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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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北海道を舞台にした6作品の連作短編集である。作品ごとに中心人物が異なるが、全体として大きな1本のストーリーとなっている。
いつも通り、訳ありの男女が様々な喜びと悲しみのドラマを綴って行くのだが、本作品は最後がハッピーエンドになっていて驚かされた。 文庫の解説で北上次郎氏が書いているように、「いい小説だ。静かで、力強い小説だ」。読者の立場によって様々に読み込むことができる、奥の深い連作小説である。 |
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ジュリア・ロバーツが惚れ込んで映画化を進めているという売り文句の作品。ヒロインが個性的で、ストーリーも面白いハードボイルドなサスペンスミステリーである。
従軍したイラク戦争のPTSDに悩まされている元ヘリパイロットのマヤは、二週間前に公園で富豪の御曹司である夫を目前で射殺された。しかも、4ヶ月前には姉のクレアも殺されていた。身辺に不安を覚えたマヤは、二歳の娘の安全のために親友の勧めで自宅に監視カメラを設置したのだが、そこに死んだはずの夫の姿が映っていた。さらに、姉を殺した銃と夫を殺した銃が同一であることを、警察から知らされた。警察には犯人と疑われ、監視カメラ映像で夫の姿を見たことをPTSDによる幻覚ではないかと指摘され、動揺し、混乱しながらもマヤは、夫と姉の殺人の真実を探ろうと奮闘する。その調査はやがて、イラクでの自分の行動が巻き起こした波紋、17年前の夫の高校時代の出来事にまで遡っていった。 まず第一に、イラク戦争のPTSDに悩む女性兵士という設定がユニーク。戦争の後遺症に悩む男性主人公は数多くいるが、女性というのは珍しい。しかも、この女性が精神的にも肉体的にもタフで、行動力があり、感情を動かされることがほとんどないという、まさに現代ハードボイルドの王道である。また、事件の謎解きもきちんとしており、複雑な伏線の回収も見事。様々なエピソードやストーリー展開も映像的で、ジュリア・ロバーツが活躍するシーンが目に浮かんでくる。 ハードボイルドファン、サスペンスミステリーファンには、絶対のオススメだ。 |
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桜木紫乃のデビュー作「雪虫」を始め、6作品を収録した短編集。どれもさびしく、悲しく、それでも温もりを感じる男と女の物語である。
全作品が、作者のホームグラウンド北海道を舞台に展開される男と女の物語ばかりだが、どれも物語の軸になっているのは女の生き方である。まさに桜木紫乃の原点が見える作品集といえる。 桜木紫乃ファンには必読。生きることの苦さを否定しない方にもオススメだ。 |
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40代の中間管理職を主人公にした5作品の短編集。不惑と言われる年代の男たちの迷いと戸惑いをユーモラスに描いた、良質なエンターテイメント作品である。
恋に、仕事に、家族に、友情に揺れ動き、時に暴走し、時に立ち止まる。男たちの馬鹿さと可愛さが真に迫って、思わず苦笑してしまう。 老若男女を問わず、オススメだ。 |
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厳しい北海道の自然や社会状況に押しつぶされそうになりながら、それでも生き延びて行く悲しい女(と、それに関係する男)を描いた、短編集。7つの作品すべてに共通するのが「過ぎちゃえば、いろんなことがどうでも良くなる」という女の悲しさと強さである。
人生に生きづらさを感じたとき、「あなただけではないよ」と言ってくれるような作品集である。 |
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アメリカの新人作家のデビュー作。セールストークの「究極のサスペンス!」というより、ホラー作品である。
美しい庭に閉じ込められ、背中に蝶の刺青を入れられていた若い女性たちが救出された。被害者中でも仲間の信頼を集めていたマヤという女性が、FBI捜査官の事情聴取に答えて語った事件の全貌は、歴戦の捜査官をも驚愕させるものだった。しかも、マヤは容易には正体を明かさず、ひょっとして共犯者ではないかという疑念をもたれるのだった。 まさにグロテスクでおぞましい物語。犯人は「庭師」という男で、マヤたちは最後には救出されると分かっているので、ミステリー的な要素は弱く、監禁にまつわるおぞましさで読者を引っ張るホラー作品である。監禁物ミステリーと思って読むと失望するだろう。 ミステリーファンよりホラーファンにオススメ。 |
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イギリス本格ミステリーの正統な後継者として人気が高まっている「フィリップ・ドライデン」シリーズの第4作。緻密な構成の謎解きが楽しめる、本格派ミステリー作品である。
歴史的な寒波に見舞われたイングランド東部の街の公営アパートで、すべての窓を開け放った状態で住人の男・デクランが凍死しているのが見つかった。閉所恐怖症で室内の扉を全部取り払っていたというデクランは、飲酒癖があり、過去に自殺を図ったことがあったことから警察は自殺と判断した。しかし、部屋のコイン式電気メーターに硬貨がたっぷり補充されていたことから自殺説に疑問を抱いたドライデンが調査を始めると、デクランの親友も奇妙な事故死にあっていた。さらに、二つの事件の関係者は、ある過去の出来事でつながっていたことが判明。その謎の解明は、ドライデン自身をも巻き込み、思いもよらない展開を見せるのだった。 伏線の張り方、読者をミスリードするエピソードの入れ方、謎が謎を呼ぶ展開の膨らませ方など、まさに英国本格派の真骨頂。しかも、現代的な社会問題を背景に置くことで、古臭さを感じさせないのも見事である。 シリーズの4作目だが、本作から読み始めても何の問題もない。英国本格派ファン、謎解きミステリーファンには絶対のオススメだ。 |
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スウェーデンを代表する警察小説ヴァランダー・シリーズの9作目。「殺人者の顔」でデビューする前のヴァランダーの警察生活を描いた3本の短編と2本の中編で構成された作品集である。
マルメ署の22歳の新米警察官としてパトロールやデモ警備にいそしむ「ナイフの一突き」から、イースタ署のリーダーとしておなじみのメンバーと活躍する「ピラミッド」まで、年代順にヴァランダーの成長(?)の跡をたどっている。つまり、意固地で頑迷なヴァランダー警部というキャラクターがどうやって形成されたのかに、本書の主眼が置かれている。従って、犯罪の動機、犯人探しなどの警察小説部分より、家族、特に父親や妻(恋人から元妻まで)、娘、あるいは同僚たちとの関わりの方が読みどころとなっている。 シリーズファンには必読。北欧ミステリーファンにもオススメだ。 |
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ホームドラマ風ミステリーと野球小説で独自の世界を築いている著者の野球をテーマにした書き下ろし作品。野球への愛と夢を諦めない人たちへのエールが詰まったハートウォーミングなエンターテイメント作品である。
かつて「天才少女投手」と言われたこともあった実咲だが、27歳になった今は会社が潰れて宿無しになり、転がり込んだ友だちのところからも追い出される散々な状況に陥っていた。そんな中、ふと立ち寄った女子プロ野球観戦がきっかけとなり、アラ還、アラ古希大歓迎という女子野球チーム「あかつき球団事務所」に居候させてもらうことになった。宿代代わりに練習を手伝うことになった実咲だが、ぎりぎり9人しかいないメンバーのほとんどが野球初心者というチーム事情にほとほと呆れ、出来るだけ早く辞めようと思っていた。しかし、様々事情から辞められずメンバーたちと付合ううちに、何かが刺激された気がしてきた・・・。 何かに必死で挑戦する姿を見て、自分も諦めた夢に再挑戦するという、ありがちなストーリーではあるが、50代以上の女子だけのアマチュア野球チームという舞台設定が成功して、どんどん感情移入して行き、最後には爽やかな読後感が得られる作品になっている。 野球好きの方、夢の力を信じたい方にはオススメだ。 |
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イギリスの児童文学者の本邦初訳作品。ファンタジー作品であり、少女の成長物語であり、事件の謎を解くミステリー作品でもある。
ダーウィンの進化論が衝撃を与えた19世紀後半のイギリスで、著名な博物学者であるサンダリー師は化石のねつ造スキャンダルによって本土を追われ、小さな島に一家で移住する。だが、そこでもスキャンダルは広まり苦境に陥る中、サンダリー師が死体で発見された。自殺と思われたのだが、父を敬愛する14歳の娘・フェイスは疑問を抱き、一人で真相を解明しようと決心する。父が隠していた「嘘を養分として成長し、その実を食べると真実が見える」という不思議な木を発見したフェイスは、その木の力を借りて父の死の謎を解いていく・・・。 まあ、ありえない設定が気に入るかどうかで作品の評価が決まって来るのだが、ミステリーというより、少女の成長物語として読めば、それなりの面白さがある。ファンタジー系の作品が好きな方にはオススメできる。 |
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ドイツでは人気が高いのサイコミステリー作家の2014年の作品。ミステリー評論家の評価が高く、「サイコ」を抜いたミステリーとの評価を目にしたのだが、立派にサイコなミステリーである。
ドイツ警察の囮捜査官・マルティンは、5年前に妻と息子が姿を消した(自殺したとされた)豪華客船「海のスルタン」号の乗客である老女から「息子のテディベアが見つかった」という奇妙な電話を受けた。しかも、テディベアは2か月前に船内で行方不明になっていて、突如として姿を現した少女が持っていたという。仕事を放り出して船に乗り込んだマルティンだが、テディベアの謎を解くことはできず、さらに別の事件に巻き込まれてしまった。巨大な客船には深い闇があり、マルティンは踏み込めば踏み込むほど迷路にはまってしまうのだった・・・。 客船という閉鎖空間での事件、過去の事件と現在の事件の奇妙なつながり、誰もが何かを隠しているような登場人物など、サスペンスミステリーの基本的な要素がたっぷり詰め込まれている。また、人物のキャラクター設定も明確で理解しやすい(訳者が上手だということだろう)。それでも読後感がイマイチだったのは、犯行動機、捜査手順などにリアリティが欠けているから。結末部分でのどんでん返しも、ご都合主義に過ぎる気がした。 サイコミステリーファンにはオススメできる。 |
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スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第3作。日本では2011年に刊行され絶版になっていたのが2018年に再文庫化された作品である。グレーンス警部のチームによる捜査より死刑制度に焦点を当てた社会派ミステリーである。
スウェーデンで暮らすカナダ国籍の男が暴力事件で逮捕された。ところが捜査を進めると、ジョン・シュワルツと名乗るこの男のパスポートは偽造されたものだった。しかも、6年前にオハイオ州の獄中で死んだアメリカ人死刑囚であることを示す証拠が出てきた。もし、死を偽装して逃走した死刑囚であれば、アメリカ政府は引き渡しを要求し、死刑を実行するだろう。だが、EUの一国であるスウェーデンは死刑を廃止しており、死刑制度がある国への死刑囚の送還は禁止されている。とは言え、アメリカと良好な関係を維持したいスウェーデン政府は、引き渡しを拒めるだろうか? 死刑制度に反対のグレーンス警部たちは、あの手この手で送還を阻止しようとするのだが・・・。 事件捜査自体は単純で、グレーンス警部らは捜査より政治的な駆け引きに奮闘する。一方、ジョン・シュワルツの地元、オハイオ州の田舎町では被害者の父親を筆頭に死刑の実行を求める声が高まり、ジョンの引き渡しと死刑の実行は当然のことと思われている。このアメリカとスウェーデンの意識の違いが、物語を面白くしている。死刑制度が当然と捉えられている日本では、アメリカに近い世論が形成されるのだろうが、そこに小石を投げ入れるぐらいの波紋は起こしそうな問題提起を含んだ作品である。 警察小説としても合格点レベルに達しているし、シリーズ作品ならではのメンバーたちの様々な変化も興味深い。シリーズ愛好者には必読。社会派ミステリーファンにもオススメだ。 |
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アメリカ生まれでスコットランド在住の女性作家の本邦初訳作品。第二次世界大戦中の若いイギリス人女性2人の友情物語であり、スパイ小説であり、ミステリー仕立ての歴史小説である。
スコットランドの貴族の少女とユダヤ人のバイク商人の少女が、イギリス空軍の補助部隊で出会い、ふとしたきっかけでスパイとパイロットとしてフランスに侵入するも飛行機が撃墜され、スパイはゲシュタポに捕虜にされ、パイロットはレジスタンスに助けられながら英軍の救助を待つ。それぞれが書いた手記が一部と二部になっていて、全部を読み終えると全体像が見えてくる・・・のだが、スパイの手記がパイロット視点のフィクションになっているという複雑な構成で、とにかく話の大筋がなかなかつかめなくて読むのに非常に苦労した。 物語のテーマ、物語自体は面白いのだが、面白いと思えるようになるのが最後の50ページほどになってからなので、忍耐力のある読者にしかオススメできない。 |
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イギリスの新人女性作家のデビュー作。2015年の発刊ながら、すでに7作目まで発表され人気シリーズの地位を確立した、若い女性警部が主役のテンポがいい警察小説である。
私立高校の女性校長が自宅浴室で溺死させられた。真面目で堅物の校長はなぜ殺されたのか? キム警部のチームが捜査に乗り出し、この校長がある遺跡の発掘に関心を持っていたことを知り、その理由を探ると、そこはかつて校長が勤める児童養護施設があった場所だった。さらに第二の殺人事件が発生、被害者が昔、同じ児童養護施設で働いていたことが分かった。しかも、遺跡の発掘場所からは子どもの白骨死体が発見された。殺されて埋められたのは誰か? 養護施設で何があったのか? キム警部のチームは、粘り強く事件の真相に迫っていく・・・。 ヒロインは34歳、独身、バイクが趣味で人付き合いが苦手で、ときには上司や規則を無視して突っ走るという、どこかで読んだことがあるキャラクターである。さらに、埋められていた死体が、現在の悲劇を引き起こすという構成も既読感がある物語だが、テンポよく話が進むのですいすいと読み進められ、読後感も悪くない。 軽めのミステリーがお好きな方にはオススメだ。 |
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MWA最優秀長編賞にノミネートされたという、女性弁護士が主役の作品。表4の紹介文ほどの衝撃作ではないが、思いがけない展開に引き込まれる法廷&犯人探しミステリーである。
43歳の女性弁護士オリヴィアは、3人を射殺したとして逮捕された容疑者の娘から「あなたがパパを助けないとダメ」という電話を受けた。戸惑うオリヴィアだったが、容疑者が学生時代からの恋人で結婚寸前でオリヴィアの側から破談にしたジャックだと知って驚愕する。一方的にジャックを傷付けたという負い目を感じていたオリヴィアが弁護を引受け、調査を進めたのだが、犯罪行為をする訳が無いと信じていたジャックには、様々な不利な証拠や背景がつきまとっていた。ジャックは罠にかけられたのか、計画的な復讐をとげたのか。オリヴィアがたどり着いた真実は・・・。 古くから知っていて、絶対に犯罪を犯すような人物ではないと信じていても、客観的な証拠が犯人ではないかと指し示したとき、どこまで信じれば良いのか。一般の人間ならまだしも、刑事弁護人となると「事実には目をつぶって弁護する」という苦しみもある。ヒロインの苦悩がメインテーマで、犯人探しのストーリーも説得力があり、どんでん返しではない揺れも面白い。 ただひとつ、物語とは関係のないことではあるが、43歳の女性弁護士が容疑者である同級生や検事、記者などを「きみ」という二人称で呼ぶのが、難点。言葉使いも、中途半端に中性的で違和感がある。会話文が続くと、だれの発言か確認するために読み返さなくてはいけなくて、読書のペースを乱されたのが不満だった。元の英文のせいなのかもしれないが、性別や年齢による言葉使いの差で発言者を判断する日本人読者に配慮して訳してもらいたかった。 |
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ノルウェーというより北欧を代表する警察小説シリーズ「刑事ハリー・ホーレ」の第5作。「コマドリの賭け」、「ネメシス」に続く三部作の完結編である。
オスロ市内で発生した猟奇的な女性殺人事件は、連続殺人の発端だった。3年前、ペアを組んでいた女性刑事エッレンが殺された事件に取り付かれながら、その事件を解決できないまま酒に溺れ、免職されようとしていたハリーだったが、人手が足りないことから連続殺人の捜査に駆り出された。二件目、三件目と事件が続き、ハリーたち捜査陣はようやく事件の背景、犯人の狙いを読み解き、次の犯行を防止し、犯人を逮捕するのだが・・・。 ミステリーとしては、連続殺人事件の解明が主軸なのだが、作品の中心は、ハリーがエッレン殺害事件の黒幕と目しているヴォーレル警部との対立に置かれている。さらに、ハリーのアルコール依存とそれからの立ち直りというのも大きなテーマとなっている。そのため、事件捜査より人物描写に力が入った印象で、特に前半のハリーのダメさ加減は読んでいてイヤになるほど重い。ここがもう少しテンポよく進んでいたら、もっと緊張感がある作品に仕上がっただろう。 もう一点、ハリーとヴォーレルがお互いを呼ぶときや容疑者を尋問するときに「おまえさん」という訳語が使われているのが違和感があり、読むリズムを狂わされたのが残念。 三部作の最後なので、前二作を読んでおかないと十分に楽しむことができないのに「コマドリの賭け」は絶版だったのだが、2018年2月、再版された。これから読もうとする方には、ぜひ第一作から読み進めることをオススメする。 |
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「犯罪は老人のたしなみ」に続く、スウェーデンの老人犯罪集団シリーズの第二作。今回も、奇想天外でユーモラスなノワールが楽しめる。
前作でラスベガスに逃げた老人たちだったが、ギャンブル生活にも飽き、里心がついてスウェーデンに帰ることにした。しかし、犯罪の動機だったスウェーデンの福祉への支援の資金が足りていないことから、帰国前のひと仕事としてカジノから大金を奪いとった。ところが、帰国してみると、ネット送金したはずの資金は途中で盗まれ、福祉施設に届いていないことが判明した。ガックリきた老人たちだったが気を取り直し、新たに5億クローナという大金を調達する犯罪計画を立て、よたよたと実行に移すのだった・・・。 今回もまた、行き当たりばったりの計画とボケ扱いを逆手に取った悪知恵で、様々な危機を乗り越えていく老人たちのたくましさが秀逸。犯罪が成功するのか失敗するのか、読者はハラハラドキドキさせられ、最後には安堵する。まあ、警察を始めとする捜査陣や周辺の人々が老人たち以上にボケているというか、老人を見くびることのしっぺ返しを受けるというお約束の展開が、安定した面白さをもたらしている。 シリーズ読者には、絶対のオススメ。シリーズ未読の方は、ぜひ第一作から読むことをオススメする。 |
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デンマークを代表する警察小説「特捜部Q」シリーズの第7作。期待通りの高レベルな社会派ミステリーである。
今回も、特捜部Qは未解決事件に取り組むのだが、それは最近起きた老女殺害事件と類似しており、老女殺害を捜査している殺人捜査課と対立することになる。しかも、前回の事件から続くローセの精神的な不調が深刻化し、チームは重苦しい雰囲気に包まれ、四苦八苦していた。それでも粘り強く捜査を続けたチームは、2つの事件が、失業中の若い女性を狙ったと思われる連続ひき逃げ事件とも関連していることを突き止める。ローセという貴重な戦力を欠いたチームに3つもの難事件はとてつもない重荷だったのだが、不可能を可能にする特捜部Qはけっして諦めなかった・・・。 本作のメインストーリーは、社会福祉制度に寄生する「ずるい人間」と、それが許せなくて過激なリンチに走ろうとする「独善的な正義の人」の物語である。福祉制度が充実すればするほど、楽して甘い汁を吸おうという人間が出て来るのは、国民性や民族性に関わり無く、世界中で起きること。そういう矛盾を包み込んで成り立つ社会であり続けられるのかどうかが、民主主義の定着度を測る尺度と言える。それについては、独善的な正義の人として、ソーシャルワーカーとともに、デンマークに逃亡したナチス高官が描かれているところに、作者の考えが読み取れる。 シリーズ読者にとっては、メインストーリー以上に気になるのが、ローセの落ち込み具合で、カール、アサド、ゴードンと一緒に、ローセを救い出すために何ができるのか、最後までハラハラドキドキである。ローセの置かれた状況を理解しておくためにも、シリーズの順番に読み進めることをオススメする。 |
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ニューヨーク市警刑事キャシー・マロリーシリーズの第10作。氷の天使が義憤に駆られて復讐を遂げるという物語で、従来の路線を踏襲しながらも、新しいマロリーが垣間見える作品である。
セントラルパークで、袋に入れられて木から吊るされている3人の男女が発見された。脳に腫瘍があり気がふれていた女は死亡し、社交界のスキャンダルで知られていた女は負傷しており、小児性愛者の男は入院したものの後に死亡した。年齢的に近いという以外の共通点が見つからない3人の被害者は、なぜ吊るされたのか? マロリーとライカー刑事は捜査を進めるうちに、15年前に同じ場所で同じような事件が発生していたことを発見した。しかも、その事件は記録が全く残されていなかった。誰が、何のために隠蔽工作をしたのか? 古い謎を追って二人の刑事はNY市の警察と司法の闇に踏み込んで行った。 一方、同じ日にセントラルパークで発見された8歳の少女ココは、小児性愛者に誘拐されており、誘拐犯が吊るされるのを目撃していた。少女は社会適合性に欠けるウィリアムズ症候群の診断され、チャールズ・バトラーの保護の下に置かれたのだが、マロリーは少女から証言を得ようとして、チャールズと対立する。 事件の背景には、小児性愛者といじめにあった子どもを巡る大人たちの醜悪な思惑があり、それを知ったマロリーが被害者の子どもの代わりに復讐するという展開になる。また、ウィリアムズ症候群の少女に過去の自分を見て、マロリーが少女に温かく接するという、氷の天使らしからぬ面を見せるのも、従来のシリーズ作品とは異なっている。そういう意味では、シリーズの転換点になる作品かもしれない。 過去と現在が複雑に入り交じる凝ったストーリーと複雑な文章表現で、読みにくいという点は、従来通り。シリーズ読者以外にはなじみにくい作品である。 |
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アメリカの新進作家の長編第二作。いわゆる「交換殺人」ものかと思わせておいて、どんどん違う方向に引っ張って行く、パワフルなサイコミステリーである。
ロンドンの空港でボストン行きの便を待っていたアメリカ人のIT長者テッドは、バーで隣り合わせた若い女性リリーに声をかけられた。旅先の気軽さと多少の飲み過ぎで口が軽くなったテッドは、一週間前に妻ミランダの浮気を知り、殺してやりたいと思っていると口走ってしまう。するとリリーは、ミランダは殺されても当然だと言い、テッドに協力すると言い出した。ボストンで殺人計画を練った二人が計画を実行しようとしたとき、思いがけない事態が発生し、事態は急展開することになった。果たして、二人の計画は成功するのだろうか? 殺人計画の立案、実行、後日談という三部構成で、ミランダに対する計画殺人がメインストーリー、主犯となるリリーの過去の犯罪がサブストーリーで展開される物語は、最初から最後までスリリング。第一部ではテッドとリリー、第二部ではミランダとリリー、第三部では刑事とリリーのそれぞれの視点で構成される章が入れ替わるごとに、物語の様相が変化し、サスペンスが高まって行く。ディーヴァーのようなどんでん返しではないが、想定外の連続、意表をつく展開で、全編、緩むこと無く楽しめる。 好みのジャンルを問わず、多くのミステリーファンにオススメしたい。 |
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