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楽園の眠り



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【この小説が収録されている参考書籍】
楽園の眠り
楽園の眠り (徳間文庫)

楽園の眠りの評価: 6.50/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.50pt

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No.1:
(5pt)
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大人とは単純に大きな人と云う意味でなし

馳星周版『マイン』。一人の幼児を巡って一人の女子高生と一人の刑事が追いつ追われつの攻防を繰り広げる。

まず主人公の刑事友定伸。
暗黒小説の雄、馳星周はただの刑事を主役にしない。悪徳警官と想像するのはたやすいが、主人公友定伸は妻に逃げられた就学前の幼い息子を持つ男で、わが子を虐待することに喜びを感じながら、それが発覚しないように恐れているという人格者と呼ぶには縁遠い唾棄すべき人物だ。

そしてもう1人の登場人物、女子高生の大原妙子は鹿児島出身で柔道をやっていた父親から抑圧と暴力を受け育った女子高生。一刻も早く家を飛び出したいと思っている。

そんな妙子と友定の息子雄介が出遭い、2人で暮らそうと逃げ始める。その失踪した息子を友定が捜すというのがこの物語だ。

つまり馳氏が刑事を主人公にしたのは悪徳警官物を書くわけでもなく、正義を司る刑事という職業の人間が児童を虐待しているというインパクトと児童虐待を知られないようにわが子を取り戻そうと奔走する男の物語を書くのに最も強い動機付けとして刑事と云う職業を選んだに過ぎない。どこまで逃げても追いかけてくる友定を警察官に設定することでわずかな手掛かりから痕跡を辿る術を心得ている人物となっており、それが故に全編に亘って繰り広げられる逃亡劇がジェットコースターサスペンスとなっているのだ。

友定はやがて援助交際をしている大原に近づくために出会い系サイトに登録して妙子とコンタクトを図る。しかし同じ子供を虐待して悩んでいる主婦とそのサイトで知り合い、あまりに似た境遇にのめり込んでいく。

中盤は友定と大原妙子のメールのやり取りと出会い系サイトにのめり込んでひたすらメッセージを取り交わすことがつらつらと続いていく。
一体この小説は何なんだ?という思いが強かった。

幼い子供を虐待するわ、出会い系サイトで主婦とのやり取りにのめり込んでいくわと30を過ぎた大人が、しかも刑事がやるにはなんとも幼くて途中でこんな話を読んでいる自分が情けなくなってきた。

更にその逃亡劇に絡むのが大原妙子の元恋人の知人ヒデこと谷村秀則とその元恋人高木優。谷村はクラブのDJでヤクの売人でもある。ヤクの売り上げが悪いとやくざに睨まれ、300万円を用意しなければ腎臓を売りにフィリピンへ飛ばされると窮地に陥っていた。高木優は元バンドのヴォーカルだが人気は下火でいつ事務所を解雇されるか解らない身だった。つまりお金に窮した2人が大原妙子の子供を利用して友定に身代金を要求する。

一方の友定には出会い系サイトで知り合った人妻加藤奈緒子が協力者となる。家を省みない夫、夜泣きする娘のダブルパンチで虐待を止められない女。

三者三様、いや四者四様の虐待の加害者と被害者の逃亡劇。やがて被害者もまた加害者になる。因果は巡る。

そんな話だからハッピーエンドなど望むべくもない。なんだかんだで虐待は繰り返されるのだ。
本書における最大の被害者は友定の息子雄介だろう。
なんとも報われない人生。これほど虐待を受けた雄介もまた成人すると途轍もない闇を抱えた虐待のモンスターになりうるのだ。

私も子を持つ親。子供に対しムカッと来ることもあり、実際に手を挙げることもあった。
それは行儀が悪かったり、云うことを聞かなかったり(指示を守らない)、他人に迷惑を掛けたりしたときだ。それはつまり己の意志に反することを子供をした時に怒りと云う感情が起こるのだが、それは大人である我々が今まで生きてきて確立された自我や道義を子供に押し付けようとし、それを子供が守らないことに対する反発心なのだと思う。
しかし子供も一人の人間だ。彼らには彼らの考えがあるし、それを聞く姿勢も大切だということを肝に銘じなければならない。もちろんそれが全て正しいことではないからこそ親は子供を躾けなければならないのだが、それを自身のエゴまで及ぶと本書の登場人物たちのようにもはや躾とは関係のない、どす黒い暴力と云う名の衝動に置き換わってしまう。
正直子育ては大変である。風貌は自分たちの生き写しのようだが、全く違う人間ということを理解しなければならない。
そしてやはり本書に登場する友定や奈緒子のように一方に子育てを押付けてはいけない。感情の箍が外れた時に感情を爆発させながらも止めてほしいと心の中では叫んでいるからだ。人間だから疲れている時や別の何かで感情を害している時に理不尽な怒りに駆られることもある。それを躾に転換して子供を叱るのではなく怒りをぶつける時に止めさせて子供を守る人が必要なのだ。
文字通り私も含め「大きい人」というだけの大人もいる。完璧な人格者などいない。だからこそ2人で助け合って生きていかねばならないのだ。
虐待をする大人、もしくはせざるを得ない状況や感情に陥る大人を否定するわけではない。私にもそんな一面があることは正直理解している。それを一歩踏み止まらせているのは妻の存在であり、自分の心の中にある一線を越えてはならないという自制心だ。
馳氏の作品は人がこの一線を踏み越えることを色んな状況や出来事を盛り込んで描いていく物語。今までの闇社会や道を外れた人々の世界を描いてきた作品とは違い、子育てと云う非常に身近な事柄を扱っているだけにここに登場する友定、奈緒子、大原妙子が隣人の誰か、いやいつかなり得る我々だということにうすら寒さを覚える。
児童虐待と云う今日的な社会問題を主軸に警察官と女子高生と云う我々の生活圏に近い人々の物語を書いた本書は馳氏にとって新たな挑戦だと云えよう。しかし人が1人も死なない初の馳作品なのに読後感の悪さは相変わらずだ。

本書の前に読んだ東野作品の『時生』のような親子の絆とは180°違う親子の関係に終始嫌悪感を拭えないが、実は本書の方が案外実際の親と子の関係に肉薄しているのかもしれない。
実にそれは哀しくて恐ろしいことなのだが。


▼以下、ネタバレ感想

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