日蝕の断層
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 | 2002年04月01日 日蝕の断層 (広済堂文庫) 住民の八十パーセントが歴史と伝統のある浦島重工業の関係者で占められる浦島市では正社員、工員といった身分差別がいまだに厳然とあった。工員の子として育った木原高志も不当な差別の中で少年時代を過ごすが、抜群の成績で超難関の正社員登用試験に合格する。木原は怨念を晴らすかのように出世街道を目指し、副社長令嬢との結婚話も進む。しかし、木原の応援団長をかって出て貴重な情報を提供してくれた同じ総務課の女子社員が事故死し、身近に次々と不審な陰が…。 (「BOOK」データベースより) |
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| 松本清張をまねたかったのかしらんが、無理やり残酷な結末を設定させる。主人公の成功譚の過程で、その妻となる女性の体の障害に関するとんでもない差別表現がこれでもかと出てくる。なぜ問題にならなかったのだろう。女性や障害者からみればとんでもない差別小説でしかない。森村といえば共産党≒博愛主義者かと思っていたが。 「人間の証明」を何十回となく読み返した感動はないどころか、憤りを感じた。話は都合よく飛ぶし、そんなうまいことあるかの小学生の漫画のような展開がばかばかしくてきつかった。無論、後半は飛ばし読みで、突然の「事故」にあきれてものも言えなかった。 上場企業の社長がそんなことするわけないだろ！！ とりあえず未だに廃本になっていないのが不思議である。 | ||||
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| 本作品は、サクセス・ストーリーである。一口にサクセス・ストーリーと言っても、内容は豊富だ。才能の無い少年が、日々の努力を積み重ね、大成していく話。平凡な女性が些事な出来事に嚆矢し、セレブ婦人に収まる話。前者の場合は、少年が直向きに努力する姿を読んで感銘させられる。後者の場合は、喜ばしい結末になるのだが、その地位を得ようと必死に媚び諂っていた、他の多数の女性たちを飛び越していく時の、妬みや嫉妬、羨望する姿が、面白いものだ。森村氏には既作に「偽造の太陽」「死定席」のサクセス・ストーリーがあるが、どれも大企業内の権力闘争を描いたものだ。そして、本作を含め、共通しているのは、大願が成就しかけた直前で、それらの野望が破滅してしまう事である。結果を先に書いてしまったが、本作を読めば、いつ、どんな形でこのサクセス・ストーリーが終焉するのだろうかと、思わせる展開なので、不都合は無いと思う。本作の舞台、地方県の浦島市は、市全体が、造船業界で常に、トップの浦島重工業で保っている街である。浦島市の市民の八割が、何らかの関係で、浦島重工業と関わり合いを持っていた。市民たちは、浦島様と拝むほど崇拝している。浦島重工業は、多くの市民たちを掌握するため、徹底した封建制度を構築していた。先ず、社員（ホワイトカラー）と工員（ブルーカラー）に分け、その身分は、世襲制だった。工員たちが、その身分差別に甘んじたのは、それでも、十分に浦島重工業の庇護の下に置かれ、生活上の心配が無かったからである。だが、社員ともなれば、高給で、社宅と称して、庭付きの3LDKが与えられた。団地住まいの工員たちは、羨望の眼差しを向けていたのも事実である。だが、日本中が、ドルショックの不況に見舞われる最中でも、不安無く生活が出来る事が、何よりの安心になっていた。新入社員も、ほとんど浦島市の現社員の子弟から採用し、他地域からの採用は、殆ど行われなかった。兎に角、浦島に追従していれば、身分と生活は、保障されていたのだ。それでも、浦島重工業は、年に一回、工員から社員への昇格テストを実施していた。工員の子弟から成績優秀な者を選抜して、社員として登用する制度である。だが、これも、あまり多くの工員を昇格させてしまうと、社員たちのプライドを損ない兼ねないため、形ばかりのものだった。形式的に昇格試験を行うが、多数参加しても、千人に一人ほどの確立でしか、合格しなかった。木原高志は、その千人の一人の確立で、社員昇格試験にトップで合格したのだった。木原は、社員に昇格したものの、社長をはじめ千人いる浦島社員の順位としては、最下位である。それだから、工員が社員の身分となっても、現社員の手伝いや、買い出し、コピー撮り、部屋の掃除など、ほとんど社員がやらない事をさせられるのが実情だった。ところが、初出社の日に、現副社長の岩本勝文の勉強会なるものに誘われた。岩本と言えば、次期社長の最有力候補である。岩本は、現社長派と次期社長の椅子を狙って激しい戦いをしていた。岩本が木原を自分のグループに入れた話は、すぐに会社全体に広まった。木原は、幹部社員の令嬢との見合いも勧められる。この事は、工員たちに快く思われた。工員の代表が、次期社長候補の知遇を受けているとなると、皆、工員たちは応援した。こうして会社トップ2と末端社員の二人が、最高権力奪取へ向けた戦いを始めるのだ。本作の根幹は、社員と工員の身分が徹底的に差別されているところにある。買い物のスーパーや病院、公園などの諸施設などが、社員用と工員用に分けられている。公衆の場で使うトイレまで、社員用と工員用に分けられるほど徹底している。ここに、どうしても越えられない断層があるのだ。それだから、その断層を飛び越えて社員階級に入った木原を、工員たちは、皆、応援した。また、それを良く思わない社員たちとの軋轢も生じる。徹底的な身分差別が本作の中心を貫いている。どうしても、立場的に不利な方を応援しながら読んでしまうのだから面白い。 （付）本書は1981年7月に光文社から初出版されたものです。1983年に角川文庫で文庫化されました。その後、1996年光文社文庫、2002年廣済堂文庫から再出版されています。2000年には角川文庫がkindle化しています。2016年には、講談社文庫でも再出版されました。長年にわたり読まれ続けています。 | ||||
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| 本作品は、サクセス・ストーリーである。一口にサクセス・ストーリーと言っても、内容は豊富だ。才能の無い少年が、日々の努力を積み重ね、大成していく話。平凡な女性が些事な出来事に嚆矢し、セレブ婦人に収まる話。前者の場合は、少年が直向きに努力する姿を読んで感銘させられる。後者の場合は、喜ばしい結末になるのだが、その地位を得ようと必死に媚び諂っていた、他の多数の女性たちを飛び越していく時の、妬みや嫉妬、羨望する姿が、面白いものだ。森村氏には既作に「偽造の太陽」「死定席」のサクセス・ストーリーがあるが、どれも大企業内の権力闘争を描いたものだ。そして、本作を含め、共通しているのは、大願が成就しかけた直前で、それらの野望が破滅してしまう事である。結果を先に書いてしまったが、本作を読めば、いつ、どんな形でこのサクセス・ストーリーが終焉するのだろうかと、思わせる展開なので、不都合は無いと思う。本作の舞台、地方県の浦島市は、市全体が、造船業界で常に、トップの浦島重工業で保っている街である。浦島市の市民の八割が、何らかの関係で、浦島重工業と関わり合いを持っていた。市民たちは、浦島様と拝むほど崇拝している。浦島重工業は、多くの市民たちを掌握するため、徹底した封建制度を構築していた。先ず、社員（ホワイトカラー）と工員（ブルーカラー）に分け、その身分は、世襲制だった。工員たちが、その身分差別に甘んじたのは、それでも、十分に浦島重工業の庇護の下に置かれ、生活上の心配が無かったからである。だが、社員ともなれば、高給で、社宅と称して、庭付きの3LDKが与えられた。団地住まいの工員たちは、羨望の眼差しを向けていたのも事実である。だが、日本中が、ドルショックの不況に見舞われる最中でも、不安無く生活が出来る事が、何よりの安心になっていた。新入社員も、ほとんど浦島市の現社員の子弟から採用し、他地域からの採用は、殆ど行われなかった。兎に角、浦島に追従していれば、身分と生活は、保障されていたのだ。それでも、浦島重工業は、年に一回、工員から社員への昇格テストを実施していた。工員の子弟から成績優秀な者を選抜して、社員として登用する制度である。だが、これも、あまり多くの工員を昇格させてしまうと、社員たちのプライドを損ない兼ねないため、形ばかりのものだった。形式的に昇格試験を行うが、多数参加しても、千人に一人ほどの確立でしか、合格しなかった。木原高志は、その千人の一人の確立で、社員昇格試験にトップで合格したのだった。木原は、社員に昇格したものの、社長をはじめ千人いる浦島社員の順位としては、最下位である。それだから、工員が社員の身分となっても、現社員の手伝いや、買い出し、コピー撮り、部屋の掃除など、ほとんど社員がやらない事をさせられるのが実情だった。ところが、初出社の日に、現副社長の岩本勝文の勉強会なるものに誘われた。岩本と言えば、次期社長の最有力候補である。岩本は、現社長派と次期社長の椅子を狙って激しい戦いをしていた。岩本が木原を自分のグループに入れた話は、すぐに会社全体に広まった。木原は、幹部社員の令嬢との見合いも勧められる。この事は、工員たちに快く思われた。工員の代表が、次期社長候補の知遇を受けているとなると、皆、工員たちは応援した。こうして会社トップ2と末端社員の二人が、最高権力奪取へ向けた戦いを始めるのだ。本作の根幹は、社員と工員の身分が徹底的に差別されているところにある。買い物のスーパーや病院、公園などの諸施設などが、社員用と工員用に分けられている。公衆の場で使うトイレまで、社員用と工員用に分けられるほど徹底している。ここに、どうしても越えられない断層があるのだ。それだから、その断層を飛び越えて社員階級に入った木原を、工員たちは、皆、応援した。また、それを良く思わない社員たちとの軋轢も生じる。徹底的な身分差別が本作の中心を貫いている。どうしても、立場的に不利な方を応援しながら読んでしまうのだから面白い。 （付）本書は1981年7月に光文社から初出版されたものです。1983年に角川文庫で文庫化されました。その後、1996年光文社文庫、2002年廣済堂文庫から再出版されています。2000年には角川文庫がkindle化しています。2016年には、講談社文庫でも再出版されました。長年にわたり読まれ続けています。 | ||||
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| 本作品は、サクセス・ストーリーである。一口にサクセス・ストーリーと言っても、内容は豊富だ。才能の無い少年が、日々の努力を積み重ね、大成していく話。平凡な女性が些事な出来事に嚆矢し、セレブ婦人に収まる話。前者の場合は、少年が直向きに努力する姿を読んで感銘させられる。後者の場合は、喜ばしい結末になるのだが、その地位を得ようと必死に媚び諂っていた、他の多数の女性たちを飛び越していく時の、妬みや嫉妬、羨望する姿が、面白いものだ。森村氏には既作に「偽造の太陽」「死定席」のサクセス・ストーリーがあるが、どれも大企業内の権力闘争を描いたものだ。そして、本作を含め、共通しているのは、大願が成就しかけた直前で、それらの野望が破滅してしまう事である。結果を先に書いてしまったが、本作を読めば、いつ、どんな形でこのサクセス・ストーリーが終焉するのだろうかと、思わせる展開なので、不都合は無いと思う。本作の舞台、地方県の浦島市は、市全体が、造船業界で常に、トップの浦島重工業で保っている街である。浦島市の市民の八割が、何らかの関係で、浦島重工業と関わり合いを持っていた。市民たちは、浦島様と拝むほど崇拝している。浦島重工業は、多くの市民たちを掌握するため、徹底した封建制度を構築していた。先ず、社員（ホワイトカラー）と工員（ブルーカラー）に分け、その身分は、世襲制だった。工員たちが、その身分差別に甘んじたのは、それでも、十分に浦島重工業の庇護の下に置かれ、生活上の心配が無かったからである。だが、社員ともなれば、高給で、社宅と称して、庭付きの3LDKが与えられた。団地住まいの工員たちは、羨望の眼差しを向けていたのも事実である。だが、日本中が、ドルショックの不況に見舞われる最中でも、不安無く生活が出来る事が、何よりの安心になっていた。新入社員も、ほとんど浦島市の現社員の子弟から採用し、他地域からの採用は、殆ど行われなかった。兎に角、浦島に追従していれば、身分と生活は、保障されていたのだ。それでも、浦島重工業は、年に一回、工員から社員への昇格テストを実施していた。工員の子弟から成績優秀な者を選抜して、社員として登用する制度である。だが、これも、あまり多くの工員を昇格させてしまうと、社員たちのプライドを損ない兼ねないため、形ばかりのものだった。形式的に昇格試験を行うが、多数参加しても、千人に一人ほどの確立でしか、合格しなかった。木原高志は、その千人の一人の確立で、社員昇格試験にトップで合格したのだった。木原は、社員に昇格したものの、社長をはじめ千人いる浦島社員の順位としては、最下位である。それだから、工員が社員の身分となっても、現社員の手伝いや、買い出し、コピー撮り、部屋の掃除など、ほとんど社員がやらない事をさせられるのが実情だった。ところが、初出社の日に、現副社長の岩本勝文の勉強会なるものに誘われた。岩本と言えば、次期社長の最有力候補である。岩本は、現社長派と次期社長の椅子を狙って激しい戦いをしていた。岩本が木原を自分のグループに入れた話は、すぐに会社全体に広まった。木原は、幹部社員の令嬢との見合いも勧められる。この事は、工員たちに快く思われた。工員の代表が、次期社長候補の知遇を受けているとなると、皆、工員たちは応援した。こうして会社トップ2と末端社員の二人が、最高権力奪取へ向けた戦いを始めるのだ。本作の根幹は、社員と工員の身分が徹底的に差別されているところにある。買い物のスーパーや病院、公園などの諸施設などが、社員用と工員用に分けられている。公衆の場で使うトイレまで、社員用と工員用に分けられるほど徹底している。ここに、どうしても越えられない断層があるのだ。それだから、その断層を飛び越えて社員階級に入った木原を、工員たちは、皆、応援した。また、それを良く思わない社員たちとの軋轢も生じる。徹底的な身分差別が本作の中心を貫いている。どうしても、立場的に不利な方を応援しながら読んでしまうのだから面白い。 （付）本書は1981年7月に光文社から初出版されたものです。1983年に角川文庫で文庫化されました。その後、1996年光文社文庫、2002年廣済堂文庫から再出版されています。2000年には角川文庫がkindle化しています。2016年には、講談社文庫でも再出版されました。長年にわたり読まれ続けています。 | ||||
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