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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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それぞれに不思議な能力(いわゆる超能力)を持って生まれてきた3人の女性を主人公にした3本の中編集。物語の構成、話の運び方、キャラクターなどはさすがに宮部みゆき、一級品です。
スティーブン・キングなどが好きな方にはオススメだが、私的には魅力的ではなかった。 |
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谷根千で暮らす二人の前科者、芭子と綾香コンビのシリーズ第二弾。
それぞれに仕事や生き甲斐を見つけたような気がして張り切っていた二人だが、ふとすれ違った人たちから強い衝撃を受け、暮らしに大きな波紋が生じてくる。ひたすら平穏な暮らしを願っているだけの二人なのに、世間は放っておいてはくれないのか? ムショ帰りであることを隠しながら生きている二人のほのぼのとした、しかし切ない4編のホームドラマ集である。表紙の折り返しに「シリーズ、大好評につき第二弾!」とあるように、前作「いつか陽の当たる場所で」を受け継ぎながらキャラクターの成長が加味されて、一段と面白くなっている。 ぜひ、第一弾から読むことをオススメする。 |
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1984年に発表された、佐々木譲がバイク小説からハードボイルド、ミステリーへの飛躍を遂げた記念すべき作品。バブル経済の初期、熱に浮かされたような狂乱が繰り広げられていた歌舞伎町を舞台にした、鮮烈な読後感を残すハードボイルドである。
主人公は1968年、「新宿米タン闘争」の際に機動隊に追われて逃げ込んだ歌舞伎町のジャズの店のマスターにかくまわれて以来、新宿に住み着き、歌舞伎町の片隅で流行らないスナックの雇われマスターとして過ごしてきた。その店が今日で閉店という6月末の土曜日、開店準備をしていた店にケガをした若い女が逃げ込んできた。彼女は不法滞在のベトナム難民で、売春目的に彼女を拉致した暴力団組長を撃って逃げてきたという。歌舞伎町では暴力団員たちが血眼で探し回り、事件を知った警察も暴力団より先に彼女を確保すべく歌舞伎町一体を包囲し始めた。事情を聞いた主人公は、店の常連客の協力を得ながら、彼女を脱出させようとする・・・。 第一に、二人の出会いから脱出まで、わずか6時間ほどの間に繰り広げられる、人間的で密度の濃いストーリー展開がサスペンスを高める。さらに、バブル期の歌舞伎町の無法地帯ともいえる猥雑さがハードボイルドさを際立たせる。 ハードボイルドファンにはかなりオススメだ。 |
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発表されたのが1992〜3年、東野圭吾が大きく変身し始めていたのが実感できる力強い作品である。
函館生まれで札幌の大学に通う18歳の鞠子は、母親の自殺を巡る謎を解くために、昔父親が通った東京の大学を訪れて、父親の過去を探り始めたが、その途中で自分と瓜二つの女性がテレビに出ていたことを知らされる。東京の女子大生20歳の双葉は、アマチュアバンドでテレビに出演することになったが、なぜか母親からテレビに出ることを強く反対される。母親の反対を押し切ってテレビに出た双葉だったが、その後、轢き逃げされて死亡した母親の遺品を整理していて不思議なスクラップブックを発見、さらに母親の過去を知っているという旭川の大学教授から誘われて母親の秘密を探るために旭川に出掛けることになる。 誰もが見間違えるほどそっくりな顔形、体型の鞠子と双葉。二人には、本人たちがまったく知らなかった強い結びつきがあった。それぞれが自分の出生にまつわる謎を解明するために、鞠子は東京で父親の、双葉は北海道で母親の過去を探し始めるが・・・。 タイトルや物語のイントロから分かるように、人口受精やクローン作成が主テーマだが、作者の巧みな構成力によって、単なる医学技術批判の物語だけには終わらない、謎解きとサスペンスが楽しめる、エンターテイメントしても良質な作品に仕上がっている。 |
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名無しのオプシリーズの記念すべき第一作。プロンジーニが、1970年代のいわゆる「ネオ・ハードボイルド派」の新人として注目を集めるきっかけとなった作品である。
サンフランシスコに事務所を構える一匹狼の主人公は、息子を誘拐された金持ちの父親から依頼され、犯人に身代金を届ける仕事を引き受ける。簡単に終わるはずの仕事だったが、金の引き渡し現場で殺人が起き、主人公もナイフで切りつけられるハメになる。身代金を奪われた上に息子が解放されなかったため、主人公は引き続き調査を進めることになり、やがて事件の醜い背景をえぐり出す・・・。 誘拐事件の構図は比較的シンプルで、まあさらっと読めるのだが、主人公のキャラクター設定がネオ・ハードボイルドの真骨頂ともいうべきユニークさで実に魅力的である。47歳、独身、唯一の趣味がパルプマガジンの収集というだけでも個性的なのだが、さらに、恋人との関係、多量の喫煙による“いやな咳”に悩まされているという。霧深いサンフランシスコの街並みとともに主人公の葛藤がじわじわと心にしみてくる、味わい深いミステリーである。 |
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いわずと知れた大傑作映画の原作。もともと映画の企画としてスタートし、小説として完成してから監督と作家が協議してシナリオ化したとのこと。映画を見たのは、もう40年ほど昔のことなので詳細は覚えていなかったが、本作を読むに連れて甦るシーンも数多かった。
映画の名シーンの記憶が鮮烈なため、小説を読むより映画のあらすじを読んでいるようで・・・。作品のテーマ、ストーリーはレベルが高いのだが、映画の記憶が邪魔をしてミステリーとしての楽しみは減殺されてしまった。 |
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お人好し編集者・杉村三郎の素人探偵シリーズ三部作の完結編。685ページというボリュームもさることながら、内容的にも盛り沢山だし、完結編にふさわしい『落ち』がしっかり付けてあり、三作品の中では一番面白かった。
三作とも徹底して「巻き込まれ型』の事件が中心になるのだが、今回はたまたま乗り合わせたバスが老人にジャックされるという、まあ奇跡的に「トラブルを呼び込む人」でなければ遭遇しないような事件が発端となる。バスジャック自体はたった3時間ほどで解決されるのだが、人質となった7人に、事件現場で自殺した犯人から「慰謝料」が送られてくる。なぜ送られてきたのか、誰が送ってきたのか、慰謝料の出所はどこなのか? 三たび、素人探偵が調査に乗り出すことになる。 バスジャック犯の老人の背景を探りながら現代社会の病巣を描き出すのが第一のストーリーで、サブストーリーして杉村三郎の個人生活の葛藤が描かれ、最後はちょっと苦い結末を迎えることになる。 最初の老人によるバスジャックという設定から最後の甘く切ないエンディングまで、伏線を上手に生かしたストーリーでミステリーファンには十分に満足してもらえると思う。ただ、サブストーリーの杉村三郎の個人生活はシリーズの前2作を読んでいないと面白さが半減してしまうので、ぜひ前2作を読んでから手に取ることをオススメします。 |
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ジョン・ル・カレが2008年に発表した21作目の長編。1931年生まれなので、77歳での作品なのだが、老いをまったく感じさせない、エキサイティングな国際謀略小説に仕上がっている。
イギリスで誕生し、現在はハンブルグに拠点を置くプライベート・バンクの2代目オーナー、トミー・ブルーは、ドイツ人女性弁護士、アナベルから面会を求められ、「わたしの依頼人は、あなたが救ってくれると信じています」と告げられる。その依頼人とは、テロの容疑者としてロシア、トルコの刑務所で拷問を受け、脱走してハンブルグに密入国したチェチェン人とロシア人のハーフの青年イッサで、ブルーの銀行の秘密口座の番号を書いた紙を所持していた。 イスラムの過激派として国際手配されているイッサがハンブルグにいることを発見したドイツの諜報機関は、イッサを利用したある諜報作戦を進めようとする。だが、その作戦はドイツ内部の権力争い、イギリス、アメリカの諜報機関からの介入によって、思い通りにはいかなくなってしまう。果たして、トミーとアナベルはイッサを救うことが出来るのか? 最後の最後に訪れたのは・・・。まるで映画のような幕切れが印象深い(すでに映画化されており、2014年中に日本でも公開予定という)。 ル・カレの作品にしては分かりやすい筋書きで、どんどん物語の世界に引き込まれて行く。また、お得意のスパイの世界での駆け引きもたっぷりと描かれていて、古くからのファンも満足できるだろう。 |
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ミステリーファンには何の説明も不要なスウェーデンの超傑作警察小説シリーズが、全巻新訳になるという。その第一弾(シリーズ4作目)は、シリーズの中でも傑作の評価が高い「笑う警官』で、30数年ぶりに再読したが、期待にたがわぬ面白さだった。
著者ふたりは、シリーズ10作でスウェーデンの10年の同時代史を書き残すという意図を持っていたといわれるが、再読してあらためて、ふたりのジャーナリスティックな視点の鋭さを感じさせられた。さらに、エンターテイメントとしてのレベルの高さがいささかも古びていないことにも驚嘆させられた。 シリーズを初めて手に取る方にはもちろん、再読の方にも文句なくオススメ。今後の新訳の登場が非常に楽しみである。 |
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フィンランドの硬骨の捜査官カリ・ヴァーラ警部シリーズの第2作。前作同様に重苦しく、真相を解明してもカタルシスは味わえない、それでも読者を引き付ける傑作警察小説である。
前作での事件解決の功績により、ヘルシンキ警察殺人捜査課に異動したカリは、上司である国家警察長官から奇妙な極秘捜査を命じられた。それは、ホロコーストへの加担を疑われてドイツから身柄引き渡しを求められている旧フィンランド公安警察職員を調査し、証拠をもみ消せというものだった。その理由は、この老人が戦時中のフィンランドの英雄として知られる人物であり、フィンランドがホロコーストに関わった事実をほじくり返されたくないという政府の意向でもあった。さらに、カリの尊敬する祖父が、この老人と同じ時期に同じ任務に着いていたことも告げられた。複雑な心境のまま調査を始めたカリだが、すぐにロシア人実業家の妻が惨殺された事件の捜査も担当することになり、私生活を犠牲にして捜査に没頭せざるを得なくなる。そんな苦労に苦労を重ねた末にたどり着いたところは、前作同様、真相解明が救いにはならないような事実だった・・・。 物語は、2つの捜査が並行しながら進んでいくのだが、もうひとつ、カリの妻ケイトの出産が迫っていること、カリに原因不明の頑固な頭痛がつきまとっていることなど、私生活のトラブルも重要なエピソードとなっている。特に、ケイトの出産を祝うためにアメリカからやってきたケイトの妹弟との「異文化の衝突」が興味深い。 物語の最後では、カリは国家警察長官から新たな秘密警察を組織することを命じられ、さらに頭痛の原因を探るための検査で思い掛けない事態に直面することになる。これは、次回作が見逃せない。 |
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著者ストロングの名前は聞いたことがなかったが、戦前から戦後にかけて活躍したイギリスの作家で、日本で長編が翻訳されたのは、本作が初めてだという。40〜50年代にエリス・マッケイ警部シリーズを4作、発表しており、本作はその3作目にあたる。
主人公のマッケイ警部は、自分の本質は作曲家であり、ロンドン警視庁の警部は生きるための稼業と考えている芸術家気質の探偵というユニークな設定。したがって、その捜査も危険なアクションや地道な聞き込みなどとは無縁で、どちらかといえば、アームチェアディテクティブ。相棒となる、地方警察勤務のブラッドストリート警部とのコンビで、優雅に推理を進めていく。 本作では、若い女性の連続失踪事件と諜報機関からの情報漏えいがストーリーの二本柱となって展開されるのだが、犯人は? 動機は? というミステリーの本質より、登場人物たちの人間ドラマの方に力点が置かれているようで、物語はゆったりと流れていく。作中で重要な役割を果たす死体の謎が、最後まで解明されなかったり・・・。でも、そんなことは気にしないで、ゆるくておだやかなミステリーの世界を楽しんだ方がいいだろう。 |
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歴史に題材を取ったミステリー? 怪奇趣味の幻想譚? 「ダ・ビンチコード」の流れの美術品の暗号解読もの? そのいずれにも該当する、大変評価が難しい作品である。
急死した父親の遺品を整理していたリー・ホロウェイは、「ポールは溺れ死んだのではありません」という手紙を見つける。5年前にプラハで死んだ弟ポールは、何か事件に巻き込まれていたのか? 真相を探るためリーはプラハに飛び、差出人のヴェラという女性に会う。ところが、プラハの街でリーを待っていたのは、現実と幻想、過去と現在が入り組んだ迷宮の世界だった。 はっきり言って、途中は中だるみで退屈。幻想譚好きには受けるかもしれないが、ミステリーとしては面白くない。 ただ、最後の最後に、読者の意表をつく展開で大きな謎を残して終わるところは上手い。 |
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イギリスの田舎町の新聞記者ドライデン・シリーズの第3作目は、なかなか渋いミステリーだ。
第二次世界大戦中に捕虜収容所があった場所での遺跡発掘作業中に、トンネルと骸骨が発見された。トンネルは脱出用で、遺骨は脱出しようとしたイタリア兵と思われたが、奇妙なことに、遺骨は収容所の中に向かう格好で死んでいた。さらに、頭には銃撃された跡があり、盗品と思われる真珠や銀の燭台を持っていた。果たして、この骸骨は誰なのか? なぜ、収容所の中に向かっていたのか? 犯人探しではなく、記事にするための調査を進めたドライデンは、戦後、収容所から解放されて地域に住み着いたイタリア人社会に接触し情報を集めていく。すると、収容されていたイタリア人捕虜による窃盗事件が頻発していたことを知り、さらに今度は、発掘を指揮していたイタリア人教授が殺されるているのを発見することになった。 第二次世界大戦当時からの因縁が絡み合い、一筋縄ではいかない複雑な事件の様相が明らかにされるプロセスは実にお見事! 最後にはすっきりした(解決した)感覚が得られること間違い無し。いわゆる「英国本格派ミステリー」好きにはオススメだ。 |
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ニューヨーク市警の超美貌刑事キャシー・マロリー・シリーズの第7作。テーマ、構成、キャラクター、物語展開など、いろいろな意味できわめて複雑な作品なので、マロリー・シリーズを未読の方はぜひ第1作から読むことをオススメする。
マロリーの育ての親の親友でマロリーの相棒でもあるライカー刑事は、銃弾を受けた後遺症により傷病休暇中だが、一向に職場復帰の気配を見せず、弟が経営する事件現場清掃会社の経営に没頭し、さらに、そこで働く“せむし”の女性・ジョアンナに秘かに心を寄せていた。そんなライカーに苛立ったマロリーは、お得意の住居不法侵入、盗聴などを駆使して、謎の多いジョアンナの正体をさぐり始める。ジョアンナの周辺にはFBIの姿がつきまとい、ジョアンナに絡んでいたホームレスが殺されるという事件が発生した。ジョアンナとは、誰なのか? なぜ様々な事件を引き寄せるのか? タイトル「陪審員に死を」が示すように、ある裁判の陪審員が次々に殺されるという連続殺人が中心のストーリーなのだが、その裁判の様子が詳しくは説明されず、ジョアンナと陪審員の関係もなかなか判明しないため、物語の前半は全体の複雑な構成を理解するのに非常に骨が折れて読みづらい。また、マロリーとライカーの関係を知っていないと、マロリーの苛立ちやライカーの心理を理解できないだろう。 この作品をネタバレ無しで説明するのは非常に難しい。重ねて言うが、絶対に第1作から読んで、マロリーのキャラクターを理解した上で読んでいただきたい。そうすれば、本作に登場する異様なキャラクター(ジョアンナ、彼女の飼い猫、ラジオパーソナリティー、音響係など)も受け入れて楽しめると思う。 |
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ご存知、リーバス警部シリーズの第16作。2005年、G8サミットが開催されたエジンバラでの出来事を濃密に描いた、大型警察小説である。
G8に反対する大規模なデモで騒然とするエジンバラで、連続殺人と思われる事件が発生した。ひたすらG8の成功を願う警察上層部は、事件が大きな話題になるのを避けようとするが、老刑事・リーバスには、それが我慢できなかった。同僚・シボーンの協力を得て、上司に盾突きながら捜査を押し進めていくリーバスの前には、宿敵のギャング・カファティ、ロンドンの公安の責任者、防衛産業の大物などが立ちふさがる。 本作の読みどころは、定年まであと一年になったリーバスの磨きがかかった頑固さだろうか。政治的、社会的な権力からの圧力に屈することなく、ありとあらゆる知恵を使って捜査妨害をはねのけていく。それは、「犯人を逃がさない」という刑事としての使命感であり、そのために家族や自分の生活を犠牲にしてきた歴史を無価値にしないためでもある。 事件の真相を明らかにしてからのリーバスの孤独と執念深さに、一匹狼の美学とペーソスがよく表れていた。また、シボーンの両親が登場し、彼女の家族関係や家族観が明らかになるのも、新しい面白さだった。 シリーズ愛読者にはもちろん、警察小説ファンにもオススメ。 |
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「夏を殺す少女」で日本デビューしたアンドレアス・グルーバーが、「夏を〜」以前に書いていた保険調査専門探偵ホガート・シリーズの第一作。シリーズはすでに第2作が発表されており、全3部作で計画されているという。
ウイーンの探偵ホガートが依頼されたのは、プラハの美術館に貸出した絵画が焼失した事件と、それを調査するためにプラハに派遣され、「焼失した絵画は偽物だ」という連絡をよこした後に行方不明になった保険会社調査員を探し出すこと。プラハでの調査を開始したホガートは、行方不明の調査員の足取りを追う中で、地元の女性探偵イヴォナと出会い、彼女が調査している猟奇連続殺人事件に関わることになる。 物語は途中から、保険会社からの依頼はそっちのけで連続殺人の捜査が中心になり、「あれ?」と思っているうちに意外な形で両者がつながり、一応の辻褄はあってくるのだが、やや強引な感じがするのは否めない。この点を始め、全体的に粗削りな印象を与えるが、古いモノクロ映画を偏愛する主人公のキャラクター設定が成功して、読み応えは十分。猟奇殺人のサイコパスが主題になっていることに加えて、「(プラハの中心を流れる)ヴルタヴァ川の霧の中では夢と現実の境界はあいまいになる」といわれるプラハの街も重要な役割を果たしている、やや重い印象のホラー風味サイコミステリーである。 |
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佐々木譲が1986年に発表した初期のハードボイルド作品。円熟期を迎える前の甘さが感じられるといえば大作家には失礼かもしれないが、ロマンチックな要素が強いハードボイルドである。
台風が接近する那覇に到着した主人公・泰三は、執拗な追手から逃れるために小さくて目立たないホテルに投宿し、那覇からの脱出の手段を模索する。ところが、ホテルの専務・順子は10年前、泰三が真剣に惚れながら挨拶もなしに別れざるを得なかった相手だった。嵐の那覇で再会した二人は、それぞれの10年の歴史を背負いながら交差し、海外脱出への道を突っ走る。 非合法組織から逃げる泰三を主人公にしたマンハントが本筋のサスペンスという作品の位置付けだが、私には、順子を愛しながら捨てざるを得なかった泰三の自分を締め上げるような生き方を中心に据えたハードボイルド作品と読めた。泰三を追う組織、泰三が追われる理由などがはっきり書かれていないことも、作者がサスペンスを重視していないことの現れだと思う。 台風に直撃された那覇の二日間に凝縮された、二人の人生。南国の花の甘さが香るハードボイルドである。 |
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ポール・リンゼイが別名で発表した、「元FBI捜査官スティーブ・ヴェイル」シリーズの第一作。残念ながら、2011年に作家が亡くなったためシリーズは2作で終わってしまっている。
TV司会者が殺され、FBIに100万ドルを要求する脅迫状が届き、支払われない場合には政治家を殺すと脅迫してきた。FBI捜査官がニセの金を持って指定の場所に赴くが、犯人は捜査官を殺害して逃走し、数日後に予告通り政治家が殺害された。次に犯人は、指名したFBI捜査官が200万ドルを持参するように要求するが、本物の200万ドルとともに捜査官が消えてしまった。捜査に行き詰まったFBI高層部は、犯人追跡に特異な才能を持っていた元捜査官スティーブ・ヴェイルに協力を依頼する。FBIの捜査手法を熟知し、さらに内部情報をつかんでいると思われる狡猾な犯人を相手に、ヴェイルは知力の限りを尽くした戦いを挑む。 ストーリーが明快でテンポ良く展開されるので、非常に読みやすい。また、それぞれのシーンが目に浮かぶように描写されており、登場人物も美男美女で、まさに映画向きのアクションミステリーといえる。 |
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現代アメリカ文学の巨匠・マッカーシーが書き下ろした映画脚本。リドリー・スコット監督、主演がマイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルスという豪華な陣容で映画化された(日本でも公開済み。未見)が、評判はいまいちだったようだ。
濡れ手に粟の金もうけのためたった一度のつもりで麻薬密輸に関わった弁護士が、ある手違いが生じたために麻薬マフィアの報復を受けるハメになり、凄絶な暴力の世界に巻き込まれてしまう・・・。物語の始まりこそ穏やかで美しいが、中盤からは一気に、正義や倫理など無縁の暴力が連続し、いつも通りのマッカーシーの世界が繰り広げられる。そして最後に微笑むのは・・・。 本作はあくまで脚本であって、小説ではない。つまり、セリフとト書きだけで構成されており、心理描写は省かれている。したがって、映像的なイメージはありありと思い浮かべられるが、行間を読み込む楽しみは欠けている。この点が、小説好きには物足りないだろう。 |
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スイスの作家・フリードリヒ・デュレンマットの1953年の作品。
スイス・ベルンの引退間近の老警部が、ナチス強制収容所で悪行を働いた医師が身分を偽って病院を開いていることを暴こうをする、社会派の心理サスペンス。ただ、舞台装置も登場人物も1950年代そのもので、現在読むと古くささを感じざるを得ない。良くも悪くも、第二次世界大戦直後という時代背景の色濃い作品だ。 |
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