埋葬された夏
- 被害者捜し (9)
【この小説が収録されている参考書籍】 |
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点8.00pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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イギリスの新鋭女性作家の本邦デビュー作。音楽、カルチャー系の雑誌のライター、編集者出身で、イギリスのポップミュージック、特にパンクやゴスを背景に置いた作品を発表しているとのことで、本作も1980年代前半を舞台にしたノワール小説である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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1984年初夏、海辺の町で起きた殺人事件で、ひとりの少女が容疑者として逮捕される。20年後、その事件に新たな証拠が出現し、容疑者の弁護士から雇われた私立探偵が調査に入る。私立探偵の捜査過程と、殺人に至るまでの一年間の犯人とされた少女と周囲の人らの出来事が交差されて描かれてゆく。読み辛かった。まず誰が殺されたのか自体後半になるまで分からない。トリックがあるわけではないから、殺害時が分かれば自動的に真犯人も、犯人とされた娘の状況、もとより被害者も判明してゆくわけだから、謎を伏せ、少しずつ明らかになってゆくことが狙いだとは理解はするものの。また、なんというか、中途半端な印象ももつ。魔術だとか魔女狩りというモティーフを用い、そういう能力をもつらしいものもありながら、単なる小道具で活かしきれていない、と私は思う。むしろ不要であったとも。人間模様、人間の残酷さももっと強く深く描いていいし、描き込むべきだろう。致命的なところはキャラクターに魅力がないこと、だろうか。題名に惹かれて手にとったものだが、邦題に見あうような出来ではなかった。原題は「weirdo」で、犯人とされた娘の通称だが、むしろ直訳の方がよかったのではないか。 | ||||
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作者のキャシー・アンズワースはたぶん1970年あたりの生まれということ、19歳で英国の有名音楽雑誌に投稿を始め、以後は音楽・カルチャー誌のライターや編集者をしていました。小説デビューは2005年で、この「埋葬された夏」は4作目です。 自分は世代がずれているので詳しくないのですが、作中の登場人物たちが聴いているバンドは、シスターズ・オブ・マーシー、エコー&ザ・バニーメン、サザン・デス・カルトなどで、彼らの曲名がそのまま各章のタイトルになっています。ジャンルとしてはゴシック・ロックの先駆け、ポスト・パンクあたりになるそうです。 物語では、最初は中学生たちの青春模様が描かれます。ただし中学生とはいっても、黒い服を着て髪を真っ黒に染め、頭頂部を逆立たせて脇はそり上げるヘアスタイルに、口紅は紫、濃く黒いアイラインを引いてマニキュアも黒という過激なスタイル。 英国映画では、さえない地方都市で労働者階級の家庭に育った閉塞している若者と音楽を描いたものが多数ありますが、この小説も同様の匂いがします。そんな子たちがパブに集まったり、海岸で大音響で音楽を流してパーティをしたりして、大人たちは眉をひそめて見ていますが、中にはどうしょうもない親の元でつらいめにあっている訳ありの女の子もいて、彼らの中身はこれからの人生をどうしていいかわからないごく普通の子供たちです。 そんなある日、ロンドンから転校生がやってきて、瞬く間にみんなの心を捉えてしまいます。「母親がビッチで、父親と別れて若い男とくっついて、祖父母をたよってこの町にやってきた」という不思議な魅力を持つ少女サマンサ、彼女の祖父はこの町で遊園地を所有する有力者でした。 1983年と2003年の時が交互に描かれます。83年に起きた凄惨な惨殺事件、その犯人である同級生の女性コリーンは20年後の今も精神病院に監禁療養中です。が、ある弁護士が彼女の冤罪を証明する強力な証拠をみつけます。その依頼を受けてやってきたのが、元警官で私立探偵の本作の主人公であるショーンでした。彼は、新聞社の編集長フランチェスカや現地警察署の協力を得て、当時の関係者を順に当たり話を聞き込んでいきます。20年前に起こったのはいったいどういうことだったのか?と。 気をつけて読んでいれば、83年当時に描かれた場所が2003年にもまだそのままそこにあり、同じ人物が住んでいることがわかります。話が進むにつれて少しずつ、事件の裏で人々をあやつっていたのは、本当に悪いやつは誰だったのかがわかってきますが、その冷血無情な悪どさには胸が悪くなるほどです。 果たしてショーンはコリーンの無実を証明することができるのか?それぞれの人物の心情を丁寧になぞりながら、進むスピードはゆっくりですが、ラストに向かって確実に話が収束していきます。 登場する音楽に象徴されるように、話のトーンは暗く絶望的で重いです。が、最後にはちゃんと解決が待っていますのでご安心を。なかなか重厚で読み応えのある作品でした。 | ||||
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音楽ライターとしてキャリアを積み独自の手法で小説世界に取り入れて話題作を発表し続ける英国女流ミステリー作家アンズワースの期待の初紹介作です。本書の原題「異形」或いは「キモいやつ」が日本での紹介に当たって「埋葬された夏」という詩的で穏やかな訳題に変更されている訳ですが、まあ極端に過激な印象が抑えられており私達日本人好みの落ち着いた風情が漂っていて結果的に正解だと思いましたね。でも内容的には女流作品とは言っても殆ど甘さが感じられない相当に陰鬱でハード(非情)なストーリーですのでくれぐれも覚悟してお読み頂きたいと思いますね。 元刑事上がりの私立探偵ショーンが弁護士の依頼により約20年前の1984年にイギリスの海辺の町で起きた殺人事件の再調査をすべくアーネマスを訪れる。一方で事件発生から遡る事一年前の裁かれた少女コリーンを中心とする人間関係のドラマが語られて行く。 私は相当に我慢強い方だと自分でも思うのですが、久々に本書には正直かなり苦戦致しまして途中で読む気力が挫けかけて何度も投げ出しそうになりましたね。そもそも一体誰が殺されたのか?というメインの事実を意図的にわざと隠して延々とストーリーを進行するのは読み手にとって本当に苦痛その物ですし、かなり不自然で常識的にも無理があると思いましたね。まあ読み終えてから感じたのは、もしストレートに書いたならば真相がすぐにバレてしまうだろうという恐れからこんな変則的な手法を取られたのだと思いますね。ミステリーにもいろんな物があって何事も勉強だよなとは思いますが、こういう構成の作品はもう当分読みたくないなというのが今の率直な気持ちですね。かなりの苦労をして通して読み終えた作品の感想はそれ程に悪くはないのですが、どうしてもこの読み難さだけは如何ともし難くて仕方なく★3つの評価にせざるを得ませんでした。さて、でも徹底的に非情だとは言え人間ドラマの面ではいろいろと考えさせられる部分が多かったですね。まず悪人なのですが、悪女はその悪行からやがては自業自得で孤立する事となる運命とはいえ精神的に追い詰めるのは危険で最悪の事態を招く前にもっと思い遣りを持って気持ちを理解してあげる必要があったでしょうね。それからビッグ・ボスについてはコリーンとの関係性を思えば冷たい仕打ちがどうにも信じられないですが、でも人間は己が全能だと思い上がるのは絶対に駄目で何時かは必ずツケを払わされるのでしょうね。それから善悪に中途半端な人達では、スモレットとグレイの両刑事の目の前にある悪を見て見ない振りをする正義感の欠如がどうにも嘆かわしいですが、でも遅かったとは言え20年後に漸く正義に目覚めた事でどうにか許そうと思います。またデビーらクラスメートは友人なのにどうしてコリーンの無実を信じてあげなかったのか?ノージも当時どうして無関心だったのかと首をひねりますが、彼女(彼どちらでもいいでしょう)は今回の活躍で見事に失地回復しましたね。ついでに今回の黒魔術の効果について信じるか信じないかは読者の自由でしょうね。そして正義の人、ショーンは古傷で足を痛めながらも警察を辞しても尚全く懲りずに悪党を追及する姿勢は素晴らしく、今回の町での少ない味方である新聞社の編集長フランチェスカとの間が恋愛に発展しても良さそうなのですが、そこまで甘い物語を書かないのもハードボイルドな著者の流儀なのでしょうね。またチョイ役ですが、ソーシャル・ワーカーのシーラの「ナメられてたまるか!」とばかりの勇ましい活躍もとても良かったですね。最後に当時の少女コリーンは善良で控え目な態度が災いして20年を獄中で棒に振ってしまいましたが、でも思えば本書のラストでも彼女はまだ30代の半ばなのですからまだまだ人生これからで昔の親しかった仲間達と再会して旧交を温め直し、辛い過去は忘れてどうか幸せに逞しく生き抜いて欲しいと思いますよね。 | ||||
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現在と過去、二つの時間が交差してゆくミステリ 過去にはティーンエージャーの初恋と友情があり、現在には中年になったおじさん探偵の仕事と出会いがある。 トリッキーな構成ゆえにわかりづらい部分もあるが、少年少女たちが生き生きと描かれていて、当時のヒットナンバーとともに思いだされる(ジャストの年齢は35歳から40歳前後か)。 頭のいいかわいい女の子が、転校してきたよそ者に友達を取られてカッとなったり、なんとも思ってなかった同級生の男子が背が伸びて突然カッコよくみえてきたり。いわゆる誰とでも寝る女の子に、学校の人気者が篭絡されて、ダメになってしまうのも「あるある」だった。 現在部分で、事件を追う探偵も堅実に魅力的である。 だがこれは、胸がきゅんとする初恋の物語である。 美少年、イケメンが女性視点で描写されていることから、女性におすすめ。 | ||||
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音楽ライターとしてキャリアを積み独自の手法で小説世界に取り入れて話題作を発表し続ける英国女流ミステリー作家アンズワースの期待の初紹介作です。本書の原題「異形」或いは「キモいやつ」が日本での紹介に当たって「埋葬された夏」という詩的で穏やかな訳題に変更されている訳ですが、まあ極端に過激な印象が抑えられており私達日本人好みの落ち着いた風情が漂っていて結果的に正解だと思いましたね。でも内容的には女流作品とは言っても殆ど甘さが感じられない相当に陰鬱でハード(非情)なストーリーですのでくれぐれも覚悟してお読み頂きたいと思いますね。 元刑事上がりの私立探偵ショーンが弁護士の依頼により約20年前の1984年にイギリスの海辺の町で起きた殺人事件の再調査をすべくアーネマスを訪れる。一方で事件発生から遡る事一年前の裁かれた少女コリーンを中心とする人間関係のドラマが語られて行く。 私は相当に我慢強い方だと自分でも思うのですが、久々に本書には正直かなり苦戦致しまして途中で読む気力が挫けかけて何度も投げ出しそうになりましたね。そもそも一体誰が殺されたのか?というメインの事実を意図的にわざと隠して延々とストーリーを進行するのは読み手にとって本当に苦痛その物ですし、かなり不自然で常識的にも無理があると思いましたね。まあ読み終えてから感じたのは、もしストレートに書いたならば真相がすぐにバレてしまうだろうという恐れからこんな変則的な手法を取られたのだと思いますね。ミステリーにもいろんな物があって何事も勉強だよなとは思いますが、こういう構成の作品はもう当分読みたくないなというのが今の率直な気持ちですね。かなりの苦労をして通して読み終えた作品の感想はそれ程に悪くはないのですが、どうしてもこの読み難さだけは如何ともし難くて仕方なく★3つの評価にせざるを得ませんでした。さて、でも徹底的に非情だとは言え人間ドラマの面ではいろいろと考えさせられる部分が多かったですね。まず悪人なのですが、悪女はその悪行からやがては自業自得で孤立する事となる運命とはいえ精神的に追い詰めるのは危険で最悪の事態を招く前にもっと思い遣りを持って気持ちを理解してあげる必要があったでしょうね。それからビッグ・ボスについてはコリーンとの関係性を思えば冷たい仕打ちがどうにも信じられないですが、でも人間は己が全能だと思い上がるのは絶対に駄目で何時かは必ずツケを払わされるのでしょうね。それから善悪に中途半端な人達では、スモレットとグレイの両刑事の目の前にある悪を見て見ない振りをする正義感の欠如がどうにも嘆かわしいですが、でも遅かったとは言え20年後に漸く正義に目覚めた事でどうにか許そうと思います。またデビーらクラスメートは友人なのにどうしてコリーンの無実を信じてあげなかったのか?ノージも当時どうして無関心だったのかと首をひねりますが、彼女(彼どちらでもいいでしょう)は今回の活躍で見事に失地回復しましたね。ついでに今回の黒魔術の効果について信じるか信じないかは読者の自由でしょうね。そして正義の人、ショーンは古傷で足を痛めながらも警察を辞しても尚全く懲りずに悪党を追及する姿勢は素晴らしく、今回の町での少ない味方である新聞社の編集長フランチェスカとの間が恋愛に発展しても良さそうなのですが、そこまで甘い物語を書かないのもハードボイルドな著者の流儀なのでしょうね。またチョイ役ですが、ソーシャル・ワーカーのシーラの「ナメられてたまるか!」とばかりの勇ましい活躍もとても良かったですね。最後に当時の少女コリーンは善良で控え目な態度が災いして20年を獄中で棒に振ってしまいましたが、でも思えば本書のラストでも彼女はまだ30代の半ばなのですからまだまだ人生これからで昔の親しかった仲間達と再会して旧交を温め直し、辛い過去は忘れてどうか幸せに逞しく生き抜いて欲しいと思いますよね。 | ||||
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