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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1359件
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2001年度の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した、畠中恵の出世作。ごぞんじ「しゃばけ」シリーズの第一作である。
江戸の大店の一人息子だが身体が弱くて、17歳になっても過保護に育てられている一太郎は、思い切って一人で外出した先で殺人事件に遭遇する。周りの妖怪たちに助けられて逃げ帰った一太郎だったが、周辺で奇怪な殺人事件が連続し、否応無く事件解決に乗り出すことになった。病弱で満足に外出も出来ない一太郎を助けるのは、二人の手代(実は妖怪)を始めとする家族同然の妖怪と幼なじみの友だちだった。 八百万の神、森羅万象に神が宿るという江戸の庶民のファンタジーを謎解きミステリーで味付けした、優しくてのんびりしたテイストに癒される。スリルやサスペンスとは無縁の大江戸推理小説である。 人情もの、恐くない奇譚もの好きの方にはオススメだ。 |
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イベリア・シリーズの第4弾。連合軍の北アフリカ上陸作戦の成功からシシリー島上陸までの時代が舞台である。
対ソ連軍との戦いでも劣勢に立ち、追い詰められ始めたドイツ。最後の望みは地中海での上陸作戦を敢行する連合国軍を返り討ちにすること。そのためには、上陸地点がどこになるのかを探り出すことが最重要課題であり、イギリスに送り込んだスパイを使って連合国軍の作戦情報を必死に収集しようとする。一方、イギリス側ではドイツに真意を悟られないように、死体を使った大胆不敵な偽装情報作戦が立案された。ナチスドイツは、この偽情報を見破れるのか? スペインでの情報戦の焦点がヨーロッパでの戦争に移ったため、本作では北都昭平よりヴァジニアが主役となっている。祖国への忠誠と恋人への思いで揺れるヴァジニアの苦悩が延々と続くのがちょっと食傷気味になってくる。また、同僚、同盟国はもちろん敵対国の情報機関関係者までヴァジニアに理解を示し、協力的なのが、ご都合主義な気がしてストーリーに集中できないのが残念。スパイ小説より恋愛小説になってきたようで、シリーズの初めのようなサスペンスは期待できない。 |
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イベリア・シリーズの第3弾。真珠湾攻撃から連合国軍の北アフリカ上陸までの時代を描いている。
相変わらず日和見を決め込むフランコ・スペインを味方に付けるため、英独の情報戦が繰り広げられているスペインを舞台に日系ペルー人で日本のために諜報活動を行っている北都昭平と、英国情報部員ヴァジニアの抜き差しならぬ関係に強烈な波風を立てる日系アメリカ人女性が登場。二人の女性が繰り広げる恋のバトルが加わって、登場人物全員が誰を信用していいのか疑心暗鬼が募るばかりの混乱状態になるのだが、それでも世界情勢は刻々と変化し、連合国側の反攻が始まり、スペインは枢軸国側から連合国側に軸足を移すことになる。 本作では、情報収集より、カウンターエスピオナージというか、情報かく乱戦が中心となり、その分だけ手に汗を握るようなサスペンス要素は薄くなっている。また、敵側の人間に恋してしまったヴァジニアの苦悩が前面に出てきて、何となく2時間ドラマ的な居心地の悪さを感じてしまった。 これが、シリーズ物では避けられない中だるみで、次作から元の緊張感あふれるスパイ小説に戻ることを期待したい。 |
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ロサンゼルス市警のはぐれデカ「ハリー・ボッシュ刑事」シリーズの第一作。ストーリーの面白さもさることながら、主人公ハリーが鮮烈な印象を残す傑作ミステリーである。
ジャンキーの死体が発見された現場に駆けつけたハリーは、被害者がベトナム時代の同僚メドーズであることを知る。ヘロインの過剰摂取による事故死と判断されたが、納得できないハリーは上層部の指示を無視して独自に捜査を進めようとしたが、銀行強盗事件に関連してメドーズを追跡していたというFBIが関与してきて、女性捜査官エレノアと組んで捜査に当たることになる。その銀行強盗事件とは、地下トンネルを掘って金庫室に侵入するという手口であり、ハリーとメドーズはベトナム時代はベトコンのトンネルを捜索する専門部隊に属していたのだった。 銀行強盗を実行したグループの手がかりも得られず、捜査が難航する中、ハリーとエレノアはメドーズの死体が遺棄されるのを目撃した少年を見つけ出すのだが、確たる証拠を掴めないうちに、少年が殺害されてしまう。捜査陣の中に情報を漏らしている者がいるらしい・・・。 一匹狼の刑事が、周囲と軋轢を起こしながら突っ走るという話はありがちなパターンだが、主人公のハリーはけっして暴力的な訳でも、やたらと法を無視したり銃をぶっ放したりする訳でもなく、捜査手法は警察捜査の王道を行く地道なものである。さらに、戦争の後遺症に苦しみながらも弱者への共感を持ち続けている、なかなか高感度の高いキャラクターであり、その点で、単なるアクションものに終わらない良質なハードボイルドミステリーに仕上がっている。 警察小説、ハードボイルド、社会派ミステリーのファンにオススメだ。 |
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「百舌」シリーズの第7作。もう終わったかと思っていたシリーズだが、不死鳥のごとく百舌を蘇らせて新展開が始まった。
新聞記者・残間は、右翼系オピニオン誌の編集長をしている先輩から「百舌」についての記事を依頼された。しかし、その先輩は在職中に「百舌」に関連する残間の記事を握りつぶした人物であり、胡散臭さを感じていた。同じ頃、残間は武器の不法輸出を巡る内部告発のネタを掴み、大杉に内部告発者の身辺調査を依頼する。調査を始めた大杉が倉木美希警視に接触した直後、倉木が何者かに襲われ、コートの襟に百舌の羽根が残されていた。また、残間に記事を依頼した先輩が殺害され、その歯には百舌の羽根がかまされていた。 不法な武器輸出と封印された「百舌」スキャンダル、二つの異なるエピソードはやがてひとつの醜悪なスキャンダルに発展し、死んだはずの殺し屋「百舌」が再登場することになる。 「百舌」の復活が話の重要なキーになるので、これまでのシリーズを読んでいないと面白さが半減する。また、これまでの「百舌」の神出鬼没、必殺技の凄さを堪能して来た読者は、復活した「百舌」にかなりの物足りなさを覚えるだろう。ということで、残念ながらシリーズの中では一番出来が良くない作品である。 エピローグでは、復活した「百舌」の次の仕事が強く示唆されているので、次回作での再度のパワーアップを期待したい。 |
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タイトルはあまり感心しなかったが、罪と罰の難問に真摯に取り組んだ、硬質で面白い社会派ミステリーである。
フリーライターの女性が帰宅途中の路上で刺殺された。犯人が2日後に自首し、金目当ての短絡的な犯行だと自供した。しかし、被害女性が過去に、仮釈放されて間がない強盗犯に自分の娘を殺害された経験があったことから、警察から被害者の元夫・中原に連絡があり、犯行動機に疑問を持った中原は元妻の取材活動に本当の動機があったのではないかと調べ始める。一方、有名大学病院の小児科医・仁科は、この事件の犯人が妻の父親であったことから、周囲からさまざまな圧力を受けるようになる。 中原と仁科、被害者の遺族と加害者の親族という二人の人物を中心に、裁判や量刑に対する被害者と加害者の思いの違い、死刑という刑罰の犯罪抑止効果、罪を償うとはどういうことか、罪は償えるのか、などの重い課題が議論される。誰が考えても正解は出ないけれど、誰もが考えなくてはならない難問を、見事なエンターテイメントで提起する作者の力量に舌を巻いた。 多くのミステリーファンにオススメしたい。 |
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大阪一の極道と弱気な(実はけっこうしぶとい)コンサルタントの疫病神シリーズの第4弾。ストーリーもキャラクターも脂が乗り切ったようで、500ページを一気読みの面白さである。
今回、桑原が金のにおいを嗅ぎ付けたのは、巨大宗教の内紛に起因する絵巻物の争奪戦。宗教内部の権力争いが引き起こした宝物と大金のやり取りに、強引に首を突っ込んだ桑原と、桑原に引きずり込まれた二宮が東京のヤクザを相手に大活躍を見せる。知恵と度胸の突っ張り合いで、最後に勝利するのは誰か? いつもの二人に加えて、今回は若頭の島田がさすがの貫禄を示すのだが、その「若いものは意地を通して弾けるが、幹部はいつでも金勘定で駆け引きする」という考え方が、現代ヤクザの本質を表しているようで、本シリーズの通奏低音にもなっている。 本作では、二宮に淡い恋の予感が・・・と思わせながら、最後はいつも通りの「浪速の寅さん」というオチもお約束で楽しめる。 主役の二人の関係の面白みを堪能するために、ぜひ第一作から読むことをオススメする。 |
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3本の短編と1本の中編を収めた、ガリレオ・シリーズの8作目。期待通りに安心して楽しめる作品ぞろいである。
人気のシリーズも8冊目となると、以前、どこかで読んだことがあるような話も出てくるのだが、それぞれに新しい魅力が加えられていて飽きさせない。 例えば、旅行中などに乗り物内で読むには最適な一冊として、どなたにもオススメできる。 |
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「その女 アレックス」が大ブレークしたおかげで文庫で再刊された、ルメートルの傑作ミステリー。シリーズ外作品なので、他の作品を読んでいなくても何の不都合も無く楽しめる。
ベビーシッターとして働いていた家の子供を殺し、逃亡中に身分を詐称するために同年代の女性を殺害した連続殺人犯として追われるソフィー。一年前の彼女は、エリートサラリーマンの夫と暮らし、自らもオークション会社の広報部に勤める聡明で幸福な女性と見られていた。それが、なぜ、いつから逃亡者にまで転落してしまったのか? これから先は、絶対に話してはいけない。とにかく、意表をつく構成と展開でたっぷりと楽しませてくれる超一級のサイコミステリーであることは間違いない。遊園地の絶叫マシーンに例えると、ジェフィリー・ディーヴァーがジェットコースターなら、本作はフリーフォールと言うべきか。道路の角を曲がったとたんに道が消えて垂直に落下するようなスリルとサスペンスが味わえる。 文句無しのオススメだ。 |
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英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズの新展開三部作「フック、ライン、シンカー」の第二作である。
自らが所属するイギリス秘密情報局に追われる身となり、幼なじみのベルナーを頼ってベルリンに潜伏していたサムソンだったが、ロンドンに呼び戻され、新たな任務を命じられる。作戦の詳細を知らされないままドイツ、オーストリアに赴くと、なんとそこでは、サムソンとイギリスを裏切った元妻のフィオーナが待っていた。果たして、フィオーナは何を考えているのか? フィオーナは実は東に潜伏するスパイなのか? シリーズの全体を左右する、大きな転回点となるストーリーにあぜんとさせられる。もちろん、レン・デイトン作品なので派手なドンパチは無いが、秘密情報部という組織の恐さ、特にイギリスの同組織の冷淡非情さにぞくぞくさせられる、スリルとサスペンスに満ちた作品。本格スパイ小説ファンにはオススメだ。 |
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20年前、家族に何も告げないまま学生時代を過ごした街に行き、泥酔して運河に落ちて死んでしまった父親の謎を解くため、成長した息子は、その街を訪れる。息子が大人として生きて行くためには「自分たち家族は、父に捨てられたのか?」、「父には、家族には言えないどんな深い秘密があったのか?」という疑問を解き、心の決着をつけることが必要だったのだ。
死亡時の父の足跡をたどり、大学時代の資料に当たり、さらに学生時代の知人を訪ねていくうちに、息子は40年前にさかのぼる「ある事件」の闇を暴くことになった。 物語の主眼は、捜査のプロセスの描写や事件の真相を暴いていくことより、父親の心の闇に分け入っていくことの方に置かれている。従って、これまでの佐々木譲作品のミステリー、サスペンスを期待していると、やや期待外れだろう。 父親の青年時代の苦悩を知り、ようやく父親が理解できるようになるという展開は、少年が大人になる過程を描く成長小説とは逆のパターンの成長小説とでも言うべきか。 |
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「英雄の書」の世界を受け継ぎ、2015年に発行されたファンタジー色が強いミステリーである。
サイバーパトロールのアルバイトをしている大学生・孝太郎は世間を騒がせている連続殺人事件の調査に巻き込まれ、引退した刑事・都築と一緒に素人探偵として犯人を捜し始めることになる。さらに、近所の女子中学生・美香を巡るネットいじめの解決にも力を貸すことになる。 物語は、連続殺人事件とネットいじめの2つのストーリーを中心に展開され、そのどちらもミステリーとして及第点なのだが、いかんせん、孝太郎が妖怪から授けられた「言葉を読む超能力」で謎を解いて行くというところで、ミステリーファンとしては「う〜ん、残念」となってしまう。 ファンタジー小説好きの方にはオススメだが、ミステリー好きとしては「ミステリーに徹していてくれれば・・・」と思わざるを得ない。 |
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1988年に発表された、英国SIS職員バーナード・サムソンシリーズのひとつ。先行した「ベルリン・ゲーム」、「メキシコ・セット」、「ロンドン・マッチ」の三部作に続く「フック、ライン、シンカー」の新展開三部作の第一作である。
基本的には前三部作を踏襲し、妻・フィオーナの裏切り、亡命後のサムソンのやりづらさをベースに、イギリス秘密情報局の陰湿なパワーポリティクスを描いている。 ただ、現実の時代に合わせて話が進行していたシリーズだけに、「ペレストロイカ」、「ベルリンの壁崩壊」などの冷戦構造の終わりという影響を受けてストーリーがどう変化して行くのか。「スパイ小説の危機」ともいわれる時代の新しいスパイ小説のモデルとなり得るのか。そうした視点から三部作全体を注目してみたい。 |
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オレオレ詐欺に題材をとり、出てくるのは犯罪者とチンピラと警察ばかりという、黒川博行ワールド全開のノワールエンターテイメントである。
オレオレ詐欺の名簿屋・高城に使い走り兼受け子の手配師として顎で使われていた橋岡は、チンピラの矢代に誘われて賭場に参加し、二人でヤクザに借金をするハメに落ち入った。返済のための借金を高城に申し込んだ二人だったが、話がこじれたことから高城を殺害し、少しの現金と億単位の預金通帳や証券会社の通帳を奪った。しかし、銀行や証券会社のセキュリティの壁に阻まれて簡単には現金を手に入れることができず、また、高城の不在を不審に思ったヤクザからの追求に四苦八苦することになる。 一方、大阪府警特殊詐欺班の刑事たちはふとしたことから橋岡と高城に目を付け、高城のグループを一網打尽にするべくじりじりと捜査網に追い込み始めていた。警察と詐欺師の根比べが続く中、チンピラ・矢代の暴発から事態は一気にクライマックスを迎えることになった。 疫病神シリーズと似た展開だが、切れ味が今ひとつ。また「後妻業」と同じような社会病理を背景にしているものの、「後妻業」ほどのインパクトは無い。それでも、十分に楽しめるのは大阪弁の会話の面白さとストーリー展開のスピードがあるからだろう。 黒川博行ファンにはちょっと物足りないかもしれないが、犯罪小説ファン、ヤクザ小説ファンにはオススメだ。 |
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逢坂剛のデビュー直後の作品。のちの傑作シリーズ「百舌」につながっていく作品だが、百舌シリーズのような公安警察のあり方を追求したものではなく、犯人逃亡のトリックの謎解きに主眼が置かれた「ハウダニット」「ワイダニット」ミステリーである。
警視庁公安部所属の二人の刑事が主役で、貿易会社ビル占拠の人質事件と右翼の大物の暗殺事件の二つの事件の謎を解いていく。中でも、ビルを占拠した犯人が9階からエレベーターで降りてくる途中で姿を消したトリックが最大のハイライトで、このトリックはなかなか良く考えられていて面白い。もう30年以上前の作品だけに、現在の科学捜査技術からすると間抜けに見える部分があるのだが、それは仕方が無い。暗殺事件の方は背景として政界スキャンダルがあり、後の百舌シリーズにつながるテイストが見られる。 百舌シリーズの完成度に比べると数段落ちるのだが、前史として、シリーズ読者は読んでおくことをオススメする。 |
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まあ、一度は読んでおいて損は無い密室ものの古典的名作。ガストン・ルルーはこの一作だけの作家と目されているが、さもありなん。
密室破りのテクニックに賛否両論があるだろうが、ミステリーに新風を巻き起こそうとする意欲は感じる。ただ、あまりにも冗長な描写と古典的なロマンチックさに、途中で放り出したくなるかもしれない。 |
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東京下町で女性のバラバラ死体が3箇所で発見された。検査の結果、被害者は2人で、しかも一度埋められていた死体がバラバラにされてから放置されたことが判明する。さらに、犯人から警察を嘲笑する挑戦状が送られてきた。
これはもう典型的な猟奇殺人事件の幕開けで、これからどんな残酷な事件、異常な犯行が展開され、どんなサイコパスが登場するのかと思っていると、事件としてはそこまでで、あとは捜査活動と動機の解明に終始することになる。しかも、捜査する側の主役の一人が13歳の少年(父親は刑事なのだが)なので、実にゆったりとした、緊張感の無いストーリーが展開される。 判明した犯人と動機は非常に深い社会的問題に根ざしているのだが、何となく「薄い」という印象を免れず、本格ミステリーとしては物足りない。ただ、人物設定や語りの上手さはやはり一級品で、読んで損することは無い。 宮部みゆきファン、軽めのミステリーが好きな方にオススメだ。 |
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乃南アサの1992年の作品。比較的初期の作品だけあって、乃南アサらしさの片鱗は見られるものの構成が荒削りであることは否めない。
花嫁衣装あわせに来た女性がお店から姿を消したのがプロローグ。そこから、執拗に追い掛けてくる男から逃げる夏季という女性の逃避行と、もう一つ、連続女性殺人事件の捜査という二つの物語が並行して展開される。 主要な登場人物は夏季、殺人犯、捜査本部長のキャリア警察官・小田垣、小田垣のひいきの店のホステス・舞衣子の4人で、4人とも正体不明なところがあり、誰が善人で誰が悪人か、最期の方まで分からないところにサスペンスがあり、読者はぐいぐい引き込まれていく。殺人犯の正体も最期まで判明せず、フーダニットとして良くできている。 ただ、クライマックスが拍子抜けするほど「ご都合主義」で大幅減点にした。 |
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警察小説の第一人者・横山秀夫がいつもとは逆の世界に挑戦した、犯罪者視点の連作短編集である。
主人公は「ノビカベ」の異名を持つ侵入盗のプロ・真壁修一。周りからは司法試験を受けると思われていた秀才だったが、双子の弟・啓二が窃盗を働いたことに悲嘆し、無理心中をはかって自宅に放火した母親の巻き添えになって焼死し、二人を助けようとした父親も犠牲になったたことから、世の中に絶望し窃盗犯の道を歩むことになった。これだけでも相当ユニークというか、無理筋の設定だが、さらに死んだ弟が修一の頭の中に住み着いていて、要所要所で会話を交わすというだから、かなり特異な世界で物語が展開されることになる。 全7作品それぞれにテーマが設定され、構成の工夫があり、バラエティに富んだ作品集だが、いかんせん大前提がリアリティに欠けるため、いつもの横山秀夫の世界には到達していない。読む前の期待値が高過ぎたのかもしれないが、やや物足りなさが残った。 |
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英国の新人作家のデビュー作。いきなりMWA賞候補になっただけあって、骨太で味わい深い法廷ミステリーである。
ロンドンの公園で8歳の男児が殺され、犯人として11歳の少年・セバスチャンが逮捕・起訴された。弁護を依頼されたダニエルはセバスチャンに11歳の頃の自分を重ね合わせ、心の底から少年を弁護したいと思う。同じ頃、ジャンキーの母親から施設に保護されていた11歳のダニエルを引き取り、後には養子にしてくれた里親のミニーが死亡したと知らされる。育ての親として感謝しながらも、ある出来事からミニーを恨み、連絡すら拒んでいたダニエルだったが、ミニーの死により否応無く過去を振り返ることになる。 孤独と絶望にとらわれた惨めな少年だった自分と、裕福ながらも問題の多い家庭で育てられた、脆くて壊れそうなセバスチャンとを二重写しにして、ダニエルは環境に左右される少年の心の闇を解き明かそうとする。少年が「悪いことをする」「罪を犯す」とき、その責任を負うべきは少年だけなのか? 法の正義が貫かれることと、社旗正義が実現されることは完全にイコールなのか? セバスチャンの裁判の進行とダニエルの回顧が交互に繰り返されながら進むストーリー展開が、非常に緊張感があってスリリング、新人とは思えない技巧が秀逸。静かだが力強い、読み応え十分の法廷ミステリーとして、多くの人にオススメできる。 |
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