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(短編集)

女のいない男たち



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【この小説が収録されている参考書籍】
女のいない男たち

女のいない男たちの評価: 3.77/5点 レビュー 331件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.77pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全331件 321~331 17/17ページ
No.11:
(5pt)

強靭な観察者としての村上春樹

村上春樹は小説家でありマラソンランナーだ。
専業作家となった1982年より今日まで30年以上ほぼ毎日10km程度をジョギングしておられるらしい。

村上春樹の安定した創作活動は、日頃のワークアウトに培われた強靭な精神と肉体によって成し遂げられるという事実はご本人も度々言及されるところである。
ワークアウトとは物質界に存在する自身の肉体のルーチンワークであり、反復であり、リズムであり、パターンを定着するための地道な作業だ。
僕は村上作品を読む際、いつもどこかしら、ワークアウトに勤しみ、マラソンを完走し、「継続は力なり」を強靭に具現する人による作品というイメージを受ける。

村上春樹の作品は長編でも短編でも素晴らしいのだけれど、僕が好きなのはこのような短編集だ。
気軽に村上世界に突入して、すっと抜けられる。また別の作品に入り込む。そういうことを繰り返し堪能しているうちに全編あっという間に読了してしまう。
これは別に村上作品に限らないと思うのだが、短篇集というのは、良質なワイン(あるいは日本酒、スコッチでもなんでもいいのだけれど)を安価で気軽にカポカポ飲んでいろんな銘柄を試すことができるみたいな贅沢さとお得感があると思う。
作品毎に、村上春樹は読者を突拍子もない異世界へ誘う。しかしあくまで起点は我々の多くが共有するだろう日々の生活や日常の光景だ。日常に静かに侵食し現世界とクロスオーバーしてくる異世界とのコントラストが美しいと感じる。それぞれの短編に彼が醸し出すアスリートとしての強靭な精神や軸足を感じ取れる機会がある。

村上作品に登場する主要なキャラクターの多くはそれぞれ確固たる特有の精神世界を維持しており、その事実に極めて自覚的だ。
そして精神世界の独立性を担保するが如く、物質世界でも固有の生活のリズム、パターン、スタイルも意識的に維持しているように見受けられる。

先立つ短篇集に『回転木馬のデッド・ヒート』があるが、その中でも『プールサイド』が好きだ。ネットで検索してみても僕と同じような部分に強いひっかかりを感じる方々は多いようで、
「35歳になった春、彼は自分が人生の折りかえし点を曲ってしまったことを確認した。いや、これは正確な表現ではない。正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折りかえし点を曲がろうと決心した、ということになるだろう。」というパラグラフの引用をよく見る。

ラップスイミングに勤しむ人生の成功者。自身の人生についても規則正しいラップスイミング同様に「折り返し点」を定めようとする。規則性、パターンを維持しようとする。しかしながら、言うまでもなく人生は規則性、パターンのみで構成されているわけもなく、いくら彼らがそれを堅持したくとも、ひょんな拍子にバランスが崩れたり、異世界が進入する隙が生じる。

本作品では『独立器官』の渡会医師が自分のスタイル、パターンが崩れて異世界に飲み込まれた人だな、と『プールサイド』を思い出した。

語り手は『プールサイド』のときと同じように渡会医師とジムで知り合い親しくなる。彼もラップスイマーのようにすべてが自分の予定調和に生きているようなプレイボーイだ。しかし心底愛する女性の出現により自身の生活はもとよりアイデンティティまでが揺るがされ結局命を落としてしまう。

日常に侵食する異世界を描写するためには、軸足がしっかりとしたオブザーバーでないと勤まらない。ルーチンワークの崩壊の様はルーチンワーカーだからこそ描写できる。僕が村上世界をある種安心して信頼して疑似体験できるのは、村上春樹が強靭なアスリートで軸足がしっかりしているからなのだろうな、と思うのである。

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女のいない男たちAmazon書評・レビュー:女のいない男たちより
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No.10:
(4pt)

前書きと本文の前書き

前作の長編でガッカリして「もういい・・」みたいな気になっていましたが、結局また読んでます(笑)
今回の連作短編(中編?)は良かったです。
「前書き」において「前書きはあまり好きではない」というアンチテーゼをかませておかれて、
いくつかの本文にも「最初に説明しとくけど・・」みたいな、見ようによっては本文中前書きともとれるような部分には苦笑させられました。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」のような潔さはありません。
ご自身も以前、ロンメル将軍とウインナ・シュニッツエルの文章に関して、説明的な部分を排除し、簡潔で淡々とした筆致のなかでどれだけ情景を想起させる事が出来るか、そういった想像力を発芽させる力を持った文章を「開かれた文章」とおっしゃっていたではないですか〜(涙)
連作のプロットとしては、前書き一切ナシ(前書き的本文中導入部を含む)か、あるいは全てに前書き的な導入部をつけるか(おまけに「あとがき」もつけられては如何でしょう?)統一したほうがバラバラ感がなくて良かったと思います。
つまり、連作ではないのに連作とする為に、言い訳のための前書きが必要だったと(笑)
作品は素晴らしかったのですが、そこだけマイナス★一つとさせて頂きました。
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No.9:
(5pt)

村上春樹は本質的に短編作家だと思います。

彼がこれまで描き続けてきた謎の種明かしが最もうまくなされています。かつてはあいまいに描かれていたことが、今ははっきりと表現されている。ある作品は「ノルウェイの森」パート2だし、あるものは「ねじまき鳥クロニクル」のもう一つの可能性。近年顕著になってきたテーマ、我々を絡めとり破壊しようとする意思も首をもたげる。その意思は我々自身の内にもある。大切な人を傷つけたのは、実は我々自身かもしれない。

個々の作品について、精神疾患と音楽(レコード)に例えて書いてみます。「ドライブ・マイ・カー」ではカウンセリングの基本が語られているように思います。本作の総論でしょうか。「イエスタディ」では、主人公がいう「夢は必要に応じて貸し借りできる」が印象に残りました。「ノルウェイの森」の2014年最新リマスター? 私はこちらのほうが好きです。何より人が死なない。「独立器官」では中年以降の拒食症がしばしば神経症の末期として出現することを描いています。具体的描写が多く異色作に思えます。こちらは人が死にます。「シェエラザード」はフェティシズム、性的倒錯について。望遠鏡で窃視する初期の短編「野球場」の変奏曲でしょうか。「木野」では、家庭内暴力の主題が出現します。「ねじまき鳥クロニクル」の12インチ・シングル・カットで、「海辺のカフカ」や「アフターダーク」を意識したリミックスも収められている、そんな印象。最後に書き下ろしの表題作は、なんというか…良くも悪くも素の村上さんが最も表れた小品。作品としての完成度は低いかもしれませんが、個人的にはとても好きです。

短編一つ一つに意味を求めるより、全体で相互補完し合っていると考えた方がいいのではないでしょうか。そんな理屈はともかくあっという間に読んでしまいました。面白かった! 私が氏に惹かれるのは、彼の作品が持つ誠実さのためだと、改めて感じました。作品によっては差別思想と誤解される箇所もあるかもしれませんが、主人公を導く巫女としての他者、異性ではなく、主人公と別個の人格を持った他者をはっきりと描き出した。そこから生じる軋轢ではないかと私は考えました。本作を契機に村上春樹が真の総合小説を描くことを期待しています。
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No.8:
(3pt)

ファンならわかる、のかな?

6編ありますが、村上春樹さんをなんとなく読んでいる私が持つイメージ、セックスと死、音楽と料理ばっかりだな、という固定観念を今回も全く裏切ることなく、6種類(料理は無し)のテイストでまたまた味わってきたという印象です。

男女の心理についてテイストが異なりながらもどこか共通する部分もあるこの6編が1冊のなかに集約されているということ自体、なかなか面白い本であったと思うのですが、
しかし、中にはこれから面白くなりそうな前フリしておいて終わり、のような単純なカタルシスを求める読者からはなんじゃそりゃ!と思うのもあります。
結局何が言いたいんだろうと考えるには、筆者への肩入れ度合いに応じて、この部分はあの作品と通じてるのでは?とか補完の仕方が様々あると思うのですが、この作品単独から読み取れるとは思えず、高評価は付けられないと思いました。

最後から2番目の「木野」については、どなたか解説をお願いしたい、、と思っています。
案外本編を楽しむというよりも いろんな読者のかたが解説したり作品について話したりするのを見るのが面白く、村上さん作品を読んでいる部分もありますので。
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No.7:
(5pt)

村上春樹の短編

初めに表明しておきます。僕は村上春樹の短編のファンですが、おそらくハルキストではありません。長編では「世界の終わり〜」は楽しみましたが、殆どは最後まで意味をつかめませんでした。1Q84も3巻から読み進める事ができず、「色彩〜は」Amazonレビューの酷評を読んでからこわくて読めませんでした。彼の作品を、エッセイ>短編>中編>長編の順で楽しんでいる、一般読者です。ハルキストでも、アンチハルキでもありません。

ただ、彼の短編は本当に良作ばかりだと思っています。「かえる君、東京を救う」、「レキシントンの幽霊」、「TVピープル」など、氏の世界観が圧縮されているように思っています。余韻を残す読後感が非常に好きなので、この一冊も期待して手に取りました(新宿紀伊国屋のカウントダウンの前を通りかかって本日発売だと知れたのは幸運だったかもしれません)。

やはり、ハルキ氏の小説は短編が一番読み応えがある気がします。どの作品もことなる印象を持って、良くも悪くも独特の言い回しは目につきますが上質です。個人的には特に、「シェへラザード」と「木野」、「独立器官」が良かった。シェヘラザードはMonkeyですでに読んでいたのですが、読み直していっそう好きになりました。氏の短編は自分の世界観と言うべきか、好き嫌いに素直になって読み進めるべきだと思っているので、作品の良し悪しは一概にのべることはできませんが、どの作品も独特で怪し気な印象を持っていたように思います。表題作の女のいない男たちは、期待していただけに個人的には少し残念。一本の電話が物語の始まりに繋がっていくのはオースターのガラスの街を思い出しましたが、作品はどうしてかあまり楽しめませんでした。「イエスタデイ」の完璧な関西弁を使う田園調布市民、木樽のキャラクターはすごく面白かった。「ドライブ・マイ・カー」については地名がどうなったのかばかり気になってしまいました。

読み方としては間違っているのかもしれないけれど、氏の長編が冗長だと感じられる方は短編を一度呼んでみるといいと思います。それで自分の肌に会わないと感じたらすっぱり読む事を止めていいと言えるくらい、短編はレベルが高い気がする。話は飛躍しますが、もし村上氏の短編を読んでぜんぜんつまんないと思った方は、川端康成賞の受賞作等を一度読んでみると日本に様々なジャンルの短編傑作が読めて面白いかもしれません。
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No.6:
(4pt)

ラジエーター付きのビートル

そんな車がある世界という感覚はもはや通用しない。
たばこを捨てる町という表現は抗議されてしまうのだ。
フィクションが通用しなくなった、余裕のない国がここにもある。
笑い流せる余裕は必要なのだけれども・・・・・・・・
久々の短編集は、円熟の極みです。
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No.5:
(5pt)

シェエラザードと西風

「文藝春秋」に掲載されてから、あちらこちらからイチャモンがつけられた「ドライブ・マイ・カー」と「イエスタディ」について簡単なコメントが、冒頭一番、載ってる。だけど、中頓別町の町長の言い分もわからないこともないけど、これで中頓別町が世界的に有名になったし(海外ではオリジナルの「文春」は読まれないか・・・・・)、「文春」2014年新年号に掲載されたフル・ヴァージョンの「イエスタディ」の関西弁訳なんて、秀逸なもんだけど・・・・・・・・

 とはいっても本書の短編の中では「シェエラザード」がいい。「女のいない男たち」というけど、「をんな」がお話の中心になって、出ては消え、消えては出てくるこれら6篇の短編の中でも、この作品だけはずば抜けてると思う。
 で、このシェエラザードは前世がヤツメウナギという特異体質(?)の持ち主で、「ハウス」に送り込まれた引き籠りの羽原クンのお世話をする「連絡係!」という男性にとっては、実に実に嬉しい存在・・・・・はてさて。
  
 それにしても少し前に翻訳の出た「フラニーとズーイ」は関西弁じゃなかったなあ・・・・・
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No.4:
(1pt)

ビートルズ大好きハルキくん

目次を眺めただけで既にお腹いっぱい。
「ドライヴマイカー」
「イエスタデイズ」
と、一発ギャグ系のお笑い芸人みたいにビートルズネタが性懲りもなく繰り返し使われている。
ハルキくんの小説にはとにかくビートルズがでてくる。
大好きなんですねぇ。

「まえがきやあとがきを書くのは好きじゃないんです」
という言い訳から始まるまえがきが本作の一番の読みどころ。
というのも、まえがきの最後のほうに、「ビートルズのネタを短編にだしたら、
ビートルズの楽曲に関する会社から苦情がきた」と書かれているのだ。
これには思わず失笑。

さて、肝心の内容だが、男と女がでてきて、なんか変な会話して、いつの間にかエロいことしてて、
なんかよくわからないうちに物語が終わっているという、ハルキくんがよく書いてる短編が6つぐらい入ってます。
「女のいない男たち」という書名ですけど、短編の主人公はばっちりエロいことしていますので、ご安心を。
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No.3:
(2pt)

期待し過ぎたのだろうか?

うーん、村上春樹の9年ぶりの短編集。
期待が大きかっただけに、ちょっと落胆も大きい。
思えば村上春樹も65才、作家として難しい時期に来ているのか。
約35年前に登場し村上ワールドを展開して、読者に魔法をかけ続けたのだが。
その魔法も徐々に効力を失いつつあるように感じられるのは残念で仕方ない。
私が見たいのは、あれほど世界中の読者を魅了した長編や短編集を発表してきた作家の成熟なのだが。

ここに納められた6篇の短編を読みながら、どれが「この1つ」なのだろう?と思わないわけにいかなかった。 「この1つ」とは「東京奇譚集」における「偶然の旅人」、「レキシントンの幽霊」における「トニー滝谷」、「神の子どもたちはみな踊る」における「タイランド」あるいは「蜂蜜パイ」。つまり核をなす1篇が必ずあるはずだと思ったのだ。

「ドライブ・マイ・カー」ーみさきという女性の描かれ方は面白いと思う。しかし、優れた村上の短編がそうであったように、読者をどこかへ運んでくれるほどの力は感じられない。

青春小説的によく出来ているといえる「イエスタデイ」ー 東京生まれの東京育ちなのに関西弁を喋る木樽とその恋人えりかは魅力的に描かれている。
しかし語り手の僕の16年ぶりのえりかとの再会が、有効に描かれない不満が残る。かっての村上マジックが機能しない。いや、多分作家がそれを避けたのだろう。

「独立器官」ー独身主義で自由を謳歌していた50代の整形外科医が突然文字通り食事も喉を通らないほどの恋煩いに落ちるという話は、興味深いものではあるが、例えば未使用のスカッシュ・ラケットなどの小道具がうまく機能しているとはいい難い。

「木野」ージャズや不思議な登場人物など、最も村上ワールドに迫る短編だが、そのグロテスクな描写などが結局読者をどこへ連れて行こうとするのか・・・分からないままに終わる。読後感が良くない。読後感が良くすぐにでも読み返したくなるのが村上小説の美点だったのだが。

「シェエラザード」は私には分からない。この短編は何がいいたいのか?

結局「この1つ」は発見できなかった。

書下ろしとして、ラストに入れられた「女のいない男たち」がまるで著者が弁解するための作のように感じられると書くのは余りにも酷なことか?。
期待が大きすぎたのかもしれない。
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No.2:
(3pt)

1Q84以前の村上春樹作品コンセプトアルバム

村上春樹自身がまえがきでビートルズの「サージェントペパーズ」ビーチボーイズの「ペットサウンド」のようなコンセプトアルバムを意識して書いたという事が、ある程度納得できる短編集になっていると思います。もちろんコンセプトは村上春樹作品に通底する男女のコミットメントとデタッチメント、そのはざまにおけるグレーゾーンの表現です。
嫌いな人は嫌いでしょう。
ただ短編集だからでしょうか、 状況設定や登場人物の描写など「1Q84」「色彩を持たない〜」では失われていた軽妙さがいくぶん甦ってきているように思いました。過去の長編の要素も短編各作品にそれぞれ見受けられるので、「1Q84」以前の村上春樹作品を好きな人にとっては、過去の作品を読み返すいいきっかけになる短編集ではないでしょうか。
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No.1:
(5pt)

日はまた昇る

アンヌ・ヴィアゼムスキーが十数年前に来日した際、
ゴダールの『中国女』で共演したジャン=ピエール・レオーについて、こう語っていた。
「ジャン=ピエールは撮影中、ゴダールのように思索し、ゴダールのように語り、ゴダールのように振る舞った」と。
要するに彼はゴダールに心酔してしまったのだ。
若くして村上春樹に出会った私たちの世代も彼の作品群を読み漁り
村上の書く主人公のように思索し、村上の書く主人公のように語り、村上の書く主人公のように
振る舞っていたものだ。
若気の至りとはいえ、恥ずかしい思い出である。
と同時に、その時代を懐かしく感じる。
しかし数年後、『TVピープル』が出版された頃から
村上の作風に変化が生じた。
それは、『ノルウェイの森』で異常とも思える、予期せぬ社会現象を巻き起こしてしまった
村上の自省から生じた、意図的な作風転換であったのかも知れない。
私はその頃から、彼の熱心な読者とは呼べなくなってきた。
何か得体の知れない苛立ちと鬱屈を抱え込んで日々を過ごした。
気障な文体と、センスの良さを誇示するような比喩が散りばめられた初期作品群に比べると
『TVピープル』以降の作品は寓意と内省的な独白が前面に押し出された、
村上以外の誰かが描いた、何か異物のような作品のように思えたのだ。
『海辺のカフカ』や『1Q84』を以てしても、私の内なる渇きは癒えなかった。
だから、時折『中国行きのスロウ・ボート』や『カンガルー日和』や『象工場のハッピー・エンド』を
引っ張り出しては幾度も読み返し、若かりし頃の村上が発表した気障で高踏的な修辞に
彩られた作品の余韻を味わい、静かに自分を慰めていたものだった。
それから、約四半世紀が過ぎ、今作が発表された。
前作の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の評判が
散々だったので、期待しないで読み始めた。
『TVピープル』『レキシントンの幽霊』『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』
と書き継がれてきた村上の最近の短編集の中では最も伝統的な手法で描かれた正統派の作品集である。
と同時に、眠っていた私の中の村上に対する評価を蘇らせた作品集でもある。
ここに収められた六篇の作品は寓意と内省に満ちながらも、しなやかかつ端正な文体で描かれている。
時間をかけて、じっくりと読むに値する、良質の作品集であり、
人生がようやく芽吹いた時期に村上春樹を読み耽ることで言葉にできない快さを感じた私たちが、
年を重ねた今、改めて腰を据えて読むにふさわしい作品が収録されている。
思えば、私は『TVピープル』以降の作品を読みこなすにはまだ若すぎたのだ。
そして今、私はようやく村上の成熟ぶりに追いつくことが出来た。
私は、私の内なる村上の復活を心から喜ぶ。
日はまた昇ったのだ。
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