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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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ノルウェーの女性作家の人気シリーズの第3作。第2作「湖のほとりで」がガラスの鍵賞を受賞し、本作もノルウェー書籍販売業者協会の大賞(本屋大賞みたいなもの?)を受賞したという、王道を行く北欧警察小説である。
深い森の奥に一人で住む老女が殺害され、近くで目撃された精神に障害がある青年・エリケが有力容疑者とされた。ところが、エリケは同じ日に起きた銀行強盗事件で人質にされ、強盗犯人と一緒に行動していることが判明した。セイエル警部は、エリケを犯人と決めつける周囲とは異なり、冷静沈着に事実を追求し、事件の真相に迫って行くのだった。 老女殺害事件の犯人探しの物語だが、銀行強盗と精神障害者の逃避行のエピソードにも力点が置かれている。というか、殺人事件の犯人探しは「えっ?」という展開であっさり決着がつけられるのに対し、逃避行とエリケの思考や行動の解析はじっくり時間をかけ、丁寧に追いかけられており、こちらの方が本筋かと思わされる。しかも、その描写が重くて、なかなかページが進まない。 社会的な問題を取り上げ、ストーリー展開が遅く、読者を憂鬱にさせるというのは、北欧ミステリーにはよくあることだが、それにしても本作は辛気くさ過ぎる。銀行強盗とエリケのやり取りにはユーモラスな部分もあるのだが。 ゴシック風味というか、多少のオカルト的な重苦しさを苦にしない読者にしか、おススメしない。 |
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新聞連載された長編作品。文庫の裏表紙に「傑作サスペンス長編」とあるので手に取ったのだが、サスペンスでもミステリーでもない、狂気をはらんだ恋愛小説である。
実業家の年上妻に先立たれ、関与していた事業から追放されて故郷の新潟を離れざるを得なくなり、東京で仕事を見つけた54歳の男・伊澤。美少女コンテストで入賞したことからタレントを夢見て釧路から上京したものの成功せず、10年間所属した芸能事務所を首になった29歳の沙希。沙希のバイト先である銀座のキャバレーで出会った二人は、それぞれの事情を抱えたまま、伊澤が販売をまかされて赴任した北海道のリゾートマンションで再会する。バブル時代に投機目的で建設されたものの失敗した、荒れ果てたリゾートマンションはまったく買い手がつかず、伊澤は鬱屈した日々を過ごしていた。そこを訪れた沙希も、釧路の実家へ帰る足取りは重く、ぐずぐずと時間を浪費していた。そこに現われたのが、20年も前にマンションを5部屋購入し、所有し続けている小木田と名乗る男だった。荒廃した夢のあとと舞台に、寄る辺ない三人が繰り広げた奇妙な物語は、思いも寄らない事態へ転がって行くことになった。 夢が壊れたとき、人は何を頼りに生きて行く力を得るのか? 乱暴に言えば、人は「愛」を頼りに再生して行くのだろうが、では、その「愛」とは何なのか?を追求した作品である。従って、ラブストーリーとして読むことも可能だが、それにしてはヒーロー、ヒロインに感情移入するのが難しい。 はっきり言って、読後感が良くない作品である。この作者は、もっとミステリー寄りの作品の方が楽しめる。 |
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スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第2作。2005年に刊行され、日本では2009年に翻訳されたた作品が2017年に再文庫化された作品である。
ストックホルムの病院で、激しい暴行を受けて救急搬送されてきたリトアニア人娼婦・リディアが医師と学生を人質に遺体安置所に立てこもるという事件が起きた。別の殺人事件捜査で病院にいて事件に出くわし、現場を指揮することになったエーヴェルト警部は、リディアの要求で同僚のベングト刑事を交渉役として派遣した。ところが、リディアはベングトを射殺し、自らも拳銃自殺してしまう。リディアはなぜ、なんの勝算もない立てこもり事件を引き起こしたのか? 捜査を進めたエーヴェルト警部は衝撃的な事実に直面する・・・。 立てこもり事件と並行して、エーヴェルトの運命を決めることになった凶悪犯・ラングによる暴行殺人の捜査が展開され、二つが微妙に重なりあってエーヴェルトの苦悩は深まって行く。社会的正義とは何か、警察の役割りはどこにあるのか、エーヴェルトは厳しい決断を迫られることになる。 立てこもり事件の終結までの展開はサスペンスがあり、ラングを追い詰める捜査も真に迫ってはらはらさせる。だが、両方の事件が一定の結果を出してからのエーヴェルトの苦悩の部分になると「なんだかなぁ〜」と肩すかしをくらったような気分になった。前に読んだ同じコンビの作品「三秒間の死角」があまりにもレベルが高かったので、期待し過ぎたのかもしれない。 シリーズ作品ではあるが、シリーズとしての骨格がまだ決まっていない感じで、単独で読んでも何の支障もない。北欧警察小説、社会派ミステリーのファンにはオススメだ。 |
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1993年から94年にかけて新聞連載された長編ミステリー。93年の殺人事件捜査と69年の青春時代の懐古とが入り交じった、青春小説ミステリーである。
1993年、サンディエゴの公園で北海道余市で果樹園を営む男が射殺された。農業視察団の一行としてアメリカを訪れ、途中から単独行動でサンディエゴにに来たらしい彼は、なぜ人気のない夜の公園で殺されたのか。市警のマルチネス刑事が捜査を担当することになった。一方、被害者の側は、残された妻とアメリカ留学中だった娘だけでなく、高校時代からの親友という3人の男が日本から駆けつけてきた。マルチネス刑事は、被害者の関係者に聞き取りを始めたのだが、妻も友人たちも何かを隠しているようで、全面的に協力的な態度ではなかった。彼らが非協力的だった理由は、1969年のサイゴンでの日本人の爆死事件が絡む、彼らの青春の出来事にあった。 物語は、殺人事件の捜査と青春の懐古の二つの大きな流れで構成されており、それぞれに読みどころがあり、良くできた作品である。ただ、どちらも中途半端になってしまった感は否めない。それでもエンターテイメントとしては十分に成立しており、評価に値する作品である。 北海道の大地が生み出す開放感とベトナム戦争という時代が作った陰が、当時の若者たちに様々な影響を与えたことが窺える。 佐々木譲ファンであれば、失望することはない作品であり、ファンでなくても時代感覚が分かる50代以上の読者にはオススメできる。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第12作。現代社会の盲点を突いた犯罪の怖さを見せつけて日常生活に恐怖を覚えさせる、ある意味ホラーなサスペンス大作である。
NY市警のコンサルタントを辞めたライムのもとに持ち込まれたのは、ショッピングセンターでエスカレーター事故に巻き込まれた被害者遺族の損害賠償訴訟への協力だった。これは実は、殺人事件の犯人追跡中に事故現場に居合わせたアメリア・サックスからの依頼だった。安全なはずのエスカレーターで、なぜ予想もしない事故が起きたのか? ライムのチームが原因を探ってみると、これは事故ではなく、仕組まれたものではないか、殺人ではないかとの疑いが濃くなってきた。一方、事故現場で犯人を取り逃がしたサックスの捜査は行き詰まり、それをあざ笑うかのように、同じ犯人による殺人事件が引き起こされた。しかも、エスカレーターによる殺人も同一犯によるものではないかと思われた。日常生活に普通に使われている電子機器を凶器に変える犯行の動機は何か、犯人の意図するものは何か? 毎日使っている装置や道具に、こんな危険が潜んでいるのかと、読んでいる途中で怖くなる。まさに、作者の意図通りの反応をしてしまうサスペンスフルな作品で、いつも通りのどんでん返しもたっぷり仕掛けられており、ハラハラドキドキの度合いは期待通りと言える。ただ、今回は犯人の狂気というか、ねじれ具合がイマイチ。こういうサイコな作品は悪人次第という点から言うと、やや小粒な作品である。 いつものメンバーに、新たに魅力的なキャラクターの新人が加わったし、ライムとサックスの関係にも変化が訪れそうで、次作へ期待を持たせるのも、いつも通り。期待以上ではないが、期待通りに面白い、安定した作品である。シリーズのファンにも、単発で読む読者にもオススメできる。 |
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2016年度英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞をダブルで受賞した、アメリカの作家のデビュー作。クライムノベルであり、ロードノベルであり、成長物語であるという解説文の通りの力強いエンターテイメント作品である。
ロサンゼルスのギャングの末端で働いていた15歳のイーストは、組織のボスである叔父から、組織に不利な証言をする予定の証人を殺害するように命じられた。証人がいるのはLAから2000マイル離れたウィスコンシン州で、そこまで車で行けという。組織が同行メンバーに選んだのは、20歳、17歳の少年とイーストの弟で13歳のタイだった。組織と叔父に忠実なイーストは、バラバラな仲間たちに手を焼きながら必死で任務を果たそうとするのだが、思いがけない事態の連続で、心身ともに疲れ果ててしまう。苦労に苦労を重ねた末に任務を果たしたイーストたちだったが、帰り道はさらに過酷な物だった・・・。 ギャングが証人を消すというクライムの部分、2000マイルをドライブするロードの部分、そして15歳のイーストが世の中を知って行く成長物語の部分が様々に重なり、入れ替わり、入り交じり、実に多彩な顔を見せる作品である。最後も「少年は立派に成長しました」という単純なハッピーエンドではなく、作品の深さをあとからじわじわと感じることになる。 三つの側面を持つ作品だが、クライムノベルというより、ロードノベル、成長物語と思って読むことをオススメする。 |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの第9作。邦訳ではシリーズの6作と8作が抜かされているので、7冊目になる。前作「髑髏の檻」がちょっとダレてきたように感じて心配だったのだが、本作は元のシリーズに戻ったような緊張感溢れる作品で安心した。それにしても第6作と8作が何故抜かされたのか?、シリーズ愛読者としては気になるところである。
自転車に乗っていた女子大生、車いすの黒人少年、若い白人男性の介護士が、相次いで殺害された。被害者の社会的属性に共通点は無く、犯行に使われた凶器もバラバラの事件だったが、これは犯人がライダー刑事に挑戦するための犯罪だったことが判明する。市警本部長を始めとする上層部や被害者家族からも「事件を引き起こした』として、いわれなき非難を浴びながら、ライダー刑事は相棒ハリーとともに犯人探しに奔走するのだが、犯人の手がかりはまったく掴むことができなかった・・・。 本作では、これまでのライダー刑事の一人称での語りだけでなく、随所に犯人グレゴリーの語りが挿入されており、犯人探しではなく、警察による捜査と犯行の背景の解明がメインストーリーとなっている。さらに、ライダー刑事の恋愛エピソードが花を添え、サスペンス一辺倒ではないエンターテイメント作品に仕上がっている。また、カーソン・ライダー自身に大きな変化が訪れそうな幕切れになっているのも見逃せない。 犯人の凶悪さが際立っているという点では、サスペンス小説として高ポイントだが、犯人の生い立ちを知ると暗くて重い気分になってしまう。残酷なシーンや嫌悪感を招きかねない描写がいくつもあるので、小説の描写に影響を受けやすい方にはおススメできない作品であり、ことに犯人グレゴリーのパートを読むときは気持ちを強く持って対応することをオススメする。 シリーズの流れに大きく影響しそうな作品だけに、できれば第1作から読むことをオススメしたいが、本作だけでも十分に楽しめることは確かである。 |
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オーストラリアの女性作家のデビュー作。大干ばつに襲われたオーストラリアの田舎町を舞台に、現在と過去の事件が複雑に絡み合う犯人探しミステリーである。
経済事件専門の連邦警察官フォークは、幼なじみのルークの葬儀のために二十年ぶりに故郷を訪れた。大干ばつに見舞われて農場経営に行き詰まり、妻と息子を道連れに無理心中したとされたルークだが、自殺にしてはつじつまが合わないことがあるとして、フォークはルークの両親から事件の真相を探るように依頼された。気乗りはしなかったが、幼い頃から自分を可愛がってくれたルークの両親のために、フォークは地元の警官と一緒に捜査を進めるが、疑惑が深まるばかりで真実は一向に見えてこなかった。さらに、二十年前にフォーク父子が故郷を追われる理由になった忌まわしい出来事が原因で、フォークは地元住民から様々な嫌がらせも受けるのだった。大干ばつの影響で崩壊しかけた田舎町では、過去と現在が影響しあい、人々は互いを傷つけながら生きていた。そんな中、苦労に苦労を重ねてフォークが解き明かした真相は、新たな悲劇につながる悲惨なものだった。 数年ぶりに帰郷した警官(探偵)が事件に巻き込まれ、昔の出来事の真相を発見するというのはよくあるパターンだが、決して陳腐な作品ではない。舞台設定の上手さと伏線になるエピソードのリアリティが物語に躍動感を与え、謎解きミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても完成度が高い。本作の成功を受けてシリーズ化が決まっているというのもうなずける。 良質なエンターテイメント作品として、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメできる。 |
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1966年に発表されたフランスの作品。自分が誰なのか分からなくなるという不条理系のストーリー展開ながら、最後には明確な答えが用意されているサスペンス・ミステリーである。
勤務先の社長から、新車のサンダーバードを空港から自宅まで回送するように依頼されたタイピストのダニーは、ふとした気まぐれから車を無断借用して地中海をめざすドライブに出た。白いスーツにサングラスで派手な車を乗り回しながらダニーは、女王様気分に浸っていた。ところが、理由も分からぬまま襲われて負傷し、さらに行く先々で「あなたを知っている」という人々に出会い、自分のアイデンティティに不安を覚えるのだった。しかも、サンダーバードのトランクに、見知らぬ男の死体が入っているのを発見した。何が起きたのか、自分は誰なのか? ダニーは迷路のような道を歩み、真相を発見しようとする・・・。 謎解きミステリーとしての構成がしっかりしているので、最後にはすべての真相が明らかにされる。明らか過ぎて、現代ミステリーを読み込んできた読者には物足りないだろうが、最後の謎解きまではサスペンスがあって楽しめる。良くも悪くも古典的名作ということである。 古典を古典として楽しめるミステリーファンにはオススメだ。 |
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ウェブ連載の7本の連作短編に、単行本化に際して短編1本を追加し、共通テーマで仕上げた長編作品。ミステリーというよりは、筆者お得意の企業活動に絡むクライムノベル系のエンターテイメント作品である。
物語の舞台は、日本を代表する総合電機メーカーの子会社である中堅のメーカー。そこでの営業部、製造部の対立や上下関係、人事での思惑、親会社や協力会社との軋轢など、どこにでもある問題をピックアップしながら、企業活動とは何か、家族、仲間とは何かを問いかけてくる。 7本の短編が、それぞれに完成度が高くて読み応えがある。しかも、8本が連続して、さらに大きなストーリーを構成し、最後まで読者を引きつける強さを備えている。ミステリーとしてはさほどスリリングではないが、企業小説、家族小説としては非常に良くできている。さすが、池井戸潤。幅広い読者にオススメだ。 |
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「警察捜査小説の不朽の名作」という解説の通り、国内外のミステリ・ベストでは必ず名前が出てくる歴史的な作品。
カレッジの一年生で18歳の女子大生が学生寮から失踪した。成績優秀で浮ついたところは無く、家庭内の悩みも無いと思われていた女性が、なぜ姿を消したのか? 警察署長フォードは少ない物証に苦心しながらも、何事にも手を抜かない徹底的な聞き込みと熟考に熟考を重ねた推理で、犯行の真相に迫り、犯人を突き止めるのだった。 最初から最後まで、女子大生の失踪の真実と犯人探しに徹した、まさに「捜査小説」である。1952年発表なので、現在の基準からすると乱暴な捜査だし、犯人の意外性もストーリー展開のスリルもないのだが、警察捜査小説の基本パターンを確立したという点で、古典的名作と評価したい。 |
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「交渉人」シリーズで人気の作者が2013〜14年に雑誌連載した長編ミステリー。「誘拐」の星野警部が7年ぶりに再登場する警察小説である。
7月1日、東京杉並で小学生が誘拐され、切断された頭部が小学校の校門に置かれるという猟奇殺人事件が発生。翌2日、埼玉県和光市の山中で、胸にナイフが刺さった女子中学生の死体が発見された。3日、愛知県名古屋市で、スーパーの駐車場から1歳の幼児が行方不明になり、一週間後に駅のコインロッカーで死体になって発見された。警視庁、埼玉県警、愛知県警がそれぞれ必死の捜査を進めるのだが、犯人の手がかりさえ得られないまま、数ヶ月が過ぎて行った。そんななか、杉並の事件の捜査本部に配置されていた星野警部は、幹部たちの捜査方針に逆らって、相棒になった女性刑事とともに一人の人物を執拗に追いかけていた。そして、東京、埼玉、愛知の3カ所の決して諦めない捜査官たちが出会ったとき、事件の真相が明らかにされるのだった。 3つの事件の捜査が丁寧に描かれた警察小説の王道で、刑事コロンボを連想させる星野警部が中心の物語だが、読み終えてからの印象は犯人の方が主役である。読者には、最初から3つの事件が関係して来ることは予想でき、また犯人らしき人物も容易に想定できるので、犯人探しのミステリーというよりは犯行動機、背景を追求する社会派的な物語である。物語の結末も、現実の事件や世相を色濃く反映している。 映画またはドラマ化すれば面白そうで、その際は星野警部はだれが適役か? そう考えながら読み進めるのも一興である。 |
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スウェーデンの人気警察小説「ショーベリ警視』シリーズの初期三部作の完結編。前2作で積み残されてきたいくつかの疑問が解明され、ある面ではすっきりするのだが、作品のメインテーマは相変わらず重い、典型的な北欧ミステリーである。
フィリピンから移住してきた女性と子供二人の3人が自宅のベッドで殺されているのが発見された。女性はシングルマザーで、スウェーデン人である元夫からの援助は無く、ときどき掃除婦として働いていたというのだが、それにしては自宅は高級なアパートだった。ショーベリ警視のグループが捜査を始めると、女性と親しくしていた男の存在が浮かび上がり、アパートを買ったのも、生活費を援助していたのも、この男ではないかと推測された。大忙しの捜査班だったが、いつもの欠かせないメンバーであるエリクソン警部が無断欠勤し、連絡が取れなくなっていた。人付き合いが悪く、メンバーの中ではいつも孤立していたエリクソンだが、けっして無責任な男ではない。心配になったショーベリ警視は、他のメンバーには内緒でエリクソンの行方を探し始めるのだった。この二つのエピソードが最終的には絡まりあって、ショーベリ班は衝撃の事態に直面することになる・・・。 殺人事件の犯人探し、行方不明になったエリクソンの捜索の二つともスリリングかつ説得力があり、最後まで緊張感を持って読み終えられる。さらに、主要登場人物たちのエピソードもしっかりしていて、シリーズ作品ならではの楽しみもある。 北欧ミステリーファンには自信を持ってオススメできる傑作で、本作品単体でも面白いのだが、ぜひ第一作から順に読むことをオススメしたい。 |
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ショーベリ警視シリーズ三部作の第2作。スウェーデンに限らず、先進国では共通する機能不全家族の悲哀と地域社会の崩壊を描いた社会派警察小説である。
9月の土曜日の夜、ストックホルムからフィンランドへ向かう観光フェリー上で、背伸びして大人の遊びを楽しもうとしていた16歳の少女が殺害された。日曜日、早朝ジョギング中のペトラ刑事が公園でベビーカーのシートで凍死しかかっている赤ちゃんを発見し、さらに、近くで車にはねられたらしいベビーカーと、頭を殴られて殺されている母親らしき女性が見つかった。同じ頃、ストックホルムの集合住宅の1軒では、3歳の少女ハンナがひとりぼっちになり、不安な思いで混乱して過ごしていた。一見無関係に見えるハンマルビー署に持ち込まれた2つの事件と1つのトラブルは、意外な理由でつながっていた・・・。 警察による事件捜査の進展と並行して、ひとりぼっちにされた少女の救出というタイムリミットのエピソードが進行するので、最後までサスペンスに満ちたストーリーが展開される。犯人が解明されるまでの展開もスリリングで、読み応えがある警察小説に仕上がっている。ただ、事件の背景にあるのは無縁社会とも言われるコミュニティの喪失であり、家族の姿の変貌であるだけに、事件が解決してもカタルシスや爽快感は得られない。 シリーズ作品らしく、前作で積み残された感があったペトラ刑事のレイプ事件に関しても進展があり、腫瘍登場人物たちのキャラクターがさらに陰影豊かになっている。三部作の完結編に期待したい。 |
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日本でも「三秒間の死角」で人気になったスウェーデンの気鋭の作家が、実際に起きた強盗事件の関係者と組んで書き上げた傑作犯罪小説。文庫本2冊、1100ページ以上の大作なので読み切るには体力が必要だが、それだけの努力が報われる面白さが待っている。
1990年代のスウェーデンで、軍の武器庫から奪った軍用銃を使って現金輸送車や銀行を襲う強盗事件が続発し、彼らは「軍事ギャング」と呼ばれるようになった。その周到な準備計画、冷静な作戦実行ぶりからプロの犯罪者集団と見られていたギャング団だったが、実際に捕まってみると、犯罪歴の無い20代の3兄弟とその友人だった。 彼らはなぜ強盗になったのか、どういう手口で犯行を行ったのかを丁寧に、ダイナミックに、面白く描いて、まるでノンフィクションのような圧倒的なリアリティを感じさせる作品である。強盗の実際がサスペンスフルに描かれると同時に、犯人たちの生い立ちに潜む家庭内暴力の傷を丁寧かつ執拗に追求し、人間が暴力を振るうというより暴力が人間を振り回すようになっていく怖さを描いている。犯罪者にも、被害者にも深い洞察力を発揮しているところが、並の犯罪小説とは異なる、本作の素晴らしさと言える。 犯罪小説、ノワール小説という枠にはとらわれない、幅広い読者にオススメしたい傑作エンターテイメントである。 |
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マルティン・ベックシリーズの映画化を担当してきたという脚本家夫妻による、スウェーデンの人気シリーズの第一作。冒頭から結末まで読者を飽きさせない、完成度が高いエンターテイメント・ミステリーである。
1987年夏の大潮の夜、スウェーデンの小島の海岸で頭だけを出して砂浜に生き埋めにされた女性が満ち潮に溺れて溺死した事件は、未解決のままになっていた。2011年、警察大学の学生オリヴィアは、未解決事件を調べるという夏休みの課題に、この事件を選択した。実は、オリヴィアの亡き父親が捜査を担当した事件でもあった。オリヴィアは、事件当時の父親の同僚警官たちから話を聞こうとするのだが、捜査責任者だった警官は退職し、行方不明になっていた。それでも諦めきれないオリヴィアが調査を進めると、意外な過去の出来事が明らかになり、オリヴィアの身に思いもよらない危険が襲いかかってきた・・・。 未解決の殺人事件の再捜査を本筋に、ホームレス暴行事件、企業の横暴などの社会派アイテムをちりばめ、700ページあまりの全編にわたって緊張感があるストーリーが展開される。シリーズの中心になる人物たちはもちろん、本作にしか登場しないような人物までキャラクターがしっかり造形されていて、非常に読みやすい。また、ところどころに出てくるエピソードや警句が気が利いているのも、さすがに一流の脚本家である。 北欧の警察小説らしい社会派の視点を持ちながら重くも暗くもなく、幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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アイスランドのアガサ・クリスティという異名を持つ作家の人気シリーズ「ダーク・アイスランド」シリーズの第一作。雪に閉ざされた地方都市での事件という、古典的な謎解きミステリーである。
アイスランド北部の小さな町で市民劇団の主宰者である老作家が、劇場の階段から転落して死亡した。新人警官アリ=ソウルは、事故死だという上司の判断に疑問を持ち、それとなく調査を進めるのだが、住人全員が顔なじみという小さな町では思うようには動けないでいた。そこに今度は、雪の中で重傷を負って倒れている半裸の若い女性が発見されるという事件が発生した。しかも、その女性は市民劇団員の同棲相手だった。老作家の死は事件なのか事故なのか、若い女性の事件と関連性があるのだろうか? 捜査が進むにつれ、人口1200人前後、警察官3人という寒村にも人間の闇が隠されていることが明らかになってきた・・・。 ストーリーの基本は「フーダニット」なのだが、ミステリーをある程度読み慣れた読者なら途中で犯人の想像が付くだろう。事件の背景の古臭さはクリスティ風ではあるが、謎解きの完成度としてはクリスティとは比べようも無い。それより、経済危機下にあるアイスランドの若者の生活信条や寂れ行く小都市の住民の生活の描写などの方に面白さがある。 あまりなじみが無い国の人々や生活を想像しながら読むのがお好きな方にオススメする。 |
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「時限紙幣」で鮮烈なデビューを飾った「ゴーストマン」シリーズの第2作でありながら、作者の急死によってシリーズ最終作となってしまったノワールの傑作である。
前作から一年後、潜伏していたゴーストマンのもとに、犯罪世界での師匠であり、家族以上に身近な存在であるアンジェラから「力を貸してくれ」というメールが届いた。アンジェラはマカオ近くの海上で密輸業者からサファイアを横取りする計画を立案し、信頼する仲間が実行したのだが、奪った宝石を待っていたアンジェラの元に届けられたのは、仲間の生首と「盗んだ物を返せ」という脅迫状だった。実は、その密輸船には狙ったサファイア以外にも積荷があり、とんでもない相手を怒らせたのだった。恩義のあるアンジェラの窮地を救うために、ゴーストマンは単身、マカオへと乗り込んだ・・・。 今回もまた、見事な犯罪計画が実行されるのだが、物語のポイントは凄腕の殺し屋とマカオのマフィアに狙われたアンジェラとゴーストマンの窮地からの脱出に置かれている。その分だけ、ハードボイルドなアクション小説よりノワールなアクションサスペンスになっている。特に、殺しの場面や対決の場面の描写はかなり残酷でホラー的で、前作のようなスタイリッシュなテイストは薄くなっているが、素晴らしいクライム・ノベルであることは間違いない。 作者がオーバードーズで28歳で急死したため、本作が遺作となってしまったのが誠に残念。まだまだシリーズ作品を読みたかった。 クライム・ノベルファン、ハードボイルドファンには、絶対のオススメ作である。 |
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日本ではほとんど紹介されていないが、アメリカではベストセラーの常連という「D.Dウォレン」シリーズの一作。タフな女性刑事とタフな女性誘拐サバイバーが主役のサスペンスである。
暴行目的で女性を誘拐した男が、逆に女性に焼殺されるという衝撃的な事件が起きた。しかも、被害者となった女性フローラは7年前の誘拐監禁事件の被害者で、殺害した男は3か月前から行方不明になっている女子大生の誘拐犯ではないかと主張している。ボストン市警の刑事D.D.ウォレンたちは、男の自宅から過去の犯罪の証拠らしき物を発見し、捜査を進めようとしたのだが、その矢先にフローラが行方不明になってしまった。謎に包まれた事件の背景には、7年前の残忍な監禁事件が隠されていた・・・。 誘拐から生還したサバイバーが、なぜもう一度被害にあったのか? という謎解きがストーリーの中心で、「その女 アレックス」などに代表される誘拐監禁小説のジャンルに分類される作品である。監禁からの脱出劇のサスペンス、犯人のサイコパスぶり、警察小説ならではの仲間意識や人間関係の面白さなど、エンタメ要素はたっぷりなのだが、全体的にやや薄味なのが惜しい。ページは分厚いんだけど。 誘拐監禁もののサスペンスがお好きな方にはオススメできる。 |
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「東京湾臨海署安積班」シリーズで、「ベイエリア分署」の復活を告げる作品。派手なカーチェイスに焦点を絞った、映画の脚本のような作品である。
不良グループの抗争事件で一人が殺された現場から走り去った黒いスカイラインGT-R。運転していたのは伝説の走り屋「風間」で、警察は風間を犯人と見て追求する。しかし、風間犯人説に疑問を持った安積警部補と交通機動隊の速水警部補は、捜査本部の方針に逆らって独自の捜査を続け、事件の真相を解き明かして行く・・・。 基本は警察小説だが、事件の動機、犯罪の様相、捜査の手法など、どれも平板で淡白。唯一の読みどころが速水と風間の高速バトルなので、車好き以外には物足りない。 |
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