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オリンピックの身代金
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【この小説が収録されている参考書籍】
オリンピックの身代金の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.16pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全178件 121~140 7/9ページ
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今、まさに読んでます。「上」は最高に面白かったです。奥田先生は全作品読むつもりで順番に読破しております。「またか」って思いそうで、思わない独特の展開に嵌ってます。「無理」「邪魔」「最悪」とは異なる感じでありながら「奥田節のエッセンス」は健在で、引き込まれます。あと50ページ程で残しておりますが、通勤の電車内での読書が半年も続いているのは奥田先生のおかげです。他の作者にも愛すべき先生方は沢山居ますが「奥田節」はこれからも楽しませてもらいます。「国男!!気持ちは判るよ」とだけ言っておきます。 | ||||
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この作者の作品としては、重目の内容になっていますので、ご注意を。 最近、TVでも小説会でも昭和30年代の高度成長期を懐かしむ作品は多い。 昨今の不景気を嘆き、良い時代を思い出したいのだろう。 この作品も舞台は、高度成長期。東京オリンピック前夜だ。 しかしながら、この作品は、昭和の暗部に焦点を合わせ、飾られて回顧されるような、その時代の現実をえぐっている。 その重さは、高村薫の”レディージョーカー”に通じる、閉塞感や、絶望感をも、感じさせる。 軽快な、サスペンス作品を期待しては、肩透かしを食らうことでしょう。 しかし、昭和を知る上では重要な作品です | ||||
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文庫上下巻読み終えました。 カットバックとクローズアップ,ズームアウトなど文章が画像を呼び起こします。 上巻のやや冗長さは下巻への地ならし。 下巻1/2を過ぎたあたりから展開速度が増して,一気に終話へと。 伊良部医師シリーズ,最悪,サウスバウンドなど毎回試みを続けた作者の新境地に思えます。 | ||||
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東京オリンピック前夜の風俗・世相が生き生きと描かれていて、 出だしちょっと前のめりになりました。・・・が、犯人の姿が 半分経過くらいでハッキリ見えてから少々退屈。「最悪」とか 「邪魔」に比べると、、まあ普通かな。 | ||||
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東京オリンピックを間近に控えた日本の首都、東京は戦後の街の姿から全く新しい近代都市へと性急に生まれ変わろうとしていた。 その陰では多くの人々が犠牲に、埋め立てのために漁業権を強引に剥奪される漁師、道路拡張のために無理矢理土地を奪われる市民 そして何よりオリンピック関連の土木建設業務に従事するため、寝ることすら許されずひたすら肉体労働を強いられた地方からの出稼ぎ労働者。 北京オリンピックで中国を批判した日本人が、かつて自分たちもそれ以上とも思える事をやっていたとこの本を読んで知りました。 作者はオリンピックを知らない世代の人ですが、恐らく膨大な時間をかけて資料を読みあさり、まるで体験した事かのように東京オリンピックの表と裏を語ってくれています。 本当に本当に読んで良かったと思える本です。 | ||||
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肝心要のアンチヒーロー島崎の人物造型がやや物足りなく、感情移入を妨げる。ヒロポンで気の大きくなったただの田舎者とは思いたくはないが…。ご都合主義のストーリーはまあ仕方がないか。完成度はピエロの方が上。 | ||||
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オリンピックを阻止する計画を練る一人の東大生と、警察の攻防が描かれる。 あまり面白くないというのが率直な感想。ドクター伊良部シリーズのようなユーモアや、群青劇シリーズのスピーディにめまぐるしく進む展開は殆ど無く、淡々と描かれる。新境地開拓といった所だろうが、私には合わなかった。 | ||||
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北京オリンピックの前後2年半程中国に駐在していた者です。 前半読んでて、「これ、日本のことにしてあるけど、本当は北京オリンピックのことを描いているのでは」と思ってしまいました。中国では共産党や国家機関を直接批判する小説は出せませんが、歴史ドラマで王朝批判ドラマ(実は共産党を暗に批判している)を作ったりしてますし、推理小説も、探偵が中国の警察をコケにするようなものは出せないかわりに、日本と欧米の推理小説は大量に翻訳されているので、本作は、翻訳して中国で売るために書かれたのか!?とさえ思ってしまいました。地名・人名・組織名を中国語に変えて翻訳すれば、前半については、中国人も気づかないかも知れないとさえ思えました(ただし北京に海は無いので、海を考慮すると上海万博の方が近くなるかも知れません)。どこでも道路工事の音が鳴り響き、埃っぽく、補償金を払って立ち退きさせる(東京湾)箇所や、出稼ぎ人夫を出す農村と東京の格差、 「役人も都民も、「外国人に見られて恥ずかしいもの」を隠そうとした。不衛生な屋台街など、真っ先に消える運命にあった(p23)」 「急増の建築物に、西欧都市を装いたくてしようがない(p199)」 田舎から葬儀の為に出てきた中年女性の仕草を見た主人公が、 「品が無いというより、マナーの概念が無いのだろう(p225)」 などなど、どうにも中国の話としか思えなくなってきたので、前半を終わったあたりで、主人公の一人、刑事落合氏と同年代の父親(長野の小作農出身で、高校卒業後東京で国家公務員になった)に電話して当時の状況を確認してしまいました。ところが概要を聞いた父いわく、殆ど小説に書いてある通りだとのこと。違いと言えば、長野の田舎は、出稼ぎは多くは無く、小中学校も農繁期にあわせて休校になるので学業の妨げにはならず、父の兄は京大に入ったが、特に村で凄いと言われたことも無く、戦中戦前はともかく、戦後は停電も無かったとのこと。似ていたのは明治時代に建てた家を針金でテントのように四方で支えていた点(小説では棒で支えている)くらいで、「ひょっとしたら東北と長野は大分違うのかも知れない」とのことでした(中国でも華北の土地の痩せた地域と長江以南の豊かな土地での農民の生活ぶりは大きく異なるので、当時の東北は現在の中国の華北に似ているのかも知れません)。 ということで、本作が書かれた時期からして、北京オリンピックを揶揄する要素は絶対あると思うのですが、歴史小説としても読めるのだと思いました。 後半は、学生運動や在日朝鮮人社会が出てきて、「日本を舞台としたサスペンス小説」となった感じです。とはいえ、歴史ものは結果がわかっているので、ラストに近づくに連れて切なくなりました。警視庁高官の面子はともかく、現場の刑事には犯人を取り逃がして欲しく無いし、かといって主人公に死んで欲しくない、当時の日本の多様な社会・階層の多彩な人々、対立する立場の登場人物にも感情移入してしまい、楽しめました(驚くべき情報量を誇りながら、犯人を何度も取り逃がす公安にはちょっと納得できませんでした。いくらなんでもあんなに酷く無いと思うのですが。。。)。 本作が中国語に訳されて、中国でも出版されるといいな、と思いました。 | ||||
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高度成長時代にオリンピックに沸き返る東京と、貧しいまま取り残される地方、出稼ぎ者の現状など、時代の矛盾への怒りからテロに手を染める東大生。 ただ、壮大な犯罪を計画する割に、彼に陰謀を周到に進めるという粘着性はない。 それは人物造形上仕方ないことかもしれないが、割と行き当たりばったりに淡々と計画を実行するのに、捜査の手をいつもかいくぐり、最後はついに点火台までたどり着くというのは、リアリティの点で疑問が残った。 | ||||
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昭和30年代の”明るい”東京を描いたものが 映画『ALWAYS3丁目の夕日』だとしたら そこには出ていない、貧しさとか犠牲とか… 同時代なのに違う角度から見た昭和30年代の東京だなぁと感じながら読みました。 巻末に掲載の参考文献等にも読書を広げてみたくなりました。 | ||||
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すごく平たく言うと、秋田の貧乏村出身の東大生 島崎国男が、種違いの年の離れた兄の死をきっかけに、兄が死ぬまで出稼ぎして働いていた東京オリンピックのための工事現場で働き始め、日本に起こっている経済格差を目の当たりにして、国を相手にテロを起こす話。 島崎国男というのが、容姿端麗で優しくて無欲で貧弱な東大生(ホントいい奴)なのだが、工事現場で働いているうちに日焼けし筋肉がつき逞しくなっていき、頭脳明晰、イケメン、マッチョのスーパーマンになってしまう。工事現場の仲間に覚せい剤を教えられて、変に自信がついてしまい、理想の為にテロを企てていく。 島崎のやっていることは犯罪だけど、貧乏人や弱者のために何かしようと命をかけている姿はつい応援してくなってしまった。何度も危ない橋を渡る度に覚せい剤無しではいられなくてっていき、少しずつ壊れながらも目的を達成しようと懸命に生きる島崎に青春を感じた。 あえて社会派青春小説と言いたい。 これでよかったのか、島崎国男はどうするべきだったんだろう、この小説を読んだあと、僕はずっとそんなことを考えている。 | ||||
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すごく平たく言うと、秋田の貧乏村出身の東大生 島崎国男が、種違いの年の離れた兄の死をきっかけに、兄が死ぬまで出稼ぎして働いていた東京オリンピックのための工事現場で働き始め、日本に起こっている経済格差を目の当たりにして、国を相手にテロを起こす話。 島崎国男というのが、容姿端麗で優しくて無欲で貧弱な東大生(ホントいい奴)なのだが、工事現場で働いているうちに日焼けし筋肉がつき逞しくなっていき、頭脳明晰、イケメン、マッチョのスーパーマンになってしまう。工事現場の仲間に覚せい剤を教えられて、変に自信がついてしまい、理想の為にテロを企てていく。 島崎のやっていることは犯罪だけど、貧乏人や弱者のために何かしようと命をかけている姿はつい応援してくなってしまった。何度も危ない橋を渡る度に覚せい剤無しではいられなくてっていき、少しずつ壊れながらも目的を達成しようと懸命に生きる島崎に青春を感じた。 あえて社会派青春小説と言いたい。 これでよかったのか、島崎国男はどうするべきだったんだろう、この小説を読んだあと、僕はずっとそんなことを考えている。 | ||||
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とにかく読んでる間中ひきこまれ、楽しめました。 ただ、ラストにはちょっと割り切れない部分も感じました。 奥田さんは普通の男女をチャーミングに描くのがものすごく上手なので、 「普通じゃない」島崎がちょっと割を食ってしまった感じもあるのかもですが、 須賀忠や古本屋の娘さんたちの愛すべき日常がこのまま続くんだな〜、 テロなんか起きなくてよかった♪めでたし…刑事さんにも二人目の子が生まれたし♪ と、読解力のない人ならおもってしまいそう。 彼らの明るい未来(=最近まで続いていたイケイケの日本)は、 幾多の犠牲によって成り立っているのに。という部分がテーマなら、ラストもう少しだけダメ押ししてくれてもよかったかも。 でも「社会の最下層からの怨念」を強調しすぎると別の社会派系作家みたいになっちゃうのかもなぁ…このサラリと理性的な感じが奥田さんなのかも? 島崎がヒロポンを使用するのに抵抗があるって人もけっこういましたが、私はプロの犯罪者でもない彼が冷静に大胆に行動できてしまった理由づけとして、アリだと思います。兄を殺した薬物で兄の復讐を果たすという皮肉でもあるのでしょう。 例えば高村薫とかなら、島崎を、薬なんて使用しなくても、無敵で素敵なテロリストとして描くかと思うのですが(そして刑事は捜査に走りつつも、組織の虚しさにどんどん心の闇が深くなる…)(ついでに言うなら、爆薬会社の社長とは多分きっちりHさせてる…笑) 島崎はけっこう慌てふためいたりヌケてたり、ぎりぎり等身大に見れるよう描かれてるのも非常に良かった。 映画化するなら松山ケンイチさんですね。 | ||||
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東京オリンピックが開催された昭和39年10月10日。華々しい開催の裏には労働者の大きな犠牲があった。古き良き時代かと思えば、苦しい時代でもあった。昭和30年代の世界が読むにつれ目の前にはっきりと浮かんできます。主人公の一人、島崎国男の視点でストーリーは主に進んでいきます。二つの時系列で語られていくサスペンスは緊迫感を備えていて面白いです。 | ||||
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久米宏さんのラジオでの紹介で興味を持ち読みました。 東京オリンピックを間近に控えた時代の描写にリアル感があり、この当時近くに生まれた自分としては頭に絵が浮かび、緊迫感を持ち読み終えました。 主人公の国男のイメージが仮面ライダーWに出演していた君沢ユウキさんであり、この時代を再現するのは難しいかも知れないがぜひ映画化を期待します。 百夜行と同じくらい面白い作品でした。 | ||||
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東南アジア初のオリンピック開催。 これを契機に『敗戦国』という不名誉なイメージを払拭し、世界進出を目指していた日本という国。 美しく近代的な首都・東京。そこに住むほんの一握りの裕福層と、それがどれだけ裕福であるか。 その首都を作り上げるために、実際に汗水流し体を使っている出稼ぎ労働者。それがどれだけ評価されていないか。 日本=東京だとでも言わんばかりに、置き去りにされ戦時中と変わらない悲惨な暮らしをしていながら、 東京を夢の国だと憧れている地方。それがどれだけ惨めなことであるか。 あまりにも緻密に、如実に描かれる「光」と「影」に、息が詰まるような思いで読み進めました。 オリンピック妨害を目論むテロリストと、それを食い止めるために奔走する刑事達。 それ自体は意外とお粗末なものです。これは犯罪小説ではないと思います。 貧富の差に対する正当な疑問を持った東大生に、心を惹かれたのは私だけではないでしょう。 爆弾を作り犯行声明のようなものを送りつけたりしながら、 どこまでも真面目で、知的で静かな東大生に、興味・魅力・共感を感じてしまいました。 奥田さんの人物描写にはいつも感心させられます。 そして、まさに自分がその場にいるかのような映像がありありと浮かんでくる舞台描写もお見事でした。 21世紀になり、世界でも大国といわれるようになった現在でも、飢餓は消滅していないのです。 作者はこの時代に焦点を合わせ、訴えかけているのではないでしょうか。 本当の意味での『平等』など無いと。それでも、人は希望を持って生きていけるということを。 重いテーマです。正しい答えはない。 しかし、疑問を持ち続けることが大切で、決して忘れてはならないことだと思いました。 この時代に生きていない私にとって、この作品は衝撃的でした。 | ||||
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東南アジア初のオリンピック開催。 これを契機に『敗戦国』という不名誉なイメージを払拭し、世界進出を目指していた日本という国。 美しく近代的な首都・東京。そこに住むほんの一握りの裕福層と、それがどれだけ裕福であるか。 その首都を作り上げるために、実際に汗水流し体を使っている出稼ぎ労働者。それがどれだけ評価されていないか。 日本=東京だとでも言わんばかりに、置き去りにされ戦時中と変わらない悲惨な暮らしをしていながら、 東京を夢の国だと憧れている地方。それがどれだけ惨めなことであるか。 あまりにも緻密に、如実に描かれる「光」と「影」に、息が詰まるような思いで読み進めました。 オリンピック妨害を目論むテロリストと、それを食い止めるために奔走する刑事達。 それ自体は意外とお粗末なものです。これは犯罪小説ではないと思います。 貧富の差に対する正当な疑問を持った東大生に、心を惹かれたのは私だけではないでしょう。 爆弾を作り犯行声明のようなものを送りつけたりしながら、 どこまでも真面目で、知的で静かな東大生に、興味・魅力・共感を感じてしまいました。 奥田さんの人物描写にはいつも感心させられます。 そして、まさに自分がその場にいるかのような映像がありありと浮かんでくる舞台描写もお見事でした。 21世紀になり、世界でも大国といわれるようになった現在でも、飢餓は消滅していないのです。 作者はこの時代に焦点を合わせ、訴えかけているのではないでしょうか。 本当の意味での『平等』など無いと。それでも、人は希望を持って生きていけるということを。 重いテーマです。正しい答えはない。 しかし、疑問を持ち続けることが大切で、決して忘れてはならないことだと思いました。 この時代に生きていない私にとって、この作品は衝撃的でした。 | ||||
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昭和39年夏、オリンピック開催に沸きかえる東京で、オリンピックを人質にひとりの学生がテロを仕掛けた。 オリンピック熱に湧く日本。 どこか国全体が見栄を張ろうとしている。 P393「近頃のオリンピック熱は戦前の国家総動員体制を彷彿とさせる」 誰もかれもが、オリンピックのためならばと私利私欲を捨てて行動する。 オリンピックを楽しみにしている国民。 そのオリンピックを無事成功させようと、奮闘する警察。 そんな中、たった一人で国家権力にテロを目論む学生。 その裏で搾取される労働者たち。 さまざまな視点から、オリンピックを描いていく。 特に、格差というか繁栄の裏側にいる人たちの描写が強烈。 この時代の影を、すべて浮き彫りにするかのような書き方だ。 そして、主人公「島崎国男」。 なんだこの男は。 彼の異質さに、ただただ惹きつけられた。 前途洋洋だったインテリ東大生が、いかにしてテロを仕掛けるに至ったか。 格差を知り、矛盾に憤る。 彼の憤りが切々と描かれているわけではない。 むしろ彼は淡々と、行動を起こすだけだ。一見すると地味だ。 だが、この淡々とした感じが、異質さを際立てている。 最低限の描写のみで、読者の想像を掻き立てる。 しっかりと時間をかけて読む必要があるでしょう。 感情移入は出来なかった。 でも別のなにかを感じた。とにかく惹きつけられた。 捜査側と、犯人。 時系列をずらし、各視点を交互に見せる。 サスペンスとしても素晴らしい出来。 だが、それ以上にこの作品に含まれている社会性が強い、強い。 古き良き時代として昭和を描く作品とは、対極にある。 もはや戦後ではないのは、ごく一部なのだ。 島崎国男という男に、やられた。 | ||||
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奥田英朗さんの小説を読んでいるといつも,言葉を巧みに操るというのはこういうことだよな, と感心する。奥田さんの小説で好きなところはいろいろとあるが,何といっても魅力的なのは 登場人物同士の会話だ。江戸の落語を聞いているようで実に小気味好い。 軽口の掛け合いを書かせたら奥田さんの右に出るものはいないのでは,と思うほどだ。たとえば― 「おい,オチ。アイエムエフてえのはなんだい」 会議が終わると,森拓朗が首を伸ばして聞いてきた。 「ええと,国際通貨ナントカです。経済関係です」 「ふうん。おれの東京もえらくなったもんだ」腕を組み うなずいている。 「タンクローさん,えらくなったのは上野より西ですよ。 浅草じゃ香具師の集会があるくらいでしょう」仁井薫が, 櫛で髪を整えながら言った。 「やい,ニール。いつから山の手気取りだ。おまえが生ま れた世田谷なんざ,ちょっと前までは筍狩りに行ってた もんだぞ」 「それは戦前でしょう。今はなんてったて駒沢競技場が ありますからね。オリンピック会場。商店街でくじを引い たら入場券が当たりましたよ。よかったら先輩方にも分けて あげましょうか」 「おい,くだらねえおしゃべりしてるんじゃねえ」宮下が 大きな顔を突っ込んだ。「そのオリンピックが危機なんだ。 万が一妨害でもされたら,入場券もくそもないぞ」そう言い, 顎をしゃくるので,五係の全員でぞろぞろとついていった。 ・・こういう細部をにやにやしながら楽しむというのが,奥田さんの小説の楽しみ方のひとつだと思う。 今回の小説ではいつもの東京弁での会話に加えて秋田弁のやりとりまで加わっていていっそう楽しめた。 ぜひこの落語的快速会話をご堪能あれ。 | ||||
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経済学を学ぶ東大の純朴な学生が、次第に東北寒村や出稼ぎ労働者の怨念を吸い込んで変貌していく。刑事の視点が先行し、学生・島崎の描写がそれを時間差で追う。 最初は爆破事件と島崎がつながらず、別に真犯人がいるかのように感じられていく。徐々に時間差が縮まり、刑事たちの怒号が飛び交う。そして無声映画のように淡々とクライマックス場面が訪れ、場違いにのどかな光景で物語り全体を俯瞰する。工事現場の生々しさをリアルに感じた。覚醒剤のヒロポンが労働者たちに蔓延しているようすも実写のように映像が浮かんだ。 実に読みごたえがあった。 | ||||
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