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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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ピーター・ダイヤモンド警視シリーズの第9作かつ最後の(?)作品。おなじみの古都・バースを舞台に、自殺偽装された連続殺人事件を追う警察ミステリーである。
公園のブランコに女性の首吊り死体がぶら下がっているのが発見された。自殺で片付けられようとしたのだが、首を吊る前に絞殺されたことが分かり、被害女性の身辺を捜査すると、元夫、仕事先のレストランの同僚、客のセールスマンなど、怪しい人物は多いのだが決定的な証拠が見つからず、捜査は難航していた。そんななか、今度は行方が分からなくなっていた被害者女性の元夫が、首吊り状態で鉄橋からぶら下がっているのが発見された。 殺人事件捜査では文句なしに張り切るダイヤモンドだが、今回ばかりは捜査に集中しきれていなかった。というのも、彼のもとに「秘密の崇拝者」と名乗る女性から手紙が届き、さらには手作りのケーキまで届けられた。男としてのプライドをくすぐられるダイヤモンドだったが、その反面、正体の分からない人物に不安も抱くのだった・・・。 連続殺人、それも人目の多い場所に首吊り状態でさらすという派手な事件で、丁寧な捜査によって真相を明らかにする警察小説としての本筋はしっかり押さえられているものの、サスペンスがイマイチ。シリーズの最終作(多分)としては、やや物足りない。 シリーズ読者には必読。それ以外の方には、本作だけではダイアモンドの魅力が十分に伝わらないので、シリーズの最初の方から読むことをオススメする。 |
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2016年から一年余り、週刊誌に連載された長編小説。ミステリーと言えるかどうか微妙だが、犯罪がらみのストーリーで多少のサスペンスがあることは確か。
高校入学直前に両親が経済的に破綻し、夜逃げするために父親の弟の家に預けられた真由。父親の弟一家は貧しく、進学が決まっていた私立女子高を無理やり地元の底辺の公立高校に変更させられ、しかも叔父の家族は真由を邪険に扱うのだった。真由は現状から逃避するため渋谷でバイトを見つけ、叔父の家から脱出する算段をつけようとした。しかし、世間知らずの真由は親切ごかしに近寄って来る大人たちの魂胆を見抜けず、惨めな目に遭うことになった。落ち込んだ真由が渋谷をさまよっていたとき、力になってくれたのは、同じように渋谷で放浪しているリオナだった。リオナは、JKビジネスで知り合ったオタクの東大生・秀斗のマンションの一室に真由を誘い、そこにリオナの幼なじみのミトも加わり、三人で隠れ住むようになった・・・。 女子高校生というブランドを頼りに、サメの脳みそとノミのキンタマほどの倫理観とネズミ並の危機察知能力で、ずる賢い大人の欲望と策謀が渦巻く渋谷の街をさまよう少女たちのロードノベルである。ヒロインたちに共感するか、拒否感を覚えるか、好みは大きく分かれるだろう。最近の桐野夏生作品では抜群に読みやすく、ストーリー展開もテンポがいい。ただ、物語のさまざまな背景、伏線らしきものが終盤できちんと回収されず、放り出されたような中途半端さが残る。 ミステリーではなく、風俗ルポ的なエンターテイメントとして読むことをオススメする。 |
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2009年の「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、柚月裕子のデビュー作。医療をテーマにしたものかと思わせるタイトルだが、障碍者問題をテーマにした社会派ミステリーである。
新人臨床心理士・佐久間美帆が担当したのは「話している言葉が、どういう感情から発せられているのが色で分かる」という共感覚を持つ20歳の藤木司だった。藤木は、同じ福祉施設で暮らしていた少女・彩が死んだのは「殺されたからだ」と訴えて来る。なかなか信じることができなかった美帆だが、藤木の治療のためにも事実を解明しなければと考え、藤木と彩が暮らしていた福祉施設を調べ始めると、何かが隠されようとしている、不審なことに気が付き始めた。学生時代の友人で警察官の栗原の協力を得て美帆がたどり着いた真相は、思いも掛けないおぞましいものだった・・・。 物語の構成、人物キャラクターの設定、各シーンの描写、すべてにレベルが高い。とてもデビュー作とは思えない上手さである。ただ、それだけに意表をつくような展開が皆無で、盛り上がりやサスペンスに欠けるのが残念。 絶賛するほどではないが、多くの社会派ミステリーファンに安心してオススメできる傑作エンターテイメント作品である。 |
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ヤメ検弁護士・佐方シリーズの第1作。誰が犯罪者か、誰が被害者か、練り上げられた構成と明確なストーリー展開で読ませる、傑作法廷ミステリーである。
刑事弁護士・佐方に持ち込まれたのは、ホテルの一室で起きた殺人事件。誰もが痴情のもつれによる単純な事件、被告人は有罪と判断していたのだが、佐方は事件の裏に隠されたものがあると直感し、真実を追究するために全力を振り絞り、裁判の行方は誰もが想像もしなかった方向へ向かうのだった・・・。 最初に犯人と被害者が登場するのだが、名前は伏せられる。その後は三日間の公判を舞台にした裁判劇が繰り広げられ、ところどころに少年が死亡した七年前の交通事故のエピソードが挿入される。当然、交通事故被害者の家族が今回の事件に関係が深いことが予測できるのだが、どういう関係で物語が展開されるのか、なかなか種明かしされず、読者はどんどん引き込まれていく。そして、最後の証人の登場によって、裁判は劇的なクライマックスを迎える。 わずか300ページほどの作品だが、中身が詰まっていて非常に読み応えがある。法廷ミステリーのファンだけでなく、多くのミステリーファンにオススメしたい。 |
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ピーター・ダイヤモンド警視シリーズの第8作。イギリスの女性プロファイラー殺害事件と彼女がプロファイリングしていた連続殺人事件をテーマにした、サイコミステリーっぽい警察小説の傑作である。
大勢の海水浴客でにぎわう日曜午後のビーチで、若くて魅力的な女性が殺された。周りにいた人々は誰も事件を目撃しておらず、捜査の手がかりになるはずの証拠はみんな海水に洗われてしまっていた。捜査を指揮する地元警察の責任者ヘンは、苦労の末に被害者エマ・タイソーの身元を割り出し、エマがバース在住だったことからダイヤモンド警視と協力して(ダイヤモンドが押しかけて)捜査を進めることになった。エマが警察上層部の依頼で極秘に、ある予告殺人事件のプロファイリングを行っていたことを知ったヘンとダイヤモンドたちは、正体を見破られることを恐れた犯人がエマを殺したのではと想定して捜査を進めたのだが・・・。 今回は、イギリスでは珍しい予告連続殺人がテーマで、サイコミステリー風味の捜査小説に仕上げられている。しかも、370ページのうち347ページなるまで犯人が分からないという、徹底したフーダニット作品で、犯人探しの興趣をたっぷりと味わえる。前作で最愛の妻を失いどん底に陥ったダイヤモンドだが、徐々に本来の持ち味を取り戻しつつあるようなのが、シリーズ読者としては嬉しい。 イギリスの警察小説の王道を行く作品として、幅広いミステリーファンにオススメしたい。 |
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1996年の吉川英治文学新人賞の受賞作。日本では珍しい、壮大な構想の冒険サスペンス作品である。
厳寒期の豪雪に閉ざされた日本最大のダムが武装したグループに襲撃され、発電所員が人質となって占拠された。彼らの要求は現金50億円を24時間以内に用意しろというもので、要求を拒否したら人質とダム下流域住民の安全は保証しないという。豪雪に行く手を阻まれて動きが取れない警察に代わって、ただひとり人質になるのを免れた所員の富樫輝男が、武装した犯人たちに徒手空拳で立ち向かうことを決意する。富樫には、どれほど困難でも挑戦しなければならない、深い理由があったのだ。 スケールが大きく、緻密な取材と確かな描写力が印象的な小説だが、ダムの構造や周辺の地形などの描写が複雑で理解するのに苦労するため、好き嫌いがはっきり分かれそうな作品である。「このミステリー」で1位を獲得したように高評価を得ているのだが、自分には合わなかった。2000年に映画化されたようだが、確かに映画の方が理解しやすい作品と言える。 最初から最後まで舞台がすべて豪雪の雪山なので、暑い夏の日の読書にはオススメだ。 |
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2017年から18年にかけて新聞連載された長編小説。ミステリーよりも男女の心理的葛藤を描いたエンターテイメント作品である。
湘南の海を望む逗子の高台にある超高級邸宅に住む、現在41歳の塩崎早樹。31歳年上の資産家・塩崎克典と結婚したのは、お互いに伴侶を亡くしたという共通点からであり、決して資産目当てではないのだが、世間は何かと好奇の目を向けて来る。息子に事業を譲り悠々自適の生活を送る克典と、隠棲しているような穏やかな日々に満足していた早樹だったが、元夫の母親から電話があり「(亡くなった夫の)庸介を見た」と告げられたことから、激しく動揺し始めた。庸介は8年前、趣味の夜釣りに出たまま行方不明になり、死体は発見されず、7年後に死亡認定されたのだったが、早樹は庸介がどこかで生きているのではないかという疑惑を拭いきれずにいたのだった。真相を知りたいと思った早樹が昔の仲間たちを訪ねて当時の様子を聞き出そうとしたとき、現われてきたのは、早樹が全く知らなかった庸介の隠された一面だった・・・。 死んだはずの人物の影が現われるという、よくあるパターンの物語で、失踪の謎を解くミステリー要素はきちんと押さえられているが、本筋は「あなたは結婚相手のことをどこまで知っているか?」という問いかけであり、本質的に理解し合えない、他人との生活をどう考え、どう営んで行くのかという、大人のための寓話である。物語の構成も人物設定も巧みで、会話も上手く、ありふれたテーマながらどんどん引き込まれていく。最後の最後、真相が明らかにされるとちょっと違和感があるが、ストーリー全体は緊張感があって読み応えがある。 最近の桐野夏生作品の中では出色のエンターテイメント作品として、多くの方にオススメだ。 |
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映画化もされたヒット作「横道世之介」の続編。モラトリアムをやり過ごしているだけのフワフワした若者が引き起こす「善意の波紋」を描いた、さわやかなエンターテイメント作品である。
就職活動に出遅れ、パチンコとバイトで明け暮れる世之介は、親友のコモロンと遊んでいたとき、男の子と暮らすシングルマザー・桜子と出会い、何となく付合い始めたのだが息子・亮太にも懐かれ、やがては桜子の実家でアルバイトするようになる。いつもフワフワと頼りない世之介だが、周りの人たちはみな優しく、「これからも、こうやって生きて行けたら幸せだなぁ」と思う日々だった。それから27年後、オリンピックを迎えた東京の街で世之介に関わった人々は世之介が繋いだ絆に出会い、それぞれの道を振り返り、世之介のことを思い出すのだった。 最近、読んでいてこれほど爽快だった小説は珍しい。主人公・世之介のキャラはもちろん、周辺人物も癖やあくどさが無く、物語の世界に素直に没入できる。さらに、ストーリーが明快でユーモア溢れる文章も軽快で、あっという間に読み終えた感じである。 前作のファンはもちろん、青春小説、元気が出る小説を読みたい方には絶対のオススメである。 |
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「行こう!」シリーズの第2弾。赤字ローカル線の再生を巡る、元気なビジネスマン小説である。
宮城県の山間部を走る、年間赤字二億円の第三セクター「もりはら鉄道」の再建を託されたのは、地元出身の31歳の女性だった。新幹線のカリスマ・アテンダントとして有名人でもあった若い女性が単身乗り込み、情熱とアイデアと体力勝負で、社員はもちろん周辺自治体や住民までを巻き込んで、鉄道を盛り上げて行くサクセス・ストーリー。ほぼ予想通りの展開で、多少のミステリーの味付けはあるもののあくまで明るいビジネス物語である。池井戸潤作品をより読みやすく、ホームドラマ的にした作品と言えば分かりやすいだろうか。 鉄道ファンはもちろん、明るく元気なビジネスマン物語を読みたい方にオススメする。 |
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前作「乗客ナンバー23の消失」が人気を呼んだドイツのサスペンス作家・フィツェックの日本での新作。舞台を旅客機に移した、前作と同じようなテイストの閉鎖空間タイムリミット・サスペンスである。
娘の出産に合わせてベルリンに向かう飛行機に乗った精神科医クリューガーは、離陸した機内で何ものかから「娘を誘拐した。娘の命を救いたければ、言う通りにしろ」という脅迫電話を受け取った。その指令とは、かつて治療した女性で同機のチーフパーサーであるカーヤの心を破壊し、ベルリン到着までに飛行機を墜落させろというものだった。恐怖に陥ったクリューガーは、ベルリンにいるかつて関係があった女性精神科医フェリに娘を捜してくれるように懇願し、また機内では何とか危機を回避できないかと狂ったように行動するのだったが、ベルリンへの到着までの時間は刻々と少なくなっていくのだった・・・。 飛行中のジェット機と地上での娘の出産という2つの出来事がリンクしながら、タイムリミット・サスペンスを盛り上げる。さらに、登場人物がみな、それぞれの心理的な闇を抱えているというサイコ・サスペンス要素が一層の不気味さを加えて、緊迫感のあるストーリーが展開される。ただ、事件の背景とか動機があまりにも吹っ飛んでいるし、誘拐された娘の出産にまつわる情景描写がグロテスク過ぎるのがちょっと興ざめである。 前作でファンになった方には、前作以上の出来だと自信を持ってオススメできる。また、タイムリミットもの、サイコサスペンスのファにもオススメだ。 |
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2014年に発表された弁護士出身の新進作家のデビュー作。今、アメリカで人気を読んでいる法廷サスペンスシリーズの第一作である。
弁護士から出身校に戻り、証拠論の権威の大学教授として成功していたトムは68歳になった今、妻を亡くし、自身は膀胱がんに冒され、さらに信頼していた教え子の弁護士タイラーの裏切りにあって職を失い、絶望の中にいた。そんなとき、昔の恋人から「事故で死んだ娘一家のために、運送会社を相手どった裁判に協力して欲しい」と依頼された。40年以上も法廷を離れていた上に、自身の体調にも自信を持てなかったトムは、かつて因縁があった教え子で苦労しながら個人事務所を維持しているリックに弁護を依頼し、自らは田舎に隠棲しようとする。嫌々ながら経済的な事情から仕事を受けたリックだったが、運送会社の不正を確信し証拠集めに奔走するものの運送会社側の妨害にあい、しかも相手の弁護士が地元ではナンバーワンといわれるタイラーだったため法廷では窮地に陥った。裁判の大勢が決まり、もはやこれまでとリックが諦めかけたとき、法廷に現われたのは病をおして出てきたトムだった・・・。 正義感に溢れた行動派の若者を知恵のある老人(といっても、68歳だが)がサポートして正義を貫くという、リーガルものではありふれたパターンだが、主要人物のキャラクターが立っているし、悪役が憎らしいほど悪役なので、正義が成就されたクライマックスにはカタルシスがある。主人公が大学フットボールの名選手で、決して諦めない精神を身に付けているというのも、アメリカでは受ける、本作の大きな魅力である。また、法廷闘争がメインだがストーリーがシンプルで非常に読みやすいのもいい。 謎解きやアクションではない、リーガル・サスペンスのファンには絶対にオススメ。さらに、人はいつくになっても甦ることができるというロマンを求める人にもオススメしたい。 |
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2014年に雑誌連載された長編小説。暴力団対応の荒くれ刑事とその部下を主人公に、暴力が支配する世界をコントロールするためにヤクザ以上のヤクザぶりを発揮する刑事の無軌道な活躍を描いたアクション・ミステリーである。
昭和63年、広島県の港湾都市の暴力団係刑事に赴任した日岡は、直属の上司・大上刑事から強烈な通過儀礼を強いられる。それをパスして大上に受け入れられた日岡は、暴力団の懐に深く入り込んで活動する大上の捜査手法に疑問を抱きながらも、徐々に大上の人間性に感化されるようになる。そして、街を揺るがしかねない暴力団抗争事件が勃発したとき、それを阻止するために大上がとった行動は・・・。 まず、物語の冒頭からインパクトがあり、それがエピローグにつながって行く全体の構成が抜群に上手い。小さな地方都市のヤクザ同士の抗争というシンプルな舞台設定ながら、犯人探し、警察内部の権力争い、ヤクザの心情、男の友情など、さまざまな要素が取り入れられており、中だるみすること無く読み進む面白さである。 警察小説であり、またヤクザ小説でもあり、黒川博行「厄病神シリーズ」、逢阪剛「禿鷹シリーズ」などのファンには自信を持ってオススメできる。 |
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ピーター・ダイヤモンド警視シリーズの第7作。よりにもよって、ピーターの愛妻ステフが殺害されるという衝撃的な事件の犯人探しミステリーである。
自分が逮捕したマフィアが有罪判決を受ける場面に立ち会い、満足感に包まれたダイヤモンド警視だったが、裁判所を出たところでマフィアの愛人女性に顔を引っ掻かれ憮然として帰宅した。家でステフから傷の手当を受け、翌朝、気分よく出勤したのだが、上司から忙しくないのなら組織犯罪の捜査に協力するように指示される。これを侮辱と受け取り怒りが治まらなかったダイヤモンドだったが、管轄地域で殺人事件が発生したという報告を受け、喜び勇んで現場に駆けつけた。ところが、頭に銃弾2発を受け倒れていたのは、朝、出がけの挨拶をしたばかりのステフだった。あまりの衝撃に感情を失い、ただひたすらに犯人追及を求めるダイヤモンドだったが、被害者の夫が捜査陣に加われるはずもなく、さらには「第一容疑者」扱いされることになった・・・。 自分の無実を証明するために、ステフの復讐を果たすために、単独で捜査に乗り出すダイヤモンド警視の奮闘という大きな柱に、詐欺師とアラブ人が組んだダイヤモンド搾取事件がサブとして絡んでくる。冒頭での伏線からの見事な回収まで、犯人探し作品としての完成度が極めて高い。さらに、もともとダイヤモンドの個性で続いてきているシリーズだが、本作は特に警察組織の捜査力というよりダイヤモンド個人の推理や調査が力を発揮しており、オーソドックスなフーダニット的な味わいもある。 主人公の妻というだけでなく、シリーズのテイストを作る上でも重要な役割りを果たしてきたステフを消してしまうという、極めて大胆な作品であり、今後のシリーズ展開がどうなるのか興味深い。シリーズ読者には必読である。もちろん、本作単独でも楽しめる作品で、本格ミステリーファンから警察小説ファンまで、多くの方にオススメしたい。 |
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ヤメ検弁護士・佐方貞人シリーズの第3作。佐方が弁護士になる前の検事時代のエピソードを描いた4作品を収めた作品集である。
「心を掬う」は郵便局員の不正事件捜査、「業をおろす」は第二作の中の一編の後日談、「死命を賭ける」と「死命を決する」は痴漢事件をテーマに検事の正義感を描いた連作である。各作品それぞれに色合いは異なっているものの、通底するテーマは検事の使命とは何かという一本気で硬質な覚悟である。犯罪の動機、背景の描き方などにゆるさはあるが、物語の構成はうまい。 主人公のキャラクターを知るためにも第1作から読んだ方が良いのだが、本作だけでも楽しめる。社会派というより、人情派ミステリーのファンにオススメしたい。 |
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2005年に発表された、村上龍の書き下ろし長編小説。「2011年に北朝鮮の謀略により福岡が占拠される」という設定で、日本社会の脆弱さを鋭く指摘した予言的物語である。
金正日体制の北朝鮮に対する反乱軍という名目の「高麗遠征軍」が福岡に上陸し、福岡ドーム、シーホークホテルを占拠した。実力行使をためらわない兵士たちという直接的な軍事力に直面した日本人、日本政府は現実を見ることを忌避し、自然災害のように過ぎ去ってくれるのを待つばかりで何ら有効な行動をとることができなかった・・・。 東日本大震災や福島原発事故を経験し、最近の国際情勢への対応を見る今、2005年時点で日本の弱さを読み切っていた村上龍の先見性に驚かされる。さらにエンターテイメント作品としても一流で、ミステリーファンにとどまらない、多くの人にオススメしたい作品である。 |
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2010年に68歳で作家デビューしたという、アメリカの新人作家のデビュー作。すでに6作目まで続いている退職刑事デイヴ・ガーニーシリーズの第一作で、アメリカの刑事が主人公ながら古典的な謎解きに重点を置いた犯人探しミステリーである。
ニューヨーク市警の花形刑事と評価されながら早期引退し、キャッツキル山地の農場で暮らしているガーニーのもとに、大学時代の友人でスチリチュアル施設を運営しているメレリーが訪ねてきた。メレリーは「1から1000のうちから1つの数字を思い浮かべろ」という手紙を受け取り、658という数字を重い浮かべたのだが、同封されていた小さな封筒を開くとそこには「おまえが選ぶ数字はわかっていた。658だ」と書かれていた。さらに「なぜ分かったか知りたければ金を送れ」と書かれており、小切手を送金したメレリーの元に次々に犯行を予告するような脅迫状が届いたため、メレリーはガーニーに助けを求めたのだった。ガーニーが調査に乗り出したのだが、脅迫犯から第二の数字当てトリックを仕掛けられ、その謎を解けないでいるうちに、メレリーが残虐な殺され方をしてしまった。しかも、事件はそれだけにとどまらず、同じような手口の事件が報告されるのだった・・・。 数字当てのトリック、殺害現場の謎解き、犯行動機の不明さなど、不可解なことだらけの事件を、退職刑事ガーニーが丁寧に謎解きしていくのが、本作の読みどころ。アメリカの警察にしては珍しく行動より思索を重視する、やや複雑な性格のガーニーのキャラクター設定が秀逸。さらに事件が次々に発生し、その度に謎が深くなるというストーリー展開も素晴らしい。 警察ミステリーの枠を超え、本格派、古典派の謎解きミステリーのファンも十分に満足できる傑作である。 |
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フランスの最も独創的な小説に贈られるというゴンクール賞を2016年に受賞した作品。現実に起きた事件にインスパイアーされたという、乳母による幼児殺害事件をテーマにしたサスペンス・ミステリーである。
パリのアパルトマンに暮らすミリアム(弁護士)とポール(音響エンジニア)のマッセ夫妻は、ミリアムが仕事に復帰するのを機に幼い二人の子どものためのヌヌ(ベビーシッター兼家事負担者)を募集した。応募してきた白人の中年女性ルイーズは即座に子供たちの心をつかみ、料理や掃除、家事すべてに手を抜かない完璧な仕事ぶりで家族の欠かせない一員となった。安心して仕事に打ち込めるミリアムは成功し、ポールも順調にキャリアアップし、すべてが好循環を見せていたのだが、孤独なバックグラウンドを背負っているルイーズはやがてマッセ家に対する依存を深め、マッセ一家抜きには人生を考えられなくなり、子供たちが成長してヌヌの役割りが終わることに恐怖を抱くようになる。三番目の子どもの誕生を願うルイーズだったが、その願いが叶いそうにないことを知ると、一挙に人格が崩壊するのだった・・・。 最初に子ども二人がヌヌに殺害され、最後にその悲劇に至るシーンが描かれる、全編「ワイダニット?」の心理サスペンス作品である。「妖精のようなヌヌ」と絶賛されていたルイーズが、なぜ二人の子どもを殺したのか。そこに至るまでの道筋が丁寧に、ドラマチックに描かれていて、わずか260ページほどの作品ながらずしりと重い余韻を残す。外からは多民族国家と見られるフランス社会に潜んでいる人種間の軋轢を重視した書評もあるようだが、本作のポイントはそこではない。個人単位にまで分断され尽くした現代社会の孤独、生きづらさが描かれていると見るべきだろう。 フランス・ミステリーのファン、心理サスペンスのファンには自信を持ってオススメしたい。 |
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2004〜6年の雑誌連載を全面改稿したという長編作品。表3の著者紹介に「作家生活21年目の新たな一歩となる長編ミステリー」とあるように、これまでの横山秀夫のイメージとは異なるエンターテイメント作品である。
「あなた自身が住みたい家を建ててください」という依頼を受け、一級建築士・青瀬稔は自信作を完成させた。ところが、引き渡し後4ヶ月が過ぎたというのに、新居には依頼主の吉野一家が住んでいないという。不審に思った青瀬が新しい家に電話してみると留守電になっていた。その後も連絡が取れないため気になった青瀬が新居を訪ねると、家の中は無人で、引っ越してきた様子さえ窺えなかった。あれほど新居の完成を喜んでいた吉野一家は、一体どうしたのか? 青瀬は素人探偵になって吉野一家の行方を探し始めたのだが、探れば探るほど吉野一家の存在はあやふやになって来るのだった・・・。 行方不明者探しを本筋に、建築家の夢と現実をサブストーリーに物語が展開される。キーポイントとなっているのがブルーノ・タウトのデザインによる椅子で、物語の前半過ぎまでブルーノ・タウトを巡るあれこれが続き、これまでの横山秀夫の世界とは大きくテイストが異なっているため、ちょっと冗長に感じられる。ミステリーとしては謎解きはまずまずだが、肝心の動機、背景がやや弱く、横山秀夫の警察小説ファンにはやや物足りないだろう。芸術と技術の狭間で揺れるクリエイターの物語として読むことをオススメする。 |
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ニューヨーク市警の氷の天使キャシー・マロリーシリーズの第11作。ブロードウェイの小劇場・小劇団を舞台にした連続殺人事件を巡る警察ミステリーである。
本シリーズ、最近はマロリーのルーツを探る作品が多かったのだが、本作は純粋な犯人探しミステリーである。だが、登場人物が演劇関連だけに全員一癖も二癖もあり、物語は非常に複雑な展開を見せ、ストーリーを追うのが一苦労。また、謎解きも伏線を読んで推理するより、スーパーヒーローの直感的な推理で解決されるのでミステリーとしてはいまいち。 シリーズ読者以外には、あまりオススメできない。 |
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2005年の山本周五郎賞受賞作。リストラ請負会社の若い社員を主人公にした、5本の連作短編集である。
サラリーマンの人生の分岐点・リストラ(首切り)を仕事とする割には、情に厚く、だが決してウエットではない主人公が、リストラ対象となる人々と繰り広げる人生ドラマ。大時代ではなく、ベトベトしていないところが読みやすさにつながっている。 池井戸潤系のサラリーマンしょうせつのファンには安心してオススメできる。 |
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