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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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ヴァランダー警部シリーズの第5作は、さすが「CWAゴールドダガー賞」受賞作といえる傑作だ。
恋人・バイバとの夏休み旅行を楽しみにしていたヴァランダー警部だが、目の前での少女の焼身自殺というショッキングな場面に遭遇しただけでなく、死者の頭皮を剥ぐという猟奇事件まで発生し、浮かれた気分が吹き飛ばされてしまう。さらに、同一犯によると思われる殺人事件が発生し、イースタ警察は不眠不休で犯人を追うことになる。 アメリカでは起きてもスウェーデンでは起きないと思っていた猟奇連続殺人事件に戸惑うヴァランダーたちは、まったく犯人像を描くことが出来ず、ついにプロファイラーの力も借りて暗中模索の捜査を続けることになる。そこには、世界の変化とともに変貌するスウェーデン社会の闇が広がっていた・・・。 上下巻合わせて750ページの大作だが、カリブ海・ドミニカ共和国でのプロローグから父親とともにイタリア旅行に出かける飛行機内のエピローグまで、全編だれるところがない。上巻の3/4ぐらいで、ほぼ犯人の目星はつくのだが、そこからも犯罪捜査の緊迫感は損なわれることもなく、質の高い警察小説に仕上がっている。 サイコパスが主役の連続殺人ものといえば米国を中心に世界中で掃いて捨てるほど書かれているが、さすがにヘニング・マンケルは上手い! 特異な犯人の行動だけでなく、犯行の動機となる社会的な病、変化する警察組織が抱える問題、捜査官達が抱える個人的な苦悩などが丁寧に描かれており、さまざまな読み方で楽しめる。少女の焼身自殺も重要な伏線になっていて、最後にすっかり腑に落ちるのが心地よい。 「リガのイヌたち」「白い雌ライオン」で迷走したヴァランダー・シリーズだが、前作「笑う男」で持ち直し、本作で大飛躍した(これは、某評論家の解説だが)という噂は本当だった。 |
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現在のドイツ・ミステリーの巨匠と目されているフォルカー・クッチャーの日本デビュー作。ラート警部を主人公にした全8作のシリーズの第一作である。
1929年のベルリンを舞台に、ある事情でケルンから左遷?され、意に沿わない風紀課に配属されたてきたラート警部が思いがけなく殺人事件に遭遇し、希望する殺人課への異動のチャンスとばかりに独自の捜査を開始する。 第一次世界大戦の痛手から回復し、建設ラッシュに沸くベルリンでは共産勢力と民族派、台頭し始めたナチスが勢力争いを繰り広げ、そこに亡命ロシア人が絡んで、複雑で暴力的な謀略が渦巻いていた。誰が敵で、誰が味方なのか? はぐれ刑事のラートは疑心暗鬼に陥りながら鋭い推理で事件の解明を進め、やがて巨大な悪の存在に気づき、必殺の大芝居を打つ。時代が時代だけに、捜査手法は科学的な捜査より、聞き込みと推理が中心で、オーソドックスな警察小説の展開だが、途中で禁じ手ではないかというエピソードもあり、なかなか波乱にとんだ展開で飽きさせない。 警察小説ではあるが、舞台がワイマール時代のベルリンということで、史実と虚構が入り混じった歴史小説という側面も強い。好みが分かれるところだが、私としては現在のドイツを描いたネレ・ノイハウスの方が好みと言える。 |
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シリーズ4作目の本作は、主人公・ヴァランダー警部のキャラクターが際立つ、良質な警察小説に仕上がっている。
前2作が警察小説というより国際謀略小説みたいな展開になっていて、面白くはあるんだが小さな違和感が残っていたのに対し、本作は地元・イースタにとどまり、地道な捜査を重ねて巨悪を暴くという警察小説の王道の作品である。 前作で、正当防衛とはいえ人を殺したことに悩むヴァランダーは、一年半もの引きこもり休暇を過ごした末に立ち直ることができず、とうとう警察を辞める決心をする。引きこもっていたデンマークの海岸に訪ねてきた知人の弁護士の「弁護士である父親の交通事故死に疑問があるので捜査してもらいたい」という依頼も断り、イースタに戻って辞職願を出そうとする。ところが、当日の新聞で知人の弁護士が射殺されたことを知り、依頼を受けなかったことの罪悪感にさいなまれたヴァランダーは、再び捜査の現場に復帰する。 ストーリーの本筋は弁護士親子を殺害した犯人捜しだが、その背景には個人を超越して利益を追求するグローバル経済と個人の良心の対立があり、社会の変化についていけない警察組織の不協和音があり、ヴァランダーは常に悩み、苛立つことになる。さらに、妻とは離婚し、一人娘は家を出て独立し、身近に住む父親とは良好な関係が維持できない、孤独な中年男の悲哀が重なり、小説全体のトーンは重く、暗い、まさにスウェーデンの冬のようになっていく。 しかし、最後には、ヴァランダーの獅子奮迅の活躍で犯人を捕らえることができ、読者はほっとすることができる。 常連登場人物のキャラクターの深化に加えて新たなヒロインも登場し、シリーズの方向性が確立され、これからますます面白くなるという期待が膨らんでくる。 |
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今や“ドイツミステリの女王”と呼ばれているネレ・ノイハウスの本邦デビュー作。本作品は実はシリーズ全5作の3作目で、日本では次には4作目が出版されるという。シリーズものなので、警察小説ではおなじみの組織の軋轢や人間関係なども読みどころではあるが、事件捜査ものとしてきわめて高いレベルで完結しているので、シリーズの途中から読み始めたという違和感はまったく感じなかった。訳者によれば「ノイハウスの真価が分かる」作品から日本に紹介しようということのようだが、本作品だけでいっぺんにファンになりシリーズ全部を読みたくなったのだから、その作戦はずばり成功したといえるだろう。
物語は、ホロコーストを生き延びアメリカ大統領顧問まで努めた著名なユダヤ人が射殺死体で発見されたところから始まる。現場には「16145」の数字が残されていた。さらに、司法解剖の結果、この被害者がナチス親衛隊員だったことが発覚した。そして、第二、第三の殺人現場でも「16145」の数字が残され、連続殺人事件へとつながっていく。果たして、犯人は、動機は? ホーフハイム刑事警察署捜査十一課のメンバーは暗中模索の捜査活動に乗り出して行くが・・・。 ドイツでは総計200万部を突破している警察小説シリーズの一作だけあって、実に面白いストーリーに驚嘆し、緻密な構成にうならされ、本当に読み応えがあった。 最近、スウェーデン、デンマークなどのミステリを読む機会が増えていたが、今度はドイツのミステリの面白さを発見した。ノイハウス同様に評価が高いフォルカー・クッチャーも含め、今後の翻訳出版が大いに楽しみである。 |
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東直己作品はけっこう読んでいるつもりだったのだが、探偵法間シリーズは知らなかった。
本作は雑誌の連作を集めた短編集で、さまざまに趣向を凝らしたお世辞の話芸が楽しめる。なにせ主人公は風采が上がらない、金がない、体力がない探偵で、唯一の取柄・武器がお世辞という、かなり情けないヒーローだけに、サスペンスやアクションとは全く無縁。ただひたすら口先だけで問題を解決していくのだから、これはこれで、凄い! 東直己氏のアイディアと文章力、独特の皮肉が効いた美学に、ただただ感心していれば楽しい時間が過ごせること、間違いなし。 |
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本書の紹介文は「祭太鼓が轟くなかで、一人の模範囚が忽然と消え失せた。(中略)異変に気づいていたのは若手刑務官のみ。「白い夢」にアクセス出来る彼女だけが、逃亡先を知っていた……。仰天の仕掛け、感泣のラスト。内部を知悉する作家だけが成し得るサスペンス長篇。」というものだが、はっきり言って脱獄サスペンスを期待しない方がよい。
本作の一番の魅力は、元刑務官の作者が体験してきた女子刑務所での刑務官や受刑者の日常から丁寧に拾い上げて構築した心理ドラマだと思う。受刑者それぞれが背負う過去の重さ、受刑者間や刑務官との間の葛藤、刑務所という官僚組織内部の軋轢などが、しっかりした構成と巧みな描写で物語られ、女子刑務所という未知の世界がリアルに立ち現れてくる。 作者は本作が長編では二作目というので、これからどう変化して行くのか? 構成力、文章力は一流なだけに、サスペンスのアイデアの飛躍を期待したい。 |
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どんでん返しの天才・ジェフリー・ディーヴァーのノンシリーズの新作は、ノンストップ追跡劇だ。
読み終った後では多少の疑問点が無きにしもあらずだが、最初から最後まで予断を許さず、読者の予想を裏切り続ける、女性保安官補と殺し屋の緊迫感に満ちた追跡劇がたっぷり楽しめる。 いい意味で「裏切られ」続けることの快感に酔いしれてもらいたい。それ以上の感想は、あえて要らない。 |
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ガリレオ・シリーズの第二短編集。
全5作とも、単純に見える事件に現れた超常現象に悩む草薙刑事が、天才物理学者・湯川に謎解きを依頼し・・・という、お約束の展開で進められる。その超常現象は、タイトルの予知夢であったり、幽体離脱であったり、はてはポルターガイスト現象まで、まあ常識外れのオカルトとも呼びたいものだが、湯川はそれを論理的に解明して行く。しかも、解明のためのヒントになるのは犯人やその周辺の人物の言動である。 オカルト話をミステリーの枠内できちんと解説して見せるガリレオ・湯川(すなわち、東野圭吾)の手腕は、お見事!の一言。全編、ストーリーに破綻が無い、上質な短編に仕上がっており、ミステリーファンを満足させる出来だといえる。 |
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最下層ともいうべき境遇から必死で這い上がり、大企業のオーナーの娘と結婚するという“逆玉の輿”を目指したロボット開発者の栄光と挫折の物語。主人公の“鼻持ちのならなさ”が抜群で、その意味ではよく書けている。周辺の人物や警察も、やや類型的なところはあるが、巧みな人物描写で読ませる。さらに、犯罪トリックや捜査陣の追及も論理的である。
それでも何か物足りなさを感じ、評価を下げさせたのは、根本的な殺人の動機が弱いこと。さらに「完全犯罪」という割には偶然に頼ったところが見受けられ……ちょっと残念だった。 しかし、軽めのミステリーとしての合格ラインには到達した作品だと言える。 |
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前作では、ラトビアでスパイアクションを繰り広げたヴァランダー警部。今回の物語の舞台のひとつが南アとあって、またまた国外での活動が中心になるのかと思ったが、さすがに南アは遠すぎたようで、スウェーデン国内にとどまっての大活躍を見せてくれる。
物語は、地元イースタでの女性殺害事件の捜査と、南アのテロをめぐる謀略の二重構造で進められる。2つの作品になってもおかしくない内容で、文庫700ページの大作なので、正直、前半は読み続けるのが辛いところもあったが、二つの話のつながりがはっきりして役者が出そろった後半からは物語世界にぐんぐん引き込まれていった。 女性殺害事件の方は、いつものメンバーのキャラクターの作りこみがさらに深まったこと、悪役のキャラが際立っていること、アクションが派手になったことなどが合わさって、非常に出来の良い警察小説に仕上がっている。 また、南アのテロの方は、暗殺者小説の王道を行く構成で、これまたなかなかの傑作と言える。「解説」では、マンケルが影響を受けた作家としてジョン・ル・カレの名があがっているが、なるほどと思わせた。 作者・マンケルとしては南アの人種差別の問題を書きたかったのだろうが、一読者としては警察小説の出来のよさに満足した。 |
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「悪人」「平成猿蟹合戦」の吉田修一がスパイ・アクションに挑戦!って思って読むと、ちょっと物足りないかもしれない。
テーマが東アジアを舞台にした太陽光発電をめぐる謀略戦ということで、時代性もあり、興味深いのだが、情報戦の面白さよりアクション場面に重点があるようで、やや深みにかける仕上がりになっている。裏情報を売ることを商売にしている非情の情報部員、そのライバル、謎の日本人美女、香港の財閥のオーナー、ウイグル族の反政府過激派、中国の闇社会の実力者、日本の代議士など、スパイ・アクションに欠かせない登場人物は揃っており、それぞれのキャラクターもそれなりに描かれているのだが、総花的な印象が免れない。むしろ、主要人物に絞って深く書き込んだ方がドラマ性が高まったのではないかと思う。 派手なアクションシーンが多く、映画化すれば面白いと思うが、シリーズ化されたときに、次作を手に取るか? ちょっと判断に迷うところだ。 |
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クリスマスを間近にしたニューヨーク州の片田舎で、10歳の少女二人が誘拐された。同じ学校に通う仲良しのグウェンとサディーを探すために、地元警察はもとより州警察、FBIからなる捜査陣が構成される。その中に、15年前に双子の妹が同じような少女2人誘拐事件に巻き込まれて殺された地元警察の刑事・ルージュが加えられ捜査に当たることにある。
捜査が進む中、同様の犯罪が繰り返されており、今回の誘拐も同じパターンの犯罪ではないかという説が有力になる。しかし、ルージュの妹を殺した犯人は現在服役中で、絶対に彼の犯行ではありえない。とすると、服役している犯人は無罪なのか? それとも、同じような犯行を犯す人物が他にもいたのか? 過去の例から、誘拐された少女はクリスマスの朝には死体となって発見される可能性が高く、捜査は時間との闘いの様相を深め、捜査陣や被害者家族の緊張感が高まっていく・・・。 物語は、捜査の進行と誘拐された少女たちの脱出への苦闘が並行して描かれ、タイムリミットも加味されて刻一刻とサスペンスが高まっていく。そして、捜査陣と犯人と少女が一堂に会するクライマックスへ・・・。 意外な犯人、意表を突く謎解き、最後まで隠されていた物語など、衝撃のクライマックスをどう見るかで、この作品の評価は大きく分かれるだろう(ゆえに、ネタばらしは厳禁)。深く感動する人もいるだろうし、肩透かしというか、騙されたような感想を持つ人もいるだろう。個人的には、最後の怪奇ファンタジーっぽい落ちに不満が残り、後者の感想を持った。 しかし、ストーリー展開の巧妙さ、キャラクター設定のうまさから、ミステリーファンにも十分に楽しめる作品だと思う。 |
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スウェーデン南部の田舎町の警部・ヴァランダーシリーズの第2作。結論から言えば、シリーズの読者には必読だが、単品としてみると「?」、失敗作かも知れない。
ヴァランダーが所属するイースタ警察署管内の海岸に、2体の死体を載せた救命ボートが流れ着いた。ボートに死体があることを告げる匿名電話があり、検視官からはソ連または東欧の人間の可能性が高いと知らされる。果たして、彼らは何者なのか? なぜ殺されたのか? 犯罪捜査はストックホルムの外務省や警視庁を巻き込みながら展開され、やがてバルト海の対岸、ラトヴィアの犯罪組織が絡んでいることが判明し、ラトヴィア警察から刑事が派遣されてくる。結局、捜査はラトヴィア側に引き渡され、ヴァランダーの任務は終ったはずだったが・・・。 途中から、物語はラトヴィアの民主化をめざす勢力と現政権側の壮絶な争いが中心となり、ヴァランダーは冷戦時代の下手なスパイのような役割を担わされることとなる。このあたりからは、もう警察小説ではなくスパイアクションの趣で、ヴァランダー・シリーズの愛読者にはかなり違和感があるのではないだろうか? 結局、ボートの死体の謎はすっきりとは解決されず、警察小説としては破綻している気がした。それでも、シリーズ読者必読というのは、後々、シリーズで重要な登場人物となるヴァランダーの恋人が登場してくること、ヴァランダー本人のキャラクターの理解に欠かせない生活背景が描写されていることにある。 本作を読む前に、第1作「殺人者の顔」を読んでおくことを強くオススメする。 |
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デンマークの警察小説シリーズ「特捜部Q」の第三作は、シリーズものならではの面白さがぐんぐん迫ってくる、快作だ。
メインテーマは、宗教と人格とでも言えばよいのか、規律の厳格な新興宗教が遠因となって引き起こされた連続誘拐殺人という悲劇。犯罪の残酷さ、犯人の狡猾さ、犯人の生い立ちの悲劇性が際立ち、「悪役のキャラが立つほどミステリーは面白い」という原則通りで、一気に読めた。 ストーリーの始まりは、誘拐された子供からのボトルメールが13年後に特捜部Qに届けられたところから。しかし、13年の間に破損されたメールは判読が難しく、カール・マーク警部は捜査に気乗り薄だったが、助手の怪人アサド、奇人ローセの熱意もあって文面が解読され、やがて本格的な捜査が開始されると、驚くべき犯罪が明るみに出てくる・・・。 本筋の犯罪捜査もスリリングだが、それ以上に本作の魅力になっているのが、おなじみの特捜部Qの面々。主役のカールは警察小説のキャラクターとしては実に頼りなく、さらに優柔不断になってきて、アサド、ローセに引きずり回される始末。相変わらずミステリアスなアサドは、ここぞという場面で頭脳も肉体も力を発揮し、主役を奪いそうな活躍ぶり。さらに、奇人ローセが無断で休暇を取ると双子の姉というユアサが登場し、ローセ以上の奇行でカールとアサドを驚かせる。まさに、シリーズものでしか味わえないキャラクターの変貌がたっぷりと盛り込まれていて、シリーズのファンにはたまらない内容と言える。 未読の方は、ぜひ、第一作から読み始めることをオススメします。 |
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「このミステリーが〜」の2011年度の1位ということで読み始めたが、ちょっと期待外れだった。
二十年ぶりに故郷に帰ってきた主人公・オーレンが、二十年前に森で行方不明になった弟の死の真相を探るというのがメインストーリーだが、物語の舞台はカリフォルニア州北部の、時間が止っているような小さな町で、最初から最後まで、その小さな町で完結する。これが象徴するように、きわめて閉塞感が強いストーリーで、犯人や犯行状況を解明するより、犯行の動機、事件の関係者の人間関係、心のありようを描写する方に重点が置かれていて、ミステリーとしての魅力は弱い。どちらかといえば、家族とは、愛とは何かを描いた物語と言える。個人的にはあまり好みではないジャンルなので、評価が低くなった。 カリフォルニアが舞台のミステリー系エンターテイメントといえば、青い空、輝く太陽、広大な海が定番だが、この作品では深い森と夜が中心で、どちらかといえば、ミネソタとかニューイングランドとかの片田舎が似合う内容で、こういう陰うつなカリフォルニアもあるのかというのは、新鮮だった。 |
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最近、翻訳が多くなった北欧ミステリーだが、今度はデンマークの本格警察小説の登場だ。コペンハーゲン警察本部の殺人捜査課長コンラズ・シモンスンシリーズの第一作は、期待以上の本格社会派ミステリーだった。
秋休み中の学校の体育館に男性5人の遺体が吊り下げられていたという、衝撃的なシーンからスタートした物語は、警察小説の常道である地道な身元調査、あらゆる情報の収集と分析、捜査班の共同作業での犯人追求と進んで行くが、被害者が全員、小児性愛犯罪者だという情報が流され、社会には犯人擁護、警察の捜査妨害の雰囲気が作り出され、捜査は一層の困難に直面する・・・。 最後の、警察が犯人を罠にかける(おびき出す)部分には多少?がつくものの、犯行の動機、犯罪のありよう、捜査のプロセスなど、きわめて緻密に構成されており、捜査側、犯人側の人物像もよく描かれており、大型の社会派警察小説と呼ぶにふさわしい作品だ。 シリーズは、すでに三作目まで出版されているとのことで、今後の翻訳出版が非常に楽しみだ。 |
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人気のV.I.ウォーショースキーものを含む短編集。小説としては、やはり長編の方が圧倒的に面白い作家だと思うが、これはこれでウォーショースキーのキャラクターを理解するのに役に立った。
不公平や差別を憎み、権威を振りかざす人間を軽蔑するヴィクの基本姿勢がどこから生まれたのか、どう育まれたのか。その背景がわかってくる作品群だ。9.11後のアメリカ社会の不寛容さ、生きにくさを告発しているパレツキーをよく理解することができる。 |
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ドイツの高名な刑事弁護士が自身の弁護体験をベースに書き上げた短編小説集。ドイツを始め、世界各国でベストセラーを記録しただけあって、実に奥深く、味わいのある作品集だった。
全編、ミステリーというよりは犯罪者の心理を探って行くことに主眼が置かれている。著者が体験した事件弁護なので、起きた事象、犯人などは分かっているのだが、問題は「犯人は、なぜこうした事件を起こしたのか?」ということ。淡々とした文体で、丁寧に心理を分析して行く中で次第に明らかになるのは、人間の不条理とでもいうべき、精神の闇の世界である。ただ、著者は基本的に人間に対する優しさをもち続けている人なのであろう、精神の闇を切り捨てていないところに、読後の救いがあった。 実は、第二作品集「罪悪」の方を先に読んでいたのだが、本作の方がヒューマンな色合いが濃く感じられた。人間の不気味さという点では、「罪悪」の方がよく描かれている気がした。 |
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期待通りの社会派警察小説の傑作だ。多くの方が言及しているように、スウェーデンの警察小説といえば「マルティン・ベック」シリーズ。その1990年代版と呼ぶにふさわしい新シリーズの登場である。
スウェーデン南部、人口1万人にも満たない小さな田舎町のイースタ警察署の中年刑事・ヴァランダーが主人公。けっしてスーパーヒーローではない警察官が、生活にも、自分の体調にもさまざまなトラブルを抱えながら、それでも警察官であることの誇りを失わず、事件の真相究明に必至に頑張るところが、いたく共感を呼ぶ。第一作だけに、ヴァランダーのキャラクターを確立させようとしてさまざまなエピソードが盛り込まれているが、そのエピソードが錯綜し過ぎていて、いまひとつ、キャラクターが際立ってこない気もしたが、魅力的な主人公であることは確かだ。 イースタ郊外の片田舎の農村で老夫婦が惨殺され、被害者が最後に「外国の・・」と言い残す。犯人は外国人なのか? 人種差別的な人々を刺激することを恐れたヴァランダーは、このことを公表しないまま捜査を進めようとするが、警察内部からの情報洩れにより「犯人は外国人か?」という報道が流れ、移民排斥の動きが強まり、ついに移民逗留所への放火やソマリア人が射殺されるという事態を引き起こしてしまう・・・。スウェーデンといえば、移民や難民にはきわめて寛容な社会と思われていたが、90年代にはやはり外国人に対する反感が強まっていたようだ。そんな社会状況を敏感に反映したストーリー、エピソードはリアリティたっぷり。実に読み応えのある作品だった。 主人公を取り巻く警察仲間、家族のキャラクターも詳細に描かれており、シリーズとして成長していくだろうという予感がたっぷりで、第二作以降への期待が高まっている。 |
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ウィンズロウお得意のモダン・ノワール。舞台は南カリフォルニア、道具立てはドラッグ、主要な登場人物にバハ・カルテル・・・、これはもう、期待するしかないのだが、鬼才が才に走り過ぎたというか、実験的手法が過ぎていてちょっと、いや、かなりがっかりだった。
ストーリーは、大麻の栽培、供給で巨万の富を築いた若者二人組が、カリフォルニアでの大麻利権に手を出してきたバハ・カルテルに脅迫され、必死の反撃を見せるという犯罪アクション。登場人物(敵味方)のキャラクターが興味深く、きっちりと描かれており、ストーリー展開、エピソードも面白く、普通に(従来の手法で)書かれていれば、きっとオススメ度「8」になっていただろう。しかし、「『何作かごとに文体を発明し直す』ことを旨とする」(訳者あとがき)ウィンズドロウが本領発揮。まあ、とにかく、改行が多く、頭韻、脚韻、地口をふんだんに織り込んだ文章はまるでヒップホップ! 好き嫌いが分かれるところだが、正直、好きになれなかった。 しかし、オリヴァー・ストーン監督で映画化されているというので、傑作になること間違いない映画を楽しみにしたい。 |
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