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(短編集)

間違いの悲劇



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【この小説が収録されている参考書籍】
間違いの悲劇 (創元推理文庫)

間違いの悲劇の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

結局“間違い”とはいったい何なのか?

1999年に刊行されたクイーンのシノプシス“Tragety Of Errors”と単行本未収録作品を集めた作品集。

まずノンシリーズ「動機」はアメリカの田舎町ノースフィールドで起きた17歳の少年の殺人事件を発端に、カフェの主人殺害、そして町の独裁者と呼ばれていた老婦人の殺人が立て続けに起きる。
訳も新しいせいなのか、クイーンの諸作の中ではヒロインのスージーと副保安官リンクとの掛け合いなど物語の部分に読み応えを感じる。

続くは「クイーン検察局」シリーズの未収録短編で「結婚記念日」、「オーストラリアから来たおじさん」、「トナカイの手がかり」の3編。
いずれも殺人事件が起き、3人の容疑者の中から犯人を絞り込むという推理クイズ形式になっている。

「結婚記念日」は毒殺された被害者が直後にエラリーに指し示したダイアモンドが示すダイイング・メッセージの意味から犯人を絞り込む物。
いくら宝石商だからとはいえ、死の間際でそんなことを思いつく被害者がいるものだろうか?

「オーストラリアから来たおじさん」は単純明確なミステリ。

「トナカイの手がかり」も英語圏の作品ならではの解法だ。

「クイーン検察局」の次はエラリー・クイーンが所属する「パズル・クラブ」を舞台にした短編群を収録。これはパズル・クラブの設定自身が大学のミステリ・クラブ活動を想起させる、純粋な推理クイズ物。

「三人の学生」は殺された教授の容疑者となった3人の学生から犯人を絞り込むという物。

「仲間はずれ」は3人の中から麻薬密売人を捜し出すという話。
この作品ではパズル・クラブのメンバーが案出した真相以外の第4の真相を逆にクラブ員たちに解かせている所に物語としての変奏曲であると感じた。

さてパズル・クラブシリーズ最後の作品は「正直な詐欺師」。
成功の見込みもないウラニウム探鉱に出資を募った山師が結局鉱泉を見つけられず、一銭も手元に残らなかったのになぜ出資者に出資金全てを返済できたのか?という謎。これは正直簡単だった。まさにクイズのために生み出されたシチュエーションだ。

そして本書の掉尾を飾るのが表題作「間違いの悲劇」。
シノプシスで掲載されたこの作品は物語の骨子だけの削ぎ落とした内容となっており、つまりエラリーの衒学趣味的な台詞や登場人物のやり取りがない、贅肉が全くない読み物なので純粋に作品の内容のみが描かれている。
しかし読後の余韻はなかなかに深く、最後のページに附されたフレデリック・ダネイからマンフレッド・リーへの作品の意図を記した手紙は作者が物語に内包したテーマを指示しており、明確になっている。
単純な事件ながら物語は二転三転、いやそれ以上の反転を繰り返す。
作中に打たれる事件のピリオドを作者はデッドエンド、つまり袋小路と称しているのだがこのデッドエンドが7回も登場する。つまり事件は7回行きづまり、そして解決するのだ。
しかし事件の真犯人は解ってしまった。最後の最後の土壇場になってエラリーは気付くが、私にはその前に示唆した犯人がなぜエラリーがこの男を選んだのか不思議だった。


本書は表題の未完成長編のシノプシスにクイーンの未収録短編作品も織り込んだ贅沢な一冊。解説にもあるが発表当時は本書がクイーン作品翻訳出版の最後の作品集とされたがその後論創社がクイーンのラジオドラマシリーズを次々と訳出し、現在でもまだクイーンの未発表作品の訳出は続いている。
しかしその一連の流れを作ったのはやはり本書が嚆矢だろう。

さてそんな作品集の始まりはノンシリーズの「動機」から始まる。
町の住民が次々と殺されるが犯人は一向に解らない。

その作品以降続くのは「クイーン検察局」シリーズの未収録短編と「パズル・クラブ」シリーズ。どちらも推理クイズと大差ない読者の挑戦状を挟んだ小編ばかりだが、全編通して多いのはダイイング・メッセージ物だということだ。
私はミステリ評論家がクイーンが特に好んだのがダイイング・メッセージという書評を読んでそれほど多いのかと腑に落ちない物を感じていたが、本書を読むと確かにクイーンはダイイング・メッセージがいかに好きだったのかが実感できた。玉石混交の感は否めないが、よくもまあこれほど考え付いた物だ。初期の頃から言葉遊びを嗜んでいたがダイイング・メッセージはこの趣味が高じた物なのだろう。

そして注目の表題作。これは前にも書いたがクイーンの代表作『~の悲劇』の題名を継ぐ作品だけあって、その真相は二転三転し、読者の予断を許さない。

往年の大女優の死は自殺か他殺か?

しかもその真相には後期クイーン問題も孕んでおり、読後の余韻は『九尾の猫』や『十日間の不思議』に似たものがある。
作品として完成していれば後期の代表作の1つになっていたのかもしれない。

本作の題名はバックが法律を素人ながらも勉強して得た生半可な法律知識が実は誤りだったことから来ている。
この悲劇をエラリーは間違いから起こった悲劇だと慨嘆する。

ただ私はこう思う。世の中の犯罪全てが間違いから起こった悲劇なのだと。
つまりこの題名は犯罪そのものが「間違いの悲劇」なのだという作者からのメッセージではないか?
この梗概はクイーン最後の長編『心地よく秘密めいた場所』の後に書かれたのだという。やはり一連の自作をもトリックに盛り込んだ『心地よく秘密めいた場所』は集大成的な要素を持っていながらもシリーズの最終作ではなかったのだ。

つまり彼らの代表作である悲劇四部作の名を冠した作品を最後にすることでシリーズを終えるべきだったのだろう。
犯罪を扱ったパズラーから始まったクイーンシリーズが最後に行き着くのはダネイからリーへの手紙にあるミステリの枠組みで今日の世界の狂気を描くという試みだ。一種のゲーム小説で始まったシリーズが最後に到達したのはやはり人間の、そして人間が形成する世界の歪みを告発することだった。本作は犯罪を題材にしてそれを生活の糧にしてきたクイーンの贖罪だったのかもしれない。

またよく考えてみると『~の悲劇』の題名がついた作品でエラリーが活躍するのは本作だけである。深みあるテーマとこの題名。もしシノプシスだけでなく、作品として完成していたら貴重な作品となっていただろう。

本書の巻末には実はこのシノプシスを基に有栖川有栖氏が小説化するという企画だったという解説がしたためられている。しかしそれは諸般の事情から適わなかったわけだが、その一部始終と本格ミステリ憧れの存在の遺作を手掛けるということの重圧と意欲、そしてそのための準備が語られており、それが逆にクイーンと云う作家の日本における地位の高さを意味している。
そんなクイーン作品も今や絶版の憂き目に遭っているのは何とも哀しい事実だ。

しかし一方で角川書店や東京創元社からは国名シリーズの新訳出版が続いているという嬉しい状況も見られる。
現在の第一線で活躍する本格ミステリ作家の尊敬止まないこの作家の作品が今後も彼らの作品からクイーンの諸作に容易に手を伸ばせるような状況が保たれることを望んで止まない。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

間違いの悲劇の感想

今年初読了のエラリー・クイーン。ほとんどがダイイングメッセージもの。自分はダイイングメッセージ系統はあまり好きではない(暗示めいた物は特に)が、それを綺麗に解き明かしてしまうのは爽快だった。

水生
89I2I7TQ

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