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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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「ミスター・メルセデス」で始まった「退職刑事ビル・ホッジス三部作」の第二作。前作同様、犯人は分かっていて、次の犯行を防ぐためにホッジスたちが奮闘する私立探偵もののバリエーション作品である。
物語の発端は、隠遁している老作家の家に強盗が押し入り、作家を殺害した上に現金と未発表原稿を奪ったこと。老作家の愛読者だった強盗の主犯のモリスは、仲間割れした後、現金と原稿をトランクに詰めて隠した。30数年後、トランクを偶然に見つけたのが13歳の少年ピートだった。実は、ピートの父はメルセデス事件に巻き込まれて負傷し、働けなくなっており、生活苦から夫婦仲が悪化し、離婚の危機に直面していた。トランクで見つけた現金があれば両親が仲直りでき、元の家庭が戻るのではないかと考えたピートは、現金と原稿を家の中に隠し、現金を少しずつ父親宛に郵送することにした。それから4年、現金が尽きたため、ピートは今度は原稿を売ることを考え始めるのだが、ちょうどそのころ、服役していたモリスが仮釈放で出所し、トランクを回収しようとする。隠しておいた宝物を盗まれた盗人と偶然宝物を見つけた少年の手に汗握る攻防戦が始まった。当然のことながら、ホッジス、ホリー、ジェロームの三人は少年ピートの助っ人として問題解決に乗り出していく。 ストーリーの中心はピートとモリスの原稿争奪戦で、ホッジスたちの役割りはサブの扱いである。さらに、老作家の原稿の重要性、価値を強調するためのエピソード類が多いため、全体にやや緊迫感に欠ける。特に、上巻ははっきり言って退屈な部分がある。それでも、ピートとモリスが交差する辺りからはサスペンスが盛り上がり、満足できるレベルに仕上がっている。 前作を受けたエピソードが多いので、できるだけ第一作「ミスター・メルセデス」から読むことをオススメする。 |
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デビュー作ながらNYタイムズのベストセラーリストで初登場1位を獲得し、連続29週ランクインしたという話題作。精神分析医でありながら、アルコール依存症で広場恐怖症のために家に閉じこもり、近所を覗くことと古いミステリー映画で自らを慰めているという、風変わりな女性が探偵役を勤める心理サスペンス作品である。
38歳でハーレムの高級住宅街のタウンハウスに一人で暮らすアナは、広場恐怖症のために外出できず、ワインと古いノワール映画を友だちに引き籠もり生活を送っていた。ある日、いつも通りに近所を覗いていて女性が刺し殺されるのを目撃する。ところが、被害妄想的なところがあるアナの証言は周囲に信じてもらえず、自分自身でも妄想ではないかと不安になっていた。しかし、身の回りでは奇妙なことが続発し、アナは一人で事件の真相解明に立ち向かうことになる・・・。 「ガール・オン・ザ・トレイン」や「ゴーン・ガール」などを引き合いにした評価が多く見られるように、「信頼できない(女性が)主人公」というジャンルのミステリーである。それにしても、物語の途中での主人公の壊れ具合がひど過ぎて「どこまでが現実、どこまでが妄想」かの境界が不明になり、心理的なサスペンスを味わう以前に疑問点ばかりが気になってストーリーに没頭できなかった。2019年公開予定で映画制作が進んでいるとのことで、映画化されればもうちょっと整理されて分かりやすくなるのではないだろうか。 女性が主人公の心理ミステリーがお好きな方にはオススメ。また、1940年代から50年代のフィルム・ノワール愛好家には魅力的なマニアックな作品と言える。 |
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元CIA分析官という経歴の女性作家のデビュー作。自らの経験を生かしたという、アメリカの情報機関とロシアのスリーパーの戦いを描いた作品である。
CIAでロシアのスリーパー対策を担当しているヴィヴは、苦労の末に突き止めたロシア側ハンドラーのパソコンでスリーパーたちの画像を発見する。しかし、その中に夫であるマットの写真が含まれていたことに驚愕し、すぐに上司に報告すべきところをためらい、そのまま職場を出てしまった。10年間共に過ごし、4人の子どもと一緒に幸せな家庭を築いてきたはずの夫は、ロシアのスパイなのか? 悩みに悩んだ末に、「いつからロシアのために働いているの?」と問いかけたヴィヴにマットは「二十二年前だ」と答えた。子供たちを守るために秘密を守るのか、国家に忠誠を尽くすために夫を告発するのか。ヴィヴはマットへの不信感に葛藤しながらも、家族を維持するために苦闘するのだった。 スパイ小説ではあるが、一級のスパイ小説が持つヒリヒリした緊張感は無い。むしろ、嘘を吐いてきた相手との不信と愛情のドラマという心理サスペンスとして成功している。もうすでに映画化が決定しているようだが、確かに映画向きのストーリーである。 本格的諜報小説ファンにはやや物足りないだろうが、ホラーではない心理サスペンス好きにはオススメできる。 |
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ヘレン・マクロイを代表する「ウィリング博士」シリーズの10作目、1955年の作品。シリーズの特徴である、犯人探しの本格派ミステリーをオカルト風味で盛り上げたサスペンス作品である。
転落死した夫の遺品の整理を始めたアリスは、「ミス・ラッシュ関連文書」と書かれた、中身が無い封筒を発見する。聞き覚えの無い名前を疑問に思ったアリスだったが、一人息子のマルコムが連れてきた魅力的な女性が「クリスティーナ・ラッシュ」と名乗ったのに驚愕する。しかも、彼女が帰った後、封筒が消えていた。クリスティーナ・ラッシュとは何者なのか、夫との関係は何なのか、何の目的でマルコムに近づいてきたのか? 疑心暗鬼にとらわれたアリスは、強引にミス・ラッシュの正体を暴こうとするのだった・・・。 ミス・ラッシュの正体に迫るプロセスはなかなかのサスペンスで、犯人探しの面白さが味わえる。しかし、事件の動機の解明になると、途端に平板で中途半端になってしまう。探偵役のウィリング博士も魅力的ではないのが惜しい。 シリーズの中では最後に邦訳された作品ということで、シリーズ愛読者には必読。それ以外の方には、まあ時間があれば読んで損は無いという程度だ。 |
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デビュー作でいきなり人気沸騰した「ワニ町シリーズ(by解説の大矢博子氏)の第二弾。またまた笑いとアクションとミステリーが凝縮された、期待通りの快作である。
前作の大騒動が終わり、やっと静かに暮らせると思ったフォーチュンだったが、翌朝にかかってきた一本の電話で、また事件に巻き込まれることになる。シンフル出身でハリウッドに行っていた元ミスコン女王のパンジーが町に帰ってきて、町のお祭り「子どものミスコン」で元ミスコンを偽装しているフォーチュンと一緒に運営することになったという。町中の男と関係があったと噂されるパンジーは強烈なキャラクターで、同じく強烈キャラのフォーチュンとは会った途端に公衆の面前で衝突することになり、翌日、パンジーが死体で発見されたため、フォーチュンは犯人と目されてしまった。そこでフォーチュンは、前作でも大活躍した婦人会のスーパーおばあちゃんコンビのアイダ・ベルとガーティの力を借りて、真犯人探しに乗り出すことになった。 犯罪の動機や背景は、言わば添え物程度で、メインディッシュは3人組の大混乱と大活躍である。CIAの秘密工作員フォーチュンは言うに及ばず、地元婦人会の二人も頭脳とアクションと口が抜群で、最初から最後までしっかり笑うことができる。 ユーモアたっぷりできちんとした構成のミステリーを読みたいというファンには絶対のオススメ。 前作の翌日から始まるストーリーは前作を受けての表現が多いので、ぜひ第一作から読み始めていただきたい。 |
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ニューヨーク市警のヒーロー警官を主人公にした長編警察小説。警察にとって、行政にとって、司法にとって正義とは何かを問いかける熱い物語である。
ニューヨーク市警で絶対的な評価を得ている特捜部「ダ・フォース」のリーダー・マローン部長刑事。麻薬や銃による犯罪捜査で次々に成果を上げ、市民からの信頼が厚く、ヒーローと崇められていたマローンが、汚れた刑事として拘置所に入れられたのはなぜか。街の現場を歩く警官が何を考え、何に傷付き、何を誇りとしているのかを丁寧に追いかけ、清濁併せ吞む壮大な物語に仕上げたヒューマンストーリーであり、スティーヴン・キングの「ゴッドファーザーの警察阪」という評価がぴったりだ。 文庫本1000ページ近い超大作だが、最初から最後までゆるみが無く、どんどん引き込まれていく。警察小説、犯罪捜査物語、ノワール小説などというジャンル分けを超えた傑作として、すべての現代ミステリーのファンにオススメだ。 |
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日本でも大ヒットした「熊と踊れ」の続編。前作とはやや異なったテイストながら、読者を引き込んで行く力強さは失っていないサスペンスフルな犯罪小説である。
(以下の感想は前作のネタバレを含んでいるため、未読の方は注意) 連続銀行強盗で6年間の服役を終えた長男・レオが出所してみると、6年間で、一緒に犯罪を犯した家族は大きく変化していた。父親は酒を断ち、次男、三男は社会復帰して真面目に働いていた。ところがレオは、獄中で知り合った殺人犯・サムと壮大な強盗計画を企てており、出所したその日に、先に出所していたサムと一緒に行動を開始する。レオが立案した緻密な計画は完璧に見えたのだが、ちょっとした手違いが生じたため、弟たちの手を借りる必要が生じた。しかし、二度と犯罪には手を染めないと決心していた弟たちはこれを拒否し、レオはサムだけを仲間に計画を強行することになった。 前回の強盗事件を担当したブロンクス警部は、今回も担当することになり捜査を進めていたのだが、レオの相棒になっているのが実の兄のサムであることを知り驚愕する。兄が服役したのは、弟である自分を守るために父親を殺害し、しかも自分が警察に通報したからだったのだ。そのことに罪悪感をいだいていたブロンクス警部は、警察としての責任と兄を助けたいという思いとに引き裂かれて苦悩する。そして、二組の兄弟たちの物語はひたすら終末へと失踪する・・・。 前作同様、緻密な犯罪計画がスリリングなのだが、本作は家族の絆というテーマが、より大きな比重を占めている。愛し合う家族同士が暴力の血によって反発し合う悲劇が、胸に重くのしかかる。エキサイティングながらも悲しみを感じさせる作品である。 前作を受けての話なので、「熊と踊れ」を読んでから本書を読むことを強くオススメする。 |
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週刊紙の連載をベースに加筆修正したという、ボッシュ・シリーズの第13作。シリーズの中では短めで、展開にスピード感があるサスペンス作品である。
ロス市内を見渡す展望台で、後頭部に2発の弾丸を撃ち込まれた男性の死体が発見された。犯行の様相からギャングがらみの処刑かと思われ殺人事件特捜班の出番となったのだが、調べて行くとテロリストが関与している疑いが浮上し、FBIが乗り出してきた。前作「エコー・パーク」で因縁があったレイチェル捜査官をはじめとするFBIと鋭く対立しながらの捜査となったボッシュだが、独自の鋭い推理で犯罪の裏に隠された真相を見つけ、複雑な事件をスピーディーに解明して行った。 事件発生から解決までが半日ほどなのでストーリー展開がテンポよく、すいすいと読みすすめられる。にも関わらず、事件の構造は複雑でサスペンスがある。いつもは力業で事件をねじ伏せて行くイメージのボッシュだが、今回はわずかな証拠から鋭い推理を発揮する知性派の一面を見せてくれる。そういう意味ではシリーズ読者には必読の一冊であるが、シリーズ読者以外でも楽しめる警察ミステリーである。 |
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2006年〜09年の雑誌連載を大幅に加筆修正した、文庫オリジナル作品。文庫700ページを越える長編ながら構成がシンプルで読みやすい、青春小説である。
社長の息子という立場は同じながら、実態は全く違う二人の「あきら」。伊豆の片田舎の零細工場の長男・山崎瑛は、小学5年生のときに父の工場が倒産し、辛酸をなめながらも持ち前の向上心で東大を卒業し、大手都市銀行に就職する。一方、海運業の大手企業の御曹司として育った階堂彬は、同じく東大を卒業すると、家業の後継者となることを嫌って、山崎瑛と同じ銀行に就職した。新入社員当時からお互いの才能を認め合っていた二人は、階堂彬の実家の事業がバブル崩壊から苦境に陥ったことを受け、立場は異なりながらも協力してその難問に立ち向かって行く。その二人を支えたのは、幼い頃の経験から培われた「何のために生きるのか」という信念だった。 池井戸潤のホームグラウンドである銀行業界を舞台に繰り広げられる若者たちの成長物語。池井戸ファンには読み慣れた物語で、700ページを少しも長いと感じさせない。主人公二人はもちろん、周辺人物のキャラクターも丁寧に造形されており、ストーリー展開に深みを与えている。ただ全体に流れが淡白で、ドキドキ感が無いのが惜しい。 池井戸ファンにはもちろん、明るめの社会派小説のファンにはオススメしたい。 |
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ストックホルム警察の腕利き刑事を主人公にした新シリーズの登場作。北欧の警察小説にしては派手なアクション系ミステリーである。
27歳にして特捜班に抜擢された刑事ザック。彼には5歳の頃、刑事だった母が殺害され、事件が迷宮入りになったことで深い心の傷を負い、いつか犯人を捜し出すという強迫観念から警察入りしたという過去があった。ある日、タイ人のマッサージ嬢4人が惨殺される事件が発生し、ザックたち特捜班が担当することになった。タイ人を狙った人種差別事件と思われた事件だったが、捜査を進めるとマッサージ(つまり売春)利権を巡る犯罪組織の抗争の様相が見えたり、サイコパスによる単独犯行のようにも見えてきた。さらにタイ人売春婦が狙われる事件が発生し、ザックたちは寝る時間も無いほど追い詰められて行った・・・。 型破りの敏腕刑事が暴走気味に突っ走って、最終的には犯人を挙げるというのは珍しいことではないのだが、本作の主人公ザックの暴走というか、壊れ具合いは半端ではない。薬はやるは、容疑者に暴力を振るうは、不法侵入をするは、やりたい放題である。それでも読者が納得できるのは、犯人の残酷さが尋常ではないから。犯人追跡ミステリーは、犯人のあくどさが際立つほど面白くなるという法則通りの作品である。社会派ミステリーではあるが、これまで好評を博してきた北欧警察小説とは若干異なる毛色の作品であり、どちらかと言えばアメリカの刑事物に近い。 アクション系ミステリー、スーパーヒーロー系の警察小説ファンにオススメだ。 |
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1891年から1936年までにアメリカ、イギリスで起きた若い女性が被害者となった殺人事件をテーマに、1949年に刊行された犯罪実話集。事実に基づいて、警察の捜査をベースに事件の詳細を冷静に淡々と綴っていく、犯罪ノンフィクションの一スタイルを確立した記念碑的な一冊である。
取り上げられた事件の様相はそれぞれだが、すべて事件の発覚から裁判までをシンプルに追いかけており、被害者・加害者・捜査官などの心理描写は徹底的に排除されている。それが逆に犯罪の卑劣さと被害者の無念を表わしていると言える。一世紀以上昔の話ではあるが、実話ならではの強さがあり、犯罪に使用される道具や社会背景は違っても犯罪のパターンはさほど変化するものではないと思わせる。 犯罪実話、ノワール小説がお好きな方にはオススメだ。 |
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本国はもちろん日本でも人気を確立している「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第4弾。犯人を追う警察小説としての面白さはもちろん、主要登場人物たちの心理的なドラマも読み応えがある、北欧らしいミステリー作品である。
スウェーデン西部の田舎町で二人の子どもを含む一家4人が銃殺される事件が発生した。すぐに怪しい男が判明したのだが証拠が何も見つからず、捜査の行き詰まりを恐れた地元警察の担当者はトルケル率いる殺人捜査特別班に助けを求めた。現場に駆けつけた特別班のメンバーは、前作でのケガがもとで休職中のウルスラの協力もあって、事件現場には、もう一人、少女がいたことを突き止めた。唯一の目撃者である少女が犯人から狙われると判断した捜査班は、犯人より先に少女を発見しようと焦るのだったが・・・。 一家惨殺の犯人探しが本筋で、地道な聞き込みと徹底した証拠調べで犯人をあぶり出して行くストーリーは極めて完成度が高く、ラストでのどんでん返しもインパクトがある。だがそれ以上に、それぞれに心理的な傷を抱えた特別班メンバーの苦悩や葛藤、変化が面白い。特に、主人公セバスチャンの変化、世界最強の迷惑男にも人間味が垣間見えるときがあることに驚かされる。 シリーズ愛読者は必読。シリーズ未読の方は、ぜひ第一作から読み始めていただきたい。 |
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ロス・マクを代表する「リュー・アーチャー」シリーズの第一作。1949年の作品だが、田口俊樹氏の新訳が少しも古さを感じさせない正統派のハードボイルド作品である。
石油業界の富豪夫人から「消えた夫を捜して欲しい」と依頼されたリュー・アーチャー。大邸宅に行くと、事故で車椅子生活になった若妻、気性が激しい娘、戦争の英雄で富豪のお抱えのパイロット、元検事で娘に恋している弁護士などが複雑な家庭環境を作り出していた。そこに「商売上必要だから10万ドルを用意しろ」という、富豪の自筆の手紙が届いたが、家族はあり得ない話だと断言した。果たして、富豪は誘拐されたのか? 調査を進めるアーチャーの前に現われるのは、往年の映画女優、怪しげな宗教家、バーの経営者など、謎の多い人物ばかり。さらに、身代金10万ドルを要求する脅迫状が届き、その受け渡しをきっかけに殺人事件が相次ぐのだった・・・。 初登場のリュー・アーチャーは35歳という設定で、シリーズの後半の作品とは異なりアクション派の私立探偵である。何人もの死者が出るストーリー展開も派手で、全体的に若々しくてスピーディーな作品と言える。 後年の大傑作と比べるとやや軽くて荒削りではあるが、記念碑的作品として、シリーズ読者には必読。正統派ハードボイルドファンなら、どなたにもオススメできる。 |
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産業スパイ「AN通信」の鷹野一彦シリーズ、三部作の第3作。日本とアジアを舞台にした水戦争を描いた国際謀略アクション作品である。
35歳で退職年齢を迎えようとしている主人公・鷹野一彦と部下の田岡たちが挑むのは、日本のみならず、中央アジアの水道事業の民営化を巡る巨大な利権争いである。登場する人物すべてが欲望を隠さず、誰が悪人で誰が正義の味方なのかは判別不能。非情な策謀と陰謀にまみれたコンゲームとアクションが繰り返される。そんな中に、世の中から取り残された子供たちのサバイバルや友情、情愛などが効果的にちりばめられている。 政治的なメッセージを持つ社会派小説とも読めるのだが、それ以前に娯楽アクション小説として楽しめる作品である。日本人作家のこのジャンルの作品としては、かなり上質。幅広いアクション小説ファンにオススメできる。 |
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2016年のエドガー賞候補作、ネロ・ウルフ賞受賞作。「冷戦下のニューヨークを舞台にした歴史ノワールの会心作」というセールストークに少しだけ期待して読み始めたのだが、いい意味で期待を裏切る傑作ハードボイルド作品である。
マッカーシーによる赤狩り旋風が吹き荒れていた1954年、NY市警の刑事キャシディは拷問を受けて殺された男性ダンサーの捜査を担当することなった。現場となった被害者の自宅を訪れると、安アパートの住人には似つかわしくない高級な家具や衣類があり、被害者はどうやらゆすりを働いていたようだった。ダンサーがキャシディの父親がプロデュースする演劇に関わっていたことから、劇場のロッカーを調べると何の変哲も無い50セント硬貨が隠されていた他に、めぼしいものは見つからなかった。相棒のオーソーとともに本格的に捜査を進めようとしたキャシディだったが、FBIからの指示で捜査から外されてしまう。納得がいかないキャシディとオーソーは、様々な妨害にあいながらも独自に捜査を続行し、マッカーシー、FBI、CIA、ソ連の情報部が絡んだ醜悪な現実に直面するのだった。 殺人事件の捜査のはずがスパイ摘発の政治闘争になり、さらに主人公の家族を巻き込んだ脅迫事件になり、米ソの情報戦とスキャンダルになり、そんなカオスを真っ正直に切り開いて行くハードボイルドな警官の物語で幕を閉じる。550ページを越える長編だが、波乱に満ちた展開で飽きさせることが無い。本作がデビュー作で、アメリカではすでに次作が発売されているというので楽しみに待ちたい。 物語は複雑だが表現が映像的で、ストーリー展開もシンプルなので読みやすい。歴史ノワールというより、ハードボイルドとして読むことをオススメする。 |
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オーストラリアの女性作家のデビュー作。行方不明の少女への成り済ましが成功するのか否か、スリリングな心理劇が展開される静かなサスペンスドラマである。
家出して切羽詰まった末の窃盗で捕まった窮地から、11年間も行方不明になっていた少女レベッカに成り済まして逃げようとした「私」。レベッカの両親は喜んで迎え入れてくれたのだが、行方不明事件を担当した刑事からは疑惑の目を向けられ、事件当時の記憶を思い出すように執拗に迫られる。さらに、双子の弟たちや再会した無二の親友にもバレないように、神経をすり減らして暮らしながら「私」は、レベッカになりきるために失踪の秘密を探り出そうとする。そこで見えてきたのは、青春を謳歌していたはずのレベッカにまとわりついていた暗い悪意の影だった・・・。 16歳のレベッカの章と成り済ました「私」の章が交互に展開され、レベッカ失踪の謎がじわじわと明らかにされていく過程は、事件自体に凄惨さが無いので「サイコスリラー」とは言えないが、スリリングではある。欲を言えば、事件全体の構図にもうひとひねり欲しいのだが、最後まで読ませる力は持っている作品である。 サイコミステリーファンより、人間関係ミステリー好きの方にオススメする。 |
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日本推理作家協会賞をはじめ、数々の読者ランキングで1位を獲得した、大型冒険小説。新人類の誕生というSF的なテーマながらリアリティを感じさせる、スケールが大きなエンターテイメント作品である。
イラクの民間軍事会社で働くアメリカ人傭兵と創薬を研究する日本人大学院生という、縁もゆかりも無さそうな二人が、ある難病を介してつながったとき、世界は人類史上最大の分岐点を迎えることになった。そこに、人類絶滅の危機を察知したアメリカ合衆国が介入し、事態は激しく動いて行く・・・。 物語の舞台はイラク、ワシントン、アフリカ大陸、東京とグローバルに広がり、事件の背景に潜んでいるのは人類絶滅の危機という壮大なテーマで、しかも傭兵と民兵との白兵戦や衛星を使った戦闘、アメリカ政府内部での権力闘争や情報戦など、アクションシーンも盛り沢山で、最初から最後まで飽きさせない。医学関連で難解な説明があるのが難点だが、そこは流して読んでも全く問題は無い。 アクション系のエンターテイメント、国際謀略系の作品が好きな読者には、絶対のオススメだ。 |
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リンカーン弁護士シリーズの第5作。法廷シーンの面白さは従来通りで、さらに謎解きミステリーの面白さがプラスされた傑作エンターテイメント作品である。
エスコートガール殺害容疑で逮捕された「デジタルぽん引き」ラコースから弁護を依頼されたハラーは、ラコースにハラーを教えたのが、かつて何度も窮地を救ってやった高級娼婦のグロリアで、しかも殺されたのがグロリアだったことを知り仰天する。依頼を引受けて調査を始めたハラーは、ラコースは罠にはめられただけで無罪だと確信し、真犯人を探し始めるのだが、それに気づいた犯人側から執拗な妨害を受け、命まで狙われることになる・・・。 真相解明までのプロセスは良くできた私立探偵ミステリーのようで、謎解きもアクションも楽しめる。さらに、いつも通りに二転三転する法廷シーンのスリリングさは秀逸。シリーズの中では一番の華やかな作品である。 「訳者あとがき」に「ひょっとするとシリーズ最後の作品か」とあり、同じような感想を持ったのだが、これまでとは違う路線への転換点なのかもしれないと、密かに期待してもいる。 シリーズ作ではあるが、本作だけでも十分に楽しめる作品であり、法廷もの、私立探偵ものファンには自信を持ってオススメしたい。 |
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2006年に発表された長編小説。サンディエゴを舞台に、引退したマフィアが「自分流の生き方」を貫くために闘う、老人が主役のクライム・アクション作品である。
かつては「マシーン」というあだ名を持っていた凄腕のマフィア、フランク・マシアーノは、62歳になる今はサンディエゴで「餌屋のフランク」と呼ばれ、釣り客相手の商売と魚の販売などのビジネスと、元妻、愛する一人娘、恋人との関係を大切に、平穏な日々を送っていた。ところがある日、マフィアのチンピラが自宅を訪れ、フランクに力を貸して欲しいという。嫌々ながら昔の義理から力を貸すことになったフランクだったのだが、話をつけに行ったところで襲撃され、殺されそうになる。その場は窮地を脱したフランクだったが、その後も執拗にマフィアから命を狙われるようになった。誰が、何の目的でフランクの命を狙うのか、思い当たる過去がいっぱいあるだけに相手を特定できず、フランクは徐々に追い詰められて行く・・・。 老サーファーにして元マフィアの凄腕、しかも商売上手という主人公の設定がかっこいい。「夜明けのパトロール」、「紳士の盟約」の主人公が歳をとったらこんな感じになるのか。空気はあくまで乾いているのだが、登場人物たちの言動は極めて生臭い。そんな中で「自分流の生き方」を貫き通すフランクは、まさにハードボイルド・ヒーローで、最後までかっこよさを失わない。 スカッとした読後感の作品を読みたい方には、絶対のオススメだ。 |
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「その女 アレックス」で爆発的人気を呼んだピエール・ルメートルの2010年(「その女 アレックス」の前年)の作品。リストラされて失業中の57歳の男が人生の一発逆転をかけて爆走する、疾風怒濤の長編サスペンスである。
中堅企業の人事部長の職をリストラされて4年目を迎えたアランは、再就職のエントリーを繰り返すものの57歳という年齢がネックとなり、最低賃金のバイトで食いつないでいたのだが、そのバイト先で上司と衝突しバイトさえ失ってしまった。八方ふさがりのアランだったが、なんと大企業の人事部副部長の候補に残り、最終試験を受けて欲しいという知らせが届き有頂天になる。ところが、その試験の内容は「就職先の企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問する」という異様なものだった。危機的状況での重役たちの対応能力と就職希望者の力量を同時に査定するというのが、企業側の狙いだと言う。あまりの無理難題に疑問を持ったアランだったが、背に腹は代えられず、この試験にすべてを賭けることにした・・・。 物語は「そのまえ」、「そのとき」、「そのあと」の3部構成で、面接試験まではアラン、試験当日は試験を設定した男、試験後はアランの視点から語られる。主人公は57歳の失業者というありきたりの設定なのだが、その置かれる状況が異様過ぎて読者は最初から最後まで翻弄されてしまう。ヴェルーヴェン警部シリーズのような残酷なシーンやサイコな描写は皆無だが、最後までスリルとサスペンスに満ちている。さらに、主人公の言動にはブラックなユーモアもあり、読後感もいい。 ノンシリーズ作品なので、ルメートル作品は未読の方にも自信を持ってオススメしたい。 |
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