スキン・コレクター
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種別
長編
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評判
スキン・コレクターの評価:
7.80/10点 レビュー 5件。 A ランク
スキン・コレクターの総合評価:
7.59/10点 レビュー 37件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1〜4 1/1ページ
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リンカーン・ライムシリーズ11作目で2016年版『このミス』第1位を獲得した作品である。
シリーズ10作目の『ゴースト・スナイパー』が初の圏外だったことでシリーズに翳りが見えたかと思えた矢先の1位獲得。俄然期待が高まった。
10作目という節目を終え、新たなシリーズの幕開けを意識したのか、本書は題名からも解るように1作目の『ボーン・コレクター』を意識しており、内容も同じくボーン・コレクター事件の影響を受けた犯人との戦いを描いている。まさに原点回帰の1作だ。
ボーン・コレクターは骨への執着が強い犯罪者だった。かつて楳図かずおのマンガでも嫌らしいのは骨の上についている肉で骨こそ美しいと述べていたが、本書のスキン・コレクターはその皮膚に執着する犯罪者だ。
さて今回の敵スキン・コレクターはなんと犯罪実話集でリンカーン・ライムについて語られたボーン・コレクター事件の項目を読み、ライムのことを熟知した敵だ。従って彼はライムが行うであろうことを想定して常にそれを出し抜く。そう、今回ライムチーム自身もまたこのスキン・コレクターの標的になっているのだ。
更に本書のテーマは毒殺である。
とにかくこのスキン・コレクター、色んな毒を駆使して被害者に襲い掛かる。
ドクゼリが採取されるシクトキシン、フグ毒のテトロドトキシン―なんとまだ治療薬がないらしい―、南米産の植物エンジェルストランペットから採れるブルグマンシア、ストリキニーネ、煙草にも含まれているニコチン、ヒ素、即死に至るホワイトコホシュという植物から採れる毒、致死量に達しなくても後遺症で精神障害と認知症を患うことになるトレメトール、タマゴテングダケという毒キノコから採取できるアマトキシンαアマニチン、ボツリヌス菌にアンチモン。
毒殺はジョン・ディクスン・カーなどが良く好んで使っていた殺害方法でつまり黄金時代のミステリの主要な殺人方法だったが。現代では廃れてしまっている。犯人がわざわざ毒殺に固執することにライム自身疑問を呈すが、私は逆にこの古典的な殺害方法を本書で用いたことで改めてディーヴァーが現代のシャーロック・ホームズシリーズと呼ばれているリンカーン・ライムシリーズの原点に回帰したことを示しているメッセージだと受け取った。
またスキン・コレクターが遺体に施す、もしくは施そうとしたメッセージもまた意味深だ。“the second”から始まり、その後“forty”、“17th”、“the six hundredth”と続く。それらは全て数を意味しているが、全くその関連性が見えない。ダイイングメッセージならぬ犯行声明であるが、これに加えて今回は各犯行現場の平面図が本書にはきちんと挿入されており、これらの趣向が本格ミステリ志向ど真ん中なのである。
さてこれらのお膳立てが整ったところでスキン・コレクターことビリー・ヘイヴンの<モディフィケーション計画>は決行へと向かう。
しかしミスリードさえも上回るリンカーン・ライムの洞察力。
しかしこれは読んでいるこちらもあまりに明敏過ぎて超天才型探偵を彷彿させて、逆に苦笑してしまうが、逆にライムはスキン・コレクターを欺く。
相変わらず怒濤のようにサプライズを仕掛けるディーヴァー。それはあまりに突飛すぎて、その場面に直面した瞬間は頭に「?」が飛び交い、理解に少々時間を要してしまう。そしてそれが本当に成り立っているのか、どうしても後でその場面を振り返る必要に駆られる。
そして本書が2016年版の『このミス』で第1位に輝いた理由が最後になって判明する。
さて今回も非常に複雑に入り組んだストーリー展開を我々読者にディーヴァーは提供してくれた。しかも2015年発表の本書では上に書いたようにかつての黄金時代のミステリを彷彿とさせる、暗号を思わせる犯罪者からのメッセージ、各種取り揃えた毒による毒殺という古典的な殺害方法といった本格ミステリ風味が前面に押し出されている。
更に昔から都市伝説のように云われていたNYの地下に網の目のように張り巡らされた地下通路を犯罪者スキン・コレクターが暗躍し、マスコミからアンダーグラウンド・マンと名付けられ、現代に甦ったオペラ座の怪人のような様相を呈している。
そしてこの“アンダーグラウンド”が民間武装組織といった米国内に数多あるテロ組織を暗示しており、彼らが掲げる白人原理主義は現在のトランプ大統領が掲げているメキシコとの国境の壁建設やイスラム教徒の入国制限といったような選民主義的主張を象徴しているようで現代に通じるものを感じる。
また本書では言葉遣いに対する描写が特に多いと感じた。ライムが“ルーキー”プラスキーにきちんとした云い回しを教えたり、ラテン語を駆使して会話を成立させたり、またアドバイザーとしてライムの捜査に協力するタトゥー・アーティストTT・ゴードンのきちんとした言葉遣い―タトゥー・アーティストはクライアントに一生残るメッセージを書かなければならないため、言葉にはかなり気を遣うそうだ―を褒めたりと折に触れ、言葉に対してライムがセンシティヴに振る舞うのが目に付いた。
更にはライムが字体の特徴についても得々と述べ、過去に脅迫状に使われていた字体から犯人を特定したエピソードまで披露されている。これはディーヴァー自身が作家として言葉の乱れを感じていることをライムに代弁させているのかもしれない。字体もまた小説の読み応えの印象を与えることで作者自身が興味を持っているのではないだろうか。
とまあ、本書もまたいつもの、いやそれ以上に様々な仕掛けを施し、読者の頭をそれこそ作者ディーヴァーが両手で掴んで前後左右へぐるぐる回しているかのような目まぐるしい展開を見せるのだが、エンタテインメントに徹しすぎて深みに欠けるように感じてしまう。
特に今私が連続して読んでいるコナリー作品に比べると、各登場人物が抱く心情に深みを感じないのだ。ボッシュの異常なまでの悪に対する執着、ハラーの何が何でも裁判に勝つためのがむしゃらさといったような灰汁の強さや登場人物たちがその選択をした、せざるを得なくなった性や背負った業というものを感じないのだ。
確かにディーヴァーの描くプロットは最後見事なまでに整然としたロジックの美しさを感じさせる。特に本書は全てが繋がり、最後の一滴まで飲み干せる美酒のようなそつのなさを感じさせるが、そこにコクを感じないのだ。
シリーズを重ねるうちに各登場人物たちが抱える問題やエゴなどがもっと前面に出てもいいのにそれがない、いや全くないわけではないが、しこりが残らない分、印象に残らない、それほど綺麗に物事が解決する、物語が完結するのである。
コナリー作品のように次はどんな風になるのだろうと読者が一種不安めいた感情を抱えて読み終わる危うさがないのだ。
これは全く以て私のディーヴァー作品を読む姿勢が間違っていると云えよう。ディーヴァー作品を読むには彼の作風を想定してそれに自分の頭を切り替えて読むべきなのだろう。だからディーヴァーにはディーヴァー作品の、コナリーにはコナリー作品の読み方をしないとこのような読後感に陥ってしまうのだ。
しかし『このミス』1位の作品は危険だ。どうしても期待値が高くなってしまい、感想も辛めになってしまう。もっと純粋に物語を愉しめるよう初心に戻った読み方をしなければと反省した次第だ。
いや、面白かったんですよ、ホントに。
▼以下、ネタバレ感想