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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 261~280 14/38ページ

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No.485:
(7pt)

掟上今日子の推薦文の感想

忘却探偵シリーズ2作目。1作目を読まずとも本書から楽しめます。
本書は3つの連作短編集であり、各話で扱うテーマは美術です。もう少し正しくいうと、美術の専門的な話ではなく、西尾維新のキャラクター属性が美術スキルを持つ者のお話。というのが正しいです。
話の構築も然ることながら、やはり西尾維新作品はキャラクターと言い回しの文章が魅力的でした。著者のデビュー作の『クビキリサイクル』にてすでに『絵画の天才』というキャラが出てきてしまっているものの、その分野での天才感を感じさせるエピソードを面白く感じました。
謎や事件はあるものの、その推理や結末の驚きに趣があるのではなく、忘却探偵や、関わる事件に登場する人物達の魅力が楽しい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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掟上今日子の推薦文 (講談社文庫)
西尾維新掟上今日子の推薦文 についてのレビュー
No.484:
(6pt)

記憶屋の感想

映画の予告を見て興味を持ち、原作を手に取りました。
『日本ホラー小説大賞の読者賞』を受賞している作品。ホラー系の応募作品となりますが、現代ではホラーというより青春ライトミステリの部類です。"都市伝説"要素が一昔前のホラージャンルの扱いになった感覚です。怖さやおどろしさはありません。内容はむしろ男女の恋愛物語が扱われるので、ホラーのレッテルを外して、ティーンエイジャー向けの青春小説として紹介したい作品だと思いました。※版元が同じ角川グループならMW文庫で世に出した方が人気が出そうと感じます。

記憶を扱う作品として、どんな記憶を無くすかで物語の広がりを期待する所ですが、本書は複数のパターンがあれど根底は男女間の恋愛物語。想い人が自分の事を忘れてしまったら。または記憶屋に頼む程、忘れたい記憶とはなんなのか。記憶についての若者の葛藤を描いた作品でした。良い印象としては先に述べた通りティーンエイジャーに好まれそうな物語。悪い印象としては、悩みに共感が得られない。若い人はそういう悩みを抱えてそれで記憶を消す考えに至ってしまうのかと選択肢の少なさを感じた次第。

設定は面白いしミステリ的な仕掛けもありますが、もっと凄い事ができそうなもどかしさを感じます。応募がホラーの賞なので仕掛けを望むのは筋違いなのですが、そう感じてしまう。
結局の所、結論が定まらず曖昧に終わる味になっており、ホラー、ミステリ、恋愛物、どの視点で見ても心に強く残る味がなく浅く終わってしまった読後感でした。文章は読みやすく設定も面白い。映画化含め今後の作品がどのようになっているかは興味があります。

▼以下、ネタバレ感想
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記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや記憶屋 についてのレビュー
No.483: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

時空旅行者の砂時計の感想

タイムトラベルを扱ったSF本格ミステリ。かなり好物でした。
過去の事件を解決する為に時代を遡る設定のミステリは世の中に沢山あります。特殊設定のSFミステリについても他の著者を思い浮かべる事でしょう。そんな中でも本書が光る要素は、しっかりとした硬派な本格ミステリである事と、ストーリーの面白さだと思いました。

病気の妻の呪いに関係する過去の事件。謎の砂時計の声に従い過去へタイムトラベルした夫。事前に調べてある事件の予備知識を参考にしつつ、探偵として事件に関り真相解明を目指します。
SF設定はある種何でもアリになってしまう所、本書は丁寧にタイムトラベルの条件定義を行っています。何ができて、できないのか。時間や移動先、転移可能な空間の量など、その設定のお話自体が面白いので把握しやすかったです。特殊設定系のSFやファンタジー要素と本格ミステリを合わせる作品においては、この条件定義の把握のしやすさがとても大事。ここは問題なく楽しかったです。
ミステリとして見ても、クローズド・サークル内にある館での連続殺人事件。見立てやバラバラ殺人の謎など、盛り沢山な面白さでした。

難点というか欲を言うと、終盤の解答編については、種明かしの演出や説明のわかりやすさが欲しかった所。
沢山の謎がありましたが、解答を一気に並べたような感じで、1つ1つの真相を把握して驚きを味わう間がなかったです。
『実は○○だった!』という演出ではなく『実は〇〇なので、その為こちらがこうなって……』という感覚。合っているのか検証できないまま、一気に答えが流れて次の話に進んでしまう感じなので、せっかくの仕掛けが勿体なく感じました。

デビュー作なので今後も期待。そして今まで応募していて落選してしまっている作品も読んでみたい。展開が読めない先が気になるストーリーと爽やかに閉める読後感がよく、他の物語にも興味が湧く次第です。

▼以下、ネタバレ感想
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時空旅行者の砂時計 (創元推理文庫)
方丈貴恵時空旅行者の砂時計 についてのレビュー
No.482:
(5pt)

潮首岬に郭公の鳴くの感想

北海道函館市を舞台とした本格ミステリ。潮首岬も実在する場所。
ただしトラベルミステリの様な観光紹介ではなく、この場所の環境や生活する人々の地域柄を強く感じる作品。

率直な感想として終盤までの9割ぐらいは地味で辛い読書でした。
登場人物が多くて把握し辛い。一族の親子やら兄弟姉妹やらで苗字が同じ。苗字が違う人でも職業が医者で同じ傾向。個々に奇抜な特徴がない為、初読で人物の把握が困難でした。
松尾芭蕉の俳句の見立て殺人や雪の足跡問題など本格ミステリ要素は好みですが演出なく地味。作品雰囲気としては物語終盤まで地道な聞き込み捜査が続きます。人物の把握が辛かった為、徐々に手がかりが得られていそうなんだけど、さっぱり繋がりが分らず物語に入り込めませんでした。ここまでの気分は☆3ぐらい。

ただ終盤は目が覚めるように面白かったです。
事件の真相が明らかになった所で、トリックの面白さや人間関係の絡みの構築、設定の妙を楽しみました。
90年代前後のような古い雰囲気だったのが、古き良きミステリを現代風にアレンジした良さを感じました。

なので、もう少し読書中もワクワクして先が気になるような演出や刺激となるエンタメ要素があれば良かったと思う次第。
現場の図解も真相解説時にあるなら、なんで事件発見時に提示しないのだろう。見立て現場や、足跡の場とか、図で先に提示すればアクセントとなるし読者も把握しやすかったのに。という具合でして、真相が良かっただけに、それまでの辛い読書が残念に思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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潮首岬に郭公の鳴く (光文社文庫)
平石貴樹潮首岬に郭公の鳴く についてのレビュー
No.481:
(7pt)

刀と傘 (明治京洛推理帖)の感想

普段読まない時代劇もの。
本格ミステリ大賞2019年度受賞や最近のランキングに取り上げられていたので手に取りました。

幕末~明治初頭を舞台とした連作短編小説。実在する江藤新平と本書架空の鹿野師光のコンビによる推理帖です。
最初の1編は『佐賀から来た男』。この2人の出会いの物語。
60ページほどの物語の中、半分までは慣れない時代・歴史もの小説に苦戦の読書。読んでいて失敗したかなと思ったのが正直な感想でした。人物や時代背景が頭に入らない。が、ミステリとして滅多切りの遺体についての謎や真相が明かされるやこの時代にマッチした物語で素直に驚き納得しました。あれ、この本面白いぞと認識を改めた一幕でした。
先に伝えると読後の結果としては歴史・時代小説に詳しくなくても楽しめる一冊でした。登場人物色々いますが、江藤新平と鹿野師光の物語。この2人だけ抑えて置けば問題ないです。時代背景を知っているならより情景が浮かび楽しめるのかも。知らない自分でも楽しめたので苦手意識なくても大丈夫かと思います。

物語は『弾正台切腹事件』、ミステリーズ!新人賞を受賞した『監獄舎の殺人』、『桜』『そして、佐賀の乱』と続きます。
どれもミステリとして仕掛け云々というより、動機が凄い。そういう心情のもとのこの事件か。。。と時代ものと合わせた背景が見事でした。
また、江藤新平と鹿野師光の二人の視点による事件の見え方が様変わりするのにも驚きます。文章として描かれていないのですが、読者はそう感じる事でしょう。このバランスが凄いです。後味・余韻が沁みる物語の数々でした。普段読まないジャンルなだけに新鮮でした。
刀と傘 (創元推理文庫)
伊吹亜門刀と傘 (明治京洛推理帖) についてのレビュー
No.480: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界樹の棺の感想

☆7+1(好み補正)
ファンタジー×SF×ミステリ。
特殊設定ミステリの部類。その設定が隠されている為、モヤモヤの違和感を感じながらの読書。帯にある通り、終盤で明かされる秘密(設定)を把握した上で再読すれば話が理解できて複雑な試みが楽しめるといった作品。構成が複雑なので悪い意味で2度読みが必要。この点は好みが分れそうです。

正直、初回の読書では話が理解できませんでした。ただ理解できず違和感があれど話は面白く読めます。
物語は大きく2つのパートで進行します。
1つ目は石国と帝国の協定に関する物語でファンタジー寄り。協定に違法がないか世界樹を調査する話。<引き金屋>の異名を持つラインハルトが曲者で、戦争へ勃発しそうな緊迫感が漂う展開に手に汗握ります。
2つ目は別チーム視点で世界樹を調査する話。ただしこちらは世界樹の中で殺人(?)事件が発生するミステリパート。
この2つを同時進行で読むのですが、なんだかおかしいのですよね。この違和感の正体を読者はあれこれ想像しながら読む感じです。

特殊設定の秘密が分かれば、ミステリの真相や世界の姿も明らかになるのが見事。
そしてそれが何とも言えない心境になる。正にファンタジー×SF×ミステリな作品でした。
ファンタジー作品も許容範囲なら楽しめると思います。こんな複雑な構成にしないでも良さそうなのですが、初読の違和感と2度目の楽しみが面白さのポイントなのかも。
世界観共に好きな作品でした。

備忘録として自分なりの解釈をネタバレ側でメモします。

▼以下、ネタバレ感想
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世界樹の棺 (星海社FICTIONS)
筒城灯士郎世界樹の棺 についてのレビュー
No.479:
(4pt)

終わった恋、はじめましたの感想

著者の本は一通り読んでます。
過去作の傾向では、読みやすい文章と気持ちよい読後感、そして最後のちょっとした仕掛けがあり、とても好みです。

が。本書に限っては点数低いです。これは著者や作品に対してというより、出版社の宣伝による影響で、期待したものとちがうがっかり感を得てしまった為です。
本書は純粋な初恋に近しいピュアな恋愛小説です。
それを過去の作品傾向から、『シュレディンガーの猫』とか『青春恋愛ミステリ』で宣伝してますが本書にはそのような要素は感じられなかったです。あくまで個人の感想ですが、講談社タイガのレーベルには何度も過剰な宣伝と中身が違う事にがっかりさせられましたが本書もその1つだと思いました。売れる事は正義だったりしますので、その視点では宣伝は大成功なのですが信頼を失うでしょう。作品自体はよいのに変な宣伝と釣り方するから、反感を得てしまう。

という具合で、作品とは違う感想を得てしまった次第。
期待と違うものなので、中身はよくある恋愛小説という感想で落ち着いてしまい、何か刺激を受ける事はありませんでした。本書にだけあるような個性が見当たらないです。
話は綺麗にまとまってます。表紙も素敵です。それだけに残念な気持ちでした。
終わった恋、はじめました (講談社タイガ)
小川晴央終わった恋、はじめました についてのレビュー
No.478:
(4pt)

イヴリン嬢は七回殺されるの感想

タイムループ×人格転移のミステリ。
設定や緻密な構造、真相の仕掛けはとても面白い。
が、読んでいて楽しかったのかというと辛かったのが本音です。

小説としては複雑な構成で新鮮なのかもしれないですが、これはアドベンチャーゲームですね。
プレイヤーが異なるキャラクターを操作して、それぞれの場面を見ながら真相に迫っていく。イヴリン嬢が殺されたらゲームオーバーでやり直し。もしくは誰かに自分が殺されるかもしれない。そういうアドベンチャーゲームを小説にした印象でした。
ゲームの『やりなおし×別キャラクター操作』を『タイムループ×人格転移』という売りにしてPRしている作品です。

本書の評価は割れそうです。
要素要素はとても面白いのです。ただそれを小説にした本書は複雑というより状況の表現が分り辛く、楽しむのではなく理解する事を強いられる為に読書が辛い。悪い意味で2度読み必須な内容でした。設定の構造で評価する人。読み物で評価する人。どこに注目するかで感想が分れそうです。好きなテーマだっただけに期待し過ぎたのかもしれません。ちょっと合わなかったです。
イヴリン嬢は七回殺される
No.477:
(7pt)

彼女は死んでも治らないの感想

著者初読み。
最初の見開き2ページで惹き込まれました。文章はめっちゃ好み。舞城王太郎を感じさせる文章の圧力がとてもいい。
女子高生の主人公が喋り続ける文圧が魅力のライトミステリ……ん。これミステリ?いや、ミステリっぽい展開で駆け抜ける良い意味で不特定ジャンルになる作品という感じ。

主人公が大大大好きな沙紀ちゃんは冒頭で首無し逆さ吊りで発見される。しかも密室。ミステリ好きな展開。首無しと言えば入れ替わり含めて被害者が誰だかわからない。そんな事を思わせた所で、いやいや~首がないからって大好きな友達間違えないっしょ。とバッサリな主人公。
ボケとツッコミで例えると、ボケがミステリ的な要素。ツッコミが現実的な考え。設定だけ書くと東野圭吾の『名探偵の掟』を思い出します。ただ、学園もので女子高生の百合っぽく明るい雰囲気かつ文圧感じる喋りで展開されるととっても新鮮で面白い。ひとまず、彼女を救う為に推理開始!ん。死んでるのに救う?

ぶっ飛んだ展開と設定云々も然ることながら、ミステリを用いた女子高生の駆け抜ける喋りの文章が魅力的。
小説として楽しめた一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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彼女は死んでも治らない (光文社文庫)
大澤めぐみ彼女は死んでも治らない についてのレビュー
No.476: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人選挙の感想

深水黎一郎作品は1作ごとに個性的なテーマを感じます。本作は『読者が犯人を決める』というもの。

事前にネット上で問題編を公開し、誰を犯人にしたいか投票を行った企画作品です。
誰が犯人かを読者が考えるのではなく、投票された人物を犯人にする為に作者はどのような物語を作るのか?という趣旨。
誰でも犯人にできるという事から本書は7つの解決編が収録されています。
一昔前なら多重解決ものと呼ばれる作品ですね。そこを読者参加型にする事で新しさを生み出しています。SNSが一般的になった今の世だからできた作品であり、その着眼が見事です。

講談社は昔から読者を巻き込む企画が多く、金田一少年の犯人当てや最近のメフィスト賞なら木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』でもWEB投票をしています。読者に犯人を決めてもらうという応募企画と作品の実現は版元と著者が見事にマッチした結果だと感じました。

一方この企画に参加していない人。本書単体で楽しむ人にとっては、誰でも犯人になる事からミステリにおける推理や驚きを楽しみ辛い作品となります。一番のネックは、各解決編はご都合主義が多く、ルールに沿った上で何でもアリだと感じてしまう所。指定の人物を犯人する物語を書けばよいので追加設定が多いのが敬遠されそうです。またバカミスのように笑って誤魔化せるような軽い雰囲気で描かれるので好みが分れる事でしょう。

プラス面でみれば、各解決方法は人物の性格が様変わりしミステリの趣旨も変化するのが凄まじい。よく考えられており、かつ作り上げる技巧の凄さが味わえます。先程、追加設定が多いのが気になると書きましたが個人的にはアリです。
過去作の多重解決もの『ミステリー・アリーナ』の作者側の視点に読者を立たせた作品であるとも感じます。著者は過去作でもクラシックのオペラにおける解釈の多様性を述べていることから、1つの物語の中にいろんな可能性を生み出す事に一貫していると思います。これはとても好みです。

という感じで、本書はミステリを読み慣れた人向き。さらに著者の過去作品に触れている程楽しめる作品です。
初めて触れる方でも、どの結末が自分の好みであるかで好きな作品傾向が分る性格判断テストになっているのが面白いと思います。自分は開陽界の意外な流れや玉衡界の〇〇ものになる流れが好きでした。今回選択肢がなかったですが個人的には建物が犯人みたいなトンデモ話が好きなので、自分が想像していない所から答えがくる刺激がやはりミステリの面白さだと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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マルチエンディング・ミステリー (講談社文庫)
No.475:
(6pt)

雪が白いとき、かつそのときに限りの感想

日本の90年代の本格ミステリを彷彿させる作品。学園&青春ミステリ。
事件は雪の降る校舎での足跡なき殺人です。
華文ミステリと言えど雰囲気は日本の学園ミステリを読んでいる感覚でした。

足跡問題や雪密室など日本のミステリでは近年見なくなりましたが、中国から新本格のリニューアルな感覚で刊行される世の流れは面白いです。本書はハヤカワポケットミステリでの出版ですが、いつものポケミスの表紙と雰囲気が違います。日本の青春もの・ライト層の出版物な印象。雪を扱うミステリは古いかなと思われる所、この表紙のおかげで美しい雪の情景をイメージさせるプラスの効果を感じました。

本書の難点を述べると登場人物の名前です。人物名:馮露葵、 顧千千、 姚漱寒……。
海外ミステリのカタカナ名以上に見慣れない漢字名なので読めません。
おそらく版元もこの難点は感じており細かな対策が見られます。本書付属のしおりには登場人物一覧を記載。章ごとに人物名が現れる時はルビを再掲載させる。という具合。
ただそれでも読書中に都度名前を確認するのは集中力が途切れますし、もうこの人は男なのか女なのかもわからず、何となく全員女性キャラとして読んでいました。女の子同士がキャッキャする百合な雰囲気も感じるのでそれで問題ないかなと。

他の著者との比較で恐縮ですが、同じ華文ミステリで好きな作家の陳浩基の作品の登場人物は混乱しないのです。何でだろうと思って見直すと、名前をカタカナにしたり場面に登場するキャラが少ない為、把握しやすくなっていました。
もし今後も作品が出版される場合、人物がもっと把握しやすくなれば良いなと思います。本格ミステリと登場人物達や場の雰囲気はとても好みなので。ただこれは個人の問題であり中国名に慣れればよいか。。。そんな事を思いました。
雪が白いとき、かつそのときに限り (ハヤカワ・ミステリ)
No.474:
(5pt)

凍てつく太陽の感想

作品自体はとても圧倒的。超骨太の濃い作品でした。
終戦間際の戦争小説において、舞台が北海道であるあまり経験した事がない作品。
この本のおかげで、北海道でのアイヌや朝鮮との関係、民族問題や差別、特高警察といった知識を得る事ができました。ミステリを読んで新たな知識を得られるのはとても嬉しいです。

一方、点数について。
好みの問題なのですが、本書は社会・歴史の教科書を読んでいる気分でした。
密度も濃い作品な為、1文1文がとても大事。なので物語を楽しむ前に、内容を把握する事に集中しなければいけない読書でした。人物や場所や状況、時代背景など頭の中で構築していかないと物語に置いてけぼりになる為、読むのが辛かったです。なのでこの点数で。

それにしても著者の作品のクオリティはどれも高い。
好みはあれど、どの作品も緻密な情報と作品への昇華に圧倒されます。改めて思いました。
凍てつく太陽
葉真中顕凍てつく太陽 についてのレビュー
No.473: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件の感想

異世界転生×本格ミステリ。
これは好みの作品でした。☆8+1(好み補正)

剣と魔法の世界へ転生した元警察官の主人公。平民出身ではあるが、前世の知識を活用し貴族が集う名門校に入り優秀な成績を収めます。その後、王妃や姫も出席する表彰式の祝典にて密室による不可能犯罪が発生。警察や捜査体制がない世界、そして魔法が存在する世界において、合理的な解釈と推理によって事件を解決できるか。という流れ。

本書には「読者への挑戦」が存在します。
これは著者がフェアなミステリを心がけている事を感じます。
本書の世界において、魔法とはどのような存在なのか。仕組みやできる事できない事が丁寧に書かれている為、ファンタジー作品ではありますが突飛さはなく世界観に馴染めました。

前半の異世界転生ものの定番である俺つえー物語から始まり、学園内での友達との生活は青春ものとしても面白い。圧倒的な貴族の主人公属性のレオや、いじめっ子なんだけど憎めなくなるボブ、ヒロイン的なキリオ。魔術師の校長先生のマーリンなど。キャラクターがとても分かりやすく良いキャラなのが読んでいて気持ちよい。頭の中ではハリーポッター補正していましたが、そんな雰囲気。異世界転生小説の軽いラノベではなく、ハリポタのような雰囲気の学園ものとして楽しめました。表紙をみれば心構えを感じますね。中身は結構硬派です。それでいて文章が読みやすいのも〇。他、名探偵の名前が"ゲラルト"なのが、ウィッチャーっぽくてクスっときました。

ファンタジーの世界でミステリという作品は他にもあります。が、本書の良い所は魔法や異世界転生の設定がミステリに密接に関わり必然的である事です。主人公の状況や物語を含めて、雰囲気だけではない世界観の構築が素晴らしかったです。異世界においての名探偵の存在理由やゲラルトが行う推理についても楽しめました。後半でヴァンが名探偵を模す心情が見事。名探偵とは何かというテーマも楽しめます。
続編があれば続けて読みたいシリーズですね。本作にて誕生~学園編は大分やり切ってしまった感じがする所ですが、タイトルに『異世界の名探偵"1"』とあるので2作目も検討中なのでしょう。どのような続編がでるのか楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件 (レジェンドノベルス)
No.472: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

紅蓮館の殺人の感想

館ものの本格ミステリ。
落雷により山火事が発生し、館へ火の手が迫るタイムリミット模様。さらにカラクリ仕掛けの館、殺人鬼の存在、名探偵の対決、山火事に囲まれるクローズドサークルetc...と、ミステリのガジェット豊富でワクワクな設定でした。
ただ、本書のテーマは犯人当てやトリックというミステリではなくて、「名探偵の存在意義」に趣が置かれていると感じました。もちろん推理模様もありミステリを十分に楽しめますが、変わった展開で話が進行します。
山火事による時間の制約がある中、生存と真実どちらを優先させて行動するか。なかなか面白いテーマでした。

ちょっと思う所として名探偵の葛城とワトソン役の田所君。エラリークイーンみたいに悩みや葛藤を描きたいのか、作品内で成長する青春模様な結果からなのか、完璧そうで弱く、弱そうで強くなるなど、キャラがぶれぶれなのが気になりました。圧倒的な名探偵なら気持ちが良いのですが、凄い所と弱い所で相殺された普通の高校生でモブ化の印象。敗北や負け惜しみにも見える弱さ。それを狙っているのかもしれませんが、名探偵をテーマと感じる本書において、終盤この二人の魅力が減衰していく感じは後味が悪かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)
阿津川辰海紅蓮館の殺人 についてのレビュー
No.471: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

五覚堂の殺人 〜The Burning Ship〜の感想

館もの+数学のミステリ。堂シリーズ3作目。
五感を表現したという五角形の五覚堂。そこで起きた密室殺人。

冒頭で示される館の機構は、「館は動き」そして「回転する」という事。講談社から出版される館もの作品の傾向として、3作目は動く事が多いのでそれに沿ったテーマだと感じます。この奇妙な館と壮大な仕掛けが本作の面白さです。そしてそこに数学を絡めたミステリとしてとてもワクワクします。前作までの評判で苦手とされていた数学話も今作ではエッシャーやフラクタルと言った専門科目ではなく高校・大学辺りで触れるものなので大変読みやすくなっています。個人的にはどちらも好きな話だったので本作は苦なく楽しめました。

惜しい点としては、トリックや犯人特定の消去法について、とても凝った仕掛けを行っているのですが、伏線がないというか唐突に明かされる為に衝撃度が弱く、読者の記憶に残る名作になりそうでなり辛い勿体なさを感じます。仕掛けだけみたら島田荘司の御手洗潔シリーズみたいな大仕掛けで同じ傾向なのに名作にならない。本書の十和田も御手洗潔も変人なのに魅力度が違う。この感覚は何だろうと思う次第。キャラの心の問題だろうか。十和田は数学でドライな感じで近づきがたいからかな。そんな事を思いました。

とはいえ、減点的な考えでは色々気になる事が多い本シリーズですが、加点的に考えればミステリの面白さや魅力が豊富に盛り込まれていて大変好物。続きも読んでいきます。

▼以下、ネタバレ感想
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五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社文庫)
周木律五覚堂の殺人 〜The Burning Ship〜 についてのレビュー
No.470:
(8pt)

失われた過去と未来の犯罪の感想

全人類が記憶障害になり、長期記憶が出来ない世界になった話。
非常に面白かったです。あまり経験のない新しい読書体験でした。

序盤は斬新な災害もの小説としての混乱が描かれます。
突然記憶が保てなくなる世界。何かおかしいと感じても、その感覚すら忘れてしまう。また、全人類が同時に記憶障害になると、そのおかしさを指摘できる者もいなくなる。災害小説としての斬新な発想と、そうなった世界では何が起きるかのシミュレーションとしてのリアルさを感じました。

中盤からは記憶が保てなくなった世界。長期記憶を補う為に、脳と外部記憶メモリを繋げた未来が描かれます。人間の記憶が外部メモリ化された世界では、どのような問題が発生するのか。また違法な犯罪が行われるのか。短編集のようにいくつかのパターンの物語が描かれます。これらも総じて面白い。個人的には、SFやミステリというより人間の心は何処にあるのか?という哲学を感じました。肉体と記憶が分離できる場合、人の死とは何なのか、肉体が滅んだ時?記憶メモリが破壊された時?と言った具合に考えさせられます。

著者の本は少し読み辛く苦手なイメージがあったのですが、本書は扱うテーマが難解ではあるものの設定や世界観が分りやすいので読みやすかったです。
失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)
小林泰三失われた過去と未来の犯罪 についてのレビュー
No.469:
(7pt)

パラレルワールドの感想

元々は東日本大震災を対象としたチャリティアンソロジーの為のショートショート。その話を元に長編化された作品。
その為、震災の被害の辛さ、大事な人を亡くした悲しみ、家族の絆と言ったテーマを根底に感じました。その点は非常に惹き込まれます。

本書パラレルワールドの面白い特徴は、異なる世界を同時に観測し行動できる人物がいる点です。世界にずれがあれば、ずれを同時に見聞きできてしまう。一人の人物が二人重なって見える状態です。
震災により父を亡くした世界。母を亡くした世界。その両方の世界に存在する息子。息子を介して父は別の世界の母と会話できる状態です。この設定は震災で突然亡くした大事な人へ伝えられなかった後悔や、亡くした人は別のどこかで幸せになって欲しいという希望や救済を感じられる内容だと感じました。

本書は二部構成。
第一部が上記震災と家族の話。第二部からは様変わりします。
長編化にあたり、小説として起承転結を構成する為に作られたと思われる第二部の事件については、著者の持ち味の時間SFを活かした内容でした。異なる世界と言わず、亡くした人との会話なら幽霊小説でも良いわけです。そうではなくパラレルワールドが意味のある内容となっているのは面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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パラレルワールド (ハルキ文庫)
小林泰三パラレルワールド についてのレビュー
No.468: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

もう年はとれないの感想

敬老の日を切っ掛けに老人が主人公の話を読書。
表紙の第一印象から、重く華がなさそうな硬派な話かと思いましたが、読んでみたらユーモアあふれるテンポの良い話でした。

まず話のストーリーがわかりやすいのが良かったです。
87歳の爺さんが戦友の見舞いに行った所、臨終の言葉として宿敵の相手が生きている事。そして財宝を持っている事が伝えられます。目的がハッキリしていて宿敵と宝探しです。この目的の話の中に不可解な殺人事件が発生する流れ。

本書の面白い所は主人公のバック・シャッツの爺様。皮肉や老人ネタをふんだんに盛り込んだセリフ回しが痛快。老人設定うんぬんではなく、文章が面白いので小説として意味のある所が魅力でした。キャラクターや主人公の人生物語を十分に堪能できましたね。

ミステリ的な点。特に殺人事件については心残り。理詰めでこちらから解決を見出すというより、事件に巻き込まれて、うまく乗り越えて解決してしまう。犯人は誰なんだろう?という分らなさは良かったのですが、犯人は何でそんなに目立つ事しているの?という行動が現実的にしっくりこなかったです。もうちょっと犯行の説明や犯人を割り出す面白さが欲しかった所です。
とはいえ、総じて面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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もう年はとれない (創元推理文庫)
No.467: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

medium 霊媒探偵城塚翡翠の感想

凄い傑作でした。

帯コピーは『すべてが、伏線』の強気な一文のみ。発売したてなのにネットで絶賛ばかりの評判。実は宣伝活動やステマを懸念していました。でもここまでされると気になります。
美麗な表紙に惹かれて購入。きっと版元も自信あるのでしょう。という気持ち。

結果、疑念も払拭される超絶面白い本格ミステリでした。

予備知識が無い方が楽しめるので、軽い感想を。
著者の本はマツリカシリーズを読んだ程度ですが、その感覚と大分違い、重い雰囲気の真剣な本格路線です。そこへ男性が好みそうな女性キャラ城塚翡翠が登場しライトな雰囲気を加えます。キャラも推理も読んでいて楽しい。文章もとても読みやすく、何故か苦手意識が芽生えていた著者作品への印象を改めました。
とはいえ、所々に現れる制服やふとももetc...著者らしさもバッチリ。特に何かは読書前に印象を与えてしまうので述べませんが、読後に思う事は著者の今までの要素の集大成で構築されたミステリです。
本書単体作品なので、初めて著者の本に触れる方も大丈夫。

近年珍しくなったコテコテの本格ミステリが楽しめます。本格好きならおすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼medium 霊媒探偵城塚翡翠 についてのレビュー
No.466:
(7pt)

ケーキ王子の名推理の感想

タイトルに名推理とありますがミステリ成分はほんのわずか。少女漫画のような青春恋愛小説です。

世界一のパティシエを目指すイケメン王子。学校では女性に冷たい態度。そんな彼にたまたまケーキ屋で出会った女子高生の未羽。彼女はケーキ大好きっ子。ケーキの事なら良い所も悪い所も熱く語れる。そんな二人の出会いとストーリー。

ちょっとした謎や疑問でも、王子が解いて語ればキラキラと鮮やかで頭良く見えます。乙女からは名探偵に見えるわけですね。タイトルの印象はその感覚でした。特段ロジカルな推理というわけでもないのでミステリを求める方には物足りないです。
一方、青春ものとしてはとても面白い。あらすじや設定はベタに感じますが、読書中の雰囲気がとても気持ちよい。デザート話で甘い。王子と未羽の青春模様も甘い。甘々な話ですけど悪くなく楽しい。話の起伏でピンチな状況もある。例えば学校一のイケメン王子と仲良くすればファンの女子からは嫉妬を買い陰湿なイジメになりかねない。そんな状況を読者の嫌になりすぎない絶妙な分量と感覚で描かれ解決する。これは悪い状況の描き方が巧い。読者は甘いだけでなくピンチや解決も体験してより良い気分になるというわけ。読後感も良かったです。
王子と未羽、二人ともキャラクターが良くて読んでいて楽しい。そのうちドラマ化しそうだと思いました。
ケーキ王子の名推理 (新潮文庫nex)
七月隆文ケーキ王子の名推理 についてのレビュー