凍氷



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初公開日(参考)2014年02月
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長編小説

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凍氷 (集英社文庫)

2014年02月20日 凍氷 (集英社文庫)

フィンランドはユダヤ人虐殺に加担したか―歴史の極秘調査ともみ消しの指令を受けたカリ・ヴァーラ警部。ヘルシンキで起きたロシア人富豪妻の拷問死事件の捜査においても警察上層部から圧力がかかる。さらにカリを襲うのは原因不明の頭痛。妻のケイトは彼を心配するが、臨月を迎えた妻をこれ以上不安にさせることはできない…。激痛に耐えながら挑んだその結末とは?好評極寒ミステリ第2弾! (「BOOK」データベースより)




書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.67pt

凍氷の総合評価:8.38/10点レビュー 13件。Bランク


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全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

フィンランドの歴史の闇と人々の抱える闇の交錯

カリ・ヴァーラ警部シリーズ2作目の本書では舞台はキッティラからヘルシンキに移り、カリも署長から深夜勤務の新人と組む新参刑事となっている。

今回カリ・ヴァーラが主に扱う事件は2件。
1つは夜勤明け直前に出くわした不倫中カップルの女性の拷問殺人事件。
もう1つは国家警察長官ユリ・イヴァロ直々の命令によるフィンランドの公安警察ヴァルポの生き残りでフィンランドの英雄であるアルヴィド・ラファティネンが第二次大戦時にユダヤ人の虐殺に関わっていたとの容疑でドイツが引き渡しを求めているのを阻止することだ。

通常の殺人事件の捜査とフィンランドの歴史の暗部を探る壮大な事件。しかし通常の殺人事件も被害者の夫が富裕層で国家警察長官ユリ・イヴァロとも親交がある事からコネを使って捜査を妨害するという権力の壁に阻まれる。

さて1作目では日本人には馴染みの薄いフィンランドの国が抱える暗い社会問題が氷点下40度の極寒の地で起きた殺人事件の暗欝と共にやたらに語られていたが、本書では一転してカリの妻ケイトの妊娠のタイミングに合わせて来訪した弟と妹へのガイドの側面もあるのか、フィンランドの文化紹介となっており、トーンとしては明るい。

例えばフィンランドのサウナの習慣。サウナはフィンランド人にとっては無くてはならないものでカリはヘルシンキの自宅に小さいながらもサウナを作ることは決して譲らなかったようだ。

また福祉国家のフィンランドの側面もケイトの妊娠で垣間見れる。フィンランドで出産する母親はマタニティー・ボックスと呼ばれる育児道具一式を無償で貰うか、140ユーロを支給されるとのこと。何とも素晴らしい政策ではないか。

1作目が陰ならば2作目は陽とも云える。

それはケイトの心情がそのまま作品に投影されているかのようだ。

初お目見え作であった1作ではケイトは複合レジャー施設の総支配人という華々しい立場でありながら異国の地で難しいフィンランド語に苦戦し、いつも沈黙を以て接する周囲の人々に対する不平と不満を、初めての妊娠、しかも双子を授かるという幸福な時期でありながらマタニティ・ブルーが前面に押し出されていた。

しかし2作目の本書では同じくケイトは妊娠をしているが、フィンランド一の都市である首都ヘルシンキでの生活とそこで得た高級名門ホテル<ケンプ>の支配人という新たな職で生き生きと勤務する姿が描かれている。
キッティラとヘルシンキの違いは首都であるがゆえに英語を話すフィンランド人が多いことだ。つまりケイトは自分の意思を自分の言葉ではっきりと伝えることができ、そしてそれが周囲にケイトを認めさせているポジティヴな相乗効果をもたらしている。

つまり同じアメリカ人でフィンランドに移住した作者はケイトに自身の心情を映し出し、それが作風にも表れているように思えるのだ。

しかしとはいえ、このシリーズの色調は基本的には暗い。
ケイトの弟ジョンはとにかくどうしようもない愚弟であることが判ってくる。

また妹のメアリはことごとくアメリカの常識で物事を見てフィンランドの習慣や常識を否定的な意見で批判し、そしてアメリカがフィンランドに対して過去に行ってきた支援などを持ち出してアメリカの優位性を誇示してはヴァーラの親類や友人たちの怒りや反感を買う。

ケイトは母親が亡くなった後に彼らの母親代わりとして世話をしてきたが、その変貌ぶりに思い悩むようになる。

もちろんフィンランドの社会問題が一切語られていないわけではない。

例えばヘルシンキはフィンランドの他の地域よりも自殺が多く、年間平均120件ほどの自殺の検視があるとのこと。本書刊行時のヘルシンキの人口が約59万人だから約0.02%の人間が自殺していることになる。
参考までに東京は年間2000人強である。東京の人口が2015年現在で1350万人だから0.015%に満たないからは人口の比率で考えるとやはりヘルシンキは多いようだ。そしてその一因が性的マイノリティの存在で地方から同士を求めてやってくるが希望が打ち砕かれて自殺する者が多いとのことだ。

アメリカの学校内銃乱射事件を後追いするように1989年以降同様の学内銃乱射事件が起きていることだ。ただしアメリカの件数に比べると2008年までに3件と少ないようではあるが、銃社会ではない日本にしてみれば嘆かわしい事件だ。

またフィンランドの歴史の暗部が本書では大いに関わってくることが特徴的だろう。
元々スウェーデン領だったフィンランドはロシアに二度侵攻された際にスウェーデンがロシアに割譲され、そしてロシアはフィンランドのロシア化政策を行うがそれをフィンランドは抵抗し、やがてドイツ軍の援助を借りてソ連を打とうとするが失敗し、ソ連と休戦協定を結んでドイツの追い出しを約束させられ、今度はドイツ軍と戦争する羽目になる。従ってフィンランドにはロシアに嫌悪を示すものとドイツに嫌悪感を示す者たちが存在するのだ。

そしてフィンランドの英雄たちがドイツのホロコーストに加担していたことが判明する。しかも現在英雄と呼ばれている歴史上の人物たちによって下された命令でもあったという衝撃的な事実が判明する―これらは恐らく本書の中でのフィクションだろう―。

いやはや近代史の暗部にはドイツのナチスが関係しているが、フィンランドもまた同様だとは思わなかった。実にこのナチスドイツの闇は濃い。

そんな清濁併せ持つ本書の結末は実に愉快だ。

業の深い人間たち。
どこか精神の箍が外れた人間たち。
そして幼い頃の父親からの虐待に幼き妹の死から始まった事件のみならず自分を取り巻く人々の死。
それらを目の当たりにしながら極寒の地で正しくあろうと奮闘するカリ・ヴァーラ。

これからのカリ・ヴァーラは更に過激さを増しそうで期待よりも不安が勝ってしまうのは単に私の杞憂に過ぎないのだろうか。

とにかく次作を楽しみにすることにしよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

フィンランド特有の

面倒くさい主人公だな~と、思っていた点も、読み進むにつれて理解出来るようになりました。
物語としては面白かったのですが、途中のフィンランドの歴史?に関しては、頭が痛くなってきて
ザッと読むだけになってしまいました。


ももか
3UKDKR1P
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

歴史は凍らせておいた方が良いのか?

フィンランドの硬骨の捜査官カリ・ヴァーラ警部シリーズの第2作。前作同様に重苦しく、真相を解明してもカタルシスは味わえない、それでも読者を引き付ける傑作警察小説である。
前作での事件解決の功績により、ヘルシンキ警察殺人捜査課に異動したカリは、上司である国家警察長官から奇妙な極秘捜査を命じられた。それは、ホロコーストへの加担を疑われてドイツから身柄引き渡しを求められている旧フィンランド公安警察職員を調査し、証拠をもみ消せというものだった。その理由は、この老人が戦時中のフィンランドの英雄として知られる人物であり、フィンランドがホロコーストに関わった事実をほじくり返されたくないという政府の意向でもあった。さらに、カリの尊敬する祖父が、この老人と同じ時期に同じ任務に着いていたことも告げられた。複雑な心境のまま調査を始めたカリだが、すぐにロシア人実業家の妻が惨殺された事件の捜査も担当することになり、私生活を犠牲にして捜査に没頭せざるを得なくなる。そんな苦労に苦労を重ねた末にたどり着いたところは、前作同様、真相解明が救いにはならないような事実だった・・・。
物語は、2つの捜査が並行しながら進んでいくのだが、もうひとつ、カリの妻ケイトの出産が迫っていること、カリに原因不明の頑固な頭痛がつきまとっていることなど、私生活のトラブルも重要なエピソードとなっている。特に、ケイトの出産を祝うためにアメリカからやってきたケイトの妹弟との「異文化の衝突」が興味深い。
物語の最後では、カリは国家警察長官から新たな秘密警察を組織することを命じられ、さらに頭痛の原因を探るための検査で思い掛けない事態に直面することになる。これは、次回作が見逃せない。

iisan
927253Y1
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未読の方はご注意ください

No.10:
(5pt)

ナチスドイツと共闘していたフィンランドの闇、そして猟奇殺人

まず、作者の冥福をお祈りしたいと思います。こちらのレビューアさんのコメントから、作者が亡くなってしまっていることを初めて知りました。これからすぐれた作品をどんどん書いていってくれると思っていたのに、ショックです。あちこち検索してみましたが、2014年に事故で亡くなったということで、詳細はわかりませんでした。

「凍氷」は彼の2作目の作品です。前作「極夜」に続いてカリ・ヴァーラ警部とアメリカ人の妻ケイトを中心とした物語です。前作がフィンランドの一地方を舞台にした猟奇殺人事件だったのに比べて、今回はバックにフィンランドの歴史と国際政治の闇が広がるスケールの大きな作品になりました。物語の展開も、「極夜」ではややもたついた印象があったのですが、こちらは同時並行のエピソードがうまく折り合わされて、より完成度の高い作品になっていると思います。

2次大戦中、ソ連に対抗するために、フィンランドがドイツのナチス政権と手を組んでいたというのは初耳で驚きでした。文中の言葉を引用すると「フィンランドの公安警察ヴァルポとドイツの秘密警察は繋がりがあった。フィンランドとナチスドイツは国内及び国際社会の共産主義勢力との戦いにおいて共闘した。(中略)我々はナチスの理想を共有していたのだ。拡張政策とわが国が拡大するための領土。」「ボリシェビキ、赤軍の将校、共産主義者、インテリ、そしてもちろんユダヤ人。(中略)ひとつの穴には150人から200人が入った。彼らはマシンガンで射殺された。穴がいっぱいになると上から土がかぶせられた」。そしてそれが一般的にほとんど知られていないのはなぜかと言えば「ナチスは記録を廃棄した。ヴァルポも破棄した。だが何より人々がこれを知りたがらなかった。知っている者は忘れようとした。」「フィンランドが責任を問われなかったのは、その言語の特異性によるところが大きい。我々はそのことについて話すことはなく、世界には我々の言葉を読める人間がほとんどいない。」

今となっては、それはフィンランド人にとって思い出したくもない黒歴史ということになりますが、こういうテーマを取り上げることができたのは、作者がフィンランド人の妻と結婚してヘルシンキに住み、フィンランドをよく知り愛しているアメリカ人という立場だったからでしょう。作者の視点はフィンランド人の感情と、外国人であるアメリカ人としての価値観の間を行き来し、非常に客観的に物事を公平に見ていると思えます。この作品がフィンランド人の間ではどんな評価だったのか気になります。

このユダヤ人虐殺に関係したのが自分の祖父だった可能性があるカリ・ヴァーラ警部。そしてその祖父の同僚で戦争の英雄である老人が無罪だとでっちあげろという上司からの政治がらみのやっかいな命令。それと平行して、ロシア人富豪の妻が惨殺された猟奇殺人事件の捜査が進んでいきます。プライベートでは、妻ケイトの妊娠出産と、アメリカからやってきたケイトの弟、妹との文化摩擦に悩まされながら、ヴァーラ警部はヘルシンキの街を駆け回ります。

前作でもそうでしたが、個人的にはミステリの部分よりも、フィンランド人とはどういう人々なのか、フィンランドとはどういう国なのか、そのあたりがへたな評論や解説書を読むよりも実感を持って感じられ、興味深いです。ミステリとしてはどうなのか?ということになるかもしれませんが、へえ、そうなんだとあれこれ考えながら、どんどん引き込まれるという意味では、とても深みがあるおもしろい小説だと思います。
凍氷 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:凍氷 (集英社文庫)より
4087606821
No.9:
(5pt)

作者が亡くなってしまったのが残念です

アメリカ人の書いたフィンランド・ミステリの傑作です。。その後、作者が亡くなってしまったのが残念です
凍氷 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:凍氷 (集英社文庫)より
4087606821
No.8:
(2pt)

「日記」なのでしょうか?(・_・?)

「極夜」を読んでからしばらくして本作を手に取りました。
「Q」シリーズを一気買いした際に、「北欧関係でしたらこちらもどうぞ♪評価も高いですよ♪( ̄ー ̄)」
と本書の案内メッセージが出たので、そういえば「極夜を読んでたっけなあ」ということで、ついでに
注文した次第です。

で、内容は解説の通りなんですが、読了後の感想は「・・・・つまらないなあ、日記なの?これ?」
と言う感じなんですね。

暴くべき敵や犯人、迷宮入り、難事件が出てきて主人公と個性的で魅力的な仲間が対峙し、
艱難辛苦の挙句に敵を事件を解決して大団円。サイドストーリも興味深く、メインストーリーと
絶妙に絡んでいく・・・・・・・・・。(-_-;)フウ

こんな期待はまったく裏切られてしまいました。主人公の日常生活を淡々と綴った日記のようです。
偏頭痛を抱え、煩わしい人間関係に苛まれ、もう嫌になっちゃった、と不平に不満の連続です。
ノルウェイの生活や文化、国民性や社会問題などのサイドストーリは、お話の中心にあまり絡んでこない。
だから興味も関心も湧かない。血みどろの殺人事件も数件発生しますが、さして興味も湧きません。
衝撃的なラスト、展開!と解説者は後書に書いていていますが、「そうなんだ、残念だね」といった感じ。

なんでこうなっちゃったの?そんな感じです。

戦時中のナチスと母国との関係、経緯や背景、戦争犯罪人とその人達の紆余曲折をもっと深掘りして
難事件を設定して、宿敵を登場させてと・・・・・そんな感じの方が良かったのではないのかな?

直前まで「Q」シリーズの「折りの中の女」「キジ」を読んだ後に手に取った本書。
とても残念な評価になってしまいました。
凍氷 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:凍氷 (集英社文庫)より
4087606821
No.7:
(4pt)

生粋のフィンランド人には絶対書けない話

極夜 カーモスの続編です。舞台はヘルシンキ、気温はマイナス10度と暖かくなりました。

妻ケイトの希望通りヘルシンキへ移動となったカリ・ヴァーラ警部は猟奇的殺人事件の捜査、加えて第二次大戦中にフィンランドでもユダヤ人虐殺があったのではないかとの調査を内閣府から依頼される。

あいかわらずカリ・ヴァーラ警部の体は痛々しいが、さらにケイトの妹と弟がアメリカからやってくる。アメリカ疲れのフィンランド贔屓の兄弟たち。一見寄り道のような挿話で、なんでこんな展開にと思いますが、

どっこい、こんな話題でも差し込まなければ耐えられないフィンランドのシリアスな歴史がテーマ。

1930年から続くいわゆる継続戦争とその間のユダヤ人虐殺の可能性に言及しています


著者はフィンランド在住のアメリカ人、だから書けた、生粋のフィンランド人には絶対書けない話。

フィンランドでの評判はどうだったのだろうと気になる所です。

前作に続く傑作ミステリー、北欧ミステリーの快進撃は続きます。
凍氷 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:凍氷 (集英社文庫)より
4087606821
No.6:
(4pt)

北欧はフィンランドのミステリ

スタートから、ズシリと腹にくる、結末もハッピーエンドとはいかないものの、再読No一ミステリ。他の作品「極北」読むつもりです。
凍氷 (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:凍氷 (集英社文庫)より
4087606821



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