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オリンピックの身代金
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【この小説が収録されている参考書籍】
オリンピックの身代金の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.16pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全178件 161~178 9/9ページ
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奥田英朗の狙いはオリンピック当時の風情を味わいながら、サスペンスを堪能して欲しいってことだろうけど、素直にオリンピック当時に浸ることができなかった。 高度成長期の描写がさりげなくサスペンスを支えているのであればいいのだが、当時の流行の描写がこれでもかって位出てくる。ストーリーに何の関係もなく当時流行ったTV番組が書かれている辺りは興醒めする位だ。やはり、昭和30年代に書かれたサスペンスを読んで当時の世相を知るのと、現代の作家が昭和30年代の風情をかもし出そうとしたサスペンスを読むのは、似ているようで全く違う。 そもそも、奥田英朗に期待されているのは『松本清張風ミステリー』のような『○○風』の作品でもないし、昭和30年代ブームに乗ることでもない。次回は彼本来の持ち味である、アイデアとオリジナリティに富んだ彼にしか書くことができないような発想を期待したい。 | ||||
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読み始めるととめられなくなって、一気に読んでしまいました。昭和39年のオリンピック前夜の様子が手に取るように感じられました。ただ、設定のためでしょうが、全体に印象が暗いのは否めません。一般の人たちの興奮とは一線を画した、最底辺の労働者や被差別者はこういう気持ちだったのかもしれない、とも感じます。 主人公は東大大学院に籍を置くエリートですが、事情があってオリンピックの工事現場に人夫として働くことになります。この経験を通じて考える日本の労働構造の歪みなどは、そのまま現在の派遣労働者の様子にも通じます。 本書のなかに何度も登場した「世界の一等国」というフレーズは、今を生きる私にはなんだか気恥ずかしい言葉でした。何等国だって関係ない、という気がしますけど、これは豊かになった日本しか知らないから言える傲慢さなんでしょう、きっと。 ちなみにこれを読んでいる間、光クラブを思い出していました。 | ||||
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久しぶりの新刊ってことで、楽しみにしていました。 どっかの広告にもあった気がしたけど、確かに従来とは作風が結構異なります。 特に最近のドクター伊良部やララピポやマドンナ、サウスバンドとは全く異なります。 あらすじは上に書いてあるとおりですが、色々深く考えさせられておもしろかったです。 古い時代を描く手法をとってみても、ちょっと前に読んだ乱歩賞作品と比べてると、やっぱプロその作家は違うなぁ、と思い知らされる。。。若干当時はなかった言葉も混ざっててるけど、別に気にはならないです。。。。 | ||||
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奥田英朗の新作。空中ブランコや最悪とは異なり、シリアス な物語。「こんな作品も書けるんだ」と正直びっくりしまし た。物語は、オリンピック開催に向けて激変している東京を 背景に、優秀な東大の院生が社会の矛盾を感じ、東京オリン ピックの阻止をかかげて警察に”オリンピックの身代金”を 要求していく過程を丹念に描く、エンターテイメント小説で す。 でも、この本の本骨頂は、ノンフィクションを読んでいるか のような、当時の東京や地方の臨場感。地方の貧しさ、オリ ンピックを迎えることができる日本国民の高揚感や優越感、 学生運動に対する実際に底辺の人々のあきらめ、東京の庶 民の”明日はもっといい日だ”と心から信じられる希望。 丹念に調べたであろう”時代”が目の当たりにされます。 エンターテイメントとしては普通の出来と思いますが、時代 のガイドとして楽しめ、かつ、衝撃的だった一冊です。 | ||||
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久々の奥田節の一点の迷いもない力強さに心地よく引きつけられながら最後まで。途中これはどうかとつっかかるところもなく、資料も見事に揃え、完膚無き戦いをこの1冊でし尽くしたかのよう。お見事でありました。 | ||||
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昭和39年夏。まもなく開催されるオリンピックに向けて首都東京は街の相貌を大きく変えていた。国民が一丸となって五輪開催へと突き進んでいるかに見えるとき、警察を狙った爆破テロが発生し、当局に「オリンピック妨害」を宣言する脅迫状が届く。やがて警察の捜査線上に浮かんできたのは一人の東大大学院生だった…。 上下二段組で500頁を超える大長編サスペンス小説です。 膨大な史料にあたって書かれたと見え、あの時代の急激に変わりつつあった東京の空気の色や臭いにいたるまで精密に再現した著者の力量には脱帽です。 そして物語の中心となる三人の男たち----東大大学院生の島崎、その同級生で今はTV局員の須賀、そして刑事の落合----そのそれぞれがいかにも今から40年前に存在したであろう人物に肉付けされています。 その意味では、この「オリンピックの身代金」は現実味のある物語として読む者に迫ってくる勢いがあります。 しかし読了した今、私はこの小説を十分に楽しめたとは言えない何かを抱えています。 昭和39年、五輪景気に沸く東京と、その発展からこぼれ落ちた地方都市との間に生まれた経済格差は、平成21年の今の日本に大いに重なるところがあります。ですからこの小説の“犯人”が社会に対して抱く憎悪に対して共感を覚える読者も少なくはないかもしれません。ですが、彼の行いはやはりテロリズムであり、そこにいくばくかの賛意を示した途端に、私たちの社会は音を立てて崩れていかざるをえないといえます。 となるとどうしてもこの“犯人”に私の心が添うことはありません。私にとってかろうじて「理解」は出来るにしても「同意」はできない類いのものです。 中心的登場人物に心が重なる瞬間が見出せないとき、その物語は私にとってはやはり受け入れがたいものとなってしまいます。それがこの小説を十分に楽しめなかった一番の理由だといえるでしょう。 | ||||
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力作だと思います。 かなりのボリュームであるにもかかわらず、よどみのない流れで、緊張感を持続したまま話が進んでいき、どんどん引き込まれていきます。時間が行ったり来たりするので、何度も読み戻しましたが。 但し、この犯人の性格で(薬が後押ししたとはいえ)ここまで"おおごと"になるものなのか、とか、これだけの捜査体制なら普通途中で捕まるのでは、とか、何でエピローグに犯人のくだりが無いのか、等いくつか?がありましたので、この評価にしました。 でも、映画にしたら面白いだろうなとか考えたりして、やはり犯人はジャニーズ系(松潤?)かな、とか、ニールは谷原章介かな、とか、いろいろ想像をめぐらしたりしていました。 | ||||
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奥田英朗のシリアスな長編小説は、デビュー直後の「邪魔」以来だが、私は、これまで奥田英朗の全作品を読んできて、彼の本領は軽妙洒脱な短編小説にあると思っており、その思いは、この作品を読み終わった後でも、一貫して変わっていない。 この作品は、東京五輪の開催妨害を企む若きテロリストと警視庁刑事たちの熱い戦いの物語とされているが、私は、この作品を読み始める前、そんな物語であるのならば、東京五輪開催が史実として現に存在する以上、結末は読む前から見えているわけであり、これだけの大長編にするのなら、読者が結末を読めないよう、完全なフィクションを題材にすべきではなかったかと思っていた。 しかし、実際に読んでみてわかったのは、作者がこの作品で描きたかったのは、テロなどという表面的なことではなく、主人公島崎国男がテロを決断するに至った当時の理不尽な格差社会そのものであり、東京五輪は、そのために必要不可欠な題材だったのだろう。また、この作品で描かれていることは、一見、現代とは全く無関係な、遠い昔の出来事のようにも思えるのだが、考えてみれば、現代社会も、一億総中流時代から、いつの間にか格差社会に戻ってしまっているわけであり、ここで扱っているテーマは、現代にも通じる重いテーマでもあるのだ。作者は、「ララピポ」では、格差社会の負け組といわれる人たちの救いのない末路を、笑えないような笑いだけで書き飛ばしてしまっていた感があるのだが、それと比べれば、この作品は、真剣にテーマと向き合った中身のある作品だと思う。 ただ、この作品は、構成や描写は緻密ではあるものの、ストーリー的に見た場合には、この本の帯のキャッチ・コピーに書かれたような「圧倒的スケール」や「息をもつかせぬサスペンス」があるわけではないので、やはり、521ページというのは、あまりにも長過ぎたというのが実感だ。 | ||||
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犯罪サスペンス小説として最高傑作の部類に入ると思います。 犯罪計画の大胆さと緻密さに加え、時代背景を活写している点がすばらしく、ぐいぐい引き込まれました。 主人公の痛々しいほどの若い純粋さが上手に描かれ、全編を通じて緊張感が張り詰めていて、読んでいると息苦しさを覚えるほどです。 クライマックスはフォーサイスのジャッカルの日を彷彿とさせますね。 10年に1度の傑作だと思いました。 文句無くお勧めします。 | ||||
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『最悪』『邪魔』の奥田英朗が帰ってきた。’04年の第131回直木賞受賞作の『空中ブランコ』をはじめとするユーモア路線の作品もそれなりに良いが、やはり私はシリアスな奥田英朗を待っていた。本書は期待を裏切らない、1400枚にも及ぶ社会派サスペンス大長編であった。 昭和39年夏、アジアで初開催の東京オリンピックに沸き返る東京で、警察を狙ったテロリストによる爆破事件が連続して起こり、脅迫状が届いた。事件はオリンピックという大事業を目前にひかえて、国民にいらぬ動揺を与えないよう事実報道は伏せられ、極秘に、しかし大量に捜査員が動員されて大がかりな国家の威信をかけた捜査が始められる。公安警察も独自に動き始める。 これは、プロレタリアート革命を信じるひとりの東大大学院生が、オリンピック開催に際しての、支配層と被支配層の矛盾に怒りを覚えて、東京オリンピックそのものを人質にとって8000万円の身代金を要求して国家に挑んだ反逆ののろしだったのである。 物語は主に犯人側の島崎国男の章と警察の捜査側の章が、時間をさかのぼったり戻ったりして交互に描かれる。読みどころは、捜査側の刑事課と公安課との綱引きとか、徒手空拳の島崎が大それた犯罪を思いついて実行するに至る経過とか、警察対島崎の戦いとか、色々あるが、やはりなんと言っても一番は、敗戦後19年、この東京オリンピックを契機に高度経済成長期へと突き進む直前の「昭和」を、この小説が圧倒的なスケールと緻密な描写で活写していることだろう。 | ||||
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言わずと知れたトンデモ精神科医伊良部シリーズの作者による、社会派サスペンスである。これがとんでもなく、いい。 昭和30年代半ば、日本は高度成長のきっかけを東京オリンピックに見出そうとしていた。 秋田県の貧農出身の東大生島崎国男が、出稼ぎ労働者の兄の死を乗り越えられずに怨念を東京オリンピックに収斂させていく。彼を取り巻くように、警視庁の刑事、相棒となる老スリ師(「師」というのもなんだかなぁ)、東大で同期だったテレビマンなど登場人物が、当時の様々な社会の断面にはめ込まれていく描写は、さすがである。 特にラスト、オリンピック開会式が整然と進行している最中、観客席の下では、落合警部補と島崎の対決に向けて臨場感あふれる描写で、まるで映画監督マイケル・マン(「ヒート」や「ローニン」など)の映画を観るようなスピード感と臨場感で一気に読ませる。 また、対決が終わった後で、落合警部補の子供が無事生まれた知らせを受ける場面では、思わず涙腺がゆるんだものだった。 丹念な時代考証を経て、昭和30年代の熱気がいっぱいに詰まっている快作である。スポットライトの当たらない側面で、文字通り命がけで働く出稼ぎ労働者や在日問題、左翼運動、警察機構の縦割り社会の様子など、当時の様々な要素を織り込みながら、東京オリンピックの闇と光を凝縮した一冊である。 織田裕二(落合警部補役)主演で、ぜひ映画化して欲しいと思うのであるがいかがか。 | ||||
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奥田英朗のミステリを待っていた人たちにとって、新作がサスペンスという情報はまさに垂涎もののそれであった。 「最悪」「邪魔」以降、ミステリを期待していたものにとって、おあずけが長く続いていたこの状態に我慢できなくなっていたので、期待はいやが上にも盛り上がるものであった。 あらすじは、ここでのレビューや他の方も語られているのではぶきます。 ☆は3つとしたが、細かくいうなら3.5。☆4つはとてもつけられない。 3人から4人の視点で語られる時間が前後して進む物語は、圧倒的な筆力を持って、また「その日その時」を巧みな構成で語られることにより、ページを捲る手を止まらせない。 事実、200ページを迎える頃にはその物語の虜になっている自分に気づく。 しかし、である。 事実が先行して語られているため、読者にとって「謎」が全くないのだ。 また主人公に感情移入した読者も、キャラが完全に後退してしまい、 さらに盛り上がるべき後半に向けて冷めてしまうのだ。 タバレにならないと思うのであえて書くが、ある種の正義に駆り立てられて行動したはずの主人公は、後半にはただの薬の力によって行動するのには完全に興醒めしてしまう。 ただのヤク中の話か。そんな感情が出てしまう。 評価が分かれるラストも、僕には全くつまらない一番最悪な(奥田の)選択だったと思う。 あれだけ描いてきた主人公が最後にはどこにもいないのである。 この物語は一体何だったのか。 唄がうまいだけではその曲は評価されない。 昔、ロックバラードで鮮烈なデビューを飾った抜群の歌唱力を持った歌手がいた。 しかし3作目以降は歌謡曲ばかり歌うようになり、時にはコミックソングまで歌って稼いでいた。 しかし久々に出した前評判の高いバラードは、 前奏で惹きつけられ、AメロBメロで名曲を予感させたが、肝心のサビがとうてい納得できない凡庸なものであった。 | ||||
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登場人物ごとに場面を分けて話を進める独特の書き方で、奥田氏の小説を読みなれている者にとっては、たいへん読みやすい描き方である。ストーリー展開のテンポもよく、いつもながらうまさを感じる。 時代背景が東京オリンピックのころで、競技場やその周辺の突貫工事(ちょうど北京五輪のような)に携わる出稼ぎ労務者の過酷な労働がストーリーの大部分を占めている。折りしもプロレタリア文学の『蟹工船』がブームとなっている今、作者はきっとそれを意識しているに違いないだろう。昭和の『蟹工船』を描きたかったのだとすれば、時流に迎合しているようで、ちょっと興ざめした。その分★1つ減。 | ||||
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国家の威信をかけたオリンピックといえば、08年の北京オリンピックもそうだが、奥田英朗がこの作品を執筆する動機にこの北京オリンピックの存在があったのだろう。 彼の作品を読んでいつも感じるのは、物語が佳境に入ったときのスピード感、後味の良さ、職人的な上手さ、そして読者に決して損はさせないというコストパフォーマンスの高さだが、この作品にもそれを感じる。 正直、中盤までは読んでいてかったるい感じがしたのと同時に、登場人物(主人公の島崎も含めて)のキャラクター設定もこの時代を象徴する人物像のような気がして、いまいちのめり込むができず、ページがなかなか進まなかったのだが、もう一人の主人公といえる村田と島崎の行動が表に出始めてからの展開以降からはイッキに読み終えた。 突飛なストーリーでもなく、ぶっ飛んだキャラクターも登場しないのに、時間軸を微妙に前後させる巧みな構成とわかりやすい文章で、誰でも楽しむことができる質の高いエンタメ作品に仕上げてしまう奥田英朗という作家はやはり実力がある。 | ||||
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年末も押し迫った折、奥田英朗、満を辞しての登場である。今回はなんとサスペンス、しかも読み進めてみれば、これがかなり本格的な社会派なのだ。 いきなりオリンピック直前に沸く60年代の東京の街並みが活写され、その時代考証ぶりに幼心が甦るが、物語はこの後、東京と秋田、千駄ヶ谷周辺と飯場ニコヨンと、まるで正反対の“世界”が交互に描かれ、正に、富む者と貧しき者、繁栄する側と取り残される側、高度経済成長期に於ける光と影が照射される展開となる。 選ばれた存在でありながら、社会の不平等と一極集中する富の理不尽さに怒り、孤高の闘いを挑む犯人。粗悪なヒロポンの打ちすぎで命を落とした人夫仲間の葬儀に郷里の貧村から出てきた女性の「東京は祝福を独り占めしている」との諦感の言葉に、「そんな事はさせない」と語るその確信的思い。 犯罪を実行していく者と検挙に奔走する者、タイムラグを保ちながら進んでいく両者の攻防が、クライマックスを迎えるに連れ狭まり、ついに合致、対峙する構成がスリリングでお見事。 戦争の傷痕も窺わせながら、世紀のイベント開催に自信と希望を湧き起たせる庶民の高揚感と、その陰で取り残されていく者たちの無念さ、これが奥田なりの高度成長期の昭和史の風景なのか。 ジャンルは違うが、映画「天国と地獄」や「新幹線大爆破」を想起させる面白さだが、それでいて、いかにも奥田らしいユーモアのセンスはここでも健在。 様々な要素が盛り込まれ、読了後も幾多の思いが胸をよぎる力作、奥田ファンならずとも文句なくお薦め。 | ||||
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『サウスバウンド』で見られた昭和への憧憬は本作にも引き継がれ、高度成長期の闇の部分をも活力に転換して描写する、熱いドラマになっています。犯人側と刑事側の両者の視点で描きこんでいるのですが、時系列をずらしたことにより、展開の一部分が読者に隠されたまま推移して、それがミステリ的な謎としても機能しています。だから次から次へとページを繰る手が止まらない。 全体のトーンとしては、例えば黒澤明のモノクロ映画を見るようなかっちりしたリアリズムというより、『三丁目の夕日』タイプの、現代からの視点で再構築したノスタルジー香る筆致で、そこに奥田英朗の持ち味が出ていると思います。 しかしながら、細部の流れ、特に犯人に有利に働く展開が、昔の話だからというご都合主義に甘えておらず、ちゃんと納得できるだけの人物なり環境なりの描き込みがしっかりなされている、そこは本当に凄いと思いました。スリのおっさんがまたいいキャラなんですよねぇ。 | ||||
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昭和39年の東京。 オリンピックに間に合わせるための突貫工事で、出稼ぎに来ていた兄を 失った東大大学院生の島崎は、遺骨を受け取りに兄が暮らしていた飯場を 訪れた。 マルクスを専攻していた島崎は、わずかな賃金で働き、明日への希望の 見えない末端の労働者の現実を目の当たりにして、自分も出稼ぎの人々と 一緒に働く決心をする。 過酷な労働を続けるうち、オリンピックに疑問を抱いた島崎はひとつの 解決方法を見出すのだった。 島崎の視点と、彼を取り巻く普通の人びとの視点を交互に描き、日常を 描くほどに島崎の視点がきわだってくる、という手法が面白い。 あの時代、戦後はもう終わったといいながら出稼ぎに明け暮れる貧困が あり、ニコヨンと言われた現場労働者の生活は当時も変わりなく引きずっ ていた。 確かに、ビルが建ち高速道路はでき、国産自動車が走るようになったが、 社会が変わったわけではなかったのかもしれない。 それを言い出すと、人の営みは未来永劫変わらないことにはなるのだが。 | ||||
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奥田作品で一番いいと思います。私は東京オリンピック以降に生まれたため、当時を知りません。この作品により当時の雰囲気を少し味わうことが出来ました。ストーリーに関しては、驚くような展開があったわけではありません。しかし、場面ごとに感動や憤りなどを感じることが出来る構成を気に入っています。そして、著名人や名車などの小ネタなども効いていて読み易く感じました。ラスト、物足りなさも感じるかもしれません。が、犯人側と警察側の心情もラストを迎えるまでにしっかり描かれていると思いますし、国が一つとなってオリンピック開催に向かった圧倒的な力を表現したのではないかと思いました。 | ||||
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