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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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英国ミステリの女王が1995年に刊行した第2長編。猟奇的な殺人と醜悪な外貌が似合い過ぎる犯人に違和感を抱いた女性ライターが事件の真相を探り出す、サイコ・ミステリーである。
母と妹を殺害して切り刻み、なおかつそれを人間の形に並べ直すという異常な犯行で無期懲役に処せられ、刑務所内では「女彫刻家」と呼ばれているオリーブ。彼女の物語を書くことを命じられた女性ライターのロズは、最初の面会でオリーブに圧倒された。自供と犯罪現場の状況に矛盾はなく、本人が弁護士を拒否したこともあって誰もが異常者だと断定し、有罪を疑っていないのだが、複数の精神鑑定では正常と判断されていた。さらに、面会の場でロズはオリーブに理性の閃きを感じ取り、オリーブの犯行ではないのではと疑問を持つ。だとすると、なぜやってもいない犯行を自供し、唯々諾々と服役したのか? ロズは事件の関係者へのインタビューを続けて真相を探ろうとする…。 犯行はサイコ・サスペンスだが、隠された真相は古典的なミステリーで、そのアンバランスが面白い。MWA最優秀長編賞を受賞しただけのことはある傑作で、サイコもののファン、犯人探しもののファン、女性探偵もののファン、いずれにもオススメしたい。 |
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東京で暮らすアラフォー独身のフリーカメラマンの葉子。バツイチで子無し、まずまずの仕事と腐れ縁のような不倫関係を軸に、それなりに穏やかで平凡な日々を送っていたのだが、離れて暮らす兄の息子が東京の塾の集中講座に参加するためにしばらく居候させて欲しいとやってきた。ひとりでの気ままな暮らしを邪魔されることを危惧した葉子だったが、誰かの世話をすることの充実感も味わった。塾の講座が終わり甥が帰り、心に空虚感を覚えていた葉子だったが、それからすぐ、今度は中学3年生の姪が家を飛び出し葉子を頼ってきた。甥と姪、二人の父親はガンで入院し、葉子の同級生でもある母親は看病に追われており、姪は自分の不安定さを持て余しているようだった。同じ頃、不倫相手である杉浦の妻が殺害される事件が起き、杉浦は容疑者と目された。次々に起きる問題に葉子は翻弄され、自らの心の中を行ったり来たり、自分の立つ位置が分からなくなってきた…。
故郷を捨てて生活を築き上げ、恋愛も理性的にコントロールし、自立した人間として誇りを持って生きてきたはずなのに、それが脆くも崩れていく。アラフォーの不安がメインテーマ。殺人事件も警察の捜査もあるが、ミステリーではない。 生きることの苦さを知る人にオススメする。 |
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驚異的なロングシリーズを続けている「イブ&ローク」シリーズの57作目。人気俳優夫妻が開いた豪華パーティーで主催者の俳優が毒殺されるという派手な事件が主題の華やかなロマンス・ミステリーである。
ニューヨークの高級ペントハウスで開かれたパーティーの最中に、主催者である大スターがシャンパンに入れられたシアン化物で毒殺された。200人を超える招待客や大勢の裏方スタッフ、しかも参加者は映画、演劇、マスコミの関係者ばかりで目撃証言も素直に信頼できず、イブたちの捜査は困難を極める一方だった。それでもイブは、25年前に被害者の妻が関係した悲劇的な事件との繋がりを見つけ、徐々に捜査の網を絞っていく・・・。 明確な物証がなく、状況証拠と推測だけで謎を解くストーリー展開は冗長でツイストがなく、ミステリーとしては失敗作と言わざるを得ない。 シリーズ愛好者以外にはオススメしない。 |
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2022〜23年に雑誌連載された長編小説。著者の出世作「永遠の仔」から25年、時代と社会の意識変化を反映した社会派ミステリーである。
暴行殺害された中年男性の遺体には「目には目を」というメッセージが残されていた。しかも被害者は、3年前に集団レイプ事件を起こした少年の一人の父親だと判明。当然のこととしてレイプ被害者の家族、加害者仲間の少年たちが容疑者と目され警察は監視、証拠固めを進めるのだが、事件の筋を読みきれないうちに次の殺人が起きてしまった。 タイトルから想定できるように性犯罪の加害、被害の問題を追及するストーリーで、犯罪を犯したものの罪はもちろんだが、犯罪者を誕生させた社会が根源的に持ちながら一向に改善されようとしない無知、無自覚を鋭く突き、読者に深く考えさせる。実際に起きたあれやこれやの事件を想起させるエピソードが多く登場するのもリアリティを高めている。ジェンダーという言葉さえ使われていなかった25年前から社会はどれだけ進歩できたのか、ただ年月が流れただけなのか、著者の問題提起が強く印象に残る作品である。 「永遠の仔」が面白かった人はもちろん、天童荒太のファンには絶対のオススメだ。 |
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英国の歴史小説作家によるナチ時代のベルリンを舞台にした初の歴史ミステリー。連続女性殺人事件の捜査を中軸に虚実交えて、犯人探し、ナチ政権下の生きづらさを鮮明に描いた傑作エンターテイメントである。
1939年12月、戦時下のベルリン。元レーシングドライバーで切れ者の国家保安警察の警部補シェンケは突然、ゲシュタポの局長に呼び出され強姦殺人の捜査を命じられる。被害者は元女優でナチ党の古参党員の妻だが、生前の行状に問題があったという。事件が党内の勢力争いに利用されたり党の体面を汚すことを恐れる党幹部が、党員ではないシェンケを選んだらしい。政治に距離を置くシェンケは刑事の本分を全うすべく淡々と捜査を進めるのだが、まもなく同様の手口の事件が発生。さらに事故として処理されてきた過去の案件の中に関連性がある事案が見つかり、連続殺人の疑いが濃くなった…。 単なる連続殺人(この本筋もよくできている)だけでなく、ナチ党内の勢力争い、戦時下、ナチ政権下の閉塞感がリアリティ豊かに描かれた歴史ミステリー。警官として愚直に任務を果たしたいシェンケが否応なく権力闘争に巻き込まれ苦悩する姿は、今の時代の閉塞感にも通じるものがあり、多くの読者の共感を呼ぶだろう。 歴史ミステリーファン、警察小説ファンのどちらにもオススメする。 |
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タイトルからは一流ブランドに関するエッセイかショートストーリーかと思うが、中身は物質を契機とした人の心の動きを掬い上げるような文章群。エッセイ、小説、自伝などが入り混じっている。
吉田修一ファンならそれなりに楽しめるだろう。 |
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北アイルランドの刑事「ショーン・ダフィ」シリーズの第5弾で、エドガー賞最優秀ペーパーバック賞受賞作。完全な密室状態の古城の城塞から転落死した女性ジャーナリストの事件をきっかけに、熱血刑事が上流階級の傲慢を暴いていく、ハードボイルド警察小説である。
冬の早朝、夜には固く閉ざされる古城の中庭で女性の転落死体が発見された。完全な密室状態の城内に誰かが侵入した形跡はなく、当初は自殺と判断されたのだが、死体の状態に違和感を持ったショーンは他殺を疑った。そんな中、上司であるマクベイン警視正が車に仕掛けられた爆弾で殺害された。当時激化していたIRAによるテロと言われたのだが、これにもショーンは納得できなかった…。 古典的な密室殺人と思わせておきながら、北アイルランドの政治的混迷、さらには上流階級人種の腐敗まで、話はどんどん大きくなっていく。さらに、こじらせ警官であるショーンの私生活の激動まで加わり、話があっちこっちに飛び広がり過ぎるため、ハードボイルド、警察小説としてのまとまりが悪いのが残念。 シリーズ愛読者でなくても十分に楽しめる作品であり、ハードボイルド、警察小説のファンにオススメする。 |
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2023年の英国推理作家協会の最優秀翻訳小説賞を受賞した、スペイン製ミステリー。カタルーニャの鄙びた町で起きた残虐な富豪夫婦殺しを捜査する熱血刑事の戦いと苦悩を描いた警察ミステリーである。
着任早々に「退屈する時間はじゅうぶんにあるぞ。ここではなにも起こらないんだからな」と言われたテラ・アルタ署の刑事・メルチョールだったが、町の半分を所有すると言われる富豪夫妻が拷問され、殺害される事件に遭遇した。強盗かという見方もあったのだが、拷問の凄惨さに違和感を覚えたメルチョールは被害者の周辺に犯人がいると推測し、家族や会社関係に捜査の手を伸ばしていった。その結果・・・。 犯人探し、動機探しの警察ミステリーで、大筋の構成は平凡というか、ありきたりの感を否めない。だが主人公・メルチョール刑事の設定に、物語に奥行きを与え、読者を引き込んでいくパワーがある。娼婦の子として育ち、10代で投獄されたのだが、刑務所で囚人に「レ・ミゼラブル」を読むことを勧められ作品に魅了された。さらに、服役中に母が殺害されたことで犯罪から決別し、母親殺害犯に罪を償わさせるために警察官になることを決意した。見事に警察官になったメルチョールだったが、イスラム過激派のテロリスト4人を射殺したことから、過激派の報復を危惧する警察上層部によって田舎町のテラ・アルタに配属されたのだった。娼婦の息子の刑事と言えば「ハリー・ボッシュ」を筆頭に何人かを思い浮かべるが、いずれのヒーローも正義と不正義、悪との向き合い方に苦悩するのがお約束で、メルチョールも例外ではない。さらに、レ・ミゼラブルの深い影響という独創も加わり、極めて複雑なキャラクターである。 事件捜査を中心に据えた警察小説だが、謎解き部分は最後に薄味になり肩透かしを喰らう。ミステリーというよりヒューマンドラマ的な面白さが読みどころ。スペインの風土や歴史、社会を知ることができるのもオススメポイントと言える。 |
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自伝あり、エッセイあり、社会批評あり、風刺ありで48のエピソードが集められた、実に判断が難しい一冊である。
著者は本作を「観察」と称しているそうで、刑事弁護士で作家という位置から観察・思考した社会のありようを文学作品し仕立てたものか。丸ごと一冊、これがシーラッハだと思えば、それなりのまとまりがある。 シーラッハ・ファンなら、その味わいが深く感じられるだろう。 |
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大学で小説創作の教鞭を取る新人作家の長編デビュー作。6年前に自分の娘を溺れさせようとしたと思っている甥を引き取ることになった大学教授が、甥が邪悪な本性を隠していると疑心暗鬼になり、その本性を暴くことに取り憑かれていく心理サスペンスである。
不幸な事故で大金持ちの両親を亡くした17歳のマシューが、母親の遺言で後見人となった叔父・ギルの家にやってきた。N.Y.の豪邸で何不自由なく育ったマシューは学業成績も抜群で、知的な好青年に見えた。だが、6年前にギルの娘・イングリッドがプールで溺れかけたのはマシューの仕業だと信じるギルはそんな外見が信じられず、夫婦と娘二人のギル家族に災いをもたらすのではないかと不安を抱き、警戒心を募らせていた。そんなギルを嘲笑うかのようにマシューはギルが教える創作講座に参加し、ワークショップで短編小説を発表したのだが、その登場人物はギルの家族を想像させ、ストーリーは家族の死を描いたものだった・・・。 マシューは羊の皮を被ったサイコパスなのか、ギルの被害妄想が作り上げたモンスターなのか。真相追及のプロセスはギルの一人芝居の様相を呈し、ミイラ取りがミイラになるような心理サスペンスでちょっとイライラさせられる。金持ち過ぎるマシューと両親のライフスタイルもちょっと鼻白むのだが、それを補っているのが状況設定のユニークさで、なるほど、そう来たかと思わせる。謎解きミステリーとしては凡作だが、最後まで読者をイラつかせるイラミスとして評価できる。 ラストが不完全でも気にしない、心理サスペンス好きの方にオススメする。 |
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探偵・畝原シリーズの第7作。いつも通り、怪しげな依頼人、怪しげな組織、変わらぬ家族愛に満ちた大人ハードボイルドである。
畝原が依頼されたのはエスパーを自称する巽という男に惚れ込み、多額の投資に乗っかろうとしている父親の洗脳を解いて欲しいというものだった。畝原は父親の面前で男のインチキを暴き、撃退する。後日、その場に居合わせたミニコミ業者でキャバクラ嬢のコンテストを主催する彫谷からコンテスト出場者の素行調査を依頼されたのだが、その調査中に何者かに襲われた。辛くも撃退したものの背後関係が分からず、自分の身辺の警護を固めざるを得なくなった。さらに、巽たちの詐欺をテレビで証言した男が殺され、取材したディレクターが行方不明になる事件が発生。畝原は身の危険を感じながらジリジリと真相に近づいて行く。 詐欺商法、ミスコンに加えて、意図不明の依頼人からの浮気調査、父親としての自身の悩みが絡んできて話は長くなる一方。文庫で上下670ページほどの大作で、最後まで決着がつかないエピソードがあるのもご愛嬌。シリーズ愛読者なら許せる、いつもの畝原ワールドである。 畝原シリーズのファンにオススメする。 |
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グラスゴーを舞台にした「刑事ハリー・マッコイ」シリーズの第二弾。連続殺人事件を捜査することになったハリーが否応なく、忘れたい過去に直面させられるノワール・ハードボイルドである。
建設中のタワー屋上で発見された惨殺死体は地元のプロサッカー選手で、彼はギャングのボス・スコビーの一人娘・エレインの婚約者だった。すぐに容疑者として、スコビーの汚れ仕事を担当していたコナリーが浮上した。コナリーは精神的に不安定になり、エレインにつきまとっていたという。ハリーたちはコナリーを追い詰めたのだが、すんでのところで逃してしまう。さらに、コナリーはエレインの周囲に出没し、ボスのスコビーまで襲おうとする。そんな中、前作(血塗られた一月)でハリーの命を救ってくれた、幼馴染で地元の若手ギャングのボス・スティーヴィーを見舞ったハリーは一枚の新聞記事を見せられ、激しく動揺する。そこには、ハリーやスティーヴィーが児童養護施設にいた頃に性的虐待を加えていた男が映っていたのだった。さらに、教会でホームレスが自殺する事件が発生し、残された遺品を調べていたハリーは、スティーヴィーに見せられたのと同じ記事があるのを発見する。花形サッカー選手とホームレス、全く無関係に見えた二つの事件が、ハリーの過去を媒介にしてつながっていった・・・。 一匹狼の刑事が難事件を解決するという警察ハードボイルドの基本はしっかり守りながら、そこに児童の性的虐待の被害当事者をぶつけることで、ストーリーが何層にも重なり合い、ねじれあって展開する複雑で手応えのある物語になっている。訳者あとがきにもあるように、前作からさらにパワーアップしたことは間違いない。オススメだ。 月名のタイトルから推察できるようにシリーズ化されており、イギリスでは一年に一作、現在では6月まで刊行されているというので、まだまだ楽しめそうである。 |
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1980年刊行の短編集。テーマや表現にいささか古さがあるものの、英国短編小説の魅力である鋭い人間観察、ややブラックなユーモア、味わい深いストーリー展開を備えた全12作品。アーチャーの長編のワクワク感、躍動するストーリーはないものの旅のお供、路辺の酒のアテにぴったりな読み物としてオススメする。
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人気覆面作家の豪華新邸のお披露目に招かれた推理作家、評論家、編集者、探偵が大雪で閉じ込められ、ホストの作家が姿を消す。さらに、行方が分からない作家を探すうちに、招待客のひとりが死亡し、全員が疑心暗鬼に陥るという、典型的な密室もの。古今東西の密室ものに関する豊富な知識を駆使した物語展開、種明かしが読みどころ。
密室ものファンには挑戦しがいがある作品なのだろうが、密室ものが得意でないため、いささか退屈だった。 |
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ベテランのコミックライターの長編デビュー作で、各種ミステリー賞の最終候補になった作品。5人目を妊娠中の元FBIプロファイラーと落ち目の記者が平和な郊外の街で起きた殺人事件と、その裏に隠されていた人種差別の闇を暴く、コミカルな謎解きミステリーである。
N.Y.通勤圏の小さな街のガソリンスタンドで経営者一族のインド人青年が銃殺された。たまたま現場に出くわしたのが、元FBIの優秀なプロファイラーで現在は5人目の子供が妊娠8ヶ月という主婦のアンドレアで、末っ子にトイレを使わせるために立ち寄ったのだが鍵が掛かっていて使えず、子供がおしっこをぶちまけてしまった。ひと騒ぎの後、素早く現場を立ち去ったアンドレアだったが、事件に関する警察の発表が自分が見た証拠と違っていることに疑問と興味を持ち、真相を調べようとする。一方、大学生の時にピュリッツァー賞を受賞し将来を嘱望されたのだが、今では小さな地方新聞の記者でくすぶっているケニーは、事件の被害者家族を取材した感触から警察発表には隠された部分があり、再び脚光を浴びる特ダネになるのではと直感し、精力的に取材を進めることにする。ユダヤ系のアンドレアと中国系のケニーだが、二人は同じコミュニティで育ち、ケニーがアンドレアに振られた過去があった。偶然、同じ事件を調べていることが分かった二人は、互いの目的は異なるものの情報交換して調査を進めることを約束した。そんな二人が行き着いたのは、かつては白人ばかりだったのだが今では人種が混在し、表面的には平和な暮らしが営まれている街に、今なおはびこる人種差別の歴史だった。 ミステリーの本筋は人種差別に基づく犯人、動機探しで、格別目新しくはない。だが、人種も性格も境遇もバラバラで対照的な二人のバディものというのがユニーク。さらに、さまざまなエピソード、登場人物たちの言動もとぼけたユーモアたっぷりで楽しめる。 軽い読み味のミステリーを好む方にオススメする。 |
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8050問題をベースに、時代に翻弄される孤独な魂の切なさを描いた社会派ミステリーである。
公園でホームレスの老女が殺害され、燃やされた。その場で逮捕された犯人・草鹿秀郎は18年間の引きこもり生活を送ってきた中年男で、自宅で父親を殺害したと供述した。身勝手極まりない犯罪で、極刑を課して世間の納得を得るための証拠固めとしてホームレス老女の身元確認を担当することになった刑事・奥貫綾乃だが、自分と同年代の草鹿がなぜ、ここまで残虐な事件を起こしたのか、今一つ納得が行かなかった。川底に沈んだ凶器を探すような手探りの捜査でホームレスの身元を調べて行くと、被害者と犯人が思いもよらぬ因縁で繋がった。 犯人が孤独な魂を抱き抱えて生きる引きこもりで、さらに担当刑事も我が子を愛せなかった過去のトラウマに引き摺られて生きる孤独な中年女性という、二人の主役の人物像とそれぞれの魂の軌跡が交わってくるところが面白い。大きな社会問題となっている8050問題、その背景に何があるのか、何があったのか、自己責任の話ではないことがリアリティを持って伝わってくる。重い課題の作品だが、事件の真相を解明するミステリーの部分もよく出来ていて読みやすい。 社会派ミステリーのファンにオススメする。 |
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エスケンスの邦訳第4弾。ボーディ・サンデンが主役となる作品では2作目で、ボーディという人格が形成される高校生時代を描いた青春ミステリーである。
1976年、ミズーリ州の田舎町で母と二人で暮らす15歳の高校生のボーディ。通い始めた高校には馴染めず、親しい友達もなく、16歳になったらこの町から脱出するという夢だけが頼りという日々だった。ある日、上級生のジャーヴィスたちが学校で唯一の黒人生徒であるダイアナに嫌がらせをしようとしたのを阻止したことから、ボーディはジャーヴィスたちに目をつけられてしまった。ジャーヴィスたちの襲撃を何とか逃げ切って帰宅したボーディが信頼する隣人・ホークを訪ねると、そこに保安官がやって来た。二週間ほど前に失踪した黒人女性の捜査の一環で、かつてホークはその女性を雇っていたことがあるのだという。町を騒がせす事件にホークが関わっているのだろうか? さらに、近所に引っ越してきた黒人一家の少年・トーマスのことも気掛かりで、ボーディの日常はにわかに騒がしくなった…。 当たり前のように人種差別が横行する田舎町で育ちながら偏見を持たないボーディだったが、ホークやトーマスと関わることで、自らの内にある意識しない差別感情に気付かされる。さらに、外見からは窺えない人々の悩みや秘密を知り、のほほんとした少年から成熟した大人へと成長していく。ミステリーとしての構成は平凡だが、実に味わい深い成長物語として読み応えがある。 謎解きやサスペンスを求めず、正義の人の誕生物語として読むことをオススメする。 |
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ホラー、オカルトが好きではないため敬遠していたキングだが、これは人間を中心に置いたノワールで罪と罰、愛することと憎むことという永遠のテーマに正面から挑んだ、力強い大傑作である。
イラク戦争の帰還兵で、犯罪組織から凄腕のスナイパーとして信頼されてきたビリーは引退を決意し、最後の仕事として200万ドルという破格の報酬の仕事を受けた。ターゲットは収監中の男で、狙撃のチャンスは男が裁判所に移送される瞬間を待つしかないという。移送先の街に潜伏するためにビリーは依頼人のニックの手配で小説家を偽装し、事務所を構え、近所付き合いも怠らず、待つ間に自伝的作品を描き始めた。だが、依頼人を信用し切れないビリーはニックには知られない別の身分を用意し三重生活を送ることにした。そして狙撃を成功させたのだが、ビリーが危惧した通りニックはビリーを消すための殺し屋たちを送り込んできた。犯罪組織、警察の両方から追われることになったビリーは第三の身分で潜伏生活を送っていたのだが、ひょんなことからアリスという若い女性を助け、潜伏先に住まわせることになった。ニックは誰の指示で動いているのか、ニックの上にいる人物の目的は何か? ビリーは逃亡しながら真相を探り出そうとするのだが、アリスを放っては置けず・・・。 イラク戦争のトラウマを抱えた凄腕スナイパーで、悪人の始末しか受けない殺し屋というビリーのキャラクターが秀逸。悪人たちが悪人らしく、途中から絡んでくるアリスのキャラも複雑かつユニークで、人間が中心になったパワフルな犯罪ドラマが展開される。 従来作品とは全く異なる傑作ミステリーとして、キング嫌いの方にもオススメしたい。キングのイメージが一新されること、間違いなし! |
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J.アーチャーの長編第二作。アメリカ大統領暗殺をテーマにした政治サスペンス小説で、大統領をエドワード・ケネディからフロレンティナ・ケイン(「ロマノフスキ家の娘」のヒロイン)に変更した改訂新版である。(1977年の作品だが、物語は初の女性である第43代大統領が活躍する1980年代半ばという設定)
大統領暗殺計画の情報を得たFBIワシントン支局は黒幕を含めて一網打尽で現行犯逮捕するために、極秘の捜査を開始する。ところが捜査開始早々に支局長と中堅捜査員が死亡し、情報提供者も殺されてしまい、新米捜査官が直接、FBI長官の指示で動くことになった。暗殺実行日まで一週間しか残されていない上に、さまざまな組織や人物が容疑者として浮上し、捜査は一向に進展しなかった…。 政治謀略小説としてはよく出来ているが、暗殺者側の動きの描写が薄いため、いわゆる暗殺ものならではのピリピリしたサスペンスはやや弱い。ところどころに挿入されたユーモラスなエピソードが効いた軽い読み味のエンタメ作品としてオススメする。 |
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1935年に発表されたマッコイのデビュー長編。大恐慌時代のハリウッドでわずかなチャンスに命をかけた男女の熱と虚無を描いた、ハードボイルドな青春ドラマである。
ハリウッドでエキストラに応募したものの外れてしまった男と女が1,000ドルの賞金を目当てにマラソン・ダンス大会にエントリーする。この大会は154組のペアが1時間50分踊って10分休憩というパターンで踊り続け、最後の1組になれば賞金という過酷なコンテストというか見せ物である。何日も何週間も踊り続けてクタクタになり、ついには精神に異常を来たす出場者たちの奇態を見るために入場料を払って観客が集まったという、1920〜30年代の狂瀾のアメリカを象徴するエンターテイメントが若く夢があった二人を飲み込んでいく様が凄まじい。戦後すぐの実存主義が流行り始めたフランスで高く評価され、その人気がアメリカに逆輸入されてヒットしたというのもうなづける、虚無と空虚の物語である。 その意味では、今の時代でも再評価される作品とも言える。が、読者を選ぶ作品であることは間違いない。 |
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