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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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薬物(鎮静剤)中毒のリハビリで一年以上、弁護士業務から離れていた弁護士ハラーが復活した途端に、きわめて厄介な(しかし、金になる)弁護を引き受けて・・という、リンカーン弁護士シリーズの第二作。
ゆっくりしたペースで業務に慣れて行こうともくろんでいたミッキー・ハラーだったが、射殺された友人の弁護士のケースを引き継ぐことになったことから、いきなり全米の注目を集める映画スタジオ経営者の事件(経営者が妻と、妻の愛人を射殺したとして起訴されている)を担当することになり、その訴訟準備の間に自分も命を狙われることになる。果たして、スタジオ経営者は有罪か、無罪か、はたまた友人の弁護士を殺し、自分の命を狙っているのは誰なのか? 二転、三転して手に汗握るタイプのストーリーではないが、読み応えがある法廷ミステリーであるとともに、殺人事件の謎解きミステリーとしても良くできている。 しかも、マイクル・コナリーのもう一人の人気シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュが登場するという、マイクル・コナリーファンにはたまらないオマケ付き。最後の最後には、ボッシュとハラーの超〜〜意外な関係が明らかにされ・・・シリーズの三作目、四作目への期待はいやが上にも高まって行く。 |
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ABC放送60周年記念ドラマの原作として書き下ろしの作品。たしかに、2時間ドラマとしては「あり」かもしれないが、小説としては「かなり、がっかり」の出来映えだ。
ストーリーも、キャラクターも、セリフも奥行きが無いというか、平板で、すらすら読めるが驚きも味わい深さもない。 湊かなえは「告白」がピークだったのか? 最近の路線が続く限り、もう彼女の作品を読むことはないだろう。 |
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ひと言では言い表わせない、複雑な味わいの作品だ。
まず、獄中の連続殺人鬼の軌跡を追いながら事件が発生して行くという「羊たちの沈黙」を思い出させる、サイコスリラー系のミステリーとして読める。さらに、主人公の売れない中年作家の心情をユーモラスに描いた都会派の人情小説でもある。さらにさらに、ミステリーを始めとするエンターテイメント小説論でもある。しかも、途中途中に挟まれている、主人公が書いたSFポルノやヴァンパイア小説まで楽しめる。 なによりも、これだけ盛りだくさんでありながら構成が破綻しておらず、構成要素のすべてがかなりの水準であるところがすばらしい。また、登場人物のキャラクターが生きているので、読みながら人物の顔や服装がありありと浮んできた。まさに、様々な味わいで最後まで楽しませる「幕の内弁当」とでも言えばよいのだろうか。かなりの技巧派である。 これがデビュー作というので、今後が大いに期待できる新星が誕生したといえるだろう。 |
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東野圭吾の江戸川乱歩賞受賞第一作というより、今では刑事・加賀恭一郎のデビュー作といった方が通りがいいかも知れない、1986年の作品である。
大学卒業を控えた4年生のグループの内、一人の女子学生がアパートの自室で死んでいるのが発見された。彼女は自殺したのか、殺されたのか? その謎が解き明かされない内に、もう一人の女子学生がお茶会の席で青酸カリによって死亡する。はたしてこれは、連続殺人事件なのか? 仲良しグループのメンバーである加賀とそのガールフレンド・沙都子が、事件の謎を追いかける・・・。 最初の事件は密室、二番目は多くの人の目の前でのできごとという、推理小説としては贅沢な舞台構成。しかもどちらも決定的な証拠が発見されないため、心理的な側面からの犯人探し、動機探しがじっくりと展開されてゆく。最後の謎解きや殺人手段の選択がやや甘いという気がするが、作者のミステリー作家としての力量を認めさせるに十分な作品だと思う。 ただ、青春小説という枠組みのせいか、登場人物がほとんど善人で、少数の悪人も凄みが足りないため、全体に薄っぺらい印象を免れなかったのが残念。 加賀恭一郎ファンにはオススメです。 |
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住宅街で建築中の建て売り住宅で発見された男には、ネット上に疑似家族が居て、しかも娘の名前は実在の娘と同じだったことが判明した。さらに、その三日前に渋谷で女子大生が殺害された事件との関連性を示唆する証拠が発見された。犯人は、動機は、男女間の愛憎によるものか、ネット上の家族ゲームの中に隠されているのか・・・。
作者自身があとがきで「ミステリーとしては大変基本的なルール違反をしている部分があります」とエクスキューズしている通り、本格ミステリーとして読むとがっかりするかもしれない。 ラストシーンで謎が明かされて、「うーん、やられた!」と感心するか、「えーっ、だまされた!」と思うかで評価が分かれるだろう。私は後者だったが。 それでも「6」の評価にしたのは、さすがに宮部みゆきというべきか、ストーリー展開の上手さ、語り口の滑らかさは一流だったから。 |
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カンヌ映画祭で監督賞を受賞した映画の公開に合わせて復刊されたという、クライムノベル。恵まれない環境で育った少年がロサンゼルスに出てきて、ドライヴ(運転)の才能を頼りに映画のスタント・ドライバーになり、その腕を見込まれて強盗たちの逃走車両の運転手を努めるようになる。で、当然のように仲間の裏切りで窮地に追い込まれ、復讐のために孤独な戦いに立ち上がる・・・。
約200ページというコンパクトな作品で、しかも派手なアクションシーンやカーチェイス、容赦ない殺人シーンがテンポ良く展開されるので、バイオレンス映画ファンには大いに受けるだろう。さらに、主人公のドライバー(最後まで本名を明かさず、この名前で通してしまう)は運転や復讐にはきわめてクールで機械的ながら、数少ない心を許し合う友人や恋人とは細やかな情を見せるところもある、なかなか魅力的なキャラクターに描かれているので、単なるバイオレンス映画としてだけではなく、一種の青春ロードムービー的な人気を得るのではないだろうか。 小説としても、読後感がすっきりした傑作だと言える。 |
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およそ半世紀も前の作品だけに評価がむずかしいが、松本清張のロマンチックな一面がよく現れたロマンチックミステリーの傑作といえる。
ストーリーの中心は、第二次世界大戦末期に欧州の病院で死亡したとされる外交官が生きているのではないか、日本に帰ってきているのではないかという謎を、当の外交官の娘の恋人である新聞記者が追求して行く話。そこに、真相判明を阻止しようとする謎の人物や組織が現れて、殺人や発砲事件にまで発展して行く・・・。この謎解きミステリーだけでも十分に面白いのだが、話のテーマとしてはむしろ、親子、家族の情愛の方に力点が置かれているように思われた。作品全体を通して、しみじみとした風景描写、日常生活への優しい視点が印象的で、ごりごりの社会派という松本清張のイメージを変えさせるような読後感を持った。 テーマ、ストーリーについては、現在の日本のミステリーのレベルから見るとやや物足りなさを感じるが、これはフェアな評価とは言えない。発表当時(1960〜61年)には、かなりのインパクトを与えただろう思われる。 |
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ジェームズ・ボンドといえばショーン・コネリーを思い浮かべるオールドファンにとって、セクハラ発言を咎められたり、政治的に正しい言葉遣いに気を配る007というのは、妙におかしみがあった。殺しのライセンスを持つ凄腕スパイといえども、21世紀にあっては社会的に正しくないとつまはじきにされるということだろうか(笑)
それはともかく、あの007がジェフリー・ディーヴァーで復活するとは想像もしなかっただけに、どういう仕上がりか、非常に興味深く読んだ。結論から言えば、やはり多少の違和感が拭いきれず、絶対的なオススメ作品ではなかったという評価になった。 なにしろ、論理と科学の権化のようなリンカーン・ライムから荒唐無稽の頂点みたいなジェームズ・ボンドへの飛躍なので、読む側(小生)が付いて行けなかったということでもある。なんの先入観もなく読めば、まずまず面白い現代スパイアクションであるのは間違いない。 スマートフォンとGPSが主役になったとはいえ、相変わらずのスパイガジェットのアイデアは秀逸。さらに、ジェフリー・ディーヴァーの本領を発揮したどんでん返しの連続など、読者を飽きさせないエンターテイメントと言える。 |
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強姦・強盗目的の17歳の少年に妻と娘を殺された男と、警察官である夫のDVから逃れるために息子を連れて家出した女が、妻に逃げられた工務店のオヤジと出会い、それそれが抱える問題に悩み、葛藤しながらそれぞれの過去を清算し、生き方を変えて行こうとする話。
少年犯罪の被害者と加害者、DV、生き甲斐がすれ違ってしまった中年夫婦の悲哀など、今の社会状況を反映した奥の深い問題を背景にした3つのストーリーが重複しながら展開される構造となっている。これらの問題は、ひとつずつが何度も小説の主題に取り上げられているものばかりで、問題が三重に絡まった本作はきわめて社会性の濃い内容となっている。作者は、これを良質なエンターテイメント(サスペンス小説)にして見せてくれる。 加害者が犯行時に18歳未満の少年だったことから7年で仮出獄になったことを知った被害者が、報復のために加害者を殺害しようとするストーリーは、殺されかけた加害者が逆に被害者に報復しようとするところから、がぜん面白くなる。また、執拗に妻の行方を追いかけるDV警官の夫が徐々に狂人となって行くところもサスペンスがあって面白い。 しかし、最後の最後、関係者が集合して一気に問題解決になだれ込むクライマックスシーンが、残念ながらちょっと弱い。社会正義を貫くにはこの方法が一番妥当だろうなという方法で話が終わるし、かなりご都合主義的な話の持って行き方が、そこまで続いてきたサスペンス性を弱めてしまった気がしてちょっと物足りなかった。作者は、こういうシーンがあまり得意ではないのかも知れない。 |
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今や米国の最も有力なミステリー作家に数えられるジョン・ハートの最新作は、前3作とは趣を異にする傑作エンターテイメントだった。
孤児院で離れ離れになった兄弟が成長し、兄はギャングの凄腕の殺し屋として、弟は富豪の上院議員の養子で著名な作家として再会し、出生の謎を解いて行くというのはありがちな設定ではあるが、それに、愛する女性のためにギャングから足を洗おうとする兄・マイケルのギャング仲間との戦いが絡んでくると、これまでにないサスペンス小説ができあがる。 物語の前半は、殺し屋から足を洗おうとするマイケルと、それを阻止したいギャング仲間の戦いが中心に展開されるのだが、話のスピードといい、緊迫感といい、一級品のサスペンスが堪能できる。特に、悪役であるジミー(組織の先輩で、マイケルの師匠役でもある)がとてつもないデビルなキャラクターで度肝を抜く。サスペンスの魅力は悪役次第であると、改めて感じた。 後半は、弟の邸宅で発見された死体の犯人探しと兄弟の出生の秘密をさぐることが絡み合いながら展開されるが、これまたかなりひねった設定だし、ジミーに負けないくらいのデビルな悪役(ネタバレになるので、詳しくは書かない)が物語を大いに盛り上げてくれる。 ジョン・ハートのこれまでの作品は、どちらかといえば情緒的というか、家族、親子、故郷などを情感豊に歌い上げるハートウォーミングな感じだったが、本作はいい意味でエンターテイメントに徹しきったクールな仕上がりだった。 作品のテイストとしては、「ミスティック・リバー」を思い起こさせた。 |
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米倉涼子主演のドラマが人気を呼んだので、あらすじはよく知られていると思うが、頭と度胸で銀座の夜をのし上がってゆく女の浮き沈みを描いた、一級のサスペンス作品。30年以上前の作品のため、時代背景には古さは否めないものの、そんなことは気にならないほど面白かった。
平凡な(平凡以下の扱いしか受けていなかった)女子銀行員のヒロインが、堂々と銀行の金を横領して銀座に店をオープンする幕開けからスリル満点。店の運転資金や、より大きな店を手に入れるために、脱税している医者や予備校経営者を陥れて行く手順も、良質なコンゲームとして抜群に面白い。 しかも、ラストに待ちかまえる衝撃の展開に向けて、要所要所で周到な伏線が張られているところも見事としか言いようが無い。最後の最後、“落ち”まで強烈なインパクトを残し、さすがに松本清張と感嘆した。 |
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最初の内は、筆者得意のサイコものかと期待して読み進めたが、ホラーの部分が恐いというよりグロテスク、不気味で、読後感は良くなかった。
オウム真理教、北九州の一家監禁殺人事件、最近では中島知子騒動などを思い出した。あり得ない、想像できないことを起こしてしまう“洗脳”の恐ろしさという点では、こういうストーリーもありなのかも知れないが、その背景が家の呪縛、家族の血の絆というのが、いまいち説得力に欠ける気がした。 音道貴子シリーズのファンには受け入れられないだろう。 |
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北海道東部、人口6000人ほどの農村の駐在所に移動してきた川久保巡査部長が出会う、5つの事件を描いた連作集。駐在所の警官にとって本当に果たすべき任務とは何か? 警察と閉鎖的な地域社会とのもたれ合いやあつれきの中で苦悩する制服警官の厳しさが丁寧に描かれていて、読み応えのある短編集だ。
浅学非才につき、本書を読むまで知らなかったのだが、駐在所の制服警官には捜査権は与えられていない。そのため、所轄署から出張ってきた捜査官が見当違いの捜査をしていると感じても、川久保巡査部長はそれをただすことが出来ない。そこで、悪く解釈すれば、一種、意趣返しとも言えるような屈折した方法で正義を貫こうとする(特に、第一話「逸脱」ではほとんど犯罪といえるような手段がとられる)。これは、駐在さんに対して、さまざまにプレッシャーを掛けてくる地域社会に対しても同様で、従来の警察小説とは異なる問題解決手法になっている(「制服捜査」という書名の由縁)。このあたりを、どう考えるかで、本作に対する評価が異なってくるだろうが、個人的には(小説としては)面白いと思った。 「笑う警官」や「警官の血」とは異なるが、佐々木譲の警察小説の傑作であることは間違いない。 |
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V.I.ウォーショースキー・シリーズの最新作は、期待にたがわぬ快作だ。
毎回、米国が抱える病巣を鋭く描いている本シリーズだが、今回はイラン戦争の帰還兵をテーマに兵士と銃後の社会、戦争産業の問題を取り上げている。「沈黙の時代に書くということ」というエッセイ集を出している筆者らしく、9.11以降のアメリカ社会の閉塞感に対する異議申立てが強く感じられた。 しかし、50代に突入したヒロイン・ヴィクの元気さには驚嘆するしかない。自分の体力に対する愚痴をこぼしながらも(事実、アクションシーンでは若い仲間の手を借りなければ、致命的な窮地に陥るところだった)、仕事も恋も現役バリバリ、前作からレギュラー入りした20代の従妹のペトラに負けていないのである。さらに、社会的不公平、マイノリティーへの差別に対する怒りはますます沸騰し、徹底的に突っ張り切っていくところが、格好いい! シカゴのダウンタウンで鍛えられたストリート・ファイターは衰え知らずなのである。 閉塞の時代に窒息気味の日本の中高年には、特にオススメかもしれない。 表紙も、前作「ミッドナイト・ララバイ」に比べれば(まあ、前作がひど過ぎるのだが)ぐっとリアリティがあり、数段出来が良い。 |
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桐野作品にしては軽めの仕上がりというか、読みやすいんだけど、その分だけ物足りないというか。もっと毒々しい展開を期待していました。
仕事には熱意が無く、ファッションと嫉妬に執着している開業医がレイプ犯で、その被害者達がネットを通じて集まり、協力して復讐するというお話。ストーリーも登場人物も、今の時代を反映していて、ちょっとご都合主義なところもあるが、まあ良くできていると思う。 犯人も被害者も、周囲の人々もみんな一癖も二癖もあるところは桐野夏生の得意分野で、まずまず面白いのだが、もう一段階深く追求していればなあという欲求不満が残った。 |
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ソビエト国家保安省捜査官・レオのシリーズ三部作完結編。
捜査官を辞め、今は工場長として平凡に(やや屈折し、覇気は失ってはいるが)、しかし、愛妻ライーサと二人の養女と一緒に幸せに暮らしていたレオに、思いがけない、身を引きちぎられるような不幸が襲いかかる。果たして、レオはこの不幸から立ち直れるのだろうか? 前半は、レオとライーサの出会いを中心にした恋物語からスタートし、思いがけない悲劇の勃発まで、冷戦時代の情報戦のお話が続き、比較的静かな展開で進む。それが後半になると、一気に“怒りのアフガン”ではないが、アフガニスタンでの冒険に変化し、不屈の男・レオの本領発揮となる。トム・ロブ・スミスという作家は、前二作と同様、本作でも徹頭徹尾レオを厳しい状況に追い込んでゆく。そんな苦境をいかにして脱出するのか・・・驚嘆すべきレオの知恵と体力と精神力が発揮される。 思想と人間性、国家と個人、夢と妥協など、さまざまに考えさせられる小説だが、アクション小説としても一級品なので、一気に読み通すことが出来る。 ラストシーンは、かなり悲しい。 |
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太平洋戦争三部作の完結編。前二作が開戦前の物語なのに対し、本作は日本の終戦工作を巡る話である。三部作の完結編だけあって、作家の視点がさらに明確に伝わるし、筆の滑りもよく、前作からの登場人物のキャラクターが深みを増したこともあり、三本の中では一番面白かった。
前半は歴史インテリジェンス戦争話として、後半は敵中横断の冒険小説として、二冊分の楽しみを味わった。 日本の運命を決める重大な情報(米国の原爆の完成、ソ連の対日参戦)をつかんだスウェーデン駐在武官が、電文を打つだけでは途中で握り潰されることを恐れて、日本を救うため二人の密使を派遣するというのが、ストーリーの本線。当然のことながら、原爆投下、ソ連の参戦は史実として誰でも知っているのだが、それでも最後まで緊張感を持って読み通すことが出来た。これは、史実と虚構を巧みに絡ませたストーリー構成の上手さに負うところが大きく、作者の力量に感嘆するばかりである。 ストーリーの面白さ以上に心に残ったのは、文庫本巻末の解説者を始め多くの方が言及しているが、「祖国とは何か」、「国を愛するとはどういうことか」という、重い問い掛けだった。密使の二人が、国を捨てた日本人でボヘミアンのバクチ打ちと、祖国に裏切られた亡命ポーランド人情報将校という設定になっているところに、作者の視点の鋭さを感じた。 「絆」や「日本の美徳」、「頑張れ日本」が安易に絶叫されている現状を考えるとき、今こそ広く読まれるべき作品といえる。 |
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ガリレオ(湯川)シリーズの短編集。第1章から第5章までの構成になっているが、それぞれの作品は独立している。どの作品も、ガリレオが謎を解いて行くところがポイントだが、短編だから仕方がないのだろうが、謎解きに終始しているうちに物語が終わった感じで、いまいち物足りなかった。
5本の内では、最後の「撹乱す(みだす)」が一番読み応えがあった。 このシリーズは「容疑者X」から読み始めたので期待値が高すぎるのかも知れないが、どうも残念だな・・・という読後感になってしまった。 |
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他の方の評価はあまり高くないようだが、個人的には面白く読めた。
東西冷戦時のベルリン、ハイテクメーカー横浜製作所のダミー会社の社員・神崎は、ココム違反の証拠隠滅を図る親会社によって命を狙われ、上司殺人犯の汚名を着せられたまま東ベルリンへの逃亡を余儀なくされた。それから五年、関係者の元へ神崎からの手紙が届き、神崎を追い続けている警視庁公安部員を含めた全員が小樽に集まって真相究明のときを迎えることになる・・・。 前半はベルリンでのスパイアクション、後半は小樽での真相究明サスペンスで、それぞれに楽しめる。ことに、警察が包囲網を敷く中で、神崎は果たして日本に帰ってこられるのか、どうやって小樽の地を踏むのかという部分は、非常にサスペンスがあった。謎解きの部分(絶対に先に結末やネタばれ感想を読まないことをおすすめする)では、きっと賛否両論があるだろうが、これはこれで、小説としては良くできていると思った。 神崎、神崎の母、殺された上司の娘などのいわば追われる側と、親会社社員、公安、フリーライターなどの追う側との人格の対比がかなり露骨で、作者の立ち位置がよく見えてきたのが面白かった。 |
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小学校6年生の夏休み、仲良し3人組の少女たちに、何があったのか?
11年ぶりに再開した3人は昔の付合いを再開させ、「何でも一緒ね、3人で分けようね」と誓い合っていた少女時代と同様に、一人の男を(それぞれが秘密にしたまま)共有するようになる。やがて、3人が秘密にしておこうと誓った、ある出来事が現在の彼女達に深刻な影響を与えるようになり・・・・。まあ、ありがちなお話で、サスペンスといっても2時間ドラマレベルで、半分読み終えた頃から「秘密の約束」と結末が見えてくるのだが、それでも最後まで読み通せたのは、3人のキャラクター設定、描写に負うところが大きい。 スケジュール帳が真っ黒になるほど予定を入れないと落ち着かない亜理子、手を洗わずにはいられない潔癖症で繊細な外見の下にしたたかさを隠した梨紗、がさつで虚言癖と見まがうばかりに見栄を張る恵美、この3人の絡み、言動が非常に生き生きと面白く、そこに本作品の価値があると思った。 |
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