われらが背きし者
- サスペンス (354)
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1931年生まれのジョン・ル・カレが2010年に発表した最新作。御年79歳での作品とは思えない、みずみずしい作品だ。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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ジョン・ル・カレの『われらが背きし者』(2010年)を読んでなかったので入手して読むことにした。 親から巨額といいがたい金額の遺産を得たオックスフォード大学教師のペリーは、弁護士をしている恋人ゲイルとこの遺産をカリブのアンティグア島でバカンスを過ごすことで有意義に使うことに決めた。 アンティグア島でペリーとゲイルの二人が不思議なロシア人ディマとその家族と知り合うことになる。 この家族たちは何人もの監視兼ガードマンに四六時中囲まれている。 ディマから一方的にテニスの試合を申し込まれたペリーは試合後ディマと急速に親しくなり、あることを依頼されてしまった。 このディマという男は、ロシアマフィアの大物マネーローンダラーだった。 ディマは、義弟のミーシャが組織に抹殺されたことから身の危険を察知し、組織の秘密データと引き換えにイギリスへ家族ぐるみで保護してほしいことを一般人のペリーに託すのである。 バカンスを楽しみにきた男女が巻き込まれるサスペンスはヒッチコックの映画を髣髴とさせることを解説の池上冬樹氏も書いていたが『北北西に進路を取れ』や『知りすぎていた男』のサスペンスを思わせる。 が、この小説では登場人物や物語の複雑な進展を時系列を前後して詳細に描写しながら進めるから読者は戸惑いながら読み進むことになる。 ヒッチコックの映画ではほとんどハッピーエンドで終えている。(例外もあるが) だが、ル・カレのこの小説はハッピーエンドとは無縁の結末で数行であっけなく終えている。 あとは読者の想像に委ねるル・カレならではのエンディングである。 <蛇足の追記> ル・カレは『寒い国から帰ってきたスパイ』で稼いだお金でスイスに山荘を建てたことを回想録の『地下道の鳩』で明かしていた。 この物語でディマ一家とペリーとゲイルたちが隠れ家にしたヴェンゲン辺りにル・カレの山荘もあったのだろう。 だからル・カレのこの辺の描写は現地を訪れなくても書けただろうと思う。 かって評者が何度も訪れたことのあるベルナーオーバーランドだから、ゲイルを乗せてヴェンゲンからグルントまでスズキ四駆で行く描写は目の前で見るような感覚を味わいながら読み進んだ。 大昔にクライネ・シャイデックからグリンデルヴァルドへいく途中のアルピグレンの山小屋へ泊ったことも懐かしく思いだしてしまいました。 | ||||
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ル・カレ氏及び彼の作品は基本的に大好きなので、あまり悪く言いたくはないのだが、ちとこのラストはいくら何でもないんじゃないかと。 彼の作風として、完全には「謎解き」をせず、読者の想像に任せる、というところは従来からあった。しかし、ある程度、想像のよすがは描かれており、だから、多少突き放したラストであっても、そう心地は悪くない「余韻」として受け止められたのだ。 しかし、この作品では、「余韻」を感じようにも、結末の出来事に至る原因関係への手掛かりが少なすぎる。終末が描かれる登場人物以外の人々がどうなるかについても、情報がなさすぎて、読者の想像にそこまで任せるのは酷ではないか。読者は作家じゃないんだから。そして「余韻」ではなく、尻切れトンボ感が残った。 ラスト以外の部分でも、今までに読んだル・カレ作品は、彼の多岐にわたる知識、教養や、人生や人間に対する深い洞察などが各所ににじみ出ていて、フィクションにもかかわらず、マーカーペンで本が真っ黄色になるまで線を引いて読んできたものだが、この作品ではそうした箇所はあまりなかった。(冷戦後の英情報機関の混迷が、9.11で振り払われたことを登場人物の諜報機関員が語った記述だけは「へ〜。やっぱりそうだったのか」と興味深く読んだが、その部分は本筋とはあまり関係ない)。 ル・カレ作品独特の、ある程度人生の悲喜こもごもを味わった人により強く響くと思われる「じわ〜っ」とした感慨もあまり感じられなかった。 全体として書き込みが足りない気がする。 逆にそのメリットとして、彼の作品にしては割とスイスイと読め、その気になれば1日は無理でも、2日ぐらいあれば読了可能。従って、週末読書には向いているかもしれない。 ◇ あまりにも後味が悪かったので、その後、どうしてあのような結末が起こり得るのか、自分なりに整理してみた。 まず、スイス当局の関与がなければ起こり得ないことではある。そういう意味では、宿泊先に現れた謎のアラブ系警官、はぐれた少女と合流したゲイルが受けた職務質問、果ては隠れ家に現れた尾行者と見られる男女など、いくつかの「スイス当局の情報網」とみられるものとの遭遇は描かれている。 また、「スイスは自国の銀行を守ることに必死だ」(読み返した訳ではないので表現は正確ではない)というような記述もあるので、英国有力者等を通じてロシアの犯罪集団の意向を受けたスイス政府が情報の収集、提供を行い、ラストの犯罪行為を黙認した、という可能性は示唆されている。 しかし、いくらスイス政府が銀行を守りたいとはいえ、「大英帝国」の情報機関の作戦を、犯罪行為に明確に加担する形で妨害するか?その辺は、英情報「機関」による「正式な」作戦とみなされなかったと考えられたような示唆もあるが、いくら表沙汰にできない秘密情報の世界とはいえ、一般人を含めた関係者が多数いる中で、英国内で対立する2つの勢力のうち、常識的に見て正当な行為を行おうとしている方に、犯罪行為に加担して致命的ダメージを与える、なんてことは、あり得るだろうか? また、もしも、そのようなことが起こり得るような状況があるのであれば、やはり「書き込み」が足りない。ル・カルの小説は、緻密な描写や伏線で、「秘密情報の世界ではこんなこともあるかもしれないな」と思わせるのが真骨頂なのだか、この作品に関しては、「反権力のための反権力者」が表明する荒唐無稽な謀略論とあまり変わらなく見える。ル・カレは元々そういうキャラクターではないと考えられるので、書き込みが足りなかった、としか言いようがない。 | ||||
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若い大学教授と恋人の弁護士が休暇でカリブ海に行き、ロシア人と出会い・・・というお話。 この人の作品ではプロのスパイや軍関係者や政府の役人が主人公になる事が多かったですが、この小説や近年の作品の中で読んだ「ミッション・ソング」ではそういう公務員ではなく、一般人が国際的な謀略に巻き込まれる事が増えた様に思いますが、やはり東西の冷戦が終結したのと、イスラム原理主義とキリスト教世界の対立等で、国際関係が変容したからでしょうか。この人の師匠のエリック・アンブラーがこういう巻き込まれ型の謀略小説を得意にしておりましたが、ル・カレ氏も原点回帰の意向もあるのか、はたまた前述の様な理由なのかはっきりとは判りませんが、作風の変化はある様に思えました。 この人を嫌いな方は文章が退屈等色々言いますが、好きな人には堅牢なプロット、血肉の通った登場人物、衝撃のクライマックスと再読三読に耐える小説に思えました。映画化もされているという事でいつか観てみたいと思います。 今も結構人気のある人だとは思いますが、決定版っぽい伝記があまり読まれていなかったり、この小説もあまり読まれていない様で残念ですが、いずれまた過去の名作や現在の傑作が評価されると思います。面白いので。 出版社が解説で池上氏も書いてらっしゃる様に教養や教育的な書を出す名門の会社なので聊か驚きましたが、そういう先入観を抜きにして、単純に面白かったと書いておきます。 巨匠が健在ぶりを示した傑作謀略小説。是非ご一読を。 | ||||
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完読したのは「ナイロビの蜂」以来です。 文庫で上下巻じゃない控え目なボリュームに励まされたことは否めないが、 主人公の登場も核心エピソードも早くに出てくれたからだと思います。 舞台は2009年。スノーデンの告発、パナマ文書、ブレグジットとトランプ政権誕生から見える グローバル経済の功罪、日本を見れば「国際組織犯罪防止条約加盟のための共謀罪法案」など 世界の闇のカラクリを現実に重ねて連想しながら読みました。 カレの描く人物の歪みと甘っちょろさや青さは私は好きですが、 これは読む人それぞれかもしれません。 中盤からは結末への不安と期待で一気に読ませます。 その勢いのまま読み、最後のページを捲ろうとした瞬間目を疑い 数行遡り確認し、残りわずかの文字に真相を探しました。 ル・カレの「カレ」の意味をまた思い知らされ、 タイトルの意味する深さも含めて、読んだ人と答え合わせをしたくなる作品でした。 昨年秋に映画公開されたけど、原作どおりだったのだろうか? | ||||
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ルカレは過去「寒い国から帰って来たスパイ」を皮切りに、「ティンカー、テイラー、ソウルジャー、スパイ」「スクールボーイ閣下」「スマイリーと仲間たち」の有名な三部作においてそのピークとなるソ連諜報部隊と英国諜報部の死闘を描き、冷戦が終わった後は、「ナイロビの蜂」においてアフリカで人体実験を繰り返す大手医薬メーカーの悪を追求し、「サマランダーの炎の下で」では米国のネオコンたちの陰謀を、そして「ナイトマネージャー」ではローパーという大物悪党とホテルマンの戦いを描いてきた。今回のいわゆる「巨悪」はロシアンマフイアとそれに群がる欧米のワルたちである。 カリブ海にリゾートに来た英国人カップルのペリーとゲイル。そしてペリーにテニスの試合を申し込むロシア人ディマが、この作品のメインキャラクターだ。ルカレは相変わらず、この登場人物の描写にページを惜しまない。スポーツ万能の教師ペリーと美貌の弁護士ゲイル、そしてディマは「世界一のマネーロンダー」である。ディマは、自分の義弟を組織に殺されたことから、その復讐の為、また自分に迫る死を予感して、ペリーを通じて組織の情報を英国に売ろうとする。英国諜報部の中で、非公式にこの対応チームを作るのがヘクターという官僚組織になかなかなじめない男。彼は、同じく閑職に追いやられている諜報員のルークや、万能裏方仕事師のオリーもチームに入れて、このディマを何とか英国に連れてこようとする。このヘクターやルークといったサブキャラクターに対してもルカレはその家庭環境を含めてこれでもかとばかりに人物描写にページを割く。緊迫感あふれる逃亡劇と、それとは対照的なスイスの素晴らしい景色。そのアンサンブルが何とも言えない。最後の約100ページは何が起きるかという期待感と不安で、すべての読者はページを読む手が止まらないはずだ。そして衝撃としか言いようのない結末。その結末の様子はわずか10行(!)ほどしか描かれない。ルカレらしく、読者に全く迎合しない結末。残るのは言いようのない読後感と、どんどん広がる想像力。読後に、この作品について心の中で誰ともなく話しかけているのは果たして私だけであろうか。今回もルカレに翻弄された。こういった作品を読める喜びに浸りながらこの感想文を書いている。 | ||||
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