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二百万ドルの死者



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二百万ドルの死者の評価: 3.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.00pt

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No.1:
(3pt)

クイーン名義が邪魔をした?

エラリイ・クイーンのノンシリーズ物。
ギャングの大物が遺した二百万ドルもの莫大な遺産を巡って遺産の相続人ミーロ・ハーハなる男を捜しにアメリカ、オランダ、スイス、オーストリアそしてチェコスロヴァキアと探索行が繰り広げられる。

痴呆症となりかつての鋭さの影すらも見えないほど落ちぶれたギャングのボス、バーニーの殺害事件はクイーンでは珍しく、犯罪の模様が書かれている。
本格ミステリ作家であることから倒叙物かと思っていたがさにあらず。これがエラリイ・クイーンの作品かと思うほど、冒頭の事件は全く謎がなく、エスピオナージュの風味を絡めた人探しのサスペンスだ。

したがって本作には全く探偵役による謎解きもない。純粋に遺産を巡ってミーロ・ハーハなる男を殺そうとする輩と政治的影響力のあるハーハを利用せんとする者達との思惑が交錯するサスペンスに終始する。

痴呆症でかつての冴えが成りを潜め、しかし二百万ドルもの莫大な遺産を持っているギャングのボスの遺産相続人から奪還する為に相続人を探し出し、暗殺しようとする企みがやがてチェコスロヴァキアの政敵同士の構想にまでに発展していく。
それはミーロ・ハーハという男がチェコスロヴァキア人でありながら第二次大戦中にドイツ軍に入り功を成した英雄で、しかもその父親ルドルフもまたかつて国で勢力を持ったカリスマ政治家。ミーロはその血を色濃く継いでおり、政界に乗り出すと現政権を揺るがす危険な存在だからだ。

しかしそんな彼もチェコスロヴァキアのザンダー警察長官に反乱分子の掃討作戦に利用され、クーデターを起こすことなく葬られてしまう。そしてミーロを殺そうと画策したバーニーの妻エステルもまた野望半ばで命を失い、エステルに命じられてミーロを追っていたスティーヴもまた政敵同士の紛争に巻き込まれ、再び故郷の地を踏むことはなくなってしまう。ミーロに関った人たちがそれぞれの思惑の中で命を失っていく。

先にも書いたが最後の最後まで全くどんでん返しや意外な犯人といったものはなく、それぞれの思惑が最後の舞台にて相対すると全くクイーンらしくない作品。

それもそのはずで、Wikipediaによれば本書はクイーン名義による別作家の手になる作品とのこと(ある筋の情報によればスティーヴン・マーロウという作家らしい)。だとするとこのロジックもトリックもない作品をどうしてクイーン名義で出版したのか、そちらの方に疑問が残る。

というのもミーロ・ハーハの追跡の道中でスティーヴとアンディのロングエーカー兄弟がオランダ、スイス、オーストリアで出会う人々との話も各章が短編の趣があり、長編でありながらも連作短編のようになっているのもクイーンというよりもこの手の手法を好んで使っていたウールリッチに近いからだ。さらに各地で起こる事件も解決がなされるわけでもなく、事実とスティーヴとアンディが訪れたことで起こることのみが語られ、置き去りにされる。

特にミーロの隠し子であるカトリナとその養父の爺さんの話はその後も語られるべきなのだが、最後にバーニーの遺産の行く末が語られる際にちらっと触れられるだけである。

これをクイーンの作品とするには作風の変化として受け入れるにしてもかなり違和感がある。逆になぜクイーンはこの作品を自身の名で出すことに承知したのだろうか。

クイーン作品として読むと鮮やかなロジックで解かれる本格ミステリを期待するせいで肩透かしを食らわされるが、通常のサスペンスとして読めば佳作と云える作品だろう。
ただやはりこの違和感は拭えない。作品としての正当な評価ではないだろうが、個人の感想なので感じるままに書いておこう。

Tetchy
WHOKS60S

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