戦時のホロコーストの主導者としてドイツ政府からの引き渡しを食い止める任務を極秘裏に与えられ、なおかつゼネコン会社々長夫人殺害事件を担当して、思わぬ政府高官たちのスキャンダルのネタを掴み、さらにその困難な2つの任務をアクロバティックな方法で解決することで長官直々に非合法特殊部隊のリーダーに任ぜられる。それはマフィアらの麻薬取引資金、武器売買の資金を横取りして政治家たちの資金にするために組織された部隊だった。

そしてその部隊でカリは相棒のミロと用心棒的存在スイートネスら3人で次々とマフィアの金を奪い、麻薬不足で抗争が始まれば、自分たちに捜査が及ばぬよう抗争の犠牲者たちを極秘裏に消し去るという汚れ仕事を請け負い、さらにのし上がっていく。そして悪徳実業家ヴェイッコ・サウッコの息子誘拐事件を担当し、事件を解決するが、瀕死の重傷と愛妻ケイトとの別居という代償をいただくことになる。

そして本書ではそれまでの布石が一気に開放される。

作者の夭折によって本書はここまででシリーズを終えることになるが、私はこの結末でいいのではないかと思う。
「亢龍の悔いあり」という言葉があるように、上り詰めた者はあとは落ちるしかないからだ。3作目の結末で別居することになったケイトとの仲も彼女のPTSDからの回復とともに完全ではないが修復され、明るい兆しを孕んで終える本書こそシリーズの「結」に相応しいと思う。

回を重ねるごとにカリ・ヴァーラの任務が重くなり、それにつれ内容も過激になり、それが私生活にも侵食するようになってきた。従って本書のその後のカリ・ヴァーラの人生はさらなる苦難の苦難の道を歩むことになったことだろう。

北欧のフィンランドを舞台にした警察小説として始まったカリ・ヴァーラ警部シリーズは4作それぞれでその趣を変えていった。

特に本書は3作目からその傾向はあったが、事件そのものを語るよりも非合法部隊となったカリ達の悪行とそれによって精神が壊れていくヴァーラ夫妻が中心になり、事件は起こるものの、それらはサブでメインは超えてはいけない線を越えたヴァーラ達がいかに周囲の敵から身を護るかという物語へ移行した。

特に遺作となった本書では自分たちの身を護るために権力者たちを一斉に葬り、もはやカリ・ヴァーラ達は司法の側でなく、組織的な犯罪グループそのものとなった。

いやはや誰がこの展開を予想しただろうか。

そしてこのまま続けていけば必ず物語はさらなる過激さ・過剰さを増し、死人が増えていき、そして彼らの心的ストレスも増えていくことだろう。

夫婦の回復とカリの地位向上という明るい明日が見える結末で物語を終えるのを作者急死という不幸によって迎えることになったのは何とも皮肉としか云いようがない。

願わくば誰も彼らのこの次を書き継がないでおいてくれることを願おう。ここら辺がいい引き際と思うからだ。

カリとケイトのヴァーラ夫妻。
ミロ・ニエミネンにスイートネスことスロ・ボルヴィネン。
そして彼の恋人イェンナ。
彼らの将来が明るいものであることを祈ってこの感想を終えよう。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

酒と鎮痛剤が正義を支える、北欧ノワール

フィンランドの傑作ミステリー「カリ・ヴァーラ」シリーズの第4弾。作者の急逝によりシリーズ最終作となった本作は、前作よりさらに暴力的で、完全にノワール小説の世界に入っている。
前作の事件での負傷が原因で体がガタガタになった上に、愛妻ケイトがPTSDで家を飛び出し、家庭も崩壊状態になったカリ。不自由な体で娘アヌの世話に孤軍奮闘していたのだが、何者かにカリのみならず家族の安全まで脅迫されたため、追い詰められたカリはミロ、スイートネス、ミルヤミ、イェンナの助けを求めて対抗することになった。そんな中、エストニア人の女性から売春組織にさらわれた娘を助けて欲しいと依頼される。家族と自分の命を守るため、正義を実行してケイトとの関係を修復するため、カリと仲間は強大な敵に全身でぶつかって行くことになった。
ほとんど半身不随状態で杖を手放せないにも関わらず、アルコールと鎮痛剤でごまかしながら動き回るカリを支えるのが、これまたアルコール依存のスイートネスと薬物依存のミロなので、全編、アルコールと薬が切れることが無い。さらに前作以上に法規を無視した暴力で問題を解決して行く強引さ。貫かれているのはカリ自身の正義感なのだが、その行動は完全に警察活動の域を脱しており、ノワールの世界というしか無い。
シリーズ読者には必読。先に「解説」を読んでから本編を読めば十分にストーリーを追えるので、シリーズ未読のノワールファンにもオススメだ。

iisan
927253Y1
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No.4:
(4pt)

お帰りカリ・ヴァーラ

「極夜」、「凍氷」、「白の迷路」と続くカリ・ヴァーラシリーズの4作目。著者の事故死でこれが最後となったのが残念である。
内容的には、「白の迷路」で道を踏み外したカリ・ヴァーラの逆転満塁本塁打という感じ。
本シリーズは、カリ・ヴァーラとその部下のミロ、スイートネスのキャラクターが魅力的であり、読んでいて厭きない。できれば、シリーズを「極夜」から順に読んだ方が、過去の話も度々出てくるので楽しめよう。急逝した著者に合掌。
血の極点 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:血の極点 (集英社文庫)より
4087607178
No.3:
(5pt)

このシリーズかなり読ませます。

作者が急死してしまってるので同じ調子で読むことはできなくなりましたが、 本当に惜しい。 海外ミステリはかなり読みますが(日本のは深みがないので好みではない)、 このシリーズは本当にあたりです、ぐいぐい引き込まれます。
血の極点 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:血の極点 (集英社文庫)より
4087607178
No.2:
(4pt)

さよなら、カリヴァーラ警部

フィンランドの田舎の警察署長だったカリヴァーラ氏
首都ヘルシンキの殺人課へ移動となり
政府上層部からの裏仕事を引き受けるようになり
そして本作では逆に家族とともに命を狙われる。
未だ前作の銃傷も癒えない体で、カリヴァーラ警部は
仲間のミロとスイートネスの2人とともに
家族を守るために戦うことになります。

ものすごい主人公のキャラクターの立ち位置の変遷!

残念ながら、作者のジェイムズ・トンプソン氏が事故死したため
本作の後のカリヴァーラ氏とその仲間のその後は永遠に不明となりました。
本作で新たに登場したアイ青年も、ステキなキャラクターも
このあと活躍の場は永遠に失われてしまいました。

改めて・・・合掌。
血の極点 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:血の極点 (集英社文庫)より
4087607178
No.1:
(4pt)

シリーズ第4作。著者急逝による完結とは残念…

シリーズ第4作。 かつて、これほど短期間で主人公が変貌を遂げたシリーズあっただろうか。 警察小説が第3作で一転、ノワール小説に変貌し、主人公のカリ・ヴァーラ警部が闇の底に堕ちたままシリーズが完結してしまった。 主人公がマイクル・コナリーのハリー・ボッシュが、アンドリュー・ヴァクスのバークに交代したくらいの変貌ぶり。 この変貌ぶりは、シリーズを通じた大きな仕掛けではないかと期待していたのだが…もっとも、著者がシリーズ第5作の執筆途中で急逝してしまったため、シリーズの全体像は謎のままだ。 なんとも惜しい作家を亡くしたものだ…
血の極点 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:血の極点 (集英社文庫)より
4087607178



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