鍵のかかる棺
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点7.50pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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森村誠一が1973年から74年にかけて週刊誌に連載した、著者得意のホテルものに分類される社会派ミステリーである。 | ||||
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古さを全く感じさせない面白い小説。巨大ホテルを主に様々な事件が絡み合い、じわじわと迫り来る敵を欺きながらの駆け引き・・・などなど飽きさせない構成で読み手を引き寄せる手腕が見事。書かれている通りホテルの裏の顔がリアルかどうか分からないが、面白い反面怖い。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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1973年6月から1974年7月まで「週刊新潮」に連載された作品です。1975年、新潮社より2冊に分冊され出版されました。上・下巻通しての書評になります。森村誠一氏は「大都会」で作家としてデビューするものの売れ行きは今一つで雌伏の時代を過ごしました。その後「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞し「腐食の構造」で日本推理作家協会賞を受賞すると、一気に人気を集め国民的ベストセラー作家の地位を得ました。 森村氏は作家としてデビューする前、青山学院大学を卒業するとホテルマンとして10年ほどサラリーマン生活を送りました。そこで様々な人と出会い、権力者たちや支配者たちの強大な力を知り、屈する日々を過ごします。更にホテル内部では、一見華やかに見えるホテルマンと雖も、裏側に回れば家畜のような扱いを受ける身となり鬱屈した期間を過ごしました。 本作品は、森村氏のホテルマン時代に経験した数々の屈辱を書いた作品とも言えます。大都市の高級ホテルを舞台にした物語は「高層の死角」「超高層ホテル殺人事件」「虚構の空路」など多数あります。しかし、それは舞台として書かれたものでした。ホテル内部に通暁した作品は「銀の虚城」「鉄筋の畜舎」であり、その優雅なホテルの裏側にあり見えない部分を実に如実にユニークに書いています。 森村氏は、本作発表後、ホテル内部で知り得たことは、すべて書き尽くしたと述べています。ホテルの巨大で優雅な建築物は、銀行から借金をして建てられた“借金コンクリート造り”と揶揄しています。その表現法には実にユニークなものを感じます。前出の“虚城”もそうであり、“畜舎”に至っては、そこで働く従業員たちが勤務中に食べる食事が家畜のエサ同様だったことから、揶揄し皮肉った言葉です。 本作のタイトルは、更に上手く(?)皮肉った題名になっています。ホテル客室は鍵が内外から掛けられ、内部は棺と同じだと。安全をうたっていながら、棺の中に入ってしまったのと同じ様な危険な場所でもあると言っています。 山名真一は、都内の有名私立大学を卒業して、千代田区平河町にある東京ロイヤルホテルに入社しました。ボーイから始まりフロント業務に配属されたある日、政界との繋がりを最大限に利用して急伸した永進商事社長の長良岡公造がフロントに現れます。山名は長良岡を指定のVIP室へ案内すると、客室電話で呼び出されます。山名は急いで部屋へ向かうと長良岡は便器が詰まっていると言う。客室サービスのミスではあったけれど長良岡は、部屋を案内した山名を叱責すると、すぐに清掃を呼ぶという山名の言葉を聞かず、この場で清掃するよう山名に命じます。道具を持たない山名は、トラップから溢れる汚物を素手で掻き出し、制服は糞尿まみれになり、最大の屈辱を味わわされてしまいました。 山名と同じく東京ロイヤルホテルに入社した佐々木信吾は、食堂課ルームサービス係の担当になった。16階の外人客から呼ばれ客室ワゴンを降ろしていた時、その食事や飲料が全く手を付けていないことに気が付きます。佐々木は、幼い頃から食べ物を粗末にすることを罪悪と躾けられていました。ホテルの食事は美味しい、エレベーターの個室に入った時、佐々木はその誘惑に負けてしまいました。すると突然エレベーターが止まり、ドアが開いた。前に立っていたのは次期社長候補として、すでにホテル内で支配を強めていた営業担当支配人の久高光彦でした。ホテルマンが客の食べ残しを食べるのは厳罰で、久高から叱責されるのは当然であったけれど、久高は黙ってその食べ残しを食べると、それを吐き出し「そんなに腹が減っているのなら、これを食べろ」と言って佐々木に食べさせたのです。 山名と佐々木は大学を卒業し、スマートで颯爽と振る舞うホテルマンに憧れて東京ロイヤルホテルに入社したものの、そこで支配力を持ち巨大な権力、財力を持つ者から人間性を否定されるような屈辱を味わわされてしまいました。彼らは、それらの者に対して憎悪の炎を燃やすことになります。 ある日、山名は懇意にしていた常連客で東京新報社会部の記者、深谷克己から暫くの間、預かってもらいたい物があると、ホテル電話で呼ばれます。山名はそれを預かると、その晩深谷は客室で殺害されてしまいまいた。 山名は、そこで預かった品がとても重要な物であることを感じるとともに、その中身を知りたくなってしまう。すでに返す相手は死んでしまったのだから、山名は中身を見てしまう。すると、それは極秘に来日していたA国国務長官アーネスト・M・ブルーソーが東京ロイヤルホテルの客室内で同室している女性を扼殺している場面を、となりのホテルから撮影した写真だったのです。 その写真の意味するものは、山名と佐々木が屈辱を味あわされた永進商事社長の長良岡と、東京ロイヤルホテルの営業支配人久高たちが、私利私欲で富を増やし、自らの支配力を高める証拠であり、更には、その関係が現役の政治家にまで繋がっているという大きな物証だったのです。 こうして権力者や支配者に対して何の武器も持たない山名と佐々木は、とてつもない大きな武器を手に入れたのでした。そこで二人は、これまでに味わった屈辱を晴らすために、その武器を使おうとします。しかし、今までにそんな武器を持ったことのない二人はその扱いに戸惑ってしまいます。 相手は、あまりにも大きな力を持っているため、山名と佐々木の少しばかりの脅しには相手も簡単に応じません。二人が戦いを仕掛ける場面が実に巧妙で面白く読みどころです。これまでにも森村氏は若い者たちが、徒手空拳で支配悪、権力悪に立ち向かう話を多く書いてきましたが、本作は、これまでの中でも秀逸な出来栄えになっています。冒頭で二人が経験した屈辱を詳細に書くことによって、二人の怒りに同調しやすく読めます。 久高と長良岡には秘密が有りました。支配人、久高はホテルの創立者、前川礼次郎の強い引きで今の立場を得たものの、礼次郎の長男で現社長の前川明義の妻と不倫の関係にあったのです。一方、長良岡はA国国務長官のブルーソーから無用となったジェット練習機の売却依頼を極秘に受け、防衛庁に斡旋していました。A国では無用のジェット練習機の処分が税金の無駄使いなることが指摘され、隠密裏に日本へ売却することで国民の目を隠し、一方の長良岡は莫大なマージンを得ることとなっていました。 本作は、若い二人のサラリーマンが、巨大な悪の実態を掴み、それに立ち向かってゆくのだから、実に面白い。また、並行して高級ホテルで起こった珍事を随所に散りばめ二重の筋書きになっているところも読み手を唸らせるように巧妙でした。更に、単なるスキャンダルではなく、大疑獄事件を背景にしているところに本作のスケールの大きさ感じます。実に念入りに構成された素晴らしい作品でした。 | ||||
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1973年6月から1974年7月まで「週刊新潮」に連載された作品です。1975年、新潮社より2冊に分冊され出版されました。上・下巻通しての書評になります。森村誠一氏は「大都会」で作家としてデビューするものの売れ行きは今一つで雌伏の時代を過ごしました。その後「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞し「腐食の構造」で日本推理作家協会賞を受賞すると、一気に人気を集め国民的ベストセラー作家の地位を得ました。 森村氏は作家としてデビューする前、青山学院大学を卒業するとホテルマンとして10年ほどサラリーマン生活を送りました。そこで様々な人と出会い、権力者たちや支配者たちの強大な力を知り、屈する日々を過ごします。更にホテル内部では、一見華やかに見えるホテルマンと雖も、裏側に回れば家畜のような扱いを受ける身となり鬱屈した期間を過ごしました。 本作品は、森村氏のホテルマン時代に経験した数々の屈辱を書いた作品とも言えます。大都市の高級ホテルを舞台にした物語は「高層の死角」「超高層ホテル殺人事件」「虚構の空路」など多数あります。しかし、それは舞台として書かれたものでした。ホテル内部に通暁した作品は「銀の虚城」「鉄筋の畜舎」であり、その優雅なホテルの裏側にあり見えない部分を実に如実にユニークに書いています。 森村氏は、本作発表後、ホテル内部で知り得たことは、すべて書き尽くしたと述べています。ホテルの巨大で優雅な建築物は、銀行から借金をして建てられた“借金コンクリート造り”と揶揄しています。その表現法には実にユニークなものを感じます。前出の“虚城”もそうであり、“畜舎”に至っては、そこで働く従業員たちが勤務中に食べる食事が家畜のエサ同様だったことから、揶揄し皮肉った言葉です。 本作のタイトルは、更に上手く(?)皮肉った題名になっています。ホテル客室は鍵が内外から掛けられ、内部は棺と同じだと。安全をうたっていながら、棺の中に入ってしまったのと同じ様な危険な場所でもあると言っています。 山名真一は、都内の有名私立大学を卒業して、千代田区平河町にある東京ロイヤルホテルに入社しました。ボーイから始まりフロント業務に配属されたある日、政界との繋がりを最大限に利用して急伸した永進商事社長の長良岡公造がフロントに現れます。山名は長良岡を指定のVIP室へ案内すると、客室電話で呼び出されます。山名は急いで部屋へ向かうと長良岡は便器が詰まっていると言う。客室サービスのミスではあったけれど長良岡は、部屋を案内した山名を叱責すると、すぐに清掃を呼ぶという山名の言葉を聞かず、この場で清掃するよう山名に命じます。道具を持たない山名は、トラップから溢れる汚物を素手で掻き出し、制服は糞尿まみれになり、最大の屈辱を味わわされてしまいました。 山名と同じく東京ロイヤルホテルに入社した佐々木信吾は、食堂課ルームサービス係の担当になった。16階の外人客から呼ばれ客室ワゴンを降ろしていた時、その食事や飲料が全く手を付けていないことに気が付きます。佐々木は、幼い頃から食べ物を粗末にすることを罪悪と躾けられていました。ホテルの食事は美味しい、エレベーターの個室に入った時、佐々木はその誘惑に負けてしまいました。すると突然エレベーターが止まり、ドアが開いた。前に立っていたのは次期社長候補として、すでにホテル内で支配を強めていた営業担当支配人の久高光彦でした。ホテルマンが客の食べ残しを食べるのは厳罰で、久高から叱責されるのは当然であったけれど、久高は黙ってその食べ残しを食べると、それを吐き出し「そんなに腹が減っているのなら、これを食べろ」と言って佐々木に食べさせたのです。 山名と佐々木は大学を卒業し、スマートで颯爽と振る舞うホテルマンに憧れて東京ロイヤルホテルに入社したものの、そこで支配力を持ち巨大な権力、財力を持つ者から人間性を否定されるような屈辱を味わわされてしまいました。彼らは、それらの者に対して憎悪の炎を燃やすことになります。 ある日、山名は懇意にしていた常連客で東京新報社会部の記者、深谷克己から暫くの間、預かってもらいたい物があると、ホテル電話で呼ばれます。山名はそれを預かると、その晩深谷は客室で殺害されてしまいまいた。 山名は、そこで預かった品がとても重要な物であることを感じるとともに、その中身を知りたくなってしまう。すでに返す相手は死んでしまったのだから、山名は中身を見てしまう。すると、それは極秘に来日していたA国国務長官アーネスト・M・ブルーソーが東京ロイヤルホテルの客室内で同室している女性を扼殺している場面を、となりのホテルから撮影した写真だったのです。 その写真の意味するものは、山名と佐々木が屈辱を味あわされた永進商事社長の長良岡と、東京ロイヤルホテルの営業支配人久高たちが、私利私欲で富を増やし、自らの支配力を高める証拠であり、更には、その関係が現役の政治家にまで繋がっているという大きな物証だったのです。 こうして権力者や支配者に対して何の武器も持たない山名と佐々木は、とてつもない大きな武器を手に入れたのでした。そこで二人は、これまでに味わった屈辱を晴らすために、その武器を使おうとします。しかし、今までにそんな武器を持ったことのない二人はその扱いに戸惑ってしまいます。 相手は、あまりにも大きな力を持っているため、山名と佐々木の少しばかりの脅しには相手も簡単に応じません。二人が戦いを仕掛ける場面が実に巧妙で面白く読みどころです。これまでにも森村氏は若い者たちが、徒手空拳で支配悪、権力悪に立ち向かう話を多く書いてきましたが、本作は、これまでの中でも秀逸な出来栄えになっています。冒頭で二人が経験した屈辱を詳細に書くことによって、二人の怒りに同調しやすく読めます。 久高と長良岡には秘密が有りました。支配人、久高はホテルの創立者、前川礼次郎の強い引きで今の立場を得たものの、礼次郎の長男で現社長の前川明義の妻と不倫の関係にあったのです。一方、長良岡はA国国務長官のブルーソーから無用となったジェット練習機の売却依頼を極秘に受け、防衛庁に斡旋していました。A国では無用のジェット練習機の処分が税金の無駄使いなることが指摘され、隠密裏に日本へ売却することで国民の目を隠し、一方の長良岡は莫大なマージンを得ることとなっていました。 本作は、若い二人のサラリーマンが、巨大な悪の実態を掴み、それに立ち向かってゆくのだから、実に面白い。また、並行して高級ホテルで起こった珍事を随所に散りばめ二重の筋書きになっているところも読み手を唸らせるように巧妙でした。更に、単なるスキャンダルではなく、大疑獄事件を背景にしているところに本作のスケールの大きさ感じます。実に念入りに構成された素晴らしい作品でした。 | ||||
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1973年6月から1974年7月まで「週刊新潮」に連載された作品です。1975年、新潮社より2冊に分冊され出版されました。上・下巻通しての書評になります。森村誠一氏は「大都会」で作家としてデビューするものの売れ行きは今一つで雌伏の時代を過ごしました。その後「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞し「腐食の構造」で日本推理作家協会賞を受賞すると、一気に人気を集め国民的ベストセラー作家の地位を得ました。 森村氏は作家としてデビューする前、青山学院大学を卒業するとホテルマンとして10年ほどサラリーマン生活を送りました。そこで様々な人と出会い、権力者たちや支配者たちの強大な力を知り、屈する日々を過ごします。更にホテル内部では、一見華やかに見えるホテルマンと雖も、裏側に回れば家畜のような扱いを受ける身となり鬱屈した期間を過ごしました。 本作品は、森村氏のホテルマン時代に経験した数々の屈辱を書いた作品とも言えます。大都市の高級ホテルを舞台にした物語は「高層の死角」「超高層ホテル殺人事件」「虚構の空路」など多数あります。しかし、それは舞台として書かれたものでした。ホテル内部に通暁した作品は「銀の虚城」「鉄筋の畜舎」であり、その優雅なホテルの裏側にあり見えない部分を実に如実にユニークに書いています。 森村氏は、本作発表後、ホテル内部で知り得たことは、すべて書き尽くしたと述べています。ホテルの巨大で優雅な建築物は、銀行から借金をして建てられた“借金コンクリート造り”と揶揄しています。その表現法には実にユニークなものを感じます。前出の“虚城”もそうであり、“畜舎”に至っては、そこで働く従業員たちが勤務中に食べる食事が家畜のエサ同様だったことから、揶揄し皮肉った言葉です。 本作のタイトルは、更に上手く(?)皮肉った題名になっています。ホテル客室は鍵が内外から掛けられ、内部は棺と同じだと。安全をうたっていながら、棺の中に入ってしまったのと同じ様な危険な場所でもあると言っています。 山名真一は、都内の有名私立大学を卒業して、千代田区平河町にある東京ロイヤルホテルに入社しました。ボーイから始まりフロント業務に配属されたある日、政界との繋がりを最大限に利用して急伸した永進商事社長の長良岡公造がフロントに現れます。山名は長良岡を指定のVIP室へ案内すると、客室電話で呼び出されます。山名は急いで部屋へ向かうと長良岡は便器が詰まっていると言う。客室サービスのミスではあったけれど長良岡は、部屋を案内した山名を叱責すると、すぐに清掃を呼ぶという山名の言葉を聞かず、この場で清掃するよう山名に命じます。道具を持たない山名は、トラップから溢れる汚物を素手で掻き出し、制服は糞尿まみれになり、最大の屈辱を味わわされてしまいました。 山名と同じく東京ロイヤルホテルに入社した佐々木信吾は、食堂課ルームサービス係の担当になった。16階の外人客から呼ばれ客室ワゴンを降ろしていた時、その食事や飲料が全く手を付けていないことに気が付きます。佐々木は、幼い頃から食べ物を粗末にすることを罪悪と躾けられていました。ホテルの食事は美味しい、エレベーターの個室に入った時、佐々木はその誘惑に負けてしまいました。すると突然エレベーターが止まり、ドアが開いた。前に立っていたのは次期社長候補として、すでにホテル内で支配を強めていた営業担当支配人の久高光彦でした。ホテルマンが客の食べ残しを食べるのは厳罰で、久高から叱責されるのは当然であったけれど、久高は黙ってその食べ残しを食べると、それを吐き出し「そんなに腹が減っているのなら、これを食べろ」と言って佐々木に食べさせたのです。 山名と佐々木は大学を卒業し、スマートで颯爽と振る舞うホテルマンに憧れて東京ロイヤルホテルに入社したものの、そこで支配力を持ち巨大な権力、財力を持つ者から人間性を否定されるような屈辱を味わわされてしまいました。彼らは、それらの者に対して憎悪の炎を燃やすことになります。 ある日、山名は懇意にしていた常連客で東京新報社会部の記者、深谷克己から暫くの間、預かってもらいたい物があると、ホテル電話で呼ばれます。山名はそれを預かると、その晩深谷は客室で殺害されてしまいまいた。 山名は、そこで預かった品がとても重要な物であることを感じるとともに、その中身を知りたくなってしまう。すでに返す相手は死んでしまったのだから、山名は中身を見てしまう。すると、それは極秘に来日していたA国国務長官アーネスト・M・ブルーソーが東京ロイヤルホテルの客室内で同室している女性を扼殺している場面を、となりのホテルから撮影した写真だったのです。 その写真の意味するものは、山名と佐々木が屈辱を味あわされた永進商事社長の長良岡と、東京ロイヤルホテルの営業支配人久高たちが、私利私欲で富を増やし、自らの支配力を高める証拠であり、更には、その関係が現役の政治家にまで繋がっているという大きな物証だったのです。 こうして権力者や支配者に対して何の武器も持たない山名と佐々木は、とてつもない大きな武器を手に入れたのでした。そこで二人は、これまでに味わった屈辱を晴らすために、その武器を使おうとします。しかし、今までにそんな武器を持ったことのない二人はその扱いに戸惑ってしまいます。 相手は、あまりにも大きな力を持っているため、山名と佐々木の少しばかりの脅しには相手も簡単に応じません。二人が戦いを仕掛ける場面が実に巧妙で面白く読みどころです。これまでにも森村氏は若い者たちが、徒手空拳で支配悪、権力悪に立ち向かう話を多く書いてきましたが、本作は、これまでの中でも秀逸な出来栄えになっています。冒頭で二人が経験した屈辱を詳細に書くことによって、二人の怒りに同調しやすく読めます。 久高と長良岡には秘密が有りました。支配人、久高はホテルの創立者、前川礼次郎の強い引きで今の立場を得たものの、礼次郎の長男で現社長の前川明義の妻と不倫の関係にあったのです。一方、長良岡はA国国務長官のブルーソーから無用となったジェット練習機の売却依頼を極秘に受け、防衛庁に斡旋していました。A国では無用のジェット練習機の処分が税金の無駄使いなることが指摘され、隠密裏に日本へ売却することで国民の目を隠し、一方の長良岡は莫大なマージンを得ることとなっていました。 本作は、若い二人のサラリーマンが、巨大な悪の実態を掴み、それに立ち向かってゆくのだから、実に面白い。また、並行して高級ホテルで起こった珍事を随所に散りばめ二重の筋書きになっているところも読み手を唸らせるように巧妙でした。更に、単なるスキャンダルではなく、大疑獄事件を背景にしているところに本作のスケールの大きさ感じます。実に念入りに構成された素晴らしい作品でした。 | ||||
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1973年6月から1974年7月まで「週刊新潮」に連載された作品です。1975年、新潮社より2冊に分冊され出版されました。上・下巻通しての書評になります。森村誠一氏は「大都会」で作家としてデビューするものの売れ行きは今一つで雌伏の時代を過ごしました。その後「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞し「腐食の構造」で日本推理作家協会賞を受賞すると、一気に人気を集め国民的ベストセラー作家の地位を得ました。 森村氏は作家としてデビューする前、青山学院大学を卒業するとホテルマンとして10年ほどサラリーマン生活を送りました。そこで様々な人と出会い、権力者たちや支配者たちの強大な力を知り、屈する日々を過ごします。更にホテル内部では、一見華やかに見えるホテルマンと雖も、裏側に回れば家畜のような扱いを受ける身となり鬱屈した期間を過ごしました。 本作品は、森村氏のホテルマン時代に経験した数々の屈辱を書いた作品とも言えます。大都市の高級ホテルを舞台にした物語は「高層の死角」「超高層ホテル殺人事件」「虚構の空路」など多数あります。しかし、それは舞台として書かれたものでした。ホテル内部に通暁した作品は「銀の虚城」「鉄筋の畜舎」であり、その優雅なホテルの裏側にあり見えない部分を実に如実にユニークに書いています。 森村氏は、本作発表後、ホテル内部で知り得たことは、すべて書き尽くしたと述べています。ホテルの巨大で優雅な建築物は、銀行から借金をして建てられた“借金コンクリート造り”と揶揄しています。その表現法には実にユニークなものを感じます。前出の“虚城”もそうであり、“畜舎”に至っては、そこで働く従業員たちが勤務中に食べる食事が家畜のエサ同様だったことから、揶揄し皮肉った言葉です。 本作のタイトルは、更に上手く(?)皮肉った題名になっています。ホテル客室は鍵が内外から掛けられ、内部は棺と同じだと。安全をうたっていながら、棺の中に入ってしまったのと同じ様な危険な場所でもあると言っています。 山名真一は、都内の有名私立大学を卒業して、千代田区平河町にある東京ロイヤルホテルに入社しました。ボーイから始まりフロント業務に配属されたある日、政界との繋がりを最大限に利用して急伸した永進商事社長の長良岡公造がフロントに現れます。山名は長良岡を指定のVIP室へ案内すると、客室電話で呼び出されます。山名は急いで部屋へ向かうと長良岡は便器が詰まっていると言う。客室サービスのミスではあったけれど長良岡は、部屋を案内した山名を叱責すると、すぐに清掃を呼ぶという山名の言葉を聞かず、この場で清掃するよう山名に命じます。道具を持たない山名は、トラップから溢れる汚物を素手で掻き出し、制服は糞尿まみれになり、最大の屈辱を味わわされてしまいました。 山名と同じく東京ロイヤルホテルに入社した佐々木信吾は、食堂課ルームサービス係の担当になった。16階の外人客から呼ばれ客室ワゴンを降ろしていた時、その食事や飲料が全く手を付けていないことに気が付きます。佐々木は、幼い頃から食べ物を粗末にすることを罪悪と躾けられていました。ホテルの食事は美味しい、エレベーターの個室に入った時、佐々木はその誘惑に負けてしまいました。すると突然エレベーターが止まり、ドアが開いた。前に立っていたのは次期社長候補として、すでにホテル内で支配を強めていた営業担当支配人の久高光彦でした。ホテルマンが客の食べ残しを食べるのは厳罰で、久高から叱責されるのは当然であったけれど、久高は黙ってその食べ残しを食べると、それを吐き出し「そんなに腹が減っているのなら、これを食べろ」と言って佐々木に食べさせたのです。 山名と佐々木は大学を卒業し、スマートで颯爽と振る舞うホテルマンに憧れて東京ロイヤルホテルに入社したものの、そこで支配力を持ち巨大な権力、財力を持つ者から人間性を否定されるような屈辱を味わわされてしまいました。彼らは、それらの者に対して憎悪の炎を燃やすことになります。 ある日、山名は懇意にしていた常連客で東京新報社会部の記者、深谷克己から暫くの間、預かってもらいたい物があると、ホテル電話で呼ばれます。山名はそれを預かると、その晩深谷は客室で殺害されてしまいまいた。 山名は、そこで預かった品がとても重要な物であることを感じるとともに、その中身を知りたくなってしまう。すでに返す相手は死んでしまったのだから、山名は中身を見てしまう。すると、それは極秘に来日していたA国国務長官アーネスト・M・ブルーソーが東京ロイヤルホテルの客室内で同室している女性を扼殺している場面を、となりのホテルから撮影した写真だったのです。 その写真の意味するものは、山名と佐々木が屈辱を味あわされた永進商事社長の長良岡と、東京ロイヤルホテルの営業支配人久高たちが、私利私欲で富を増やし、自らの支配力を高める証拠であり、更には、その関係が現役の政治家にまで繋がっているという大きな物証だったのです。 こうして権力者や支配者に対して何の武器も持たない山名と佐々木は、とてつもない大きな武器を手に入れたのでした。そこで二人は、これまでに味わった屈辱を晴らすために、その武器を使おうとします。しかし、今までにそんな武器を持ったことのない二人はその扱いに戸惑ってしまいます。 相手は、あまりにも大きな力を持っているため、山名と佐々木の少しばかりの脅しには相手も簡単に応じません。二人が戦いを仕掛ける場面が実に巧妙で面白く読みどころです。これまでにも森村氏は若い者たちが、徒手空拳で支配悪、権力悪に立ち向かう話を多く書いてきましたが、本作は、これまでの中でも秀逸な出来栄えになっています。冒頭で二人が経験した屈辱を詳細に書くことによって、二人の怒りに同調しやすく読めます。 久高と長良岡には秘密が有りました。支配人、久高はホテルの創立者、前川礼次郎の強い引きで今の立場を得たものの、礼次郎の長男で現社長の前川明義の妻と不倫の関係にあったのです。一方、長良岡はA国国務長官のブルーソーから無用となったジェット練習機の売却依頼を極秘に受け、防衛庁に斡旋していました。A国では無用のジェット練習機の処分が税金の無駄使いなることが指摘され、隠密裏に日本へ売却することで国民の目を隠し、一方の長良岡は莫大なマージンを得ることとなっていました。 本作は、若い二人のサラリーマンが、巨大な悪の実態を掴み、それに立ち向かってゆくのだから、実に面白い。また、並行して高級ホテルで起こった珍事を随所に散りばめ二重の筋書きになっているところも読み手を唸らせるように巧妙でした。更に、単なるスキャンダルではなく、大疑獄事件を背景にしているところに本作のスケールの大きさ感じます。実に念入りに構成された素晴らしい作品でした。 | ||||
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