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たこやき さんのレビュー一覧

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レビュー数159

全159件 21~40 2/8ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.139:
(8pt)

死者の声なき声の感想

ゲレオン・ラート警部の2作目です。映画女優が撮影中の事故で亡くなりますが、ありえないような事故に殺人を疑うラート警部はまたもや独断で捜査を始めます。他にも個人的に父親から頼まれた事件などでがんじがらめになっていくのですが、信頼する上司にも指摘されるように、スタンドプレー好きで協調性がなく、突っ走っては墓穴を掘るラート警部ですが、それはそれでとても個性的であり、その独自のこだわりが最後には事件を解決に導きます。あまり知る事のないナチ台頭前夜の時代であり、世の中が少しずつきな臭く変化していく様が背景にも描かれていて歴史的にも非常に読みごたえのある作品となっています。

無声映画からトーキーへと変わっていく過渡期であり、映画人達の葛藤のあますところなく描かれていて、そこを主題にした作者の上手さを存分に味わいえました。
ラート警部やまわりの人間関係、そして時代がどんな風に変化していくのか続きがとても楽しみな作品です。
死者の声なき声<上> (創元推理文庫)
フォルカー・クッチャー死者の声なき声 についてのレビュー
No.138: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

白雪姫には死んでもらうの感想

1作目の『深い瑕』が非常に良かったのでその続編にあたる本作も読んでみましたが、今回は歴史的な背景はなく閉鎖的な小さな村での愛想劇?が元になっています。
死体すら見つかっていないにもかかわらず、その殺人容疑で10年ほど服役した男が出所し父親の待つ村へ帰ってくるのですが、それまでも嫌がらせを受けていたのにより極端な村八分状態となっていきます。状況に耐えられず数年前に離婚した母親が歩道橋からつき落とされるという事件まで起こりますが、事件後に越してきた女子高生が主人公に共感を持ち事件を調べ始めます。

それにしても村全体が悪意の固まりのようで、ミステリーとしてはとても面白いもののあまり気持ちのいい読後感ではありませんでした。当事者だけでなくその親達もですが、ちょっと酷すぎる印象でした。まともな人はいないのか?と思わずにはいられません。

そんな中でもシリーズとしてのオリヴァーとピアの警察官コンビについては、家庭的にも色々問題が持ち上がって人間関係にも色んな変化があり、続きが非常に気になるところです。

白雪姫には死んでもらう (創元推理文庫)
No.137: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

スーツケースの中の少年の感想

旧友に頼まれて駅のコイロッカーへ荷物を取りに行った看護師のニーナ。大きなトランクには裸の男の子が入ってきた・・・と言う衝撃的な始まりです。何の説明も受けておらず途方に暮れるニーナですが、看護師をしながらボランティアで移民や難民の保護活動を続けているニーナは男の子を何とか守ろうと奔走します。

これが日本だと普通は即警察と言う話になるのですが、移民や難民の多い北欧ではその行きつく先が目に見えているニーナに警察に委ねると言う発想にはなりません。詳しい事情を聞こうと依頼された友人に会いにいくのですが、友人は殺されていて再び子どもを連れて彷徨うことになります。

読んでいてニーナの思い入れの強さに最初は少し驚きますが、ニーナの過去が最後に描かれ、ストンと心に落ちてきます。女性2人の共作ということですが、さすがに女性の心理に優れていて母親の大変さにはとても共感できました。また北欧を取り巻く東欧世界の現実がとてもリアルに描かれ、福祉国家と言われる国の違う一面を垣間見たような気がします。

解決までわずか一日半と言うスピーディーな展開で、飽きることなく一気に最後まで読んでしまいました。北欧の作品は本当にはずれが少なく、ほかの作品も是非翻訳して欲しいと思わせる作家さんでした。

スーツケースの中の少年 (講談社文庫)
No.136: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

最後の審判の感想

『罪の段階』ではサンフランシスコ郡の地裁判事として、『子供の眼』では敏腕弁護士として脇役にもかかわらずとても公正ですばらしい弁論を繰り広げていたキャロラインですが、今回は彼女が主役で前2作とはかなり趣が違っていますが、この物語が構成においても人物描写や内容においても一番良かった気がします。

過去の確執から20年間会うことがなかった父と異母姉夫婦。その娘であるブレットが恋人の殺人容疑で逮捕されます。連邦裁判所の判事に任命されようとしていた時、小さな町で長年判事を勤め名士として存在してきた父から姪の弁護を頼まれ、わだかまりを胸に抱いたままニューハンプシャーの故郷に帰郷します。姪はお酒とマリファナで酩酊状態で警察に保護されるのですが、目撃者もなく新たな証人も現れ窮地に陥っていきます。

予審でのやりとりは、司法制度の違うアメリカとの違いをまざまざと感じます。前作でも思いましたが真相を明らかにするものではなくいかに相手の論証の弱点を責めていくかが焦点で、被告が実際に罪を犯しているのかどうかよりも、いかに決定的な証拠を排除するかと言うことに重点があって、検察とのやりとりは非常に面白いです。日本人からすれば相手の揚げ足取りに終始しているようにも思えますが、自白ばかりに頼り録音もさせず、何日も拘留を可能にする日本の司法制度は問題だらけとしか思えません。

キャロラインも最初は姪の有罪を心の中では確信していたにも関わらず、家族との確執や過去のいきさつなどからなかなか客観的になれず、自ら法を犯すことまでしてしまいますが、母の死や家族との訣別を描いた過去の話の挿入が物語を引き締め、タイトルに相応しく最後は圧巻でした。事件を通して描かれる親子の確執は非常に読みごたえがあり、キャロラインの潔さがとても引き立っていました。


最後の審判〈上〉 (新潮文庫)
No.135: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ラスト・チャイルドの感想

双子の妹アリッサが誘拐されて1年、父親は家族を捨てて失踪し、美しかった母親は酒と薬に溺れ地元の実業家にいいようにされている中で、双子の片割れ(ラスト・チャイルド)のジョニーはアリッサを探すために学校をさぼり、友人のジャックと危険な調査を続けている。
母親の美しさゆえか、担当の刑事ハントも多くの事件を抱えながらもこの誘拐事件から距離を置くことができず妻に去られてしまいます。
そんな時に殺人事件の目撃者となってしまったジョニーは、被害者が死ぬ直前に『あの少女を見つけた』と言う言葉を聞いたところから事件が大きく動き始めます。新たな誘拐事件や脱走囚フリーマントルとの出会いなど、偶然にも導かれジョニーの執念は実を結ぶのですが、真相は意外な結末となります。

家族の崩壊や再生をモチーフに描くことの多い作者ですが、『アイアンハウス』のような極め付けの悲惨さとは違い、未来にも希望が持てる終わり方で、ミステリーとしての意外性も面白く読みごたえがありました。
かなり偶然に彩られた感はありますが、3つの家族の関係を横軸にとても上手くまとめられていると思います。
親の在り様とはどういうものであるべきなのか非常に考えさせられました。
フリーマントルの『子どもは天からの授かりものだ』と言う言葉がとても心に響く作品でした。
ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン・ハートラスト・チャイルド についてのレビュー
No.134: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

夏を殺す少女の感想

マンホールに落ちて死んだ医者の事故に関わる事になった弁護士のエヴェリーンと、もう一方精神病院で自殺した若い女性の捜査に赴く捜査官のヴァルター。オーストリアとドイツ、遠く離れた別々の国で起った出来事だったのが、その死に違和感を感じ他殺ではないかと疑問を感じそれぞれが真相をさぐるべく個々に突っ走っていきます。やがて二人が交差し忌まわしい過去が浮かび上がってくるのですが、非常にスピード感のある展開で最後まで一気に読みました。

殺された少女たちと似たような辛い経験を持つエヴェリーンが何かにつき動かされるように事件にのめりこんでいくのはちょっと痛々しいですが、ヴァルターの方は今は閑職ではあり捜査からはずされたものの、刑事らしい正義感で同じように自殺にみせかけて殺された少女が他にもいることをつきとめていきます。

それにしてもヨーロッパは文化も経済も違う国々が隣接する地続きの地域なのだと改めて感じました。
真相はおぞましいのですが、最後は明るいエピソードで終わり読後感はとてもよかったです。


夏を殺す少女 (創元推理文庫)
アンドレアス・グルーバー夏を殺す少女 についてのレビュー
No.133: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

警官の血の感想

終戦後の混乱期に警察官となった清二から息子民雄、孫の和也と三代にわたる警察官の重厚な物語です。
昭和の時代の移り変わりが目に浮かぶようです。
警察と言う組織の本質を深くえぐる作品ではないでしょうか。

誠実な町の警察官であったのに謎の死をとげる清二。父のような駐在所の警官を目指していたにもかかわらず、学生運動全盛の時期と重なり公安のスパイとして大学へいき、何年もスパイとして過ごすうち次第に心を病んでいく民雄。妻に対して暴力をふるっていた父とは距離を置いていたのに結局は同じ警察官となり祖父の死の真相を、半ば利用しながらしたたかな刑事となる和也。

巨悪を暴くために小さな悪はどこまで許されるのか・・・なんてわかりませんが、現実にも裏金の不祥事などが新聞を賑わすと、それ私達の税金なのに・・・と思わずにはいられません。

常に組織が優先される社会は日本の特徴で、外国にくらべれば治安がいいのは間違いないのですが、取り調べの可視化とか代用監獄の問題とか先進国から非難されるようなことを変えることで、もっと信頼度があがるのではないの?と思わずにはいられません。
外国の小説を読んでいると(特にヨーロッパ)個人の判断ではなく常に組織の都合が優先される日本の警察の体質が浮き彫りになってきて、そういう雰囲気を非常に上手く、またリアルに小説に盛り込んでおられるなと思いました。

警官の血〈上〉 (新潮文庫)
佐々木譲警官の血 についてのレビュー
No.132: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

蛇の形の感想

上手い!とうなってしまいました。
同じ通りに暮らす一人暮らしの黒人女性が、道端に倒れているところに遭遇するのですが、言葉も交わさぬまま亡くなってしまいます。人嫌いで全く交流もなかった女性でしたが、自分が何故殺されなければならないのか・・・と言う無言のメッセージを感じとり警察にも訴えるものの、結局交通事故として処理されてしまいます。
それから20年後、執念とも思える調査ののち、彼女を殺した犯人を告発する主人公のM・ライラ。

親しい友人だったわけでもないのに何故そこまで?と最初は思うのですが、読み進めるうちに明らかになっていきます。過去の手紙や報告書が現在の話の中に挿入されていて、構成もすばらしいのですが、何より人物描写がすばらしい。

虐待する側される側、差別する側とされる側、親子や夫婦の葛藤、社会的弱者でありながら、より立場の弱い者への攻撃や偏見がなくならないのは何故なのか、支配的な母と子の対比が色んな親子の場合としてあますことなく描かれていて、深く考えさせられました。『親』になることの難しさを改めて実感しました。

爽やかとはちょっと違いますが、ミセスライラが自分の人生を取り戻し再生していく過程は読みごたえがあり、最後の手紙には非常に感動しました。
蛇の形 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ蛇の形 についてのレビュー
No.131:
(8pt)

鉄の枷の感想

『遮断地区』が非常によかったので、別の作品もと手に取った『鉄の枷』
小さな村で暮らす一人の老婦人が自宅の浴槽で遺体となって発見されます。手首を切り自殺かと思われるものの、頭には口うるさい女に嵌める拷問具?のスコウルズ・ブライドルが嵌められており、そこには野菊や刺草などが飾られていたことから、主治医であるセアラ、担当の刑事のクーパーが他殺ではないかと疑問を感じるのですが、実の娘や孫ではなく遺産相続人に他人であるセアラが指定されていたことから、否応なく事件に巻き込まれていきます。

イギリスは今も上流階級という感覚が残っていて、ヨーロッパあたりではその上流階級での躾としての虐待と言うのはよく聞く話ですが、それにしても想像もつかないような拷問道具があるもので、愕然とさせられます。
かくあるべきと言う体裁を保つためには個々の人権などありえないような上流社会の有様には驚きますが、何よりもその犠牲となる弱者である女性の不遇をまざまざと感じられる物語でした。

虐待の連鎖とでもいうようなマチルダ、ジェイン、ルースの三世代の親子、孫。
気が重くなるような話なのですが、非常に筆力のある作者で個々の人物描写が抜群に上手いし、それなりに救いのある結末で、シェイクスピアの作品とマチルダの日記を巧みに取り入れながら話が展開していきます。
特に女性の葛藤を描くのがすごく上手いですね。

虐待の報道が日々新聞を賑わす日本でも、もう少し色んな面で母親を支えるシステムがあればあんな悲劇は起こらないのではないかと思わずにいられません。



鉄の枷 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ鉄の枷 についてのレビュー
No.130: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

KGBから来た男の感想

ソ連(今はロシア)の壮絶な歴史が垣間見られます。
スターリンの時代の狂気じみた大粛清はまさに理屈も何もなくただただ酷い歴史だと思いますが、その犠牲となり、のちに語学堪能と言うことでKGBにスカウトされ、ソヴィエトの崩壊とともにKGBをやめ、アメリカに移り住んでいるターボと言う調査員が主人公の物語です。

誘拐された娘を取り戻してほしいと言う依頼からKGB時代の陰謀に至る過程は非常に面白く、それまで20年も関わりのなかったロシアでの人間関係が、ニューヨークで再び絡むことでロシアの暗部に迫っていきます。
民主国家?となった今のロシアですが、どこの国でも権力を持つものにまつわる闇は酷いものばかりで、フィクションとはいえ、ありえそうな話で怖いです。強制収容所については事実をもとに描かれているのですが、同じ国の人間に対してあそこまで酷い仕打ちができるものかと思わずにはいられません。

ターボの父親については今回はまだ真相がはっきりしていない中途半端な終わり方でしたが、すでに次作が書かれているようなので、翻訳されるのが楽しみです。

しかし、アメリカでは本当にあんなに簡単に個人情報がばれてしまうんでしょうか?
ネット社会だからありえない事ではないんでしょうが、マイナンバーなんかできたらまさにそんな事になりそうでそちらはもっと怖いです。
KGBから来た男 (ハヤカワ文庫 NV タ 6-1)
デイヴィッド・ダフィKGBから来た男 についてのレビュー
No.129: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

遮断地区の感想

たまたまの偶然がいくつも重なって起きていく負の連鎖。
格差が激しく、その最下層に位置する社会的弱者が暮らす公営団地で、一つの噂が独り歩きしやがて恐ろしい暴動に発展していくという怖い物語でした。
しかし、そこに至る過程が非常に緻密に描かれていて、群集心理とでもいうのか一旦動き出すと止めることのできない負のエネルギーは傍観者でいることを許されなくなっていきます。

機能不全の家族ばかりが登場しますが、他人事とは思えないほどのリアルさです。一角に押し込められた公営団地と言うのは日本にはまだあまり見受けられないとは思いますが、社会への不満や苛立ち、嫉妬や妬みと言った感情から、その不満を解消するためもっともらしいこじつけの理由をつけてより弱い立場の人への攻撃となっていく例は昨今の過激なヘイトスピーチだけでなく一杯あるような気がします。

その人の心持ちによっても大きく変る家族観。フェイ・ボールドウィンにとってはろくでなしの親であるメラニーですが、医師のソフィーから見れば上流社会に生きる人たちよりよほど健全にみえていて、人の評価や価値観は決して一つでないことがよくわかります。
しかしこのフェイと言う保健師さん、こう言う人当たり前のように一杯いそうな気がします。
世界中が病んでいるんだなと少しくらい気持ちにもなりますが、ジミーのような存在も必ずいるはずで、全く救いのない物語とも違います。

ミステリーとは少し違いますが、先が気になり読むのをやめることができなくなりました。
初めての作家さんなんですが、ほかの作品も読んでみたいと思わせる話でした。
遮断地区 (創元推理文庫)
ミネット・ウォルターズ遮断地区 についてのレビュー
No.128:
(7pt)

宰領 隠蔽捜査5の感想

竜崎さんのようなキャリアがいれば、もう少し世の中マシになるのに・・・と思いつつ読みました。
くだらない上下関係やメンツにこだわらない、息子が悪い道にはまりかけても隠さない。
出世欲の固まりばかりのようなキャリアの中で、ひたすら爽やかに感じます。

ですが、現実にはこんな人いないでしょう・・・。新聞やテレビのニュースを賑わすのは全く逆の信頼を損ねるようなことばかりで、読んでスッキリするもののリアリティには欠けてしまいます。
せっかく出世にこだわらない竜崎さんですから、もっと大きな権力と対決してほしいですね。
宰領: 隠蔽捜査5
今野敏宰領 隠蔽捜査5 についてのレビュー
No.127: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

人質の感想

道警シリーズが割と好きでずっと読んできましたが、権力との直接対決ではないので、物足りなさを感じる方もいるようですが、色々な問題が盛り込まれていて、私はそれなりに楽しめました。

冤罪の問題は小説だけじゃなく現実でも新聞をあれこれ賑わしていて、真摯に謝罪してもらいたいと思う中島の気持ちは当然だと思います。間違ったことをした時には潔く謝罪するほうがよほど信頼を回復する早道だと思うのに権力を持つ人ほど、どうにかしてそれから逃れようとするのはどうしてなんでしょうね。

そんな指導者達を見て、子ども達が正しい事を学べるとは到底思えません。責任逃れ、責任転嫁・・・まずは指導すべき立場の人たちが変らなければ根本的には何も良くならないのではと切実に思います。
当たり前の事ができない大人ばかりに、未来をまかせてしまっているのでは・・・と言う危機感をとても強く感じる作品でした。


人質
佐々木譲人質 についてのレビュー
No.126: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

湿地の感想

率直に言うと、とても暗く重い物語です。
派手な連続殺人でもなんでもなく、ましてや殺人事件そのものも非常に稀?な国であるアイスランド。
北欧であることは知っていましたが、ほかの4か国とは離れて海の中にポツンとあるのですが、アイスランドのイメージと言えば原子力や火力の力に頼らない自然エネルギーの国、人権意識の高い国と言うイメージなのですが、こんなに雨ばかり降る国だというのは読んで初めて知りました。解説にもあったように快晴の日が珍しいゆえに、たまに快晴の日があるとそれを理由に会社が休みになるというところはなんともユニークです。

湿地の上に建てられた半地下のアパートで一人の老人が殺されます。典型的な物取りの犯行かと思われたものの残されていたメッセージから、少しずつ真相がわかってきます。
被害者の立場からはなかなか言い出せない女性の悲劇。取り調べや裁判そのものがセカンドレイプであるのはどこの国でもそう違いがないのではないでしょうか?
人権先進国である北欧でも例外ではないのだと改めて感じました。日本でも不当に刑が軽いと感じるのは私だけではないのではないかと思います。

もうひとつ北欧などのサスペンスを読んで感じることの一つに警察の在り様の違いです。家族の崩壊は日本でもありがちな話ですが、娘が麻薬常習者であったり、息子が犯罪者であったりしてもそのことが警察官としての地位を脅かさないあたりは日本とは大きく違いますね。
組織や家族を重視する日本は、まだまだ遅れているのだなと思いました。

結末もあまり救いがなくとても暗い話ですが、文章は簡潔でとても上手い思いました。
どうにもならない娘との関係は今後どうなるのかとても気になるところです。
湿地 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン湿地 についてのレビュー
No.125: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

特捜部Q カルテ番号64の感想

楽しみにしていた特捜部Qの最新作。
今回はローセが選んできた23年前の失踪事件を追う物語です。
相変わらず超個性的な3人組は健在で、しかもカールのトラウマとなっているアマー島の事件にも新しい証拠が出てきて、せっかくモーナと上手くいきかけているのに事件から離れることができません。
カール自身が言っているように読んでいても全くわからないアサドの過去は謎が深まるばかり。

失踪事件は、実際にあった事実をもとに国家的犯罪ともいえる選民主義を実にうまくフィクションに取り入れています。とんでもなく酷い話なのですが、現実にはデンマークでも極右政党が支持されたりしていて、作者が伝えたい事を多くの人に感じ取ってもらいたいと思わずにはいられません。

日本は島国であったり長かった鎖国時代のなごりもあってヨーロッパほど移民の問題は切実ではないものの昨今の政治家の発言や、あからさまなヘイトスピーチがニュースになったりと他人事とは思えません。
世界的にも景気が悪くなるとこんな風にどこもが殺伐としてくるのでしょうか。
より良い社会のためには過去の反省をおざなりにしてはいけないのにと思ってしまいます。

転んでもただでは起きない脇役たちも健在で、シリーズでは10作の予定とありましたが、続きが出るのが待ち遠しいです。
特捜部Q―カルテ番号64―(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.124:
(5pt)

報復、それからの感想

どんな結末になるのかと期待していたのですが、どうも釈然としない結末となりました。
これはまだ続きがあると言うことなんでしょうか?

キューピットの事件からは約10年後、メインの登場人物が変っています。前2作でも登場していたマイアミ市警察のマニーと若き検察官ダリア。
常に何かに怯え暗いC・Jと違い、明るく前向きなダリア。ちょっと屈折した親子関係と母親との確執なんかもあるのですが、新たに起こった猟奇殺人の捜査にあたるのですがこのデコボココンビがなかなか良くてC・Jのマイナス思考ばかりめだった前2作より読みやすく、また途中からは主役のC・Jも登場して非常に面白い展開となっていきます。

なのにあの結末はないんじゃないの・・・と思ってしまいました。

▼以下、ネタバレ感想
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報復、それから (ヴィレッジブックス)
ジリアン・ホフマン報復、それから についてのレビュー
No.123: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

報復ふたたびの感想

過去に自分をどん底に突き落とした男を、永遠に出ることのできない刑務所に送り込んだものの、法律家として犯してはならない事をしてしまったC・Jは罪悪感にさいなまれながらも、初めて心を許すことができるようになったドミニクと安定した生活を送っていたのですが、パトロール警察官が殺されたところから再び悪夢が始まります。

違法なやり方で車を止め捕まえた猟奇殺人の犯人でしたが、それを知っていた犯人が次々と殺されていきます。汚職警官として麻薬とも関わりがあったことから、捜査する同僚達は地元のギャングや組織をマークするのですが、C・Jは、今刑務所にいる犯人の死刑を覆させないため、猟奇殺人の真犯人のしわざではないかと疑い始めます。

同じように良心の呵責に耐えられない弁護士のルビオは遠くでひっそり暮らしていたのですが、葛藤の末、現在のキューピットの弁護士に宣誓供述書を送り、再審が開始されてしまいます。

正義とは何だろうと考えさせられました。C・Jの苦悩は痛々しいし、当事者ですから当たり前なのですが、それでもやはりルビオの方に共感してしまいます。一度嘘をついてしまうと、またそれがばれないように嘘に嘘を重ねていくことになってしまいます。

私自身がそれぞれの立場だったらどうするだろうと改めて考えてしまいました。
報復ふたたび (ヴィレッジブックス)
ジリアン・ホフマン報復ふたたび についてのレビュー
No.122: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

報復の感想

完結編?と思われる『報復 それから』が出版されていたのでもう一度最初から読んでみました。
とてつもなく怖い話です。主人公のC・Jはマイアミで重大犯罪の検察官をしていて、そこで1年近く続く女性の猟奇殺人事件を担当しているのですが、たまたまパトロール中に止められた車のトランクから10人目の犠牲者の死体が出てきて、連続殺人犯として捕まります。初めての罪状認否の法廷で自分の無実を訴える容疑者の声を聞いて、C・Jの悪夢が再び始まります。
12年前ニューヨークにいた頃、誰ともわからない覆面をかぶった男に凌辱・暴行され癒えることのない傷を負わされていたのですが、その時の犯人がその容疑者だったからです。

状況証拠はあるものの決定的な証拠がないままなんとか過去の事件で訴追しようとするのですが、殺人事件以外は時効?があるのかどんなに頑張っても過去の事件で有罪にすることができないのです。

どこの国でもそうだろうと思いますが、裁判において被告との利益相反がある場合は当然その役目からおりなければならないのですが、C・Jはそれを隠したまま犯人を死刑にするべく奔走しますが、逮捕された経緯が正当性のあるものではなかったことから、それも隠蔽してしまったことでどんどん窮地に陥っていきます。

それにしても追い詰められた女性の心理描写がピリピリ伝わってきます。
レイプと言うのは日本でもそうですが、思いのほか量刑が軽い気がします。被害者の心の傷が永遠になくならないということを考えても、セカンドレイプと言われる裁判のことを考えても、もう少し女性の気持ちを考慮していくべきなんじゃないかと思ってしまいます。

しかし、彼女の心の傷はともかくも事実を捻じ曲げることが本当に正しいことなのかどうか、弁護士のルビオの葛藤にもとても共感できます。読者とC・Jには真犯人が別にいるのではないかという疑問が出てくるのですが、物語の結末がどうなるのかと一気に読んでしまいました。



報復 (ヴィレッジブックス)
ジリアン・ホフマン報復 についてのレビュー
No.121: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

龍の契りの感想

以前読んだものをもう一度読み返してみたが、以前とはかなり違う印象を受けました。
エンターテイメントとしては非常に上手く、かなりの長さにもかかわらず最後まで楽しませてもらいましたが、今の世界や、外交官の描写などがあまりにも現実とかけ離れていて偶然の出来事も出きすぎ感があり、映画用の脚本ならば納得できるかといったところです。

1997年の香港返還にまつわる密約の物語ですが、今の日本と中国の関係をみているとおとぎ話のようにさえ感じます。

龍の契り (新潮文庫)
服部真澄龍の契り についてのレビュー
No.120: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

64(ロクヨン)の感想

フィクションでありながら、これほどリアルに警察の世界を描ける方は少ないのではないでしょうか。
花形である刑事ではなく広報官という一般市民にはあまりなじみのない主人公ですが警察機構の中での部署の違いや、キャリア・ノンキャリアの違い、地本と中央、そしてマスコミと役所と言った対立の構図と、それぞれの葛藤や立場の主張があますところなく盛り込まれて非常に読み応えのある物語でした。

物語の本筋ではないものの、匿名報道についてのマスコミと警察側のやりとりは特に考えさせられました。
どちらの言い分にもそれぞれうなずけるものがあり、事件の報道の難しさを感じました。


▼以下、ネタバレ感想
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64(ロクヨン) 上 (文春文庫)
横山秀夫64(ロクヨン) についてのレビュー