シルバービュー荘にて
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点8.00pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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言わずと知れたスパイ小説の巨匠の90歳での遺作。冷戦下から冷戦後もイギリス情報部のために働いたスパイと情報機関の重苦しい関係を描いた、従来とは異なるパターンの傑作である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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一度読了したものの今ひとつピンと来なくて続けざまに再読、そうしてやっと全体を理解でき、またあちこちに配置されたディテールの洒脱さにも気付かされるという、ルカレ作品特有の充実した読書体験を本書でもまた味わうことができました。 本書はルカレ本人が亡くなった後、作家である息子さんによって発見され、若干の手直しを経て発表された遺作ということですが、息子さんによるあとがきを読むと、そうした一連の流れも全て計算に入れた上での本作なのかな、と思いました。 本人は生前、英国諜報部に対し作品も含めて決して表立った批判はしなかったといいます。そこは筋を通したという事かと思いますが、諜報部に対して思うところがなかった訳では無く、また完璧な存在と思っているわけではない(とはいえ愛着は勿論ある)といった本音の部分がここでは割とストレートに表現されているように感じます。 だからこそ、本人は筋を通して生前に発表せず(出来ず)、ルカレの意図を理解しているであろう息子さんに「絶筆の発見」という形で委ねたのでしょう。その巧妙さには感心させられますし、同時に遺作を託すことで息子さんに対し作家として信頼しているというメッセージをこめた最後の贈り物になっているところ、そのメッセージをしっかりと受け取った事が伝わる息子さんのあとがきも含めての素晴らしい作品だと思いました。 | ||||
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圧倒的な読後感に言葉を失う。2020年12月に亡くなったこの巨匠の遺作。巻末に彼の息子が 父に依頼されてこの作品を完成させてくれと生前言われたと述べている。だが、本質的な部分で 手を入れるところは全くなく、きっと父はこの作品を世に出すべきか否かを最後まで逡巡していたに 違いないと。つまりル・カレが所属していた組織に対してここまでの真実の吐露は裏切りになるので ないかと。自分が属していた組織や、組織員に関しての秘密は一切触れないことを生涯の指針に していたル・カレが最後に伝えたかった「物語」。彼にしては珍しい些か短めの作品だが、彼のすべてが 凝縮されて詰まっている宝石のような作品。稀代の有能な諜報員エドワード。彼がボスニア紛争時に 経験した事件。ある意味、極めてル・カレらしい人物描写と彼の行動動機。ひとりの人間が、純愛 とも言える愛情の為に自分の人生を賭けた戦いとは。ル・カレ自身が生涯を捧げた組織が、本当はその 値打ちさえないと言えば。きわめて地味な作品だが、是非映画化して欲しい。原作にとことん 忠実な形で。 | ||||
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ル・カレは、遺作である本書『シルバービュー荘にて』のなかでボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のなかで本当に起きた事件を背景にしています。 それは「スレブレニツァの虐殺」というセルビア人勢力がボシュニャク人を虐殺した事件です。 イギリス諜報員のフロリアン(エドワード・エイボン)は、そのボシュニャク人の村でヨルダン人の医師夫婦と十三歳の息子と親しくなっていました。 諜報活動で村から離れていた時にこの虐殺があり、村に帰った時には医師と息子は殺され、奥さん(サルマ)だけ生きていました。 フロリアンが医師と息子の埋葬を手伝ったのち奥さんをジープで連れ去ったことになっています。 優秀だったフロリアンが部(サービス)の助けを受けて帰国してからがこの物語が始まります。 思想信条が大きく方向を変えたエドワードと部(サービス)に忠誠を尽くす優秀な諜報員の妻(デボラ・エイボン)との確執から、ル・カレは、イギリスの諜報活動の瑕疵を描こうとしてこの『シルバービュー荘にて』を書いたと思います。 『スパイはいまも謀略の地に』が遺作として3年前に読んだのですが、『シルバービュー荘にて』という本当の遺作を興味深く読むことになりました。 | ||||
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内容がいい | ||||
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深い感慨を覚えた。 これはル•カレの最後に相応しい、「意図された」遺作であり、素晴らしい作品だった。 まず、舞台は本屋である。 それもサンクチュアリのような書店。 「紙で作られた本」に対する愛情やリスペクトが溢れんばかりに感じられた。 少し読むだけで、愚昧な米国リーダーに対する血潮のような怒りがほとばしっていた一つ前の作品(邦題「スパイは今も謀略の地に」、私はこれが遺作だと思い込んでいた)よりも、ずっと落ち着いた心持ちで書かれていることがわかる。 おそらく、本作が長い作家生活における「フィナーレ」であることを明確に意識して書いていたのではないだろうか。そんな風に思える。そしてそれは、巻末のルカレの息子による後書きからも伺える。 決して華々しくはない。 銃弾が飛び交うような荒々しさは全くない。 しかし、流れるような静寂の美と、時間や物理的な長い距離にまたがる切ない愛の哀愁が感じられる、奥ゆかしい作品だった。 どこか、古き良き日本の作家の作品のようでもあるのか、懐かしい感じがした。 この作品は240ページにおよぶエンドロールだったのか。ル読者を、世界中のファンを終幕へと誘う物語だったのか。 終盤のデボラ•エイヴォンの葬儀の描写は、自身のそれを想い、重ねられたものではないか。 死が迫る闘病の中で、過去に対して、現在と未来ついて何を思い描いたのか 冷戦、謀略、権力と闘争、血や死、別れ。 何が過ぎ去り、何が繰り返されようとしているのか。テキストは全てを語らない。 しかし、ル•カレは確実に、その中に何かを残し続けた。 ル•カレに、彼が鮮やかに物語った数多くの英雄たちに。 心から感謝と、長いお別れを。 | ||||
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