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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1360件
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横浜市で起きた、大型トレーラーのタイヤ脱輪による親子死傷事故を題材にした、社会派経済小説。読ませる、泣かせる、感動させる、一級のエンターテイメント作品である。
実際に起きた事件を下敷きにしているので、ほぼ予想通りのストーリー展開なのだが、登場人物、セリフ、エピソードが生き生きとしていて、一瞬たりと退屈することはない。 半沢直樹シリーズファンと言わず、ミステリーファンと言わず、多くの人が納得する面白さの作品だ。 |
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改めて奥田英朗の懐の深さを感じさせる、ユーモラスなエンターテイメント作品。
歌舞伎町で下っ端ヤクザとして生きている純平21歳が、親分から敵対する組の幹部を殺害する鉄砲玉を命じられる。一人前のヤクザとして認められたいと願っている純平は、喜んで役目を果たそうとするのだが、任務を果たすまでの三日間の猶予に、さまざまな人々に出会い、自分の生き方を改めて見つめることになる。さらに、軽い気持ちで付合った女がネットに「純平君が鉄砲玉として殺人事件を起こそうとしている」と書き込んだことから、さまざまな書き込みが寄せられ、周りが勝手に盛り上がってくる。そんな喧噪の中、純平は・・・。 いやぁ〜、面白い。現代の風俗を活写したエピソードとストーリー展開の面白さに、ぐんぐん引き込まれていく。あれこれ理屈を考えることなく、場面場面の面白さを堪能すればいい。 好き嫌いが分かれる作品だと思うが、愉快な物語を読みたい読者にはオススメだ。 |
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2002年に刊行された書き下ろし長編作品。誘拐のアイデアが秀逸な社会派ミステリーである。
政財界を巻き込んだスキャンダルの主役でバッカスグループの総帥である永渕を入院させている大病院の院長の17歳の孫娘・恵美が誘拐され、犯人は永渕が死亡すれば恵美を解放すると連絡してきた。院長と、恵美の父親である副院長は、警察や永渕に協力を求めて永渕の死亡を偽装し、恵美の解放に成功する。同じ頃、神奈川県で19歳になる男子大学生・工藤巧が誘拐され、身代金としてバッカスグループの株券を用意するようにという脅迫状が届いた。家族と警察は株券を用意して交渉に応じたのだが、犯人は現われず、工藤巧は自力で脱出し、保護された。 二つの誘拐事件は人質が無事解放されたのだが、被害者二人が捜査に協力的ではないため犯人像がまったく見えず、誘拐の動機にも疑問が残り、警察の捜査は難航していた。そんなとき、恵美と工藤巧が知り合いだという情報がもたらされ、警察は狂言誘拐を疑い始めるのだった・・・。 誘拐をテーマにしたミステリーは数々あるが、本作の身代金獲得手段、誘拐の目的達成のアイデアは斬新で、面白かった。犯行の背景となる出来事も、それなりの説得力があり、どんどん引き込まれていく。ただ、後半に近づくと堂々巡りが繰り返されて話の展開が遅くなってしまったのが、ちょっと残念。単行本上下2段組みで480ページが400ページぐらいでまとめられていたら、もっとスピード感があっただろう。 犯罪小説というより、社会派のエンターテイメント作品として、幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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2013年に発表された長編小説。文庫本には心理サスペンスとあるが、心理小説ではあっても、サスペンス作品ではない。
釧路の図書館長に赴任してきた30代の男、その妹で発達障害と天才的な署の才能を併せ持った25歳の女、地元で書道教室を開いている40代の男、その妻で高校の養護教諭を勤める40代の女。この4人を主要な登場人物として、舞台となった釧路の霧と寒風のような重苦しくて悲しい心理ドラマが展開される。25歳の女の純粋さが、周りの3人の心の弱さをあぶり出し、それぞれに卑屈さを隠す狡猾な言動とわずかなプライドでお互いを傷つけ合って行く。 どこにも逃げ道が無い重いストーリーなので、男と女の恋の話を読みたい読者にはオススメできないが、恋に育ち損ねたビターな物語がお好きな方にはオススメだ。桜木紫乃の救いの無い世界は、一度ハマるとクセになる。 |
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2003年度の直木賞受賞作。中学1年生から3年生になる直前までの男の子たちの成長物語を、いつもの石田衣良節で軽快に綴った8本の連作短編集。
東京の下町・月島の中学に通う同級生4人が、それぞれの危うい少年期を危ういまま乗り越えようとする友情と成長の物語は、どうということは無い物語だが、読後感は悪くない。男性の読者なら、きっと思い当たることが一つや二つはあるはずだ。女性の読者なら、馬鹿にして見ていた同級生の男子たちの顔を思い出すことだろう。そして、14歳のときからさほど成長していない自分を発見し、ほろ苦い思いに駆られることだろう。人間、14歳以上には成長できないのかもしれない、早老症のナオトを除いては。 |
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2006年に発表された長編ミステリー。心臓血管外科という特殊な舞台装置に複雑な人間ドラマを上演した、上質なエンターテイメント作品である。
研修医・氷室夕紀が勤める大学病院に「医療ミスを公開しなければ病院を破壊する」という脅迫状が届いた。イタズラとして処理しようとした病院側だったが、2通目が届いたことから警察に届けて捜査が始まったのだが、金銭の要求は無く、脅迫犯の狙いは何か、どういう手段で「破壊」しようとしているのかが、まったくつかめないまま捜査は混乱するばかりだった。という、病院脅迫事件が物語の一つのテーマ。 もう一つのテーマは、氷室夕紀の指導医・西園教授は、氷室夕紀の最愛の父を死なせてしまった手術の執刀医で、彼女は手術ミス、あるいは意図的なミスではないかと疑い続けてきたという、真相究明の物語である。 二つの大きなストーリーが無理なく並行して展開し、最後にはヒューマニズムにあふれた幕が下ろされる。予定調和的といえばそれまでだが、それぞれのストーリーがしっかりしているので、読み応えがある。 心臓外科手術という特殊な世界の話だが非常に読みやすく、テンポもいいので楽しめる。ヒューマンドラマ系が好きなミステリーファンにオススメしたい。 |
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半沢直樹シリーズの第4作。巨大航空会社の再建を舞台にした、銀行エンターテイメントである。
頭取のご指名で、崩壊しかけた日本の代表的航空会社の再建チームを担当することになった半沢直樹が、非協力的というか敵対的な前任者たち、やるきのない航空会社、強権的な政治家やタスクフォース集団などに苦しめられながら、銀行の正義を貫いて行く物語。日本航空の再建と民主党による政権交代をモデルにしているのが分かり過ぎて、読んでいて苦笑する。 登場人物やその役割り、言動があまりにもパターン化されていて、薄っぺら。半沢のチームだけが正義で、それ以外はすべて悪役ってのも、どうかと思う。 ドラマの半沢直樹シリーズに夢中になれる人には満足な作品なのかもしれないが、骨太の企業小説を読みたい方にはオススメできない。 |
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現代調査研究所・岡坂シリーズの一作。文庫700ページの大作である。
大手家電メーカーのオーディオ製品のイメージキャラクター探しに関わった岡坂は、無名の女性ギタリスト・香華ハルナを見出し、契約に成功する。しかし、重大な企業秘密であるはずのこの話が、なぜか業界紙に嗅ぎ付けられ、執拗に追いかけられることになる。契約から60日間、秘密を守り通さなければ契約破棄になってしまう。果たして岡坂は、業界紙ゴロ、怪しい調査員、ライバル広告会社の社員、社内にいるかもしれないスパイなど、周囲の不審な人物たちの手から香華ハルナを守りきれるのか? 著者のバックグラウンドである広告業界、クラシックギター、神保町界隈と、著者お得意の舞台装置で繰り広げられる企業&PIミステリーである。登場人物のキャラクターやエピソードは巧く描かれているし、ストーリー展開もテンポがいい。それでもやや不満が残るのは、ヒロイン・香華ハルナのイメージが途中から変化して平凡になってしまうことと、最後に明かされる悪役側の動機に疑問を感じることが原因である。 サスペンス作品というより、ピストルも殺しも出て来ない、日本のハードボイルドらしいエンターテイメント作品としてオススメする。 |
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スノーボードを舞台にした連作短編集。個々の作品がそれぞれに完結していながら、7つの作品がぐるっと一回りして衝撃的(笑劇的?)なオチにつながるという、にやりとさせられる仕掛けが、いかにも東野作品である。
ストーリー展開が早いし、登場人物のキャラクター設定も会話も巧いので、すいすい読める。 スノボファンでなくても面白く読める。暇つぶしにはもってこいである。 |
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釧路の貧民窟のような片隅で頭の狂った母親と暮らしていた影山博人が、釧路の政治経済の闇の支配者になり成功するまでを、彼に関わった女性の物語として描いた8本の連作短編集。
怖いもの、未知なもの、理解できないもの、支配的なものに惹かれていく女性の心理と適度にエロチックな場面が刺激的なレディース・コミックのようなお話である。 語りが上手な作者なので退屈することはないが、熱中するほどでもない。コミック代わりにどうぞ、というところか。 |
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時代に押しつぶされながらも、流されながらも、自分一人の幸せを生ききった女の物語。読んでいる途中で何度も胸にこみ上げて来るものがある、強く情感に訴える物語である。
道東の貧しい開拓地で育った百合江は、看護婦になりたいという夢も叶わず、中学卒業と同時に奉公に出されるが、その町で見た旅芸人一座に心を惹かれ、奉公先を飛び出して一座に加わってしまう。だたひたすら歌うことだけを生き甲斐に、それなりに幸せな日々だったが、座長の病気を機に一座は解散し、百合江は一座の仲間だった宗之介と行動を共にすることになった。宗之介との間で妊娠したとき、故郷へ帰ろうとするのだったが拒絶され、妹・里実が働いていた釧路で生活することにした。しかし、娘・綾子が生まれると、宗之介は姿を消した。ミシンを使った縫製仕事で生きていた百合江と綾子に里実が縁談を持ち込み再婚したのだが、相手は金と女にだらしないマザコン息子だった。夫の借金を返すために温泉旅館で仲居と歌手として働き、借金を返済したのだが、二番目の子供・理恵を出産したとき、綾子を勝手によそにやられたことから、結婚生活が破綻し、再び釧路で暮らし始めることになった。 途中、穏やかに暮らす時期はあるものの、生涯のほとんどは貧困と悲惨な家族関係に翻弄される百合江だったが、本人は自分が選んだ人生だと諦観し、そんな人生にも幸せを見出している。対照的な性格の妹・里実だが、里実には里実の深い悩みがあり、けっして絵に描いたような幸せではない。 桜木作品の例に漏れず、出てくる男たちはほとんどがだらしなく、逆に女性が強すぎるのだが、強い女が持つ脆さ、というか強くならなければいけない流れが、非常に説得力がある。 人間の本当の強さとは何かを考えさせられる小説である。 |
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2006年本屋大賞の第2位にランクされた、痛快なエンターテイメント長編。これまで読んだ、どの奥田英朗作品とも違う面白さで、改めて奥田英朗の幅広さに感服した。
元過激派の両親と暮らす東京・中野の小学6年生が、友だちや周辺の不良たちに揉まれながら自我を確立して行く物語だが、凡百の成長物語とは違って説教臭さが微塵も無いのが心地よい。 映画化されればヒットするのではないかと思う。 |
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道東・釧路の新設高校の図書部で同期だった5人の少女たちが卒業後に歩んだそれぞれの道は、それぞれに悩み多きものだった。誰もが生きづらさを抱えており、平穏な人生ではなかったが、中でも、高校時代に教師に告白して拒絶され、就職先の和菓子店の主人と子供を作って駆け落ちした順子は、本人が「私は幸せ」と言えば言うほど、関わりがある周辺人物の心を波立たせ、不安にさせるのだった。順子が感じていた幸せを、周りが信じきれなかったのは何故か?
あまり器用とは言えない一人の女の25年の歳月を、時代を追いながら彼女に関係する6人の女の視点から描いた連作短編集である。しかも、それぞれの短編の主人公になる女性たちの生き方も鮮やかに描き出した、見事な展開力に驚嘆した。 ストーリーにも、情景描写にも、会話にも、心理描写にも、ぐんぐん迫ってくるリアリティがある、力強い作品である。 |
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前作「秘密」で日本での人気を確立したオーストラリアの女性作家の最新作。1930年代と現在を行き来しながら謎を解く、ゴシック風味のミステリーで、「大人のお伽噺」という訳者あとがきに出てきた言葉が、本作品の本質を的確に表現している。
母親に置き去りにされ、一週間、部屋に閉じ込められていた少女が発見された事件で、「育児疲れの母親が家出した」という結論での捜査打ち切りに納得できなかった刑事セイディは、新聞記者に内部情報を漏らすというタブーを犯し、上司から強制的に休暇を取らされた。傷心のセイディが訪れたのは、育ての親である祖父が引退して暮らしているコーンウォールの海沿いの小さな街だった。そこでセイディはジョギング中に迷い込んだ森で、打ち捨てられた古い屋敷を発見する。その屋敷「湖畔荘」は、70年前に一歳を迎える直前の男の子セオが行方不明になるという悲劇に見舞われ、その後、放置されたままだった。事件に興味を持ったセイディは古い記録を探し出し、事件の真相を解明しようとする・・・。 息子を亡くした両親から「湖畔荘」を受け継いだアリスは著名な推理小説家でロンドンに在住し、「湖畔荘」を訪れることはなかったのだが、弟であるセオの失踪事件に密かに責任を感じていた。アリスの姉デボラは、第一次世界大戦でPTSDを煩った父がセオを殺害したのではと疑い、そのきっかけを作ったのは自分ではないかと罪の意識に苛まれていた。さまざまに秘密を抱えた関係者が作り出す、複雑なストーリーが解き明かされたとき、その真相は思いがけない結末を迎えるのだった。 最後の最後のエピソードが、「おや、まあ、そう来ましたか」という感じで、まさにお伽噺である。ただ、そこまではきっちりした謎解きミステリーであり、読み応えがある。昔話と現在の諸事情が入り交じり、全体像を把握するまでは読みづらいのだが、下巻になる辺りからはテンポよく物語が展開し、納得がいく結末に治まって行く。 あまり血腥くない、派手なアクションが無い、落ち着いたミステリーを読みたいという読者には、絶対のオススメだ。 |
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2007年の柴田錬三郎賞を受賞した短編集。どこにでもいそうな現代人の「家族としての自分」を考えさせる、6作品である。
6作品とも主人公は30代(おそらく)の家庭人。主婦であったり、主夫であったり、夫であり妻である、ごく平凡な平均的な人々である。その日常に、ちょっとした変化が起きたとき、人は思いがけない心境になり、ちょっとドラマチックな出来事が起きたりする。けれども、瞬間的な興奮が冷めると、日常は案外力強く元の状態を取り戻していく。そんな小さな波風を、面白いエンターテイメントに仕上げて読ませてくれる作者の力量は、さすがである。 ユーモラスでハートウォーミングで、しかもちょっとだけ常識を外れたファンタジーを求めている読者には120%のオススメだ。 |
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アメリカではニューヨークタイムズのベストセラーリストの1位を数ヶ月も続け、映画化もされた、大ヒット作。人間が持つ「嫌な部分」をあえてあぶり出した、気分を悪くするけど目が離せなくなるサイコ・ミステリーである。
ニューヨークで雑誌のライターをしていたニックとエイミーの夫妻は、30代半ばにも関わらずネット社会の動きに着いて行けずに失職し、ニックの生まれ故郷であるミズーリ州に引っ越すことになった。ニューヨーク育ちのお嬢様であるエイミーは中西部の田舎暮らしになじめず、不満を募らせているようだった。結婚5周年の記念日に、突然エイミーが行方不明となった。室内に争ったあとがあったことなどから、ニックが重要参考人として追求されることになる。確たるアリバイが無く、疑惑を招くような言動も多いニックは、どんどん追い込まれて行くのだが・・・。 事件の様相は、警察の捜査によってではなく、ニックの告白とエイミーが残した日記によって読者に提示されるのだが、その二つのストーリーにはかなりの違いがあり、真相がまったく見えて来なくなる。夫婦それぞれの主張のどちらが真実なのか? どちらも真実ではないのか? ストーリーが進むほど、読者は真実と虚構の闇に迷い込むことになる。まさに予測不能で、スリリングでサスペンスフルな物語である。 サイコ・ミステリーの一種ではあるが残酷な描写で恐怖感を煽ることは無く、人間が普遍的に持つ心理的な怖さにスリルを覚える作品であり、いわゆる「イヤミス」ファンはもちろん、残酷ではないサイコ・ミステリーのファンにはオススメだ。 |
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2017年、86歳になったル・カレが発表した新作長編。なんと、「スマイリー三部作」に決着をつける後日談という、大胆な作品である。
フランスの田舎で隠遁生活を送っていたスマイリーの愛弟子ピーター・ギラムは、英国情報部からロンドンに呼び寄せられ、冷戦時代の作戦で死亡した情報員の遺族から訴訟を起こされようとしていると知らされる。しかも、情報部だけでなく、スマイリーとギラムの個人的な責任も問われるおそれがあるという。作戦の詳細について、情報部から厳しく問いただされたギラムはやむなく、かつて隠しておいた作戦の資料を情報部に渡すことになった。資料に残されていた記録、ギラムや関係者の記憶が重なりあったとき、作戦に秘められていた真実が明らかになった。 手に汗握る情報戦が展開されたスマイリー三部作の裏に、何が隠されていたのか。巨匠は、大昔の作品のプロットや登場人物を巧みに動かしながら、冷戦時代とはまったく異なるスパイ小説を完成させた。情報戦のスリルとは異なる、冷酷で厳しいスパイの哀しみが胸を打つヒューマンドラマである。 スマイリー三部作時代からのファンはもちろん、ル・カレは初めてという読者も十分満足できるだろう。オススメだ。 |
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1987年のオール読物推理小説新人賞を受賞した表題作を始め、5作品を納めた初期短編集。どれも荒削りながら、のちの宮部みゆき作品に通じる「芽」を感じる個性的な作品揃いである。
5本の中では、表題作の「我らが隣人の犯罪」がミステリーとしての完成度が一番高くて面白い。他の4作品も、それぞれにアイデアや構成の妙があり、新人離れした巧さを感じさせる作品ばかりである。 |
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本国ドイツはもちろん、日本でも人気が高いオリヴァー&ピアシリーズの第5作。日本では、これまで3、4、1、2の順で翻訳刊行されてきたのが、ようやく順番通りになった。
風力発電施設建設会社で夜警が侵入者に殺され、さらに、社長の机の上にハムスターの死骸が置かれているのが発見された。捜査に乗り出した警察に対し、会社の経営陣は非協力的で、何かを隠したがっているようだった。さらに、この会社が計画中の風力発電プロジェクトに対しては、地元で反対運動が繰り広げられていた。ところが、反対派の中も複雑で、仲間内での対立が起きていた。そんな中、プロジェクト予定地を所有する老人が殺害される事件が発生し、老人との喧嘩を目撃された市民運動家の男が犯人ではないかと目された。関係者の誰もが警察に非協力的で何かを隠している中、オリヴァーとピアは地道な聞き込みと心理を読む捜査でじりじりと真相に迫って行く・・・。 風力発電という巨大な利権に群がる政財界、官僚の汚職や陰謀、施設建設がもたらす巨額に目がくらむ関係者の欲望が重なりあい、事件を生み出して行く。という意味では社会派ミステリーだが、本作の力点は親子や家族、恋人関係の複雑さとどうしようもなさにおかれており、オーソドックスなヒューマンドラマである。中でも、捜査を指揮するはずのオリヴァーが女性関係の悩みからほとんど役立たずになって行くのが衝撃的で、事件捜査の展開より、そっちの方が気になった。 主要登場人物たちの変化が興味深く、シリーズ読者には絶対のオススメ。シリーズ未読の方には、ぜひ第1作から順に読むことをオススメする。 |
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アメリカでは既に10作が発表されているという人気シリーズの第1作で、本邦デビュー作。凄腕のCIA秘密工作員が主役ながら、最初から最後まで笑わせてくれる、傑作ユーモアミステリーである。
中東で暴れて武器マフィアから命を狙われることになってしまったCIA秘密工作員のフォーチュンは、CIA長官の配慮で長官の姪に身分を偽ってルイジアナ州の田舎町シンフルに身を潜めることになった。小さな田舎町で静かに暮らすはずだったのだが、到着早々、保安官助手には目をつけられ、隠れ家の裏で人骨が発見されたことから、地元の殺人事件に巻き込まれてしまう・・・。 物語のメインは殺人事件の真相解明で、それなりに筋が通ったストーリー展開で楽しめる。しかし、最大の読みどころは、事件解明に積極的に関与してくる2人の老婦人との掛け合いである。とにかく元気いっぱいで、頭も腕も立つ老人たちと凄腕工作員のハチャメチャな活躍が楽しい。 犯人探しとは言え、警察小説ではなく、私立探偵ものの一種、ユーモア系のPI小説である。さらに、女性が主人公のPIものだが、ウォーショウスキーやキンジーなどとは異なり、アクション場面もユーモラスである。 笑えるミステリーが好きな人、例えばカール・ハイアセンのファンなどには絶対のオススメだ。 |
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