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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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ボストンの2人組私立探偵、パトリック&アンジーシリーズの第2弾。解説に「チャンドラーの嫡流」と書かれているように、正統派アメリカン・ハードボイルドの美点を完備した傑作で、シリーズ第1作以上にハラハラ(いろんな意味で)する、読み応えのあるハードボイルド作品だ。
マフィアとのトラブルに悩む精神科医からの依頼で問題解決に乗り出したパトリック&アンジーは、奇怪な連続殺人事件に巻き込まれ、マフィアとサイコキラーを相手に絶望的な戦いを繰り広げることになる…。そうしてたどり着いた真相には、自らのアイデンティティーにも関わってくる地域社会の暗部が隠されていた。 前作からの登場人物はもちろん、今回だけの登場人物も丁寧に造形されており、話は複雑だが非常に読みやすい。さらに、今回の悪役は、いかにも現代的な不気味さが強調されていて、ストーリー全体に緊張感が高くなっている。 また、アンジーがとうとうフィルとの離婚を決意したことで、パトリックとの関係に微妙な変化が現れるのだが、一方のパトリックには夢中になっているグレイスとその娘・メイがいるため、すんなりと結ばれるわけにはいかない。シリーズの重要なサイドストーリーである二人の関係は、果たしてどうなっていくのか? 次回作以降でも気になる点である。 |
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1931年生まれのジョン・ル・カレが2010年に発表した最新作。御年79歳での作品とは思えない、みずみずしい作品だ。
ロシアの新興マフィアのマネーロンダリングの第一人者が、犯罪組織を裏切って英国への亡命を希望し、イギリス人の若いカップルに英国情報部との架け橋を依頼したことから物語がスタート。果たして亡命は成功するのか? 最後まで先が読めないスリリングなストーリーが展開される。 本作品の最大の特徴は、登場人物がきわめて緻密に描かれていて、まさに生きて動いていることだろう。大学講師と弁護士のカップル、亡命しようとするマフィアとその家族、情報部のスタッフなど、主要な人物はすべて個性的で、その心理や行動に読者はリアルな共感や反発を覚えずにはいられない。ル・カレのスパイ小説には欠かせない神経をすり減らす情報戦の要素はやや薄いといえるが、それを補って余りある人間ドラマとしての面白さが光る。 ル・カレの本領ともいえる冷戦時のスパイ小説とはやや趣が異なるものの、人間観察の鋭さと人物造形の上手さで、スパイ小説ファン以外の読者にとっても読みごたえがある作品と言えるだろう。 |
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ニューヨーク市警の「氷の天使」キャシー・マロリーシリーズの第一作かつ、オコンネルのデビュー作。老婦人連続殺人の犯人を追う、休職中の巡査部長というのはありがちな設定だが、この主人公のキャラクターがすさまじい。人々の印象に残りすぎるので尾行追跡ができないほどの美貌、どんなシステムでも自在に入り込んでしまう天才的なハッカーの頭脳を持ちながら、ストリートチルドレンとして育った時に身に着けた反社会的倫理観の持ち主である。本作品に対する評価はほとんど、この主人公のキャラクターの好悪で決まってくるだろうと思うほど印象的なキャラである。
シリーズとして6作目まで出されていることから分かるように、マロリーは「ミステリー史上最もクールなヒロイン」として人気を集めている。がしかし、ヒロインのキャラが立ち過ぎていて、ストーリーが弱いという印象がぬぐえない。オコンネル作品全体に言えることだが、オカルト的な要素が重要なポイントになっていることも、個人的に高く評価できない要因になっている。 ただ、最新作の「吊るされた女」ではストーリーに厚みがあり、格段に面白くなっているので、もうしばらくこのシリーズを読んでみようと思っている。 |
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日常の平凡な仕事に飽きていただけの若者が、刺激を求めて調査研究所に就職したことから、アメリカからの原子力潜水艦の導入を巡る連続殺人事件に巻き込まれ、独自の調査で真相を解明することになる。そこでは巨大な利権を巡って暗躍する官僚、兵器産業、謎の黒幕などが入り乱れ、熾烈な戦いを繰り広げていた・・・。
1960年前後、つまり約半世紀前の作品だが、そこに描かれている疑惑の構図は、その後のロッキード事件をはじめ何度も繰り返されてきた疑惑と瓜二つであり、日本の政治構造の宿痾そのものといえるだろう。 ミステリー作品としては、東京湾での死体の漂流の謎、誰が敵か味方か不明な情報戦など、いくつかの読みどころはあるものの、キーポイントとなる場面での偶然というかご都合主義が、作品を軽くしている感じがした。 |
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パトリック&アンジー・シリーズの第一作。「ミスティック・リバー」からルヘインを読み始めた者としては、こんなに単純明快な小説を書いていたのかというのが、一番の驚きだった。
ボストンのあまり品が良くない地域の教会の中に探偵事務所を構える、パトリックとアンジーの二人組。ある日、上院議員から「失踪した掃除婦が持ち去った重要書類を回収してもらいたい」という依頼を受ける。掃除婦の家を探し出してみると、すでに何者かに家捜しされたあとだった。重要書類を探しているのは、上院議員の他にも誰かいる・・・。 ボストンの暗黒街を駈け回って掃除婦と書類を探す二人の行く手を阻むのは、命知らずのメンバーを抱える二つのギャング団だった。二人を助ける、サイコパスの巨漢、時には助け、時には敵対する刑事達など、ハードボイルド探偵小説ではおなじみの登場人物が揃い、ウィットを競い合うような会話と激しいアクションとおびただしい死体が繰り広げられる、まさに典型的なストーリー展開といえる。 定石通りとも、王道とも言える作品だが、背景にあるものが深いため、けっして安っぽいハードボイルドで終っていないところが、さすがにルヘイン。しかも、本作が処女小説だというのだから驚きだ。 しばらくは、このシリーズを楽しみたい。 |
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宮部みゆきの長編デビュー作。プロローグでの伏線の張り方から主人公の設定、周辺のキャラクター、事件の背景まで、実に巧みな設定で、さすがに宮部みゆき、栴檀は双葉より芳ばしである。ただ、最後の詰めが後々の長編作に比べると多少甘く、評価を減点せざるを得なかった。
まず、主人公が元警察犬・マサで、犬の視点からの一人称語りというのが、なんとも人を食っていて面白い。また、マサの飼い主である探偵事務所のスタッフや、一緒に真相究明に当たる被害者の弟などのキャラクターが青春小説っぽいところも、殺人の様相や事件の背景が凄惨であるにもかかわらず読後の印象がどろどろしない要因となっている。 ミステリーとしては物足りない部分も多いが、宮部みゆきの才能の芽が随所に感じられる佳作といえる。 |
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それぞれの時代性が重要なスパイもので、しかも25年以上昔の作品なのに、文句無く楽しめるスパイアクション。アメリカがロシアからアラスカを買い取った時の協定には、実は買い戻し条項があった! という、史実と虚構を大胆に組み合わせた“ホラ話”で最後までハラハラドキドキが楽しめる、アーチャーの名人芸が堪能できる良質なエンターテイメント作品だ。
ロシア革命時、皇帝ニコライ二世が条約書をイコンの裏にかくして国外に持ち出したことを確信したソ連指導部は、1966年5月19日、イコンの発見と奪還をKGBに命じ、最も優秀で非情な情報部員ロマノフが調査を開始する。定められた期限は1966年6月20日。そのころ、イコンはナチス・ドイツの高官が偽名で預けたままスイスの銀行に眠っていた。 そのイコンを受け取る正当な権利(必要な書類)は、父親の遺産としてイギリスの退役軍人、アダム・スコットに引き継がれ、スコットは中身の詳細を知らないまま、遺産を受取に行く。そこに待っていたのは・・・。 知力、体力、行動力をぶつけ合い、逆転に継ぐ逆転で突っ走るというストーリー展開はまさにスパイ小説の王道だ。さらに主人公が、アメリカでもロシア(ソ連)でもなく、第三国のイギリス人の退役軍人ということから巧みなユーモアも加味されており、アクション一本槍ではない面白さがある。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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横山秀夫の7年ぶりの新作ということで期待感いっぱいに読み始めたが、「待ったかいがあった」の大満足。横山ワールドの頂点といえるのではないか?
舞台はいつものD県警本部だが、今回の主人公は広報官というのが、まず意表をつく。警察の花形と信じて疑わない刑事部から異動になり、広報部門のリーダーながら、いまだ自分の職務に誇りをもてない三上警視は、娘の失踪という家庭内の深刻な問題を抱えたまま、警察内部の対立、報道陣との対立、さらに迷宮入りしていた幼女誘拐殺人事件の解明に取り組んでゆく。 ストーリーの本筋は、県警(地方、たたき上げ)と警察庁(東京、キャリア組)の主導権争い、報道の自由を巡る記者クラブと警察の対立、幼女誘拐事件の犯人探しの3本立てで、それぞれが密接に絡み合いながら、関係する個人をギリギリと締めつけてゆく。このプロセスのリアルさと緊張感は横山秀夫ならではの筆力で、読者はぐんぐん引き込まれてしまうしかない。 そして、犯人が明らかにされるクライマックスまでの仕掛けの周到さも、まさに横山秀夫ワールド。まいりました。 これまでのD県警シリーズに登場した人物が数多く登場するので、シリーズを読んでいた方が味わい深いとは思うが、もちろん単独作品としても非常に面白い。横山作品ファンはもちろん、初めての人にも十分楽しんでもらえる、オススメ作だ。 |
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「百舌」が登場しない「百舌」シリーズの第5作。主人公の倉木美希と大杉良太が警察内部の陰謀を暴いていくという、まあ、お約束のストーリーだが、今回は悪役がよく書けている分、面白く読めた。
暴力団を襲ってコカインや拳銃を強奪するという犯罪が続き、しかも現役の警官が関与している疑いがもたれ、大杉が捜査を進めるうちに陰謀に直面することになる。警察の捜査より、私立調査員の大杉の調査が事件の解明に通じるとあって、やや強引なストーリー展開が無きにしも非ずだが、犯人探しの面白さは十分に用意されている。 今回の悪役は、美人で評判の独身刑事、その奔放な異性関係に注意を与えるため倉木が面接するところからスタートし、お互いに探り合い、張り合うところが、もうひとつの読みどころと言える。 現在までのところ、本作が「百舌」シリーズの完結編となっているが、エンディングを見ると次作もありそうな…。 |
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ニューヨーク市警の「氷の天使」マロリー・シリーズの第2作。
いきなり「マロリーが殺された」というニュースから始まるが、すぐにマロリーのネーム入りのジャケットを着た別人と分かる。これを機に、休職中だったマロリーが現場に復帰し、「自分を殺した」犯人を容赦なく追いつめてゆく。 社会的な倫理観とは無縁の冷徹な敏腕刑事という設定のマロリーが、いわば不法な手段を駆使しながら真相を暴いてゆくプロセスは、多くの警察小説ファンには違和感があるのではないか? ハッキング技術を駆使してということであっても、あまりに簡単に秘密情報を入手するので捜査が進展する過程のワクワク感が生まれてこない。 また、ある種、オカルト的なエピソードが頻繁に挿入されるのにも、個人的に肌合いが合わない感じを持った。 キャロル・オコンネルは、警察小説ファンより、ホラー、ファンタジー系の読者の方がしっくりくるように思う。 |
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前作「秘密」から4年ぶり、御年91歳で発表したP.D.ジェイムズの新作は、1813年に書かれたジェーン・オースティンの「高慢と偏見」の後日譚! 名作の誉れ高い「高慢と偏見」を受けてミステリーを書く、という、ある種、無謀とも思える挑戦を果たしたP.D.ジェイムズの創作意欲に、称賛の拍手を送りたい。
物語は、18世紀初めのイギリスの田舎貴族の生活に飛び込んできた殺人事件が引き起こす、さまざまな人間模様。犯人探し、動機解明のミステリーとしても読ませるが、それ以上に封建制度下の人々の生き方、とりわけ女性の生き方にまつわる話が面白い。 本家「高慢と偏見」を読んでいるに越したことはないが、「高慢と偏見」の世界はプロローグで簡潔にまとめて紹介されているので、原作を未読の人にもオススメできる。 |
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“サーファー・ときどき探偵”のブーン・シリーズの第二弾。物語の舞台、主要登場人物は前作の流れを継承し、シリーズものとして確立しつつある。前作に比べてミステリーの要素が強まり、謎解きの部分が格段に面白くなった。それでもまだ“サーフィン小説”の部分が色濃く、サーフィン好き、格闘技好きには大受けだろうが、個人的には(なんといっても、ウィンズロウだから)いまいちの印象だった。
ブーンが依頼されたのは、サーフィン仲間の富豪の妻の浮気調査。意に染まないまま調査を開始したブーンはさらに、友達以上、恋人未満のぺトラから殺人容疑で逮捕されている少年の弁護のための調査を依頼される。この殺人事件の被害者は地元で敬愛されていた“伝説のサーファー”だっただけに、殺人犯側についたブーンはサーフィン仲間を始め地元全体を敵に回すことになる。少年の容疑に疑問を持ったブーンは、いつもは手助けしてくれる仲間から見放されながらも真実を追求し、ついにはサンディエゴを揺るがす巨大なスキャンダルを掘り起こすことになる…。 あくまでもノー天気なサーファーの世界の向こうには、金と欲望にまみれた現実が隠されている。それでもというか、だからこそというか、ブーンはサーフィンに生涯をささげる決心をする。次作もありそうなエンディングだった。 |
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ヴァランダー・シリーズの第6作は、絶賛した第5作を上回る傑作だった。
ヴァランダーをはじめとする登場人物のキャラクターの面白さ、社会背景に対する鋭い視点という本シリーズの魅力に加えて、今回は警察ものミステリーの肝である犯人探しが抜群に面白い。もちろん、「笑う男」、「目くらましの道」の犯人探しもレベルが高いのだが、本作は数段レベルアップした(大家に対して失礼な表現だが)と思う。 極めて残酷な殺され方をした老人たちが連続殺人の犠牲者と判明し、イースタ警察署は全力を挙げて捜査に取り組むが、極めて計画的で行動が徹底した犯人は、解決の糸口となるような証拠を残さず、ヴァランダーたちの推理もたびたび壁にぶち当たり、なかなか成果を上げることができない。そのため不満を抱く市民が自警団を組織するという騒ぎにまで発展する。 読者には、比較的早くから犯人が提示されるのだが、個人として特定し、逮捕するまでのプロセスが長く複雑で、ぐんぐんストーリーに引き込まれていく。操作手順や結果にも突飛な偶然やご都合主義がなく、まさに警察小説の醍醐味を堪能できた。 サイトストーリーであるヴァランダーの親子関係(父との関係、娘との関係)、恋愛関係にもエポックメイキングな出来事があり、シリーズとしての面白さもたっぷり用意されている。 本作品で初めてヴァランダーに触れた人も、きっとシリーズ全体が読みたくなる、オススメ作品だ。 |
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消費者金融で人生を狂わされた人々がグループを結成して、あくどい事業で大金を得てぬくぬくと暮らしている関係者に復讐を実行するという、まあ、何度か読んだことがあるようなストーリーだが、警察小説の名手・佐々木譲ならどう読ませるのか? かなり期待して読んだが、かなり期待外れ。「魂が震える、犯罪小説の最高峰」というのは、いくらセールストークとはいえ、納得しかねるオーバーな表現だと思った。
構成が破たんしているわけではないし、ストーリーが支離滅裂だったり都合がよすぎたりしているわけではないので、これが並の作家の作品なら「まあ、それなり」と思っただろうが、佐々木譲にしては全体の印象として薄い、底が浅い感じが否めなかった。犯人側も、被害者側も、捜査陣も作りこみが足りない、魅力的でないと評価せざるを得ない。特に、犯人グループのメンバーをもっと丁寧に描いていけば読み応えがあっただろうと思うだけに、う~ん、もったいない。 |
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終わってしまったと思っていたマット・スカダーシリーズの復活! それだけでも驚きだが、74歳になったスカダーがミック・バルーに思い出話を聞かせるという構成の妙に脱帽した。さすがに74歳でN.Y.での探偵稼業はきついとみえて、そこで編み出したが炉辺夜話ということで、スカダー45歳のときの物語が展開される。
ストーリーは、幼馴染を殺害した犯人を探す話で、探偵ものとして十分に合格点の出来なのだが、読んでいるうちに犯人探しはどうでもよくなってくる。なにより、スカダーの人間性、人生観、他者とのかかわり方、恋人との関係の感じ方などが深く心を打ってくる。 読み終わったらスカダーをもっと身近に感じるようになる、シリーズファン必読の一冊だ。 |
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我らが(笑)V.I.ウォーショースキーも50の大台に! しかし、体力の衰えに弱音を吐くことはあるものの、正義感の強さと喧嘩っ早さはまったく変わっていなかった。
今回、V.I.が立ち向かう相手は、アメリカでもはびこり始めた排外主義、民族差別主義の愚劣さで、日本での某・都知事の暴言が喝采を集めるような風潮を考えると、他人事とは思えないリアルさがあった。米国では、あからさまな黒人や中南米移民への差別以上に、社会的に深く潜行しているユダヤ人差別があり、歴史的な経緯もあって非常に複雑な差別の構造となっているが、本作の背景にもユダヤ人差別が横たわっている。 メインストーリーは、私立探偵の殺人事件の捜査が発端で、事件に巻き込まれた従妹・ぺトラや不法移民の姉妹を守るためにV.I.が捜査を進めていくと、やがて隠されていた悪の数々に直面することになる。 第二次世界大戦時にリトアニアから米国に亡命し、大富豪となったユダヤ人を貶めようとするテレビ芸人(まあ、米国によくいる、ごりごりの保守的アジテーター)を始めとする差別主義者に対し、V.I.がリベラル派の本領を発揮して果敢に挑戦するところが、読みどころ。しかし、なにしろ文庫670ページあまりの大作なので、ストーリーもテーマも非常に広がりや奥行きがあり、読みどころたっぷり。社会派ミステリーの面白さを堪能できる。 シリーズではおなじみの登場人物に加えて、V.Iの大学時代からの友達やアメリカの草の根の良心を体現したようなキャラクターが数多く登場し、本作の読後感をすがすがしく心温まるものにしてくれる。 V.I.はまだまだ引退などしそうにないのが、うれしい。 |
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「神は銃弾」で鮮烈なデビューを果たし、「音もなく少女は」で再注目されたボストン・テランの新作は、これまでの暴力性に「赦し」がプラスされ、前記2作とは異なる色合いの作品だ。
舞台となるのは、1910年のメキシコ。革命前夜の不穏な空気に包まれたメキシコにアメリカから、武器密輸の囮操作のために武器を満載したトラックと一緒に送り込まれるのが、若き捜査官・ルルドと殺人犯のローボーンの二人。実は、この二人は親子だった。 ストーリーは、武器を満載したトラックをメキシコに密入国させ、密輸組織を暴き出し、さらにアメリカに逃げ帰るまでの必死の冒険譚が中心。というか、それに尽きていて、話としては単純。それを補っているのが、親子である二人の微妙な心理劇で、幼い頃に捨てられた子供・ルルドはローボーンが父親であることに瞬時に気がつくが、ローボーンはまったく気付かず、ローボーンがいつ気付くのか、気付いたあとどう変わるのかが読者を引きつける。さらに、ルルドと耳の聞こえないメキシコ人少女との淡い恋物語が、ハートウォーミングな彩りを添えている。 “暴力の詩人”といわれるボストン・テランを想像して読むと、やや肩透かしを食らうかも知れないが、新しいボストン・テランを発見できるとも言えるだろう。 訳者あとがきによれば映画化の話が進んでいるとのことだが、いかにも映画になりそうなアクションや戦闘シーンが多く、またホロリとさせる場面もあり、映画化されればヒットするだろうと思う。ただ、そのときはタイトルを変更した方がベターではないかと思った。 |
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スウェーデンを代表する警察小説・ヴァランダー警部シリーズの最新作。最新と言っても、翻訳が出たのが最新というだけで、本国での発表は1998年。今から14年も前の作品にもかかわらず、コンピュータ・ネットワークを駆使した経済犯罪と先進国をむしばむ社会の退廃の問題点が鋭く描かれており、社会派作家・マンケルの時代感覚の鋭さが光る作品である。
物語の発端は、19歳と14歳の少女によるタクシー運転手殺し。犯人の少女たちのあまりの社会性の欠如に愕然とし、苛立ったヴァランダーは取り調べ中に14歳の少女を殴ってしまったところを新聞記者に写真を撮られ、イースタ署内での居心地の悪さを感じるようになる。一方、取り調べ中に警察から逃げ出した19歳の少女は、変電所内で黒焦げ死体となって発見され、やがてコンピュータを駆使した不気味な犯罪につながっていく。 シリーズ第8作目の本作品では、ヴァランダー警部もついに50歳の大台に到達し、社会のIT化とグローバル化に着いていけない50男の苦悩にさいなまれ、何かにつけて苛立ち、怒りを相手にぶつけ、そのことに自分で傷つき、落ち込んでしまう。これまでも、何度も警察を辞めようと思ったり、1年以上の長期休職(精神的な理由での休暇)を経験したヴァランダーだが、今回は自分が「新しい芸を習うことができない老犬」であることを自覚しなければならない、新しい犯罪には新しい捜査指揮者が当たらなければならないとまで、自分を追い詰めるようになる。果たして老犬ヴァランダーは、これからも警察官として人生を全うできるのか? 最後の最後に、ヴァランダーをよみがえらせるエピソードが出てきて、シリーズファンは次作への興味を掻き立てられることになる。まだ、2作楽しめる。 |
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ニューヨーク市警の敏腕刑事で氷の天使と呼ばれるマロリー・シリーズの第6作。
マロリーの同僚・ライカー刑事の情報屋だった娼婦・スパローが口に自身の金髪を詰め込まれて天井から吊るされるという猟奇事件が発生し、マロリーはライカーとともに事件の解明を進めるが、単なるストーカー殺人と思われた犯罪は複雑な背景の連続殺人事件に発展し、マロリーは自分の過去にも直面することになる。 現在の犯罪と過去の犯罪が捜査の進展につれてリンクされるころから、マロリーと養父・マーコヴィッツ、さらにはライカーやスパローの過去と現在が複雑に絡み合い、信頼する仲間同士が傷つけあうような重く悲劇的なエピソードが展開されることになる。 現実の犯罪捜査とマロリーの過去をめぐる回想が入り組んで、最初の内は戸惑うことが多く、ストーリー展開も遅いので退屈だが、第三の被害者が狙われ始めるころから話のスピードがアップしてどんどん引き込まれていった。 実は、このシリーズは本作が最初だったため、マロリーと養父の関連などの知識がなかったので、前半が退屈に感じたのだと思う。シリーズの読者ならいろいろな発見があって楽しめたのだろう。 この作品だけでもミステリーとして十分に楽しめる出来ではあるが、やはり、シリーズ作品は最初から読まないといけないと再認識させられた。 |
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「隠蔽捜査」を筆頭にした数々の作品で、今や警察小説分野のメジャープレーヤーと目されている今野敏の「樋口顕」シリーズの第一作。文庫の裏表紙には「名手が描く本格警察小説」とあるが、正直、警察小説としての出来は良くない。佐々木譲、逢坂剛の心を躍らせるミステリーは無いし、横山秀夫の深い心理描写もない。
刊行されたのが1996年で、その時代性を反映した「アダルト・チルドレン」が主要なテーマになっているのだが、登場人物、特に捜査対象側の人物描写が類型的で、いまいち物足りない。また、犯行動機、犯行手口も「なんだかな〜」と思わせる甘さがある。 本作で唯一成功しているのは、主人公の警視庁強行犯係長・樋口顕警部補のキャラクター設定だろう。本人は「自分は周りの目を気にし過ぎる」ことに引け目を感じ、いつも自信がもてないでいるのに、上司からはその堅実さが高く評価されており、そのギャップに常に悩んでいる・・・という、これまでの警察小説にはなかったタイプのヒーローである。さらに、家族(大学の同級生の妻と、高校生の娘)が大好きなマイホームパパであり、家庭を大事にする保守的な価値観の持ち主でもある。 樋口・本人は、そうした自分の性格について、全共闘世代の後始末をさせられてきた世代だからだと考えており、折りにつけて全共闘世代、団塊の世代を批判しないではいられない。本作のストーリーは連続殺人の捜査だが、作品全体のテーマは「団塊の世代批判」の様相を呈している。 今野敏は警察小説より、世代論小説を書きたかったのだろう。 |
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