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限界点



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【この小説が収録されている参考書籍】
限界点
限界点 上 (文春文庫)
限界点 下 (文春文庫)

限界点の評価: 6.25/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.25pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1~4 1/1ページ
No.4:
(7pt)

タイトルの真の意味はどんでん返しの限界点を意味するのか?

久々のディーヴァーのノンシリーズ作品である本書は警護のプロと<調べ屋>と称される殺し屋との攻防を描いたジェットコースター・サスペンスだ。

主人公は連邦機関<戦略警護部>の警護官コルティ。6年前の事件で師であるエイブ・ファロウを殺害された警護のプロ。

対する敵はヘンリー・ラヴィング。凄腕の<調べ屋>でコルティの師ファロウを拷問の末に殺害した男。

<調べ屋>とはターゲットの人物の家族構成、仕事、交友関係、趣味などを徹底的に調べ、通信機器を傍受し、予定や行動を調べ、完全包囲してミッションをやり遂げる殺し屋。ヘンリー・ラヴィングはターゲットのみならず、その関係者、隣人などの交友関係の弱点やかけがえのない人物や物を利用して―コルティはこれらを“楔”と呼んでいる―、自分のミッションに組み込んで協力を余儀なくさせることを得意とする。
例えば普段から交流のある隣人の奥さんを人質に取り、命を助ける代わりにターゲットの家に銃弾の雨を放たせるなど、護る側、護られる側が予想もしていない方向から不意打ちを食らわせるといったものだ。

一方コルティはかつての因縁からラヴィングのやり口を熟知しており、あらゆる可能性を想定してターゲットの警護に当る。それは彼の同僚や上司であっても、与えられる情報が、ラヴィングによって楔を打ち込まれて恣意的に誤報を流していないか疑うほどの慎重ぶりだ。

そんな2人の極限の攻防はまさにターゲットの死を賭けた精緻なチェスゲームのようだ。
ディーヴァー作品の特徴に専門家と違わぬほどのその分野の専門的知識が豊富に物語に盛り込まれることが挙げられるが、本書でもこの警護ビジネスに関する知識がコルティの独白を通じて語られる。いくつか挙げてみよう。

サインカッティングという追跡技術は、森林の中で人を追跡する際に注目する微妙な変化を読み取る技術だ。例えば人が通ることで普段は日の光に向いている枝が裏返っていたり、小石やシカの糞が妙な場所に落ちていたり、落ち葉があるはずのないところに敷かれていたりという人為的な痕跡を見つけ、辿る方法だ。

ハリウッド映画の世界では出来栄えが気に入らなかった作品に自分の名前を出したくない時に使うアラン・スミシーという架空の映画監督の名前があるが、諜報活動の世界でもマスコミの目を欺くための架空の犯罪者の名前―エクトル・カランソと本書では述べているが、恐らくこれは偽名だろう。でないと本書でその存在がバレてしまうからだ―があるとは知らなかった。

また意外にも警護する側も敵に弱みを握られたり、拷問を受ければ警護対象者の情報を明かすらしい。任務よりも自分の命が大事であるのがこのビジネスの信条。
但しもしそうすれば会社の信頼は落ちるだろうから、それを覚悟した上での救済措置なのだろうが。

また本書がこの敵と味方の攻防をチェスゲームのように描いているのは作者も意図的である。
コルティの趣味はボードゲーム。プレイのみならず古今東西のボードゲームの蒐集も行なっている。さらにコルティは大学院で数学の学位を取得中にゲーム理論をかじっており、これを自分の仕事に活かしている。本書ではこのゲーム理論がところどころに挿入され、それがさらに本書のゲーム性を高めている。

囚人のジレンマ、合理的な選択、合理的な不合理、等々。

ディーヴァーのシリーズ作品であるリンカーン・ライム物、キャサリン・ダンス物が複数の手掛かりが示唆する方向性を見出す、いわば推理物の定型の中に数々のミスディレクションを散りばめ、サスペンスやどんでん返しの要素を盛込んでいるのに対し、本書ではコルティが想定する数々の選択肢から最良の物を選び、それをさらに敵が凌駕するコンゲームの要素を成しているのが大きく異なるところだろう。
複数の手掛かりから唯一解を導く、複数の選択肢から最良の手を選ぶ。
この2つは近似していながらも受動的、能動的という面で異なり、特にコルティはどちらかと云えば、追う側から逃れる側であることから、ライム物やダンス物での犯人側に心理に通ずるものがあるように感じる。

また追う者と追われる者のハンターゲーム以外にも、もう1つの謎としてライアン・ケスラー刑事を標的にした依頼人の目的が不明なことだ。金融犯罪を担当する彼が扱っている2件の事件について調べていくうちに、意外な展開を見せていくのもまたミステリの妙味となっている。

1件目はペンタゴンに勤める民間アナリスト、エリック・グレアムが遭った小切手詐欺事件。4万ドルもの大金を盗まれた彼はしかしコルティのライアン警護の最中、突然刑事訴訟を取り止めることになる。子供の学費のために大金が必要な彼がなぜ突然翻したのか?
それには“さる大物”から警察に捜査の取り止めを行う指示もあった。そしてグレアムはペンタゴンが定期的に行っている嘘発見器テストも風邪を理由に休んでいると、謎は深まっていく。

もう1つは牧師クラレンス・ブラウンによる貧民層へのねずみ講詐欺事件。しかし彼の身元を調べていくうちにこれも新たな事実が判明してくる。

更にはケスラーの車には彼の署でも使われている追跡装置が仕込まれていたことも判明する。

敵から身を護るためにケスラー夫妻と妻の妹マーリーはほぼ監禁状態を強いられるわけだが、そんな変化に乏しい生活ではストレスの溜まり、あらゆることが疑わしく思えてくる。特にコルティたちはそれを職業としており、あらゆる可能性を想定しなければならないから、情報量から推測されるパターンは膨大な数になるわけで、このような仕事はよほど精神的にタフでないとできないなと痛感させられる。文章からも制約された場所や行動による圧迫感がひしひしと伝わってくる。

これら疑わしい存在は下巻になって次々とその真相が明らかになっていく。

どんでん返しが専売特許のディーヴァー作品だが、本書におけるそれはどこかちぐはぐな印象を受ける。

しかし本書でディーヴァーが見せたかったどんでん返しがまだあったことに驚かされた。

色んな情報を盛り込み、読者を翻弄して追う者と護る側の攻防を見せながらも専売特許であるどんでん返しを盛り込んだディーヴァー印の作品でありながら、至る結末が尻すぼみであるがゆえに浅薄でちぐはぐな印象が残る作品だった。
残念。



▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

限界点の感想

護衛VS殺し屋の戦い。追いつ追われつしながら、ディーヴァー得意の後半へ。後半になるにしたがい、スピード感のある展開でまるで映画を見ているようでした。真の警護対象者を巡って二転三転し、アクションシーンもあり、楽しめました。拷問に紙ヤスリを使うって初めて読みました。やっぱりライムシリーズがいいなぁ。

タッキー
KURC2DIQ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

新しい主人公

久し振りにディーバーの本を読みました。一番好きなのは「ボーンコレクター」。それを超える作品かな?でも、題名を見る限りあまり面白く無さそう・・・などなど思いながら。
予想よりは面白かったけど、主人公の内面とか、心理面をもう少し掘り下げて書いて欲しかった。
最後を読むと、すこしホッとした気持ちにはなれますが、こういう終わり方だと、これからディーバーの小説を読む時は、最後を疑いながら?読みそうな・・・(笑
それと、題名にはもう少し捻りというか、これだ!というディーバーらしさが欲しかった。

ももか
3UKDKR1P
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ツイストは効いているけど

ディーヴァーが新しいヒーローを誕生させたノンシリーズ作品。ボディーガードのプロ対誘拐と拷問のプロの対決を描いた、サスペンスアクションである。
主人公コルティは連邦機関「戦略警護部」に所属する人身保護のプロ。対するのは、人間の弱みを突いてターゲットを追い詰める冷酷非情のハンターであるラヴィング。ラヴィングは、コルティの師匠を罠にかけて殺した因縁の敵でもある。この二人が、警護対象であるワシントンD.C.の刑事の一家を巡って壮絶な戦いを繰り広げることになる。
襲撃する者と守る者が、お互いに「裏の裏」を読みながら手に汗を握る追跡ゲームが展開されるのと同時に、刑事一家が狙われるのはなぜか、黒幕は誰なのかが、徐々に明らかにされるという、アクション部分とミステリー部分の両方が盛り込まれた欲張りな構成である。さらに、ディーヴァーお得意のどんでん返しが、これでもかと言わんばかりに出て来て、読み通すのに気力と体力の両方が必要だった。派手さはあるが、リンカーン・ライムシリーズほどの味わい深さを感じなかったのが残念。
主人公がボディーガードのプロだけに素材はいくらでも見つけられるので、評判が良ければシリーズ化されそうな作品だが、どうなるだろうか。

iisan
927253Y1

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