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オリンピックの身代金
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【この小説が収録されている参考書籍】
オリンピックの身代金の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.16pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全178件 141~160 8/9ページ
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東京オリンピックに沸く60年代の"光"と"陰"にスポットを当て、 当時の理不尽な格差社会を如実に描き出した本格社会派サスペンス。 まるでその時代へとタイムスリップしたかのように物語に入り込め、 何も知らないその当時のことに自分も主人公と共に怒ったり、疑問を感じたり、 色々な感情を抱きながらも最後はテロを成功させて欲しいと願って読んだ。 実際に東京オリンピックが開催されているということは結末はもう分かっているわけで、 そういう意味ではオチを楽しみに読む作品ではない。 主人公の企みが成功するか否かよりも、 彼がそのような考えに至った背景に描かれる物語が訴えるものにこそ、 この作品で奥田さんが描きたかったことだろうと思う。 繁栄の陰には必ず犠牲がある。 東京は潤っていても、取り残された地方では貧困にあえぐ人間もいる。 オリンピックを開催し世界への体面を保つよりも、 もっと先にやるべきことがあるはずだと考える者達の無念さが痛いほど伝わってきた。 そして、それらの問題は決して過去のものではなく、 現代にも通じるものがあるからこそとても切実なものに感じた。 奥田さんの作品にま毎度色々なことを考えさせられ、そして勉強させられる。 とにかく長いが、読んで絶対に損はない作品。 | ||||
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この作品が吉川英治文学賞を受賞した時の記事(毎日新聞)を読んでいたら奥田英朗さんの「キャラクターに頼らず、ストーリーでページをめくらせようという気持ちで始めました」との発言が載っていました。 でも、ストーリーの面白さに加えて、やっぱりキャラクターもとてもよかったと思います。 東大のマルクス経済学の研究室に籍を置きながら過酷な肉体労働を実践する青年(大物)と、ひょんなことから彼につきまとうことになるスリで生計を立てている初老の男(自身曰く小物)の、島崎と村田の犯行側のコンビ。 奥田キャラというと何といっても伊良部の印象が強いですが(『サウスバウンド』の親父もインパクトありました)、ラストのこともあり、このコンビも忘れがたい強い印象を残しました。一人だとそうでもないと思うんですけど、補完し合うコンビの魅力ですね。 警察側と犯行側の2つの視点でかつ時間軸がズレている構成も、最近ではこの類のミステリでは同系のものが標準装備されていることが多いですが、奥田さんらしく堅牢な作りで、最後まで飽きさせません。 奥田色があまりないような印象も受けましたが、正統派のサスペンス・エンターテインメントとして純粋に楽しめました。 | ||||
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こんな傑作を読まずにいた自分が悔しい。奥田英郎のファンを自称していたが、「真夜中のマーチ」「サウスバウンド」と駄作が続いて、単行本を買ってはずれると悔しさが倍増してしばらくは奥田英郎の名前を見るたびに「彼ももう終わりだ」と思っていた。「無理」が出て、「最悪」「邪魔」のシリーズだと期待して購入。今度は裏切られなかったので、奥田節の復活を喜んでいた。偶然「オリンピックの身代金」を思い出して、期待半分で読んだら、これまでの最高傑作だった。内容についてはほかの方が書いているので触れないが、ひたすら「島崎国男」に感情移入して読めた。それにしても僕より10歳も若い奥田英郎にあの昭和30年代が描けるとは、やはりプロはすごいと戦慄した。奥田英郎さん、見くびって申し訳ない。もう一度ファンになります。これからも期待しています。 | ||||
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戦後の秋田からの出稼ぎ者の話は、いまの格差社会を見つめ直すきっかけとなる。 地方と東京、エリートと人夫、キャリアとノンキャリ、表社会と裏社会。 高校時代に、早稲田出身の教師に「大学は東京に行くのだろうから標準語を話せ」と言われた東大生の優男の主人公には、秋田の方言や土着性は消えており、この物語で、彼を東京と地方をはじめとする、富めるものとそうでないものの間を自由に往来させることで、格差をクローズアップしている。 刑事と警察官僚を父に持つテレビ局員、そして主人公の物語を時差をあえて設けて日誌風に展開する。 ある場面では先の状況を知りつつ、この物語を読むことになり、展開を考慮しつつ登場人物の心理を推し量ることを楽しみことができる。 | ||||
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日本は、「東京オリンピック」を開催することにより、完全に戦争の痛手から立ち直った姿を 世界各国に示そうとしていた。誰もがオリンピックに夢や希望を抱いているかに見えた。だが、 警察を狙う爆破事件が発生する。オリンピックを妨害しようとする事件だったが、このことは 日本国民に知られることはなかった・・・。一人の若者の生き様を衝撃的に描いた作品。 高度経済成長期の日本。「東京オリンピック」という華やかな祭典の陰には、いまだに貧困に あえぐ人たちがたくさんいた。日の当たるところにいる者とそうでない者との激しい格差には 言葉もない。そのまま何事もなければ、東大生である島崎国男も日の当たる道を歩き続ける ことができただろう。だが、彼に仕送りを続けていた兄の死が、彼を変えてしまう。「自分を 日の当たる場所に出すために、どれだけ家族が犠牲を払っていたのか!」そう思う島崎は、兄の 死を乗り越えることができなかった。そして、兄と同じ境遇に自分の身を置いたとき、日本の 国が抱える矛盾に気づいてしまった。「日本の国の豊かさは、ごく一部の人間たちのものだ・・・。」 彼の境遇には同情すべきところもある。たった一人で、「あったこと」を「なかったこと」に してしまうような恐ろしい国家権力に挑む姿は、「孤高」という言葉にふさわしいように見える。 だが、実際にやっていることは狂気の沙汰としか思えない。彼の行動には、理解も共感もできな かった。 長すぎる気もするが、いろいろなテーマを含んだ読み応えのある作品だった。読後も不思議な余韻が 残った。 | ||||
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輝かしいオリンピック開会式に向けて、各所急ピッチで準備が進められる中、2件の爆破事件が起こる。身代金は8000万、人質はオリンピック。だがこれはいわゆる謎解きミステリーではない。犯人も、その動機もかなり早く明らかにされる。今年になって「警官の血」を読んだこともあり、戦後と現代の間に、自分の知らないもう一つの時代というか、段階があったんだということを、今回も思い知らされた。これはオリンピック当時の社会情勢を壁紙にした犯罪絵巻である。歴史的には、戦後は現代と一くくりにされがちである。自分の産まれた頃の写真を見ても、電化製品や洋服の流行り廃りを除けば、今と同じ時代に属していると思う。だが、そのほんの少し前、昭和40年頃までは、日本もかなりの格差社会であったことを、今回ほとんど初めて思い知らされた気がする。特に、冬の間雪に閉ざされる東北は、かなり貧しかった。もちろん「出稼ぎ」のことは教科書にも載っていたが、その実体は何も知らなかった。登場人物の中の一人がこうつぶやく。「今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのとちがうか。横に積むのはもう少し先だ」まさに、その不公平でも石を高く積み上げた時期の話。ずっしりと読み応えがあった。だが小説として、事件の終わりが見えてからの展開が、ゆっくり過ぎというか、吸引力に欠けるというか、終わりにかけてしぼんで行く感じなのが、残念。それはさておいても、この時代を知らない30歳代以下の方には、是非読んで頂きたい。 | ||||
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当時の日本は華やかな東京オリンピック開催の裏で虐げられた人々が存在した。 それなのに映画「三丁目の夕日」のように、あのころの日本は良かった という単純な考えに作者は激しく反発している。 3丁目の夕日は当時の日本を描いたものではない。あれは東京物語だ。 あの映画のせいで今と違って昔はいい時代だったと勘違いする人が増えた。 当時の日本は急成長するために、中央集権の道を選択し「東京」だけに力を注いできた。 そしてそのひずみが「地方」に押し寄せた。 3丁目の夕日が、昔の日本の光の部分のみにスポットライトを当てた物語ならば 本作は日本の陰の部分にスポットライトを当てた物語であり その陰というのが、当時の日本の本質である。 島崎という男は、3丁目の夕日を観て泣きながら感動している観客の前に突然現れて 「みなさんが見ている日本は本当の日本ではありません!」 「あなたたちは日本ではなく、東京を見ているだけです!」 と叫んでいる。 中央集権によって夢と希望のあふれる都に成長した東京。 しかしその反動で信じられない貧しさの中で苦しんでいる地方の現状。 そして「昭和30年代の日本=東京」 という見せ方をして、懐古主義を煽る3丁目の夕日的な世間の風潮─。 おそらく作者は真実を知らせたいと思ったのだろう。 そういう気持ちが原動力となって 「オリンピックの身代金」という名作は生まれたのではないだろうか。 | ||||
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正直、20代の自分には時代背景は判らない。 ただ、あの時代の熱気は十分伝わって来た。 オリンピックに対する、いわゆる庶民とそれ以下の人々、そしてその上に立つ人、 それぞれの視点からの描写が細やかに描かれていて、 あの時代、もっと言うと高度経済成長期を知らない自分にとっては 新鮮な感覚で読み進められた。 でも、これはサスペンスなのか?時系列は入り組んでいるが、内容は淡々と進んでいく。 盛り上がるべきところも淡々と。 犯人、警察の捜査の進み具合、そして事件。 全てが予想通り、それ以上でも、それ以下でもなく。 でも、自分にはそも淡々とした進み方が妙に合った。納得しながら話は進んでいく。 「最悪」「邪魔」のしんどさ具合と、 「インザプール」に代表される作品の軽快さ。 その中間に位置するのが今作かな、と。 読後感は悪い訳でもなく、爽快な訳でもなく。 ただ、心地は良かった。 純粋に面白かった。 それは、けしてサスペンスと言う枠ではなく1つの作品として。 最後に一つ。 奥田さんはいわゆる「アカ」をどう捕らえているんだろう。 憧れなのか、冷ややかなのか。 そこが妙に気になった。 | ||||
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今までの奥田英朗作品が好きだから、という理由で読む人にはオススメしません。とにかく地味。そして無意味に長い。 構成はしっかりしてるし、破綻もしてないですが、淡々と話を進めて淡々と終わる、といった印象。やたらと長い割にラストは恐ろしくあっさり終わるのでかなり拍子抜けします。主人公始め、いろんな人物がいろいろ中途半端。 登場人物の視点、時系列をごちゃ混ぜにして書かれているのですが、その意味もあまりよく分かりません。誰のどの視点からでも大体真実は同じ。ミスリードを狙う感じでもなく、分かりきった話を「一応」前半は伏せて書いてあって、後半「ああやっぱりか」という、小説としてはあまりにも芸のない展開です。 ラストどうなるのか、という興味のみで最後まで読みましたが、最後は打ち切りマンガのようなあっさりとした終わり方。一番書くべき場所ではなかったのか。 オリンピックというネタ自体には興味がなく、これまでの奥田作品のファンだからという理由で読んだ自分には、かなり苦痛な作品でした。 | ||||
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520ページの長編ですが、一気に読ませてくれます。 もう止まれません。爆弾犯と友人、負う警察、それぞれの視点から、 かつ、時間を行ったり来たりしながら、物語が進みます。やや混乱しますが、 頭の中にバラバラの映像を残しながら、それらが少しずつ、ひとつにまとまって行く過程で 読者は常に新たな発見をしながら、緊張感を維持しながら読み進めることができます。 そして、時代背景がまたいいんです。高速道路が、空港が、モノレールが、 次々と建設され、地方の貧しい出稼ぎ労働者を飲み込みながら、 東京が立ち上がって行く。そんな熱い昭和の時代の空気を 生き生きと描き出してくれます。 日本の裏社会の様子、公安と警察の微妙な関係など、社会派的な要素を ふんだんに盛り込み、面白いだけでなく、読後にいろんな余韻を残してくれます。 | ||||
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率直に面白かった。 というのもこれは勝手な想起だが、 『太陽を盗んだ男』や『強奪箱根駅伝』といった フェイバリット作に通じるからだ。 クライムサスペンスと言えばいいのか、 この種の話はそのリアリティーの再構築が肝と思う。 その点さすがの著者のてなれば、外してない。 硬質な映像で見てみたい。 | ||||
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東京オリンピックが開催されようとするときに、警察を狙った爆破事件が起こった。これは、国民に伝わることはなかった。最後には、オリンピックを妨害するという。内密に捜査している警察側と東大生島崎国男との攻防は見ものだ。これは、長編大作で社会派サスペンスなんだろう。物語は節ごとに、島崎国男、警察官僚を父にもつテレビ局勤務の須賀忠、警察側が交互に話が展開される。 昭和39年は、貧富の差が激しい時代だなと感じます。島崎国男が夏休み中飯場でアルバイトを始めてから、周りの働いている人がぜんぜん報われない姿を見て、この社会をどうにかしたいという気持ちから犯行を決意するまでの姿といいますか心の動きはわかるところがあります。警察側との攻防で島崎国男がつかまってほしくないなあという風に思いましたから。 警察が嫌いなわけではないが島崎国男を犯罪へと駆り立てた社会背景はわからないではない。学生の島崎国男が警察に何かをやってやろうと思った動機背景を探るのもいいと思うし、警察側と東大生島崎国男との攻防を楽しむのもいいと思う。 | ||||
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昭和39年、オリンピック開催で盛り上がる東京を舞台としたサスペンス。 奥田さんの作品は、伊良部シリーズに代表されるように、ユーモラスなストーリーの中に、ちょっとしたアイロニーが含まれているところが魅力なのですが、この作品はシリアスな作品で、まさしく直球勝負の大作。 あらためて、奥田さんの筆力を知らしめたと言えるのではないでしょうか。 これだけの長編の割には、結末はあっさりとしていて捻りはありませんが、この時代の熱狂は伝わってきます。 特に、最後の数十ページ(開会式前日から当日の部分)の緊迫感とスピード感は見事です。 読んでいて、映像がイメージできました。 ストーリー展開的には、時系列に並んでいないところが、読者の戸惑いを招きます。 奥田作品は、一筋縄ではいきません。 | ||||
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私が小学生の頃ですね。この頃の昭和をはっきり覚えていませんし、自分の住んでいるほかの地方のことは知りませんでしたね。読んでいて、悲しくなりました。落ち込んでしまいました。犯人をいつの間にか応援していました。数日は、あの結末でいいのかと考え込んでいました。 | ||||
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読みながら黒澤明監督の『天国と地獄』を思い出しました。 プロットもストーリーも全く違いますが。 面白い作品でした。 が、貧しい村の出の主人公が義憤に駆られて犯罪に走るまでの葛藤とか 追い込まれていく様、堕ちていく様・・・の描写が少し弱いように感じました。 激情なのか、クールに神の立場から鉄槌を下そうとするのか、いずれにしても 最後の一歩を踏み出すときは狂気に支配され、疾走していく感じというのが もう少し前面に出た方が、この時代の若者っぽかったのでは?と思います。 未だ読んでいない方は、少し待って文庫になって読んでもいいかなと思います。 文庫になったら即買いでもいいと思います。 | ||||
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昭和30年代の世界観がしっかりと構成されている。文体も平易で読みやすい。殺人や覚せい剤などが出てくるわりには、小説全体のムードは明るい。そういう作風なのか、オリンピックのころの日本の活気が文章から感じられるからなのかは分からないが。 そして物語は動き出す。爆弾騒ぎに脅迫状。犯人は本当に草加次郎という人物なのか。犯人の目的は?犯人らしき人物はあっさりと分かる。ミステリーとは思えず、ちょっと先の読めない小説である。犯人側や、警察側など、いろいろな視点が入れ替わってストーリーは進行する。 物語の中で、マルクス主義について語られる部分がある。しかし、いささか時代錯誤という感が否めない。まあ、舞台が昭和39年なので仕方ないのだが。マルクスは、資本主義が世界中に行き渡り、その頂点にある国が崩壊すると予言したらしい。しかし、現実はどうか。サブプライムショックがあったとはいえ、アメリカはまだ崩壊してはおらず、そのずっと前にソ連はロシアに変わり、中国は資本主義経済を取り入れている。共産主義と比べて、どちらがより優れたシステムであるかは明らかであろう。 この本を読んで、改めて共産主義の欠点が分かった。住居がタダで、食料も平等に配分されるなら、誰も真面目に働こうとは思わないだろう。易きに流れる。それが人間の性質だ。共産主義にしても、そのシステムを管理する人間が必要であり、その人々が上に立つ。そうすれば、どうしても格差が生じてくる。 面白くは読めるのだが、クライム・ノベルとしてはいまひとつか。あっと驚くような奇抜なアイデアがあるわけでもなく、特に前半はアクションシーンもない。全体としては、もうひとひねり欲しいところである。 | ||||
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東京オリンピック目前の、昭和39年の夏。 オリンピック開催のため、ものすごいスピードで開発を進めていく首都東京。 秋田出身の東大生、島崎はそんな中で、オリンピックのために踏み台にされていく人々、さらに広がる地方と東京の格差に憤りを感じて「オリンピックを妨害する」という計画を立てる。 物語は、その島崎の側からと、事件を追う警察(落合警部補が中心)の側からと描かれていく。 筋書きという意味では、多少不満が残った。 切れ者なはずなのに、島崎の計画は行き当たりばったりな気がするし、ラストもやや読後感が悪い。 しかし、当時の社会の描かれ方は、すばらしいと言えよう。 まるで手に取るように、目に浮かぶように、国全体が東京オリンピックに向けて熱くなっている様子がわかる。 そして、そのために過酷な労働を強いられる出稼ぎの人たち。地方から出稼ぎに出てくる彼らとその家族。酷い労働条件。 いろんなもののひずみの上に、今の東京が立っている。知っているようで、知らなかった実態。 そして、また東京でオリンピックを開催しようとしている。 そして、また格差社会になりつつある。 東京は同じ事を繰り返すのか? 今だからこそ、タイムリーなテーマだったのではないだろうか。 オリンピックという華やかな舞台、主人公島崎のイケメンで孤独な東大生という人物像、対する落合警部補の熱血ぶり、どれもビジュアル化がイメージしやすい。 是非、映画化して欲しいものだ。 二回目の東京オリンピックが開催されることになるなら、その前に是非。 | ||||
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東京オリンピック開催を目前にして起きた爆弾事件を現在進行形で捜査する警察の視点と、一人の若者が東京と地方の豊かさの違いに疑問を抱きながら変貌していき、東京オリンピックの開催を妨害するために身代金を要求するまでの視点。それが時間差で描かれながら最後に交じり合う様子は最後まで目が離せなかった。昭和39年の東京オリンピックの時代、まだ僕は生まれていなかったのだが、誰もが東京オリンピック開催に舞い上がっている時代の臨場感や喧騒がリアルに伝わってきた。また、刑事部と公安部の足の引っ張り合い、過酷な労働や人間扱いされない地方労働者の苦しみ等、事件の裏側についてもきちんと描かれていてとても読み応えがあった。 | ||||
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昭和39年 東京オリンピック開催間近の東京 秋田の貧しい村出身でノンポリ東大院生・島崎国男は警察を狙った爆破事件を起こす 島崎国男の行動はアカと呼ばれる学生達の行動とは源を全く異にするもの 高度成長時代の始まり、日々姿を変えていく東京 その変貌を支えていたのは、地方からの出稼ぎ労働者達 出稼ぎ先で急死した兄の代わりに夏休み中飯場でアルバイトを始めた国男 今まで自分の知らなかった「底辺」の世界、そこで一生懸命働き、家族に仕送りをし、しかし決して裕福にはなれない人々との関わりを通して国男の中で価値観が変化していく 「おい、おめえ東大生なんだってな。そんな頭のいい野郎が、なんでまたお上に楯突こうと思った」 「それは、オリンピックが急造で見せかけの繁栄の上に行われようとしているからです。この国のプロレタリアートは完全に踏み台として扱われています。貧しい者は貧しいままです。これを許したら、国家はますます資本家を優遇するでしょう。誰かが反旗を翻さないと人民は今後ずっと権利を剥奪されたままなんです。」 テロリストvs警視庁・公安 テロが成功しなかったのは歴史上の事実、実際に同じような事件があったとしても公にはされず闇に葬り去られたはず 国男と仲間には何処かに逃げ延びて欲しい これほどテロリスト側に思い入れが強くなった作品は初めてのような気がします ナンセンス! ナンセンス! 終盤で東大生が繰り返し叫びますが、何の意味も無い言葉に思えます 国男の東大の同級生、須賀忠 警察官僚の父、外務省勤務の兄、華族出身の母 そんな中でテレビ局に就職し異端視されている彼も結局は富裕層の人間だった 読み終わってとてもやるせない気持ちが残りました | ||||
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オリンピックを盾に日本という国を相手に強請る話を、邪魔を描いた奥田氏が手がけたと聞けばついに本気で書いたのだと期待も上がる。 そんな期待が読み進める内に、除々に萎んでいったのがこの本だった。 昭和39年を舞台に、警察官僚を父に持つテレビ局に勤める須賀忠、古本屋の娘で製麺工場の事務員である小林良子、警視庁警部捜査一課の落合昌夫の3人が、犯人である東大院生島崎国男が犯罪に手を染めるいきさつと並行して、オリンピック開催までに重ねていく犯行に対して関連していく様子が2段組で521頁描かれている。 当時の様子や、島崎国男以外のキャラクターは違和感なく、オリンピック成功に向け島崎を捕まえようとする警察の動きは、公安もからめて練られた作品なのが十分に伝わる。 それなのに読んでいて「興奮」が湧き起こってこないのは、大事なキイワードである島崎が東大院生でありながら人夫仕事をひと夏だけという限定であっても働くことに納得できないからだ。しかも一日で寝を挙げることなく、プロレタリアートを実証するために肉体労働に従事し、蓄えた知識を頭の中で醸造する中で、オリンピックを国際社会の進出ではないと結論づけ妨害に至る島崎にどうしても共感出来ない。 島崎は何にも執着しないまま、東大院生の立場を捨て、人夫にもなり、犯罪も重ねていく。 よってその周囲が熱を帯びようとも、核心である筈の中心が熱が無い虚無だから、読者として興奮が起きない。手に汗握る面白さが無いまま終わってしまうが故に、肩透かしをくらったような気持ちになる。なぜ島崎みたいな男を造り上げてしまったのか、ここまで練られているだけに口惜しい。 | ||||
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