スパイたちの遺産
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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2017年、86歳になったル・カレが発表した新作長編。なんと、「スマイリー三部作」に決着をつける後日談という、大胆な作品である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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ル·カレの作品は昔に結構読んでいるので懐かしく読みました。相変わらずプロットの堅牢さとでも言うのか作者の思い入れが強く感じられる作品でした。くどさも相変わらずでした。楽しめました。スマイリー好きには必読ですね。「ティンカー·テイカー」の映画バージョンでは、カンバーバッチが演じていたピーター役は改めて適役だったと感じました。 | ||||
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「Secret Pilgrims」に続いて、またまたJohn le Carreを読んでしまった。不思議なことに、amazonでhard coverの方がpaper backよりも安い値段でoffer されていた。 この作品の評価は一筋縄ではいかないな。ネタバレになってしまうが、本書は通常のミステリーとは異なるので勘弁してほしい。 まず、この作品は、彼の「冷たい国から来たスパイ」や「スマイリー三部作」を読んでいないと、十分に味わうことが出来ないのだ。これらの作品の登場人物がかなり本作品にも登場するのだ。本書は「冷たい国から来たスパイ」での事件の前史を主に扱っており、さらには、その前作でもある「Call for the dead」の事件へも言及があり、スマイリー物への相当な習熱を前提とした、マニア向けの作品だ。 さらに、フランスのブリタニーに引退したpeter guillamが突然、MI6の本部に呼び出されるという設定で始まる本作品だが、どうも時代設定が明確にはされていない。本書の叙述によるとguillamは1940年生まれと想定され、引退しているということなので、おそらく2000年以降の設定と思われるが、2000年代なのか、それとも2010年代なのかが、不明だ。本書での時間の言及から想定するに、おそらく2010年代前半と思われるが、そうなるとsmileyは齢90代以降ということになるのだが。まー、smileyの年齢は、なかなか作品間での整合性がうまく取れていないのはマニアの間では周知の事実。 本書は、「冷たい国から来たスパイ」で死んでしまうleemas, liz,そしてその前史ともいうべき作戦で命を絶つことになるtulipというagent, これらの犠牲者の遺児たちが、冷戦崩壊後に公開された東独の保安部(stasi)のfileを基に、英国情報部に訴えを起こしたことに起因する。これは取扱いを誤ると、議会を巻き込んでの公聴会にまでつながりかねないため、mi6としては、その真相把握と政治スキャンダル化の回避のため、関係者の一人して、peter guillamがロンドンのmi6に呼び戻されることになる。 そこで、guillamは現在のmi6の担当者により、厳しい査問にさらされ、自身の過去と直面していくこととなる。ここで明らかになるのが、mi6での世代交代だ。もはや現在のmi6には、1989年前の冷戦時代の空気を知るものはおらず、情報戦の前提ともいうべき最低限のコンセンサスを書いた両者の会話は、かみ合うことはない。dead letter box, safehouseなどの冷戦時代の小道具や専門用語はいかにも時代遅れの古めかしい雰囲気しかもたらさないのだ。そこで明らかになるのが、当時と現代の間での情報機関を取り囲む雰囲気(climate of opinion)が決定的に異なっており、もはや現代のmi6には当時の時代のsympathetic understandingは無理なのだ。 guillamは査問以外の時間を利用して当時の関係者を探し回り、当時の自分が知らなかった背景を探り、とうとう引退後のsmileyをドイツの学術都市freiburgに探し出す。もともとsmileyはmi6に入る前は、バロック期のドイツ文学の研究者なのだ。 ここで話は大上段となり、smileyの独白となる。たしか、「Secret pilgrims」にもsmileyの独白の部分はあったと記憶しているが、本書でのこの独白の部分には触れないでおこう。直接読んだほうがいいだろう。ただこの独白で明かされるsmileyの最後の告別の言葉が実に陳腐なのだ。そして、今回の発端となった訴訟の帰結がどうなったかについては触れられることなく、本書は閉じられてしまう。 本書はguillamの告白という一人称で語られるため読みやすい。そして自身並びに過去の時代への旅という形式が本書の全体の雰囲気を支えている。しかし本書の締めくくりは唐突としか言いようがない。そういう意味では失敗作だ。これでもはやsmileyが登場する作品はもうないのだが、これがsmileyの最後の告白とすると、いかにも残念と言わざるを得ない。 | ||||
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キリスト教の最後の審判では、死後の永遠の住処を決めるため審判が行われるというものがある。審判の基準は、過去の行いを振り返って、人生をエゴイズムで生きたのか、それとも愛に生きたのか。 冒頭、退職した諜報部員、ピーター・ギラムがベットに入ると浮かぶのは、睡眠を妨げる(過去の所業を)非難の声。あの時は若すぎた、未熟だったと反論する自分。なんとも切ない境遇ではある。 折しも、かっての同僚のスパイの遺児が、情報部相手に訴訟を起こして、親の死の責任を問い、関係者聴取で主人公が尋問を受けるという設定。事件の調査というより、最後の審判のように、あの時は、エゴイズムではなかった、愛があったということを検証するストリーに私には思え、深く人間行動にふれてスリリングだ。 老境になったル・カレが、老境になったからこそ掲げることができた大きなテーマを主題として展開し、だから、ある部分、スマイリー3部作と呼ばれる著作のストーリーと重なりながら、違った視点で記述する形式にもなっている。 一方、多数の人の見方からの証言や文書から、多角的・多層的に真実が垣間見えるように進むので、時には錯綜して、独特の行きつつ戻りつつする表現もあり、そこが魅力的でもあるが、もう読むのを断念しようかと思うばかりにわかりにくい。 ただ、表現のおもしろさ(英語版も少し読んだが、表現は複雑なのだが、独特のリズムが心地よく、日本語訳者の苦労がわかる)を感じて、細部まで計算された情景配置のたくみさもあり魅力は大きい。本作は映画化されてないが、実は、私は物語に出てくる場所を探して、MAPやストリートビューで確かめながら読み進める方法をしていて、これで雰囲気倍増で、実に楽しい。 まず、主人公の住居は、フランス北西部のブルターニュ半島の、断崖と波打ち際に続く広い敷地の古い農家、ということなのだが、その風景が思い浮かばないとまったく味気ない。ル・カレの実際の住居は、ロンドンから南西500KMの美しい海岸線が続く、コーンウェル半島の切り立った海岸線の上の一軒家の旧農家。両方とも美しい場所だ。 「ベルリンのケーベニック、暖かい服を着て湖畔でピクニックスし」「物憂げなこの秋の夕方、バイウォーター・ストリート9番地の家」、「ハムステッド・ヒースの爽やかな秋の午後、ケンウッド・ハウス美術館の庭園のテーブルについて坐っている」。ヨーロッパの、そしてロンドンの落ち着いた味わい深い街並みが、たくさん出てきて、ストーリーと絡み合って美しい。多分欧米の一定の読者には、ああ、あそこの場所と、大体の風景が思い浮かぶのだろう。 そして、なんといっても本作のストーリーで印象的なのは、東ドイツからイギリスに逃亡する暗号名チューリップのドリス・ガンプ。結局、彼女の夢は潰えて悲劇的な最後を迎えるのだが、いろいろな大義のもとに犠牲にされる人間の象徴にも思える。知らないうち、いや知っていながら、スパイ達のこうした犠牲をいとわない姿勢は許されるものなのか。都合のいいエゴイズムでしかなかったのではないか。 上司だったスマイリーは、いままでの所業を問われて、「(目的は)ヨーロッパを闇の中から新しい理性の時代に導くことだ。その理想はまだ持っている」と、驚くことに高邁な理想を吐露する。 そして主人公には「愛」があったのだろうか。ル・カレが最後に、主人公に語らせた言葉は・・・。余韻を残して、私にとって心に残る一作となった。 | ||||
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ジョン ル カレ氏が亡くなりました。89歳という年齢は、一般的な理解では長い引退後の其れを想像しがちですが、本書が書かれたのは、彼が86歳の時ですから、「地下道の鳩」と共に現役の仕事を最期まで全うしようとする姿勢に感動してしまいます。この作品は、長くファンであった読者にとっては、ご褒美の様な一冊でしょう。欲を言えば、彼の机の引き出しの中に、もう1冊分の原稿が、なんてことはありませんかね。 | ||||
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寒い国、スマイリー三部作を斜め裏からギラムの視点でなぞって行く中で、そうだったんだ!と欠けたパズルを嵌めて行くような読書でした。 彼らの孤独と誠実さ、底に流れる人間愛の深い歓びと哀しみ。 ル・カレの描く登場人物達の愛情に左右される岐路、無私の誠実さゆえの孤独は美しく思えます。 | ||||
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