両京十五日 1凶兆 / 2天命
※以下のグループに登録されています。
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
両京十五日 1凶兆 / 2天命の総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
前半の『凶兆』篇の感想では、後半『天命』篇のレビューを書く必要はない、前巻を読んだ人は、まず間違いなく、下巻に取りかかかる筈だから、と記載しました。しかし一点必要な情報があると思い直しました。 歴史ものに関心のある読者の中には、単に、衣装や時代背景がそれっぽいだけの「歴史もどき」(いわゆる中華系ファンタジー)には興味のない人がいます。ある程度史実の歴史を題材としていても、魔法が登場したり、あまりに史実改編の度合いが強いと興ざめしてしまう人もいます。本作は、本格歴史小説というより時代冒険小説というキャッチコピーの方が近い作品であり(巻末解説者も「時代ミステリー」としている)、私も『凶兆』のレビューでアクションゲームのような娯楽作品、といった紹介をしましたので、中にはこうしたイメージを嫌って本格歴史モノを求める読者の中には敬遠してしまう人がいたかも知れません。実際私も読みながら、設定や展開のうち、どこまでが史実の枠内で、どの部分が創作なのだろうか、と思いつつ読みました。明代は、日本人の関心もあまり大きくはないため日本語資料も少ないし、漢文史料にあたろうにも明代となると本書の舞台となる時代に関してだけでも日常文物一般まで含めれば史料数は膨大となるため、ある程度の案内が無くては素人にとても確認しきれるものではありません。 うっすらそんなことを考えながら読み終えてみると、なんと巻末に38頁にわたって著者自身の史実と創作に関する解説「物語の周辺について」が添付されていました。著者がどのような史料を下敷に創作していったのかがおおよそつかめる内容となっていて大変有用です。著者は多数の史料を上げて史料から確認できる時代背景や設定に利用した史実の解説を行っており、歴史学者による解説に迫るような詳細さです。例えば、 ・当時の郵便制度と飛脚の解説と、両京間の15日での移動可否のシミュレーション ・本書で描かれる期間に関する、『明史』『実録』に実際に残されている重要人物の記載 ・本書登場人物中の実在の人物たちに関する解説、フィクションの人物の場合はヒントを得たりモデルとした史料上の人物に関する解説 ・終盤舞台となる首都北京城、皇帝陵墓、葬祭制度に関する当時の状況の解説 などなど、この解説自体読み応えがあります。特に、冒頭の地震と終盤のスペクタクル場面の背景となる気象現象が実際にありえたかの史実解説は、読中さすがにこれはまったくのフィクションだろうと思っていため、著者の解説を読んで驚きました。著者は、「ここのシーンは虚構だが、かといってまったくのでたらめということでもない」として約8頁も詳述しています。 このように見て来ると、本書はもはや時代冒険小説というよりも、冒険歴史小説とでも見なせる領域に入るようにさえ思えてきます。巻末の作者解説のお陰で更に奥深く本書が楽しめ、明初世界が身近になりました。本編だけでも傑作ですが、作者解題がついたことでより価値のある作品となったと考える次第です。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
巻2の半ばあたりまでで、いったんお約束の大団円が描かれる。あれ、まだページが残っているなと思っていると、そこから驚天動地の大展開。筆者後書きにあるように、明王朝について放っておけない闇歴史を描かないわけにはいかなかったのでしょう。ただし、結末は、読者のみんなが好きになってしまうヒーローとヒロインについて、続編も書けるようなふくみを残してある。ご安心を。私もほっとしました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ひねくれた刑事、王室の係累、美しく聡いヒロイン、忠実な役人 人数は4人だけど、テンポのいい脱出劇と映像美は、黒沢映画「隠し砦の三悪人」を連想させます。むろん、そこからスピルバーグが影響された「スターウォーズ」にも通じる楽しさです。あと、三国志や梁山泊が好きな人にはうきうきする中国古典の引用もあります。上下二冊の長尺にちりばめられたエピソードそれぞれの工夫の豊富さは、著者の力量にあきれるばかりです。田中芳樹さんが推薦文を書くだけのことはあります。このお話、田中さんの修士論文からつながる話なんですね。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
面白い!基本、私は厚い本が苦手なので若干腰が引けていました。約470頁で上下二段で上下二巻、、、恐る恐る読み始めてみると、何の興趣も感じなかった最初の25頁が過ぎての最初の事件、それも大事件がいきなり勃発して以降は一気にドラマが走り出し、走って走って止まる暇もなく次々と事件が降りかかり、退屈することなく4日間で読了。これは凄い! 本書は、一言で言えば、船戸与一『蝦夷地別件』みたいな分厚さと面白さです(あくまで私にとってですが)。個人的に思う本書の特徴は3点です。 ①RPGのような展開 個性的な主人公4名が行きがかり上パーティを組み、次々と訪れる障害をひとつひとつ潜り抜けながら、敵の陰謀が成就すると予想される期限の日までの15日間を、陰謀を打ち砕くべく副都南京から都北京へ向かう道中を描くという筋立て。一定の間隔でテンポよく事件や難題が降りかかり、まるで一定の間隔で必ずイベントが起こるように設計されたRPGのように感じられます。遭遇する事件ごとに主人公4名がそれぞれ異能を発揮して潜り抜けるわけですが、これら異能もRPGのアイテムのような感触があり、思わぬところで役立ったりします(私はRPGをしたことがないため、イメージだけで書いてます)。作者が意図してか無意識にかはともかく、RPG的手触りのある展開であることは間違いありません。(私的には)冗長なところは一切ありません。 似たような設定の歴史冒険小説に、5世紀末の西ローマ帝国を描いた『カエサルの魔剣』(ヴァレリオ・マンフレディ著、文春文庫)という作品があります。退位した元皇帝の少年を、なりゆきで護衛することになった数名の男女が、暗殺者達から守りながら辺境のブリタニアへと落ち延びる、迫力ある展開を見せる冒険小説です。古代末期の西方世界を旅する臨場感があり一気に読めたのですが、ただ残念なことに、全ルートが描かれていたわけではなく、途中大幅に端折られていたため物足りなさが残ったのですが、その埋め合わせが本作で叶った気がしています。 ②当時の世界の旅の追体験ができる 訳者あとがきに、我が意を得たりの文言があったので引用します。 「街並みやファッションや食べ物の描写は細かなところが書き込まれ、まるで六百年前の街を旅するようです」「”体験型”の小説」とあるように、主人公一行とともに、南京~北京への往時の旅を地上目線で追体験することのできる、非常にリアル・迫真的で圧倒的な描写が続くのです。主人公たちの視界にたまたま入った程度の文物の細かい描写が各所で登場しています。例を挙げますと 「門を入れば、いくつもの広壮な堂宇を二重欄干つきの廊下が結んでいる。木組みはすべて楠を使い、下地の彩色に金を塗り、その上を丹堊でおおって彫刻してある。朱色は辰砂の細粒、墨色は徽州の墨だ」「盆地内部は庭園になっていて珍しい草花が茂り、福建の仏桑花、暹羅の紅繡球、南海の沙羅双樹も見られた」(p332-333)。 という具合。しかもこのくだりの描写はこれで終わらず、更に、「石榴がちがほらと咲き、茉莉花は盛りで、棚にはわせた瓜がたわわに実り、その間から蜀葵が突きでて、滴るような朱の槿の花がのぞき・・・・」と続きます。 一般的に小説時代劇(に限らず大衆小説)というものは、読者が文物背景を熟知している前提なので、そうした描写ははしょられるのが普通です。例えば、日本人読者であれば、「辻」「長屋」であれば、時代劇ドラマなどで目にしている映像が無意識に思い浮かぶためこれ以上の描写は必要ないわけですが、小説舞台の背景となる文物に疎い(一般的には)外国人読者などにはイメージし難いわけです。本書はそうした描写がいちいち書き込まれているため、映画でも見ているように映像的なのです。しかも用語が漢字+ルビであるため、難読用語でも、日本人であれば漢字とルビの双方からなんとなく用語が意味するもののイメージが想起し易いものがあるため、難読用語の意味にいちいちひっかかることなく、スピーディーに読み進めることができる、という特徴があります。 本書は5月18日から21日までの4日間が約460頁で描かれおり、18日だけで約200頁、当時の南京の様子が比較的詳細に描写されており、ドラマ『長安24時』の原作者らしい書き込み具合となっています。 また、目線も庶民目線の描写が多く、これはメインの主人公が下級役人であるためで、これもあとがきによると、作者自身が、日本映画の『決算!忠臣蔵』『引っ越し大名!』『殿、利息でござる!』を見て「その共通する特徴は末端の事務職の視点から歴史事件をつぶさに見るもので、わたしの最近数年の考えと図らずも一致した」と書いている通りです。 著者が「神の視点」で背景となる歴史や人物、文物の解説をしてしまって白けてしまうことがないのも大きな特徴です。必要な背景解説は、登場人物が無意識に脳裏で思い浮かべた内容に見えるように記載されているので小説世界に没入したままでいられるよう工夫されています(主要主人公が、皇太子、下級官僚、下級町役人というように、社会階層ごとに分かれているため、必要な社会階層に関する解説は、その階層に属する主人公が脳内情報(に見えるような感じ)として読者に示してくれるため、常に主人公達の目線を維持したまま読み続けることができるのです。ここは本当に素晴らしい。 このように、当時の世界を地上目線で追体験したいタイプの方にとっても、本書はまさにお奨めです。 ③コミックアクション 街や旅路の様子のイメージは、ドラマ『長安24時』のような映像でしたが、アクション場面で思い浮かんだイメージは、日本のアクションコミックやアニメです。私の場合は、藤田和日郎やジャンプ系のアクション漫画でした。恐らく、唐代を扱ったアクション伝奇時代劇である田中芳樹氏の小説『纐纈城綺譚』のイラストを藤田和日郎が描いていたことからの連想だと思うのですが、梁興甫のような巨人の怪物はまさに藤田和日郎描く怪人のイメージそのもの(※個人的印象です)。更にヒロイン的立ち位置の蘇荊渓の冷え冷えとしたシャープなセリフまわしもコミック的とはいえカッコよく、特に南京脱出の山場で復讐を遂げる時の、 「そろそろだ。見届けに来た」「もちろんお前の命日だ」「種はまいた。もちろん結果も見届ける。これで終わりだ」「時が来た」 の場面ではエコーがかかってるかのような声が耳に反響した程です。ドラマ『長安24時』的な再現映像的景観や文物の重厚な書き込みとコミックアニメ的アクション場面がうまくバランスがとれています。 ④その他 後に概説書にも登場するレベルの宰相となる若き日の于兼が主要登場人物であることも、既知の人物が主人公のひとりということで入り込みやすいものがありました。日本では故事成語というと唐代以前のものばかりが言及されますが、唐代以前以後に限らず縦横無尽に故事成語が登場人物たちの会話の端々に登場し、しかも主人公呉定縁のような下っ端役人程度だとわからなかったり、間違って引用したり、とこのあたりもリアル感満載でした。 本作も、今年読んだ本ベスト10に入ることは間違いなさそうな作品です。分厚い書籍は苦手なのですが、本作は分厚さが気にならず、いつでもするする読めてしまうことはわかっているため、後編は、おいしいものは取っておく的に、少し他の書籍に寄り道しながら読もうと思っています(と思っていましたがその後結構直ぐに後編も読了)。本書は、下巻読了後に下巻のレビューを書いて下巻に誘う必要のない済む作品です。前巻を読んだ人は、まず間違いなく、下巻に取りかかかる筈だからです。 2018年に日本語訳がでた漢代歴史ミステリー『元年春之祭』を読んだ時、この作者には「いづれキャリアと知見を集大成した中国版『薔薇の名前』のような巨大な歴史ミステリーを期待したい」と書きましたが、最近の『蘭亭序之謎』と本作を合わせれば、既に『薔薇の名前』相当の作品は登場していると見なせるのではないかとさえ思った次第です。 なお、本書には地図は掲載されていませんが、『中国历史地图集』(全八冊/谭其骧主编/地图出版社/1982年)という、歴代王朝毎の各省の地図を見開き1枚で掲載した非常に詳細な地図があり、本書で辿られるルート近辺は第七分冊『元・明時期』のp50-51(山東省一)とp47-48(南京(南直隷)、p49応天府付近に掲載されており、地図を参照しながら読むとより旅程がリアルにイメージできてお奨めです(当時の南京城(応天府)の地図に関してはあまり良いものを見つけられなかったのが残念です) | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
因果の網の目が細かすぎて、次々と起こる出来事の関わりが出来過ぎに感じてしまわないではないが物語として面白い。人は立場に左右される、災禍に見舞われ個人である事の弱さに直面した皇太子瞻基、因果の末の仇と情に板挟みの定縁、二人の冒険が繰り広げられるなか、女医荊渓がミステリを担う−彼女の真の目的や如何に…だが、作者のあとがきに彼女の立場に託したメッセージを読み取ることが出来る。また白蓮教徒の護法である昨葉何と梁興甫の活躍?も見逃せない。そして史実の狭間に挿し込まれた冒険譚のその結末が胸に迫る。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 12件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|