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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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アイスランドのベストセラー、エーレンデュル捜査官シリーズの邦訳第3弾(シリーズとしては5作目)である。
クリスマスシーズンを目前にして賑わう高級ホテルの地下で、サンタクロースの衣装を着たドアマンが殺されていた。周囲との付き合いを避け、ホテルの地下の倉庫に隠れるように住んでいた孤独な50男のドアマンは、なぜ殺されたのか? 捜査に非協力的なホテル側と軋轢を起こしながら捜査を進めたエーレンデュルは、被害者が子供のとき、将来を嘱望されたボーイソプラノ歌手だったことを知る。さらに、たった2枚(2種類)だけ制作された彼のレコードが、レアアイテムとして蒐集家の間で高額で取引されているという。事件の背景は、金銭なのか? 殺人事件の捜査をメインストーリーとしながら、エーレンデュル自身の過去、薬物依存から抜け出すために苦しんでいる娘との関係、女性との付き合いに臆病なエーレンデュルの葛藤などが存在感のあるサイドストーリーとして展開され、単なる謎解きではない、読み応えのある社会派ミステリーとして完成度が高い。 北欧ミステリーファンには、文句無しにオススメだ。 |
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黒川博行の「疫病神シリーズ」の第5弾。直木賞受賞作である。
暴力団絡みの仕事で細々と食いつないでいる建設コンサルタント・二宮は、本物の極道で疫病神の桑原に引きずり込まれて、映画の出資金詐欺犯を追い掛けることになった。この詐欺犯は煮ても焼いても食えない爺で、ヤクザの懐から金を盗んでトンズラしようと大阪から香港、マカオ、今治と逃げ回り、さすがの疫病神・桑原もなかなか爺に落とし前を付けさせることが出来なかった。しかも、この詐欺の裏側には、桑原が所属する組織の上部団体のヤクザが絡んでいた。持ち前の喧嘩の強さと悪知恵で突っ走る桑原との腐れ縁を断ち切れない二宮は、いやいやながら体を張って金を回収しようとした・・・。 暴力や義理人情より経済原則で動く現代ヤクザの世界を見事に描いた、一級品のエンターテイメントである。ストーリー展開のスピード、登場人物のキャラの多彩さ、会話の面白さを兼ね備えており、低調なヤクザ映画の世界に旋風を巻き起こすために、ぜひ映画化してもらいたい作品である。オススメです。 |
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1962年に発表された、マーガレット・ミラーの最高傑作と呼ばれる作品の新訳版。私立探偵小説的な要素と心理ミステリーが合体した独特の味わいがあり、古さを感じさせない傑作である。
リノですっからかんになったアマチュアギャンブラーのクインは、カリフォルニアの海岸に向かう途中の山中で友達の車から放り出され、30人ほどが集団生活を送っている「塔」という新興宗教施設に助けを求めた。そこで彼は、「祝福の修道女」から「パトリック・オゴーマンという男性を探して欲しい」という依頼を受け、チコーテという小さな街を訪ねるが、オゴーマンは5年前に謎の死を遂げていた。オゴーマンは自殺なのか、殺されたのか。さらに、「祝福の修道女」は、なぜオゴーマンを探すのか。素人探偵クインは関係者の証言だけを頼りに、真相を探ることになる。 主人公は私立探偵ではあるが決してハードボイルドではなく、ストーリーは緩やかに展開される。また、舞台のひとつが世間から隔絶された新興宗教施設で、そこに暮らす人々は独特の生活観を持っていてクインの常識とズレている点も、物語全体にもやっとした雰囲気を醸し出す要素となっている。だが、オゴーマンの死の真相が明かされるプロセスは見事な心理ミステリーとなっていて、ミラーファンの期待を裏切らない。オススメです。 |
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村上龍の新作長編小説は、ぶち壊したいんだけど壊せない社会への苛立ちをぶちまけた、戦闘的パラノイア小説である。
50代の落ちぶれた元雑誌記者セキグチは、よく分からない理由からテロの現場に立ち会わされ、記事を書くことになった。なぜ自分がテロ現場に立ち会わされるのかを探り出そうとしたセキグチは、70代、80代の老人ばかりの謎のテロリスト集団と関わり、恐るべき彼らの目的を知る。日本に壊滅的な打撃を与えるテロの企てを知ったいま、自分はどう行動すれば良いのか、元々精神的に弱っていたセキグチは、果てしない苦悩のスパイラルを落下して行く・・・。 今の社会に不満を抱き、日本をもう一度廃墟にしようという老人たちにシンパシーを感じながらも、自分が存在している社会を破壊する行為には加担できないと悩むセキグチ。正直者ではあるが、小説のヒーローとしては物足りない。読後感に消化不良が残る小説だが、ストーリー展開は面白い。 |
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ミステリー史上最高齢のヒーローとして衝撃のデビューを果たした「バック・シャッツ」が帰ってきた。シリーズ第2作は、88歳のバックが78歳の伝説の銀行強盗と対決するという傑作ハードボイルド・ミステリーである。
前作での負傷が原因で自宅住まいが難しくなり、妻ローズとともに介護付き住宅に移り住んだバックのもとを、かつての仇敵である銀行強盗のイライジャが訪れ「何者かに命を狙われているので助けてくれ」と言う。44年前に「今度会う時は殺してやる」と言って別れた奴が助けを求めるとは、一体どうしたことか。何かを企んでいるに違いないと思うし、歩行器無しでは歩けない状態なのだが、好奇心に勝てないバックはイライジャの依頼を引き受けることにした。とりあえず、イライジャを警官に引き会わせて保護しようとするのだが、途中で武装グループに襲撃されバックは負傷し、イライジャは誘拐されてしまった・・・。 2009年時点での襲撃・誘拐事件と44年前の銀行強盗という2つのストーリーが交互に展開され、最後に因縁の二人の対決が訪れるという構成でハードボイルド・ミステリーとしてのレベルが高い。さらに、二人の主役がユダヤ人で、ストーリーの背景に根深い人種差別が潜んでいる点も物語に深みを与えている。 87歳で初期認知症のタフガイという奇抜な設定で驚かせた作品の続編だけに、2作目以降に面白い展開が出来るのだろうかと心配したのだが、期待以上の面白さだった。ぜひ、1作目から読むことをオススメしたい。 |
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オスロ警察の警部ハリー・ホーレ・シリーズの第4作。日本では第3作、第7作、第1作に続く翻訳出版である。
オスロ市内の中心部にある銀行が襲われ、犯人は女性行員一人を射殺し、金を奪って逃走した。現場には何も手がかりが残されておらず、プロの犯行だと思われた。本来は強盗部の担当だが、殺人事件でもあるため捜査チームに加わったハリーだったが、捜査が行き詰まったため、新人刑事ベアーテと二人で独自の捜査を進めることになる。ところが、必死の警察をあざ笑うかのように次々と銀行が襲われた。 そんなある日、ハリーは昔のガールフレンド・アンナに誘われて彼女の自宅を訪ね、翌朝、前夜の記憶が無い状態で目覚めた。しかも、新たな死体発見現場に呼び出されてみると、そこはアンナの自宅だった。アンナの死は拳銃自殺と判断されたが、疑問を持ったハリーは真相を探り始める。だが、何の成果も上げられないでいるうちに、ハリーは容疑者として追われることになる・・。 連続銀行強盗とアンナの死、二つの事件捜査が並行して進む構成で、それぞれの話が、それだけでもひとつの作品として成立するほど良く出来ているので非常に読み応えがある。さらに、第3作から続いているハリーの相棒刑事の死を巡る物語も見え隠れして(第5作で完結とのこと)、最初から最後まで意外性に満ちた、緊張感あふれるストーリーが展開されて飽きることが無い。 本格警察小説であり、社会派サスペンスであり、人間心理の複雑さを見事に描いた心理小説でもあり、どなたにもオススメできる傑作エンターテイメントだ。 |
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2013年の「ガラスの鍵」賞の受賞作。ノルウェーでは絶大な人気を誇る「ヴィスティング警部」シリーズの第8作で、日本では本作が初めての紹介になるという。
オスロ郊外の警察に勤務するベテラン刑事ヴィスティングはある日、17年前に捜査責任者として関わった女性誘拐殺人事件での最重要証拠が「警察によるねつ造だった」と新聞にスクープ記事を書かれ、停職処分を受けることになった。スクープ記事を掲載した新聞の記者でヴィスティングの娘であるリーネは、父親の記事を一面から外すような大きな記事を書こうとして、ある殺人事件の取材に全力を傾けるが、父の記事を外すことは出来なかった。 証拠ねつ造の記事が虚偽ではなかったことを知ったヴィスティングは、身の潔白を証明するために、組織には頼らずひとりで真相究明に立ち上がる。一方、取材を進めたリーネは、殺人事件の被害者と17年前の事件の容疑者の軌跡が交差していることを発見した。父と娘は協力し、過去と現在の事件のつながりを暴き、2つの事件の真相を解明する。 50代で思慮深く人間味にあふれる父と20代で行動派の娘が、それぞれの持ち味を生かした思考と行動で謎を解明して行くストーリーは展開が早く、しかも論旨が明快で非常に読みやすく、ひとつひとつのシーンが目に浮かんでくる。かといって薄っぺらな訳ではなく、主人公の二人を始め味のあるキャラクター揃いで読み応えがある。 これまでの北欧警察小説に比べて読みやすく、理解しやすい作品で、北欧ミステリーの重さが苦手な人にもオススメだ。 |
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【ネタバレかも!?】
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「法人類学者デイヴィッド・ハンター」シリーズ(どれも未読なのだが)で人気のイギリス人作家サイモン・ベケットのノン・シリーズ作品。死体の状態から犯罪の実装を解明する科学ミステリーとは真逆の、登場人物の疑心暗鬼が中心になる心理サスペンスである。
フランスの片田舎でヒッチハイクをしていた英国人ショーンは、パトカーを避けるために入り込んだ農場で動物用の罠にかかって気を失ってしまう。気がついたときには農場の納屋の屋根裏に寝かされ、農場の娘マティルドに看病されていた。傷が癒えるまで世話になるつもりだったショーンだが、農場の手伝いを頼み込まれ、自身に行く当てもなかったため、この農場で働くことになる。頑固者の農場主アルノー、父無し子を抱えるマティルド、その妹グレートヒェンの4人が暮らす農場は地域社会とは絶縁し、対立していた。ショーンにはアルノー、マティルド、グレートヒェンのそれぞれに秘密があり、何かが隠されている気がして仕方がなかった。しかも、ショーン自身があることから逃げるためにフランスに来た逃亡者だった。 農場で秘密を探る本筋と、ショーンの事件の回顧の話とが交互に展開されるのだが、どちらもなかなか真相が明らかにされず、読んでいる間は泥沼を歩かされているような重苦しさがある。そのもどかしさを楽しめるかどうかで、本作の評価は異なってくるだろう。 |
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巻末の解説によると、本作品はディヴァインの著作としては2作目ながら本邦初訳だとか。1962年発表なので実に半世紀以上前の作品だが、まさに「トラディショナルな本格ミステリ」と呼ぶにふさわしい、風格を感じさせる作品である。
スコットランドの地方都市で診療所を経営する医師ターナーは、2ヶ月前に事故死した共同経営者のヘンダーソン医師が実は殺されたのではないかと告げられる。自分でも事故説に疑問を持っていたターナーは犯人探しに乗り出し、医師殺害の動機、機会、手段を持つ人物を絞り込んで行くのだが、周辺からはターナー本人とヘンダーソンの未亡人も犯人ではないかと疑われてしまう。さらに、ヘンダーソンの隠された秘密が明らかになり、重要な目撃者と思われた人物が殺害され、事態はますます混沌としてしまう・・・。 フーダニッドの王道を行く構成で、あっと驚くようなトリックや騙しの要素は皆無で、後から振り返れば犯人を指し示す情報は全て、物語の早い段階から読者に提示されている。それでもほとんどの読者は最後まで(ターナーが解説するまで)犯人の絞り込みができないだろう。それだけ登場人物のキャラクター設定が巧みで、読者をミスリードする技術が抜群に優れている。 半世紀の経過などまったく感じさせない傑作として、本格派ファンには絶対のオススメだ。 |
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「重要登場人物の正体は誰か?」という疑問を追い掛ける物語だが、小説のテーマは謎解きより心の揺れに置かれているため、ミステリーとは言い難い作品である。
8年前に夫を亡くしてから二匹の猫と一人暮らしを続けている鏡子は、軽井沢の隣町の個人文学記念館を一人で切り盛りし、判で押したような平凡な日々を送っていたが、精神的な不調が悪化し、近くのクリニックの精神科を受診した。担当した非常勤医の高橋医師の穏やかで丁寧な対応に心を癒され、回復した鏡子は、徐々に高橋医師との関係を深め、毎週水曜と土曜の夜は一緒に過ごすのが習慣になっていた。ところが、半年ほど経った水曜日、高橋医師が訪れることは無く、連絡も取れなくなってしまった。焦燥感にかられた鏡子は、高橋医師が勤務している横浜の病院を訪ねるのだが・・・。 59歳の女性が心を寄せた55歳の男は、実は高橋医師ではなかった? 信じていた男に裏切られた鏡子は激怒しながらその正体を暴こうとするのだが、そこで知った真実はあまりにも切なくてほろ苦かった。「ニセ医者」が本当の医者より親身になって患者を救うというのは、ままありがちな話だが、本作は精神科医という設定によって、非常に奥行きのある心理劇に仕上がっている。ミステリー風味を効かせたロマンス小説としてオススメだ。 |
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キャシー・マロリー・シリーズの第4弾。マロリーのニューヨーク以前の秘密が明かされる、シリーズの転回点となる作品である。
前作「死のオブジェ」のラストで誰にも行き先を告げずにニューヨークを離れたマロリーは、ルイジアナ州の片田舎デイボーンの保安官事務所の拘置所にいた。その町は、17年前にマロリーの母が殺害され、幼いマロリーが行方不明になった忌まわしい記憶が残る故郷だった。町では、マロリーが姿を現した直後から自閉症の青年が両手を骨折させられ、その犯人であるカルト教団の教祖が殺害され、副保安官が心臓発作で病院に運ばれるという事件が続発した。 マロリーを探しにデイボーンにやってきたチャールズは、マロリーの母親の遺産管理人の女性に会い、マロリーが拘置されていることを知る。マロリーを助けるべく奮闘するチャールズは、マロリーの母親の死とカルト教団の関係を探り出し、マロリーの生涯を決定づけた事件の真相を知ることになる。 「氷の天使」の誕生秘話が明かされるという点で、シリーズ読者にとっては必読の一作。ストーリーはややご都合主義で不満が残るが、主役の二人はもちろん周辺人物もキャラクターが際立っていて面白いエピソードが多いので、それなりに楽しめる。シリーズ読者には絶対のオススメ、そうでない人には時間があればオススメというところか。 |
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「刑事オリヴァー&ピア」シリーズの第一作。今やドイツミステリーの女王と称されるノイハウスが自費出版し、評判を聞きつけた老舗出版社が版権を取得したというエピソード付き、ノイハウスの実質的なデビュー作である。
フランクフルト郊外の農村で、鬼検事と呼ばれる上級検事が猟銃自殺した。同じ日、飛び降り自殺に偽装された女性の遺体が発見された。女性は獣医師の妻で、乗馬クラブで働いており、死因は動物の安楽死用の薬物注射だった。オリヴァー率いる捜査班が女性の周辺の聞き込み捜査を始めると、出てくるのは彼女の悪評ばかりだった。彼女の死を望んでいた容疑者の多さに戸惑い、捜査方針を絞り込めなかった捜査陣だったが、地道な聞き込みにより、事件と検事の自殺とのつながりを見つけ、地元の有力企業を巻き込んだスキャンダルを暴くことになる。 デビュー作だけに、すでに邦訳されたシリーズの3、4作「深い疵」、「白雪姫には死んでもらう」に比べると若干、未完成な部分を感じるが、それでも十分に読み応えがある。ドイツ、北欧系ミステリーのファンには、自信を持ってオススメできる。 |
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北アイルランド在住の作家のデビュー作。今年の各種ミステリーベストテンに入るのは間違いないと断言したい、傑作だ。
ワーカホリックで家庭を崩壊させ、アルコール依存症の治療を受けながらどん底をさまよっていたニューヨークの刑事弁護士フリンは、ある朝、ロシアン・マフィアに「娘を誘拐した。指示通りにしなければ娘を殺す」と脅迫される。その指示とは、マフィアのボスの弁護を引き受け、ボスの有罪の決め手になる重要証人を法廷で爆殺しろ」という、実行不可能な難題だった。ロシアン・マフィアが立てた計画に沿って法廷内に爆薬を持ち込んだフリンは、娘を救うため、さらには自分を救うために、父親から教えられた詐欺とスリのテクニック、弁護士としての知識を総動員して絶望的な戦いに挑む。 マフィアに脅されるときからクライマックスまで、わずか一日半に凝縮されたストーリー展開の速さが脅威的。しかも、単純な法廷ものに納まらず、ギャングの対立あり、検察やFBIとの駆け引きあり、アクションあり、主人公の波乱に富んだ人生ありで、エピソードも盛り沢山。いたるところにツイストが効いていて、全く中だるみがない。 家庭崩壊の酔いどれ弁護士というのはよくある設定だが、その生い立ちや酒に溺れるきっかけなどがユニークで、主人公フリンのキャラクターが魅力的である。 本作はシリーズ化され、2016年には第二作が発表される予定だと言う。 今年を代表するエンターテイメントとして、自信を持ってオススメしたい。 |
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イブ&ローク・シリーズの第34作。このシリーズ、これまで一度も読んだことが無かったのだが、作者のJ.D.ロブはロマンス小説の人気作家ノーラ・ロバーツの別名で、20年間に42冊という驚異的なハイペースで発表され続けているという。
本作は、12年前、イブが新人警官だったときに逮捕した連続少女暴行犯マックィーンが脱獄し、イブへの復習を仕掛けるというのがストーリーの本筋。さらに、イブの生い立ちに関わる因縁の街・ダラスが舞台となることで、忌まわしい過去から決別するための苦闘がサブストーリーとして物語に重みを加えている。 マックィーンの脅迫手段、捜査の進展、衝撃のクライマックスというスリリングなストーリー展開は抜群に面白く、警察小説として非常に高く評価できる。ただ、随所に出てくる「ロマンス小説」の味付けが、個人的には鼻について減点要素になった。 時間設定が2060年代ということで登場するさまざまなガジェットの名前や機能がちょっと特殊だったり、シリーズ物なので過去のエピソードが関連するシーンがあったりするのだが、読み進めるのに邪魔になることは無い。 ドライでクールなサスペンスが好みの方にはオススメできないが、ミステリーにもロマンチックな味わいが欲しい方にはオススメだ。 |
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ドイツ・ミステリ大賞を受賞したという、トルコ系ドイツ人作家による「猫ミステリー」。猫が探偵役を務めるミステリーだが、扱うのが人間の犯罪ではなく、猫の連続殺人(殺猫)という異色作。ドイツを始め各国で大ヒットし、続編もベストセラーになったという。
ミステリー愛好家であることはもちろん猫好きでもあるので「これは必読」と読み始めたのだが、最初から猫殺しシーンの続出で、しかも描写がどぎついので、ちょっと辟易した。我慢して読み進めると、独特のユーモアがあるし、鋭い社会批評もあり、最後はかなり考えさせられる作品だった。 猫の愛らしさを溺愛する人には残酷過ぎてオススメできないが、そこさえ我慢できる人には、良質なミステリーとしてオススメできる。 |
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キャシー・マロリー・シリーズの第3弾。これまでの2作に比べるとミステリー要素が重視され、警察小説らしさが高まってきた作品だ。
ニューヨークの画廊でアーティストが殺害された事件が発生。市警には、12年前に同じオーナーの画廊で起きた猟奇殺人事件との関連を示唆する手紙が届いた。捜査を担当するマロリーとライカーのコンビは、12年前の事件を担当したマーコヴィッツが残した膨大なメモを手がかりに、美術界の裏側をこじ開けるように強引な捜査を進めていたが、なぜか警察上層部から捜査妨害を受けるようになった。壁が高くて厚いほど力を発揮するのが、マロリーの半分非合法な操作手法であり、嘘とはったりと度胸で関係者を揺さぶり、最後には美術界に横行する金儲け主義と芸術家一家の悲劇の真相を暴くことになる。 たぐいまれな美貌と天才的な頭脳と徹底的なモラルの欠如、というマロリー像は継続されているものの、本作では所々「マロリーらしからぬ」人間的感情をみせるシーンがあり、ライカーやチャールズとの関係、自分の過去への向き合い方などにも、これまでの「氷の女」一辺倒ではない変化の兆しが見て取れた。登場人物のキャラクターの変化が物語に深みを与えるという、シリーズものならではの楽しみが感じられた。 ミステリーとしての完成度はまだまだ今ひとつな印象だが、登場人物のキャラクターの変化を楽しむという意味でも、読み続けたいと思わせるシリーズである。 |
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スウェーデンで大人気の犯罪捜査官マリア・ヴェーンシリーズの第9作。邦訳では2作目である。
今回は、大自然の中での一週間のセラピーキャンプということで無人島に渡った7人の女性たちが次々に死体となって発見されるという、クリスティの「そして誰もいなくなった」みたいなお話。嵐に襲われた無人島という限られた空間、自分たち以外の人間がいるはずは無いのに次々と起きる不可解な現象、通信が途絶え、食料も無いなかでの相互不信。訳あって身分を隠したまま参加したマリアが、人格が崩壊しかけた6人を相手に壮絶なサバイバルゲームを乗り切って行く。 事件の背景には深刻な社会病理が隠されており、島に集まった7人のそれぞれの事情が現代の社会不安を象徴している、社会派ミステリーである。また、離婚を経て揺れるマリアの心境変化を追い掛けるロマンス小説でもある。 ただ、謎解きミステリーとしてはかなり弱い気がするので、オススメはしない。 |
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息長く続いているIWGPシリーズの第11弾。20代後半になっても相変わらず地元愛一筋のマコトとタカシとGボーイズたちの、ちょっぴりくたびれだした青春ストーリーだが、さすがに石田衣良の看板作品だけあった退屈はさせない。
収録の4作品は、脱法ドラッグ、パチンコ中毒、胡散臭いネットビジネス、ヘイトデモと、いずれも時代を象徴するようなテーマばかり。どこか上っ面で偏狭で不寛容な世の中に対し、愚直な生活人の視点を失わず、しかし時代の流れに上手に乗っかって世直しに励む「街の不良たち」の物語である。 テレビドラマを見るのと同じ感覚で楽しい時間が過ごせること請け合い。深刻な社会派はちょっと勘弁、という人にオススメだ。 |
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シカゴの女性探偵V.I.ウォーショースキー・シリーズの16作目。前作「ナイト・ストーム」を越えるボリュームで読み応え満点の力作である。
親友のロティから「知り合いの女性ジュディを捜して、助けてやって」という依頼を受けたヴィクは、ジュディがいるはずの田舎町に出かけたが、銃殺された男の死体を発見しただけで、ジュディの姿はどこにもなかった。麻薬中毒でドラッグハウスを出入りするジュディに嫌悪感を抱くヴィクだったが、ロティのたっての願いでジュディの行方を探し始めた。すると、第二次世界大戦前のウィーンから始まるジュディとロティの祖先の悲しい歴史と、アメリカの原水爆開発、現代の最先端企業の誕生秘話が絡み合う、壮大な嘘と裏切りのドラマが見えて来た。 50代になっても少しも変わらない情熱で世の不正義に立ち向かうヴィクが今回相手にするのは、なんとテロ対策に躍起となっている国土安全保障省と巨大IT企業のタッグ。資力、権力、情報力など全てにおいて圧倒的な差がある難敵に対し、一歩も引かないヴィクの激闘が読者のハートを熱くする。それにしても、テロ対策の一言で基本的人権を全て無視する行政機関の横暴と、あらゆるネット情報を監視して個人情報を盗み取る巨大IT企業の図々しさには、ヴィクならずとも腸が煮えくり返る思いがするが、同じことが日本でも起きる可能性が高い(すでに起きている)ことを考えると、とてもアメリカのフィクションとして読み流すわけにはいかなかった。 とは言え、社会派エンターテイメントとしても一流の仕上がり。シリーズでおなじみの周辺人物&犬たちも健在で、読者の期待に応えてくれる。すでに完成しているという次作の登場が待ち遠しい。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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英国の大手出版社の小説創作コースを卒業したばかりの新人のデビュー作なのに、出版権が破格の高額で落札され、しかも英国での出版の前に25カ国での出版が決まったという、まさに前代未聞の話題を呼んだ作品。そんな大騒動も納得できる、素晴らしく完成度が高いサイコミステリーである。
テレビ業界で成功を収めている49歳のキャサリンは、息子の独立を機に、夫婦二人だけで暮らすために引っ越しをした。引越しからしばらく経って落ち着き始めた頃、自分では買った覚えの無い本を見つけて読み始めてみると・・・そこには、20年前の忌まわしい出来事と彼女のことが書かれていた。完全に隠して来たはずの出来事をここまで詳細に再現しようとするのは、あの男の家族なのか、知らなかった目撃者なのか? 動揺したキャサリンは事態も自分自身もコントロールできなくなり、仕事も家庭も崩壊の坂を転げ落ちだしてしまった。 前半では、キャサリンの視点からと本を送った人物の視点から交互に物語が展開され、隠された秘密が徐々に明らかにされて行く。本を送った老人の妻への愛情の濃さが過剰で辟易させられるが、動揺するキャサリンにも後ろめたい部分があるようで、20年前の秘密が徐々に明らかにされるごとにサスペンスが高まって行く。 物語の後半部分では、キャサリンと老人が直接的にコンタクトを取り、想像を絶するクライマックスを迎えることになる。 残酷なシーンや恐怖を呼び起こすような描写がある訳ではなく、克明な心理描写だけで愛に潜む狂気の恐さを生々しく実感させる、この筆力は特筆もの。女性作家ならではの心理サスペンスの醍醐味がたっぷりと味わえる大傑作。心理サスペンスファンには、文句なしのオススメだ。 |
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