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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数347件
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孤島を舞台にした連続殺人……という点だけ見れば典型的なミステリのパターンなのですが、この作品は、かの『種の起源』『進化論』で有名なチャールズ・ダーウィンが、特異な進化を遂げた生物の住む島、ガラパゴス諸島を訪れた際に実は連続殺人事件が発生していた、という歴史のIFを取り扱った作品です。さらにその事件を解決する探偵役も他ならぬ若き日のダーウィンだという、まさに設定からして興味深い異色のミステリです。
そして、まさにガラパゴス島ならではのトリックも面白いです。(このトリックが先に思いついてこの作品が出来たのでは……などとも思ってしまいます) 連続殺人事件の解決という物語の本筋に加えて、ダーウィン同様実在した人物たちによって繰り広げられる人間ドラマや、ダーウィンが後に発表する進化論とは相反するキリスト教観が事件の根底に絡むなど、盛りだくさんな内容が、300ページ強の長編にしてはやや短い分量でまとめられており、作品の密度が濃く、読んでいて飽きませんでした。 しかし、コンパクトなページ数にまとめられているという点は基本的に私の中では高評価なのですが、この作品に限ってはせっかくの面白い題材が皆中途半端な形になってしまっており、逆に少しもったいない気がしました。 テーマや人物にもう少しページを割いて、もっと掘り下げても良かったのではと感じてしまう作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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誰でも名前ぐらいは、というか映画版でのジャック・ニコルソンの狂気の笑顔のシーンは知っているだろう有名作の原作小説を読みました。
コロラド州ロッキー山中にある、冬季はその厳寒と積雪のため閉鎖されるホテルに、その間の維持・管理を目的として雇われた男ジャック。 そんなジャックと彼の妻ウィンディ、そして五歳になる息子ダニーは、雪に閉ざされたホテルの中、家族三人だけで数ヶ月を過ごすことになる。 しかし、このホテルは過去、ジャック同様やはり家族揃って住み込みで働いていた管理人の男が発狂し、自身の妻と子供を殺害したといういわくを持っていた。 そしてジャックもまた、次第に狂気に取り付かれ、やがて彼の魔手が妻と息子に伸びようとしていた…… そんなクローズドサークルシチュエーションのホラー作品ですが、単に「深い雪に閉ざされた空間」という物理的状況だけでなく、「家族」という、その輪から出ることも入ることも容易ではない、ある意味二重のクローズドサークル状況を描いた作品なのではないかと思いました この作品は、本来あらゆる意味で子供を庇護してくれる存在であるはずの「父親」が逆に家族を襲う、悪意・脅威になってしまうという恐怖が描かれています。 この怖さは単に大好きなパパが豹変してしまうという点のみならず、父親を愛し尊敬していても、一方で誰しもが多かれ少なかれ家庭の中で強大で支配的な力を持つ父親という存在へ抱く、リアルな恐怖を呼び起こさせるものではないかと感じました。 (私の父は温厚で、家庭内で怒鳴ったり、暴力を振るった記憶など一切ないのですが、そんな家庭に育った私でも、少年期父親をどこかで恐れる気持ちが0だったわけではないです) また父親側も、一番大切なモノであるはずの家族を、自分が傷つけてしまうのではないかという不安や恐怖は誰しもが持っているのではないでしょうか。 ジャックは癇癪癖やアルコール依存などを持ち、仕事をクビになったりダニーを怪我させた過去があり、元々決して完璧な父親ではありません。 しかし同時に過去を悔やみ、アルコールを断つ努力をし、確かに家族を愛している、決して悪い父親でもありません。 ジャックが最初から完全な悪人あるいは善人として書かれていたら、感情移入という面でも怖さという面でも作品の魅力は下がったでしょう。 さらにこの作品の怖さや深さは、ジャックが狂気にかられたのは、ホテルの持つ魔力のせいか、ジャック自身が元々持つ狂気のせいか途中まで読んだ時点ではどちらとも取れ、読者にとって「より怖いと感じる方」を意識してしまう点にあるのではないかと感じました。 そんな父の日にふさわしいようなふさわしくないような作品のレビューでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「雪」の「孤島」の「館」という狙いすましたような舞台で、「人」が「山」が、そして「島」そのものまでが消失するという特大の謎を、自称名探偵夢水清志郎が解く、これまでの同シリーズよりも「本格」色の強いシリーズ第三弾。
孤島の館でのクローズドサークル作品ですが、死なないミステリなので子供でも安心して読めます。 親切にヒントが随所にちりばめられていることもあり、大人のミステリファンが読めばトリックはすぐにわかりますが、だからと言って大人の観賞には耐えないということはなく、大人は大人で「すでに大体の見当はついているのであとは確信できる材料を待っている探偵役」に感情移入して楽しむことが出来る作品と感じました。 これは作者の意図した所で、子供と大人、別の目線で別の楽しみ方が出来るように作られていた良質のジュブナイルミステリだと思います。 決して説教臭くなく(ここ重要)反戦メッセージが込められていたのも児童作品としてよく出来ているのではないでしょうか。 |
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まるでジョン・ディクスン・カーが現代日本に蘇ったがごとく、21世紀の世において、あざといまでの古典的本格ミステリの魅力溢れる世界を展開する、シャルル・ベルトランシリーズ第二弾。
今回の舞台は題名の通り、巨大な監獄が建てられた孤島というクローズドサークル作品。 上下巻合わせて1000ページ超の大長編です。 名探偵として名高いパリ警察予審判事ベルトランは、脱出不可能と言われる孤島内の刑務所にて大きな陰謀が渦巻いているという内部告発を受け、調査チームを結成し島へと乗り込む。 そこにはかつてベルトランが逮捕した凶悪天才犯罪者ボールドウィンを初めとして、一筋縄ではいかない犯罪者たち、そして一筋縄ではいかない看守たちが待ち受けていた。 そしてそこでボールドウィンの脱獄騒動が起こったのを口切りに、次々と謎と驚愕に満ちた連続殺人事件が発生する…… 前作の『双月城の惨劇』も「こういうのが好きなんだろ?」と言わんばかりのあざとさがたまらない作品でしたが、今作はそんな前作をさらにパワーアップ、ボリュームアップさせたような一作。 上下巻合わせて1400ページ近い、クローズドサークル作品としてはおそらく『人狼城』と『暗黒館』に次ぐぐらいの超大作なのですが、その長さに相応しいだけの密度とバラエティに富んだ中身で、決して間延び感や水増し感を感じさせない内容です。 この作品は作中で殺人事件が二桁近く起こります、死にまくりです。 しかしそれに加え、その殺人事件のほぼ全てにそれぞれ、密室や人間消失というなんらかの不可能状況が付随しているというとんでもない作品。 その結果作中で登場するトリックは細かく数えれば両手で数えても足りないのではというレベルです。 もっとも数は多くても、どれも「どこかで見たようなトリック」「使い古されたようなトリック」の流用感は否めないのですが、ここまでやられるともうそのチープさやお約束ささえも逆に魅力と感じてきます。 それだけたくさんの殺人劇とトリックだけでもお腹いっぱいになれるのですが、主人公と因縁のある天才犯罪者の脱走劇や、刑務所内の陰謀の謎、真相の二重三重のどんでん返しなどが用意されており本当に豪華な作品ですね。 2つ3つの作品にも出来たであろうプロット、ネタを惜しげもなくつぎ込んで一つの大作にしたことを何より評価したいと思います。 (ある意味2つ3つの6,7点の作品が合体することで9点の作品になったような感じでしょうか) ただはっきり言ってこの作品はB級感プンプンです。 先述したトリックの流用感もそうですし、既存の作品のパクリかオマージュか……とギリギリに感じるラインのネタが多く感じました。 (その作品を実際に作中やあとがきで名前を挙げているのが「あくまでオマージュ、リスペクトですよ」と言い訳してるっぽい) そして気になったのは、前作に比べて文章が下手になってないか?という点です。 前作はあえて、海外翻訳物のように淡白な雰囲気を出したような文章と感じたのですが、今作は書きなれていない新人のような文章と感じました。 特に気になるのは、特定の登場人物に対し「傲岸不遜な~」という表現が作中で10回以上は使われたのではないかと思える所で、実際、その人物が傲岸不遜なキャラであったのは事実ですが、ここまでしつこく書かれると、むしろ記述者キャラの方が性格が悪く思えてしまいます。 加えてそのように記述者はそのキャラに悪感情を持っているのですが、同時に「この時ばかりは彼に同意した~」という表現も作中に再三にわたり登場し、「いや、この時ばかりはこの時ばかりはって、お前この数日で何回こいつに同意してんだよ」と突っ込みたくなります。 というわけで総合すると、決して出来が悪いわけではないのですが、良くも悪くも本格ミステリのエンタメ要素に振り切ったチープなB級感漂う作品のため、気取ったミステリ通や、ミステリにミステリ以上の文学的価値を求めるようなお堅い読者には薦められないです。 人によっては「子供だまし」と断じたくなるような作品かもしれませんが、それでも私はこういうのが大好きです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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密室の帝王・カーの、カーター・ディクスン名義での代表作。
例によって密室ものですが、怪奇趣味成分はなく、法廷ミステリの側面強しな作品です。 一見名探偵には見えない、周囲が少し心配になるようなおじいちゃんなHM卿のキャラがいいですね。 (威風堂々と立ち上がろうとしたが、服が引っかかって破れて台無しになった。ってとこで笑いました) 最初はどうしても密室トリックに焦点を当てて読んでしまったので、そのあまりの古典的さ(もっとはっきり言えばショボさ)に 一度目に読み終えた時は「当時は名作だったかもしれないけど、今読んだら全然大したことない凡作!」と断じてしまったのですが この作品の本領は、偽りの証言だらけの法廷で、真実にたどり着くためにチェスのような筋道を立てた謎解きを行う点にあることを、他の人の感想などを見て気づきました。 正直カーは今のミステリ読者の予備知識として抱くイメージが「密室の人」と定着しすぎて、作者も読者も損をしているところがあるかもしれないですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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それぞれ双子の片割れを当主とする二家族が、一つの屋敷の中央対角線部分を壁で分断し、結果二つの三角形が組み合わさった状態で別々に住むこととなった異形の建物「三角館」
さらにその二家族は双子の父親にあたる先代の残した「一日でも長く生きた方に全財産を譲る」という奇妙な遺言のため、長年にわたる確執を持っていた。 そして双子の片方の死期が近いとなった時、とうとう遺産を巡りこの二家族の間で血塗られた殺人劇が幕を開ける…… 奇妙な館で奇妙な遺言のせいで殺人が起きるという、お約束ながらもうそれだけで面白い本格ミステリの黄金パターンを扱った本作。 それほど長くはないコンパクトな分量とシンプルな構成の中に、しっかりとしたフーダニットとホワイダニットが用意され、トリックやドラマも仕込まれた無駄のない完成度の高い作品だと感じました。 ミステリ初心者はもちろん、やたら真相を捻りまくる昨今の本格ミステリに疲れたような人にも勧めたい、純粋に本格ミステリ本来の魅力が味わえる一冊です。 本作はロジャー・スカーレットが1932年に発表した海外古典の『エンジェル家の殺人』を原作として舞台を日本に焼きなおしたとされる作品で、実は私はそちらは読んでいないのですが、おそらく当時は「影響を受けて下敷きにしたあくまで別作品」として発表したけれど、いくらなんでもプロットも何もかも丸パクリだったために、現代では乱歩が翻訳した作品みたいな扱いに後からしたんだろうなと邪推してしまいます。(っていうか多分間違いなくそう) というわけで高得点をつけましたが、あくまで原作の『エンジェル家殺人事件』の方に捧げたい点数ですかね。 (ただ正直私は全体に海外翻訳作品の味気ない文章がどうも苦手なので、翻訳版よりも乱歩が焼きなおしてくれたこっちを読んだおかげで楽しめたんだろうなぁなんて思ってしまうのも事実です) ▼以下、ネタバレ感想 |
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推理作家の枠にとどまらないからくりを作品に施し、読者を驚かせ楽しませてくれる泡坂氏の代表作ということで期待して読んだのですが
ミステリとしての出来の面でも、単純に話の面白さの面でも、正直評価されているほどとは思えませんでした。 作者のからくりに対する愛が溢れているのはいいのですが、本筋を完全に離れたレベルで垂れ流される薀蓄が正直読んでて疲れます。 もっと自然に話の流れの中に説明を組み込んでくれればまだいいのですが、明らかに不自然な流れで延々と講義になるのはやめてほしいです。 途中主人公たちが記念館に話を聞きにいったパートなんか完全に謎解きおよびストーリーの構成としては不自然な上に無駄。作者が趣味について語りたいから入れただけって感じでうんざりでした。 あと舞子の嵌められて警察を追われることになった過去の決着がつかなかったり、敏夫のボクサー崩れという設定の意味や研究会に来ることになった経緯などが不明だったり 肝心の主人公二人の設定に意味がなかったり、決着がついてないのは話の構成としてどうなのかなと思いました。 本来は続き物シリーズにする予定で、その辺は続編でじっくり掘り下げて解決する予定だったんでしょうかね? ▼以下、ネタバレ感想 |
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一筋縄ではいかない数々の事件を追う、F県捜査一課の三つの捜査班の活躍を描いた連作短編集。
捜査一課には一斑から三班までの三つの捜査班があり、それぞれの班長である、朽木、楠見、村瀬の三人は、各々性格も捜査方法もまったく違えど、上司である捜査一課長が彼らと同時期に現場刑事でなかったことを幸運に思わなかった日はないと思うほどの、各々が事件検挙率ほぼ100%という怪物たち。 しかし、同時に彼らはお互い激しい競争意識を持っており、常に一課での覇権を争う関係であるという、事件の犯人との駆け引き以上に、捜査一課内でのドロドロした対立も見所の作品です。 個人的に、ジャンルを問わず「それぞれタイプの違う強キャラたちの競演」というシチュエーションが大好きで、まず基本設定から好みでした。 短編でありながらどの話も長編のネタにしても良いような高密度で高水準の物語で、ミステリとしてもドラマとしても非常に質がよく、また面白い一冊です。 同シリーズは未単行本化の作品もあるようで、続編が強く望まれます! 以下、個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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愛する男と再婚が決まり、その身に彼の子供を宿し、自身の経営するペンションに集まった常連客たちに祝福され、幸せの中にいる女性。
しかし彼女は21年前のクリスマスイブに、とある家族を襲った強盗殺人事件の共犯者という過去を持っていた。 そしてそんな彼女に、彼女とその家族の命を狙う復讐者からの脅迫の手紙が、惨殺された共犯者の写真を添えられ届く。 果たして脅迫者の正体はクリスマスイブの今夜、ペンションに集まった者の誰なのか…… そんなサスペンス色の強いミステリー作品です。 ページ数は少し多めですが全体にストーリーの流れのテンポが良く、次々判明する新事実が飽きさせず、楽しく読めました。 伏線回収なども巧みで、消化不良に終わった部分もなく、よく出来ていると思います。 今邑さんの作品は全体的にエンタメと割り切ってあえてB級感を漂わせつつも、完成度は高いと感じるものが多く、私の好みというか相性がいいと感じますね。(それだけに若くして亡くなられているのを知り残念です) ただ、他の方の感想を見ても同じことが言われてますが、いくら自分は直接手をくだしていないとはいえ凶悪犯罪の共犯者である主人公を1ミリも応援する気が起きません。 むしろ罪の意識や後悔よりも、再三「あくまで自分は手を下してない、見てるだけだった」と自己弁護ばかりなのが余計に心証が悪いです。 親しくしていた常連客たちを無差別に片っ端から疑うのもこの女の自己中心的な本性が出ているのを感じてしまい不愉快な気分になります。 この辺がひっかかって高得点をつけきれず7点止まりで。 なお、他所でクローズドサークル作品と紹介されることがありますが、明らかにクローズドサークルの定義は満たしていません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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飛行中の旅客機内という、言わば究極の密室・クローズドサークル状況で殺人事件が発生するという話は、現代では本格ミステリの一つのパターンになっているかと思いますが、旅客機がようやく世間に一般浸透しだした当時においてはおそらく先例のない試みであり、その点はさすがクリスティと感じます。
しかし、正直それだけの作品だな、という感想でした。 機上での殺人と言う(当時としては)物珍しい状況を抜きにすれば、全体的にストーリーもトリックもこじんまりとしており、ぶっちゃけ長編にするほどの内容ではなかったと思います。 またせっかくの機上での殺人という題材ですが、殺人が起きた後の捜査、解決パートは全て地上なのがもったいないというか肩透かしでした。 これでは別に飛行機じゃなくても、不特定多数の人間が集まってしばらく座席についてるような状況であれば、舞台は電車でも劇場でも成立してしまうようなストーリーとトリックですね。 どうせなら『オリエント急行殺人事件』のように、事件の捜査から解決に至るまで全て機内で行われたほうが作品のテーマ的にもエンタメ的にも良かったのではないでしょうか? (私がクローズドサークル大好き人間だからそう思うだけかもしれませんが) また今回はなぜか、実際に登場はしないにもかかわらず、『ゴルフ場殺人事件』でポワロと推理対決をしたジロー刑事の名前が、急に思い出したかのようにポワロの口から何度も出てきます。 『ゴルフ場殺人事件』のレビューでも書きましたが、犬のように地面に這いつくばって証拠を探すと言う捜査スタイルの、某世界的超有名探偵を皮肉ったようなキャラである彼は、正直最初からかませ犬感しかなく、ポワロのライバルになるほどの魅力も器量も感じないキャラだったのですが、そんな彼をポワロが皮肉る様子は、逆にポワロの方も少なからず向こうを意識して対抗意識を燃やしているようで、ポワロまで小物に見えるだけな気がしてしまいます。 そのジロー刑事に加え、作中のコカイン常習者を蔑む台詞といい、吹き矢という殺害方法へのディスりといい、この作品はなんだか随所にホームズシリーズへのあてつけ感があるのですが、クリスティ女史に「ドイルの小説なんか今読んだら全然面白くもないし出来もよくねーよ」的な意図がこめられていたならば、この作品もまた、時代的な価値抜きに今読むと面白いとも出来が良いとも感じない作品になってしまっていることに皮肉を感じますね。 (余談ですが当時の旅客機は客が通気口から外に物を捨てられたと言うのが驚きで、少し面白い薀蓄でした) ▼以下、ネタバレ感想 |
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太平洋戦争勃発直前、まさに日本が真珠湾攻撃を仕掛けんがために北海道のさらに北東にある択捉島に艦隊を集結させていた時。
主人公である日系アメリカ人の賢一郎はスパイとして択捉島に潜入していた。 そこで彼は島に住むロシア人混血の孤独な美しい女性と出会い…… 読む前から重い、固い、古臭いイメージを勝手に持ってしまい、ちょっと身構えながら読んだのですが、想像していたよりずっと読みやすい話でした。 また、確かに題材やテーマそのものは重いですが話の動きが大きく、キャラクターが活き活きとしているためエンターテイメント性も高い作品と感じます。 しかし、作中で南京大虐殺や朝鮮人の強制連行などにも触れているので、そういうのに拒否反応がある方は要注意です。 (私はこの問題に関しては何がどこまで事実かは判らず、また自分などが言えることは何もないと思っているので、基本的に作品とは切り離して考えています) 今作は日系アメリカ人の主人公、混血の私生児であるヒロイン、故郷を追われた朝鮮人やアイヌ人など帰属意識に悩み、苦しむ人々のドラマでありますが、物語のクライマックスの舞台となる択捉島もまた、当時は日本の領土でありながら現在はロシアの実効支配下にあり今日まで問題を抱えている場所であるということに、皮肉やメッセージを感じてしまいます。 余談ですが、先述の通り主人公の賢一郎はアメリカ人であり、日本に対する思い入れも無ければ、まさに作中で日本へのスパイ行為に来ているわけですが、私は不思議と彼に対して単なる感情移入ではなく「日本人」としての同族意識を感じてこの話を読んでしまいました。 日本人という単一民族はどうしても実際の国籍や生まれ育った土地よりも民族としての血の方を強く意識してしまうのかもしれません。 (実際賢一郎自身も、日本という国に対しては何も感じていなくても、日本人に自分の父親の面影を見てしまったシーンなどにそれが現れていると思います) ▼以下、ネタバレ感想 |
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個々の話は完全に独立しており、連作でもなければ、一貫したテーマがあるわけではないのですが
一冊を通して共通する独特の空気を感じる短編集です。 各話40~50ページ程度と短編としても特別長くは無いページ数にそれぞれ深いドラマと意外な結末が隠されており それぞれを長編にすることも出来たのではないかと思うほどの非常に高水準・高密度な短編集だと思いました。 ……ただ、理屈ではそう思うのですが、作品全体に漂う暗めの雰囲気に疲れ、いまいち楽しめなかったり、登場人物たちにあまり共感できなかったため、自分の好みだったかと言うとそれほどでもないです。 全体的に罪を犯した人たちへの同情、共感を誘うような意図の構成・演出を感じたのですが、個人的には「罪は罪でしょ」と思ってしまう部分が多かったです。 以下個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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殺人の汚名を着せられた人物の無実を証明し、真犯人を挙げるという典型的な法廷ミステリかと思いきや、この結末には衝撃を受けました。
発表された年代を考えても、これは国産のオールタイムベストのトップ10に入ってもいいのではないかと思います。 これほどのネタを下手に大作にせずに、長編にしてはコンパクトな分量に纏めているのも個人的には高評価ですね。 他の人の感想を読むと「文章が読みにくかった」というものがチラホラあり、私は全くそう感じなかったので驚いたのですが、人によって読みにくい文章というのは結構違いが出るものみたいですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『御手洗潔シリーズ』の長編第6弾。
まず冒頭からいきなり大きなフォントで全てひらがなのページが拡がり、びっくりさせられます。 幼児の書いたようなその文章からさらに読み進めると、徐々に成長を感じさせる高度な文章になっていくのですが、その内容は病的なまでの食物汚染へのこだわりや、まるで夢の中のような荒唐無稽、支離滅裂な出来事や世界の描写。果てはかの『占星術殺人事件』に影響を受け、記述者は複数の死体をバラバラにして結合させ一人の完璧な人間として蘇らせる”アゾート”の作成を試みるなど、まさに狂人が書いたとしか思えないような手記が延々100ページ以上に渡って続く……という冒頭部分から異様な作品です。 そしてその奇妙な手記の謎に御手洗が挑んだ時、そこに隠された事件が紐解かれていくというストーリーです。 今回も700ページ近い大作ですが、手記部分の重複を考えると実質そこから100ページ減でしょうか。 前々作の『暗闇坂の人喰いの木』、前作の『水晶のピラミッド』同様、エンタメとして面白いか面白くないかで言えば間違いなく面白いのですが、本格ミステリとしては物申したい部分が多すぎる作品でした。 それに加えて今作はキャラクター描写に関しても納得の行かない部分が多く、長所と短所が相殺し合いこの点数といった所です。 不満な点をあげるとます、探偵役を賢く見せるために、周囲の人間を愚鈍に書くというのは本格ミステリではよくあることですが、手記に書かれた内容は真実だと言う御手洗に対し「こんな手記は妄想に決まってる!」一辺倒の古井教授の描写がしつこくイライラさせられます。 これがこのシリーズによく出てくる、御手洗と敵対し、聞く耳を持たない傲慢な警察関係者とかならともかく、御手洗とお互い認め合っているような、その分野の第一人者であるとされる優秀な教授が、なぜこんなに頭が固く、察しが悪いんでしょう。 そもそも、この手記を御手洗の元に持ってきたのがこの教授なのに、御手洗の言うことを常に否定し「単なる異常者の妄想」と決め付けているのが意味不明です。 最初からこの教授はこの手記をただの異常者が書いただけの取るに足らないものと思ってるなら、これをわざわざ持ってきて知的なゲームの題材にしようとすること自体が不自然と言うか、何がしたいんだよこのおっさんって感じです。 教授はこの手記をただの狂人の書いたものとは思えないのだが、どうしても合理的な解答が見出せないために、御手洗を見込んで彼の知恵を借りにきたというのではダメだったんでしょうか。 あと今作は石岡くんをまるで奴隷のように扱う、御手洗の言動がはっきり言って不快です。 これまでの彼は変人であり、他人を振り回すことはあっても、友情には厚い男で、相手の方に敵意や傲慢さが無ければ、誰とでも親しくなれるような人物だったと思うのですが、今回の石岡くんを散々顎で使い、犯罪行為まで示唆した挙句「役立たず」呼ばわりするのは酷すぎます。 「他人は僕を変人呼ばわりするが、それは現代日本というごく狭い視野での話だ」という旨の発言もこれまでの作品の彼が言ったなら説得力がありますが、今回の彼の言動は、何時の時代のどこの国の価値観でも「対等の友人」に取る態度じゃないですね。 最後に『占星術殺人事件』は結局あまり真相には関係しませんので、『占星術殺人事件2』みたいな感じを期待すると肩透かしを食らいます。(私は食らいました) ……批判ばかりになりましたが、面白いことは面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ホラーと本格ミステリを見事に融合させる『刀城言耶シリーズ』の第四弾。
今回は山村に古くから伝わる童歌になぞらえて次々と人が殺されていくという、見立て殺人の黄金パターンが用いられた作品です。 ミステリとしての出来という面でも、ストーリーの面白さという面でも決して悪くはないのですが、これまでの同シリーズの作品から特に目新しい面が見られず、正直前作を小粒化させただけという印象です。 しかし『厭魅』や『首無』は度重なる視点の入れ替わりや、終盤の推理のフェイントの連続などが、そこが魅力とはいえ複雑化しすぎなので、良くも悪くもそれらよりは大人しめのこの作品はシリーズ四作目ではあるけれど、むしろ同シリーズの入門には一番なんじゃないかと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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80分しか記憶が持たない数学博士と、そんな博士の世話係として家政婦に雇われた”私”。そして彼女の小学生の息子。
そんな三人の交流の日々が描かれるお話。 数学と言うミステリと相性のいい題材の作品ですがミステリではなく、ハートウォーミングなストーリーです。 切ない場面や悲しい場面もありますが、あまりお涙頂戴な印象は受けませんでした。 語り手の”私”が少し蚊帳の外で可哀想感を覚えるほどの、博士と少年の相思相愛っぷりに癒されました。 博士の記憶は80分しか持ちませんが、博士がたびたび教えてくれる、何気なく日常に潜んだ数字の相関や法則が、彼らの永遠不変の絆となると感じられました。 私は基本的に、性格の悪い奴がいっぱい出てきて、憎しみあい、騙しあい、殺しあうような作品が好きなのですが、たまにはこういう話で心を洗うのもいいですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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片田舎には不釣合いと言えるほど万人に認められる美女である主人公。しかしその顔は度重なる整形手術で手に入れたもので、かつては畸形的と言えるほどに醜い顔を持ち、地獄のような青春期を過ごしていた……
女にとっていかに容姿が重要視され、醜い女性がどれほどそのことで苦しむのかという、誰もが理解していながら、どこか目を背けている現実をまざまざと突きつけられる作品です。 顔が醜いというだけで極めて悲惨な人生を送る主人公には多かれ少なかれ読者の誰もが心を痛め、読んでいて辛さを感じる話ではないでしょうか。 しかしそれでも先が気になってしまい、一気読みさせるパワーのある作品だと思います。 あまりの悲惨さに一回りして笑えてしまう、もはや一種のブラックユーモアと思ってしまう所もありました。 しかし、ただ暗くて重い話というだけではなく、個人的に主人公が少しずつ整形することで段階を踏んで容姿が磨かれていき、それに伴い自信や収入も次第に増していくという展開は、出世物語やサクセスストーリー的な爽快感もありました。 最初あらすじを読んだ時は「いくら整形したって凄いブスから凄い美人になれるわけないじゃん、整形して美人になれたら苦労しないし世の中美人だけになるわ」と所詮フィクションだろうと侮っていたのですが、まずは目の小さい手術から徐々に段階を踏み、少しずつ顔を変えていく経緯にリアリティと説得力がありました。 また、リアルで整形依存になってしまう人がそうなように、途中でやめておけばいいのに、整形のしすぎでまさに「モンスター」になってしまう話なのかとも思いましたが、主人公の整形以外の部分での努力を惜しまないのも含め、「客観的な美人」を追及、維持し続けるスタンスもいい意味で予想外でした。 リスクなどはしっかり提示した上で、決して整形に批判的な話ではないですね。 また、男性作家がこういった作品を書くと、男の心情描写はリアルでも女の目線にリアリティが欠如するのが懸念されますが、自分の周囲では女性からの評価も高く、男女双方の視点から上手く書けている作品なのだなと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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十字型という奇妙な形をした屋敷で発生する殺人事件。持ち主に不幸を招くという呪われたピエロ人形というオカルト要素。そしてそのピエロの視点から物語が描かれるという奇抜な構成。そんな設定を料理するのは安定して良作を量産し、どんでん返しにも定評のある東野圭吾氏。
という否が応でも期待せざるを得ない要素が揃っていた作品でしたが、やや期待はずれでした。 それなりに面白く、それなりに斬新で、それなりに良く出来ており、決して悪い作品ではないとは思うのですが、ハードルを上げすぎてしまいましたかね。 仮に東野圭吾氏の作品ではなく、知らない作者の作品を設定に惹かれて読んだならば「なかなかの掘り出し物だった」と満足していたかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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