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たこやき さんのレビュー一覧
たこやきさんのページへレビュー数63件
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待望の4作目、元気な赤堀先生健在です。
奥多摩でバラバラ死体の腕の部分だけが発見され、指もなく被害者を特定できず、赤堀先生が呼ばれます。相変わらずウジや臭いの描写は強烈ですが、フィクションとして読んでいるからいいものの、上からウジが降ってくるなんて現実にあったら耐えられそうにありませんが、虫は本能で生きているから嘘はつかないの信念のもと、科学的に説得力のある論理で残りの遺体を発見するあたりはとても説得力があります。キャリアからうとまれているものの、岩楯刑事は赤堀先生の倫理をとても信用していて、またその明るさにも救われたりしていて本当にいいコンビになってきました。 現実の警察の捜査でこの法医昆虫学が取り入れられているのかどうかは知りませんが、死亡推定時刻をあそこまで科学的に限定できるのなら現実の捜査ででも大いに役に立つのでは・・・と思うのですが、これはやはりフィクションの世界の話なんでしょうか? それにしてはすごい説得力があるのですが。 物語は人間の狂気もここまでくるのかと言うような創造を絶するような話なのですが、最後まで飽きさせずグイグイと引き込まれていきます。 まだまだ続けて欲しいシリーズです。 |
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シリーズも16作目、50代になってもヴィクは健在です。
ロティの診療所にかかってきた『助けて』と言う電話でヴィクは麻薬中毒のジュディ・バインダーの様子を見に行くが、現場である田舎の家は荒れ果てていて本人はおらず、近くのとうもろこし畑で男性の遺体を見つけてしまう。ジュディの母親でロティとは幼馴染であるケーテ・バインダーのところへ話を聞きに行くが、そこでジュディの息子であるマーティンも行方不明であることを知り、マーティンの捜索を依頼される。 人探しから始まった事件が、ロティのこども時代の頃のオーストリアでの出来事に端を発した壮大な物語となり、読み応え十分です。 それにしてもロティといいコントレーラス老人といい、かなりの高齢だと思うのに本当に元気です。 ホロコーストの悲惨さと、ナチ党員でありながら原子力開発のためにアメリカに招聘され、罪の追及をなおざりにしてきたアメリカ政府の計算高さはホロコーストの犠牲者にとっては納得できないことばかりだろうと感じます。 日本でも大戦中の人体実験をデータを渡すことの見返りに罪を不問にされた医師たちがいたようですが、被害者にとってはどんな風に感じられているのかと思ってしまいます。 社会的な問題・・・特に権力を持つもの達に一歩もひかず戦い続けるヴィクにはいつまでも頑張ってもらいたいです。 |
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明るい天然、しかも変人の赤堀涼子の三作目です。
大吉昆虫コンサルタントの助っ人で、荒川で大量発生しているユスリカの駆除にやってきた赤堀ですが、中洲で死体を発見してしまいます。 解剖の結果絞殺体と判断されるのですが、身元が全くわからず捜査は難航します。 とっかかりは、寒い時期にはいるはずのないハエなのですが、いくつかの川が合流する近くとあって、死体がどこから流れ着いたのかが焦点になっていきます。 過去2回の事件捜査でそれなりに警察の信頼を得た赤堀は、相も変わらず空気を読まないマイペースで、説得力のある事実を積み重ねていくのですが、そのペースにすっかりはまっていく岩楯刑事と鰐川刑事のコンビがとてもいいですね。 直接事件とは関係のない岩楯刑事の禁煙にまつわる話は、最高に楽しめます。 今回はグロテスクな虫の話はちょっと少な目で普通の警察小説の比重が多くなっていますが、それでも自然界に対する愛情はひしひしと感じます。実際に実践されているのかはわかりませんが、冒頭の殺虫剤を使わない駆除というようなことが色んな意味でひろがっていけばいいなと思いました。 事件そのもののミステリー度はそれほどでもないのですが、虫の薀蓄が最高に面白いです。 シリーズとして続けて行ってほしいですね。 |
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ヨーナ・リンナ警部の第3作目です。
前作の『契約』での行動が内部調査の対象となってしまい、オブザーバーとしてかかわった自立支援施設で起った殺人事件。少女が顔をつぶされて殺され1人が行方不明に。しかしオブザーバーであるがゆえに捜査の正式な報告書も読ませてもらえず、行方不明のヴィッキーが奪って逃げた車には幼児がたまたま乗っており、やがてその車も川底で発見され、警察や検察は捜査を打ち切ろうとします。 が、納得のいかないリンナ警部は2人が生きているという確証をえて単独で調べを進めていきます。 今回は少しうさんくさい霊媒師のフローラが鍵となるのですが、最後まで読みと色んな複雑にからみあった事柄が最後に一つにまとまる納得の展開です。 解説にありましたが、スウェーデンでは自立支援施設や老人ホームなどは私企業が運営していることが多いと言うのを意外に感じました。 福祉国家と思われていたのですが、そういった施設が営利を目的にされていること自体を告発したいという作者の意図も感じられます。 最後の方にリンナ警部の過去が少し明らかになってきて、あとに続くシリーズに期待をもたせますが、ちょっと設定が極端な気もします。 それでも続きが非常に気になる作品です。 |
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1作目と違い手に汗握る展開のサスペンスでした。
ペネロペは平和活動家ですが、恋人と妹と3人でのクルージングの途中で妹が殺され、追われていることを察知した2人はひたすら逃亡します。 一方、戦略製品査察庁の長官が自宅で自殺するのですが、捜査を進めるうちに二つの事件に密接なつながりがあることがわかってきます。 今回のリンナ警部は1作目のちょっとハナについた感じではなく、また事件そのものが国を揺るがすほどの事柄もあって、スポード感もあり、映画的ではありますが、解決に至る道筋はとても面白かったです。 武器の輸出で利益を上げる企業にとっては戦争がなくならない事が一番の望みなんでしょうか?それがもたらす結果が現在のアフリカや中東だと思うと人間はなんと罪深い生き物だと思わずにはいられません。平和をくつがえそうとやっきになっている今の日本の政府もその戦列に加わろうとしているのかと思うとうすら寒い気持ちになります。 福祉国家であると思っていたスウェーデンが武器輸出をしている国だと初めて知りました。 もちろん筆頭はアメリカです。 平和でいることの意味を考えさせられる物語でした。 |
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作者は実際のパイロットで、飛行機のパニック物などを多く書かれているようですが、こちらも同様飛行機のパニック物ではあるものの、内容としては十分ミステリーと言えるでしょう。
読者には最初の方から機長が怪しいとわかるようになっていますが、犯人の要求がお金や政治的意図とは思えないあるペドフィリアの逮捕と即時公判と言う奇妙なものでしたが、後半はパニックと言うよりも2年前におきた少女の殺人事件の真相を追う展開となります。 飛行機と言う閉ざされた空間の中情報は限られており、またその中でもコックピットは誰も入れない聖域となっている中での、色んな登場人物の緊迫感にはとてもリアリティーがあり、時間の経過にそって最後まで飽きさせることなく楽しめました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「13階段」や「ジェノサイド」のようなシリアスな物語を書いた方とは思えないようなファンタジーな話です。
短編の連作で、全編を通して他人の非日常な未来が見えてしまうという男性が脇役的な存在として出てくるのですが、ミステリアスな話も最後にはほのぼのとした結末となり、一話目の主人公が最後の物語に再び登場して、なかなか緊張感のある終幕となります。 最後のエピローグのようなお話がとてもいいですね。 |
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グレイブディッガーと言う変ったタイトルは中世の魔女狩りの頃の伝説を作者が創作したそうだが、内容は簡単に言うと八神と言う憎めない悪党の逃亡劇である。ちょっとした詐欺などで過ごしてきた八神だが、何か良い事をして人生をやり直したいと思い骨髄バンクに登録し、適合者のために翌日病院へいくところだったが、お金を借りようと自分の家(友人と名義を交換している)へその友人を訪ねていくと、そこには奇妙な殺され方をした友人の死体があり、そこへいきなりやってきた3人の謎の男に突然追いかけられるところから八神の逃亡が始まります。
謎の男たちや警察にも追われなんとか骨髄移植のために病院へたどりつこうとするのですが、東京の北から南への30キロが遠いこと。 かなり複雑な事件なのですが、展開もスピーディーで海外ドラマの「24」を思い出してしまいましたが、シリアスな内容で短い時間の間に次々と連続殺人が起こるのですが、主人公の八神がどこかユーモラスで最後まで楽しく一気読みできました。 |
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ゲレオン・ラート警部の2作目です。映画女優が撮影中の事故で亡くなりますが、ありえないような事故に殺人を疑うラート警部はまたもや独断で捜査を始めます。他にも個人的に父親から頼まれた事件などでがんじがらめになっていくのですが、信頼する上司にも指摘されるように、スタンドプレー好きで協調性がなく、突っ走っては墓穴を掘るラート警部ですが、それはそれでとても個性的であり、その独自のこだわりが最後には事件を解決に導きます。あまり知る事のないナチ台頭前夜の時代であり、世の中が少しずつきな臭く変化していく様が背景にも描かれていて歴史的にも非常に読みごたえのある作品となっています。
無声映画からトーキーへと変わっていく過渡期であり、映画人達の葛藤のあますところなく描かれていて、そこを主題にした作者の上手さを存分に味わいえました。 ラート警部やまわりの人間関係、そして時代がどんな風に変化していくのか続きがとても楽しみな作品です。 |
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旧友に頼まれて駅のコイロッカーへ荷物を取りに行った看護師のニーナ。大きなトランクには裸の男の子が入ってきた・・・と言う衝撃的な始まりです。何の説明も受けておらず途方に暮れるニーナですが、看護師をしながらボランティアで移民や難民の保護活動を続けているニーナは男の子を何とか守ろうと奔走します。
これが日本だと普通は即警察と言う話になるのですが、移民や難民の多い北欧ではその行きつく先が目に見えているニーナに警察に委ねると言う発想にはなりません。詳しい事情を聞こうと依頼された友人に会いにいくのですが、友人は殺されていて再び子どもを連れて彷徨うことになります。 読んでいてニーナの思い入れの強さに最初は少し驚きますが、ニーナの過去が最後に描かれ、ストンと心に落ちてきます。女性2人の共作ということですが、さすがに女性の心理に優れていて母親の大変さにはとても共感できました。また北欧を取り巻く東欧世界の現実がとてもリアルに描かれ、福祉国家と言われる国の違う一面を垣間見たような気がします。 解決までわずか一日半と言うスピーディーな展開で、飽きることなく一気に最後まで読んでしまいました。北欧の作品は本当にはずれが少なく、ほかの作品も是非翻訳して欲しいと思わせる作家さんでした。 |
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双子の妹アリッサが誘拐されて1年、父親は家族を捨てて失踪し、美しかった母親は酒と薬に溺れ地元の実業家にいいようにされている中で、双子の片割れ(ラスト・チャイルド)のジョニーはアリッサを探すために学校をさぼり、友人のジャックと危険な調査を続けている。
母親の美しさゆえか、担当の刑事ハントも多くの事件を抱えながらもこの誘拐事件から距離を置くことができず妻に去られてしまいます。 そんな時に殺人事件の目撃者となってしまったジョニーは、被害者が死ぬ直前に『あの少女を見つけた』と言う言葉を聞いたところから事件が大きく動き始めます。新たな誘拐事件や脱走囚フリーマントルとの出会いなど、偶然にも導かれジョニーの執念は実を結ぶのですが、真相は意外な結末となります。 家族の崩壊や再生をモチーフに描くことの多い作者ですが、『アイアンハウス』のような極め付けの悲惨さとは違い、未来にも希望が持てる終わり方で、ミステリーとしての意外性も面白く読みごたえがありました。 かなり偶然に彩られた感はありますが、3つの家族の関係を横軸にとても上手くまとめられていると思います。 親の在り様とはどういうものであるべきなのか非常に考えさせられました。 フリーマントルの『子どもは天からの授かりものだ』と言う言葉がとても心に響く作品でした。 |
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マンホールに落ちて死んだ医者の事故に関わる事になった弁護士のエヴェリーンと、もう一方精神病院で自殺した若い女性の捜査に赴く捜査官のヴァルター。オーストリアとドイツ、遠く離れた別々の国で起った出来事だったのが、その死に違和感を感じ他殺ではないかと疑問を感じそれぞれが真相をさぐるべく個々に突っ走っていきます。やがて二人が交差し忌まわしい過去が浮かび上がってくるのですが、非常にスピード感のある展開で最後まで一気に読みました。
殺された少女たちと似たような辛い経験を持つエヴェリーンが何かにつき動かされるように事件にのめりこんでいくのはちょっと痛々しいですが、ヴァルターの方は今は閑職ではあり捜査からはずされたものの、刑事らしい正義感で同じように自殺にみせかけて殺された少女が他にもいることをつきとめていきます。 それにしてもヨーロッパは文化も経済も違う国々が隣接する地続きの地域なのだと改めて感じました。 真相はおぞましいのですが、最後は明るいエピソードで終わり読後感はとてもよかったです。 |
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終戦後の混乱期に警察官となった清二から息子民雄、孫の和也と三代にわたる警察官の重厚な物語です。
昭和の時代の移り変わりが目に浮かぶようです。 警察と言う組織の本質を深くえぐる作品ではないでしょうか。 誠実な町の警察官であったのに謎の死をとげる清二。父のような駐在所の警官を目指していたにもかかわらず、学生運動全盛の時期と重なり公安のスパイとして大学へいき、何年もスパイとして過ごすうち次第に心を病んでいく民雄。妻に対して暴力をふるっていた父とは距離を置いていたのに結局は同じ警察官となり祖父の死の真相を、半ば利用しながらしたたかな刑事となる和也。 巨悪を暴くために小さな悪はどこまで許されるのか・・・なんてわかりませんが、現実にも裏金の不祥事などが新聞を賑わすと、それ私達の税金なのに・・・と思わずにはいられません。 常に組織が優先される社会は日本の特徴で、外国にくらべれば治安がいいのは間違いないのですが、取り調べの可視化とか代用監獄の問題とか先進国から非難されるようなことを変えることで、もっと信頼度があがるのではないの?と思わずにはいられません。 外国の小説を読んでいると(特にヨーロッパ)個人の判断ではなく常に組織の都合が優先される日本の警察の体質が浮き彫りになってきて、そういう雰囲気を非常に上手く、またリアルに小説に盛り込んでおられるなと思いました。 |
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『遮断地区』が非常によかったので、別の作品もと手に取った『鉄の枷』
小さな村で暮らす一人の老婦人が自宅の浴槽で遺体となって発見されます。手首を切り自殺かと思われるものの、頭には口うるさい女に嵌める拷問具?のスコウルズ・ブライドルが嵌められており、そこには野菊や刺草などが飾られていたことから、主治医であるセアラ、担当の刑事のクーパーが他殺ではないかと疑問を感じるのですが、実の娘や孫ではなく遺産相続人に他人であるセアラが指定されていたことから、否応なく事件に巻き込まれていきます。 イギリスは今も上流階級という感覚が残っていて、ヨーロッパあたりではその上流階級での躾としての虐待と言うのはよく聞く話ですが、それにしても想像もつかないような拷問道具があるもので、愕然とさせられます。 かくあるべきと言う体裁を保つためには個々の人権などありえないような上流社会の有様には驚きますが、何よりもその犠牲となる弱者である女性の不遇をまざまざと感じられる物語でした。 虐待の連鎖とでもいうようなマチルダ、ジェイン、ルースの三世代の親子、孫。 気が重くなるような話なのですが、非常に筆力のある作者で個々の人物描写が抜群に上手いし、それなりに救いのある結末で、シェイクスピアの作品とマチルダの日記を巧みに取り入れながら話が展開していきます。 特に女性の葛藤を描くのがすごく上手いですね。 虐待の報道が日々新聞を賑わす日本でも、もう少し色んな面で母親を支えるシステムがあればあんな悲劇は起こらないのではないかと思わずにいられません。 |
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たまたまの偶然がいくつも重なって起きていく負の連鎖。
格差が激しく、その最下層に位置する社会的弱者が暮らす公営団地で、一つの噂が独り歩きしやがて恐ろしい暴動に発展していくという怖い物語でした。 しかし、そこに至る過程が非常に緻密に描かれていて、群集心理とでもいうのか一旦動き出すと止めることのできない負のエネルギーは傍観者でいることを許されなくなっていきます。 機能不全の家族ばかりが登場しますが、他人事とは思えないほどのリアルさです。一角に押し込められた公営団地と言うのは日本にはまだあまり見受けられないとは思いますが、社会への不満や苛立ち、嫉妬や妬みと言った感情から、その不満を解消するためもっともらしいこじつけの理由をつけてより弱い立場の人への攻撃となっていく例は昨今の過激なヘイトスピーチだけでなく一杯あるような気がします。 その人の心持ちによっても大きく変る家族観。フェイ・ボールドウィンにとってはろくでなしの親であるメラニーですが、医師のソフィーから見れば上流社会に生きる人たちよりよほど健全にみえていて、人の評価や価値観は決して一つでないことがよくわかります。 しかしこのフェイと言う保健師さん、こう言う人当たり前のように一杯いそうな気がします。 世界中が病んでいるんだなと少しくらい気持ちにもなりますが、ジミーのような存在も必ずいるはずで、全く救いのない物語とも違います。 ミステリーとは少し違いますが、先が気になり読むのをやめることができなくなりました。 初めての作家さんなんですが、ほかの作品も読んでみたいと思わせる話でした。 |
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道警シリーズが割と好きでずっと読んできましたが、権力との直接対決ではないので、物足りなさを感じる方もいるようですが、色々な問題が盛り込まれていて、私はそれなりに楽しめました。
冤罪の問題は小説だけじゃなく現実でも新聞をあれこれ賑わしていて、真摯に謝罪してもらいたいと思う中島の気持ちは当然だと思います。間違ったことをした時には潔く謝罪するほうがよほど信頼を回復する早道だと思うのに権力を持つ人ほど、どうにかしてそれから逃れようとするのはどうしてなんでしょうね。 そんな指導者達を見て、子ども達が正しい事を学べるとは到底思えません。責任逃れ、責任転嫁・・・まずは指導すべき立場の人たちが変らなければ根本的には何も良くならないのではと切実に思います。 当たり前の事ができない大人ばかりに、未来をまかせてしまっているのでは・・・と言う危機感をとても強く感じる作品でした。 |
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率直に言うと、とても暗く重い物語です。
派手な連続殺人でもなんでもなく、ましてや殺人事件そのものも非常に稀?な国であるアイスランド。 北欧であることは知っていましたが、ほかの4か国とは離れて海の中にポツンとあるのですが、アイスランドのイメージと言えば原子力や火力の力に頼らない自然エネルギーの国、人権意識の高い国と言うイメージなのですが、こんなに雨ばかり降る国だというのは読んで初めて知りました。解説にもあったように快晴の日が珍しいゆえに、たまに快晴の日があるとそれを理由に会社が休みになるというところはなんともユニークです。 湿地の上に建てられた半地下のアパートで一人の老人が殺されます。典型的な物取りの犯行かと思われたものの残されていたメッセージから、少しずつ真相がわかってきます。 被害者の立場からはなかなか言い出せない女性の悲劇。取り調べや裁判そのものがセカンドレイプであるのはどこの国でもそう違いがないのではないでしょうか? 人権先進国である北欧でも例外ではないのだと改めて感じました。日本でも不当に刑が軽いと感じるのは私だけではないのではないかと思います。 もうひとつ北欧などのサスペンスを読んで感じることの一つに警察の在り様の違いです。家族の崩壊は日本でもありがちな話ですが、娘が麻薬常習者であったり、息子が犯罪者であったりしてもそのことが警察官としての地位を脅かさないあたりは日本とは大きく違いますね。 組織や家族を重視する日本は、まだまだ遅れているのだなと思いました。 結末もあまり救いがなくとても暗い話ですが、文章は簡潔でとても上手い思いました。 どうにもならない娘との関係は今後どうなるのかとても気になるところです。 |
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楽しみにしていた特捜部Qの最新作。
今回はローセが選んできた23年前の失踪事件を追う物語です。 相変わらず超個性的な3人組は健在で、しかもカールのトラウマとなっているアマー島の事件にも新しい証拠が出てきて、せっかくモーナと上手くいきかけているのに事件から離れることができません。 カール自身が言っているように読んでいても全くわからないアサドの過去は謎が深まるばかり。 失踪事件は、実際にあった事実をもとに国家的犯罪ともいえる選民主義を実にうまくフィクションに取り入れています。とんでもなく酷い話なのですが、現実にはデンマークでも極右政党が支持されたりしていて、作者が伝えたい事を多くの人に感じ取ってもらいたいと思わずにはいられません。 日本は島国であったり長かった鎖国時代のなごりもあってヨーロッパほど移民の問題は切実ではないものの昨今の政治家の発言や、あからさまなヘイトスピーチがニュースになったりと他人事とは思えません。 世界的にも景気が悪くなるとこんな風にどこもが殺伐としてくるのでしょうか。 より良い社会のためには過去の反省をおざなりにしてはいけないのにと思ってしまいます。 転んでもただでは起きない脇役たちも健在で、シリーズでは10作の予定とありましたが、続きが出るのが待ち遠しいです。 |
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過去に自分をどん底に突き落とした男を、永遠に出ることのできない刑務所に送り込んだものの、法律家として犯してはならない事をしてしまったC・Jは罪悪感にさいなまれながらも、初めて心を許すことができるようになったドミニクと安定した生活を送っていたのですが、パトロール警察官が殺されたところから再び悪夢が始まります。
違法なやり方で車を止め捕まえた猟奇殺人の犯人でしたが、それを知っていた犯人が次々と殺されていきます。汚職警官として麻薬とも関わりがあったことから、捜査する同僚達は地元のギャングや組織をマークするのですが、C・Jは、今刑務所にいる犯人の死刑を覆させないため、猟奇殺人の真犯人のしわざではないかと疑い始めます。 同じように良心の呵責に耐えられない弁護士のルビオは遠くでひっそり暮らしていたのですが、葛藤の末、現在のキューピットの弁護士に宣誓供述書を送り、再審が開始されてしまいます。 正義とは何だろうと考えさせられました。C・Jの苦悩は痛々しいし、当事者ですから当たり前なのですが、それでもやはりルビオの方に共感してしまいます。一度嘘をついてしまうと、またそれがばれないように嘘に嘘を重ねていくことになってしまいます。 私自身がそれぞれの立場だったらどうするだろうと改めて考えてしまいました。 |
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完結編?と思われる『報復 それから』が出版されていたのでもう一度最初から読んでみました。
とてつもなく怖い話です。主人公のC・Jはマイアミで重大犯罪の検察官をしていて、そこで1年近く続く女性の猟奇殺人事件を担当しているのですが、たまたまパトロール中に止められた車のトランクから10人目の犠牲者の死体が出てきて、連続殺人犯として捕まります。初めての罪状認否の法廷で自分の無実を訴える容疑者の声を聞いて、C・Jの悪夢が再び始まります。 12年前ニューヨークにいた頃、誰ともわからない覆面をかぶった男に凌辱・暴行され癒えることのない傷を負わされていたのですが、その時の犯人がその容疑者だったからです。 状況証拠はあるものの決定的な証拠がないままなんとか過去の事件で訴追しようとするのですが、殺人事件以外は時効?があるのかどんなに頑張っても過去の事件で有罪にすることができないのです。 どこの国でもそうだろうと思いますが、裁判において被告との利益相反がある場合は当然その役目からおりなければならないのですが、C・Jはそれを隠したまま犯人を死刑にするべく奔走しますが、逮捕された経緯が正当性のあるものではなかったことから、それも隠蔽してしまったことでどんどん窮地に陥っていきます。 それにしても追い詰められた女性の心理描写がピリピリ伝わってきます。 レイプと言うのは日本でもそうですが、思いのほか量刑が軽い気がします。被害者の心の傷が永遠になくならないということを考えても、セカンドレイプと言われる裁判のことを考えても、もう少し女性の気持ちを考慮していくべきなんじゃないかと思ってしまいます。 しかし、彼女の心の傷はともかくも事実を捻じ曲げることが本当に正しいことなのかどうか、弁護士のルビオの葛藤にもとても共感できます。読者とC・Jには真犯人が別にいるのではないかという疑問が出てくるのですが、物語の結末がどうなるのかと一気に読んでしまいました。 |
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