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軋み



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【この小説が収録されている参考書籍】
軋み (小学館文庫 あ 7-1)

軋みの評価: 4.00/5点 レビュー 7件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全5件 1~5 1/1ページ
No.5:
(5pt)

非常に陰鬱なストーリー

レイキャビクより北部の小さな町アークラネスを舞台にした警察小説。
失意の末故郷に帰ってきた女性警官エルマと、街で有力な実業家の妻、そしてある少女の邂逅と、
関係者らのさまざまな視点でストーリーが進んでいく。

インドリダソンと同じく、アリバイトリックを解き明かすものではなく、読み進めるごとに明らかになる、アークラネスに住む関係者らのを結ぶ悲痛な物語こそが最大のキモ。

アイスランドの過酷な気象描写と、ある少女の過去に関する心理描写が相まって、ストーリーは非常に陰鬱なものとなっています。登場人物は多いですが、誰一人幸せそうな人がいないのがアイスランド小説の特徴でしょうか。
軋み (小学館文庫 あ 7-1)Amazon書評・レビュー:軋み (小学館文庫 あ 7-1)より
4094072039
No.4:
(4pt)

現在と過去の並行叙述に注意

北欧ミステリーが面白いのは、冬の長い夜を楽しむためだろうか。
小さな島国アイスランドから、インドリダソン、ヨナソンに続くミステリーの新鋭の登場である。
女性作家らしく主人公は女性刑事に設定し、その心の動きや事件関係者の心理描写も女性ならではの感性が感じられる。
また、北欧ミステリーに共通する社会派的問題意識も示されており、岬に面した小さな町の濃密な人間関係を背景に、児童虐待や母子家庭の貧困が事件の糸を紡いでいる。特に、虐待された児童の心理描写やその後の行動への影響については深い考察が感じられる。

小説的構成としては、現在の事件の発生と捜査の進行が時系列で語られるのと並行して、被害者の少女時代の物語がやはり時系列で細切れに織り込まれているため、読者は並行する現在と過去の物語に注意して読み進めないと脈絡を見失うだろう。
ミステリーの謎解きはそう込み入ったものではないが、最後に肩透かし的な企みも隠されており、なかなかの出来映えだと思う。
軋み (小学館文庫 あ 7-1)Amazon書評・レビュー:軋み (小学館文庫 あ 7-1)より
4094072039
No.3:
(5pt)

稀に見る緻密なストーリー

アイスランドのミステリーといえば、インドリダソンが思い浮かぶが、こちらは女性らしい細やかでわかりやすい心理描写に、極めて日常的とでも呼べるような動機で、規模は小さいながら味わい深い。アイスランドの風土、生活感もたっぷりで満足な一冊。謎解きとしてはシンプルな話なのでドラマとして味わうつもりで。
軋み (小学館文庫 あ 7-1)Amazon書評・レビュー:軋み (小学館文庫 あ 7-1)より
4094072039
No.2:
(4pt)

海辺の町に帰郷した者たちとそこに生まれる過去の事件の謎をめぐる旅

アイスランド発ミステリが翻訳されるのは実は奇跡的なことである。アイスランドと言えば、ラグナル・ヨナソンがここのところ沢山邦訳されてきたことで注目される。新たな北欧ミステリーの産出国としてその活躍が目立ち始めた国である。

 アイスランド国民は36万人しかいないので、アイスランド語での小説では食ってゆけないそうである、それゆえ、英国のミステリー賞を獲得することで英語に翻訳されるところから小説家としてのスタートを切れることになる。世界への拡散のスタート地点に立つことが何よりも肝心なのだ。おそらく突破すべきは狭き門だと想像される。

 だからこそ日本語にまで翻訳され、そうした紆余曲折をクリアしてまでも、手元に届いれくるアイスランド産ミステリーというのは、相当の価値が見込まれる作品と言える。

 繰り返すがアイスランドの人口は多く見積もっても36万。ぼくの住む北海道で言えば札幌市の人口が195万人。北海道第二の都市である旭川はぎりぎり34万と言えば、アイスランドの過疎度はご理解頂けるかと思う。アイスランドは、フィヨルドの多い海岸沿いに一周することができるようだが、中央山岳部には人が住むことができないようだ。ラグナル・ヨナソン作品ではここを舞台に因縁の物語が語られているが、作中では嫌というほど暴風雪の恐ろしさを感じさせてくれる。

 その代わり、緯度がアラスカ並みなので、本作中ではオーロラが何と言うこともなく観られたりするところは何とも羨ましい。ちなみにぼくはカナダ、ホワイトホース(アラスカと同じ緯度)でオーロラをたっぷり観てきたのでその緯度の大自然度は体感しているけれど。但し春先だったので、小説の登場人物たちに言わせればまだまだ甘いと言われかねない。

 さて本作の舞台はレイキャヴィークから車で北に45分の距離にあるアークラネスという海辺の街。事件などはめったに起こることがないが、珍しいことに灯台の足元の海岸に不審死を遂げた美女の遺体が発見されたことから、昔この地で生き、海難事故をきっかけにバラバラになってしまった漁師一家の記憶が蘇る。村に帰ってきた美女、と古い記憶。

 この作品のヒロインであるエルマもまたレイキャヴィークから里帰りした一人である。彼女は、過去の記憶を発掘しながらこの事件の捜査に取り組もうと他の二人のスタッフとともに足掻く。この街に君臨する権力者ファミリーの過去に届こうとすると、複雑な人間関係図が過去から浮かび上がってくる。

 階段の軋みを聴きながら身を震わせる少女という冒頭のシーンが、作品全体に影を落とす。北欧ミステリーらしい美しき海辺の小村に展開する人間たちのドラマ。スピーディで読みやすく、圧倒される傑作ミステリー。三作までが既に書かれているという。次作の翻訳が待ちどおしい作家の登場である。
軋み (小学館文庫 あ 7-1)Amazon書評・レビュー:軋み (小学館文庫 あ 7-1)より
4094072039
No.1:
(4pt)

正しく自己を認識した時に人は生まれ変われる

アイスランドの新しい作家、エヴァ・ビョルク・アイイスドッティルの「軋み "The Creak on the Stairs"」(小学館)を読み終えました。アイスランド・ミステリと言えば、「印 エーレンデュル捜査官シリーズ」(2022/5月)へと連なるアーナルデュル・インドリダソンの著作が常に忘れ難い。
 今回の舞台は、レイキャヴィークではなく半島の端に位置する小さな漁港街・アークラネス。恋人と別れることになった主人公・エルマはレイキャヴィーク警察を辞めて、自分の生まれ故郷でもあるアークラネスに戻り、アークラネス警察犯罪捜査部の刑事として働き始めます。そして、灯台の見える波打ち際で発見された女性の殺人事件に駆り出されます。発見された女性・エリーサベトはかつてこの町に住んでいたことがありますが、何故故郷に舞い戻り殺害されたのか?エルマはバディのサイヴァルと共に地道にその謎を解明していくことになります。<2017年の現在>に呼応するように<1989年のアークラネス>がインサートされ次第にそれらが一つの物語へと収斂していく巧みな構成がサスペンスを醸成しています。
 これ以上スリラーの詳細を書くことはできませんが、家族の機能不全によって引き起こされる罪悪感、嫌悪感、悪しき感情が網羅されながらとても重苦しい物語が展開され、事件が解き明かされても尚それらが齎す苦悩が解放されないまま終焉を迎えることになります。
 主人公・エルマにはとても好感を持ちました。アークラネスがそんなに嫌いなのかというサイヴァルの問いかけにエルマはこう答えます。
 「わたしの問題だと思う。ここに住んでいた頃の自分があまり好きじゃなかったのよ」 (p.283)
 正しく自己を認識した時に人は生まれ変われるのだと思います。
軋み (小学館文庫 あ 7-1)Amazon書評・レビュー:軋み (小学館文庫 あ 7-1)より
4094072039

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