ビリー・サマーズ
- クライムノベル (72)
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ホラー、オカルトが好きではないため敬遠していたキングだが、これは人間を中心に置いたノワールで罪と罰、愛することと憎むことという永遠のテーマに正面から挑んだ、力強い大傑作である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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イラク戦争でスナイパーをしていた殺し屋ビリー・サマーズが最後に請け負った仕事は、犯罪人を口封じのために殺す仕事だった…という設定で始まる上下巻合わせて600ページの長編スリラーです。 スティーブン・キング作家50周年の本だそうで、キング小説らしい「世の中はクソまみれ。だけど生きていく値打ちはある」というニヒルさと、ときおりチラつかせるマニアックなインテリジェンスは本書においても健在です。 本作品が書かれたのはトランプが1期目の大統領だったころで、トランプやその支持者を批判するセリフがときおり出てきます。残念ながら2期目をやることになってしまいましたが。 本作品のユニークなところはビリーが最後の殺しをつつがなく完遂させるために何ヶ月も別人として生きるところで、別人Aは小説家、別人BはIT技術者という三重人格のストーリーが上巻を占めているわけですが、別人A、別人Bごとに周辺キャラが増えていくので、キャラを覚えるのがややこしいです。 下巻になって重要な女性キャラが登場してきますが、そこでは殺しの仕事の流れと小説家の流れがだんだんと合体していきます。 最後まで読んで、70歳半ばのスティーブン・キングが小説家としての総括をしたかったんじゃないかという感じを受けました。自分があの世に旅立っても自分は一大作家として永遠に名前を残したいと思っているのかも知れません。 私はキングの作品はいくつか読んでいますが、本作品のできばえは中くらいだと思いました。さすがにキングも年老いたせいか、本の中にグイグイと引き込まれる感覚がありませんでした。 | ||||
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. 狙撃の腕はピカ一の殺し屋ビリー・サマーズ。依頼どおり凶悪犯を首尾よく射殺するが、依頼主の裏切りを事前に察知してただちに姿をくらます。隠れ家としていた地下住宅の前に、暴力の被害を受けて捨てられていた若い娘アリスを助けたがため、中年の殺し屋と女子大生の奇妙な逃避行が始まる……。 ------------------ 上下2段組300頁超の上巻を終えて、同じく上下2段組300頁超の下巻へと足を踏み入れることに何の躊躇も感じさせない圧巻の展開を見せます。 上巻が〈暗殺へ向けた精緻な準備〉を縦軸に、〈はからずも切り結んでいく近隣住民との絆〉を横軸にした人間ドラマだとしたら、下巻は〈借りを返してもらうための旅路〉を縦軸に、〈旅の道連れ同士の間に徐々に積み上がっていく人の絆〉を横軸にしたロードムービーの味わいを見せます。 アリスは無惨このうえない犯罪の犠牲者であり、ビリーとの旅を通して自己を回復するための道を歩みます。アリスの道行きは時間と手間を要します。二歩進んでは一歩後退するかのような遅々とした歩みをもつアリスの様子が、無理なく読者である私の胃の腑にすとんと落ちる形で綴られます。 ビリーもまた、自分の納得の行く結着を今回の仕事にきちんとつけようと、先を急ぎます。人生に入り込んできた夾雑物であるアリスに、人としての当たり前の感情を育んでいくビリーの姿には、実に引き込まれます。 終盤、ビリーからアリスへとバトンが渡されます。それは〈人を殺める〉というバトンではなく、〈書く〉というバトン。上巻からビリーは、世を忍ぶ仮の姿にすぎなかった作家業に本格的に手を染めていました。自らの悲しい生い立ち、海外の戦場での苛烈な体験、そして目下の課題である暗殺の後始末の顛末がビリーの筆によって綴られていきます。それは暗殺業のために常に自分を他者に変化(へんげ)させざるをえない生を歩んできたビリーが、自らは一体誰なのかを自身に納得させるための所業なのか。 アリスは受け取ったバトンについて思いを馳せ、そして谷の対岸、かつて歴史あるホテル――『シャイニング』の「景観荘(The Overlook Hotel)」――が建っていた平坦な土地に目を向けて思うのです。「自分には世界をつくることもできる」(314頁) ここに作者キングが考える「書くこと」についての真髄が見えます。 キングはかつて、『書くことについて』(小学館文庫)で次のように綴っています。 「ものを書くのは、金を稼ぐためでも、有名になるためでも、もてるためでも、セックスの相手を見つけるためでも、友人をつくるためでもない。一言でいうなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ。立ち上がり、力をつけ、乗り越えるためだ。幸せになるためだ。」(同書358頁) ビリーも、そしてアリスも、書くことによって「立ち上がり、力をつけ、乗り越え、幸せになる」ことができると強く信じてキーボードを叩くのです。 実に爽やかな読後感を与えてくれる物語でした。 ちょうど読んでいる最中、一昨日(12月6日)に『このミステリーがすごい! 2025年版』(宝島社)が発売され、この『ビリー・サマーズ』が海外編第2位に選出されたと知りました。そのことが何ら不思議だとは思わせない長編小説です。 --------------- *80頁上段 校正・校閲漏れがありました。文庫化のおりにぜひ訂正していただければ幸いです。 ●英語の原文 “He’s writing a paper on the Australian and Hungarian War.” Billy thinks of telling this idiot that Australia had nothing to do with the Hungarian revolution of 1848. ●校正・校閲漏れの訳文 「今はオーストリア・ハンガリー戦争についての論文を書いてる」 ビリーは目の前の無知野郎に、一八四八年のハンガリー革命にはオーストリアは関係ないと教えてやろうかと思った」 ●正しくは 「今はオーストラリア・ハンガリー戦争についての論文を書いてる」 ビリーは目の前の無知野郎に、一八四八年のハンガリー革命にはオーストラリアは関係ないと教えてやろうかと思った」 つまり目の前の無知野郎は「オーストリア・ハンガリー戦争」を「オーストラリア・ハンガリー戦争」と言い間違えていて、ビリーがそれを正してやろかと思ったという話です。 1848年のハンガリー革命は、オーストリアとロシアの連合軍によって鎮圧されたので、隣接するオーストリアは「関係ある」のです。南半球のオーストラリアはさすがに関係ないのです。校正・校閲担当者は19世紀のヨーロッパ史に疎かったようです。 . | ||||
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. 狙撃の腕はピカ一という殺し屋ビリー・サマーズ。今回は昔なじみのニック・メイジャリアンからの依頼を受ける。標的は、人殺しの極悪犯で、既に別件で西海岸に収監されている。この男が裁判を受けるために東部へ移送されてきた瞬間に、狙撃せよというのだ。 狙撃後の逃走まで視野に入れ、ビリーは長期にわたって綿密な準備を進める。身元を偽り、狙撃地点の近くにわざわざ家と事務所を借り、近隣住民との交流に努めながら街に溶け込んでいく。だが、ビリーは依頼人にも黙っていた件があった。それは、狙撃後にはニックの手下の誘導を振り切って、単独で逃走して身をくらませるという独自の計画だった……。 --------------- モダン・ホラーの帝王スティーブン・キングの「作家デビュー50周年に放つ、至高のクライム・ノヴェル」だそうです。 わたし、スティーブン・キング、どちらかというと苦手です。かなり以前、『The Dark Half』、『Bag of Bones』、『The Green Mile』と読んでみましたが、大長編なうえ、途中でどこへ向かうのかと思うほど話が横道にそれるかに見えることが常で、いつしか手にしなくなっていました。 そんなところに、以前の勤務先の後輩が、「『ビリー・サマーズ』は凄い!」と興奮ぎみに語るものですから、そこまで言うのであればと思い切って手をつけることにしました。 上巻だけで2段組300頁超もある巨編です。それでも臆せず頁を繰り始めたのは、近年、キング作品の中ではさほど長くない一巻本の『トム・ゴードンに恋した少女』(新潮文庫)を読んで、感銘を受けたのも理由のひとつです。 さて、物語は2019年あたりが舞台のようです。アメリカの大統領はトランプが務めていて「トランプが自分なら経済を立て直せるといったときはみんな笑ったものだ。でも、あの政策は成功してるんだよ、そう、成功してるんだ」とか「このぶんだと二〇二〇年はもっと景気が上向きそうだ」(ともに24頁)という言葉が並んでいます。 やはり相変わらずキングの小説は、どこへ向かうのかと思うくらいゆっくりと進みます。 ビリーは人殺し決行のその瞬間まで、街に溶け込む作業をじっくり地道に進めていきます。隣人に夕食に招かれ、その家の子どもたちとモノポリーに興じていきます。 また、銃を構えるために事務所として借りた建物へは小説家と称して“通勤”し、近隣オフィスの勤め人たちとのランチをともにする始末。悠揚であることこのうえない、といった毎日が描かれます。 ですがわたしも歳を取ったのかもしれません。人を殺すという緊張を強いられる生活を送ってきたビリーが、そうした人的交流を通じて人間味を見せる姿に――偽りの暮らしとはいえ――公私の領域を行き来する勤労者の姿を見てしまったのです。 そしてなんといっても味わい深いのが、狙撃のあと、本格的な逃走生活に入る前にビリーがなんと本当に作家としての執筆活動を始める展開です。この流れを目にした私は当初、暗殺者の所業としては理屈に合わないのではないかと訝しんだのですが、その思いも長くは続きませんでした。ビリーの書く物語が、当初の小説から回顧録へと舵を切った途端、わたしには見えた気がしました。偽りの人生を生きて来ざるをえなかったビリーが、ウィリアム・サマーズという一個の人間としての確かな生を、パソコンのキーボードで着実に取り返していく姿です。亡霊のような存在である己自身を、書くことでなんとかこの地に留めていられるはずと、祈るようなビリーの気持ちが垣間見えます。 さて、上巻もあと少しで果てるところで、物語は予期せぬ大きな展開を見せました。その展開もビリーらしさが招いた厄災といえます。新たな危難をビリーがどう乗り越えるのか。 下巻へと進むのが楽しみです。 ----------------- 以下、いくつか思ったことです。 *131頁下段 翻訳が漏れています。 ●英語の原文 Nick sent him, Billy thinks. The message? You got off on the wrong foot with Billy and he’s our man on the spot, so get right with him. ‘Just one thing,’ Billy says. ‘You’ll make sure the merch is there when I need it, right?’ に対して、 ●翻訳文は 「ニックがこいつを送ってよこしたんだ、とビリーは思う。『俺が必要とした時に物が確実にここにあるようにしてくれ、いいな?』」 となっています。 ですから翻訳が一部漏れています。訳が漏れているところを補ってみます。 ●拙訳 「ニックがこいつを送ってよこしたんだ、とビリーは思う。その意図するところは?『お前は初顔合わせでビリーにいい印象を与えられなかったが、やつは現場で頼りにできる男だ。だからやつとはうまくやれ』。『俺が必要とした時に物が確実にここにあるようにしてくれ、いいな?』」 【】内の文章は、“俺のところへ来る前にホフはおそらくニックから釘をさされていたんだろうな”、とビリーが推測している心の内を描いています。 だからこのあと132頁の上段でホフは仲良くしようとビリーを飲みに誘うのです。(ビリーはやんわりと断りますが。) *白石朗氏の翻訳は実に読みやすいものです。そして途中で気づいたのですが、原文にあるheやsheを一度として「彼」「彼女」といった人称代名詞で和訳していないのです。(一度、「彼ら」という表現が出てきたのには気づきましたが) 登場人物が多くて錯綜する場面も少なくないだけに、「彼」「彼女」というバタ臭い代名詞を使わずとも人物特定が確実にできるよう工夫を施した見事な和文だと感じ入りました。 *293頁下段 :ビリーの見ている「アクション映画」は「愛犬を殺された男が犯人に復讐しようとする話」だと書かれているものの、題名が記されることはありません。これってキアヌ・リーブス主演の映画『ジョン・ウィック』(2014年)ではないでしょうか? 引退していた殺し屋ジョン・ウィックが、亡妻からの贈り物だった愛犬を殺されたのをきっかけに、復讐に立ち上がる物語です。 . | ||||
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なんと言おうか、グレイマンの劣化版? 悪人しか殺さないって暗殺者はまあよしとしよう。そう言う主義の暗殺者がいてもいい。街に溶け込むために小説家と偽り地域の住民と交流する、それもいい。だが、襲われた女性を助ける? 911に匿名で掛ければ十分なはず。裏切った仲介者を助ける? 自分が倒した男が昏睡状態で見舞金を出す? そんな甘々な暗殺者が生き残れるわけはない。自伝的な小説を書くってさ、そもそも、キングだって小説を書くにはそれなりの技量が必要なのはわかっているはずだし、読み込んでいるから同じような文体で続きを書けるって? そんなバカな。それが可能ならばミステリーファンはことごとく小説家として大成するww 高評価の方々はキングファンであってミステリーファンではないのかしらん。Kindle版でポイントが半額くらいだった時に買ったのでまあいいけど、定価ベースだったら「金返せ!」くらいです orz それでも読み通したから星一つおまけ。 | ||||
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上巻の主人公が地域に溶け込んでいく状況も面白いけど、下巻になってから最重要人物アリスとのロードムービー的要素はなお面白かった。 ラストもいいと思います。 ある種の爽快感が残るラストでした。 | ||||
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