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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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冒険小説界の大型新人と言われるトム・ウッドの第二作は、前作に続く暗殺者ヴィクターの冒険アクション小説だ。前作「パーフェクト・ハンター」が大ヒットしたということで(未読)、同じ路線で、緊迫感とアクションをさらに高めたということのようだ。
CIAから世界的な兵器密売買の大物ディーラーに絡む暗殺を依頼されたヴィクターは、様々な困難な状況に直面しながら持ち前の技術、体力、知力を総動員して仕事を遂行して行く。そして、これが終れば自由の身になるという確約の下に最後のターゲットを指示されるが、そのターゲットは思いもかけない人物だった。それでも着実に仕事をこなして行くヴィクターの周りに謎の組織が出没し、行く手を阻もうとする。果たして、ヴィクターは最後の任務を無事に果たして自由の身になれるのか? 最初から最後まで、ヴィクターの超人的な暗殺者ぶり、スナイパーぶりに圧倒される。いわば、ゴルゴ13とランボーを合わせたような活躍ぶりなのだ。 暗殺と国際的な陰謀を絡めたサスペンス・アクションといっても、フォーサイス「ジャッカルの日」よりラドラム作品の方が好き、という方にオススメしたい。 |
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12年ぶりに発表されたパトリック&アンジー・シリーズの第6作は、第4作「愛しき者はすべて去りゆく」の後日談であり、最終作でもある。
アンジーと結婚し4歳の娘を育てているパトリックは、アンジーとの共同の探偵事務所をたたみ、今は超上流階級を顧客に持つボストンの老舗調査事務所から仕事を貰いながら、健康保険、保育費などを心配する日々を過ごしていた。折からアメリカ社会はリーマン・ショックの後遺症で不況にあえいでおり、パトリックは調査事務所の正社員として雇われることを願っていたが、ストリート育ちの正義感から生まれる上流社会の鼻持ちならない人々への反感は隠しようもなく、正社員への道は閉ざされたままだった。 そんな折、パトリックとアンジーが12年前に誘拐犯から救け出したアマンダという少女の叔母から、16歳になっているアマンダがまた姿を消したので探してほしいという依頼を受ける。気乗りしないパトリックだったが、アマンダの救出にまつわる苦い思い出と、依頼の直後に「アマンダに手を出すな」と脅迫されたことがあいまって、再びアマンダを探すことにする。中年期に差し掛かって気力、体力が衰えてきたことを自覚し、守るべき家族もかかえるパトリックはかつて自分が過ごした暴力の世界からは身を引くつもりだったのだが、捜索の過程でいやおうなくその世界へと引きずり込まれていく。 シリーズの終わりにふさわしい、感傷的で穏やかなラストシーンが印象的だった。 |
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聞いたことが無い作家だし、ブッカー賞の最終候補作になったという触れ込みなので、果たしてミステリーと呼べるかどうかと疑問を持ちながら読んだのだが、そんなジャンル分けがまったく無意味に感じられる、非常に面白い小説だった。
ちょっとふざけたタイトルの意味は、チャーリー・シスターズとイーライ・シスターズの殺し屋兄弟が主人公だからという、ひとを食ったところが、この作品の奇妙な風合いを良く表しているといえるだろう。 物語の舞台は、1851年のゴールドラッシュに沸き返るアメリカ西海岸。凄腕の殺し屋兄弟「シスターズ・ブラザーズ」は雇い主である“提督”から請け負った、ある山師を消す仕事のためにオレゴンからサンフランシスコへと旅立って行く。一獲千金を夢見る男達が集結した半ば無法地帯で、凄腕兄弟は知恵と度胸を駆使して暴れ回り、苦労の末に目的の山師に遭遇する。そして二人は・・・ 言ってみれば、一種の西部劇であり、悪漢小説であり、青春小説でもあり、アクションミステリーでもあり、ユーモア小説でもある。最初から最後まで血まみれで、数え切れないほどの殺人が、それも非情な殺人が描かれているにもかかわらず、それほど悪い読後感ではなかった。その理由は、一人称語りで物語を進めて行く弟のイーライが人の好さを残した憎めない悪人で、苛酷な環境の中でも新たな生き方を見つけようとする、ある種の成長物語とも読めるところにある。 「面白い小説」をお探しの多くの方にオススメしたい。 |
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ハリー・ボッシュでもなく、リンカーン弁護士でもなく、新聞記者・ジャック・マカヴォイが主役のサイコ・ミステリー。
LAタイムズからレイオフを宣告され、新人への引き継ぎのため最後の2週間を勤めることになったマカヴォイは、殺人で逮捕された黒人少年の祖母から「息子はやっていない。あんたの記事はデタラメだ」という電話を受け、とりあえず取材を始めた。すると、思いもかけない連続殺人の疑惑に遭遇し、最後の特ダネとして真剣に取材し始めたことから、ネットを駆使する天才的な殺人鬼から命を狙われることになる。 マカヴォイが、優秀なプロファイラーでFBI捜査官のレイチェル・ウォリングと組んで犯人の正体を暴き、追いつめるのがストーリーの中心ではあるが、実は真犯人は最初から読者には分かっている。それでもなおかつ、犯人追求のサイコ・ミステリーとして非常に面白く読めるところは、さすがマイクル・コナリー! 謎解きでもなく、アクションでもなく、人間心理を描くことで良質なエンターテイメントに仕上げて楽しませてくれた。 本編が終ったあとに、「作者質疑応答」という付録があって、マイクル・コナリーが新聞業界の行方についての懸念を率直に語っているのが興味深かった。ここで取り上げられている問題は、まさに今、日本の新聞業界が直面している課題でもあると思った。 |
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最近の新大久保での人種差別デモもそうだが、常識ある人なら絶対に口にできないような罵詈雑言をまき散らす人々は、自らの言動が社会的敗者としての自分を慰撫することにすぎないことには無自覚で、むしろ社会を正す行為だと思っているところが救いがたく、また始末に悪い。歴史的に階級社会であり、また階層分化が激しくなっている英国社会でも、同様のことが起きているのだろう。
ミネット・ウォルターズの「遮断地区」は、経済格差、人種差別、人間関係の破たんなどの社会病理を背景に、ほんのささいな抗議行動が制御不可能な激しい暴動に変化していく様をダイナミックに描き、読者をぐいぐい引き込んでいく面白いパニック小説であり、きわめて読み応えのある社会派小説でもある。 社会的弱者を押し込めた袋小路のような公営団地で、思慮に欠ける巡回看護師がうかつに「小児性愛者が引っ越してきた」ことをもらしたことから、不安を覚えた母親たちが排斥デモを計画する。それに悪乗りしたのが、真夏の暑さに不満のエネルギーを溜め込んでいた不良少年グループで、酒やドラッグの力を借りて大騒動を巻き起こすことになる。興奮した群衆は警察を介入させないためのバリケードを築き、小児性愛者の家を焼き、リンチを実行しようとする。 物語の主役は「悪意ある社会的病理」だが、それに立ち向かって暴動からサバイブする主人公たちの言動に励まされるところが多いため、重苦しい結末にもかかわらず、読後感には救われるところがある。人は、社会は、簡単に狂ってしまうことを痛感すると同時に、「地獄への道は善意で敷き詰められている」ことを、あらためて考えさせられた。 |
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イタリア版「羊たちの沈黙」としてヨーロッパで大人気を呼んだサイコ・ミステリー。さすがにマカロニ・ウェスタンを生み出した文化背景の産物というべきか、被害者の少女たちは全員左腕を切断されるわ、捜査官は自傷傾向があって、捜査に行き詰まると自らを傷つけるわで、全編血まみれ、味の濃いスパゲッティ・ナポリタンのような(笑)作品だった。
森で発見された6本の左腕が、連続少女誘拐事件として捜査中の事件の被害者のものだと判明する。ところが、被害者として分かっているのは5人だけ。では、6人目の少女は誰なのか? 左腕をなくした被害者の死体が発見されるたびに、捜査が大きく動き、犯人と思われる人物に迫っていく。だが、犯人と思われた人物が実は真犯人ではなかったことが分かってくる。どんでん返しに次ぐどんでん返しでサスペンスが高まり、最後のクライマックスが待ち遠しくなってくる・・・。天才的な連続殺人鬼対美人捜査官という構図も本家「羊たちの沈黙」にそっくりで、犯罪の発覚から犯人の解明までのプロセス、捜査陣の人間関係の緊張感もスリリングで、非常に読み応えのあるストーリーだった、全体の3/4ぐらいまでは・・・。 連続殺人の全容がほぼ明らかにされ、犯罪心理面から殺人鬼に迫っていくという一番重要なところで描かれる、どんでん返しのための仕掛けがかなりチープ(捜査の一環として、死の床にある富豪から霊能力者が重要な証言を引き出したり、きわめて重要なシーンで捜査官が簡単に騙されたり)で、ちょっと白ける部分があったのが残念。これがなければ、8点か9点でも良かったのだが。 |
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初めて手に取ったオーストリアのサイコミステリーは、予想以上の面白さだった。近頃人気が高まっている北欧、ドイツのミステリーのテイストに近く、アメリカのサイコものとは少し違う読後感をもたらした。
オーストリアで小児科医がマンホールに落ちて死亡し、市会議員が運転中にエアバッグが作動して事故死した。ドイツの精神病院では若い女性患者が自殺した。どれも単純な事件・事故と思われたが、意外な事実が判明し、隠されていた忌まわしい過去が暴かれていく・・・。 ウィーンの事故を担当した女性弁護士と、ドイツのやもめの機動捜査官(刑事としては閑職の立場)が、それぞれの事情(と正義感)から真相究明に突っ走る。それぞれのストーリーが交互に、スピーディーに記述され、やがて一本の道に合流し、驚くべき結末を迎える。 事態が動き始めてからわずか一週間ほどで解決に至る物語の展開の速さがスリリングで、犯行動機、登場人物の背景描写も深みがあり、実に読み応え十分の作品だ。 |
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デニス・ルヘインの新作は禁酒法時代の若きギャングの成り上がりの物語。「運命の日」からの三部作の2作目ということだが、訳者後書きを読むまで、「運命の日」の続編とは気づかなかった。もちろんこちらの注意力不足だが、主人公が前作に登場していたこと以外は、あまり関係無いように思った。本作は、独立した作品としても非常に完成度が高くて面白いと言える。
ボストン市警幹部の息子でありながら、禁酒法と大恐慌が作り出した混乱の時代の裏社会を腕一本でのし上がっていく主人公・ジョー。仲間と強盗に入った賭博場で出会った女に一目ぼれしてしまうが、彼女が敵対する組織のボスの情婦だったことから運命が大きく転換する。監獄でのサバイバル、出所して新しい土地でのギャング組織づくり、裏社会のボスとしての成功と組織を維持することの苛烈さなど波乱万丈のストーリーが、友情、愛、裏切りなどの人間臭いドラマと共に展開されていく。 最初から最後まで、まったく読者を飽きさせないストーリーの面白さに、デニス・ルヘインならではの鋭い人間観察、社会的批評性がバランスよく加えられており、ノワール小説ファンのみならず、多くの読者を満足させること間違いなし。 |
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ボストンの私立探偵、パトリック&アンジー・シリーズの第5作。今回は、アンジーと別れてひとりで営業していたパトリックにストーカー被害を受けている女性からの依頼があり、盟友ブッパの手助けを得て一件落着。簡単なケースだったと思っていたのだが、半年後、依頼人の女性が全裸で飛び降り自殺を図ってしまう。しかも、自殺の前に、パトリックに「連絡がほしい」と言う電話があったのに、パトリックは電話するのを忘れてしまっていた。自責の念に駆られたパトリックが、誰に頼まれたのでもなく自殺の背景を探り始ると、裕福な一家に隠された意外な事情が浮かび上がってきた・・・。
本作で目を引くのは、何と言っても犯人の残虐さ。シリーズ史上、最も悪辣な犯人と言えるだろう。さらに、真犯人が判明するまでのプロットが二転、三転、複雑に入れ替わるところはジェフリー・ディーヴァー並のジェットコースター展開で読者を引っ張っていく。 今回はアンジーと同等以上にブッパの登場部分や役割が大きく、シリーズに新味が加わったと言える。 作者は、本作を終えて「二人を少し休ませてやりたい」と言っているそうだが、最強の悪人を相手に心身ともに深く傷ついた二人には、しばらく休養が必要だろうと納得できる。 |
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1990年に「パソコン通信殺人事件」として刊行された作品に加筆修正して、1997年に文庫化された作品。ここで刊行年代を明記したのは、急速に変化してきたネット世界の大衆化の第一段階だったパソコン通信(今は死語、SNSというべきか)が舞台になっているためである。「パソコンで会話ができるらしい」、「知らない人と仲良くなれるんだって」という話が、パソコンの専門家や理系の学生以外の普通の人の会話に出始めたころの話であることに留意して読む必要があるだろう。
主人公の小田切薫は三浪中で、目下の一番の楽しみは深夜のパソコン通信の世界で遊ぶこと。そこでは「KAHORU姫」として仲間の中心になり(女性になっているのは、通信の仲間が勘違いしただけで、彼がネカマになろうとした訳ではない)、時間を忘れて会話を楽むことができる。受験勉強のプレッシャーとも、半ば引きこもり状態の孤独感とも無縁でいられる夢の世界だった。ところが、「KAHORU姫」に恋をして、現実に会うために上京した男性が次々に殺される事件が発生する。犯人は小田切薫なのか、それとも他の誰かなのか? 真犯人が判明するプロセスや犯行動機などに多少の物足りなさを感じるが、浪人という中途半端な状況とネットの仮想社会との間で揺れ動く若者の心理描写には、「さすが、乃南アサ」と思わせる力量が現れている。ミステリーとしてはいまいちだったが、テーマの先見性で評価したい。 |
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ボストンの私立探偵、パトリック&アンジー・シリーズの第4作。今回、二人が挑戦するのは幼児誘拐事件。麻薬がらみの比較的単純な事件で、問題は誘拐された4歳の女の子アマンダの命が助かるかどうかだけと思われたが、捜索を進めるうちに複雑な背景が浮かび上がってくる。
どうしようもないダメ母、ダメ母に育てられているアマンダの現状と未来に心を痛める、ダメ母の兄夫婦、幼児が被害者となる事件の撲滅に心血を注いでいるボストン市警の幼児犯罪被害防止班の警官たち、さらには不気味な小児性愛者たちまで登場して、ストーリーは希望と絶望の間をジェットコースターで走り抜けていく。中盤からは一気読みの面白さで最後まで飽きさせない。 そして迎える衝撃のラスト、あまりにも切なく、悲しくなり、「この社会に正義はあるのか?」と疑問に思わざるを得なくなる。さらに、パトリックとアンジーの今後まで予断を許さなくなり、シリーズ愛好者は荒野に放り出されたような気分にさせられる。 前作「穢れしものに祝福を」でちょっと評価を下げた本シリーズだが、本作で失地挽回したことは間違いない。 |
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「禿鷹シリーズ」の最初の作品。久し振りに「人がいっぱい殺される日本の作品を読んだ」というのが最大の感想。船戸与一作品以来かな?
渋谷を縄張りとするやくざ組織が、南米マフィアから派遣されて親分を狙う凄腕の殺し屋と死闘を繰り返す。そこに、やくざ側の強力な助っ人として登場するのが、禿鷹こと、刑事・禿富鷹秋。しかし、この刑事は一筋縄ではとられられない、とんでもないハードボイルド刑事だった・・・。 主人公のキャラクターも、ストーリーも刑事物の枠を大きく外れており、そのテイストは「マカロニ・ウェスタン」に近いと言えば、分かりやすいだろうか? 渋谷が舞台とはいえ、和風なところは皆無で、ラテンや東南アジアのテイストといった方がよいだろう。 同じ刑事が主役の小説といっても「百舌シリーズ」とはまったく異なる、劇画風ハードボイルドで、これは好みが相当分かれる作品だと思う。 |
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ヴァランダー・シリーズで有名なヘニング・マンケルのシリーズ外作品。とはいえ、物語の構成、社会背景などはシリーズと共通するものがあり、シリーズの愛読者も十分に満足できるだろう。
舌癌と診断され、自分は「40歳を前に死ぬ」のだろうかと苦悩する刑事が、引退して隠匿生活を送っていた先輩刑事が惨殺されたという新聞記事を目にして、事件現場を訪ねることにする。最初はただ、どういう生活をしていたのかを知りたいというだけの気持ちだった刑事だが、謎に満ちた事件の様相を知るにつけ、自分は担当外(まったく別の警察の管轄である)であるにもかかわらず、捜査活動にのめりこんでいく。舌癌の本格的な治療が始まるのを前に絶望的な気持ちにかられたこともあり、主人公の刑事はかなり乱暴な手段で捜査を進め、やがては事件の真相をあばくことになる。 先輩刑事を殺害した犯人はストーリーの早い部分で登場するので、犯人探しの警察小説ではなく、事件の背景となる社会病理、人間の醜さに鋭く切り込んでいく社会派ミステリーといえる。物語の舞台は2000年前後のスウェーデンだが、まったく同じような病理が日本社会をむしばんでいることが顕在化してきた現在、読後にはきわめて重いものが残された。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの9作目は、電気を武器にするテロという、これまでにはない犯人との知恵比べが展開される。目には見えないが、我々の周囲には必ずある電気を使ってニューヨークを人質にとろうとする犯人の狙いは何か? 地球環境破壊につながる化石燃料発電を止めさせようとする環境保護団体のテロなのか? 東日本大震災を経験した日本人には身につまされるような電力と人命や環境との対立というジレンマを背景に、意外な犯人像が浮かび上がってくる。だがしかし、最後の最後で、さらに驚愕の犯人が登場する・・・。
物語の冒頭から読者を引きつけ、ハラハラドキドキのジェットコースター展開で楽しませる巨匠の腕は、本作でも遺憾なく発揮されている。また、チーム・リンカーンともいうべき仲間たちが、それぞれの魅力を発揮して物語に味わい深さを加えて、シリーズ作品ならではの楽しみも用意されている。 ただ今回は、微細証拠物件から犯人を割り出して行く「科学的捜査」の側面より、心理や人間関係から犯人像を描いて行く「プロファイリング」的な側面が強くなり、通常の警察小説に近くなったような気がした。 犯人逮捕後のエピローグ部分で、シリーズの今後を予測不可能にするような展開があるのも、リンカーン・ライムファンには気になるところだろう。 |
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3部作、それぞれが700ページを超える超大作で登場人物も多いが、人物関係が複雑ではないので、意外と楽に読むことができた。
クリスマスイブの深夜、校舎屋上から落ちて死んだ同級生の事故?、自殺?、事件?をめぐって、学校や親や警察を信じきれなかった中学三年生たちが、自分たちの手で真実を見極めるために法廷を開く・・・。まず、舞台設定で驚かせてくれる。しかも、主要な役割の人物はスーパー中学生というか、大人顔負けの論理的な論陣を張ってくる。「こんな中学生、いるわけないじゃん」と思った時点で、この作品はまったく面白くなくなるだろうが、そこはそれ、フィクションの面白さと思えれば、楽しめる青春小説を言えるだろう。 同級生は自殺したのか、だれかに殺されたのかという謎解きミステリーとして読むと、特別なトリックや驚くほどの動機や犯行形態があるわけではなく、さほど面白くはない。また、最後にどんでん返しがあるわけでもない(むしろ、勘のいい人なら途中で結末が予想できる?)。だれもが通ってきた道を振り返る、中学生の青春ドラマとして読むのが正解だろう。 |
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高村薫の最新作は、合田雄一郎シリーズの新作だけに、「晴子情歌」から前作まで続いてきた読みづらさが薄らぎ、エンターテイメントとして楽しめる作品だ。ただ、警察小説、ミステリーを期待していると裏切られる結果になるだろう。
物語は、実際の事件(いまだ未解決だが)を想起させる「歯科医一家4人殺し」の事件発生から裁判、死刑執行までを追うもので、犯人、被害者の背景描写から捜査の在り様、裁判過程における関係者の言動まで、いかにも高村薫らしい緻密な描写(ことに、犯人の歯痛、歯科治療の詳細さと言ったら・・・)で展開される。しかし、すべてが明らかにされたようでありながら、犯人の実像、心理、犯行動機などは、すべて霧の中での手探りの記録でしかなかったという茫漠さが最後に残り、きわめて微妙な読後感に悩まされることになる。作者は、合田雄一郎と読者を真実と虚偽が絡み合って延々と続く、広漠な精神世界に放り出すことを狙っているに違いない。 そこが高村ワールドであり、好悪が分かれるところだろう。 |
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フォーサイス久々の新作「コブラ」は、フォーサイスらしさ全開の国際謀略小説だ。今回の主役は元CIA高官で凄腕工作員のデブロー、通称「コブラ」。相手は世界のコカイン市場を牛耳るコロンビアのコカイン・カルテル「兄弟団」。オバマ(?)大統領の指示でコカイン殲滅作戦に乗り出したコブラは、徹底した秘密主義と大統領から与えられた強大な権限によって、奇想天外な大作戦を展開する・・・。
国際的なコカイン密売の仕組み、各国当局の麻薬取締の実態、軍や警察組織の装備など、ジャーナリスト・フォーサイスの本領である綿密な取材に基づくリアリティのある細部の描写が、作品に臨場感をもたらしている。 ただし、小説として面白いかと言えば、ちょっと微妙で、人間のドラマの部分が弱く感じられた。いわば、きわめて出来のよいシミュレーション・レポートを読んでいるような印象で、いまいち作品世界に没入できなかった気がした。 |
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引退した捜査官が断りきれない事情から再度、捜査現場に戻って活躍するというのはよくあるパターンだが、主人公が60歳近い女性と言うのは初めて読んだ気がする(すでにあるのかもしれないが)。しかも、本筋はサイコパスを追いかける異常心理ものなのに、犯人の心理や行動の描写は少なく、ヒロインの心理描写の部分が多いのも異色だ。
女性対象の性犯罪者を捕らえるための囮捜査のプロとして活躍していたFBI捜査官ブリジッドが、若い女性の囮の役目を果たせなくなり、後継者として育てたFBI捜査官が殺された「ルート66連続殺人事件」は、犯人を逮捕できないまま7年が経ち、ブリジッドは引退して新婚生活を送っていた。そこに、犯人逮捕の報が届くが、担当の女性捜査官コールマンは犯人の自白に疑問を持ち、真犯人かどうかの確認のためにブリジッドに協力を要請する・・・。 捜査権限がない立場での厳しい捜査に、果敢に立ち向かう中年女性。体力、気力とも現役に負けないのだが、いかんせん警察力を駆使できない弱みがあり、非常に苦しい戦いとなり、自分自身はもちろん、最愛の夫までも苦しめる展開になってゆく。 若い女性の役ができなくなった中年女性が、老嬢専門の連続殺人鬼に遭遇するところからスタートするストーリーは、異色と言えば相当に異色で、問題解決までの道のりにややご都合主義的なところもあるが、最後まで犯人が分からず面白く読めた。 主人公のキャラが独特過ぎて、シリーズにするのはちょっと難しいかなと思うが、次回作はあるかどうか? その点も興味深い。 |
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ガリレオ・シリーズの短編集、第7弾。4作品が収載されているが、どれも期待を裏切らない(良くも悪くも)秀作ぞろいだ。
ストーリーは平易でトリックもそれほど奇抜ではなく、謎解きのプロセスも破綻がなく、とても読みやすい。こういう作品を書かせると、東野圭吾は本当に上手い!。 ただ、長編ほどの深みがないので、どうしても物足りなさが残る。まあ、東野圭吾については最初から求めるレベルが高いということだろう。 |
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パトリック&アンジー・シリーズの第3弾。シリーズ作品ならではの安心感と、マンネリを打破する試みが微妙にずれた印象を与える、ちょっと残念な作品だ。
パトリックとアンジーが路上から拉致されて大富豪に仕事を依頼されるという出だしから、やや「?」だったのだが、犯罪の背景、犯人の動機、問題解決の方法などなど、いまいちしっくりこないまま終わってしまった印象だ。 カージャックで銃撃を受け、癌で余命半年と宣告されたボストンの超大富豪が、失踪した一人娘の捜索を依頼する。ところが、この捜索の前任者の探偵が、パトリックの探偵術の師匠、生涯の師と仰ぐ人物で、彼もまた行方不明になっていた。二人が姿を消した理由を追求していたパトリックとアンジーの前に、ある精神セミナーグループとカルト教団が浮上し、そこから舞台はフロリダに移り、さらに複雑かつ暴力的な展開を見せてゆく・・・。 あやしげなセミナーとカルト教団の金がらみの陰謀などは、どこの国にもある現代病と納得だったが、おなじみブッパのすさまじい援護、自家用ジェットでの移動、大富豪の豪邸での凄絶な争いなどなど、現代アメリカン・ハードボイルドならではの派手さには、「これ、ルへイン?」と、多少の違和感を感じてしまった。 シリーズの読者には、作者にはこういう一面もあるのかと思わせるぐらいで失敗作とは言えないだろうが、本作品が初レヘイン(ルへイン)の読者には、本当の実力を誤解させるのではないかと、余計なお世話の感想を持たざるを得なかった。 |
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