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たこやき さんのレビュー一覧

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レビュー数159

全159件 41~60 3/8ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.119: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ラスト・グッドマンの感想

結論から言ってしまうとミステリーとは少し違うかもしれません。
キリスト教的?世界観と言うか、ちょっとオカルト的と言うか、かなり読む人によっては好き嫌いがあるのではと思いました。

世界中のあちこちで謎の死をとげている21人の善良な人々。その謎の多くを解明しなんとか真相にせまろうとしているヴェネチアの警察官のトンマーゾ。それぞれの死者には背中に共通の傷跡があり殺人者をつきとめようとするのですが、上司の理解を得られず休職を余儀なくされ、仕方なく次に起こるであろうコペンハーゲンの警察に協力を求めます。
コペンハーゲンの警察官ニールスは上司から善良な人々へ注意を促す役割を与えられますが、その過程で知り合った天体物理学者のハナとともに、謎の死にまつわる共通点を検討しながら真相に近づいていきます。

日本人の感覚では西洋の宗教観やはりしっくりこないと言うか、かなり現実離れしている話なのでまっとうなミステリーが好みの方には向きませんが、物語の構成は非常に上手く、なんとなく筋道は見えてくるものの、結末が気になり最後まで読まずにはいられませんでした。

ラスト・グッドマン (下) (ハヤカワ文庫 NV)
A・J・カジンスキーラスト・グッドマン についてのレビュー
No.118: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

赤い夏の日の感想

1作目の『オーロラの向こう側』に続いてレベッカのシリーズ2作目です。
1作目は特に感じたのですが、翻訳の仕方のせいかもしれませんが、1人称だか3人称だかわかりづらい文章でいまひとつ感情移入ができず、またキリスト教にありがちな閉鎖的な田舎の物語とあって、不完全燃焼のまま読了しました。
2作目は心の傷の癒えないレベッカは直接の関係はないものの、人物描写が丁寧になり閉鎖的な社会で生きる人々の苦悩が非常に身近なものに感じられました。

北欧と言うとどうしても非常にリベラルなイメージを持ってしまうのですが、世界中どこの社会でも同じような葛藤が存在するのだと改めて思いました。キリスト教の世界だけでなく障害を持つ子どもたちの親やDVの問題、ひずみはいつも弱者へとしわ寄せが行ってしまうと言う悪循環。
事件は解決するものの救いのない結末は辛いものがあります。

出産休暇中のアンナ・マリア警部の日常が非常にリアルで働くお母さん達は非常に共感できるのではないでしょうか。
主人公のレベッカは踏んだり蹴ったりですが、まだシリーズが続くようなのでこれからどんな風に立ち直っていくのか、変化していくのかも気になるところです。
赤い夏の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
オーサ・ラーソン赤い夏の日 についてのレビュー
No.117: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

スケアクロウの感想

ハリーボッシュの物語にいまいちなじめなかったので、どんな話だろうと思っていましたが、こちらの方はなかなか読みごたえのあるミステリーでした。報酬がそれなりに高額であるがゆえにリストラされてしまう新聞記者のジャック・マカヴォイが主人公です。

犯人はネット世界を自在にあやつれるある種の天才で、犯人側の一人称が何章かごとに出てくるので読者には早いうちに犯人がわかってしまうのですが、それでも少しずつ犯人に近づいていく様子は非常に面白いです。サブキャラとしてFBIの捜査官であるレイチェルが唐突に出てくるものの、前作を読んでいなくても全く違和感なく読み進められます。

サイコな犯人を追いつめていく内容もさることながら、何よりもアメリカにおける新聞業界の苦境がけっこうリアルに伝わってきます。日本のような販売店からの宅配制度のないアメリカでは紙媒体の後退は相当深刻なものだと感じられます。経営がなりたたずグローバル企業に買収されることで本当のジャーナリズムから遠ざかってしまうと言う悪循環。

権力に都合のいい情報だけがテレビや新聞で大量に流されると言うのは日本も全く同じ状況で、物語のなかで『究極のジャーナリズムは大統領を引きずりおろす事』と言うようなことが書かれていましたが、グーグルやマイクロソフト、アップルなどがこの犯人にように、国に協力して他人のプライバシーを提供するような時代に、そんなことは現実には起こりえないのではないかと思えます。

シリーズではないのでしょうが、ジャーナリストであるマカヴォイが殺人犯ではなく巨悪の権力に対抗してくれるような続きがあればいいなと思いました。


スケアクロウ(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリースケアクロウ についてのレビュー
No.116: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ナイト・ストームの感想

読み始めた時は30代だったヴィクもついに私と同世代の50代に。ストリートファイターもさすがに以前のような肉体的なキレはなくなってきたものの、輝けるおばちゃんの星(彼氏もいるんですからおばちゃんは失礼か!)健在です。
従妹のペトラからのSOSでティーンエイジャーを探しに出かけ、死体を発見してしまうところから物語が始まるのですが、今回も、永遠になくならないかと思われる人種差別(今回はユダヤ人差別)の問題が横たわっていて、第二次大戦下のユダヤ人の悲劇がクローズアップされていきます。

それにしても言論の自由とはなんだろう?と考えさせられてしまいました。ウェイドのようなテレビタレントが嘘八百や人種差別的な発言をあからさまにテレビで放映させるのが、果たして言論の自由と言えるのでしょうか?
最近の我が国を見ても、言論の自由を盾に聞くに堪えないような言葉を使って平気で街をねり歩く輩がいるのですが、人権意識の高いヨーロッパんどではこう言った人種差別的な発言は当たり前の事として取り締まられます。
日本もアメリカも人権意識の低い国だと宣伝しているようなものですね。

物語は、いつものようにヴィクが危険に陥りながらも胸のすくような解決を果たし、気分爽快なのですが、現実のアメリカはリベラルと言われたオバマが、多くの国を盗聴することを容認していたことで今後どうなっていくのか気になるところです。(盗聴されていたとわかってもろくろく抗議もできない日本は論外ですが)

物語が非常に面白かった半面、本当の正義や個人の自由、と言うのがフィクションの世界だけになっていってしまうのではないかと、選挙を前にして考えさせられる作品となりました。

ナイト・ストーム〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (V・I・ウォーショースキー)
サラ・パレツキーナイト・ストーム についてのレビュー
No.115:
(6pt)

アリバイのAの感想

アメリカでは珍しい女性探偵のシリーズ第1作目。
こちらは西海岸カリフォルニアの物語ですが、女性の探偵と言えばつい、V・I・ウォーショースキーと比べてしまいます。
事件そのものがかなり個人的なものであるのに加え、先にあちらの過激な物語を読んでしまった後では、少し物足りなさを感じてしまいます。
まだ1作目なのでそれほど際立った個性も感じられませんが、ミステリーとしての構成は面白く登場人物と同じ視点で推理していく面白さはあります。もう少し西海岸の描写があればいいのですが、きれいなところばかりで少しリアリティーに欠ける気がしました。




アリバイのA (ハヤカワ・ミステリ文庫)
スー・グラフトンアリバイのA についてのレビュー
No.114:
(8pt)

サクリファイスの感想

10歳にも満たない男の子が自分の弟や里親の子どもを殺してしまうと言うショッキングな事件。
しかし男の子は自分のした事を全く覚えておらず、バークの仲間や精神科医にゆだねられ守られて、虐待の被害者でもあると言うことがわかってくる。
それにしてもフィクションだとわかっていても目を背けたくなるほどの凄まじいほどの虐待の描写。
しかし、日本の10倍以上はあると言われる虐待件数を考えた時、あながち嘘ではないのではないかと思える。また虐待された子どもを守るため実際に弁護士をしている作者の事を考えると、どれだけ奔走してもいっこうに減っていかない現実に作者の願望が含まれているのではと思えてしまう。

虐待された子どもがやがて怪物へと変っていく連鎖はとぎれることなく悪循環となって続いていくことの現実を作者は誰よりも実感しているのではないだろうか。

同じように子どもの虐待をテーマにした天童荒太氏の『永遠の仔』も凄まじいものがあったが、結末にはまだいくらか救いがあったような気がする。しかしバークの物語には救いがない。ルークと同じようなバーク自身の救い難い子ども時代を考えると、そう言った悪人を狩り続けることでしか生きられない悲哀を感じてしまう。それでも兄弟と呼ぶ信頼できる仲間達が存在することで、なんとか自分を保っているのではないだろうか。

日本でも最近は頻繁に虐待死のニュースを見るが、少子化を憂えているくせに福祉を切り捨てようとする政治家達や世間の風潮を見ていると、そう遠くない将来アメリカと同じような現実がやってくるのではないかと思えてならない。
サクリファイス (Hayakawa Novels)
アンドリュー・ヴァクスサクリファイス についてのレビュー
No.113: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ハード・キャンディの感想

シリーズを順に読んでくると独立した物語と言うよりはかなり続き物の雰囲気が漂います。
劇画的なところは相変わらずですが、ついつい読んでしまうと言うよな中毒的な作品かもしれません。
まっとうな方法でなくアウトローな存在が悪を葬ると言うのは非常にアメリカ的と言うか、司法機関や国そのものを全く信頼できないと言ったあたりは、案外現実のものではないかとさえ思えます。
あらゆることがお金でしか解決できないような現実は、今の世界を反映しているとしか思えなくなります。

アメリカの子どもの5人に1人が精神疾患と言うようなニュースを見ていたりすると、ヴァクスの作品が多くの人たちに受け入れられているのもわかるような気がしました。
ハード・キャンディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.112:
(8pt)

あどけない殺人の感想

現実にも何度も起こっている学校での銃の乱射事件を題材に、違った視点で描かれたミステリーです。
犯人として捕まってしまった保安官の息子。主人公で保安官補のレイニーと似たような学校での事件を追いかけているFBIプロファイラーのクインシーは、調べていくうちに別の真犯人の存在を考え始めます。

現実の世界では別の犯人などはあまりありえないのですが、そこに至る過程や、心に傷を持つメインキャストの心理描写が実に巧みで、特に子ども時代に虐待を受けていたレイニーが、自分自身を信じることができなかったり、自己評価が異常に低かったりと言うあたりはとても上手く描かれているように思います。

事件そのものとは別に登場人物の人間関係にかなり重点がおかれていて、レイニーとクインシーが今後どうなっていくのか気になるところです。
あどけない殺人 (ヴィレッジブックス)
リサ・ガードナーあどけない殺人 についてのレビュー
No.111:
(7pt)

フラッドの感想

非合法?の私立探偵バークのシリーズの1作目ですが、読み終えて非常に劇画的なイメージを持ちました。
『シティーハンター』のアメリカ版小説と言うか、必殺仕事人?的と言うか。本人も何度も刑務所に入っていて探偵ものとしては異色の経歴ですが、彼の兄弟達(仲間ですが)も個性的です。あれだけのメンバーが揃っていれば何でもありかなとは思いますが、事件の内容はアメリカの暗部を映し出しているようで、公的な力では裁ききれない悪人をやっつけると言う痛快感があります。

バーク自身も両親のわからない施設育ちと言うアウトローな存在なのですが、ちょっと現実離れしすぎてると思うところはあるものの、先を読みたくなるのは間違いないです。
フラッド (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンドリュー・ヴァクスフラッド についてのレビュー
No.110:
(8pt)

自白の感想

設定としては似たような物語や映画がありますが、それにしても考えさせられる話でした。
冤罪なのに死刑の執行か、と言うあまりにも理不尽な内容なのですがテキサスと言う土地柄を考えても現実にあったのではないかとさえ思えます。しかし似たような自白の強要と言うのは日本でも当たり前のようになっていてあまり人事ではないとさえ思えました。
世界的にも批判されている死刑制度ですが日本ではいっこうに聞く耳を持たず、アメリカと違って執行日も何も知らされないシステムゆえに意識の違いがアメリカとではかなり違うような気がしました。
知らされていない事が制度への鈍感さに繋がっているのではないかと。
牧師の元を訪れる真犯人は確かにろくでもない人間であり擁護できる存在ではありませんが、それでも彼が語る言葉を聞いていると、犯罪者を生み出すシステムが見えてきて厳罰を与えることが犯罪の抑止になるとは思えません。

某政治家は最近立て続けに執行しているようですが、人権感覚の希薄な日本でももう少しまともな議論ができないものなのかと考えずにはいられませんでした。


自白(上) (新潮文庫)
ジョン・グリシャム自白 についてのレビュー
No.109: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ナイルに死すの感想

淡々とした人物描写から始まる第一部。
登場人物はけっこう多く断片的な描写ばかりなのですが、意外とすんなり入ってきます。
そして中盤以降のエジプトで全員が揃い、そしてナイル遊覧の客船の中で殺人事件が起こるのですが、人物描写やれぞれの人物の葛藤が巧みに描かれます。

実を言うと割と早い段階で犯人もわかってしまいましたし、それに付随する他の出来事も前半の伏線でだいたいわかってしまったのですがそれでもやはり面白かったですし、切ない結末は秀逸でした。

また時代の違いも色々と感じさせられました。今の中東情勢を考えると当時のヨーロッパの富裕層には優雅な観光地だったのだなあと(今でも一部はそうかもしれませんが)。
人間の欲望や優越感、嫉妬といった感情ははかりしれないものだと感じると共に、貧乏暇なしの私自身が案外平和にいられるのは、あまり多くを持っていないからかも・・・と少しだけ自分を慰めてみました。
長いお話ですがお薦めです!
ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティナイルに死す についてのレビュー
No.108: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

アクロイド殺しの感想

何十年か前の高校生の頃むさぼるように読んでいたクリスティーでしたが、現代ものを読んでいるうちにポワロの芝居がかったところに飽きて全く読まなくなってしまっていましたが、内容を忘れてしまっているので久しぶりに手にとってみました。
今改めて読むと100年近く前の作品でありながらなんと斬新なミステリーだろうと思わずにはいられません。結末に対しての賛否論があったと言うことですが、現在のようにミステリーも多様化し色んなスタイルで書かれていることを考えると、クリスティーと言う偉大な作家がどれほど柔軟な発想を持っていたかよくわかります。

ちなみに私は犯人もすっかり忘れていたので、最後まで読んで2回も楽しませてもらいました。
最近のミステリーはカテゴリーも色々だし、背景やリアリティー、犯人が最初からわかっているものとさまざまですが、読みながら犯人は誰だろうと、登場人物とともに犯人探しができる良作ばかりではないかと思います。

科学捜査全盛の今と違って推理がメインとなるのですが、ポワロと言うキャラクターと彼に都合よく進展していくところに飽きて唐突に読まなくなってしまっていたのですが、これを機会にまた手にとってみたいと思います。

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティアクロイド殺し についてのレビュー
No.107: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ウィンター・ビートの感想

ヴィクの14作目を読む前に、同じ作者のエッセイである『沈黙の時代に書くということ』、そして堤未果さんの『貧困大国アメリカ』をよみました。
自由の国と言われ世界でもっとも大国であるこの国が、とてつもなく貧しい国であるということを切々と訴えています。人の命までも商売にしてしまうような事はどう考えても正しいとは思えません。

史上最低と言われたブッシュが始めたイラク戦争の犠牲者であり、所属していた隊の唯一の生き残りでPTSDのために以前のような快活さを失ってしまった若者が殺人の疑いをかけられ、逮捕されてしまい、息子の無実を信じる両親に依頼されて真相をつきとめる事になるのですが、その後ろにはまさに命を商売にするような巨大な会社が存在し、現実の話ではないかと思われるほどリアリティがあります。

ヴィクもすでに50歳間近という年齢で、今迄のように突っ走り周りを巻き込んでの大騒動に、自分は本当に正しいことをしているのかと思い悩む事も以前よりずっと深くなってきます。
シリーズ始めの頃にはなかったパソコンや通信機器を同じように使い、便利だと認める反面それに伴う弊害についてのヴィクの感覚には非常に共感できます。

結末もスッキリ爽やかとはいかず、これもまた現実の世界でも実際この通りなのだろうと思えるような終わり方で、癒されたい・・・と思う彼女の気持ちが切実なももだと感じてしまいます。
そんな中でも毎回協力してくれる友人や隣人に支えられてこれからも頑張って欲しいと思わずにはいられません。特に初期のころから物語とは直接関係ないのですが脇役出演してくれるダロウ・グレアムが最高に素敵ですね(彼は11作目では脇役ではないのですが)常連の依頼人であり、ヴィクの生活をある意味一番支えている人でもあり、さりげなく協力してくれたり、変わらぬ友情を持ち続けてくれるまっとうなお金持ちの社長。
現実の世界にもこういう良心的な人がいると信じたいです。

そしてやみくもに追従しようとしている我が国ですが、なんでも民営化しようとし軍事国家をと公の場で声高に主張する某政治家を見ていると、うすら寒い心地さえしてきます。


ウィンター・ビート (ハヤカワ・ミステリ文庫)))
サラ・パレツキーウィンター・ビート についてのレビュー
No.106: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

喪失の感想

エドガー賞を『容疑者Xの献身』に勝った作品と言うことで、期待度も高く読みました。
順番としてはシリーズの5作目だそうですが、人物描写は巧みで緊迫感もあり非常に面白かったと思います。

西洋の作品を読んでいると、警察の組織の違いとかがわかって面白いと同時に違和感もありますね。日本なら速攻で誘拐事件となり一気に大掛かりな捜査になるだろうと言うような始まりなのですが、イギリスでは違うのでしょうね。最初はなかなか進展もなく警部の苛立ちがそのまま伝わってきます。容疑者が浮上したあたりからは読むのをやめることができなくなりました。

惜しむらくはできることなら1作目から順番に出版して欲しかったなと。これだけ読んでもキャフェリー警部の過去やなんかはある程度わかるのですが、フリー・マーリーやウォーキングマンとの関係が少し唐突過ぎて分かりづらい。1,2作目は出版されているそうですが、3,4を飛ばしての『喪失』なので、できれば出そろった時にもう一度読んでみたいと思います。
シリーズ物は、主人公がどんな変化をしていくのかと言うのも楽しみの一つだと思うので。

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕
モー・ヘイダー喪失 についてのレビュー
No.105: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ミッドナイト・ララバイの感想

巨悪を相手に孤軍奮闘するヴィクもすでに40代半ば?でしょうか。あまりの突っ張り具合が痛々しいとも思えますが、それでも最後まで貫き通す姿勢にはやっぱり応援したくなります。今回は40年前に失踪してしまった黒人男性を探して欲しいと言うあまり気の進まない依頼から始まるのですが、その根っこには公民権運動が盛んだったころの壮絶な人種差別の問題が横たわり、権力や富を持つ者たちがいかに非道なことをしてきたのかを暴きだしていきます。

9・11テロの後も、愛国者法という権力側にとって都合のいい法律に振り回されるマイノリティの存在。極端な格差や犯罪の蔓延など、アメリカの社会の恥部をまざまざと見せつけられます。

常に弱者の側にいるヴィクですが、自分に関わることで周りの人間に被害が及ぶことで罪悪感で一杯になるのですが、それでも最後まであきらめない姿勢に作者の気持ちがこめられているように思います。
またこのあきらめの悪さこそが、女性の感覚なのかもしれないと感じたりします。
ずっと活躍し続けて欲しいですね。


ミッドナイト・ララバイ ((ハヤカワ・ミステリ文庫))
No.104:
(8pt)

バースデイ・ブルーの感想

私立探偵ヴィクの8作目。もうすぐ40歳と言う時にトラブルに巻き込まれ、トカゲの尻尾と思ったら毒蛇だったと言うようないつものパターンですが、相変わらず猪突猛進、意固地で妥協をしらないゆえにまたもや周りも含めて危険の中に飛び込んでゆくのです。
良心的な警察官や恋人であるコンラッドは慰めにはなってくれるものの、突っ走っていく彼女にだんだんついて行けなくなってきます。彼女の言葉を信じようとしない2人ですが、ここは小説ですから男性と女性の違いを際立たせるために書かれているのであって、まっとうな警察官ならあそこまで敵対しないだろうしもう少し優秀だろうとは思うものの、現実には世の中の些細なことすべてに感じる理不尽さは、ものすごく伝わってきます。

それはヴィクが誰かとの会話の中でいつも言い返す「女の子じゃなくて・・・・」と言う言葉に象徴されているような気がします。決して悪気があって言っているのではないにしろ、大半の男性はやはり女性を対等の存在だと認めていないのではないか?と言う悶々とした気持ちが伝わってきます。
これはアメリカだけではなく日本でも同じで、あれこれと法律ができても現実が程遠いのは誰もが知っていることです。

若くもないし、後先考えずに動く彼女にハラハラもしますがこれからも活躍してもらいたいですね。
バースデイ・ブルー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ・パレツキーバースデイ・ブルー についてのレビュー
No.103:
(8pt)

ダウンタウン・シスターの感想

順を追ってヴィクの物語を読んできましたが、時代から考えると団塊世代なんでしょうか、ウーマンリブとか学生運動をやってた世代の人で女性ならきっとはまってしまう主人公だと思います。
些細なことから始まる話が、いつも最後には巨悪に一矢を報いると言う意味では爽快な物語ですが、今回は少し中途半端な形で終ってしまったのではないかなあと。

しかしあまりにも突っ張りすぎと言うか、引かなさすぎと言うかそこがまた彼女の魅力なんでしょうけど、かなり意固地で感情的な性格だなと感じます。
自由の国と言いながら、アメリカと言う国はとても保守的であり男尊女卑の考え方もある意味日本より徹底しているのではないかとさえ思えます。
それでもヴィクと言うキャラクターが生まれるあたり、逆にバイタリティもすごくあって日本ではあまり登場しないような存在でもあり、勧善懲悪とまではいかないかもしれませんが読後はやはりスカっとします。
それと脇役の存在がとてもいいですね。

ダウンタウン・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.102:
(8pt)

大鴉の啼く冬の感想

白と灰色しか思い浮かばないようなイギリス本土から北にあるシェトランド諸島。人工2万人ほどで島中が顔見知りで、なんでもすぐ噂になり秘密を持てないような、そんな島で殺人事件が起こる。同じ島ではないものの、この諸島の出身であるペレス警部が捜査にあたるのだが、8年前に起こった少女の失踪事件と重ね合わせて1人の老人が疑われる。

狭く閉ざされた島での生き辛さのようなものがとても強く伝わってきます。一度偏見にさらされると孤立し孤独から抜け出せなくなり、しかも狭い島であるがゆえにそこから逃げ出す事もできないと言う、田舎ではありがちな話が4人の人間の視点で語られます。

真相がわかってしまえばそれほど複雑なものではないのですが、最後まで犯人は全くわかりませんでした。人々の鬱屈した思いなどが丁寧に描かれていてとても良かったです。
同じ島国である日本人の感覚とは共通するものがあるのではと感じました。

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス大鴉の啼く冬 についてのレビュー
No.101: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

死刑判決の感想

レストランの店主と客など3人が殺された事件。3ヶ月後に犯人が捕まり自白することで死刑判決を出されるのですが、10年たっていよいよ執行間近になって公選弁護人となったアーサー。犯人とされるロミーと面接するうちに真犯人を名乗る人物から連絡があり、彼の無罪を主張していく物語です。

誠実で真面目だけどさえない弁護人、問題を抱え自らも服役することになってしまった判事、野心でいっぱいの検事、正義感はあるものの偏見と思い込みで強引な自白強要をしてしまう刑事、と4人の違う立場の人物それぞれの心理描写が抜群に上手いと感じました。

また4人の男女の私的な関係を横軸に入れて、実際にあった事件をもとに書かれたということですがアメリカの司法制度の実態がわかりやすく描かれています。

裁判は決して真実を明らかにする場所などではなく、いかに自分に有利な判決を勝ち取るかと言う闘いの場なんだと言うことがよくわかります。
日本ではあまりない司法取引などは犯罪の多いアメリカでは日常のことのようですが、いかにお金や権力のあるものが優位な社会なのかと言うことをまざまざと見せつけられているような気がしました。

そして冤罪事件はこんな風にできあがっていくんだなと言う典型的な話でもあり、司法制度は微妙に違うものの日本でも現実に起こっていることと重ねてみてしまいました。

▼以下、ネタバレ感想
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死刑判決〈上〉 (講談社文庫)
スコット・トゥロー死刑判決 についてのレビュー
No.100: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

犬の力の感想

冒頭からの凄まじい暴力描写。この手の話は好みが分かれるところだとは思いますが、タイトルにマッチした追う者、追われる者の執念のようなものを感じました。
フィクションでありながら、これはこのままメキシコの現実であり、大河ドラマのような重みのある30年間の物語です。

これでもか・・・と言わんばかりの権力・暴力・欲望。
人間の愚かさはとどまるところを知らないのかとさえ思えます。
そしてアメリカやメキシコにとどまらず、何よりも国家そのものが犯罪者なのではないかと。
ギャング、マフィアとの癒着や汚職は、現実世界で実際に起こっていることでもあるし、それにからむ中南米に対するアメリカの立ち位置についても書かれていることそのままなのではないかと思います。

読み応えがありましたが、読んだ後相当疲れました。
犬の力 上 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ犬の力 についてのレビュー