極夜 カーモス



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初公開日(参考)2013年02月
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長編小説

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極夜 カーモス (集英社文庫)

2013年02月20日 極夜 カーモス (集英社文庫)

フィンランド郊外の村の雪原に横たわる惨殺死体。被害者はソマリア移民の映画女優で、遺体には人種差別を思わせる言葉が刻まれていた。容疑者として浮上したのは、捜査の指揮をとるカリ・ヴァーラ警部から妻を奪った男。捜査に私情を挟んでいると周囲に揶揄されながらも真相を追うカリだったが、やがて第二、第三の殺人が起きてしまう。暗闇と極寒の地を舞台に描く、フィンランド発ノワール・ミステリー。エドガー賞、アンソニー賞、ストランド・マガジン批評家賞ノミネート作。 (「BOOK」データベースより)




書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

極夜 カーモスの総合評価:7.50/10点レビュー 16件。Bランク


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全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

暗黒のフィンランドの幕開け

2010年代のミステリ界の最大の収穫の1つとして質の高い北欧ミステリが次々と刊行されてきたことが挙げられる。
そして私もとうとうこのジャンルに手を出すこととなった。
しかし本書が他の北欧ミステリと一線を画すのはフィンランドを舞台にしながら作者はアメリカ人であることだ。

ジェイムズ・トンプソン。彼はフィンランドの妻を持つヘルシンキ在住のアメリカ人作家。数ある北欧ミステリの書き手の中でも異色の存在だ。

まず本書の目新しさはなんといってもそれまで日本人には馴染みの薄いフィンランドを舞台にしており、その風土や気候、文化に国民性が詳しく書かれていることだ。

人口は約550万人だが、暴力犯罪は多く、一人当たりの殺人件数はアメリカの大都市とほぼ同じで近親者による犯行が多い。殺人事件の検挙率95%とかなり高く、犯罪は多いのに死刑制度はない。そのくせ100年以上の中で有罪になった連続殺人犯はたった1人しかいない。

隠れ人種差別者で声高に明らさまに差別用語をまくし立てることはせず、暗黙的に差別する。わざと昇進させず、無関心を装い、蔑視する。
そしてアメリカ人ほど政治について語らない割には投票率は80%と関心は高い。

本書の主人公カリ・ヴァーラはフィンランド人で妻のケイトはアメリカ人でスキーリゾートの経営者をしていたが、フィンランドの会社にスカウトされ、<レヴィセンター>の総支配人となった。そしてそこで出会った警察署長カリと結婚したのだ。そして今彼女は双子の赤ん坊を身ごもっている。

翻って作者ジェイムズ・トンプソンはアメリカ人でフィンランド人の妻を持ち、ヘルシンキに住んでいる。つまり本書の主人公夫婦と作者は表裏一体なのだ。

そしてケイトのフィンランドについてのイメージギャップは我々日本人の読者が抱くものと同じだろう。

それはフィンランドという国のイメージは恵まれた美しい自然に囲まれ、秩序ある生活で国民の幸福度は高いというものだが、アメリカ人の彼女が実際に来てみると人々はあまり語らず、沈黙が多く、何を考えているか解らない無表情である。そして12月半ばからクリスマスまで日の光は差さない、極夜が長く続く。

氷点下が当たり前の環境下では人は無口になるという。日本でも東北の人のズーズー弁は寒さゆえに口をあまり開けずに話すからそのような話し方が生まれたという説もあるように、フィンランド人もあまり話さず、沈黙を以って“察する”のだ。

フィンランドは世界一自殺率の高い国のようで10万人に27人が亡くなっているという。それはやはり対話が少ないからではないか。沈黙は能弁ではないのだ。

更にフィンランドでは産休が105日あり、アメリカ人のケイトはそんなライフスタイルに馴染めずにいる。彼女は数週間産休を取ったら子供を保育所に預けて働くようだ。
この辺は日本人の感覚と似ている。つまりケイトの違和感はそのまま我々日本人の違和感となるのだ。

そんなフィンランドの、キッティラという地方都市で起きた殺人事件が本書のテーマだ。それは黒人映画女優が人とも思えぬ惨たらしい状況で殺害されているのが発見される。

全裸でマイナス40度の極寒の雪の中に半ば埋もれたその遺体は首に紐が巻かれ、身体全体が切り刻まれ、腹には“黒い売女”と蔑みの言葉が刻まれており、頭を金槌のような鈍器で殴られた痕跡もあり、割れたビール瓶が膣の中に挿入されている。そして彼女の両目は恐らくその瓶を使って刳り抜かれたようで、右胸の皮膚も一部切り取られ、遺体の傍に置かれている。

しかも彼女の遺体の周りには手足をばたつかせた跡、俗に“雪の天使”と呼ばれる天使の羽根のような痕跡が残っていた。本書の原題“Snow Angels”はここから採られているようだ。

このあまりに屈辱的な遺体の状況から黒人差別殺人の様相も呈してくる。

そしてほどなく容疑者が上がる。
それは彼女を愛人としていたヘルシンキの富豪セッポ・ニエミでしかも彼は主人公ヴァーラの元妻を奪った男だったという因縁の相手。従って元妻から過去の恨みから冤罪を着せようとしていると罵られ、更にはマスコミにリークさせられ、私怨逮捕の疑いを着せられるのだ。

しかも逮捕の決め手はセッポが遺体を捨てに来た車BMWの330iを持っていた事だったが、なんと彼女は複数の相手と性交を持っており、その相手のほとんどが同様の車種を持っていることが判明し、捜査が進むにつれて容疑者が増えていく奇妙な状況に陥るのだ。
BMWの330iは彼女が出演していた映画で使われた車種であり、彼女にとっても特別な、恐らくはセレブを感じさせる車だったのだろう。

更になぜかこの決して広いとは云えないキッティラで次々と人が死ぬ。

衝撃的なことにカリ・ヴァーラの片腕の部下ヴァリテリの息子ヘイッキが自宅で首吊り死体と発見される。しかも“彼(彼女)にやらされた”というスーフィアの事件に関与したかのような書を遺して。
更に彼のパソコンには女性との性交に溺れているかのような内容と黒人を蔑み、殺害するとまで書いた詩が発見され、ますます事件への関与が色濃くなる。

そして止めはヴァーラの元妻ヘリの死。彼女はヴァーラの妹が溺れ死んだ湖の氷の上でガソリンを溜められたタイヤを胴体に巻かれ、身動きできない状態で生きながら焼かれるという眼を覆わんばかりの拷問によって殺されるのだ。

さて黒人映画女優の死を発端にした本書は彼女の死を巡り色んなテーマが立ち上ってくる。

例えば本書メインの事件であるソマリア人の黒人映画女優スーフィア・エルミの目を覆うばかりにひどく拷問された死体はアメリカのエリザベス・ショートという娼婦が惨殺された事件、通称“ブラック・ダリア”事件を擬えていることでフィンランドの“ブラック・ダリア”としてマスコミに報道されることになる。

もしかしたら作者はこのカリ・ヴァーラシリーズをエルロイの「暗黒のLAシリーズ」に擬えて猟奇的殺人事件を扱った「暗黒のフィンランドシリーズ」にしようとしているのではないかと思った。

そしてヨーロッパ特有の移民問題が本書の事件に絡む。
被害者のソマリア人は90年代にフィンランド政府によって受け入れられたソマリア難民の出だった。雪深き白人の国に突如として5千人以上の規模で流入してきた黒人。そして彼らはフィンランド国民同等の社会保障を受けることになり、それが国民たちの反感を生んだ。
更には混沌とした社会情勢の中で彼らはパスポートがないまま入国した者が多く、従って身分を偽ってそのままフィンランドで暮らし、そして一定の社会的地位と保障を得ているといった歪んだ構造になっているのだ。

つまり一つの事件、一人の死によってヨーロッパ社会問題を浮き彫りにする、ヘニング・マンケルのテーマの衣鉢を継ぐシリーズとしているようにも思われるのである。

そんな様々な要素を孕んだ事件の真相は何とも云えない苦いものだった。

気付けば死者が5人も出た陰惨な事件となった。

これほどまで多くの犠牲者を出した事件となかなか太陽が差さない、氷点下の日が続く極夜は決して無関係ではない。

この鬱屈した時期、フィンランドでは家庭内暴力が頻発する。
サイドストーリーとして街でも評判の荒くれ兄弟ヴィルタネンの従順な母親がとうとう酔いどれの暴力夫を刺し殺す事件が起きる。

更にヴァーラもまた自分の元妻がセッポに奪われた時に彼を殺害しようと思っていたことを告白する。

極寒の氷点下の土地では人が凍死するのは珍しくない。つまり彼らにとって死は珍しいものではなく、ありふれたものなのだ。
おまけに日が差さない極夜は人の心を凍てつかせる。話せば吐息が凍り付くので自然沈黙が多くなる。彼らは察することでコミュニケーションをとるが、それでは十分ではなく、話さないからこそ鬱憤も溜まり、そして死も身近であることから暴力が起き、そして人が死ぬ。
本書の悲劇は終わりなき夜、極夜が招いた悲劇なのだ。

そんな鬱屈した町キッティラ、いやフィンランドを舞台にカリ・ヴァーラとケイト夫婦は今後どうなるのか?

早くも冬の陰鬱なフィンランドの気候に、マタニティー・ブルーも相俟ってケイトはアメリカに帰ることを希望している。まずはその足掛かりとして首都ヘルシンキに、かつてヴァーラが住んでいた街に引っ越そうと計画している。
しかし極寒の地フィンランドであることには変わりなく、カリとケイトのヴァーラ夫妻の将来はまだ山あり谷ありだろう。

49歳という若さで夭折したトンプソンの描くヴァーラ・サーガはわずかに4作。この4作でこの夫妻と彼らを取り巻くフィンランドの事件は何を我々に語るのか。

じっくり味わっていこうではないか。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ひさしぶりのジェイムズトンプソン

久しぶりといっても、二作目ですが。
一作目に「凍氷」を選んでしまって、この「極夜」の続きになるのですね。
随分と前に読んだ割には主人公や主人公の妻のことを覚えていて、記憶に残っていました。
「凍氷」よりも読みやすく理解しやすくミステリーとしても楽しめました。
犯人探し・動機・複雑な人間模様と宗教。
フィンランドという国は私が考えている以上に複雑なのですね。

「極夜」を読んでから「凍氷」を読むともっと内容が理解できたのかもしれません。
未読の方にはお勧めします。

ももか
3UKDKR1P
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

夜が明けない極北の村の憂鬱

フィンランド北極圏にある小さな町の警察署長カリ・ヴァーラ警部シリーズの第一作。アメリカ生まれでフィンランド在住という異色作家の実質的なデビュー作である。
一日中太陽が昇ることが無いという真冬の極北の村で、ソマリア人女優の惨殺死体が発見された。性犯罪でもあり、人種差別犯罪でもあるというやっかいな事件の捜査に取りかかったカリだが、容疑者として浮かび上がったのが、カリの前妻を奪った男性だったことから、微妙な立場に立たされることになる。さらに、第二、第三の殺人が起き、事件はいっそう複雑な様相を呈してくる。
二十四時間闇が続く極夜を、人々は家に隠り、酒を飲んでひたすら耐え忍ぶ。そんな極北の村の重苦しさに押し潰されそうになりながら懸命に捜査するカリに、小さなコミュニティならではの複雑な人間関係と、人種差別に敏感なフィンランド社会で政治問題化することをおそれる警察上層部からのプレッシャーがのし掛かってくる。さらに、カリのアメリカ人妻は妊娠中で、初めての出産への不安とフィンランド社会に溶け込めないことへの焦燥から情緒不安定になってきた。そんな八方ふさがりのカリが苦闘の末に見いだした事件の真相は、「真相を見つけなければ良かった」と思うほど重く、切なく、やり切れないものだった・・・。
スウェーデンのヴァランダー警部シリーズに通じる、社会派の色が濃い警察小説であり、今後の翻訳出版が待ち遠しいシリーズである。

iisan
927253Y1
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

No.13:
(3pt)

事件の筋自体は普通

舞台はフィンランド。
ソマリア移民の二流?三流?女優が惨殺されているのが見つかりすすむ捜査。
事件の筋が面白いというより、フィンランド社会の抱える問題が垣間見えるのが面白かった。
極夜 カーモス (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:極夜 カーモス (集英社文庫)より
4087606619
No.12:
(1pt)

なぜに高評価?

面白いと評判のミステリーなので、どんなものかと読んでみましたが、どこが面白いのか全く分かりません。こんな強引でご都合主義の結末だとは。物語は主人公の主観としての視点からほとんどが描かれるため、読者に客観的な事実がほとんど提供されません。作品中で主人公の「推理」がなんども披露されますが、その「推理」のお粗末さに呆れます。「推理」がお粗末なため、それと異なる「真実」が後で明らかになっても、なんの意外性も感じることが出来ません。しかも、その「真実」とやらの荒唐無稽さ。正直、素人が書いたような出来の悪いミステリーとしか思えません。なぜ、このミステリーが人気なのかさっぱり分かりません。
極夜 カーモス (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:極夜 カーモス (集英社文庫)より
4087606619
No.11:
(5pt)

読みやすい。面白い。

ドロドロした人間の情念が怖気が起きる殺人を招いていく。
どうしてここまでやる必要があるの?というほどの殺害方法が酷い。

寛容で滋味に溢れる人柄をイメージする北欧の人々の本当の姿は、
傲慢強欲、憤怒色欲、差別侮蔑が渦巻くドロドロしたものなのか?

悲しい人生を歩む主人公は、そんな魑魅魍魎の世界でさらに苦悩していく。
撃たれ傷つき生死を彷徨う。

そんな浮かばれない世界が展開するお話ですが、安らかでほっとする
ラストがきちんと待っている

そして翻訳もとてもいい。とても読みやすい。

コーエン兄弟が監督したらいい映画になるでしょうね。
極夜 カーモス (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:極夜 カーモス (集英社文庫)より
4087606619
No.10:
(4pt)

異文化に触れる楽しみ

ここ数年はやりの北欧ミステリ。翻訳モノや映画でわりと馴染みのある米英の風土とはかなりちがう文化がある(らしい)。
作者はそのことを文中でなんども指摘し、アメリカ人の妻とフィンランド人の主人公の微妙な価値観のズレが横糸になっている。
面白かったのは、衝撃的な事件の直後に「北欧三国にはほとんど連続殺人はない。だから、まずドイツ人と日本人の観光客を洗うことにした。アメリカ人を後回しにしたのは、容疑者があまりに多くなってしまうからだ」という意味の独白。
いわゆる「ミランダ警告」を要求する容疑者に、担当警部が「アメリカ映画の見過ぎだ」と突き放すシーンがクールだ。
また、J・エルロイで有名になった『ブラックダリア事件』が重要なモチーフになっているのも、ノワールファンには見逃せない。
極夜 カーモス (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:極夜 カーモス (集英社文庫)より
4087606619
No.9:
(4pt)

フィンランド発のミステリー、それも極北ラップランド

フィンランド発のミステリー、それも極北ラップランド。

「ポーチのかかっている温度計はマイナス三十二度。暖かくなってきた。」

これは寒い。

「ストロベリーナイト」誉田さんなみのグロテスクな犯罪だけど、一気に一晩で読まされてしまう面白さ。

さらになかで、ジェームズ・エルロイの傑作「ブラックダリア」も登場し、海外ミステリーファンをうならせます。

なにより平生知らないラップランドの風景、生活、習慣、宗教がなるほどそうかと納得できてしまうので、

娯楽ミステリーとあなどってはいけない。

主人公カリ・ヴァーラ警部たちのぎりぎりの精神的極夜(カーモス)に読む者も凍りつく。
極夜 カーモス (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:極夜 カーモス (集英社文庫)より
4087606619



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