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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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消費者金融で人生を狂わされた人々がグループを結成して、あくどい事業で大金を得てぬくぬくと暮らしている関係者に復讐を実行するという、まあ、何度か読んだことがあるようなストーリーだが、警察小説の名手・佐々木譲ならどう読ませるのか? かなり期待して読んだが、かなり期待外れ。「魂が震える、犯罪小説の最高峰」というのは、いくらセールストークとはいえ、納得しかねるオーバーな表現だと思った。
構成が破たんしているわけではないし、ストーリーが支離滅裂だったり都合がよすぎたりしているわけではないので、これが並の作家の作品なら「まあ、それなり」と思っただろうが、佐々木譲にしては全体の印象として薄い、底が浅い感じが否めなかった。犯人側も、被害者側も、捜査陣も作りこみが足りない、魅力的でないと評価せざるを得ない。特に、犯人グループのメンバーをもっと丁寧に描いていけば読み応えがあっただろうと思うだけに、う~ん、もったいない。 |
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終わってしまったと思っていたマット・スカダーシリーズの復活! それだけでも驚きだが、74歳になったスカダーがミック・バルーに思い出話を聞かせるという構成の妙に脱帽した。さすがに74歳でN.Y.での探偵稼業はきついとみえて、そこで編み出したが炉辺夜話ということで、スカダー45歳のときの物語が展開される。
ストーリーは、幼馴染を殺害した犯人を探す話で、探偵ものとして十分に合格点の出来なのだが、読んでいるうちに犯人探しはどうでもよくなってくる。なにより、スカダーの人間性、人生観、他者とのかかわり方、恋人との関係の感じ方などが深く心を打ってくる。 読み終わったらスカダーをもっと身近に感じるようになる、シリーズファン必読の一冊だ。 |
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我らが(笑)V.I.ウォーショースキーも50の大台に! しかし、体力の衰えに弱音を吐くことはあるものの、正義感の強さと喧嘩っ早さはまったく変わっていなかった。
今回、V.I.が立ち向かう相手は、アメリカでもはびこり始めた排外主義、民族差別主義の愚劣さで、日本での某・都知事の暴言が喝采を集めるような風潮を考えると、他人事とは思えないリアルさがあった。米国では、あからさまな黒人や中南米移民への差別以上に、社会的に深く潜行しているユダヤ人差別があり、歴史的な経緯もあって非常に複雑な差別の構造となっているが、本作の背景にもユダヤ人差別が横たわっている。 メインストーリーは、私立探偵の殺人事件の捜査が発端で、事件に巻き込まれた従妹・ぺトラや不法移民の姉妹を守るためにV.I.が捜査を進めていくと、やがて隠されていた悪の数々に直面することになる。 第二次世界大戦時にリトアニアから米国に亡命し、大富豪となったユダヤ人を貶めようとするテレビ芸人(まあ、米国によくいる、ごりごりの保守的アジテーター)を始めとする差別主義者に対し、V.I.がリベラル派の本領を発揮して果敢に挑戦するところが、読みどころ。しかし、なにしろ文庫670ページあまりの大作なので、ストーリーもテーマも非常に広がりや奥行きがあり、読みどころたっぷり。社会派ミステリーの面白さを堪能できる。 シリーズではおなじみの登場人物に加えて、V.Iの大学時代からの友達やアメリカの草の根の良心を体現したようなキャラクターが数多く登場し、本作の読後感をすがすがしく心温まるものにしてくれる。 V.I.はまだまだ引退などしそうにないのが、うれしい。 |
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「神は銃弾」で鮮烈なデビューを果たし、「音もなく少女は」で再注目されたボストン・テランの新作は、これまでの暴力性に「赦し」がプラスされ、前記2作とは異なる色合いの作品だ。
舞台となるのは、1910年のメキシコ。革命前夜の不穏な空気に包まれたメキシコにアメリカから、武器密輸の囮操作のために武器を満載したトラックと一緒に送り込まれるのが、若き捜査官・ルルドと殺人犯のローボーンの二人。実は、この二人は親子だった。 ストーリーは、武器を満載したトラックをメキシコに密入国させ、密輸組織を暴き出し、さらにアメリカに逃げ帰るまでの必死の冒険譚が中心。というか、それに尽きていて、話としては単純。それを補っているのが、親子である二人の微妙な心理劇で、幼い頃に捨てられた子供・ルルドはローボーンが父親であることに瞬時に気がつくが、ローボーンはまったく気付かず、ローボーンがいつ気付くのか、気付いたあとどう変わるのかが読者を引きつける。さらに、ルルドと耳の聞こえないメキシコ人少女との淡い恋物語が、ハートウォーミングな彩りを添えている。 “暴力の詩人”といわれるボストン・テランを想像して読むと、やや肩透かしを食らうかも知れないが、新しいボストン・テランを発見できるとも言えるだろう。 訳者あとがきによれば映画化の話が進んでいるとのことだが、いかにも映画になりそうなアクションや戦闘シーンが多く、またホロリとさせる場面もあり、映画化されればヒットするだろうと思う。ただ、そのときはタイトルを変更した方がベターではないかと思った。 |
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スウェーデンを代表する警察小説・ヴァランダー警部シリーズの最新作。最新と言っても、翻訳が出たのが最新というだけで、本国での発表は1998年。今から14年も前の作品にもかかわらず、コンピュータ・ネットワークを駆使した経済犯罪と先進国をむしばむ社会の退廃の問題点が鋭く描かれており、社会派作家・マンケルの時代感覚の鋭さが光る作品である。
物語の発端は、19歳と14歳の少女によるタクシー運転手殺し。犯人の少女たちのあまりの社会性の欠如に愕然とし、苛立ったヴァランダーは取り調べ中に14歳の少女を殴ってしまったところを新聞記者に写真を撮られ、イースタ署内での居心地の悪さを感じるようになる。一方、取り調べ中に警察から逃げ出した19歳の少女は、変電所内で黒焦げ死体となって発見され、やがてコンピュータを駆使した不気味な犯罪につながっていく。 シリーズ第8作目の本作品では、ヴァランダー警部もついに50歳の大台に到達し、社会のIT化とグローバル化に着いていけない50男の苦悩にさいなまれ、何かにつけて苛立ち、怒りを相手にぶつけ、そのことに自分で傷つき、落ち込んでしまう。これまでも、何度も警察を辞めようと思ったり、1年以上の長期休職(精神的な理由での休暇)を経験したヴァランダーだが、今回は自分が「新しい芸を習うことができない老犬」であることを自覚しなければならない、新しい犯罪には新しい捜査指揮者が当たらなければならないとまで、自分を追い詰めるようになる。果たして老犬ヴァランダーは、これからも警察官として人生を全うできるのか? 最後の最後に、ヴァランダーをよみがえらせるエピソードが出てきて、シリーズファンは次作への興味を掻き立てられることになる。まだ、2作楽しめる。 |
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ニューヨーク市警の敏腕刑事で氷の天使と呼ばれるマロリー・シリーズの第6作。
マロリーの同僚・ライカー刑事の情報屋だった娼婦・スパローが口に自身の金髪を詰め込まれて天井から吊るされるという猟奇事件が発生し、マロリーはライカーとともに事件の解明を進めるが、単なるストーカー殺人と思われた犯罪は複雑な背景の連続殺人事件に発展し、マロリーは自分の過去にも直面することになる。 現在の犯罪と過去の犯罪が捜査の進展につれてリンクされるころから、マロリーと養父・マーコヴィッツ、さらにはライカーやスパローの過去と現在が複雑に絡み合い、信頼する仲間同士が傷つけあうような重く悲劇的なエピソードが展開されることになる。 現実の犯罪捜査とマロリーの過去をめぐる回想が入り組んで、最初の内は戸惑うことが多く、ストーリー展開も遅いので退屈だが、第三の被害者が狙われ始めるころから話のスピードがアップしてどんどん引き込まれていった。 実は、このシリーズは本作が最初だったため、マロリーと養父の関連などの知識がなかったので、前半が退屈に感じたのだと思う。シリーズの読者ならいろいろな発見があって楽しめたのだろう。 この作品だけでもミステリーとして十分に楽しめる出来ではあるが、やはり、シリーズ作品は最初から読まないといけないと再認識させられた。 |
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「隠蔽捜査」を筆頭にした数々の作品で、今や警察小説分野のメジャープレーヤーと目されている今野敏の「樋口顕」シリーズの第一作。文庫の裏表紙には「名手が描く本格警察小説」とあるが、正直、警察小説としての出来は良くない。佐々木譲、逢坂剛の心を躍らせるミステリーは無いし、横山秀夫の深い心理描写もない。
刊行されたのが1996年で、その時代性を反映した「アダルト・チルドレン」が主要なテーマになっているのだが、登場人物、特に捜査対象側の人物描写が類型的で、いまいち物足りない。また、犯行動機、犯行手口も「なんだかな〜」と思わせる甘さがある。 本作で唯一成功しているのは、主人公の警視庁強行犯係長・樋口顕警部補のキャラクター設定だろう。本人は「自分は周りの目を気にし過ぎる」ことに引け目を感じ、いつも自信がもてないでいるのに、上司からはその堅実さが高く評価されており、そのギャップに常に悩んでいる・・・という、これまでの警察小説にはなかったタイプのヒーローである。さらに、家族(大学の同級生の妻と、高校生の娘)が大好きなマイホームパパであり、家庭を大事にする保守的な価値観の持ち主でもある。 樋口・本人は、そうした自分の性格について、全共闘世代の後始末をさせられてきた世代だからだと考えており、折りにつけて全共闘世代、団塊の世代を批判しないではいられない。本作のストーリーは連続殺人の捜査だが、作品全体のテーマは「団塊の世代批判」の様相を呈している。 今野敏は警察小説より、世代論小説を書きたかったのだろう。 |
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【ネタバレかも!?】
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ヴァランダー警部シリーズの第5作は、さすが「CWAゴールドダガー賞」受賞作といえる傑作だ。
恋人・バイバとの夏休み旅行を楽しみにしていたヴァランダー警部だが、目の前での少女の焼身自殺というショッキングな場面に遭遇しただけでなく、死者の頭皮を剥ぐという猟奇事件まで発生し、浮かれた気分が吹き飛ばされてしまう。さらに、同一犯によると思われる殺人事件が発生し、イースタ警察は不眠不休で犯人を追うことになる。 アメリカでは起きてもスウェーデンでは起きないと思っていた猟奇連続殺人事件に戸惑うヴァランダーたちは、まったく犯人像を描くことが出来ず、ついにプロファイラーの力も借りて暗中模索の捜査を続けることになる。そこには、世界の変化とともに変貌するスウェーデン社会の闇が広がっていた・・・。 上下巻合わせて750ページの大作だが、カリブ海・ドミニカ共和国でのプロローグから父親とともにイタリア旅行に出かける飛行機内のエピローグまで、全編だれるところがない。上巻の3/4ぐらいで、ほぼ犯人の目星はつくのだが、そこからも犯罪捜査の緊迫感は損なわれることもなく、質の高い警察小説に仕上がっている。 サイコパスが主役の連続殺人ものといえば米国を中心に世界中で掃いて捨てるほど書かれているが、さすがにヘニング・マンケルは上手い! 特異な犯人の行動だけでなく、犯行の動機となる社会的な病、変化する警察組織が抱える問題、捜査官達が抱える個人的な苦悩などが丁寧に描かれており、さまざまな読み方で楽しめる。少女の焼身自殺も重要な伏線になっていて、最後にすっかり腑に落ちるのが心地よい。 「リガのイヌたち」「白い雌ライオン」で迷走したヴァランダー・シリーズだが、前作「笑う男」で持ち直し、本作で大飛躍した(これは、某評論家の解説だが)という噂は本当だった。 |
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現在のドイツ・ミステリーの巨匠と目されているフォルカー・クッチャーの日本デビュー作。ラート警部を主人公にした全8作のシリーズの第一作である。
1929年のベルリンを舞台に、ある事情でケルンから左遷?され、意に沿わない風紀課に配属されたてきたラート警部が思いがけなく殺人事件に遭遇し、希望する殺人課への異動のチャンスとばかりに独自の捜査を開始する。 第一次世界大戦の痛手から回復し、建設ラッシュに沸くベルリンでは共産勢力と民族派、台頭し始めたナチスが勢力争いを繰り広げ、そこに亡命ロシア人が絡んで、複雑で暴力的な謀略が渦巻いていた。誰が敵で、誰が味方なのか? はぐれ刑事のラートは疑心暗鬼に陥りながら鋭い推理で事件の解明を進め、やがて巨大な悪の存在に気づき、必殺の大芝居を打つ。時代が時代だけに、捜査手法は科学的な捜査より、聞き込みと推理が中心で、オーソドックスな警察小説の展開だが、途中で禁じ手ではないかというエピソードもあり、なかなか波乱にとんだ展開で飽きさせない。 警察小説ではあるが、舞台がワイマール時代のベルリンということで、史実と虚構が入り混じった歴史小説という側面も強い。好みが分かれるところだが、私としては現在のドイツを描いたネレ・ノイハウスの方が好みと言える。 |
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シリーズ4作目の本作は、主人公・ヴァランダー警部のキャラクターが際立つ、良質な警察小説に仕上がっている。
前2作が警察小説というより国際謀略小説みたいな展開になっていて、面白くはあるんだが小さな違和感が残っていたのに対し、本作は地元・イースタにとどまり、地道な捜査を重ねて巨悪を暴くという警察小説の王道の作品である。 前作で、正当防衛とはいえ人を殺したことに悩むヴァランダーは、一年半もの引きこもり休暇を過ごした末に立ち直ることができず、とうとう警察を辞める決心をする。引きこもっていたデンマークの海岸に訪ねてきた知人の弁護士の「弁護士である父親の交通事故死に疑問があるので捜査してもらいたい」という依頼も断り、イースタに戻って辞職願を出そうとする。ところが、当日の新聞で知人の弁護士が射殺されたことを知り、依頼を受けなかったことの罪悪感にさいなまれたヴァランダーは、再び捜査の現場に復帰する。 ストーリーの本筋は弁護士親子を殺害した犯人捜しだが、その背景には個人を超越して利益を追求するグローバル経済と個人の良心の対立があり、社会の変化についていけない警察組織の不協和音があり、ヴァランダーは常に悩み、苛立つことになる。さらに、妻とは離婚し、一人娘は家を出て独立し、身近に住む父親とは良好な関係が維持できない、孤独な中年男の悲哀が重なり、小説全体のトーンは重く、暗い、まさにスウェーデンの冬のようになっていく。 しかし、最後には、ヴァランダーの獅子奮迅の活躍で犯人を捕らえることができ、読者はほっとすることができる。 常連登場人物のキャラクターの深化に加えて新たなヒロインも登場し、シリーズの方向性が確立され、これからますます面白くなるという期待が膨らんでくる。 |
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今や“ドイツミステリの女王”と呼ばれているネレ・ノイハウスの本邦デビュー作。本作品は実はシリーズ全5作の3作目で、日本では次には4作目が出版されるという。シリーズものなので、警察小説ではおなじみの組織の軋轢や人間関係なども読みどころではあるが、事件捜査ものとしてきわめて高いレベルで完結しているので、シリーズの途中から読み始めたという違和感はまったく感じなかった。訳者によれば「ノイハウスの真価が分かる」作品から日本に紹介しようということのようだが、本作品だけでいっぺんにファンになりシリーズ全部を読みたくなったのだから、その作戦はずばり成功したといえるだろう。
物語は、ホロコーストを生き延びアメリカ大統領顧問まで努めた著名なユダヤ人が射殺死体で発見されたところから始まる。現場には「16145」の数字が残されていた。さらに、司法解剖の結果、この被害者がナチス親衛隊員だったことが発覚した。そして、第二、第三の殺人現場でも「16145」の数字が残され、連続殺人事件へとつながっていく。果たして、犯人は、動機は? ホーフハイム刑事警察署捜査十一課のメンバーは暗中模索の捜査活動に乗り出して行くが・・・。 ドイツでは総計200万部を突破している警察小説シリーズの一作だけあって、実に面白いストーリーに驚嘆し、緻密な構成にうならされ、本当に読み応えがあった。 最近、スウェーデン、デンマークなどのミステリを読む機会が増えていたが、今度はドイツのミステリの面白さを発見した。ノイハウス同様に評価が高いフォルカー・クッチャーも含め、今後の翻訳出版が大いに楽しみである。 |
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東直己作品はけっこう読んでいるつもりだったのだが、探偵法間シリーズは知らなかった。
本作は雑誌の連作を集めた短編集で、さまざまに趣向を凝らしたお世辞の話芸が楽しめる。なにせ主人公は風采が上がらない、金がない、体力がない探偵で、唯一の取柄・武器がお世辞という、かなり情けないヒーローだけに、サスペンスやアクションとは全く無縁。ただひたすら口先だけで問題を解決していくのだから、これはこれで、凄い! 東直己氏のアイディアと文章力、独特の皮肉が効いた美学に、ただただ感心していれば楽しい時間が過ごせること、間違いなし。 |
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本書の紹介文は「祭太鼓が轟くなかで、一人の模範囚が忽然と消え失せた。(中略)異変に気づいていたのは若手刑務官のみ。「白い夢」にアクセス出来る彼女だけが、逃亡先を知っていた……。仰天の仕掛け、感泣のラスト。内部を知悉する作家だけが成し得るサスペンス長篇。」というものだが、はっきり言って脱獄サスペンスを期待しない方がよい。
本作の一番の魅力は、元刑務官の作者が体験してきた女子刑務所での刑務官や受刑者の日常から丁寧に拾い上げて構築した心理ドラマだと思う。受刑者それぞれが背負う過去の重さ、受刑者間や刑務官との間の葛藤、刑務所という官僚組織内部の軋轢などが、しっかりした構成と巧みな描写で物語られ、女子刑務所という未知の世界がリアルに立ち現れてくる。 作者は本作が長編では二作目というので、これからどう変化して行くのか? 構成力、文章力は一流なだけに、サスペンスのアイデアの飛躍を期待したい。 |
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どんでん返しの天才・ジェフリー・ディーヴァーのノンシリーズの新作は、ノンストップ追跡劇だ。
読み終った後では多少の疑問点が無きにしもあらずだが、最初から最後まで予断を許さず、読者の予想を裏切り続ける、女性保安官補と殺し屋の緊迫感に満ちた追跡劇がたっぷり楽しめる。 いい意味で「裏切られ」続けることの快感に酔いしれてもらいたい。それ以上の感想は、あえて要らない。 |
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ガリレオ・シリーズの第二短編集。
全5作とも、単純に見える事件に現れた超常現象に悩む草薙刑事が、天才物理学者・湯川に謎解きを依頼し・・・という、お約束の展開で進められる。その超常現象は、タイトルの予知夢であったり、幽体離脱であったり、はてはポルターガイスト現象まで、まあ常識外れのオカルトとも呼びたいものだが、湯川はそれを論理的に解明して行く。しかも、解明のためのヒントになるのは犯人やその周辺の人物の言動である。 オカルト話をミステリーの枠内できちんと解説して見せるガリレオ・湯川(すなわち、東野圭吾)の手腕は、お見事!の一言。全編、ストーリーに破綻が無い、上質な短編に仕上がっており、ミステリーファンを満足させる出来だといえる。 |
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最下層ともいうべき境遇から必死で這い上がり、大企業のオーナーの娘と結婚するという“逆玉の輿”を目指したロボット開発者の栄光と挫折の物語。主人公の“鼻持ちのならなさ”が抜群で、その意味ではよく書けている。周辺の人物や警察も、やや類型的なところはあるが、巧みな人物描写で読ませる。さらに、犯罪トリックや捜査陣の追及も論理的である。
それでも何か物足りなさを感じ、評価を下げさせたのは、根本的な殺人の動機が弱いこと。さらに「完全犯罪」という割には偶然に頼ったところが見受けられ……ちょっと残念だった。 しかし、軽めのミステリーとしての合格ラインには到達した作品だと言える。 |
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前作では、ラトビアでスパイアクションを繰り広げたヴァランダー警部。今回の物語の舞台のひとつが南アとあって、またまた国外での活動が中心になるのかと思ったが、さすがに南アは遠すぎたようで、スウェーデン国内にとどまっての大活躍を見せてくれる。
物語は、地元イースタでの女性殺害事件の捜査と、南アのテロをめぐる謀略の二重構造で進められる。2つの作品になってもおかしくない内容で、文庫700ページの大作なので、正直、前半は読み続けるのが辛いところもあったが、二つの話のつながりがはっきりして役者が出そろった後半からは物語世界にぐんぐん引き込まれていった。 女性殺害事件の方は、いつものメンバーのキャラクターの作りこみがさらに深まったこと、悪役のキャラが際立っていること、アクションが派手になったことなどが合わさって、非常に出来の良い警察小説に仕上がっている。 また、南アのテロの方は、暗殺者小説の王道を行く構成で、これまたなかなかの傑作と言える。「解説」では、マンケルが影響を受けた作家としてジョン・ル・カレの名があがっているが、なるほどと思わせた。 作者・マンケルとしては南アの人種差別の問題を書きたかったのだろうが、一読者としては警察小説の出来のよさに満足した。 |
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「悪人」「平成猿蟹合戦」の吉田修一がスパイ・アクションに挑戦!って思って読むと、ちょっと物足りないかもしれない。
テーマが東アジアを舞台にした太陽光発電をめぐる謀略戦ということで、時代性もあり、興味深いのだが、情報戦の面白さよりアクション場面に重点があるようで、やや深みにかける仕上がりになっている。裏情報を売ることを商売にしている非情の情報部員、そのライバル、謎の日本人美女、香港の財閥のオーナー、ウイグル族の反政府過激派、中国の闇社会の実力者、日本の代議士など、スパイ・アクションに欠かせない登場人物は揃っており、それぞれのキャラクターもそれなりに描かれているのだが、総花的な印象が免れない。むしろ、主要人物に絞って深く書き込んだ方がドラマ性が高まったのではないかと思う。 派手なアクションシーンが多く、映画化すれば面白いと思うが、シリーズ化されたときに、次作を手に取るか? ちょっと判断に迷うところだ。 |
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クリスマスを間近にしたニューヨーク州の片田舎で、10歳の少女二人が誘拐された。同じ学校に通う仲良しのグウェンとサディーを探すために、地元警察はもとより州警察、FBIからなる捜査陣が構成される。その中に、15年前に双子の妹が同じような少女2人誘拐事件に巻き込まれて殺された地元警察の刑事・ルージュが加えられ捜査に当たることにある。
捜査が進む中、同様の犯罪が繰り返されており、今回の誘拐も同じパターンの犯罪ではないかという説が有力になる。しかし、ルージュの妹を殺した犯人は現在服役中で、絶対に彼の犯行ではありえない。とすると、服役している犯人は無罪なのか? それとも、同じような犯行を犯す人物が他にもいたのか? 過去の例から、誘拐された少女はクリスマスの朝には死体となって発見される可能性が高く、捜査は時間との闘いの様相を深め、捜査陣や被害者家族の緊張感が高まっていく・・・。 物語は、捜査の進行と誘拐された少女たちの脱出への苦闘が並行して描かれ、タイムリミットも加味されて刻一刻とサスペンスが高まっていく。そして、捜査陣と犯人と少女が一堂に会するクライマックスへ・・・。 意外な犯人、意表を突く謎解き、最後まで隠されていた物語など、衝撃のクライマックスをどう見るかで、この作品の評価は大きく分かれるだろう(ゆえに、ネタばらしは厳禁)。深く感動する人もいるだろうし、肩透かしというか、騙されたような感想を持つ人もいるだろう。個人的には、最後の怪奇ファンタジーっぽい落ちに不満が残り、後者の感想を持った。 しかし、ストーリー展開の巧妙さ、キャラクター設定のうまさから、ミステリーファンにも十分に楽しめる作品だと思う。 |
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スウェーデン南部の田舎町の警部・ヴァランダーシリーズの第2作。結論から言えば、シリーズの読者には必読だが、単品としてみると「?」、失敗作かも知れない。
ヴァランダーが所属するイースタ警察署管内の海岸に、2体の死体を載せた救命ボートが流れ着いた。ボートに死体があることを告げる匿名電話があり、検視官からはソ連または東欧の人間の可能性が高いと知らされる。果たして、彼らは何者なのか? なぜ殺されたのか? 犯罪捜査はストックホルムの外務省や警視庁を巻き込みながら展開され、やがてバルト海の対岸、ラトヴィアの犯罪組織が絡んでいることが判明し、ラトヴィア警察から刑事が派遣されてくる。結局、捜査はラトヴィア側に引き渡され、ヴァランダーの任務は終ったはずだったが・・・。 途中から、物語はラトヴィアの民主化をめざす勢力と現政権側の壮絶な争いが中心となり、ヴァランダーは冷戦時代の下手なスパイのような役割を担わされることとなる。このあたりからは、もう警察小説ではなくスパイアクションの趣で、ヴァランダー・シリーズの愛読者にはかなり違和感があるのではないだろうか? 結局、ボートの死体の謎はすっきりとは解決されず、警察小説としては破綻している気がした。それでも、シリーズ読者必読というのは、後々、シリーズで重要な登場人物となるヴァランダーの恋人が登場してくること、ヴァランダー本人のキャラクターの理解に欠かせない生活背景が描写されていることにある。 本作を読む前に、第1作「殺人者の顔」を読んでおくことを強くオススメする。 |
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