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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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フィンランド北極圏にある小さな町の警察署長カリ・ヴァーラ警部シリーズの第一作。アメリカ生まれでフィンランド在住という異色作家の実質的なデビュー作である。
一日中太陽が昇ることが無いという真冬の極北の村で、ソマリア人女優の惨殺死体が発見された。性犯罪でもあり、人種差別犯罪でもあるというやっかいな事件の捜査に取りかかったカリだが、容疑者として浮かび上がったのが、カリの前妻を奪った男性だったことから、微妙な立場に立たされることになる。さらに、第二、第三の殺人が起き、事件はいっそう複雑な様相を呈してくる。 二十四時間闇が続く極夜を、人々は家に隠り、酒を飲んでひたすら耐え忍ぶ。そんな極北の村の重苦しさに押し潰されそうになりながら懸命に捜査するカリに、小さなコミュニティならではの複雑な人間関係と、人種差別に敏感なフィンランド社会で政治問題化することをおそれる警察上層部からのプレッシャーがのし掛かってくる。さらに、カリのアメリカ人妻は妊娠中で、初めての出産への不安とフィンランド社会に溶け込めないことへの焦燥から情緒不安定になってきた。そんな八方ふさがりのカリが苦闘の末に見いだした事件の真相は、「真相を見つけなければ良かった」と思うほど重く、切なく、やり切れないものだった・・・。 スウェーデンのヴァランダー警部シリーズに通じる、社会派の色が濃い警察小説であり、今後の翻訳出版が待ち遠しいシリーズである。 |
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「OUT」、「柔らかな頬」以降、2005年までに書かれた短編集。どれも、一筋縄ではいかない女性たちが登場し、黒々とした毒が充満した、その後の桐野ワールドを想像させる。
好き嫌いがはっきり別れそうな作品集である。 |
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ニューヨーク市警の現役刑事が書いて、エドガー賞の候補になったという警察小説。主役はニューヨーク市警刑事のニック・ミーアン。鋭い推理力を持っている訳ではなく、暴力的な訳でもなく、格別粘り強さで評価されている訳でもない、どこにでもいそうな刑事である。
物語の発端は、公園の木で首吊り自殺した女性が発見されたこと。女性の身元の確認が必要だし、発見者の男もうさんくさいしで、ニックと相棒のエスポジートは気が乗らない業務にうんざりしていたところに、射殺事件が発生。射殺された男はエスポジートの情報屋だった・・・。さらに拉致監禁事件や連続強姦事件も発生し、ニックとエスポジートは捜査に振り回されることになる。その一方でニックは、内部監察局からエスポジートを監察する任務も命じられていた。 関係なさそうな事件や相棒との関係が段々と絡み合ってきてクライマックスを迎えるところは、作者の構成力を感じさせる。ただ、自らの体験をベースに書き上げたというだけあって、妙なリアリティーはあるが、その分、エンターテイメントとしてはスケール感に欠ける作品だった。 |
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かなり腕のいい泥棒が、ひょんなことから郊外の住宅に置き去りにされた中学生の双子と知り合い、疑似家族を築いていくという、短編7本シリーズ。まあ、良くあるタイプの義賊というか、憎めない泥棒が主人公で、7本それぞれにひねりが効いた、起承転結のある泥棒話が挿入されている。
こういうタイプでは、どうしてもローレンス・ブロックの「泥棒バーニイ」や「殺し屋ケラー」を想起してしまうので採点が辛めになりがちだが、本作も「どうも、いまいち」な評価になってしまった。日米の社会的背景の違いもあるし、主役に中学生を設定した時点で軽くならざるを得なかったということだろう。 |
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これはもうカール・ハイアセンにしか書けない、カール・ハイアセンの世界。読者を選ぶ作品だ。これまでの彼の作品の愛読者ならツボにはまること間違い無し。あとは、フロスト警部などのドタバタコメディー系ミステリーが好きな人にはオススメ。
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娼館で育てられた孤児のアイ子は、怪物的な悪女になって、幸せそうな世間に復讐する。
こういう話を書かせると、桐野夏生は本当に上手い!と感心するのだが、本作はキャラクターもストーリーも類型的過ぎて物足りない。もうちょっと粘っこく書いて欲しかった。 特に、最後の決着の付け方は、作者もどうしていいか分からなくなったのかと思うほどバッサリで、脱力させられた。 |
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ノルウェーを始め、北欧で大人気という「ハリー・ホーレ警部」シリーズの第7作目(日本では2作目)。先に、シリーズ外作品「ヘッドハンターズ」を読んでイマイチだったのでさほど期待しないで読み始めたのだが、期待を裏切る傑作ミステリーだった。
オスロ警察のはぐれ者・ハリー警部が挑むのは、これまでノルウェーにはいないと思われていた連続殺人犯。事件の発端は、どこにでもありそうな主婦の失踪事案だったが、捜査に着手したハリーは、ここ10年ほどで似たような、未解決の女性失踪事案がかなりの数に登ることに気がつき、連続殺人の疑いを持つ。さらに、ハリーのもとに「スノーマン(雪だるま)」と署名された、挑戦的な手紙が届き、失踪した主婦の家の庭には雪だるまが作られていた。 新たに部下になった美人刑事・カトリーネほか3人を加えた、たった4人のチームながら、じわじわと犯人を追いつめていくハリーに対し、狡知に長けた犯人は様々なミスリードを仕掛けて捜査をかく乱する。 猟奇的な連続殺人が10数年前の警官失踪事件とつながり、物語は複雑で深くなり、犯人探しのサスペンスがどんどん緊迫感を増していく。さらに、何度もどんでん返しがあり(ディーヴァーほどではないが)、最初に張られていた伏線が最後に効果的に明らかにされ、読者はあっと驚き、ほっと息を吐くクライマックスを迎えることになる。 警察小説、サイコミステリー、社会派サスペンス・・・どのジャンルのファンにもオススメだ。 |
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アメリカでノアール小説への貢献ということで受賞した、中村文則の2作品のひとつ。中村文則という作家は知らなかったのだが、ノアール小説好きとしては見逃す訳にはいかず、手に取ってみた。読後感を一言でいえば、「え、もう終わり?」というところ。テーマ、ストーリー、キャラクター、いずれも文句無く面白いのだが、エンターテイメントとしては短か過ぎる。少なくとも倍以上のボリュウムで書き込んでもらいたかった。
掏摸(すり)のテクニックは詳細で緊迫感のある描写で読ませるが、ストーリーの肉付けが薄いのが物足りない。主人公の生い立ち、別れた女、重要な役割を担う少年との関わり、主人公が強制される犯罪の背景など、エンターテイメントとして膨らませていける要素がいっぱいあるだけに、残念な気がした。 |
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フランスの片田舎、サンドニ村の唯一人の警察官にして警察署長であるブルーノ・シリーズの第三弾。この地方の貴重な特産品であるトリュフに中国産の粗悪品が混入されているという疑惑の調査が、フランス現代史の暗部に端を発した凄惨な殺人と移民間の抗争にまで発展し、愛する村の平穏な生活を守るためにブルーノは全身全霊をかけて戦うことになる。
シリーズ初読なので断言は出来ないが、超人的な推理や科学的な捜査ではなく、鋭い人間観察と冷静な判断力で問題解決に当たる主人公ブルーノ署長のキャラクターが、本シリーズの一番の魅力ではないだろうか。事件の捜査というより、村の治安の維持を重視した言動はまさに田舎のお巡りさんそのもので好感が持てるし、別れた恋人との再会や現在の恋人との行き違いに悩む姿も微笑ましい。かといってただ優しいだけじゃなく、危険な場面でもひるむことなく派手なアクションも見せてくれる。主人公を始めとする登場人物のキャラクターが秀逸で、さらにストーリーも波乱に富んだ、読み応えのある警察小説だった。 それにしても、随所で登場する黒トリュフ料理の美味そうなこと! 「さすがフランス!」と言いたくなるグルメ小説というのも、本シリーズのもう一つの魅力である。 |
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またまた北欧・スウェーデンの新人作家のデビュー作。文末の解説によると、「英訳原稿が百頁しか無い段階で注目を集め、数ヵ月で26ヶ国に翻訳権が売れ」、「映画化権も売れた」というが、それも納得。「ミレニアム」に通じる派手さがあるアクション小説だ。
主人公はシングルマザーの看護師・ソフィー。交通事故で入院しているエクトルに惹かれ、軽い付き合いを始めたが、エクトルは実は国際犯罪組織の大物だった。何も知らないソフィーだったが、やがてその身辺に国際犯罪組織間の争いの火の粉が降りかかり、さらには警察からも接触され、ついには最愛の一人息子・アルベルトまで巻き込まれる事態になった。 平凡な看護師が犯罪組織に関わってしまう話、国際犯罪組織間の争いの話、スウェーデン警察の内部事情の話という3つの話が絡み合う物語の始めはゆったりした展開で退屈だが、3つの話の全体像が見えてくる中盤からは壮絶な殺し合いやカーチェイスのクライマックスに向かって突っ走っていく。作品紹介の「クライム・スリラー」というより、「クライム・アクション」と呼びたいスピード感だ。 解説によると「ソフィーを主人公にした三部作の第一弾となる予定」ということだが、捜査員でも私立探偵でもなく、ましてや犯罪者でもない、平凡な看護師が主人公でいったいどういう展開になるのか? その行方がいまとても気になっている。 |
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ローレンス・ブロックの14年ぶりのノンシリーズ作品。ストーリーとしては、連続殺人事件とそれにかかわりを持った人々の生き方を描いているのだが、真の主役は9.11の悲劇を経験したあとのニューヨークの街と人だろうか。登場人物がみんな、相当にエキセントリックであることが、あの悲惨な出来事が与えた絶望感の大きさと再生の難しさを物語っていると感じた。
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愛情の無い家庭で育児放棄された状態で育ちながら、鋭敏な美意識だけは発達させてきた美青年と、子供の時に母親が殺された現場に居合わせるという悲惨な経験がトラウマになっている美少女が、偶然の出会いから付き合い始め、やがては悲劇的な結末を迎える・・・。心理サスペンスの巨匠・レンデルの真骨頂ともいうべき、日常に潜む怖さと不気味さを感じさせる作品だ。
美を求める心が過剰であったときに生み出される悲劇は、三島由紀夫の「金閣寺」でも描かれたが、本作品では美の対象が人間であるだけにじわじわと迫ってくる恐怖感に圧倒された。 |
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デンマーク人作家のデビュー作だが、舞台はアイルランド。自分が漠然と持っているアイルランドの雰囲気が生かされた、幻想的でミステリアスな物語だった。
ダブリン近郊の小さな町の郵便配達員が配達先の家で死体を発見し、さらに同じ家に2体の女性の死体があったことからストーリーが始まる。3人はその家の主の女性と姪にあたる姉妹で、現場の状況から、家の主が姉妹を監禁していて最後に殺し合った結果だと思われた。なぜ、家族同士で殺し合うようなことになったのか? 警察は動機を解明できなかったが、同じ郵便局に勤めるオタク青年・ナイルが監禁されて殺された姉・フィオナの日記を手に入れたことから、3人を襲った悲劇の全貌が明らかになっていく・・・。 全体の構成は事件の動機を解明していく“ワイダニット”だが、作品の主眼は捜査プロセスではなく、複雑怪奇な動機に置かれている。サイコスリラーとファンタジーが入り交じったとでも言えばいいのか、物語性を楽しむ作品である。 |
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今さら説明の必要はない古典的名作だが、新訳が出たのを機に再読し、あらためて名作だと思った。
荷揚げ中の樽が落ちて破損し、金貨と女性の死体が見つかるという幕開けから捜査の進展、真相解明まで、緊張感のあるストーリーでまったく古びたところはない。 本格ミステリーファンなら必読とオススメする。 |
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「点と線」のコンビ、三原警部補と鳥飼刑事が再登場する「アリバイ崩し」ミステリー。
最初から最後まで、犯人と捜査陣の知恵比べといえる。九州の古い神事や俳句の世界が舞台になっているが、あくまでも背景に過ぎず、松本清張らしい社会性も、さほど重点を置かれていない。 警察が容疑者を絞り込む理由が「一番犯人らしくなく、アリバイが完ぺき」という理由なのが納得しづらいが、アリバイの構成とアリバイ崩しのプロセスは読み応えがある。 |
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ミステリーとしては物足りないが、人肌の温もりがじわじわと伝わってくる、そう、まるでラジオドラマのような物語だ。
新興住宅地が増えてきた地方都市のコミュニティFM局を舞台に繰り広げられるヒューマンドラマが、丁寧な描写と巧みな会話で展開され、読み進める内に読者はきっと登場人物の誰かに肩入れしたくなるだろう。 各章の扉には、その章の内容を暗示するポピュラー曲のタイトルがリストアップされており、曲と内容のつながりを推測するのも面白い。 |
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1980年代の東京を舞台にした刑事物の連作短編集。主人公の刑事・土門功太朗の物語というより、高度成長からバブルに向かう時代の移り変わりが主役の物語だ。
社会が変貌するのに合わせて犯罪のありようも変貌する。刑事・土門はそれに戸惑いながらも懸命の捜査で事件を解決していくが、犯人を起訴に持ち込んでも“一件落着”というすっきりした感じが得られない。時代が大きく変わろうとする動きの“きしみ”を感じていたのだろう。 連作を通して描かれる土門の家族のエピソードもまた、昭和の日本の証言になっている。 |
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傑作「OUT」の著者・桐野夏生の「IN」だけに、さぞかし・・と思って読むと肩透かし。私小説風の恋愛小説です。
くれぐれもミステリーを期待しないことをオススメします。 |
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性同一性障害と友情をテーマにした「ミステリー展開」の問題提起小説。男である、女であるというのは、どこで判断するのか? 人間には男と女以外は存在しないのか? などなど、人間存在の根源を問い掛けるテーマを読みやすいミステリー仕立にして完成させたところは、さすがに東野圭吾だと思った。
ただ、殺人犯をかくまって警察の裏をかこうとする「捜査ものミステリー」として読むと、かなり物足りなさを感じたのも事実である。 |
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