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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1360

全1360件 1041~1060 53/68ページ

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No.320:
(8pt)

北欧発の国際ミステリー

スウェーデンに新たな国際派ミステリー作家が誕生したことを告げる、完成度の高いデビュー作である。
アラブ系のスウェーデン人で「戦争下請け企業」について研究しているムーディ、ムーディの元の恋人で欧州議会議員のスタッフとして働いているクララ、ブリュッセルのロビイング会社で働くジョージという3人のスウェーデン人が主人公で、物語は2013年12月、クリスマス前の3週間ほどの間にブリュッセルからパリ、スウェーデンへとスピーディーに展開されて行く。さらに、物語の背景として1980年代から中東で活動してきた謎のアメリカ人スパイの回想が度々挿入され、3人が巻き込まれた陰謀劇に更なる奥行きが加えられる。
いわゆるスパイ小説というよりはアクション・ミステリーであり、悪役の素性が簡単に分かっても、逃避行のスリリングさで最後まで読者を引きつける。追跡もの、アクションもの、国際謀略もの好きにはオススメです。
スパイは泳ぎつづける (ハヤカワ文庫NV)
No.319:
(7pt)

ロマンの部分が邪魔をして・・・

逢坂剛の大人気歴史冒険小説イベリアシリーズの第二作。
ドイツとイギリスの戦いがこう着状態に落ち入っていた1941年、スペインが枢軸側で参戦するのか、日米戦争が始まるのかが、戦況を大きく変える契機として世界中で注目されていた。日本の情報員・北都昭平は日米戦争を回避させるために情報作戦を行っていたが、前作「イベリアの雷鳴」で知り合った英国の諜報員・ヴァージニアとお互いに引かれ合うようになってきた。対ドイツ戦を勝ち抜くために、何が何でも米国を引き込みたい英国は、日米が戦争を開始せざるを得ないようにするために諜報戦を仕掛けており、昭平とヴァージニアの立場は完全に相反するものとなっていた。お互いに相手の立場、自分の任務を理解しながらも、どうしようもなく引かれ合う二人は・・・。
作品紹介に「エスピオナージ・ロマン」とある通り、主人公と英国諜報部員との「許されざる恋」が表面に押し出されて来た分だけ、スパイ小説としての魅力は前作より劣ると言わざるを得ない。それでも、オススメ出来る大型エンターテイメント作品であることは間違いない。
遠ざかる祖国〈上〉 (講談社文庫)
逢坂剛遠ざかる祖国 についてのレビュー
No.318:
(6pt)

豪華版のお子様ランチかな?

第12回「このミス」大賞の受賞した、梶永正史のデビュー作。いま大人気(?)らしい女性捜査官ものにニューヒロイン・郷間彩香の登場である。
銀行立てこもり事件が発生し犯人の要求により、なぜか詐欺犯担当の主任代理の郷間彩香が交渉人兼現場指揮官として派遣された。経験も権力もない三十路女は、現場の男たちと衝突したり、理解し合ったりしながら、度胸ひとつで人質の解放、事件の解決へと奮闘する・・・。
事件発生から終結まで丸一日という時間設定、人質を取った立てこもり事件、鼻っ柱の強い女性刑事、警察内部の権力争い、正義のためなら暴力も辞さないという謎の集団などなど、エンタメ・ミステリーを盛り上げる要素がてんこ盛りで、ヒロインを始めとする登場人物のキャラクターも色鮮やかなのだが、随所に挟み込まれるヒロインの心理描写が、ユーモラスといえばユーモラスなのだが、ライトノベルみたいで、急に緊張感が薄れ「味が幼稚」と言わざるを得ないのが残念。テレビドラマの原作としてなら、高い評価を受けるだろう。
警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.317:
(7pt)

人と人のつながりを考える(非ミステリー)

根津で暮らす二人の前科者、芭子と綾香コンビのシリーズ完結編。
やりたい仕事が見つかり、将来に希望を持ち始めたいた二人は、平穏な日々を楽しんでいた。ずっとこんな日が続くと信じていたのに、あの大震災を機に二人はそれぞれの道を見つけなければいけなくなった。
過去と向き合い、新しい道を生き抜こうとするけなげな二人の決心にエールを送りたくなる、ハートウォーミングなホームドラマである。
いちばん長い夜に (新潮文庫)
乃南アサいちばん長い夜に についてのレビュー
No.316: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ただ生き抜くだけ(非ミステリー)

乃南アサのこれまでの作品とは全く違う、北海道移住の女性の一生を描いた、非ミステリー作品である。
「おしん」か、それ以上の苦難の歴史を丹念に描き、「人の一生とは何か」を問いかけてくる。主人公の母の「お国の言うことなんか信じるんじゃ無い」という言葉が胸に迫ってくる。
地のはてから(上) (講談社文庫)
乃南アサ地のはてから についてのレビュー
No.315: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人=正義の味方?

忘れられていたフランス・ミステリーの古典(1958年作)の本邦初訳。フランスでは映画化やテレビドラマ化され、人気があった作品とのこと。最初から犯人が分かっているので謎解きミステリーではない。かといって、検察と弁護側の丁々発止のやり取りがある法廷劇でもない。一言で言えば、風刺ミステリーである。
フランスの地方都市で薬局を営むグレゴワールは、ふとしたことから、街の女性たちから鼻つまみ者にされていた奔放な若い女性ローラを殺害してしまった。警察は、ローラのボーイフレンドでよそ者のアランを殺人容疑で逮捕し、街の人々が死刑を要求して沸き上がるなかで裁判が始まり、「アランが有罪になれば、正義が行われないことになる」と苦悩するグレゴワールは、アランの無罪を実現するために知恵を絞ることになる。ところが、グレゴワールが陪審員に選ばれることになってしまった。
自分の罪を告白すること無くアランの無罪を証明するという難問に挑むグレゴワールの悪戦苦闘が、ブラックなユーモアに包まれて描かれ、人間の愚かさ、おかしさ、社会共同体の頑迷さが強烈に風刺されている。不気味な同調圧力が高まる現在の日本社会を考える時、なかなか示唆に富む作品と言える。
七人目の陪審員 (論創海外ミステリ)
フランシス・ディドロ七人目の陪審員 についてのレビュー
No.314: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

フリーメイスン、陰謀論好きに

ダン・ブラウンの大ヒット作「ラングトン」シリーズの第3作。
悪役のキャラクターが異様で面白かったが、フリーメイスンにも、陰謀論にも興味が無いので話が荒唐無稽過ぎて集中できなかった。
ロスト・シンボル (上) (角川文庫)
ダン・ブラウンロスト・シンボル についてのレビュー
No.313:
(7pt)

じわじわと来る面白さ(非ミステリー)

これまで名前も聞いたことが無い作家だし、ネットでの評判もあまりないのでどうかと思っていたのだが、読み進める内にじわじわと面白くなってきた。
イギリスの田舎町で起きた複数の同時爆発事故により、65人が死亡、多数の負傷者が出た。そのとき、事故に巻き込まれた人々は何をしていたのだろうか? 
事故発生の1分前から1秒刻みのカウントダウンで、犠牲者一人一人が持っていたドラマを濃密に描写して行く手法が極めてユニークかつ効果的。ミステリーではないものの、エンターテイメントとして良く出来ており、多くの人にオススメしたい。
最後の1分
エレナー・アップデール最後の1分 についてのレビュー
No.312:
(7pt)

M.I.クラスのド派手アクション

ハリウッドで映画化すれば絶対受けそうな、ド派手なアクションのエンタメ作品。物語の始まりから終わりまでが24時間ほどに凝縮されており、息つく暇も無いほどのスピード感が味わえる。
ニューヨーク市の地方検事ジャックがある朝、目覚めると、胸には銃創を乱暴に縫った痕があり、左腕には見たことも無い文字らしき刺青があるのを発見する。何も思い出すことが出来ず戸惑うジャックだが、さらに朝刊に自分と愛する妻が昨夜、事故で死亡したという記事を見つけて驚愕する。自分は生きているのに、どういうことだろう? やがておぼろげながらよみがえってきた記憶を辿ってみると・・・。
失われた記憶を再生しながら、行方が分からなくなった妻を捜してニューヨークを走り回るジャックのノンストップアクションが面白い。非情に徹した凄腕の悪役、自分の身を投げうって助けてくれる相棒、敵にも味方にも見える上司や権力者などなど、脇役も充実していて全く飽きさせない。事件の背景や真相がどうのこうのより、奇想天外でスピーディーなアクションの連続にハラハラしているうちにクライマックスを迎えて、「あー、面白かった」とページを閉じるのが正しい楽しみ方だろう。
夜明け前の死 (新潮文庫)
リチャード・ドイッチ夜明け前の死 についてのレビュー
No.311: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

もし事情が違っていたら

ドイツでは知らない者はいないという超人気作家の長編ミステリー。日本では5年ぶり、2作目の紹介である。
イギリス・ヨークシャーの寒村に建つ広大な屋敷では、休暇のたびに、夫同士が同級生という三組のドイツ人家族が一緒に過ごしていた。三人の夫を中心に信頼と友情に結ばれている九人のグループだったが、ある日、三人の大人と二人の子供が惨殺されるという悲劇に見舞われた。グループの残された四人は全員、アリバイが無かった。また、突然現れて、この屋敷の相続権を主張してきたみすぼらしい男の姿が、屋敷の周囲でたびたび目撃されていた。犯人はだれか、その動機は何なのか?
三組の家族はそれぞれ家族内の問題を抱えており、さらにグループ内の人間関係に隠されていた古くて陰鬱な問題が影を落としていた。また、屋敷の相続権を主張する男は恋人との間でトラブルが頻発していた。作者は、このいわば四組の人間関係ドラマを丁寧に、濃密に描き出し、人間心理の複雑さと不可解さ、強さと脆さを読者に突きつけてくる。謎解きの部分はさほど卓越したものではないが、人間ドラマの面白さは圧巻。「ドイツミステリの女王」の呼称はダテではない。
非アクション系ミステリーや心理ドラマの愛好者には、絶対のオススメだ。
沈黙の果て〈上〉 (創元推理文庫)
シャルロッテ・リンク沈黙の果て についてのレビュー
No.310: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

シリーズ物を途中から読むのはつらい

ノルウェーでは大人気の女性作家アンネ・ホルトの代表作「ハンネ・ヴィルヘルムセン」シリーズの第7作。「何で、7作目から?」と思ったら、これまで90年代後半に1〜3作が翻訳・出版されており(残念ながら未読)、今回、15年ぶりに邦訳されたとのこと。つまり、シリーズ物でありながら、最初の作品紹介からはかなりの時間が経過し、しかも4〜6作目は翻訳されていないのだ。このあたりの事情もあって、登場人物のキャラクターに入り込むことが出来ず、どうにも中途半端な読後感だった。
クリスマスを控えたオスロの高級住宅街で資産家の夫婦とその長男、出版コンサルタントの4人が射殺された。資産家の一家には財産分与を巡る諍いがあり、家族間のもめ事ではないかという捜査方針で捜査が進められた。しかし、出版コンサルタントの存在が気にかかるハンネは全く違う方向から事件を解明しようとし、他の捜査陣とぶつかることになる・・・。
ストーリーは殺人事件捜査を中心に展開されるのだが、物語の重点の半分はハンネの生き方に置かれており、これまでのバックグラウンドが分かっていないので、面白さが半減してしまった印象だったのが残念。これから読まれる方には、ぜひ1〜3作を読んでおくことをオススメする。
凍える街 (創元推理文庫)
アンネ・ホルト凍える街 についてのレビュー
No.309: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

予想を裏切る(笑)面白さ!

ディック・フランシスの晩年、最後の4作を共著者として支えた次男のフェリックス・フランシスが、単独長作としてスタートさせた「新・競馬シリーズ」の第一作である。大昔、ファンを興奮させたディックの衣鉢を継いだというか、出藍の誉れというか、想定以上の面白さの競馬ミステリーだ。
将来を嘱望された若手だったのに落馬事故で騎手を断念し、今はファイナンシャル・アドバイザーとして活躍する主人公・フォクストンが同僚のハーブと競馬場にいたとき、すぐ横にいたハーブが射殺された。なぜかハーブの遺言執行人に指名されていたフォクストンはハーブの遺産を整理しようとして、多数のクレジットカードを発見する。さらに、何者かに脅迫されていたことをうかがわせる紙片も見つかった。フォクストンは、ハーブ殺害の謎を解くために警察には頼らず、独自の調査を始めることになる。同じころ、フォクストンの顧客のひとりである騎手のサールが急に投資金の回収を迫ってくる。さらに、事務所の重要な顧客であるロバーツ大佐が自分の巨額投資に疑問を抱き、フォクストンに極秘調査を依頼してきた。次次に登場する謎を追い掛けるフォクストンは、ついには命まで狙われる事態になる・・・。
警察からは事件への関与を疑われ、さらには同棲する恋人との関係にも疑念を抱くようになったフォクストンが、それでも冷静沈着に絡み合った謎を解いていくさまは、まさにブリティッシュ・ハードボイルドの王道で、黄金期の競馬シリーズを彷彿とさせる。ディック・フランシスファンにはもちろん、クールなミステリーを読みたいと思っている人にもオススメだ。
強襲 (新・競馬シリーズ)
フェリックス・フランシス強襲 についてのレビュー
No.308: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

評価が二分されるのも納得

今や日本でも人気作家となったシーラッハの「コリーニ事件」に続く長編第二作。2013年に発表されたとき、ドイツでは評価が二分されたという。
没落した名家の御曹司ゼバスティアンは写真芸術家として成功し、活躍していたが、若い女性を誘拐したとして逮捕され、起訴された。弁護を頼まれた辣腕弁護士ビーグラーは、ゼバスティアンの自供は取調官の脅迫によるものだとして自供の有効性を争うことにした。果たして、ゼバスティアンは有罪か、無罪か。
ゼバスティアンの複雑な生い立ち、不可解な犯行の様態に、冷静沈着な弁護士ビーグラーも苦心惨憺。それでも、じわじわと事件の真相に迫り、最後は無罪を勝ち取るのだが、最後の最後までゼバスティアンの動機には不明な部分が残されていた。
ミステリーとしては致命的な欠陥があると感じるのだが、「真実とは何か」を問う物語としては非常に味わい深く面白かった。確かに、評価が難しい作品である。
禁忌
No.307: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ミステリーより心理劇として

スウェーデンの人気ミステリー作家アンナ・ヤンソンの本邦初登場作。スウェーデンでは現在15作目まで刊行されているという「マリア・ヴェーン」シリーズの第8作目で、このシリーズは新作が必ずベストセラーになり、何本ものテレビドラマが制作されているというが、なるほどと思わせる作品である。
人気観光地であるゴッドランド島の海辺の街で三家族が集まったホームパーティーの夜、集まったうちのひとりで9歳になる少年アンドレアスが行方不明になった。家族はもちろん、警察も必死で行方を探すのだが、少年の足跡はどこにも残っていなかった。夏の間だけゴッドランド島警察で臨時勤務していたマリアは、離婚して離れて暮らしている自分の息子と同年代のアンドレアスが二重写しになり、心を痛めていた。
事件の背景には三家族、それぞれが抱える複雑な家族関係があり、誰もがアンドレアスの身を案じながらも正直な告白をためらったため、捜索は難航し、ストーリーも二転三転し、犯人と目される人物も二転三転する。このよじれ具合が一番の読みどころで、犯行の動機や様態が判明するまでのプロセスは、どちらかといえば付け足しのような印象を受けた。
とはいえ、スウェーデンでの人気が納得できる傑作ミステリーであることは間違いない。
消えた少年 (創元推理文庫)
アンナ・ヤンソン消えた少年 についてのレビュー
No.306: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

こんな面白い作品が残されていた!

1975年、ジェームズ・M・ケインが亡くなる2年前、83歳のときに書いたもので、完成作ではなく草稿として残されていたものを、ケインを敬愛する編集者が丁寧な編集作業の末に2012年に発表した、ケインの遺作である。
21歳になったばかりで未亡人のなったジョーンは一人息子のタッドを養うために、セクシーな衣装でチップを稼ぐカクテルバーに勤めることになる。そこで彼女は、富豪の老人ホワイト三世に見初められ金銭的な援助を受け、最後には結婚することになる。また一方、若くてハンサムだが貧しい青年トムに出会い、心を引かれる。母として息子の生活を第一に考えるジョーンだったが、トムへの思いを断ち切ることが出来なかった。
DVでジョーンを苦しめていた最初の夫は、泥酔して夫婦喧嘩の末に車で自損事故を起こして死亡したのだが、警察はジョーンの事件への関与を疑っていた。さらに、狭心症の持病を持っていたホワイト三世が自宅で死亡したことも、ジョーンの犯行ではないかと捜査をはじめた。そして最後にトムが殺害されているのが発見されたことで、ついにジョーンは逮捕されてしまう。果たして、ジョーンは冷静な顔で殺人を繰り返す希代の悪女なのか?
物語は最初から最後まで、ジョーンの独白で貫かれている。このため、読者は真相に手が届きそうで届かない焦燥感にかられてページを捲る手を止められなくなる。さらに、「ジョーンは正直に語っているのか? 正直に語ったとしても、すべてを語っているのか?」という疑問が最後までサスペンスを高めてくれる。
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」に勝るとも劣らない、文句なしの傑作ミステリーである。
カクテル・ウェイトレス (新潮文庫)
No.305: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ファンタジーとして(非ミステリー)

はやらない雑貨店の老主人が始めた人生相談が、タイムスリップして、多くの人の人生を彩って行くというファンタジー小説。物語としては、それなりの面白さがあるが、ミステリーファン的には期待外れだった。
ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)
東野圭吾ナミヤ雑貨店の奇蹟 についてのレビュー
No.304:
(6pt)

良くも悪くもマーロウの世界

「フィリップ・マーロウ」シリーズの第5作「かわいい女」の村上春樹氏による改題・新訳版。1949年の作品だが、村上氏の新訳により、さほど古臭い感じはしなかった。しかし本筋のストーリの展開がイマイチで、あまりすんなりと読み進めなかった。
カンザス州の田舎町から出てきた堅物の田舎娘に「ロサンゼルスで行方不明になった兄を探して欲しい」と依頼されたマーロウは、娘の態度への好奇心からわずか20ドルの報酬で引き受けた。ところが、調査に乗り出したとたん、行く先々でアイスピックを使った連続殺人事件に巻き込まれることになる。誰が、何のために殺害しているのか、行方不明の兄はどう関係しているのか? LAの貧しい裏通りと華やかなハリウッドを舞台に、映画界とギャングの欲望がぶつかり合い、醜い裏切りのドラマが繰り広げられて行く。
古典的ハードボイルドの王道・マーロウのシニカルで洒落たセリフは健在だが、肝心のストーリー展開が複雑かつ切れがなく、犯人探しに重点を置いて読むと物足りなく感じられる。
登場人物のキャラクターやセリフ、エピソードの細部など、いつもの「マーロウの世界」を楽しみたい読者にはオススメだ。
リトル・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.303: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

人を信じることの難しさ

吉田修一の最新作。単なる犯罪小説を超えた、読み応えのある人間ドラマである。
八王子郊外の新興住宅地で夫婦が惨殺された事件から一年、犯人は特定されていたが未だ所在不明のため、捜査本部は未解決事件を特集するテレビ番組に情報を提供して写真を公開し、集まった情報を一つ一つ潰すという地道な捜査に取り組んでいた、というのが、ストーリーの本筋。それに絡めて展開されるのが、外房の港町で暮らす父と発達障害の娘の親子、東京で自由を謳歌しているゲイのエリートサラリーマン、母親と二人で福岡から夜逃げして沖縄の離島に流れ着いた女子高校生、という三組の人間が出会う愛情と信頼を巡る三つのドラマである。
三組それぞれに前歴不詳の男が出現し、三組それぞれが「逃亡中の男ではないか?」という疑惑を持ちながら、それを否定したい気持ちも強く、苦悩する。また、捜査本部の刑事も、付き合っている女性の過去が分からないことに悩んでいた。
家族であれ、恋人であれ、ほんの小さな疑惑が生まれたとき、人を信じきることは極めて難しくなる。それでも、人は人を信じなくては生きていけない。「悪人」が気に入った人には絶対オススメだ。
怒り(上) (中公文庫)
吉田修一怒り についてのレビュー
No.302:
(7pt)

90年代ストリート・キッズのホラ話(非ミステリー)

石田衣良の代表作である「IWPG」シリーズの第一作品集。1997年に発表された、石田衣良のデビュー作でもある「池袋ウエストゲートパーク」を始めとする4本の連作短編を収録している。
高校を卒業して一年ほどの地元の青年・真島誠が、池袋の街を根城にするストリート・キッズたちの「平和と安全」のために様々な問題を解決して行く、ある種のハードボイルド小説なのだが、相当に荒唐無稽なところがあり、正統派のハードボイルドとして読むと不満が残るだろう。ミステリーやハードボイルドではなく、90年代後半の池袋のストリートを生き生きと描いたギャングコミックとして読めば、ストーリーもエピソードも、登場人物のキャラクターも切れ味が良く、非常に面白い。
池袋ウエストゲートパーク (文春文庫)
石田衣良池袋ウエストゲートパーク についてのレビュー
No.301: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

サラリーマン漫画好きの方に

かつてのサラリーマン向けの漫画週刊誌に連載されていそうな金融経済ミステリー。投資ファンドによる企業買収の苛烈さや日本の企業の宿痾などを描いたストーリーの本筋はリアリティもあって読み応え十分だが、主人公が漫画みたいに格好良すぎるのが欠点。また、主人公を巡る女性のキャラクター設定が類型的過ぎるのも、やや興を削ぐようで残念。
ハゲタカ2(上) (講談社文庫)
真山仁バイアウト ハゲタカ2 についてのレビュー